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論文)高温による維管束発達阻害の分子機構

2023-09-09 13:13:32 | 読んだ論文備忘録

High temperature inhibits vascular development via the PIF4-miR166-HB15 module in Arabidopsis
Wei et al.  Current Biology (2023) 33:3203-3224.

doi:10.1016/j.cub.2023.06.049

植物は、高温に曝されると茎が細くなって倒伏し、農作物の場合は収量や品質の低下につながる可能性がある。しかし、高温を介した維管束発達制御の分子機構は明らかとなっていない。中国 西南大学のLuoらは、熱形態形成に関与しているフィトクロムB(PhyB)とbHLH型転写因子PHYTOCHROME INTERACTING FACTOR 4(PIF4)が高温時の維管束発達制御に関与しているのではないかと考え、シロイヌナズナphyB 変異体、pif4 変異体、PIF4 過剰発現系統(PIF4-OE)の芽生えを常温(22℃)で育成した後に高温(28℃)処理をして表現型を観察した。その結果、22℃で育成したphyB 変異体とPIF4-OE系統は、高温で育成した野生型植物と同じような形態変化を示し、pif4 変異体は高温による形態変化を殆ど示さないことが判った。成熟期には、高温で育成した野生型植物、常温で育成したphyB 変異体とPIF4-OE系統は、花序茎が細く、重度の倒伏表現型を示したが、pif4 変異体は高温条件下でも花序茎が太く、起立した花序茎の割合が高かった。花序茎の横断面を見ると、28℃処理した野生型植物と常温で育成したphyB 変異体とPIF4-OE系統は、維管束数が減少していたが、pif4 変異体の維管束数は高温の影響を殆ど受けなかった。高温処理によって野生型植物、phyB 変異体、PIF4-OE系統、pif4 変異体の茎の内腔面積は著しく縮小した。しかし、pif4 変異体の内腔面積は常温では野生型植物よりも大きく、高温処理によって22℃で育成した野生型植物と同程度の大きさになった。野生型植物花序茎の維管束間繊維細胞(If)の層は、高温により1-2層減少した。22℃で育成したphyB 変異体は、野生型植物に比べてIf層が著しく減少し、28℃ではそれ以上の減少は見られなかった。PIF4-OE系統の茎のIf層数は高温で育成した野生型植物と同程度であり、28℃でさらに減少した。一方、pif4 変異体は22℃で野生型植物よりも多くのIf層があり、高温でもIf層の減少は見られなかった。さらに、二次細胞壁の厚さは、高温で育成した野生型植物、常温で育成したphyB 変異体とPIF4-OE系統では、22℃育成の野生型植物に比べて薄かった。高温による形態変化に伴い、二次細胞壁形成のマスタースイッチ遺伝子として知られるNST1VND7、リグニン合成遺伝子のPAL4HCT、セルロース合成遺伝子CESA4、キシラン合成遺伝子IRX15 の発現量は有意に抑制される。これらの遺伝子の発現は、22℃育成のPIF4-OE系統で抑制されており、28℃に移行するとさらに低下した(HCT を除く)。一方、pif4 変異体ではこれらの遺伝子の発現量が高く、高温処理後も野生型植物よりも高い発現レベルを維持していた。これらの結果から、PhyB-PIF4モジュールは高温によるシロイヌナズナ花序茎の維管束発達と二次細胞壁形成の阻害に関与していることが示唆される。クラスⅢホメオドメインロイシンジッパー(HD-ZIP Ⅲ)転写因子のHB15は、維管束の発達を負に制御しており、マイクロRNA miR166はHB15 をターゲットとしている。解析の結果、成熟miR166と前駆体MIR166A/B/E/G の転写産物量は温度上昇によって急速に減少することが判った。また、miR166、pri-MIR166C/E の発現量は、常温で育成したPIF4-OEの茎で有意に減少しており、高温処理によって更に減少した。pif4 変異体では、miR166、pri-MIR166C/E の発現量は増加しており、高温処理をしてもmiR166量は変化しなかった。逆に、高温処理またはPIF4 の過剰発現はHB15 転写産物量を増加させ、pif4 変異体ではHB15 発現量が減少しており、高温処理による発現誘導は見られなかった。MIR166 ノックダウン系統(STTM166)およびmiR166耐性HB15 過剰発現系統(rHB15-OE)の維管束数は、常温で野生型植物よりも少なく、内腔面積が縮小していた。STTM166 系統の維管束間間繊維の二次細胞壁の厚さは、22℃では野生型植物よりもかなり薄く、28℃ではほとんど検出できなかった。rHB15-OE系統の花序茎は、PIF4-OE系統とほぼ同様の表現型を示した。一方、hb15 変異体はpif4 変異体とほぼ同様の表現型を示した。形態変化と一致して、二次細胞壁調節遺伝子や生合成遺伝子の発現量は、STTM166 系統、rHB15-OE系統の花序茎で有意に低下していた。以上の結果から、高温によるMIR166 の発現阻害とそれに伴うHB15 の解放が、シロイヌナズナの花序茎における維管束の発達と二次細胞壁形成の抑制に関与している可能性が示唆される。PIF4MIR166E は、維管束組織や維管束間繊維での発現プロファイルが重複しており、PIF4はMIR166 遺伝子プロモーター領域のPBE-boxに結合してMIR166 の転写を抑制すること、この結合は高温時に促進されることが確認された。pif4/STTM166 系統、pif4/rHB15-OE系統、PIF4-OE/hb15 系統の解析から、MIR166HB15 はPIF4の下流において作用し、高温に応答した維管束の発達や二次細胞壁形成の制御に関与していることが判った。以上の結果から、PIF4は、MIR166 遺伝子を直接抑制し、下流のターゲットであるHB15 を遊離させることで、高温時の維管束の発達と二次細胞壁の肥厚を阻害する主要な調節因子として機能していると考えられる。

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