Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)気孔閉鎖におけるアブシジン酸とCOP1の関係

2021-01-29 06:50:38 | 読んだ論文備忘録

COP1 promotes ABA-induced stomatal closure by modulating the abundance of ABI/HAB and AHG3 phosphatases
Chen et al.  New Phytologist (2021) 229:2035-2049.

doi: 10.1111/nph.17001

E3ユビキチンリガーゼのCONSTITUTIVELY PHOTOMORPHOGENIC 1(COP1)は、光形態形成の負の制御因子であり、気孔の閉鎖にも関与していることが報告されている。気孔の閉鎖はアブシジン酸(ABA)によって制御されていることが知られているが、COP1とABAとの関係については明らかとなっていない。中国 河南大学のSong らは、シロイヌナズナcop1 変異体は光条件に関係なく気孔開閉に対するABA感受性か低下していることを見出した。よって、COP1は光シグナル伝達とは独立してABAが誘導する気孔閉鎖において重要な役割を果たしていると考えられる。そこで、COP1と相互作用をするABAシグナル伝達関連因子を探索したところ、ABA INSENSITIVE 1(ABI1)、ABI2、HYPERSENSITIVE TO ABA1(HAB1)、HOMOLOGY TO ABI2(HAB2)、ABA-HYPERSENSITIVE GERMINATION 3(AHG3)といったクレイドA タンパク質脱リン酸化酵素タイプ2C(PP2C)がCOP1と直接相互作用をすることが判った。また、COP1はABI1やAHG3をユビキチン化して26Sプロテアソーム系による分解を促進することが確認された。そして、ABAはCOP1とABI1、AHG3との相互作用を強め、ユビキチン化を促進していた。ABA受容体六重変異体でのABI1、AHG3の分解は、ABA処理の有無に関係なく野生型よりも低下しており、ABA処理による分解強化も緩和されていた。ABAによる気孔閉鎖の正の制御因子として機能するSnRK2型タンパク質キナーゼのOPEN STOMATA 1(OST1)は、クレイドA PP2Cによって活性が阻害され、ABA処理によってリン酸化されて活性化する。ABA受容体六重変異体ではOST1のリン酸化量が野生型よりも低く、cop1 変異体においても有意に減少していたが、abi1 変異体、ahg3 変異体では増加していた。よって、COP1はPP2C活性を調節し、その結果、OST1のキナーゼ活性を調節して気孔運動を制御していると考えられる。cop1 変異体の気孔閉鎖におけるABA感受性低下は、cop1 abi1 二重変異体、cop1 ahg4 二重変異体においては野生型と同等にまで回復した。以上の結果から、COP1によるクレイドA PP2Cのユビキチン化と分解は、ABAシグナルによる気孔閉鎖を調節する経路として機能していると考えられる。

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論文)ARFの発現を制御する転写抑制因子ネットワーク

2021-01-20 21:52:36 | 読んだ論文備忘録

A network of transcriptional repressors modulates auxin responses
Truskina et al.  Nature (2021) 589:116-119.

doi:10.1038/s41586-020-2940-2

シロイヌナズナのクラスA AUXIN RESPONSE FACTOR(ARF5、ARF6、ARF7、ARF8、ARF19)はオーキシン応答遺伝子の転写活性化因子として機能し、植物の生活環においてオーキシンシグナル伝達を制御している。ARF は組織特異的な発現パターンを示すが、その発現がどのように調節されているかは明らかではない。フランス リヨン高等師範学校Vernoux らは、クラスA ARF 遺伝子の発現特異性はヒストン修飾のようなクロマチン構造変化によるものではなく、プロモーター領域(ARF7 については第1イントロン領域)によって調節されていることを明らかにした。そこで、enhanced yeast one-hybrid(eY1H)アッセイによりARF 遺伝子プロモーターと相互作用をする転写調節因子を探索したところ、これまでクラスA ARF 遺伝子の発現を調節しているとは認識されていなかった42の転写調節因子を見出した。遺伝子制御ネットワークの解析から、4つの転写因子のみが複数のARF 遺伝子と結合し、個々のクラスA ARF 遺伝子は特定の転写因子によって制御されている可能性が示された。また、42の転写因子のうち34(81%)はターゲットのクラスA ARF 遺伝子の発現量を変化させ、32はクラスA ARF 遺伝子の転写産物量を減少させた。よって、クラスA ARF 遺伝子の発現はリプレッサーによる転写抑制によって調節されていることが示唆される。リプレッサーとターゲットARF 遺伝子の発現を根や茎頂の分裂組織で見ると、多くが相補的な発現パターンを示していた。24の転写因子遺伝子変異体のうち11の変異体でターゲットクラスA ARF 遺伝子の発現量が変化していた。このうち4変異体ではターゲットARF 遺伝子の発現が上昇し、他の7つの変異体(このうち6つはARF8 の調節因子)ではターゲット遺伝子の発現が低下した。ARF8の場合は複数の転写因子によって複雑な調節を受けているためにこのような結果になったものと思われる。また、24の変異体のうち14の変異体で根の伸長におけるオーキシン応答性が変化し、このうち9つの変異体は応答性が高まった。また、7つの変異体で根の重量屈性応答が早くなっていた。以上の結果から、転写抑制因子ネットワークによるクラスA ARF 遺伝子の発現制御がオーキシンシグナル伝達を調節していると考えられる。

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論文)葉の形を決めるメカニズム

2021-01-12 22:42:58 | 読んだ論文備忘録

A WOX/Auxin Biosynthesis Module Controls Growth to Shape Leaf Form
Zhang et al.  Current Biology (2020)30:4857-4868.

doi:10.1016/j.cub.2020.09.037

Dispatches
Plant Development: Coordinating across Space and Time
Annis Richardson Current Biology (2021) 30:R1492-R1494.

doi:10.1016/j.cub.2020.10.041

シロイヌナズナでは、WUSCHEL-RELATED HOMEOBOXWOX )遺伝子ファミリーのWOX1PRESSED FLOWERPRS/WOX3 )が葉身の成長と周縁細胞の特性を制御している。しかしながら、WOX1/WOX3 がどのようにして最終的な葉の形を作り出しているのかは明らかとなっていない。ドイツ マックスプランク植物育種研究所Tsiantis らは、変異体の解析からシロイヌナズナではWOX5WOX1/WOX3 と共に冗長的に葉形の制御に関与していることを突き止め、RNA-seq解析からwox135 三重変異体芽生えではオーキシンシグナル伝達や生合成に関与する遺伝子の発現が低下していることを見出した。また、wox135 変異体芽生えはIAA複合体のIAAsp、IAAGluやIAA異化物のoxIAAの含量が野生型よりも少なかった。そこでオーキシン生合成が機能喪失したyucca 変異体について葉の表現型を観察したところ、yuc146 三重変異体やyuc1246 四重変異体はwox13 変異体やwox135 変異体のように細葉で葉形が多様で非対称であることが判った。これらの結果から、wox135 変異体ではオーキシン生合成が抑制されており、WOXとYUCCAは同じ経路を介して葉の成長を部分的に制御していることが示唆される。YUC 遺伝子の葉での発現を見ると、YUC1 は葉基部の周縁部で発現し、YUC4 は葉先や鋸歯部で発現していた。また、YUC4 は葉が発達するにつれて発現領域が基部から周縁部に沿って遠位に拡大していった。一方で、wox135 変異体ではYUC1YUC4 の発現は葉柄基部では見られるが周縁部での発現は強く減少していた。このことから、WOX 遺伝子はYUC1YUC4 の葉縁部での特異的発現に必要であると考えられる。wox135 変異体においてYUC1WOX3 プロモーター制御下で葉原基周縁部で発現させたところ、細葉から野生型のような丸い葉形に回復した。したがって、周縁部での局所的なYUC 遺伝子の活性化は葉身の成長にとって重要であると考えられる。葉のタイムラプス撮影による成長過程の観察から、野生型植物の葉身では、細胞の成長と増殖に求基的な勾配が見られるが、wox135 変異体の葉は縦方向の成長は正常だが葉身基部での細胞増殖が低下したために、細葉となることが判った。したがって、WOX 遺伝子は葉身の個々の領域で成長の方向性に対して異なる影響を示し、葉身基部では横方向と縦方向の両方向の成長と細胞増殖を促進していると考えらられる。以上の結果から、WOXによるオーキシン生合成の調節がもたらす葉身の成長勾配がシロイヌナズナの楕円形の葉を形成すると考えられる。

マックスプランク植物育種研究所のNews

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論文)アブラムシの唾液による植物の防御応答活性化

2021-01-07 09:13:43 | 読んだ論文備忘録

An Aphid-Secreted Salivary Protease Activates Plant Defense in Phloem
Guo et al.  Current Biology (2020) 30:4826-4836.

doi:10.1016/j.cub.2020.09.020

アブラムシの99%は1種または数種の近縁植物を宿主とするスペシャリストだが、ジェネラリストのアブラムシも存在する。アブラムシは他の昆虫群に比べて宿主種特異的な遺伝子を多く保有しており、そのような遺伝子には化学物質の検出や反応、転写や代謝の制御に関連するものが多く含まれ、その一部は唾液腺で発現していることが明らかになっている。ジェネラリストアブラムシのモモアカアブラムシ(Myzus persicae )は、タバコに適応した系統(TA)と適応していない系統(NTA)があり、TA系統はニコチン解毒酵素(CYP6CY3)遺伝子のコピー数がNTA系統よりも多い。中国科学院 動物研究所Sun らは、タバコで飼育したTAアブラムシとNTAアブラムシの頭部のRNA-seq解析を行ない、NTAアブラムシでは 600遺伝子の発現が低下し、592 遺伝子の発現が増加していることを見出した。また、システインプロテアーゼをコードするカテプシンB(CathB)遺伝子がNTAアブラムシで高発現していることが判った。実際にNTAアブラムシの唾液にはCathBタンパク質A9JSH5が多く含まれており、このタンパク質をコードするCathB3 の唾液腺での発現量も増加していた。また、NTAアブラムシが摂食しているタバコの篩管液にはCathB3タンパク質が含まれていた。CathB3 をノックダウンしたNTAアブラムシはタバコでの摂食時間が長くなり生存率が上昇した。よって、CathB3はNTAアブラムシのタバコの摂食適性に負に作用していることが示唆される。また、タバコにおいてアブラムシのCathB3 を発現させることでTAアブラムシの生存率と摂食効率が低下した。タバコにおいてCathB3と相互作用をするタンパク質を探索したところ、セリン/スレオニン-タンパク質キナーゼMAPKKKのEDR1-likeタンパク質が見出された。EDR1-likeを過剰発現させたタバコは、成長や花成が遅延したが、アブラムシの摂食回数と時間を系統に関係なく減少させた。また、RNAiでEDR1-likeの発現を抑制したタバコではアブラムシの摂食回数と時間が増加した。したがって、EDR1-likeはアブラムシの摂食効率を低下させることでタバコにアブラムシに対する効果的な防御をもたらしていることが示唆される。NTAアブラムシが摂食しているタバコおよびEDR1-likeを過剰発現させたタバコで発現量の高い遺伝子が12あり、その中にはrespiratory burst oxidase homolog protein (Rboh )  とpathogenesisrelated protein1 (PR1 ) が含まれていた。また、NTAアブラムシによる摂食はTAアブラムシによる摂食よりもタバコの活性酸素種(ROS)生産量を増加させた。よって、NTAアブラムシの摂食はEDR1-likeの活性化を介してROSやPR1タンパク質の生産を高めていることが示唆される。CathB3 をノックダウンしたNTAアブラムシによる摂食は対照アブラムシによる摂食よりもタバコのRbohDPR1 の発現量が減少していた。また、EDR1-likeはアブラムシCathB3によるROS生産に関与していることが確認された。以上の結果から、アブラムシの唾液に含まれるプロテアーゼCathB3がタバコMAPKKKのEDR1-likeと相互作用をすることで篩部において活性酸素種生産等の防御応答が誘発され、アブラムシの摂食を抑制していると考えられる。

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論文)インドール酪酸トランスポーター

2021-01-04 16:12:45 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis NRT1/PTR FAMILY protein NPF7.3/NRT1.5 is an indole-3-butyric acid transporter involved in root gravitropism
Watanabe et al.  PNAS (2020) 117:31500-31509.

doi:10.1073/pnas.2013305117

シロイヌナズナは硝酸・小ペプチド輸送体ファミリー(NPF)タンパク質を53種有しており、そのうちの幾つかは植物ホルモンを輸送することが知られている。理化学研究所 環境資源科学研究センター瀬尾らは、根において硝酸やカリウムのトランスポーターとして機能することが報告されていたNPF7.3/NRT1.5の変異体npf7.3 の芽生えが、縦型プレートで栽培した際に野生型よりも根の波状のうねりが多くなり、重力屈性が低下していることを見出した。根の重力屈性にはオーキシンが関与していることから、酵母を用いたいトランポートアッセイを行なったところ、NPF7.3はインドール酢酸(IAA)よりもインドール酪酸(IBA)を効率よく細胞内に輸送することが判った。また、npf7.3 変異体は根のIAA含量に変化は見られなかったが、IBA含量が野生型の半分程度に低下していた。IBAは外部から添加した際にペルオキシソームにおいてIAAに変換されることが知られている。そこで、npf7.3 変異体にIAAを添加したしたところ、重力屈性の低下が部分的に回復した。しかしながら、IBAの添加による回復は見られなかった。次に、根でのIAA分布をオーキシン応答マーカー(DR5rev:GFPDR5:GUS )を用いて観察したところ、npf7.3 変異体では野生型と比較してレポーターのシグナル強度が低い、IBA処理によるレポーター発現誘導量が低い、根に重力刺激を与えた際のレポーター発現の不等分布があまり顕著ではないことが判った。また、野生型植物にIAAもしくはIBA処理をするとレポーターのシグナルが強まり、根端部でシグナルが不等分布を示すが、npf7.3 変異体ではIAA処理ではシグナルの不等分布が形成されるが、IBA処理では見られなかった。NPF7.3に最も近いホモログで低親和性硝酸トランスポーターNRT1.8として知られているNPF7.2をNPF7.3 プロモーター制御下でnpf7.3 変異体で発現させたところ、重力屈性応答が回復した。NPF7.3 は主に成熟根の内鞘細胞で発現しており、主根の根端部の中心柱細胞やコルメラ細胞でも発現していた。npf7.3 変異体はIBA処理による側根形成に対して感受性が高く、主根の伸長阻害に対しては感受性が低かった。以上の結果から、細胞へのIBAの取り込みはNPF7.3を介して行われており、この輸送は根の重力屈性に必要なIAAの生産に寄与していることが示唆される。


理化学研究所のプレスリリース

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謹賀新年

2021-01-01 07:42:43 | Weblog

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 

レブンシオガマ(礼文塩釜)Pedicularis chamissonis var. rebunensis
ハマウツボ科シオガマギク属
2020年6月21日 北海道礼文島

 

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