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論文)わき芽の成長におけるブラシノステロイドの役割

2021-04-21 22:28:12 | 読んだ論文備忘録

Brassinosteroid signaling integrates multiple pathways to release apical dominance in tomato
Xia et al.  PNAS (2021) 118:e2004384118.

doi:10.1073/pnas.2004384118

中国 浙江大学のYu らは、ブラシノステロイド(BR)によるわき芽の成長制御をトマトを用いて調査した。BR生合成遺伝子DWARFDWF )が機能喪失したdwf 変異体はわき芽数が減少し、DWF 過剰発現系統(OE-DWF )ではわき芽の成長が促進された。また、BRシグナル伝達に関与している転写因子遺伝子BRASSINAZOLE RESISTANT1BZR1 )の機能喪失変異体bzr1 はわき芽の成長が抑制され、BZR1 の過剰発現系統(OE-BZR1 )では促進された。さらに、BRシグナル伝達を負に制御するBrassinosteroid Insensitive2(BIN2)の機能喪失はわき芽の成長を促進した。分枝を抑制している転写因子遺伝子BRANCHED1BRC1 )の発現量は、dwf 変異体やbzr1 変異体で増加し、OE-DWF 、OE-BZR1bin2 変異体では減少していた。よって、トマトのわき芽の成長はBRの生合成やシグナル伝達によって促進されると考えられる。わき芽の成長はオーキシンやストリゴラクトン(SL)が抑制し、サイトカイニンが促進する。dwf 変異体は茎や根のIAA量が減少し、OE-DWF では増加していた。また、dwf 変異体の根ではSL生合成酵素遺伝子の発現量やSL含量が減少し、OE-DWF では増加していた。茎のサイトカイニン含量はdwf 変異体で増加していたが、OE-DWF は野生型と同等であった。よって、BRによるわき芽成長促進はオーキシン、SL、サイトカイニンの含量変化とは関連していないと考えられる。brc1 変異体はわき芽の成長が促進されるが、OE-DWFbrc1 変異を導入しても相加効果は見られなかった。また、dwf 変異体やbzr1 変異体でBRC1 をサイレンシングさせることでわき芽の休眠が解除された。よって、BRC1 はBRシグナルの下流でわき芽の成長を制御していることが示唆され、解析の結果、BZR1はBRC1 遺伝子プロモーター領域のE-boxモチーフに結合してBRC1 の発現を抑制していることが判った。摘心をするとBR生合成酵素をコードするDET2DWF の転写産物量が増加し、BR不活性化遺伝子のCYP734A8 やBRシグナル伝達の負の制御因子をコードするBIN2.2BIN2.3 の発現が抑制された。そして、芽や節のBR含量が増加した。また、BZR1タンパク質、特に脱リン酸化したdBZR1の蓄積量が増加した。よって、摘心による頂芽優勢からの解放は芽のBRシグナルを強化するとると考えられる。dwf 変異体、bzr1 変異体やBR受容体のBrassinosteroid insensitive1(BRI1)をサイレンシングさせた植物のわき芽成長抑制は、摘心をしても完全には回復せず、BRC1 転写産物量は高い状態を維持していた。よって、BRは頂芽優勢において重要な役割を果たしている。IAAやSLの生合成の抑制もしくはサイトカイニンや糖の芽への添加は、わき芽の成長を促進し、DET2DWF 転写産物量、BR含量、dBZR1タンパク質量を増加させ、BRC1 発現量を減少させるが、dwf 変異体やbzr1 変異体ではわき芽成長の促進効果はわずかで、BRC1 発現量も高い状態が維持されていた。一方で、DELLAタンパク質が欠損したprocerapro )変異体はわき芽の成長が抑制され、芽でのBRC1 転写産物量が増加、DET2DWF 転写産物量とBR含量、dBZR1タンパク質量が減少していた。これらの結果から、BRシグナルは植物ホルモンや糖による分枝成長制御に関与していることが示唆される。タイプBレスポンスレギュレーター(RR)はサイトカイニンシグナルに応答した遺伝子発現を制御しており、RR10 のサイレンシングによってわき芽の成長が阻害された。RR10 過剰発現系統ではDFW 発現量と芽のBR含量が増加し、rr10 変異体では減少していた。また、RR10は直接DWF 遺伝子プロモーター領域に結合した。よって、RR10を介したサイトカイニンシグナルはBR生合成を促進することでわき芽の成長を引き起こしていると考えられる。以上の結果から、ブラシノステロイドシグナルは、BRC1 の発現を直接抑制することでトマトわき芽の成長を促進しており、オーキシン、サイトカイニン、ストリゴラクトン、糖類はBR-BZR1-BRC1カスケードに影響することでわき芽の成長を制御していると考えられる。

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