Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)ジャスモン酸によるアントシアニン生合成、トライコーム形成の制御機構

2011-07-31 17:45:22 | 読んだ論文備忘録

The Jasmonate-ZIM-Domain Proteins Interact with the WD-Repeat/bHLH/MYB Complexes to Regulate Jasmonate-Mediated Anthocyanin Accumulation and Trichome Initiation in Arabidopsis thaliana
Qi et al.  The Plant Cell (2011) 23:1795-1814.
doi:10.1105/tpc.111.083261

ジャスモン酸(JA)は、虫害、傷害、病害、紫外線といった様々なストレス応答や、稔実、アントシアニン蓄積、トライコーム形成などの成長制御に関与している。JA非存在下ではJasmonate ZIM-domain(JAZ)タンパク質がJAシグナル伝達に関与する転写因子と相互作用をすることで直接転写活性を阻害している。中国 精華大学Xie らは、酵母two-hybrid(Y2H)系により、bHLH型転写因子のGlabra3(GL3)とMYB型転写因子のMYB75がシロイヌナズナJAZ1タンパク質と相互作用することを見出した。過去知見から、bHLH型転写因子のGL3、Enhancer of Glabra3(EGL3)、Transparent Testa8(TT8)、R2R3型MYB転写因子のMYB75、MYB90、MYB113、MYB114、GL1、WD-リピートタンパク質のTransparent Testa Globra1(TTG1)はWD-repeat/bHLH/MYB複合体を形成し、この複合体はアントシアニン生合成やトライコーム形成の調節因子として機能していることが知られている。そこで、これらの複合体に関与する因子がJAZタンパク質と相互作用するかをY2H系で調べたところ、bHLH転写因子のEGL3、GL3、TT8は8種のJAZタンパク質(JAZ1、JAZ2、JAZ5、JAZ6、JAZ8、JAZ9、JAZ10、JAZ11)と強い相互作用を示し、残り4種のJAZ(JAZ3、JAZ4、JAZ7、JAZ12)とは相互作用を示さないことがわかった。MYB転写因子のMYB75とGL1はJAZ1、JAZ8、JAZ11と相互作用を示し、GL1はさらにJAZ10とも相互作用を示した。また、WD-リピートタンパク質のTTG1はいずれのJAZタンパク質とも相互作用を示さなかった。この結果から、幾つかのJAZタンパク質はWD-repeat/bHLH/MYB複合体のbHLH転写因子およびMYB転写因子と相互作用を示すことが示唆される。JAZタンパク質とbHLH、MYBとの相互作用は植物体内における蛍光タンパク質再構成(BiFC)アッセイ、プルダウンアッセイによっても確認された。JAZタンパク質と相互作用を示すbHLH転写因子のMYC2はN-末端側領域でJAZタンパク質と相互作用を示すことが知られているが、今回見出されたEGL3、TT8、MYB75、GL1はMYC2とは違ってすべてC-末端側領域でJAZタンパク質と相互作用を示した。JAZタンパク質はJasドメインのあるC-末端側領域でこれらの転写因子と相互作用を示した。MYB転写因子GL1とbHLH転写因子GL3はWD-repeat/bHLH/MYB複合体を形成してトライコーム形成を制御しているが、JAZ1タンパク質はGL3とGL1との間の相互作用を抑制もしくは構造変化を引き起こしていることがわかった。同様に、アントシアニン生合成に関与しているMYB75とTT8の相互作用に対してもJAZ1タンパク質は影響していた。また、JAZ1タンパク質はTT8とMYB75のWD-repeat/bHLH/MYB複合体によるアントシアニン生合成遺伝子DFR の転写を抑制した。ドミナントネガティブなJAZ1Δ3A を発現する形質転換体やcoi1-2 変異体では、TT8/MYB75が形成するWD-repeat/bHLH/MYB複合体の直接のターゲットのDFRLDOXUF3GT といったアントシアニン生合成遺伝子の発現、GL1/GL3が形成するWD-repeat/bHLH/MYB複合体の直接のターゲットのトライコームイニシエーション因子GL2 の発現が抑制されていた。そしてこれらのWD-repeat/bHLH/MYB複合体を構成する転写因子の機能喪失変異体等の解析から、JAによるアントシアニン生合成やトライコーム形成の誘導にWD-repeat/bHLH/MYB複合体が関与しており、これらはCOI1を介してなされていることがわかった。さらに、WD-repeat/bHLH/MYB複合体を構成するbHLH転写因子やMYB転写因子をコードする遺伝子もCOI1を介してJAによって発現誘導されることがわかった。MYB75 およびbHLH転写因子遺伝子(GL3EGL3 )をcoi1 変異体で過剰発現させることでアントシアニンの蓄積およびトライコーム形成の回復が見られた。以上の結果から、JAによるJAZタンパク質のプロテアソーム系による分解はJAZタンパク質とbHLH転写因子やMYB転写因子との相互作用を解消させ、WD-repeat/bHLH/MYB複合体が転写活性を持つことで下流へとシグナルが流れてアントシアニン生合成やトライコーム形成が誘導されると考えられる。

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論文)一酸化窒素による光形態形成の制御

2011-07-29 18:26:37 | 読んだ論文備忘録

Nitric Oxide Regulates DELLA Content and PIF Expression to Promote Photomorphogenesis in Arabidopsis
Lozano-Juste and León  Plant Physiology (2011) 156:1410-1423.
doi: 10.1104/pp.111.177741

植物はストレスを受けると一酸化窒素(NO)を生産し、生産されたNOは様々なストレス応答の調節因子として機能している。シロイヌナズナにおいてNOは硝酸還元酵素(NR/NIR)とnitric oxide-associated 1(NOA1)の2つの生合成経路によって生成され、種子生産、種子発芽、栄養成長、気孔の開閉といった様々な生理現象の制御を行なっていることが知られている。しかしながら、NOによる制御機構の詳細は明らかとなっていない。スペイン バレンシア工科大学のLeón らは、シロイヌナズナnia1,2 noa1-2 変異体を用いてNOと植物の成長制御との関係を解析した。明所で育成したnia1,2 noa1-2 変異体芽生えは、胚軸が野生型よりも長く、根が短くなるが、暗所で育成した芽生えでは成長量の差は見られなかった。よって、NOは光による成長制御に関与していると考えられる。そこで様々な波長の光を変異体芽生えに照射して野生型と成長を比較したところ、青色光、遠赤色光照射では野生型との間に成長の差は見られなかったが、赤色光照射下では胚軸が野生型よりも長くなった。この胚軸伸長の差はNO含量の低下によるものであり、NO供与体のニトロプルシドナトリウム(SNP)を添加すると変異体の胚軸長は野生型と同等になり、NO含量が増加しているnox1 変異体芽生えの胚軸は胚軸が野生型よりも短くなっていた。変異体芽生えは赤色光に対する応答性が低下していることから、光受容体PHYBの量もしくは活性、またはPHYBシグナル伝達に変化が生じているものと思われる。phyB 変異体とnia1,2 noa1-2 変異体との間には幾つかの表現型の類似が見られるが、異なる表現型もあり、nia1,2 noa1-2 変異体のPHYB含量は赤色光下で育成した芽生えでは野生型よりも少なくなっていたが、暗所育成芽生えでは差は見られなかった。また、phyB 変異体はSNP添加による胚軸伸長抑制が見られた。したがって、NO欠損変異体は赤色光シグナル伝達に変化が生じており、NOはPHYBの下流において機能しているものと考えられる。nia1,2 noa1-2 変異体芽生えは野生型よりも多くのアントシアニンを含んでおり、フラボノールやアントシアニンの生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現を制御している転写因子をコードしているphytochrome-interacting factor 3PIF3 )およびPIFファミリーに属するPIF1PIF4 の転写産物量が赤色光下において野生型よりも多くなっていた。また、これらPIF の発現量は野生型植物をSNP処理をすることで減少した。また、nia1,2 noa1-2 変異体芽生えは野生型よりも低濃度のジベレリン(GA)処理によって胚軸伸長が飽和し、GA生合成阻害剤パクロブトラゾール(PAC)に対する感受性が低下していた。PIF3 過剰発現形質転換体芽生えはNOによる胚軸伸長抑制に対する感受性が高くなっており、pif1pif3pif4pif5 四重変異体はNO非感受性となっていた。よって、NO欠損変異体はPIFの機能が高まっており、PIFはNOによる胚軸伸長抑制のターゲットとなっていることが示唆される。PIF活性はDELLAタンパク質との相互作用によって抑制されること、DELLAはGA存在下でプロテアソーム系によって分解されることから、NOとDELLAとの関係を調査したところ、芽生えをNO処理することによってDELLAタンパク質量が増加することがわかった。予めNO処理をした後にGA処理をしてもDELLAの分解は正常に起こることから、NOはDELLAタンパク質の分解に影響しているのではないと考えられる。また、野生型植物のNO処理やnia1,2 noa1-2 変異体ではDELLA 遺伝子の発現に変化は見られなかった。GAを介したDELLA量の制御は、GA受容体のGID1やユビキチンリガーゼSleepy1(SLY1)によるユビキチン化によってなされていることから、これらをコードする遺伝子の発現を見たところ、NO処理によってSLY1 の発現量が減少し、nia1,2 noa1-2 変異体でSLY1 の発現量が増加していることがわかった。また、sly1-10 機能喪失変異体はNO感受性が低下し、sly1-D 機能獲得変異体はNO感受性が高くなっていた。NOを特異的に検出するフルオレセインのDAF-FM DAを用いて内生NO量を調査したところ、暗所で育成した野生型芽生え胚軸のNO量は非常に少ないが赤色光照射によって増加すること、この増加はnia1,2 noa1-2 変異体やphyB 変異体では見られないこと、GA欠損変異体ga1-3 は暗所においてもNO量が高く、赤色光照射をしてもNO量に変化が見られないことがわかった。よって、GAは胚軸におけるNO生産を負に制御していると考えられる。以上の結果から、PHYBシグナルによって生成量の増加したNOは、成長を促進するPIF の発現を抑制し、SLY1 の発現を抑制してDELLA量を増加させることで光形態形成の制御、すなわち胚軸伸長抑制を行なっていると考えられる。

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論文)光シグナルによる器官形成機構

2011-07-27 23:12:37 | 読んだ論文備忘録

Stem cell activation by light guides plant organogenesis
Yoshida et al.  Genes & Dev. 2011. 25:1439-1450.
doi: 10.1101/gad.631211

葉の誘導・成長が暗所において抑制される現象は古くから知られているが、その詳細な機構は明らかとなっていない。スイス ベルン大学Kuhlemeier らは、トマトを実験材料に用いて葉の誘導と光との関係を解析した。トマト芽生えは1日あたり1個の葉原基を形成するが、暗所では葉の誘導が抑制される。これが光形態形成応答によるものなのか光合成によるエネルギー生産の喪失によるものなのかを区別するために、切り取った茎頂をショ糖を含む培地で培養して同様の実験を行なった。培養茎頂は長日条件下で葉原基の誘導が継続して起こるが、暗所に移すと葉原基形成が遅延し、明所に戻すと芽生えの場合と同様に葉原基形成が再開された。培地に光合成阻害剤のノルフルラゾンを添加して培養し、白化した茎頂でも対照と同じように葉原基が形成された。したがって、光合成阻害が葉の誘導を阻害することはないと考えられる。テトラピロールクロモフォア合成が失われ光受容体フィトクロムが不完全なaureaau )変異体は、葉の形成される位置が不規則になり、分裂組織が小さくなって2つに分かれるといった異常を示し、葉原基形成数が野生型よりも少なくなっていた。よって、光シグナルは葉序形成に重要な役割を果たしていると考えられる。葉原基形成の光による制御がオーキシンの輸送や濃度勾配によってなされているか、オーキシン排出キャリアをコードするPIN1 の発現を調査したところ、明所で育成した芽生えの栄養成長している茎頂ではL1層、初期の葉原基、前形成層連絡において発現が見られ、暗所に移すとPIN1は徐々に細胞膜から消えて細胞内の液胞と思われる構造の中に観察されるようになった。これに伴い茎頂のオーキシン量も減少していった。よって、暗所での葉の誘導抑制はオーキシンシグナルの減少が関与していると考えられる。そこで、暗所で培養している茎頂にラノリンペーストのかたちでオーキシン(IAA)を与えてみたところ、既に形成されている葉原基の成長は促進されたが、新規な葉原基の誘導は起こらなかった。したがって、葉原基形成はオーキシンと光の2つの因子が必要であり、光シグナルは原基におけるオーキシン勾配形成関与していると考えられる。暗所で培養した茎頂の先端にサイトカイニン(ゼアチン)を与えたところ葉の誘導停止からの回復が観察された。よって、光による葉の誘導にサイトカイニンが関与していることが示唆される。茎頂をオーキシン輸送阻害剤のN -1-ナフチルフタラミン酸(NPA)を含む培地で育成すると葉の形成が阻害されてピン型の茎頂(NPA pin)となる。このNPA pinの茎頂先端にIAAラノリンペーストを与えると葉の形成が再開するが、この再開は暗所で育成したNPA pinでは起こらなかった。しかし、ゼアチンとIAAを混合したラノリンペーストを与えると暗所育成NPA pinの器官形成が誘導された。明所で培養したNPA pinは器官形成は誘導されないが茎頂先端の成長は起こる。暗所で培養したNPA pinは茎頂先端の成長が止まっており、IAAラノリンペーストを与えても成長は誘導されないが、サイトカイニンラノリンペーストを与えると先端部成長が誘導され、明所で培養したNPA pinと同じ形状になった。よって、サイトカイニンには光と同じ作用があると考えられる。暗所においてNPAを含まない培地で培養した茎頂にサイトカイニンを与えると茎頂先端の成長が起こらずに器官形成が誘導された。よって、サイトカイニンはオーキシン輸送活性があるときに葉の誘導を引き起こすと考えられる。オーキシンはサイトカイニンの有無に関わらず暗所においてNPA pinのPIN1 の発現とオーキシン量を増加させることから、暗所においてもオーキシンシグナルは伝達されるが、器官が誘導されるためにはサイトカイニンが必要であると考えられる。サイトカイニンは暗所で育成したNPA pinではPIN1 の発現とオーキシン量の増加は見られず、オーキシンシグナルは茎頂先端の成長には関与していないと考えられる。トマトの培養茎頂を用いて行なった実験と同様の処理をシロイヌナズナの花序分裂組織を用いて行なったところ、暗所では新たに形成される花原基数が減少するがサイトカイニン添加によって原基誘導が回復すること、pin1 変異体へのオーキシンの局所投与は明所においては器官形成を誘導させるが暗所では効果が見られないこと、オーキシンとサイトカイニンを同時に局所投与すると暗所でもpin1 変異体の器官形成を誘導することがわかった。サイトカイニンに応答するTCS プロモーターでGFP を発現させた形質転換シロイヌナズナにおいて、GFP蛍光は花序分裂組織や花分裂組織の中心部で見られるが、暗所に移すと蛍光が減少していった。よって、光はサイトカイニンシグナルを活性化することによって分裂組織の活性を制御していると考えられる。明所ではオーキシン生合成に関与しているTAA1 の発現が増加しており、茎頂でのオーキシン生合成には光が必要であることが示唆される。分裂組織幹細胞の維持に関与しているCLV/WUS経路関連遺伝子の発現を見たところ、暗所ではCLV1CLV3 の発現量が増加していたが、WUS の発現量には大きな変化は見られなかった。以上の結果から、光はサイトカイニンシグナルを活性化してCLV1CLV3 の発現を抑制し、さらにオーキシンのシグナル伝達、輸送、生合成を制御して器官形成を誘導するものと考えられる。

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論文)サイトカイニンを介して老化を制御するMYB転写因子

2011-07-25 20:30:03 | 読んだ論文備忘録

AtMYB2 Regulates Whole Plant Senescence by Inhibiting Cytokinin-Mediated Branching at Late Stages of Development in Arabidopsis
Guo et al.  Plant Physiol (2011) 156:1612-1619.
doi:10.1104/pp.111.177022

植物の老化は、茎頂分裂組織の機能停止、器官の老化、腋芽の永続的な成長抑制の3つの主要な過程によって成り立っている。成長の初期過程では腋芽は茎頂から供給されるオーキシンによって、所謂、頂芽優勢により成長が抑制されているが、植物が老化して茎頂が機能を失った際の腋芽の成長を抑える機構については明らかとなっていない。米国 コーネル大学Gan らは、老化過程にあるシロイヌナズナにおいてR2R3 MYBドメインを有する転写因子をコードするAtMYB2 の発現量が増加することに着目し、この転写因子と老化との関係を解析した。AtMYB2 は葉の老化過程において節間の基部のロゼット領域で発現が見られる。T-DNA挿入atmyb2 変異体は、成長初期および葉の老化開始時期においては形態的に野生型と変わりはないが、茎頂の機能が停止する8週目以降になるとatmyb2 変異体の腋芽は成長し始めた。そして12週目になるとatmyb2 変異体は全体が非常に茂り、新しい分枝も形成され、野生型の分枝が80程度であるのに対して、変異体ではおよそ1150の分枝が形成された。また、野生型では4次の分枝まで形成されるのに対して変異体では14次まで形成され、各次に形成される分枝数も野生型より多くなっていた。atmyb2 変異体の分枝の多くなる表現型はサイトカイニン量の上昇によるものではないかと考え、8週目の植物の節間基部の内生サイトカイニン量を調査したところ、ZR型、IPA型どちらのサイトカイニンとも野生型よりも多くなっていた。また、サイトカイニンを不活化するサイトカイニンオキシダーゼAtCKX1をAtMYB2 プロモーター制御下でatmyb2 変異体で発現させたところ、サイトカイニン量、分枝数共に野生型と同程度になった。よって、atmyb2 変異体の分枝の多い表現型はサイトカイニン量の増加によるものであると考えられる。この節間部分でのサイトカイニン量の増加がサイトカイニン生合成の場である根からの供給量の増加によるものなのか、局所的なサイトカイニン生合成の増加によるものなのかを、接木実験により調査したところ、野生型の台木にatmyb2 変異体のつぎ穂をを接いでも茂った表現型となるが、atmyb2 変異体の台木に野生型の接ぎ穂を接いだ場合には分枝は野生型と同等となることがわかった。よって、根で合成されるサイトカイニンが節間でのサイトカイニン量の増加に貢献しているのではない。そこで、シロイヌナズナに9つあるサイトカイニン生合成の初期過程を触媒するイソペンテニルトランスフェラーゼ(IPT)をコードする遺伝子の8週目の植物体節間での発現量を見たところ、atmyb2 変異体ではIPT14568 の発現量が野生型よりも高くなっていた。したがって、局所的なサイトカイニン生合成の高まりがサイトカイニン量の増加をもたらしており、AtMYB2は特定のIPT 遺伝子の発現を負に制御しているものと考えられる。atmyb2 変異体は葉の老化の進行に変化が見られないことから、葉の老化には他の因子も関与していると思われる。

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論文)ジャスモン酸によるPIN2タンパク質の制御

2011-07-22 20:54:38 | 読んだ論文備忘録

Jasmonate modulates endocytosis and plasma membrane accumulation of the Arabidopsis PIN2 protein
Sun et al.  New Phytologist (2011) 191:360-375.
doi: 10.1111/j.1469-8137.2011.03713.x

オーキシン排出キャリアのPIN1、PIN2の細胞内局在は、エンドサイトーシスと構成的循環(constitutive cycling)と呼ばれる小胞輸送を介した細胞膜と細胞内との間の循環によって維持されている。オーキシンはPIN1、PIN2のエンドサイトーシスを阻害して細胞膜への局在を促し、自らの排出を促進することが知られている。さらに最近になってジャスモン酸(JA)がPIN1、PIN2の細胞膜局在を抑制することが報告されている。中国科学院遺伝及び発育生物学研究所Li らは、GFPタンパク質を融合したPIN2(PIN2:GFP)を発現させたシロイヌナズナの芽生え根の表皮細胞でのJAによるPINタンパク質の分布制御機構の解析を行なった。小胞輸送を阻害するブレフェルジンA(BFA)処理をするとBFAボディと呼ばれる細胞内小胞が形成され、そこにPINタンパク質が蓄積するが、5 μMのメチルジャスモン酸(MeJA)の前処理によってPIN2:GFPの蓄積したBFAボディの形成が抑制された。よって、低濃度のMeJAはPIN2:GFPのエンドサイトーシスを阻害していると考えられる。MeJAによるPIN2:GFPのエンドサイトーシスの阻害はcoi1-1 変異体やaxr1-12 変異体では打ち消されてしまうことから、この阻害にはCOI1やAXR1が関与していると考えられる。JAによるPIN2:GFPのエンドサイトーシス阻害にJAによって誘導されたオーキシン合成が関与しているかを調べるために、JAによって発現が誘導されオーキシン生合成に関与している酵素アントラニル酸シンターゼをコードするASA1 の変異体asa1-1 を用いて解析を行なった。MeJAのない状態でasa1-1 変異体でのPIN2:GFPの蓄積したBFAボディの形成は野生型よりも多くなっており、MeJAによるPIN2:GFPのエンドサイトーシス阻害は野生型よりも低下していた。よって、ASA1によって合成されるオーキシンがPIN2:GFPのエンドサイトーシスの阻害に関与していると考えられる。MeJAによるPIN2:GFPのエンドサイトーシス阻害はオーキシン受容体の変異体tir1-1tir1 afb1, 2, 3 四重変異体では野生型よりも低下しており、この阻害はTIR1/AFBを介したオーキシンシグナル伝達が関与していると考えられる。次に高濃度のMeJA(50 μM)を処理をしたところ、細胞膜上のPIN2:GFPが徐々に減少していくことがわかった。MeJAはPIN2 の転写を促進することから、高濃度MeJA処理によるPIN2:GFPの細胞膜からの減少は転写後に起こっているものと思われる。この高濃度MeJAによる細胞膜のPIN2:GFPの減少はcoi1-1axr1-12 変異体では抑制されており、ここにもCOI1とAXR1が関与していることが示唆される。しかしながら、asa1-1 変異体ではMeJAによる細胞膜PIN2:GFPの減少が野生型よりも高まっていた。MeJAによる細胞膜PIN2:GFPの減少はシクロヘキシミド処理をしても影響を受けず、このことからもMeJAの効果は転写後に起こっていることが示唆される。高濃度MeJAは野生型植物の膜結合PIN2:GFP量には殆ど変化をもたらさないが、asa1-1 変異体では膜結合PIN2:GFP量が減少していた。よって、高濃度MeJAはPIN2タンパク質の代謝回転を促進しているものと思われる。asa1-1 変異体と同様にtir1 afb1, 2, 3 四重変異体においても高濃度MeJAによる膜結合PIN2:GFP量の減少が見られることから、JAはオーキシンシグナルとは独立して細胞膜のPIN2:GFP量に影響していると考えられる。高濃度MeJAは細胞膜のPIN1:GFP量を僅かに減少させるが、asa1-1 変異体では僅かに増加させた。しかし、AUX1タンパク質量には影響しないことから、JAはPINタイプのオーキシン排出キャリアのみ制御していると思われる。PIN2タンパク質の細胞内輸送や代謝回転は根の重力屈性に関与していることか知られており、MeJA処理をすることで重力屈性が弱まったが、asa1-1 変異体ではMeJAによる重力屈性がさらに弱くなった。根に重量刺激を与えると重力方向にオーキシンが蓄積する不均等な分布を示すが、MeJA処理をするとオーキシンの不均等分布が妨げられ、その影響はasa1-1 変異体では野生型よりも強くなっていた。以上の結果から、JAはPIN2タンパク質の細胞内分布や代謝回転を制御することでオーキシンの分布に影響を及ぼし、植物の成長や応答を調節していると考えられる。

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論文)β-アミラーゼ様タンパク質による成長制御

2011-07-20 05:24:21 | 読んだ論文備忘録

β-Amylase-Like Proteins Function as Transcription Factors in Arabidopsis, Controlling Shoot Growth and Development
Reinhold et al.  The Plant Cell (2011) 23:1391-1403.
doi:10.1105/tpc.110.081950

シロイヌナズナにはβ-アミラーゼおよびβ-アミラーゼ様タンパク質(BAMs)をコードする遺伝子が9個存在している。これらのBAMタンパク質うち、BAM7(At2g45880)とBAM8(At5g45300)はグリコシル加水分解ドメインに加えてN末端側にBRASSINAZOLE RESISTANT1(BZR1)型転写因子と類似した配列を有するドメインを含んでいる。このBZR1-BAMsをコードする遺伝子は他の高等植物にも見られ、何からの機能があると考えられる。スイス チューリッヒ工科大学Zeeman らは、BAM7、BAM8タンパク質は核に局在すること、葉緑体に局在するβ-アミラーゼ(BAM1、BAM3)の1/1000程度の弱いβ-アミラーゼ活性があることを見出した。よって、BAM7、BAM8は核において何らかの機能を果たしているものと考えられる。BZR1ドメインはDNAとの結合に関与していることから、BAM7、BAM8タンパク質が結合するDNAモチーフの探索を行なったところ、BES1等のbHLH型転写因子の結合するG-boxモチーフ(5'-CACGTG-3')やBZR1がターゲットとしているブラシノステロイド(BR)応答エレメント(5'-CGTG[T/G]G-3')といったシスエレメントが見出され、モチーフのコア配列(5'-CGCGTGTG-3')をBZR1-BAM応答エレメント(BBRE )と命名した。BAM8は遺伝子プロモーターのBBRE 配列を介して遺伝子発現を活性化させる作用があることがわかったが、BAM7にはそのような作用は殆ど見られなかった。BAM7 もしくはBAM8 を過剰発現させた形質転換シロイヌナズナは、BAM7 過剰発現個体の表現型は野生型と同等であったが、BAM8 過剰発現個体は野生型よりもロゼットが小さくなってシュート生重量が減少し、葉柄が短くなり、葉は円形で緑が濃く下偏成長によって上向きに湾曲していた。bam7 およびbam8 機能喪失変異体は形態に野生型との違いは見られなかったが、bam7 bam8 二重変異体は生重量が減少し、野生型よりも葉柄が長く葉身が内向きの湾曲してBAM8 過剰発現個体とは逆の表現型を示した。bam 機能喪失変異体およびBAM8 過剰発現個体のデンプン、ショ糖、グルコース、フラクトース、マルトース含量は野生型と同等であることから、BZR1-BAMは炭水化物代謝には直接には関与せずに、植物の成長に影響しているものと思われる。マイクロアレイ解析の結果、BAM8 過剰発現個体では263遺伝子、bam7 bam8 二重変異体では132遺伝子の発現が野生型と異なっており、これらの遺伝子の多くはBAM8 過剰発現個体とbam7 bam8 二重変異体で逆の変化を示していた。そして、BAM8 過剰発現個体で発現量が増加する遺伝子、bam7 bam8 二重変異体で発現量が減少する遺伝子ではプロモーター領域にBBRE が見られるものが多かった。ATH1アレイにはプロモーター領域500 bpにBBRE を含んでいる遺伝子が312あり、これらの遺伝子の多くはBAM8 過剰発現個体で発現量が野生型よりも高くなっていた。BBRE はG-boxモチーフやBR応答エレメントと配列が類似していることから、ブラシノライド(BL)に応答することが知られている遺伝子についての発現を見たところ、BLによって発現が抑制される遺伝子はBAM8 過剰発現個体では発現量が増加し、BLで発現が誘導される遺伝子はBAM8 過剰発現個体では抑制される傾向にあることがわかった。よって、BZR1-BAMとBRは同じ遺伝子を逆方向に制御していることが示唆される。BAM8 過剰発現個体において発現量が大きく変化している遺伝子には細胞壁代謝に関与するものが含まれており、幾つかのキシログルカンエンドトランスグリコシラーゼ、キシログルカンエンドトランスグルコシラーゼ/ヒドロラーゼ、エクスパンシン様タンパク質をコードする遺伝子の発現量がBAM8 過剰発現個体で抑制されていた。これらの遺伝子の発現抑制はBAM8 過剰発現個体で観察される成長量低下と関連していると考えられる。フラボノイドやフェニルプロパノイドの代謝に関与する遺伝子もBAM8 過剰発現個体では発現量が低下しており、フラボノイドはオーキシン輸送制御に関連していることから、植物の成長にも影響しているものと思われる。転写因子遺伝子では、AUX/IAAタンパク質をコードする遺伝子の発現量がBAM8 過剰発現個体において抑制されていた。BAM8は転写を活性化する作用があるので、BAM8 過剰発現個体で発現が抑制されている遺伝子は直接BAM8の制御を受けているのではなく、BAM8の下流に位置する因子によって制御されいるものと思われる。BAM8 過剰発現個体で発現量が増加しプロモーター領域にBBRE を含んでいる遺伝子には、Swinger(SWN、At4g02020)、Arabidopsis Nac Domain Containing Protein 102(ANAC102、At5g63790)、C2H2タイプzinc fingerファミリータンパク質(ZAT10、At1g27730)、WRKYファミリー転写因子(At2g44745)といった遺伝子発現の制御に関与するタンパク質をコードするものが含まれていた。以上の結果から、BZR1-BAMは植物の成長・発達をBRシグナルとクロストークして制御する因子として機能しているものと考えられる。また、その際にはBAMドメインを介して受容される代謝産物シグナルも関与しているのではないかと思われる。

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植物観察)箱根

2011-07-17 21:59:09 | 植物観察記録

箱根へ行ってきました。今日は天気がよく、富士山がくっきり見えましたし、東には三浦半島と房総半島、南には伊豆大島、西には駿河湾を望むことができました。バイケイソウは7-8分咲きで、森の中に独特の香気を漂わせていました。その他の花としては、リョウブ(Clethra barbinervis )、ヤマブキショウマ(Aruncus dioicus var. kamtschaticus )が咲き始めており、場所によってはヤマボウシ(Benthamidia japonica )がまだ見られました。


今日はくっきりと富士山が見えました


バイケイソウの花が独特の香気を漂わせていました


リョウブの花が咲き始めました。

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論文)SPATULAによる芽生えの成長抑制

2011-07-15 05:32:19 | 読んだ論文備忘録

A DELLA in Disguise: SPATULA Restrains the Growth of the Developing Arabidopsis Seedling
Josse et al.  The Plant (2011) 23:1337-1351.
doi:10.1105/tpc.110.082594

シロイヌナズナSPATULASPT )遺伝子はphytochrome interacting factor(PIF)と高い相同性を示すbHLH型転写因子をコードしており、spt 変異体は赤色光下で子葉が拡大する。SPTは発芽時にジベレリン(GA)生合成酵素をコードするGA3ox の発現を制御していることが報告されている。英国 エジンバラ大学Halliday らは、spt 変異体芽生えをGA生合成阻害剤のパクロブトラゾール(PAC)処理をすると子葉の拡張が起こらなくなること、GA処理によるspt 変異体の子葉の拡張は野生型芽生え子葉では拡張が飽和する濃度でも継続して起こること、SPT を恒常的に発現させた組換え体の子葉は野生型よりも小さく、GA処理をしても大きさの変化が起こらないことを見出した。これらの結果から、SPTはGA量を制御することで子葉の拡張を制御しているのではないと考えられる。そこで、SPTのGAシグナル伝達や応答への関与を調査するためにトランスクリプトーム解析を行なったところ、SPTはGAを介した遺伝子発現に対して抑制的に作用することが示された。そこでGAシグナル伝達に抑制的に作用するDELLAタンパク質の子葉拡張に対する効果を見たところ、DELLAタンパク質も子葉拡張に対して抑制的に作用することがわかった。しかしながら、spt 変異体やSPT を35Sプロモーターで恒常的に発現させた組み換え体芽生えでのGA処理によるDELLAタンパク質の分解速度は野生型と同等であり、SPTはDELLAの分解過程には関与していないと考えられる。そこで、DELLAタンパク質がSPT量もしくはSPT活性を制御しているかを調査したところ、GA処理によってDELLAタンパク質量が減少するとSPT量が徐々に増加していくこと、GA非感受性の安定型DELLA(GAI)タンパク質を生産するgai-1 変異体ではGA処理に関係なくSPTタンパク質の蓄積が強く抑制されていることが明らかとなり、DELLAタンパク質はSPTタンパク質の蓄積に関与していることが示唆される。野生型芽生えをプロテアソーム阻害剤MG132処理をするとSPT量が増加するが、gai-1 変異体芽生えではMG132処理をしてもDELLAタンパク質によるSPTタンパク質の蓄積に対する抑制効果が残っており、gai-1 はプロテアソームを介してSPT量を制御しているのではないと思われる。35SプロモーターでSPT を発現させた個体でもgai-1 変異体におけるSPTタンパク質量の制御が見られることから、この制御は転写後制御であると考えられる。gai-1 変異のSPT 転写産物とSPTタンパク質の蓄積に対する効果は類似しており、DELLAタンパク質はSPT 転写産物の蓄積を抑制する作用があるものと思われる。spt 変異体は黄化芽生えにおいても子葉の拡張が観察されるので、SPTは光照射、すなわちphyBの作用とは独立して機能しているものと考えられる。しかし、phyB-9 変異は赤色光下でのspt 変異による子葉拡張を打ち消す作用があり、これは、phyBによるDELLAタンパク質量制御が関与しているものと思われる。della4gai-t6 rga-t2 rgl1-1 rgl2-1 )変異体にspt 変異が加わった芽生えをPACを添加して赤色光下で育成すると子葉がさらに拡張しバイオマスも増加した。よって、DELLAとSPTは機能は重複しているが独立して作用すると考えられる。SPTはシロイヌナズナATH1ゲノムアレイの6.2%の遺伝子の発現を制御しており、DELLAによる制御を受けているとされている遺伝子の11.6-18.3%がSPTによる制御も受けていた。このうち29%はSPTとDELLAで逆の制御を受け、64%は同じ方向の制御を受けていた。以上の結果から、SPTとDELLAは独立して共通のターゲット遺伝子を制御することで成長を負に制御していると考えられる。SPTはまたDELLAによる負の制御を受けており、SPTとDELLAのバランスは光シグナルによって調節されている。

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論文)アブシジン酸を必要としないPYLタンパク質

2011-07-11 23:09:12 | 読んだ論文備忘録

The Molecular Basis of ABA-Independent Inhibition of PP2Cs by a Subclass of PYL Proteins
Hao et al.  Molecular Cell (2011) 42:662-672.
doi:10.1016/j.molcel.2011.05.011

PYR1/PYL/RCARタンパク質(PYLs)はアブシジン酸(ABA)受容体として機能しており、ABAが結合するとPYLsはタンパク質フォスファターゼ2C(PP2C)と複合体を形成してPP2Cの活性を阻害する。シロイヌナズナには14のPYLs(PYR1、PYL1-13)があるが、一部のPYLsはABAがなくてもPP2Cと結合して活性を阻害することが報告されている。また、PYR1、PYL1、PYL2はABAの受容に関係なく二量体を形成すること、ABAの結合したPYLはPP2Cと1:1の比率で複合体を形成することが報告されている。そこで、中国 精華大学のYan らは、各PYL(PYL7、PYL11、PYL12、PYL13を除く)の生化学的特性について解析を行なった。調査したPYLはすべてABA存在下で4種のPP2C(ABI1、HAB1、HAB2、PP2CA)のホスファターゼ活性を阻害し、PYL5、PYL6、PYL8、PYL9、PYL10は4種のPP2CをABA非存在下においてもPP2Cを阻害した。そこで、PYL10に着目して詳細な解析を行なったところ、PYL10はABI1との間でABA非存在下で安定した複合体を形成することがわかった。ABA非存在下でのPYL10-HAB1複合体の結晶構造を解析したところ、全体の構造が他のPYL-PP2C複合体と類似しており、PYL10のスイッチループCL2がABAと結合したPYL2と同じ配置となっていた。よって、PYL10はABAが存在しなくてもPP2Cと安定した複合体を形成すると考えられる。超遠心分析や光散乱分析から、PYR1、PYL1、PYL2は溶液中で二量体を形成しており、PYL4、PYL5、PYL6、PYL8、PYL9、PYL10は単量体であることがわかった。よって、PYLsの二量体形成がABA非存在下でのPP2Cの阻害を妨げていることが推測される。過去に行われたアミノ酸置換変異によるPYL2の二量体形成喪失実験とPYL10とPYL2のアミノ酸配列の比較から、アミノ酸置換をしたPYL2を作出したところ、88番目のIleをLysに置換(I88K)すると溶液中で単量体となりPYL10ほどではないがABA非存在下でもPP2Cを阻害すること、87番目のValをLeuに置換(V87L)するとCL2の配置が閉じた状態をとりやすくなりPYL2-I88Kと同様に恒常的なPP2C阻害を示すこと、PYL2-V87L/I88Kの二重変異は単独のアミノ酸置換よりも強い阻害効果を示すことがわかった。以上の結果から、PYLsには二量体を形成する/しないで2つのサブクラスに分けられ、PYL10のような単量体を形成するPYLsはスイッチループCL2にPP2Cとの結合に適合した配置をとる柔軟性があるためにABAがなくてもPP2Cを阻害するが、二量体を形成するPYL2のタイプはCL2の配置が変化して単量体となるためにはABAが必要で、単量体となることでPP2Cを阻害すると考えられる。

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論文)ファルネソール代謝とアブシジン酸シグナル

2011-07-06 19:18:41 | 読んだ論文備忘録

Farnesol kinase is involved in farnesol metabolism, ABA signaling and flower development in Arabidopsis
Fitzpatrick et al.  The Plant Journal (2011) 66:1078-1088.
doi: 10.1111/j.1365-313X.2011.04572.x

ファルネシル二リン酸(FPP)はイソプレノイド生合成における中間代謝産物であり、セスキテルペンやスクアレン合成の基質となっている。FPPはファルネシルジフォスファターゼによって脱リン酸化されファルネソールとなるが、ファルネソールには毒性があるため、リン酸化されてファルネシルリン酸、FPPとなる。米国 アイダホ州立大学Crowell らは、シロイヌナズナにおいてファルネソールをリン酸化するファルネソールキナーゼについて解析を行ない、At5g58560のコードするタンパク質がファルネソールキナーゼであることを突き止めた。この酵素はファルネソールに加えてゲラニオールやゲラニルゲラニオールも基質とするが、ファルネソールに対する特異性の高いプレニルアルコールキナーゼであった。この遺伝子はTAIRにFORK という名前で登録されていた。FORK 遺伝子にT-DNAが挿入された変異体にはファルネソールキナーゼ活性がないことから、FORK はシロイヌナズナゲノムにおいて唯一のファルネソールキナーゼ遺伝子であると考えられる。fork 変異体種子はアブシジン酸(ABA)による発芽阻害が高くなっており、ABAが存在しない条件下においても発芽に遅れが見られた。よって、fork 変異体はABAに対する応答性が高くなっているものと思われ、FORK のコードするタンパク質はABAシグナル伝達の負の制御因子として機能していることが示唆される。fork 変異体は水ストレス条件下で心皮数が増加するといった形態異常を示した。FORK 遺伝子はシロイヌナズナにおいて恒常的に発現しており、特に花での発現量が高くなっていた。したがって、fork 変異体の花の分裂組織はABAに対する応答性が高まり、非生物ストレスに対して異常な応答をするものと思われる。FORK の発現はABA、塩ストレス、浸透圧ストレスによって抑制された。よって、FORKはABAシグナルの負の制御因子として機能し、細胞内のABA量が増加すると遺伝子発現が抑制されることで細胞のABA応答性を高めるフィードバックループを形成していると考えられ、ファルネソール代謝と非生物ストレスや花の発達には関連があるものと思われる。

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