Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)シュート切除による根の緑化

2017-05-31 13:17:38 | 読んだ論文備忘録

Shoot Removal Induces Chloroplast Development in Roots via Cytokinin Signaling
Kobayashi et al. Plant Physiology (2017) 173:2340-2355.

doi:10.1104/pp.16.01368


東京大学小林らは、以前に、シロイヌナズナの根はシュートから輸送されるオーキシンによって葉緑体の分化が抑制されており、シュートを切り取ることで葉緑体を発達させることを見出した。この根での葉緑体の発達にはサイトカイニンが関与しており、根をサイトカイニン処理すると光合成関連遺伝子の発現量が増加する。しかしながら、サイトカイニンによる根の緑化について詳細な分子機構は明らかとなっていない。そこで、シュート除去に応答した根でのサイトカイニンシグナルの活性化について解析を行なった。サイトカイニンシグナル伝達の正の制御因子であるタイプB ARABIDOPSIS RESPONSE REGULATOR(ARR)の機能喪失変異体の解析から、シュート除去後の根でのクロロフィル(Chl)蓄積にタイプB ARRが関与していることが示された。傷害ストレス応答において、タイプB ARRを介したサイトカイニンシグナル伝達は、転写因子WOUND INDUCED DEDIFFERENTIATION1(WIND1)によって活性化されることが知られている。WIND1にSUPERMANのサプレッションドメイン(SRDX)を付加したキメラタンパク質をWIND1 プロモーター制御下で発現させた系統は、シュート除去した根のChl蓄積量が野生型よりも低くなった。よって、WIND1は根の緑化に関与していることが示唆される。シュート除去した根では、光合成関連の核コード遺伝子(LHCA4LHCB6CHLHRBCS )やプラスチドコード遺伝子(psaApsbArbcL )の発現量が増加していた。また、葉緑体分化に関与している核コード転写因子のクラスB GATA転写因子(GNCGNL)、GLK転写因子(GLK1GLK2)の遺伝子のうち、GNL はシュート除去によって発現量が大きく増加し、GNC は適度に増加したが、GLK1GLK2 は有意な増加を示さなかった。プラスチドでの転写に関与しているrpoB やシグマ因子(SIG)遺伝子の発現量もシュート除去によって増加した。光合成組織では葉緑体分化と共にパーオキシゾームやミトコンドリアも機能転換する。シュート除去した根では光呼吸関連遺伝子の発現量が増加し、特にミトコンドリアのグリコール酸オキシダーゼをコードする遺伝子の発現量が大きく増加した。根で特異的に発現する遺伝子は、シュート除去に応答した発現パターンの変化を示さなかった。タイプB ARRのarr1 arr12 二重変異体では、幾つかの光合成関連遺伝子の発現量が増加し、Chl蓄積量も僅かに高くなるが、シュート除去したarr1 arr12 二重変異体での光合成関連遺伝子の発現量は野生型よりも低く、プラスチドでの転写に関与する遺伝子の発現量は増加せず、ミトコンドリアやパーオキシゾームの機能に関与する遺伝子の発現量は変化しなかった。したがって、ARR1とARR12はシュート除去した根で葉緑体分化する際の転写誘導に関与していると考えられる。シュート除去した根の葉緑体では、光化学系の能力を示す各種指標がより葉に近いものへと向上しており、この光合成効率の変化にはARR1とARR12を介したサイトカイニンシグナルが関与していた。無傷のgnc gnl 二重変異体の根のChl含量は野生型と同等だが、シュート除去後のChl増加量が野生型よりも低かった。よって、GNCとGNLはシュート除去に応答した根でのChl蓄積に関与している。glk1 glk2 二重変異体の無傷の根のChl含量は野生型よりも低く、シュートを除去した根のChl含量も野生型よりも低いが、シュート除去によるChl増加の程度は両者で同等であった。よって、GLK転写因子はChl蓄積において無傷の根でもシュート除去した根でも恒常的に機能していることが示唆される。GNCGNL を過剰発現させた植物の無傷の根はChl蓄積量が大きく増加していた。シュートを切除したgnc gnl 二重変異体の根でも光合成関連遺伝子の発現量は増加したが、野生型と比べると増加量は少なかった。一方、GNL 過剰発現個体では、無傷の根における光合成関連遺伝子の発現量が野生型よりも高くなっていた。根のChl蓄積には光シグナルに関与する転写因子LONG HYPOCOTYL5(HY5)が必須であり、hy5 変異体の根はシュートを切除してもChlを蓄積しなかった。また、hy5 変異体でGNC もしくはGNL を過剰発現させても根のChl含量は増加しなかった。したがって、HY5はクラスB GATA転写因子による根の緑化に必要であることが示唆される。シュート切除したglk1 glk2 二重変異体の根の光化学系Ⅱ実効量子収率(YⅡ)は野生型と同等であることから、GLKは根の光合成系構築には関与していないと考えられる。gnc gnl 二重変異体もシュート切除後にYⅡが増加したが、増加の程度は野生型よりもやや低かった。GNCGNL を過剰発現させた系統はYⅡが増加したが、GLK1 を過剰発現させた系統ではYⅡに変化は見られなかった。したがって、クラスB GATA転写因子は根の光合成の制御に関与していると考えられる。オーキシンシグナル阻害剤のp-クロロフェノキシイソ酪酸(PCIB)処理は、無傷の根のChl含量を増加させた。この増加は、ahk2 ahk3 二重変異体やarr1 arr12 二重変異体でも見られた。したがって、オーキシンはタイプB ARRを介したサイトカイニンシグナルとは独立して根の緑化を制御している。シュート切除した根へのオーキシン処理は、psbAGOX1 の発現を抑制し、LHCB6CHLHrbcL の発現を減少させた。また、GNL の発現量増加を阻害した。よって、オーキシンはシュート切除した根での遺伝子発現に強く影響していることが示唆される。オーキシンはシュート切除した根の光合成活性に対しても抑制的に作用した。以上の結果から、シュートを切除した根では、傷害シグナルの下流に位置するARR1とARR12を介したサイトカイニンシグナルが機能して葉緑体の発達に関与する遺伝子が活性化され、根の緑化や光合成能力の活性化が誘導されると考えられる。

 

東京大学のプレスリリース

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植物観察)箱根

2017-05-28 21:55:59 | 植物観察記録

箱根へバイケイソウの観察に行ってきました。今年花成した個体は花序が伸び始めました。花成しなかった個体との草丈の差がまだそれほど大きくないので、正確な花成個体数を数えられてはいませんが、調査している3ヶ所のの群生地のうち1ヶ所は花成個体数が昨年の3倍程度あり、残り2ヶ所は昨年と同程度でした。昨年もほぼ同じ時期(2016年5月29日)に観察しており、その時の写真を見ると、花成しなかった個体は偽茎が倒れ始め、葉に褐変部位が見られるようになり、バイケイソウハバチの食痕が確認されるようになっていましたが、今年はまだ全ての個体がピンと立っていて青々しており、バイケイソウハバチの食痕も確認されませんでした。今年は植物も虫も遅れ気味(昨年が早かった)なのでしょうか。

 

まだ全体的に青々しており、枯れ始めた個体は見られない

 

花成した個体は花序が伸長し始めた

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論文)サリチル酸による根の成長制御

2017-05-22 22:00:08 | 読んだ論文備忘録

ABNORMAL INFLORESCENCE MERISTEM1 Functions in Salicylic Acid Biosynthesis to Maintain Proper Reactive Oxygen Species Levels for Root Meristem Activity in Rice
Xu et al. Plant Cell (2017) 29:560-574.

doi:10.1105/tpc.16.00665


中国農業科学院 農業資源・農業区画研究所のYi らは、イネの根分裂組織の活性に影響する遺伝子を同定するために、γ線照射によって人為的突然変異を生じた30000のイネ集団の中から根の短い変異体を単離し、abnormal inflorescence meristem1aim1 )と命名(シロイヌナズナでの同一遺伝子の変異体名に由来)して解析を行なった。aim1 変異体幼苗の根および不定根は野生型よりも短いが、側根の長さは正常であった。この表現型は根の成長が遅いことが原因となっており、根端の構造は正常であるが、分裂組織が野生型よりも小さくなっていた。チミンアナログEdUの取込みやG2-M期マーカーCYCB1;1 の発現量から、aim1 変異体は根の分裂活性が低下していることが確認された。aim1 変異は劣性の変異で、Os02g17390の開始コドンから202 bpの位置に26 bpの欠失があり、68番目のアミノ酸残基以降のコドンが変化し未成熟終止コドンが形成されていた。Os02g17390は3‐ヒドロキシアシル‐CoAデヒドロゲナーゼをコードしており、AIM1タンパク質はパーオキシゾームに局在していた。また、発現の組織特異性を見ると、根端部では根冠、表皮や中心柱で発現し、静止中心では発現していなかった。根の成熟領域では、根毛、外皮、中心柱、内皮、皮層において発現しており、地上部では葉において恒常的に強く発現していた。aim1 変異体のジャスモン酸(JA)量は野生型の15%程度であったが、変異体にJAを添加しても表現型は回復しなかった。aim1 変異体の根はサリチル酸(SA)量が減少しており、イネにおけるSA生合成経路の中間代謝産物である桂皮酸(CA)量が増加し、安息香酸(BA)量が減少していた。よって、AIM1はSA生合成経路においてCAのβ酸化によるBAの生成を触媒していると考えられる。aim1 変異体にSAを添加することで根の表現型が回復したが、野生型に添加した場合には添加量に応じて根の伸長が阻害された。したがって、AIM1はイネの根分裂組織活性を維持するために必要なSAの生合成に関与していると考えられる。aim1 変異体と野生型との間で根端部の遺伝子発現プロファイルを比較すると、SA処理をしていない条件で3555遺伝子に発現量の差が見られ、2821遺伝子の発現量がaim1 変異体で増加し、734遺伝子の発現量が減少していた。これらの遺伝子の90%(発現量が増加した2533遺伝子と減少した709遺伝子)は、aim1 変異体をSA処理することによって野生型と同等の発現量に回復した。AIM1に発現が依存している709遺伝子の遺伝子オントロジー(GO)をみると、グリコシル基転移、キシログルカン:キシログルコシルトランスフェラーゼ活性に関与するタンパク質をコードする遺伝子が多く含まれていた。これらの遺伝子は細胞壁形成に関与しており、細胞分裂にとって重要であると思われる。幾つかのCYCLIN 遺伝子の発現もAIM1に依存しており、SA処理をしていないaim1 変異体で発現量が減少し、SA処理をすることで発現量が野生型と同等になった。このことから、SAは根の分裂組織活性を正に制御していることが示唆される。SAは植物の防御応答に関与する植物ホルモンであり、aim1 変異体では幾つかのPATHOGENESIS-RELATEDPR )遺伝子の発現量が増加し、この増加はSA処理によって抑制された。AIM1が発現を抑制している(aim1 変異体で発現量が高く、SA処理によって野生型と同等になる)2533遺伝子のGOをみると、酸化還元酵素、グルタチオントランスフェラーゼ活性、抗酸化に関与する遺伝子が多く含まれていた。したがって、aim1 変異体でのSA生合成の欠失は、酸化還元や活性酸素種(ROS)除去に関与する遺伝子の発現に影響していることが示唆される。例えば、aim1 変異体の根ではROSのスカベンジャーとして機能するMETALLOTHIONEINをコードする遺伝子やCATALASEをコードする遺伝子の発現量が野生型よりも高くなっており、SA処理をすることで発現量が減少した。ALTERNATIVE OXIDASE(AOX)はミトコンドリアのROSを抑制する酵素で、イネAOX 遺伝子プロモーター制御下でGUSレポーターを発現するコンストラクト(ProAOX1a:GUS )を導入したaim1 変異体の根端は、野生型よりもGUS発現が強く、この発現はSA処理によって抑制された。したがって、aim1 変異体のSA蓄積量の減少は酸化還元やROS除去に関与する遺伝子の発現量を増加させており、SAはこれらの遺伝子を負に制御して根端部のROS蓄積に影響していると考えられる。aim1 変異体の根端部はROS量が野生型よりも少なくなっていた。しかしながら、ROS生成に関与しているNADPH oxidase 遺伝子の発現量に変化は見られなかった。よって、AIM1は酸化還元やROS除去に関与する遺伝子の発現を調節することで根端のROS量を維持していると考えられる。aim1 変異体にSAを添加することでROS蓄積が回復した。したがって、AIM1はSA生合成を調節することで酸化還元やROS除去に関与する遺伝子の発現を抑制し、ROS蓄積を促進していることが示唆される。野生型植物を抗酸化剤のアスコルビン酸やグルタチオンで処理すると、根端でのROSの蓄積と根の成長が抑制された。また、この根の成長抑制は根分裂組織活性の低下によるものであった。したがって、根のROS量の減少は根分裂組織活性を阻害することが示唆される。また、aim1 変異体を過酸化水素処理することで根の伸長が促進された。これらの結果から、根のAIM1は、酸化還元やROS除去に関与する遺伝子の発現を抑制するSAの生合成に必要であり、このことによってROS蓄積量が増加して根分裂組織活性が促進されると考えられる。WEKY62WRKY76 はSA処理によって発現が誘導され、PR遺伝子の発現を抑制している。aim1 変異体の根でのWRKY62WRKY76 の発現量の発現量は野生型よりも低いが、SA処理によって発現量が増加し、発現量は野生型とaim1 変異体で同等となった。よって、aim1 変異体でのSA生合成の減少は、WRKY62WRKY76 の発現量低下を引き起こしている。RNAiでWRKY62WRKY76 をノックダウンした系統は、ROSの蓄積量が減少し、主根が短くなり、細胞周期関連遺伝子の発現量が減少していた。しかし、aim1 変異体と異なり、この系統のSA含量は減少しておらず、野生型よりも僅かに高くなっていた。したがって、aim1 変異体での根の成長低下は、SA蓄積量の減少によってWRKY62WRKY76 の発現量が低下したことが関連していると思われる。以上の結果から、イネの根におけるサリチル酸生合成は、酸化還元や活性酸素種除去に関与する遺伝子の発現を抑制することで活性酸素種の量を維持し、根の分裂組織の活性を制御していると考えられる。そして、サリチル酸による酸化還元や活性酸素種除去関連遺伝子の発現抑制には、転写抑制因子のWEKY62とWRKY76が関連していると思われる。

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論文)DNAのメチル化と交叉適応

2017-05-16 05:39:57 | 読んだ論文備忘録

Cold acclimation alters DNA methylation patterns and confers tolerance to heat and increases growth rate in Brassica rapa
Liu et al. Journal of Experimental Botany (2017) 68:1213-1224.

doi:10.1093/jxb/erw496

DNAのメチル化といったエピジェネティックな修飾は、植物の非生物ストレスに対する適応に関係している。あるストレスに暴露された植物は、他のストレスに対して抵抗性を示し、この現象は交叉適応と呼ばれている。しかしながら、その機構は明らかとなっていない。中国 南京農業大学のHou らは、2週間4℃処理をして低温適応(CA)させたチンゲンサイ(Brassica rapa subsp. chinensis)と通常の温度条件で育成した対照(CK)についてメチル化DNA免疫沈降シークエンシング(MeDIP-seq)を行ない、CKで19001、CAで19589のメチル化領域を見出した。メチル化領域はCK、CA共にコード領域(CDS)の2k上流で多く見られ、次いで転写終結点から2k下流に多く、イントロンには少なかった。CAとCKの間でメチル化が異なる領域が1562箇所あり、その6割は2k上流とCDSで見られた。また、CKと比較してCAにおいてメチル化されている遺伝子の方が脱メチル化されている遺伝子よりも多かった。CAにおいてメチル化が増加している遺伝子のオントロジー(GO)を見ると、アブシジン酸グルコシルトランスフェラーゼ活性のものが含まれており、メチル化が減少した遺伝子はGTPase活性とリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性のカテゴリーものが多く見られた。また、KEGG pathwayデータベースでは、CAにおいてメチル化が増加した遺伝子はタンパク質輸送と相同組換えの経路に関与するものが見られ、メチル化が減少した遺伝子はファゴソーム、クエン酸回路、光合成による炭素固定、二次代謝産物生合成、ピルビン酸代謝の5つの経路に関連するものが含まれていた。リンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性と炭素固定に関与する遺伝子は、CAにおいて2k上流領域でメチル化が減少していた。CKとCAで2k上流のメチル化が異なる39遺伝子について遺伝子発現量を調査したところ、9遺伝子について発現量の変化が見られ、4遺伝子(BramMDH1BraKAT2BraSHM4Bra4CL2 )は発現量が増加していた。DNAのメチル化は、DNAメチルトランスフェラーゼMET1によって触媒されている。CAで発現量が増加した4遺伝子を自身のプロモーターで発現制御するミニ遺伝子をシロイヌナズナの野生型もしくはmet1 変異体に導入して発現量を比較したところ、met1 変異体での発現量は野生型での発現量よりも高くなっていた。そしてミニ遺伝子プロモーターのメチル化レベルはmet1 変異体よりも野生型の方が高くなっていた。したがって、プロモーター領域のメチル化は4遺伝子の発現量変化に貢献していると考えられる。野外試験の結果、CAはCKと比較して夏期の成長率が高く、耐暑性を示した。CAの葉は、CKの葉よりも電解質の漏れ(EL)が少なく、マロンアルデヒド(MDA)含量が低くなっていた。よって、CAはCKよりも耐暑性が高いことが示唆される。このCAの耐暑性の強化は熱ショック因子(Hsf)や熱ショックタンパク質(Hsp)の発現量の増加によるものではなかった。おそらくCAは光合成や炭素固定能力が高いことで成長率が高くなっているものと思われる。CAの葉はCKの葉よりも有機酸濃度が高い。有機酸は非生物ストレスとの関連が高いことから、CAでの高有機酸濃度は耐暑性に関与していると考えられる。DNAメチル化阻害剤のAza処理をするとBramMDH1BraKAT2BraSHM4Bra4CL2 のDNAメチル化量が減少し、転写が促進された。Aza処理はチンゲンサイのバイオマスを増加させたが、熱ショック後の生存率に対照との差異は見られなかった。また、Aza処理は有機酸濃度に影響しなかった。これらの結果から、DNAの脱メチル化単独では耐暑性の強化には不十分であると考えられる。CAで発現量が増加する4遺伝子のうち、BramMDH1 は有機酸、葉の呼吸、植物の成長、アルミニウム耐性に関与していることが報告されている。BramMDH1 が耐暑性に関与しているかを調査するために、BramMDH1 を35Sプロモーター制御下で恒常的に発現するシロイヌナズナを作出して解析を行なったところ、この形質転換体は耐暑性が高まり、バイオマスが増加し、熱ストレス下においてELやMDA含量の減少、有機酸と光合成の増加、暗呼吸の減少が見られた。よって、BramMDH1 は耐暑性や成長において重要であることが示唆される。低温適応したチンゲンサイはBramMDH1 発現量が増加して耐暑性が高まるが、Aza処理したチンゲンサイはBramMDH1 発現量が増加しても耐暑性も有機酸量も増加しなかった。CAではDNAのメチル化と脱メチル化の両方が見られることから、DNAのメチル化によって有機酸の増加に負に作用する遺伝子の発現が抑制され、このことがCAでの耐暑性強化に必要であると推測される。以上の結果から、DNAのメチル化状態の変化が交叉適応をもたらしていると考えられる。

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植物観察)箱根

2017-05-14 22:03:29 | 植物観察記録

箱根へバイケイソウの観察に行ってきました。この時期になると、花成する個体では13、14枚目の葉に包まれた花序が偽茎の中から出てくるようになります。そのような花成個体の数は昨年と比較すると同程度かやや多いように見受けられました。ですが、この程度の数では今年は一斉開花年とは言えません。他の地域ではどうなのでしょうか。

バイケイソウは草丈が70cm程度になり、花成個体は何となく分かるようになってきました

 

花成個体では13、14枚目の葉に包まれた花序が伸長を始めました

 

この3株は同じ親が花成した後に出来た子ラメットだと思われますが、花成しているのはそのうちの奥の2株です。遺伝的なバックグラウンドと生育環境が同じであっても花成する個体としない個体があるということは、環境シグナル以外にも、これまでに蓄積した資源量等の要因が花成に影響しているということなのでしょうか。でも、両者の個体バイオマスが大きく異なるようには見受けられない。

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論文)花の概日リズムと授粉効率

2017-05-09 05:50:38 | 読んだ論文備忘録

Fitness consequences of altering floral circadian oscillations for Nicotiana attenuata
Yon et al. Journal of Integrative Plant Biology (2017) 59:180-189.

doi: 10.1111/jipb.12511

花の開花/閉花と香りの放出は、送粉者の活動と同調しており、概日時計による制御を受けている。しかしながら、概日時計による花の周期変動が植物の繁殖にどの程度貢献しているのかは明らかではない。ドイツ マックス・プランク化学生態学研究所Baldwin らは、野生タバコ(Nicotiana attenuata)を用いて、概日リズムと植物繁殖との関係を解析した。N. attenuata の花は、生息環境において夜行性スズメガと昼行性のハチドリが送粉者となっている。多く花は夜間に開花して、花蜜の生産と花の主要な揮発性物質でスズメガを誘引するベンジルアセトン(BA)を放出する。そして翌朝には閉花する。一部の花は、開花日の夜に開花しないで揮発性物質を放出せずに翌朝に開花する。このような朝開花の花は、食稙者の食害を受けた植物で多く見られ、昼行性の送粉者が訪花する。また、N. attenuata の花は、垂直方向の運動をし、花器官が発達中は40°上向きだが、開花初日の朝には90°下向きとなる。そして夕暮れ前に上向きとなり、花冠から香りを発する。この運動は長日条件下では2-3日繰り返される。花蜜の蓄積は2日間継続し、主に夕方から夜にかけて分泌される。花の角度を+45°、0°、-45°に固定して野生のタバコスズメガに授粉させたところ、+45°では65%の朔果が成熟し、0°では35%が成熟したが、-45°では朔果が成熟せず種子が得られなかった。したがって、タバコスズメガによる授粉の成功は花の角度に依存していることが示唆される。次に、概日時計遺伝子をRNAiでサイレンシングさせた個体を用いて概日リズムの生態学的な効果について解析した。LATE ELONGATED HYPOCOTYLELHY)をサイレンシングさせた個体(irLHY)の花は、開花、花の運動、香りの放出が対照よりも2時間早くなった。ZEITLUPEZTL)をサイレンシングさせた個体(irZTL)は、開花が不完全で香りを放出せず、運動が鈍くなっていた。TIME OF CAB EXPRESSION1TOC1)をサイレンシングさせた個体(irTOC1)は、すべてのリズムが対照と同等であった。また、irLHYとirZTLの花は花蜜量が対照よりも多くなっていた。それぞれのサイレンシング個体の花を除雄し、タバコスズメガによって野生型の花粉を異花授粉させたところ、irZTLで成熟した朔果数がやや減少したが、他は対照と同程度であった。また、朔果あたりの種子数には有意な差は見られなかった。次に、対照とサイレンシング個体とを並べて異花授粉させたところ、irZTLは成熟した朔果が対照の半分程度になり、朔果あたりの種子数も減少した。irTOC1では成熟朔果数も朔果あたりの種子数も対照と同程度であった。一方、irLHYは成熟朔果が対照の2倍になった。以上の結果から、野生タバコの花が夜間に上向きであることがタバコスズメガによる異花授粉を高めており、これはガの口吻がしっかりと花の底に達し花蜜が吸いやすいためであると考えられる。また、概日時計は、タバコスズメガを誘引すように花の向きを変化させ、異花授粉を高めていることが示唆される。

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論文)送粉者による植物の進化

2017-05-03 05:16:39 | 読んだ論文備忘録

Real-time divergent evolution in plants driven by pollinators
Gervasi & Schiestl  Nature Communications (2017) 8:14691

DOI: 10.1038/ncomms14691

花粉媒介生物の多様性は花の多様性をもたらす主要な要因であると考えられている。しかしながら、この過程の進化に及ぼす影響についての知見は少ない。スイス チューリッヒ大学Schiestl らは、温室内でアブラナ(Brassica rapa)をセイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)による授粉、ホソヒラタアブ(Episyrphus balteatus)による授粉、人工授粉を3反復で9世代行ない、その後反復間で交雑して得た11世代目を用いて植物の進化的変化を解析した。その結果、セイヨウオオマルハナバチにより授粉されたアブラナは、草丈が高くなり、花弁の紫外線反射領域が拡大し、花からの香りの放出量が増加した。二者選択試験において、セイヨウオオマルハナバチはホソヒラタアブの授粉を繰り返した植物よりもセイヨウオオマルハナバチが授粉した植物を好んだ。授粉試験開始時点で花蜜のない植物はなかったが、世代を進めるにつれてセイヨウオオマルハナバチが授粉した植物に花蜜のない植物が増加していった。花蜜のない植物は、多くの形質について花蜜のある植物との差異はないが、花蜜のない植物は開花した花数が少なく、花弁が小さく、メチル安息香酸とインドールが少なく、酢酸(Z)-3-ヘキセニルと2-アミノベンズアルデヒドが増加していた。ホソヒラタアブが授粉した植物は、実験開始の時点でセイヨウオオマルハナバチが授粉した植物よりも稔性がかなり低かったが、世代を進めるにつれて稔性が高くなっていった。この稔性の上昇は、送粉者の訪花回数の増加によるものではなく、植物の自家受粉能力が高まったことによるものであると考えられ、ホソヒラタアブが授粉した植物は雌蕊が短くなる傾向が見られた。また、ホソヒラタアブが授粉した植物の花は、サリチル酸メチル、p-アニスアルデヒド、インドールの放出量が減少し、ベンジルニトリルが増加していた。さらに、ホソヒラタアブが授粉した植物は草丈が低くなり、開花が遅延した。ホソヒラタアブは、ホソヒラタアブが授粉した植物とセイヨウオオマルハナバチが授粉した植物のどちらかを好むということはなかった。以上の結果から、花粉媒介生物環境の変化は生態系機能に影響するだけでなく、植物の形質や交配様式の進化にも大きく影響を及ぼすことが示唆される。

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