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論文)サリチル酸によるジャスモン酸シグナル伝達の抑制

2013-04-21 14:26:24 | 読んだ論文備忘録

Salicylic Acid Suppresses Jasmonic Acid Signaling Downstream of SCFCOI1-JAZ by Targeting GCC Promoter Motifs via Transcription Factor ORA59
Van der Does et al.  The Plant Cell (2013) 25:744-761.
doi:10.1105/tpc.112.108548

サリチル酸(SA)とジャスモン酸(JA)は植物の病害や虫害に対する防御応答シグナルを調節するホルモンとして重要な役割を演じており、両者は拮抗的に作用するが、その詳細な機構は明らかとなっていない。オランダ ユトレヒト大学Pieterse らは、SAによるJAシグナル伝達の抑制の分子機構について解析を行なった。JAZタンパク質はJAシグナル伝達の抑制因子として機能していることから、SAによるJA応答の抑制にJAZが関与しているかを調査した。JAZ10にはスプライス変異型(JAZ10.1/2/3/4)があり、JAZ10.4はJasドメインを欠いているためにJAによって誘導される分解に対して高い抵抗性を示すことが知られている。シロイヌナズナをSAとメチルジャスモン酸(MeJA)で同時に処理すると、SAに応答するPATHOGENESIS RELATED-1 PR-1 )の発現量は増加するが、PLANT DEFENSIN 1.2PDF1.2 )やVEGETATIVE STORAGE PROTEIN2VSP2 )といったJAシグナルに応答する遺伝子の転写産物量の蓄積が見られない。この時、JAZ10.1/2/3/4 の発現量はMeJAを単独処理した場合と同等であることから、SAによるJAシグナル伝達の抑制はJAZ10.4 の転写産物量の変化によるものではないと考えられる。また、培養細胞を用いた実験から、SA処理はJAによるJAZ1、JAZ9タンパク質の分解に対して影響を及ぼさないことが示された。よって、SAのJAシグナル伝達に対する拮抗作用はJAZタンパク質の代謝制御を介してなされているのではないと考えられる。JA受容体の機能喪失coi1 変異体ではJA応答遺伝子の発現誘導が抑制されているが、JAシグナル伝達に関与しているAP2/ERF型転写因子のETHYLENE RESPONSE FACTOR1ERF1 )を恒常的に発現させたcoi1 変異体ではPDF1.2 の発現量が増加する。ERF1 を恒常的に発現させた野生型植物やcoi1 変異体をSA処理するとPDF1.2 の発現が抑制された。よって、SAによるJAシグナル伝達の抑制は、JA受容体COI1よりも下流において作用していることが示唆される。SA/JAのクロストークについてトランスクリプトーム解析を行なったところ、MeJAによって発現誘導される遺伝子のうち59遺伝子はSAによって発現が抑制され、MeJAによって発現抑制される遺伝子のうち15遺伝子はSAによって発現が増加していた。このことは、MeJA応答遺伝子の34%はSA/JAクロストークによる影響を受けていることを示唆している。MeJAにより発現誘導されSAによって抑制される59遺伝子の5'非翻訳領域の塩基配列を調査したところ、幾つかのプロモーターモチーフが検出され、G-box(CACGTG)、I-box(GATAA)、イブニングエレメント(AAAATATCT)が多く見られた。一方、MeJAによって発現誘導されSAによる抑制を受けない115の遺伝子ではG-boxとI-boxの出現頻度は低くなっていた。PDF1.2 遺伝子プロモーターのI-boxへの点変異はSA、JAに対する応答性に変化をもたらさないことから、GCC-boxのSA/JAクロストークにおける役割について詳細な解析を行なった。PDF1.2 プロモーターおよび35SミニマムプロモーターにGCC-boxを4コピー連結させたプロモーターの制御下でGUSレポーター遺伝子を接続したコンストラクトを導入した形質転換シロイヌナズナは、MeJA処理によってGUS活性が誘導されたが、同時にSA処理をするとGUS活性が見られなくなった。このことから、GCC-boxがMeJAによる転写活性化とSAによる転写抑制に関与していることが示唆される。GCC-boxにはERF1やORA59といったAP2/ERF型転写因子が結合することが知られている。そこで、ERF1 を恒常的に発現させたcoi1 変異体でのORA59 の発現を見たところ、PDF1.2 と同様に発現量が増加していた。しかしながら、PDF1.2 の発現とは異なり、ERF1 によって誘導されるORA59 の発現はSAによる抑制を受けなかった。したがって、SAによるPDF1.2 の発現抑制はERF1ORA59 の転写産物の蓄積量変化によるものではないと考えられる。次に、ERF1タンパク質やORA59タンパク質の生成や安定性に対するSAの効果を見たところ、SAはORA59タンパク質の蓄積に対して負に作用することがわかった。したがって、SAはORA59タンパク質の蓄積に対して負に作用することでJAに応答した遺伝子発現に対して拮抗的に作用していると考えられる。

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