goo blog サービス終了のお知らせ 

Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)避陰反応における青色光シグナルの関与

2017-01-29 11:41:29 | 読んだ論文備忘録

Shade Promotes Phototropism through Phytochrome B-Controlled Auxin Production
Goyal et al. Current Biology (2016) 26:3280-3287.

DOI: 10.1016/j.cub.2016.10.001

Integration of Phytochrome and Cryptochrome Signals Determines Plant Growth during Competition for Light
de Wit et al. Current Biology (2016) 26:3320-3326.

DOI: 10.1016/j.cub.2016.10.031

Dispatches
Photomorphogenesis: Plants Feel Blue in the Shade
Keara A. Franklin Current Biology (2016) 26:R1275-R1276.

DOI: 10.1016/j.cub.2016.10.039

植物は様々な環境シグナルを受けて周囲の植物の陰になることを避けようとしている。植物が他植物の影にならぬように伸長や屈曲をする際に、赤色/遠赤色光シグナルに加えて青色光シグナルも関与していることを示す論文がCurrent Biology 2016年12月19日号に2報出た。

スイス ローザンヌ大学Fankhauser ら[Current Biology (2016) 26:3280-3287.]は、シロイヌナズナの脱黄化した緑の芽生えに青色(B)光と赤色(R)もしくは遠赤色(FR)光を同じ方向から同時に照射し、B光に応答した屈光性がどう変化するかを見た。その結果、R光は屈光性を阻害し、FR光は胚軸の屈曲を強めることがわかった。自然環境では、植物はR/FR比を周囲の植物の認識に利用している。そこで、B光を芽生えの横から照射し、R/FR光を上から照射して屈光性を見たところ、この場合も高R/FR光は屈曲を阻害し、低R/FR光は屈曲を促進した。したがって、青色光による屈光性はR/FR比による調節を受けていると考えられる。フィトクロムやフォトトロピンの各種変異体で同様の試験を行ったところ、phot1 変異体とphot1 phot2 二重変異体は照射するR/FR光に関係なくB光に応答しなかったが、phot2 変異体のB光応答性は野生型と同等であった。したがって、緑色芽生えの胚軸屈曲はphot1が制御していることが示唆される。フィトクロムの変異体についても同様の試験を行なったところ、phyA 変異体の屈曲の変化は野生型と同等で、phyB 変異体とphyA phyB 二重変異体はR/FR光照射による屈曲の制御が見られなくなっていた。また、高R/FR光を照射したphyB 変異体と低R/FR光を照射した野生型のB光応答性は同程度の強度があった。これらの結果から、phyBはphot1に応答した屈光性を照射されるR/FR光に応じて調節していると考えられる。変異体の解析から、フォトトロピンのシグナル伝達に関与しているNPH3や、phyBの下流において避陰応答を促進しているPIF4/5/7は、緑色芽生えの屈光性に関与していることがわかった。PIFはYUC2YUC5YUC8YUC9 の発現を制御することでオーキシン生産を調節しており、屈光性においてもPIFはこれらのYUC 遺伝子の発現を制御することで緑色芽生えの胚軸屈曲を制御していた。これら一連の実験は実験室内で単色光源を用いて実施したものなので、phyB 変異体とpif4 pif5 pif7 三重変異体について、野外で丈の高い草で陰を作り屈光性を調査した。その結果、室内実験の結果と同様に、野生型とphyB 変異体は周囲の植物の陰を避けるように屈曲し、phyB 変異体は野生型よりも強い応答性を示したが、pif4 pif5 pif7 変異体は応答性が低下していた。よって、PIFとphyBが屈光性の制御にとって重要であることが自然環境においても確認された。また、青色光受容体クリプトクロムの変異体は、R/FR比に関係なく屈曲応答が高くなっていた。植物の陰では、R/FR比の変化に加えてB光も低下することから、自然環境では屈光性の調節にクリプトクロムも関与していると考えられる。陰による屈光性の調節は、R/FR比の程度に応じて段階的に変化した。以上の結果から、屈光性は光受容体のクロストークによって調節されていることが示唆される。

オランダ ユトレヒト大学Pierik ら[Current Biology (2016) 26:3320-3326.]は、自然条件での植物の陰ではR光とB光の両方が減少しているので、B光のみを減少させた際のシロイヌナズナ成熟個体の形態変化を観察した。その結果、低B光を24時間照射することで、白色光を照射した対照よりも葉柄が僅かに伸長することがわかった。興味深いことに、低B光と同時にR:FR比の低い光を照射すると、低R:FR光のみを照射した場合よりも伸長が促進されることがわかった。したがって、低B光は避陰反応におけるシグナルとして機能していることが示唆される。フィトクロムphyB 変異体は、低B光に対する応答を誇張させたが、低R:FR光による促進効果は見られなかった。クリプトクロムの変異体(cry1cry2cry1 cry2 )は、低B光と低R:FR光を組み合わせた際の応答性が見られなくなったが、低R:FR光には応答した。これらの結果から、光受容体のphyBおよびcry1とcry2は、それぞれR:FR光およびB光のシグナルの相互作用に関与していることが示唆される。フィトクロム相互作用因子のPIF4、PI5、PIF7は低R:FR光シグナルの主要な制御因子であり、PIF4とPIF5は低B光に応答することが知られている。各種光処理による葉柄伸長は、pif4 pif5 二重変異体やpif7 変異体では見られたが、pif4 pif5 pf7 三重変異体では見られなかった。したがって、低R:FR光+低B光に対する応答は、PIF4、PIF5、PIF7の複合作用によるものであると考えられる。PIFによって発現が正に制御されるATHB2IAA19 は低R:FR光+低B光によって低R:FR光単独照射よりも発現量が増加し、逆にPIFによって発現が抑制されるLONG HYPOCOTYL IN FAR-RED1HFR1 )は発現量が減少した。したがって、低B光は低R:FR光による遺伝子発現と伸長成長の両方に影響を及ぼしている。各種光処理の際の葉柄での遺伝子発現を比較したところ、低R:FR光処理をした際に制御を受ける遺伝子の数と制御の傾向は、低R:FR光+低B光処理をした際の遺伝子発現変化と最も多くの重複が見られた。また、低R:FR光+低B光処理をした際の遺伝子発現変化は、密植によって日陰となった植物での遺伝子発現変化と多くの重複が見られた。したがって、低R:FR光と低B光の組合せが光に対する植物相互の競争を誘導していることが示唆される。発現量が変化している遺伝子の約60%はPIFのターゲット遺伝子であることから、植物の陰では低R:FR光によるphyBの不活化と低B光によるcryの不活化が組み合わさることでPIFの絶対量と活性が増加し、PIFターゲット遺伝子の発現量変化が起こるのだと考えられる。低R:FR光+低B光処理および密植時に発現量が変化する遺伝子は、オーキシン関連とブラシノステロイド(BR)関連のものが多く含まれていた。阻害剤処理で両ホルモンの経路を阻害すると、一方のホルモンを阻害した場合よりも、低R:FR光+低B光による伸長応答の低下の程度が大きくなったが、伸長を完全には抑制しなかった。したがって、オーキシンとBR以外にもこの過程に関与する因子が存在するものと思われる。低R:FR光照射によってPIF5タンパク質量が増加し、低R:FR光+低B光照射でさらに増加したが、低B光照射ではPIF5タンパク質量の変化は見られなかった。HFR1タンパク質はPIF4やPIF5とヘテロ二量体を形成して活性を阻害する。低R:FR光照射はHFR1タンパク質量を増加させるが、低B光は減少させ、低R:FR光+低B光では変化は見られなかった。したがって、低B光はHFR1タンパク質量を減少させることでPIFの転写活性を高めていると思われる。低R:FR光+低B光でHFR1タンパク質量に変化は見られないが、HFR1 転写産物量は増加してた。HFR1はCOP1/suppressor of phytochrome(SPA)E3ユビキチンリガーゼ複合体のターゲットとなっており、COP1/SPA複合体は活性化したphyやcryによって阻害される。cop1-4 変異体は低R:FR光+低B光照射による葉柄伸長を起こさないことから、低B光による低R:FR光応答の促進はCOP1に依存しており、低R:FR光に低B光が加わることでCOP1ターゲットの分解が促進されると考えられる。以上の結果から、低B光は、PIFの作用を高めることで低R:FR光経路を強めていると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)熱形態形成の概日変化

2017-01-09 08:19:19 | 読んだ論文備忘録

TOC1-PIF4 interaction mediates the circadian gating of thermoresponsive growth in Arabidopsis
Zhu et al. Nature Communications (2016) 7:13692.

DOI: 10.1038/ncomms13692

夕方に発現する概日時計タンパク質のTIMING OF CAB EXPRESSION1(TOC1)は、PIF4等の幾つかのフィトクロム相互作用因子と相互作用をすることが知られている。しかしながら、TOC1-PIF4相互作用の生理的機能は明らかとなっていない。米国 カーネギー研究所Wang らは、クロマチン免疫沈降シークエンシング(ChIP-Seq)アッセイから、TOC1がターゲットとする遺伝子の約半数はPIF4のターゲット遺伝子でもあることを明らかにした。さらに、ターゲット遺伝子におけるPIF4とTOC1の結合部位は近接していることがわかった。したがって、TOC1とPIF4はゲノム上の同じ領域に結合していることが示唆される。PIF4が結合するG-boxモチーフは、TOC1とPIF4の両方が結合するターゲット遺伝子のTOC1結合領域に多く見られるが、TOC1のみが結合するターゲット遺伝子では殆ど見られなかった。TOC1のホモログであるPSEUDORESPONSE REGULATOR5(PRR5)も、TOC1と同様に、PIF4と相互作用をし、PIF4とターゲット遺伝子が重複し、結合部位が近接していた。シロイヌナズナ葉肉細胞プロトプラストを用いいた一過的発現解析試験から、PIF4によって転写活性が促進されるIAA19 プロモーターは、TOC1の共発現によって活性促進が抑制されることがわかった。この時、PIF4 の発現量やPIF4のターゲット遺伝子への結合には変化は見られないことから、TOC1はPIF4と相互作用をすることで直接PIF4の転写活性化の能力を抑制していると考えられる。PIF4は高温下での胚軸伸長促進のような熱形態形成に関与していることが知られている。toc1-2 変異体は高温(29℃)条件下で野生型よりも胚軸が伸長し、この促進効果はpif4 変異が導入されることによって打ち消された。したがって、TOC1はPIF4の上流で高温による胚軸伸長を抑制していると考えられる。TOC1PRR5 の過剰発現個体は高温処理による胚軸伸長が見られなかった。さらに、TOC1やPRR5が蓄積するzeitlupeztl-105 )変異体は高温に対する感受性が低下していた。したがって、TOC1とPRR5は熱形態形成を抑制していると考えられる。YUC8IAA29 といったPIF4ターゲット遺伝子の高温による活性化は、TOC1PRR5 の過剰発現によって打ち消された。したがって、TOC1はPIF4の活性を抑制することで熱形態形成を抑制していると考えられる。TOC1PRR4 はそれぞれツァイトゲーバー時間(ZT)のZT12-14とZT10-12に発現のピークが見られる。ZT0-4に高温処理をした植物体はPIF4 RNA量は25%程度増加しているが、YUC8 RNA量は3倍以上増加していた。一方、ZT8-12およびZT12-16に高温処理した植物体ではPIF4 RNA量が5倍以上増加しているが、YUC8 の発現量に変化は見られなかった。そして、ZT16-20とZT20-24に高温処理をした場合にはPIF4YUC8 の発現量が共に増加していた。高温処理によってPIF4 の発現量が増加するZT8-16にYUC8 の発現量が増加していないのは、TOC1のような夕方に特異的な因子がPIF4によるターゲット遺伝子の発現活性化を抑制していることによるものと考えられる。夜遅くにTOC1量が減少すると、おそらく高温処理で増加したPIF4がYUC8 を活性化し、温度に応答した成長が高まると考えられる。toc1 変異体、toc1 prr5 二重変異体ではZT12、ZT16でのPIF4 の発現量が野生型よりも増加していることから、TOC1とPRR5は夜の始めのPIF4 の発現直接抑制していると考えられる。夕方のYUC8 の発現量はtoc1 変異体、toc1 prr5 二重変異体においても低いが、高温処理による発現量の増加については幾分かは見られた。したがって、TOC1とPRR5はPIF4による転写活性化活性と熱形態形成の概日リズムによる制御を行なっていると考えられる。29℃で育成した芽生えは20℃で育成した芽生えよりも45℃の熱ストレスに対する耐性を示すようになるが、そのような適応効果はpif4 変異体では低下しており、PIF4 過剰発現個体では20℃で育成した植物体も熱ストレス耐性が高くなっていた。また、TOC1 過剰発現個体は29℃育成による熱耐性獲得の程度が野生型よりも低く、toc1 prr5 二重変異体は高くなっていた。しがし、20℃で育成した個体の熱ストレス感受性はTOC1 過剰発現個体もtoc1 prr5 二重変異体も同程度であった。これらの結果から、高温耐性の獲得にはPIF4の活性化とTOC1量の減少が必要であり、TOC1量が低下している日中に受けた高温によるPIF4の活性化が、熱ストレスからの植物の生存を高めていると思われる。以上の結果から、TOC1とPIF4との相互作用は、温度変化に応答した成長の概日リズムによる調節を行なっており、温度や光量の日変化に合わせて植物の成長を適応させる作用があると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする