DROOPY LEAF1 controls leaf architecture by orchestrating early brassinosteroid signaling
Zhao et al. PNAS (2020) 117:21766-21774.
doi:10.1073/pnas.2002278117
トウモロコシ、イネ、ソルガム等の穀物の商業品種は立ち葉であり、密植が可能で、受光体勢が良い。しかしながら、葉形を制御する機構は不明な点が多い。中国農業科学院 作物科学研究所のDiao らは、アワ(Setaria italica )のEMS突然変異体集団の中から実生の葉が大きく垂れ下がったdroopy leaf1 (dpy1 )変異体を単離した。この変異体は、実生だけでなく出穂後の葉も垂れており、垂れは葉身部分で生じていた。dpy1 変異体の葉は、野生型よりも小さく、葉幅が狭い。また、圃場栽培したdpy1 変異体は病害を受けやすかった。葉の横断面切片を観察すると、野生型よりも背軸側厚膜組織などの細胞数が少なく、リグニン沈着量が減少していた。暗所で発芽させたdpy1 変異体種子は野生型よりも子葉鞘が伸長し、ブラシノステロイド(BR)に対する感受性が高くなっていた。したがって、DPY1 はBRシグナル伝達に関与していることが示唆される。マップベースクローニングおよびMutMap解析の結果、dpy1 変異体はSeita.5G121100 の第3イントロンに塩基置換(A882T)があり、dpy1 転写産物は未成熟終始コドンを生じることがわかった。DPY1はシロイヌナズナNSP-interacting kinase 3(NIK3)のオーソログで、LRR-RKのサブファミリーⅡに属する膜貫通型キナーゼタンパク質で、原形質膜に局在している。DPY1 は葉身で強く発現していた。各種アッセイの結果、DPY1はキナーゼドメイン(KD)を介してBRコレセプターのBRI1-ASSOCIATED KINASE1(SiBAK1)と相互作用をすることが確認された。また、SiBAK1とBRASSINOSTEROID-INSENSITIVE1(SiBRI1)はそれぞれのKDを介して相互作用をするが、DPY1-KDはこの相互作用を濃度依存的に弱めることがわかった。dpy1 変異体では、リン酸化されたSiBRI1が増加し、SiBRI1とSiBAK1の相互作用は強くなっていた。BRシグナル伝達に関与するBRASSINAZOLE-RESISTANT1(SiBZR1)を過剰発現させたアワは、dpy1 変異体と同じように垂れ葉の表現型を示した。dpy1 変異体では脱リン酸化型のSiBZR1が増加しており、dpy1 変異体ではBRシグナルが強くなっていることが示唆される。RNA-seq解析の結果、野生型植物をBR処理した際に発現量が変化するBZR1ターゲット遺伝子(1498遺伝子)のおよそ半分(714遺伝子)はdpy1 変異体で発現量が変化しているBZR1ターゲット遺伝子(2009遺伝子)と重なっており、そのうちの80%は発現量変化の方向が一致していた。よって、DPY1はBRシグナル伝達に対して抑制的に作用していると考えられる。dpy1 変異体やBR処理した野生型では厚膜細胞の増殖に関与しているcyclin-like遺伝子の発現量が減少していた。dpy1 変異体をBR処理すると葉身の屈曲はさらに大きくなるが、BR生合成阻害剤のブラシナゾール(BRZ)を添加すると垂れ葉が部分的に改善された。したがって、DPY1はBRシグナル伝達を負に制御することで葉の垂れを抑制していると考えられる。BRはDPY1 の発現とDPY1タンパク質の安定性を促進しており、DPY1量を調節するフィードバックループを形成している。DPY1はSiBAK1によってリン酸化され、BRはDPY1とSiBAK1との相互作用を促進した。dpy1 変異体では、BR処理によるSiBRI1のリン酸化とSiBRI1-SiBAK1相互作用が野生型よりも強くなっていた。このことによって、dpy1 変異体ではBR処理による葉の垂れが野生がよりも強くなるものと考えられる。以上の結果から、DPY1はSiBRI1よりもSiBAK1に対する親和性が高いためにBR非存在下ではSiBAK1とSiBRI1との相互作用が抑制されるが、SiBAK1はBRが結合したSiBRI1に対する親和性がDPY1よりも高いのでSiBRI1-SiBAK1複合体が形成されてSiBRI1が活性化し、BRシグナルが伝達されるものと思われる。dpy1 変異体の高い罹病性は、BRが成長と植物免疫との間のトレードオフに関与していることを示唆している。