Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)ブラシノステロイドシグナルを抑制する因子

2020-09-27 16:00:35 | 読んだ論文備忘録

DROOPY LEAF1 controls leaf architecture by orchestrating early brassinosteroid signaling
Zhao et al.  PNAS (2020) 117:21766-21774.

doi:10.1073/pnas.2002278117

トウモロコシ、イネ、ソルガム等の穀物の商業品種は立ち葉であり、密植が可能で、受光体勢が良い。しかしながら、葉形を制御する機構は不明な点が多い。中国農業科学院 作物科学研究所Diao らは、アワ(Setaria italica )のEMS突然変異体集団の中から実生の葉が大きく垂れ下がったdroopy leaf1dpy1 )変異体を単離した。この変異体は、実生だけでなく出穂後の葉も垂れており、垂れは葉身部分で生じていた。dpy1 変異体の葉は、野生型よりも小さく、葉幅が狭い。また、圃場栽培したdpy1 変異体は病害を受けやすかった。葉の横断面切片を観察すると、野生型よりも背軸側厚膜組織などの細胞数が少なく、リグニン沈着量が減少していた。暗所で発芽させたdpy1 変異体種子は野生型よりも子葉鞘が伸長し、ブラシノステロイド(BR)に対する感受性が高くなっていた。したがって、DPY1 はBRシグナル伝達に関与していることが示唆される。マップベースクローニングおよびMutMap解析の結果、dpy1 変異体はSeita.5G121100 の第3イントロンに塩基置換(A882T)があり、dpy1 転写産物は未成熟終始コドンを生じることがわかった。DPY1はシロイヌナズナNSP-interacting kinase 3(NIK3)のオーソログで、LRR-RKのサブファミリーⅡに属する膜貫通型キナーゼタンパク質で、原形質膜に局在している。DPY1 は葉身で強く発現していた。各種アッセイの結果、DPY1はキナーゼドメイン(KD)を介してBRコレセプターのBRI1-ASSOCIATED KINASE1(SiBAK1)と相互作用をすることが確認された。また、SiBAK1とBRASSINOSTEROID-INSENSITIVE1(SiBRI1)はそれぞれのKDを介して相互作用をするが、DPY1-KDはこの相互作用を濃度依存的に弱めることがわかった。dpy1 変異体では、リン酸化されたSiBRI1が増加し、SiBRI1とSiBAK1の相互作用は強くなっていた。BRシグナル伝達に関与するBRASSINAZOLE-RESISTANT1(SiBZR1)を過剰発現させたアワは、dpy1 変異体と同じように垂れ葉の表現型を示した。dpy1 変異体では脱リン酸化型のSiBZR1が増加しており、dpy1 変異体ではBRシグナルが強くなっていることが示唆される。RNA-seq解析の結果、野生型植物をBR処理した際に発現量が変化するBZR1ターゲット遺伝子(1498遺伝子)のおよそ半分(714遺伝子)はdpy1 変異体で発現量が変化しているBZR1ターゲット遺伝子(2009遺伝子)と重なっており、そのうちの80%は発現量変化の方向が一致していた。よって、DPY1はBRシグナル伝達に対して抑制的に作用していると考えられる。dpy1 変異体やBR処理した野生型では厚膜細胞の増殖に関与しているcyclin-like遺伝子の発現量が減少していた。dpy1 変異体をBR処理すると葉身の屈曲はさらに大きくなるが、BR生合成阻害剤のブラシナゾール(BRZ)を添加すると垂れ葉が部分的に改善された。したがって、DPY1はBRシグナル伝達を負に制御することで葉の垂れを抑制していると考えられる。BRはDPY1 の発現とDPY1タンパク質の安定性を促進しており、DPY1量を調節するフィードバックループを形成している。DPY1はSiBAK1によってリン酸化され、BRはDPY1とSiBAK1との相互作用を促進した。dpy1 変異体では、BR処理によるSiBRI1のリン酸化とSiBRI1-SiBAK1相互作用が野生型よりも強くなっていた。このことによって、dpy1 変異体ではBR処理による葉の垂れが野生がよりも強くなるものと考えられる。以上の結果から、DPY1はSiBRI1よりもSiBAK1に対する親和性が高いためにBR非存在下ではSiBAK1とSiBRI1との相互作用が抑制されるが、SiBAK1はBRが結合したSiBRI1に対する親和性がDPY1よりも高いのでSiBRI1-SiBAK1複合体が形成されてSiBRI1が活性化し、BRシグナルが伝達されるものと思われる。dpy1 変異体の高い罹病性は、BRが成長と植物免疫との間のトレードオフに関与していることを示唆している。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)カリキンシグナルによる根と根毛の発達成長制御

2020-09-23 06:51:36 | 読んだ論文備忘録

The karrikin signaling regulator SMAX1 controls Lotus japonicus root and root hair development by suppressing ethylene biosynthesis
Carbonnel et al.  PNAS (2020) 117:21757-21756.

doi:10.1073/pnas.2006111117

ミヤコグサをカリキン(KAR)処理すると主根の成長が抑制される。そこで、ドイツ ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンGutjahr らは、KARRIKIN INSENSITIVE 2(KAI2)- MORE AXILLARY GROWTH 2(MAX2)KAR受容体モジュールのターゲットとなっているSUPPRESSOR OF MAX2 1(SMAX1)の変異体smax1 を解析し、この変異体では主根の伸長が抑制されるが、側根や不定根の成長は正常であることを見出した。さらに、smax1 変異体は根毛が野生型よりも長く、野生型よりも根冠に近い領域から根毛の発生が始まっていることがわかった。smax1 変異体の種子は野生型植物の種子よりも25%程度軽く、小さい。このことから、種子の資源量が少ないことで主根の成長が悪いのではないかと考え、1%ショ糖を添加した培地でsmax1 変異体種子を発芽させたが、改善は見られなかった。主根の成長はリン酸欠乏によっても抑制されるので、培地にリン酸を添加してみたが、根の形態に変化は見られなかった。smax1 変異体で発現量が変化している遺伝子を網羅的に解析したところ、エチレン生合成に関与するACC-SYNTHASEACS)遺伝子(Lj2g3v0909590、シロイヌナズナACS7 のホモログ)の発現量が増加していることがわかった。また、smax1 変異体は野生型よりもエチレン生成量が2.5倍多くなっていた。そこで、野生型植物をACCやエチレン発生物質のエテホンで処理したところ、smax1 変異体と同じような主根や根毛の形態を示した。また、smxa1 変異体をACS阻害剤のAVGやエチレン応答阻害剤の硝酸銀で処理したところ、根の形態が野生型と同等になった。エチレンは、シロイヌナズナにおいて主根の伸長を阻害し根毛の伸長を促進することが知られており、smax1 変異体の根の形態変化はエチレンの過剰生産によって引き起こされていると考えられる。野生型植物をKAR処理することでACS7 転写産物量が僅かに増加したが、エチレン生産量の増加は検出できなかった。この処理によって主根の伸長阻害や側根・不定根の増加がみられるが、硝酸銀を同時に処理することによってこのような変化は見られなくなった。さらに、ein2a ein2b エチレン受容変異体はKARに応答した根の変化が見られなかった。以上の結果から、KAR処理による根の形態変化はエチレン生産の増加によって引き起こされていると考えられる。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)WRKY55による葉の老化と病原菌抵抗性の制御

2020-09-17 22:02:04 | 読んだ論文備忘録

WRKY55 transcription factor positively regulates leaf senescence and the defense response by modulating the transcription of genes implicated in the biosynthesis of reactive oxygen species and salicylic acid in Arabidopsis
Wang et al.  Development (2020) 147:dev189647.

doi: 10.1242/dev.189647

シロイヌナズナゲノムは72のWRKY転写因子遺伝子を含んでおり、グループⅢに属するWRKY55 は葉の老化時に発現が誘導される。中国 西北農林科技大学Jiang らは、WRKY55と葉の老化との関係について調査した。WRKY55は転写促進活性があり、核に局在していた。35SプロモーターでWRKY55 を発現させた葉は、過敏感反応のような細胞死を起こし、活性酸素種(ROS)を発生させ、老化が促進された。wrky55 機能喪失変異体は葉の老化が遅延し、野生型よりもクロロフィル含量が高く、ROS量が低下していた。RNA-seq解析の結果、WRKY55 を過剰発現させた葉では、RbohARbohDRbohI などのROS生合成関連遺伝子、ICS1PBS3NPR2PR1PR5SARD1 などのサリチル酸(SA)の生合成とシグナル伝達に関連する遺伝子、SAG13SAG29WRKY75MYB2 などの葉の老化の促進因子もしくはマーカー遺伝子の発現量が増加していた。さらに、WRKY55がRbohDICS1 、PBS3 、SAG13 の各遺伝子プロモーター領域のW-boxに結合して発現を直接活性化することが確認された。wrky55 変異体はSA含量が野生型よりも低く、WRKY55 を過剰発現させた個体はSA含量が高くなっていた。また、WRKY55 を過剰発現させた個体は、接種した植物病原細菌P. syringae pv. tomato DC3000(Pst DC3000)の成長が遅く、wrky55 変異体では野生型よりも菌の成長が促進された。よって、WRKY55はPst DC3000に対する抵抗性を正に制御している。ICS1 が機能喪失したsid2 変異体はWRKY55 の過剰発現による老化促進を部分的に抑制した。したがって、ICS1WRKY55 よりも上位に位置している。以上の結果から、WRKY55はROS経路およびSA経路を介して葉の老化と病原細菌抵抗性を正に制御していると考えられる。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)細胞膜にもサイトカイニン受容体は局在する

2020-09-12 08:30:21 | 読んだ論文備忘録

Cell-surface receptors enable perception of extracellular cytokinins
Antoniadi et al.  Nature Communications (2020) 11:4284.

doi:10.1038/s41467-020-17700-9

Cytokinin fluoroprobe reveals multiple sites of cytokinin perception at plasma membrane and endoplasmic reticulum
Kubiasová et al.  Nature Communications (2020) 11:4285.

doi:10.1038/s41467-020-17949-0

サイトカイニン受容体である膜貫通型ヒスチジンキナーゼ(HK)は、小胞体(ER)膜上に局在すことが報告されているが、細胞膜上の受容体が細胞外サイトカイニンを受容するという説は完全には排除されてはいない。

英国 インペリアル・カレッジ・ロンドンTurnbull ら[Nature Communications (2020) 11:4284.]は、シロイヌナズナの根のシンプラストとアポプラストに含まれるサイトカイニン類を調査し、サイトカイニン活性のないグルコシル化したサイトカイニンはシンプラストに多く含まれていること、遊離型およびリボシド型サイトカイニンはシンプラストとアポプラストで同等に分布しているか幾分アポプラストの方が多いことを見出した。このことから、細胞外に局在する活性型サイトカイニンはサイトカイニンシグナル伝達を引き起こしているのではないかと考えた。そこで、合成レポーターTCSn::GFP を導入したシロイヌナズナの根由来プロトプラストを遊離のサイトカイニンもしくはリンカーを介してサイトカイニンを結合させたセファロースビーズで処理をして蛍光シグナルを観察した。その結果、ビーズ処理により細胞外サイトカイニンを受容することでもサイトカイニン応答が活性化されることがわかった。この細胞外サイトカイニン処理はサイトカイニンによって発現が誘導される遺伝子の転写産物量も増加させた。サイトカイニン受容体のARABIDOPSIS HISITIDINE KINASE(AHK) の変異体を用いた解析から、細胞外サイトカイニンによるTCSn::GFP の活性化がAHK受容体を介していることが確認された。また、AHK-GFP融合タンパク質の解析から、AHK3の25%、AHK4の36%は小胞体膜以外に局在しており、細胞膜に局在する受容体が細胞外サイトカイニンに応答してシグナル伝達を行なっていると考えられる。

チェコ パラツキー大学オロモウツのSpíchal ら[Nature Communications (2020) 11:4285.]は、イソペンテニルアデニン(iP)のN9位に蛍光団の7-ニトロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール(NBD)を付加した標識サイトカイニン(iP-NBD)を合成した。iP-NBDは、サイトカイニン受容体CRE1/AHK4に親和性があり、弱いサイトカイニン応答性も有していた。iP-NBDの細胞内局在をシロイヌナズナの分化した側根の根冠細胞、根分裂領域の表皮細胞で調査し、両細胞種においてiP-NBDはER特異的マーカー(p24δ5-RFP)と共存することが確認された。一方で、iP-NBD蛍光はERレポーターとは重ならないスポット状のシグナルを発していることを見出した。このシグナルは細胞内で検出され、細胞膜やエンドサイトーシス時の小胞を染色するFM4-64と共存していた。そこで、各種マーカーを用いてiP-NBDの細胞内局在を解析したところ、iP-NBDと親和性を有するタンパク質はERに限らずエンドソーム膜輸送系や細胞膜にも局在することが推測された。GFPで標識したCRE1/AHK4(CRE1/GHK4-GFP)は、側根根冠細胞や根分裂組織表皮細胞ではERマーカーと共存していたが、分裂組織の表皮細胞ではCRE1/GHK4-GFPシグナルは細胞膜で見られ、ERでは検出されなかった。さらに分裂過程の分裂組織細胞ではCRE1/GHK4-GFPシグナルは細胞板においても検出された。これらの結果から、CRE1/GHK4は側根根冠細胞では主にERに局在するが、根端分裂組織の表皮細胞では細胞内膜系に入ってERと細胞膜の両方に局在していると考えられる。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)マイクロタンパク質による光形態形成の制御

2020-09-03 07:46:55 | 読んだ論文備忘録

Allosteric deactivation of PIFs and EIN3 by microproteins in light control of plant development
Wu et al.  PNAS (2020) 117:18858-18868.

doi:10.1073/pnas.2002313117

マイクロタンパク質(miP)は小さなORFにコードされているタンパク質で、① 140アミノ酸以下の大きさ、② タンパク質-タンパク質相互作用に関与するドメインを有している、③ 大きなタンパク質と類似したアミノ酸配列をしている、といった特徴があり、様々な機能が報告されている。中国 北京大学Zhong らは、BBXファミリーに属するシロイヌナズナのマイクロタンパク質miP1a、miP1bの芽生えの成長における役割を調査した。芽生えでのmiP1amiP1b の発現部位をGUS染色アッセイで調査したところ、どちらも子葉、子葉と胚軸の接合部、胚軸と根の接合部で発現しており、これはPHYTOCHROME-INTERACTING FACTORsPIFs )やETHYLENE-INSENSITIVE 3EIN3 )の発現パターンと類似していた。miP1a/b の発現は、暗所で育成した芽生えに光照射することで急速に増加し、照射2時間後には減少した。miP1a/bタンパク質も光照射によって増加し、照射8時間目以降は減少した。miP1a/bはB-boxドメインを介してPIFsやEIN3と直接相互作用をすることが確認された。PIF3やEIN3は生体内において四量体を形成しているが、miP1a/bはこのオリゴマー形成を抑制した。さらに、miP1a/bはPIF3やEIN3のターゲット遺伝子への結合を阻害して転写活性を抑制していた。miP1a もしくはmiP1b を過剰発現させた系統(miP1a-ox、miP1b-ox)の暗所育成芽生えは、光照射した際の茎頂フックの立ち上がりや子葉の展開が野生型よりも早くなり、逆に、miP1a miP1b 二重変異体では遅くなった。miP1a-ox、miP1b-oxの子葉は、暗所育成時から野生型よりも大きく、光照射による拡大の程度も大きくなっていた。一方、miP1a miP1b 二重変異体の子葉は光照射に対する感受性が低下していた。PIF3 を過剰発現させた芽生えは光照射後のフックや子葉の展開が遅延し、子葉の拡張も少ないが、miP1a もしくはmiP1b を過剰発現させることでPIF3による脱黄化の阻害が抑制された。EIN3 を過剰発現させた黄化芽生えはフックが強く屈曲し、光照射後の子葉の展開や拡張が抑制されるが、miP1a を恒常的に発現するT-DNA挿入miP1a-D 機能獲得変異を導入することで屈曲の程度が緩和され、光照射後の子葉の展開や拡張も回復した。以上の結果から、miP1a/bはPIF3やEIN3のオリゴマー形成を直接阻害することで光照射により誘導される光形態形成を促進していると考えられる。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする