Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)フィトクロム相互作用因子による光屈性の制御

2013-08-28 21:59:12 | 読んだ論文備忘録

PIF4 and PIF5 Transcription Factors Link Blue Light and Auxin to Regulate the Phototropic Response in Arabidopsis
Sun et al.  The Plant Cell (2013) 25:2102-2114.
doi:10.1105/tpc.113.112417

フィトクロム相互作用因子(PIF)は、光形態形成におけるシグナル伝達を担うbHLH型転写因子である。最近の研究では、PIFは種子発芽、高温応答、避陰反応、概日時計の制御にも関与していることが知られている。また、PIF4PIF5 を過剰発現させたシロイヌナズナ芽生えは青色光照射による胚軸の光屈性が低下することが報告されている。中国科学院 遺伝学発生生物学研究所Li らは、シロイヌナズナpif4 変異体、pif5 変異体の芽生えは光屈性応答が強まり、pif4 pif5 二重変異体は単独変異体よりも強い応答性を示すことを見出した。よって、PIF4とPIF5は胚軸の光屈性に対して冗長的に負の制御を行なっていることが示唆される。光屈性に関与しているフォトトロピン光受容体PHOTOTROPIN1(PHOT1)のT-DNA挿入変異体phot1 は光屈性が見られなくなるが、phot1 pif4 pif5 三重変異体もphot1 と同じ応答性となることから、PIF4とPIF5は光屈性シグナル伝達においてPHOT1による青色光受容の下流で機能していることが示唆される。芽生えを青色光照射するとPIF4PIF5 の発現が誘導され、この発現誘導はphot1 phot2 二重変異体でさらに強まることから、PHOT1とPHOT2は青色光照射によって誘導されるPIF4PIF5 の転写を抑制していると考えられる。青色光照射によるPIF4PIF5 の発現誘導はphyA 変異体では減少しており、この発現誘導はPhyAによって正に制御されていると考えられる。したがって、フォトトロピンとフィトクロムは青色光によるPIF4PIF5 の発現誘導に対して異なる作用を示す。青色光照射によるPIF4PIF5 の発現は、光屈性において光受容が行なわれているとされている胚軸先端部において見られた。以上の結果から、PIF4PIF5 は負のフィードバック制御によって光屈性を微調整する青色光応答遺伝子であることが示唆される。オーキシン応答マーカーDR5rev:GFP を発現させた芽生えに青色光を照射すると、胚軸の光の当たっていない側でDR5 活性が強くなるが、PIF4 を過剰発現させた芽生えではDR5 活性の不均等分布は起こらなかった。よって、PIF4は胚軸の光屈曲をもたらすオーキシンの不均等分布を抑制していると考えられる。PIF4 過剰発現個体は子葉でのDR5rev:GFP の発現が野生型よりも弱いことから、PIF4はオーキシンシグナル伝達を抑制しているものと思われる。PIF4 過剰発現個体は、オーキシン処理によるDR5:GUS レポーターや、オーキシン応答マーカー遺伝子のIAA5GH3 -like の発現誘導が野生型よりも弱くなっていた。また、オーキシン(2,4-D)処理による胚軸伸長が、pif4 pif5 変異体では促進され、PIF4 過剰発現個体では抑制されていた。したがって、PIF4、PIF5はオーキシンシグナル伝達を負に制御しており、このことが光屈性に影響を及ぼしていると考えられる。オーキシンのシグナル伝達はAux/IAAによって負に制御されており、Aux /IAA ファミリー遺伝子のIAA19IAA29 のプロモーター領域にはPIFタンパク質の結合するG-boxモチーフ(CACGTG)が含まれている。クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイやゲルシフトアッセイから、PIF4はIAA19IAA29 のG-boxモチーフに直接結合することが確認され、IAA19IAA29 の転写産物量はPIF4 過剰発現個体では野生型よりも多く、pif4 pif5 二重変異体では少ないことがわかった。したがって、PIF4はIAA19IAA29 のプロモーター領域に結合して、これらの遺伝子の転写を活性化していると考えられる。PIF4 を過剰発現させたiaa19 iaa29 二重変異体は、オーキシン処理によるDR5:GUS レポーターの発現が野生型と同等となり、光屈性も示した。よって、PIF4によるオーキシンシグナル伝達や光屈性の制御にはIAA19とIAA29が関与していると思われる。青色光照射による光屈性応答は、IAA19IAA29 の過剰発現個体では野生型よりも弱く、iaa19 iaa29 二重変異体では強くなっていた。したがって、IAA19とIAA29は胚軸の光屈性を負に制御していることが示唆される。転写活性化因子のAUXIN RESPONSE FACTOR(ARF7)は、光屈性の正の制御因子であり、IAA19はARF7と物理的相互作用を示してARF7の活性を阻害することが知られている。そこで、IAA29もARF7との相互作用を示すかを酵母two-hybridアッセイによって調査したところ、IAA29はARF7のC末端側ドメインと相互作用をすることがわかった。また、ルシフェラーゼ相補イメージング(LCI)アッセイによってARF7とIAA19、IAA29は生体内において相互作用を示すことが確認された。暗所育成芽生えに青色光を照射すると、照射15分後にはIAA19IAA29 の一過的な発現抑制が見られ、60分後には発現が最小となるが、その後は発現が上昇していった。この青色光によって誘導されるIAA19IAA29 の発現量はpif4 pif5 変異体では野生型よりも低く、PIF4、PIF5は青色光照射によるIAA19IAA29 の発現制御に対して正の効果がると考えられる。ARF7 の発現は青色光やPIF4/PIF5による制御は受けていなかった。青色光照射によるIAA19IAA29 の発現誘導量は、arf7 変異体では野生型よりも低く、この発現誘導にはARF7も関与していることが示唆される。以上の結果から、PIF4、PIF5は、光屈性における光シグナルとオーキシンシグナルとの間を仲介する転写因子として機能していると考えられる。

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論文)トマトの複葉形成を制御する転写因子

2013-08-23 19:42:16 | 読んだ論文備忘録

A Role for APETALA1/FRUITFULL Transcription Factors in Tomato Leaf Development
Burko et al.  The Plant Cell (2013) 25:2070-2083.
doi:10.1105/tpc.113.113035

トマトの葉は、葉縁部の器官形成活性が持続することによって複葉となる。CINCINNATA-like TEOSINE BRANCHED1, CYCLOIDEA, PCF(CIN-TCP)型転写因子のLANCEOLATE(LA)は、この器官形成活性を抑制し、葉の成熟を誘導する。LA 遺伝子およびCIN-TCPファミリーに属するLA-like 遺伝子はマイクロRNAのmiR319によって発現抑制されている。イスラエル ヘブライ大学Ori らは、LA 遺伝子のmiR319の認識部位に変異が生じて複葉の複雑さが低下した機能獲得La-2 変異体や、miR319 を過剰発現させることで複葉の複雑さが増した形質転換体を用いて、これらの茎頂部分での遺伝子発現をマイクロアレイ解析することでLA 遺伝子と複葉形成の関係を調査した。その結果、花や果実の発達に関与しているAPETALA1AP1 )/FRUITFULLFUL )サブファミリーに属する4つのMADS box遺伝子、MBP7FUL2 )、MBP20AGL79 )、TM4FUL1 )、MACROCALYXMC )の発現と葉縁部の器官形成活性との間に正の相関が見られ、これらの遺伝子の発現はLA活性との間で負の相関があることがわかった。また、定量PCRによる解析から、これら4遺伝子に加えて、同じ遺伝子ファミリーに属しマイクアレイに乗っていないMBP10AGL79L )も同じ挙動を示すことがわかった。これらの遺伝子は葉の器官形成に関与しており、LAによって発現が負に制御されていると考えられる。miR319 を過剰発現させた個体は、野生型よりも少ない葉数で開花し、La-2 変異体は開花までに形成された葉数が野生型よりもわずかに多くなった。これは、La-2 変異体の葉の形成が野生型よりも速く、miR319 過剰発現個体は遅いことによるもので、移植から開花までの日数はLa-2 変異体は野生型よりも短く、miR319 過剰発現個体は長かった。トマトのFLOWERING LOCUS T(FT)オーソログであるSINGLE FLOWER TRUSS(SFT)の変異体sft は花成が遅延して小葉が多くなる表現型を示し、SFT 過剰発現個体は花成が早くなり葉の成熟が早いために葉が単純化する。miR319 を過剰発現させたsft 変異体は、sft 単独変異体と同数の葉を形成した後に開花したが、葉の形態はmiR319 過剰発現個体に類似していた。SFT 過剰発現個体でmiR319 を過剰発現させた個体の葉の形態も、miR319 過剰発現個体に類似していたが、花成はSFT 過剰発現個体と同様に早くなった。したがって、sft 変異やSFT 過剰発現は植物の成熟に関してはmiR319 過剰発現よりも上位に位置しているが、葉の形成に関してはmiR319 過剰発現がsft 変異やSFT 過剰発現よりも上位にあると考えられる。よって、花成に対するmiR319の効果はSFTを介在しており、miR319とそのターゲット遺伝子は葉の形成と花成で異なる経路に影響を及ぼしていることが示唆される。miR319 の過剰発現によるTM4MC の発現量の増加は、sft 変異体では野生型よりも弱くなっており、MBP20MBP7MBP10 の発現量はsft 単独変異体とmiR319 を過剰発現させたsft 変異体との間で差は見られなかった。よって、AP1 /FUL 遺伝子の発現はSFTによって正に、LAによって負に制御されており、LAの効果は部分的にSFTの機能に依存していると考えられる。AP1 /FUL 遺伝子の葉の形成過程での発現を見たところ、MBP20 の転写産物量は葉原基の成長ステージP3からP4において高く、P5では転写産物量が大きく減少した。そしてLA の発現量はP5から大きく増加していた。また、La-2 変異体のP2、P3葉原基ではMBP20 の発現は低くなっていた。したがって、MBP20 の発現はLA の発現と負の相関がある。MBP20にSRDX抑制モチーフを付加した融合タンパク質を発現させた個体は、小葉数が減少して葉縁が滑らかになった。したがって、MBP20 や他のAP1 /FUL 遺伝子は複葉形成に関与していることが示唆される。MBP20 遺伝子やTM4 遺伝子のプロモーター領域にはTCP結合部位と推測されるモチーフが含まれている。ゲルシフトアッセイやクロマチン免疫沈降アッセイから、LAがMBP20TM4 のプロモーター領域に結合することが確認された。以上の結果から、トマトAP1 /FUL 遺伝子は、複葉形成をもたらす器官成長を促進し、これらの遺伝子の発現はLAによって負に制御されていることが明らかとなった。

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論文)イネ発芽時のジベレリンや炭水化物量を制御する転写抑制因子

2013-08-19 22:34:29 | 読んだ論文備忘録

The rice GERMINATION DEFECTIVE 1, encoding a B3 domain transcriptional repressor, regulates seed germination and seedling development by integrating GA and carbohydrate metabolism
Guo et al.  The Plant Journal (2013) 75:403-416.
doi: 10.1111/tpj.12209

中国科学院遺伝学発生生物学研究所Chu らは、イネのT-DNA挿入変異集団の中から、種子発芽と幼苗の成長に異常が見られるgermination defective1gd1 )変異体を得た。gd1 変異体種子は野生型よりも発芽が遅く、発芽後はわい化して葉が野生型よりも小さい表現型を示した。多くのgd1 変異体は栄養成長の間に死んでしまうが、一部が花成した。gd1 変異体の穂は野生型よりも小さく、花にも異常が見られ、花粉の50%はヨード染色されなかった。T-DNAは第7染色体上の遺伝子LOC_Os07 g37610の第11エクソンに挿入されており、このことによって遺伝子がノックアウトされていた。GD1 はシロイヌナズナのVP1/ABI3-LIKEVAL )遺伝子と高い類似性が見られ、イネゲノムにはホモログ遺伝子OsVAL2 (LOC_Os07 g48200)があった。シロイヌナズナVALタンパク質は、ABSCISIC ACID INSENSITIVE3ABI3 )、FUSCA3FUS3 )、LEAFY COTYLEDON1LEC1 )、LEC2 といった胚の発達に関与するB3ドメインを有する転写因子をコードする遺伝子の発現を抑制して胚発達から種子発芽や栄養成長過程への移行に関与していることが知られている。GD1タンパク質、OsVAL2タンパク質には5つの保存されたドメイン、N末端のPHDドメイン、DNA結合に関与するB3ドメイン、CW-型のジンクフィンガー、核局在シグナル、C末端には転写抑制因子に見られるEARモチーフが含まれていた。また、GD1のN末端にはProやGlnの多く含まれた伸長領域があり、GD1は他のVALタンパク質とは異なる機能があると考えられる。GD1 は全ての組織において恒常的に発現しており、特に葉身や花での発現量が高く、若いシュート、葉鞘、根、茎での発現量は低い。葉のGD1 転写産物量は、アブシジン酸処理によってわずかに増加し、ジベレリン(GA)処理、ショ糖処理によって大きく増加した。GD1タンパク質は核に局在しており、C末端のEARモチーフは転写抑制活性を示した。ABI3、FUS3、LEC2はRYエレメントに結合してターゲット遺伝子の発現を正に制御することが知られているが、GD1タンパク質のB3ドメインもRYモチーフに結合することが確認された。gd1 変異体をGA処理すると、部分的にわい化が回復することから、GD1は生体内のGA量の維持に関与していることが示唆される。gd1 変異体の内生の活性型GA含量は野生型よりも少なく、GA不活性化遺伝子OsGA2ox3 の発現量が高く、GA生合成遺伝子OsGA30ox1OsGA20ox2OsGA3ox2 の発現量が減少していた。また、gd1 変異体をGA処理するとOsGA2ox3 の発現量が増加した。よって、GD1 はGA代謝の制御に関与していると考えられる。OsLFL1(LEC2/FUS3-LIKE)はB3ドメインを含んだタンパク質で、シロイヌナズナのLEC2やFUS3と同様に胚発達過程の制御に関与していると考えられている。gd1 変異体はOsLFL1 の転写産物量が増加しており、GD1 は胚の発達過程を負に制御していると考えられる。OsLFL1 遺伝子とGD1 遺伝子のプロモーター領域にはRYエレメントが含まれており、GD1タンパク質のB3ドメインはOsLFL1 遺伝子およびGD1 遺伝子自身の発現を直接制御していると考えられる。gd1 変異体では、発芽時にOsLFL1 や他の種子発達関連遺伝子の発現が抑制されないために発芽遅延が起こるものと思われる。OsLFL1 を過剰発現させた形質転換体は、gd1 変異体と同様のわい化した表現型を示し、OsGA2ox3 の発現量も増加していた。よって、OsLFL1GD1 の下流に位置するターゲット遺伝子であるとことが示唆される。gd1 変異体の茎組織は、野生型と比べてデンプン粒が少なくなっていた。また、止葉や上位2葉のデンプン含量が少なく、逆にグルコース、フラクトース、ショ糖の含量は高くなっていた。よって、GD1は炭水化物代謝の制御に関与していると考えられる。そこで、炭水化物代謝に関与する遺伝子の発現を見たところ、α-アミラーゼをコードするRAmy1ARAmy3D の発現量が増加し、デンプン合成酵素をコードするSSIIIa の発現量が低下していた。ただし、デンプン生合成の鍵酵素であるADP-グルコースピロフォスフォリラーゼの大サブユニットをコードするAGPL1 の発現量は増加しており、これは恐らく内生糖含量の増加によるフィードバック制御によるものと思われる。以上の結果から、GD1はターゲット遺伝子の発現を負に制御することでジベレリンや炭水化物の代謝を制御し、イネ種子発芽や幼苗の成長を制御している転写因子であると考えられる。

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論文)受容体様細胞質キナーゼによる免疫とブラシノステロイドシグナルの調節

2013-08-14 05:24:51 | 読んだ論文備忘録

Inverse modulation of plant immune and brassinosteroid signaling pathways by the receptor-like cytoplasmic kinase BIK1
Lin et al.  PNAS (2013) 110:12114-12119.
doi:10.1073/pnas.1302154110

受容体様細胞質キナーゼのBotrytis-Induced Kinase 1(BIK1)は、植物の免疫シグナルに関与しており、フラジェリン受容体Flagellin Sensing 2(FLS2)とブラシノステロイド(BR)シグナル伝達に関与しているBRI1-associated kinase 1(BAK1)との複合体(FLS2/BAK1)と相互作用をし、BAK1によってリン酸化されることが知られている。bik1 変異体はフラジェリンを介した様々な応答や非病原性細菌の感染に対する応答が損なわれるが、一次根の伸長がやや低下する、開花が早まる、稔性が低下するといった成長過程における変化も見られる。また、bik1 変異体は葉柄が伸長して湾曲するといったBRI1 過剰発現個体においてしばしば観察される表現型を示す。よって、BIK1はBRシグナル伝達にも関与していることが推測される。米国 テキサスA&M大学 植物ゲノム学・バイオテクノロジー研究所Shan らは、BIK1とBRシグナルとの関係を解析し、bik1 変異体は恒常的にBRに応答している表現型を示し、BR処理に対する感受性が高く、BR生合成阻害剤ブラシナゾールに対する感受性が低下していることがわかった。よって、BIK1 の機能喪失はBRシグナルが活性化することが示唆される。bik1 変異体はサリチル酸(SA)含量が高いことが報告されていることから、SA生合成変異のsid1bik1 変異体に導入した二重変異体を観察したところ、bik1 sid1 二重変異体もBR感受性が高いことがわかった。よって、bik1 変異体のBR高感受性はSA含量の増加によって生じているのではないと考えられる。BRシグナル伝達過程において、2つの転写因子bri1 -Ems-Suppressor(BES1)とBrassinazole-Resistant 1(BZR1)が脱リン酸化されることで、ターゲット遺伝子の発現を制御している。bik1 変異体は、野生型と比較して、BR処理に関係なく脱リン酸化されたBES1量が多く、BRによって負のフィードバック制御を受けるターゲット遺伝子の発現量が低くなっていた。よって、BIK1はBES1のリン酸化よりも上流においてBRシグナル伝達を負に制御していると考えられる。BIK1はBR受容体Brassinosteroid Insensitive 1(BRI1)の細胞質キナーゼドメインと相互作用をすることが確認され、この相互作用はBR処理によって低下することがわかった。よって、BIK1はBRI1がBRを受容すると受容体複合体から解離するものと思われる。また、BIK1はBRI1によるリン酸化を受け、このリン酸化はBRによって誘導されることがわかった。フラジェリンの22アミノ酸ペプチド(flg22)処理によってBIK1はリン酸化されるが、BR処理ではBRI1 を過剰発現させた場合のみリン酸化が観察された。よって、BR処理によるBIK1のリン酸化はフラジェリン処理によるリン酸化とは異なることが示唆される。キナーゼ活性のない変異型のBIK1もしくは変異型のBRI1は、正常なBRI1もしくはBIK1と相互作用をするが、BR処理による解離は起こらなかった。よって、BIK1とBRI1のキナーゼ活性は両者の相互作用には必要でないが、BRによって誘導されるBIK1-BRI1の解離には必要であると考えられる。BIK1はフラジェリン非存在下ではFLS2と相互作用をしており、flg22処理をすると相互作用は低下する。flg22によって誘導されるBIK1のリン酸化はBAK1によって直接なされており、bak1-4 変異体ではflg22処理によるBIK1-FLS2の解離が起こらない。一方BIK1-BRI1のBR処理による解離はbak1-4 変異体でも起こった。よって、BAK1はBRによって誘導されるBRI1からのBIK1の解離には関与していないことが示唆される。したがって、BRI1はBIK1を直接リン酸化することでBRシグナルを制御し、BAK1はBIK1をリン酸化することでflg22シグナルを伝達していると考えられる。bik1 bri1 二重変異体はbri1 変異体の成長抑制を部分的に回復させることから、BIK1はBRシグナル伝達においてBRI1の下流において作用していると考えられる。以上の結果から、BIK1は、BAK1によるリン酸化とBRI1によるリン酸化を介して、植物免疫の正の制御とBRによる成長促進の負の制御の2種類のシグナル伝達に関与していると考えられる。

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植物観察)箱根

2013-08-11 21:13:34 | 植物観察記録

箱根へバイケイソウの観察に行ってきました。バイケイソウは果実の登熟が進んでいました。個々の個体の花序を見ると、花序の全ての花が稔実している個体はなく、稔実果実数は個体間で異なっていました。稔実していない花は分枝した花枝の先端部で多く見られ、そのような部位には雄花が付くことから、稔実していない花は元々雄花であったと思われます。これから登熟の始まる花もありそうなので、詳細な調査は8月下旬以降になりそうです。花としては、シモツケソウ、マルバダケブキ、タマアジサイ、ヤマジオウなどが見られました。

余談ですが、ネット検索をしていたら北海道開拓記念館の水島未記さんが書かれた「 バイケイソウ、一斉開花の謎」という文章を見つけました。これは北海道新聞の「みんなでサイエンス」という連載ものの記事らしいのですが、道新のサイトからはたどり着けませんでした。やはり、今年は北海道全体でバイケイソウが一斉開花しているようです。水島さんは「もしかしたら本州でも?」と書かれていますが、少なくとも箱根ではこれまでにないくらい多くのバイケイソウが花成しており、山や植物好きの方のブログ等の文章を見ると、本州各地でバイケイソウが一斉開花しているようです。ですので、今年は日本全体がバイケイソウの当たり年になっていると思われます。

 

登熟中のバイケイソウの果実 まだ花弁が付いている

 

稔実している花は主花茎と分枝した花茎の基部に見られる 他は雄花か?

 

マルバダケブキ

 

タマアジサイ

 

シモツケソウ

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論文)ABI5は細胞質で分解される

2013-08-05 22:49:34 | 読んだ論文備忘録

Cytoplasmic Degradation of the Arabidopsis Transcription Factor ABSCISIC ACID INSENSITIVE 5 Is Mediated by the RING-type E3 Ligase KEEP ON GOING
Liu & Stone  J. Biol. Chem. (2013) 288:20267-20279.
doi: 10.1074/jbc.M113.465369

シロイヌナズナABSCISIC ACID INSENSITIVE 5(ABI5)は、bZIP型転写因子ファミリーに属しており、アブシジン酸(ABA)による種子成熟や芽生えの成長の制御に関与している。ABI5タンパク質の代謝回転は26Sプロテアソーム系によって調節されており、主にRING型E3リガーゼのKEEP ON GOING(KEG)がABA非存在下でABI5量を負に制御することでABA応答を抑制している。KEGタンパク質はトランスゴルジネットワーク/初期エンドソームに局在しているが、ABI5タンパク質は核に局在しているので、どのようにしてKEGがABI5と相互作用をしているのかは明らかとなっていない。カナダ ダルハウジー大学Stone らは、RING E3リガーゼドメインに変異の入ったKEGとABI5を用いてBiFCアッセイを行ない、蛍光シグナルが細胞質において見られることを明らかにした。また、完全長KEGを用いた場合には蛍光シグナルは見られなかった。KEGとABI5との相互作用には、KEGのアンキリンリピートが関与している。ABI5にはbZIP DNA結合ドメインの他に保存された領域が4箇所(C1~C4)あり、このうちC3領域がKEGのアンキリンリピートと相互作用をすることがわかった。また、C4領域を含むC末端領域を欠いたABI5は、KEGと相互作用を示すが、26Sプロテアソーム系による分解を受けず、複合体は細胞質に局在することがわかった。ABI5タンパク質には、N末端側に核輸送シグナル(NES;LGRQSSIYSLTL)とC末端領域に3箇所核局在シグナル(NLS1~3)と推定される配列が見られる。NLS1/2を欠いたABI5は核と細胞質の両方に局在していることから、NLS1とNLS2はABI5の核局在には必須でないと考えられる。また、このABI5は完全長KEGとのBiFCアッセイで蛍光シグナルを示すことから、KEGはNLS1/2を欠いたABI5をターゲットとしないことが示唆される。NLS3もしくはNLS3とその周辺のアミノ酸を欠いたABI5は核に局在し、RING E3リガーゼドメインに変異の入ったKEGとのBiFCアッセイを行なった蛍光シグナルが観察され、完全長KEGを用いた場合には蛍光シグナルは見られなかった。したがって、NLS3はABI5の安定性に関与していると考えられる。NLS1/2/3を欠いたABI5は主に細胞質に局在し、RING E3リガーゼドメインに変異の入ったKEGとも完全長KEGとも相互作用を示した。ABI5のNLS1/2領域にはLys残基が4つあり、Lys残基はユビキチン結合部位として機能することが知られている。これらのLys残基のうち、344番目のLys残基をAlaに置換したABI5はKEGによる分解を受けないことがわかった。また、このアミノ酸置換によるABI5の機能喪失は起こらないことがわかった。以上の結果から、ABA非存在下で、KEGは細胞質においてABI5のC3領域と相互作用をしてABI5のユビキチン化・分解を引き起こしていると考えられる。

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