Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)根分裂組織の成長制御

2020-01-24 05:14:51 | 読んだ論文備忘録

RGF1 controls root meristem size through ROS signalling
Yamada et al.  Nature (2020) 577:85-88.

doi: 10.1038/s41586-019-1819-6

根の分裂組織の幹細胞ニッチやサイズは、細胞間相互作用やペプチドホルモンであるRGF1(root meristem growth factor 1)によって制御されている。RGF1シグナルは根の幹細胞維持に関与しているAP2/ERFファミリー転写因子のPLETHORA(PLT)1/2の安定性を制御しているが、その詳細は明らかではない。米国 デューク大学Benfey らは、シロイヌナズナの根をRGF1処理し、583の発現量の変化する遺伝子を見出した。これらの遺伝子には、「グルタチオントランスフェラーゼ活性」や「酸化還元酵素活性」といったGOのものが含まれており、RGF1は活性酸素種(ROS)を介してシグナル伝達していることが推測される。そこで、RGF1処理した根でのO2-とH2O2の分布を見たところ、分裂組織領域、伸長領域でのH2O2量は減少し、分裂組織領域のO2-量は増加していることがわかった。トランスクリプトーム解析から、RGF1処理で発現量が約2倍増加するPLANT AT-RICH SEQUENCE AND ZINC-BINDING TRANSCRIPTION FACTOR(PLATZ) ファミリータンパク質をコードする遺伝子(AT2G12646) が見出され、RGF1-INDUCIBLE TRANSCRIPTION FACTOR 1 (RITF1 ) と命名した。RITF1 は分裂組織領域で特異的に発現しており、RGF1受容体が機能喪失したrgfr1/2/3 変異体では発現量が低く、RGF1処理による発現量変化が見られなかった。よって、RITF1 の発現はRGF1経路によって制御されている。誘導性プロモーター系でRITF1 を過剰発現させた根では、H2O2量が減少してO2-量と根分裂組織の大きさが増加した。このことから、RITF1 はRGF1経路の下流でROSシグナル伝達と根分裂組織の大きさを調節していることが示唆される。ritf1 変異体は、野生型よりも根分裂組織が小さく、根の成長が悪く、RGF1処理によるO2-量の増加が少なくなっていた。根をH2O2処理もしくはO2-量を減少させるためにNADPHオキシダーゼ阻害剤のジフェニレンヨードニウム(DPI)処理をすると、PLT2の安定性が低下し、RGF1処理による根分裂組織の細胞数増加が抑制された。plt2 変異体をRGF1処理もしくはRITF1 を過剰発現させると、O2-量は増加するが根分裂組織の大きに変化は見られなかった。以上の結果から、RGF1はRITF1 を発現誘導してROSシグナル伝達を調節し、PLT2の安定性を高めて根の成長を制御していると考えられる。

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論文)強光+高温ストレスとジャスモン酸

2020-01-17 22:27:37 | 読んだ論文備忘録

Jasmonic Acid Is Required for Plant Acclimation to a Combination of High Light and Heat Stress
Balfagon et al.  Plant Physiology (2019) 181:1668-1682.

doi:10.1104/pp.19.00956

ここ数年、植物は夏の日中に強光(HL)と高温ストレス(HS)に曝されることが多くなっている。このような環境条件は光合成装置に大きく影響し、植物の成長を制限している。米国 ミズーリ大学 ボンドライフサイエンスセンターのZandalinas らは、HLとHSを組合せて処理をしたシロイヌナズナのトランスクリプトーム解析を行なった。HL+HS処理に応答して転写産物量が増加する6314遺伝子のうち、2125遺伝子(34%)はHL処理によっても転写産物量が増加し、3166遺伝子(50%)はHS処理でも増加しており、2239遺伝子(36%)はHL+HSによって特異的に増加していた。HL+HS処理で転写産物量が増加する遺伝子には、PSⅡタンパク質(PsbC、PsbA、PsbB、PsbE)、PSⅠタンパク質(PsaA、PsaK、PsaC、PsaH)、チトクロームb6f 複合体タンパク質(PetB、PetC)、電子伝達に関与するタンパク質(PetE、PetF)をコードする遺伝子が含まれていた。さらに、PSⅡのD1タンパク質の分解に関与するタンパク質(PtsH1、PtsH5、PtsH6、PtsH8)、修復に関与するタンパク質(CYP20-3、PSB27)、PSⅡの再構成に関与するタンパク質(CYP20-3、LQY1、PBF1、HCF136、PSB33)をコードする遺伝子発現量が増加していた。このことから、PSⅡのD1タンパク質はHL+HSに感受性が高く、このストレス組合せを受けた植物はD1を修復するように作用することが示唆される。ストレス処理による葉緑体構造の変化を見ると、HL処理はデンプン粒が減少してチラコイド膜が増加し、HS処理はデンプン粒の増加とチラコイド膜の減少、HL+HS処理は歪んだデンプン粒の増加とチラコイド膜の減少が見られた。したがって、HL+HS処理は葉緑体構造と代謝に影響していることが示唆される。また、ストレス組合せはシロイヌナズナのジャスモン酸(JA)とJA-Ileの含量、JA生合成に関与する転写産物の量を増加させることがわかった。そこで、JA欠損aos 変異体のストレス応答性を見たところ、野生型と比較してaos 変異体はストレス組合せに対する感受性が高いことがわかった。したがって、JA応答はHL+HSに対する耐性にとって重要であると考えられる。以上の結果から、強光と高温の組合せは植物の光合成能力を著しく低下させ、植物ホルモンのジャスモン酸はこのストレス組合せに対する応答を正に制御していると考えられる。

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論文)光と概日時計によるプラズモデスマータ輸送の制御

2020-01-08 22:45:58 | 読んだ論文備忘録

Plant Cell-Cell Transport via Plasmodesmata Is Regulated by Light and the Circadian Clock
Brunkard and Zambryskia  Plant Physiology (2019) 1459-1467.

doi:10.1104/pp.19.00460

プラズモデスマータ(PD)を介した隣接細胞間の輸送には葉緑体の機能が関与していることが報告されている。このことから、米国 カリフォルニア大学バークレー校Brunkard らは、PD輸送には光が関与しているのではないかと考え、解析を行なった。12時間日長で育成しているシロイヌナズナ芽生えのシュートの基部に切り込みを入れて蛍光色素(ピラニン)を添加し、木部導管のPDを介した地上部への色素移動を観察した。その結果、色素の移動は夜間よりも日中の方が速いことがわかった。次に、12時間日長で育成しているベンサミアナタバコの葉に35Sプロモーター制御下でGFPを発現するアグロバクテリウムを少量接種し、36時間後のGFP蛍光の拡散を観察した。その結果、アグロバクテリウムを明け方に接種して昼間を2回経た方が夕方に接種して夜間を2回経た場合よりもGFPが広く拡散することがわかった。したがって、PDの輸送速度は日中の方が早く、夜間は輸送が制限されていると考えられる。PD輸送は、細胞分化の際にPD周囲に細胞壁多糖のカロースが沈着することで抑制されることが知られている。そこで、PD周囲のカロース量の日変化を見たところ、むしろ夜間に幾分か減少していた。よって、PD輸送速度の日変化はカロースの沈着によるものではないと考えられる。夜間のPD輸送低下の理由としてATP量の低下が考えられるので、ウイルス誘導遺伝子サイレンシング(VIGS)によってベンサミアナタバコの葉緑体ATPシンターせサブユニットAtpC をサイレンシングさせたが、むしろPD輸送は促進された。よって、ATP量の増加とPD輸送の増加に関連性はない。16時間日長で育成ているベンサミアナタバコを連続光もしくは暗黒下で育成してGFPの拡散を見ると、16時間日長と連続光では輸送速度の差は殆ど見られないないが、暗黒下では輸送速度が低下した。よって、日中のPD輸送速度に光は必須であるが、連続光にしても促進は見られない。また、12時間日長で育成しているベンサミアナタバコに明け方に菌接種して暗黒下に移し、2日目の日中に相当する時間帯もしくは夜に相当する時間帯に12時間光照射して3日目にGFPの拡散を見たところ、日中に光照射した個体の方がGFPが拡散していた。PD輸送における概日時計の関与を見るために、LATE ELONGATED HYPOCOTYLLHY )をサイレンシングさせたベンサミアナタバコを用いて同様の実験を行ったところ、連続暗黒条件でのPD輸送の変化は見られなかったが、12時間光照射は日中も夜間もPD輸送が対照よりも増加していた。また、同じ齡のベンサミアナタバコであれば12時間日長と16時間日長の育成条件でPD輸送速度に差異は見られなかった。以上の結果から、PDによる輸送は光と概日時計によって制御されていることが示唆される。

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謹賀新年

2020-01-01 20:43:26 | Weblog

明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。

ハマベンケイソウ(浜弁慶草)Mertensia maritima subsp. asiatica
ムラサキ科ハマベンケイソウ属
2019年6月30日 北海道 礼文島

 

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