Arabidopsis seed germination speed is controlled by SNL histone deacetylase-binding factor-mediated regulation of AUX1
Wang et al. Nature Communications (2016) 7:13412.
DOI: 10.1038/ncomms13412
SWI-INDEPENDENT3(SIN3)-LIKE1(SNL1)とSNL2はヒストン脱アセチル化酵素結合因子で、SNL-HDA19ヒストン脱アセチル化複合体を形成している。この複合体はアブシジン酸(ABA)やエチレンのシグナル伝達に関与する遺伝子のヒストンH3K9/18を脱アセチル化することで種子休眠を制御していることが知られている。中国科学院 植物研究所のLiu らは、snl1 およびsnl2 単独変異体、snl1 snl2 二重変異体は、野生型よりも発芽の際の幼根の突出が早いことを見出した。この効果は種子を休眠打破処理しても見られることから、SNL1とSNL2は種子休眠とは独立して種子発芽を制御していることが示唆される。RNA-seq解析から、snl1 snl2 二重変異体種子ではオーキシン関連遺伝子の転写産物量が有意に増加していることがわかった。そこで、種子を浸漬する際にオーキシン合成阻害剤アミノエトキシビニルグリシン(AVG)やオーキシン輸送阻害剤の2,3,5-トリヨード安息香酸や1-ナフトキシ酢酸(1-NOA)を添加したところ、snl1 snl2 二重変異体も野生型も種子の発芽速度が低下した。このことから、snl 変異体はオーキシン応答が高まったことにより発芽速度が加速したと推測される。snl1 変異体、snl1 snl2 二重変異体の乾燥種子や浸漬8時間後の種子は、オーキシンの生合成、輸送、シグナル伝達に関与する遺伝子の発現量が野生型よりも高くなっていたが、浸漬24時間後には幾つかの遺伝子の発現量は野生型と同等になっていた。snl1 変異体、snl1 snl2 二重変異体でのオーキシンレポーターDR5::GUS の発現は、発芽時の胚では野生型よりも高くなっていたが、成長した芽生えでは差は見られなかった。また、snl1 変異体、snl1 snl2 二重変異体のIAA量は野生型よりも高くなっていた。これらの結果から、SNL1 、SNL2 は種子発芽時のオーキシン量を負に制御しており、このことが発芽速度に影響しているものと思われる。種子発芽の際に低濃度のオーキシンを与えると発芽速度が促進されたが、高濃度で処理すると発芽速度は低下した。また、低濃度のオーキシン処理をすることで幼根において4Cや8Cといった多倍体の核が増加した。したがって、オーキシンは細胞分裂やエンドサイクルを刺激して発芽速度を促進しているものと思われる。snl1 snl2 二重変異体で転写産物量が増加しているオーキシン関連遺伝子(PIN2 、PIN3 、CYP79B2 、CYP79B3 、YUC3 )の機能喪失変異体は発芽速度に明確な変化は見られなかったが、オーキシントランスポーターAUX1の変異体aux1-21 、aux1-22 の新鮮な種子は野生型よりも僅かに発芽が遅延した。この表現型は休眠打破処理をした種子では見られなくなることから、AUX1は種子の休眠を弱く調節していることが示唆される。種子で高い転写活性を示す12Sプロモーター制御下でAUX1 を発現させた形質転換体(12Spro::AUX1 )の休眠打破処理をした種子は幼根の突出が野生型よりも促進され、snl1 snl2 二重変異体にaux1-21 変異を導入すると発芽速度が野生型と同程度に戻った。これらの結果から、AUX1はSNL1、SNL2の下流での発芽速度の制御において重要な役割を演じていると思われる。AUX1 過剰発現系統の種子は内生オーキシン量が高く、幼根でのDR5::GUS の発現も高くなっていた。よって、AUX1は、オーキシンを輸送して幼根部分のオーキシン蓄積を調節することで幼根の成長と種子発芽に関与しているものと思われる。種子の発芽が進むにつれて幼根にAUX1タンパク質が蓄積していくが、snl1 snl2 二重変異体での蓄積量は野生型よりも多くなっていた。このことから、AUX1はsnl1 snl2 二重変異体の発芽速度を促進していることが示唆される。snl1 snl2 二重変異体は、AUX1 遺伝子のC末端コード領域、PIN2 遺伝子、CYP79B2 遺伝子のプロモーター領域のアセチル化の程度が野生型よりも高く、これらの遺伝子領域とSNL1は相互作用をすることが確認された。これらの結果から、snl1 snl2 二重変異体でのAUX1 遺伝子や他のオーキシン関連遺伝子の発現量の増加は、SNL1、SNL2の機能喪失によるヒストンH3K9K18のアセチル化の増加と強く関連していることが示唆される。12Spro::AUX1 形質転換体やsnl1 snl2 二重変異体は幼根の細胞数が野生型よりも多く、4Cや8Cの核が多くなっていた。また、サイクリンD1;1(CYCD1;1 )やCYCD4;1 の転写産物量が野生型よりも多くなっていた。12Spro::AUX1 形質転換体にCYCD4;1 の機能喪失変異を導入すると発芽速度が野生型と同程度になることから、CYCD1;1 とCYCD4;1 は幼根の成長に対してAUX1やSNL1/SNL2の下流において重要な役割を演じていることが示唆される。以上の結果から、SNL-HDA19ヒストン脱アセチル化複合体は、オーキシン関連遺伝子のヒストンを脱アセチル化して発現抑制することで種子発芽を抑制しており、AUX1はSNL1/SNL2の下流において種子発芽を制御する重要な因子であることが示唆される。