Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)トウモロコシの分けつを抑制する因子

2011-08-30 19:42:30 | 読んだ論文備忘録

grassy tillers1 promotes apical dominance in maize and responds to shade signals in the grasses
Whipple et al.  PNAS (2011) 108:E506-E512.
doi:10.1073/pnas.1102819108

米国 コールド・スプリング・ハーバー研究所Jackson らは、トウモロコシの花の発達に関する突然変異体の選抜を行ない、雄穂において心皮の成長が抑制されない変異体を選抜した。この変異体は、花の表現型に加えて、栄養成長期の分けつ成長が旺盛となり、穂数が増えて分枝した穂が伸長した。これらの表現型は、変異体では腋芽の休眠が失われていることを示唆している。これらの表現型は完全には劣性でなく、ヘテロ接合体では分けつや花の表現型に変化は見られないが、穂数の増加や穂軸の伸長が僅かに起こった。変異体の表現型と半優性という性質は、トウモロコシの古典的な変異体であるgrassy tillers1gt1 )と類似しており、この変異体とgt1 は対立遺伝子であることが確認されたので、gt1-1 と命名した。gt1-1 のマッピングを行なったところ、第一染色体短腕のホメオドメインロイシンジッパー(HD-Zip)遺伝子のスプライスドナー部位にGからAへの置換が生じてホメオドメイン内でフレームシフトが起こっていることがわかった。gt1 はδサブファミリーに属するクラスI HD-Zipをコードしている。gt1 とパラロガスなクレイドの遺伝子にオオムギの条性決定遺伝子six-rowed spike 1Vrs1 )があり、オオムギの栽培化の過程において二条オオムギからVrs1 機能喪失対立遺伝子を持った六条オオムギが選抜された。gt1 転写産物はシュート腋芽で検出され、分裂組織を抱く葉原基と前形成層組織に発現が限定されて分裂組織自体では発現は見られなかった。穂の原基では、若い心皮原基の雌ずい群の先端部で強い発現が見られ、内花頴や外包頴でも弱い発現が見られた。しかし、外花頴や内包頴では発現が見られなかった。gt1 プロモーター制御下でGT1-YFP融合タンパク質を発現させたところ、GT1-YFPは核に局在し、腋芽の葉において発現が見られた。また、GT1-YFP蛍光は分裂組織の核においても検出され、分裂組織のgt1 mRNAはin situ ハイブリダイゼーションでは検出限界以下であるかGT1タンパク質は葉原基から分裂組織へと移行しているものと思われる。トウモロコシgt1 が腋芽で発現してその成長を抑制することから、gt1 は避陰反応に関与していることが示唆される。トウモロコシ栽培品種では腋芽の成長が抑制されているので、テオシントとソルガムを用いてgt1 と避陰反応との関係を調査した。テオシント芽生えを遠赤色光照射下で育成すると避陰反応を起こして草丈が高くなり腋芽の成長が阻害されるが、この時gt1 転写産物は腋芽において高レベルで蓄積していた。ソルガムのphyB-1 機能喪失変異体は腋生分枝の成長が殆ど見られず、この変異体の腋芽においてもソルガムGt1SbGt1 )転写産物の蓄積量増加が観察された。よって、ソルガムやテオシントのgt1 オーソログは避陰反応経路において腋芽の頂芽優勢を制御しており、この応答はフィトクロムシグナル伝達の制御下にあることが示唆される。トウモロコシの腋芽の成長を抑制する転写因子としてはTCPファミリーに属するteosinte branched1(tb1)が知られているが、gt1-1 変異体の成長中の腋芽でのtb1 の発現は野生型と同じであり、tb1 変異体の腋芽でのgt1 の発現量は野生型と比べて非常に低くなっていた。よって、gt1tb1 は同一経路上で腋芽の成長を制御しており、gt1 の発現はtb1 によって制御されていると考えられる。トウモロコシの分けつ数減少に関与する主要なQTLはgt1 を含んでいる第一染色体短腕にあり、トウモロコシ栽培化の過程においてこのQTLが選抜されてきたものと思われる。

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論文)根の成長においてオーキシンとサイトカイニンのクロストークに関与するF-boxタンパク質

2011-08-28 18:04:31 | 読んだ論文備忘録

AUXIN UP-REGULATED F-BOX PROTEIN1 Regulates the Cross Talk between Auxin Transport and Cytokinin Signaling during Plant Root Growth
Zheng et al.  Plant Physiology (2011) 156:1878-1893.
doi:10.1104/pp.111.179812


米国 ウィスコンシン大学Vierstra らは、シロイヌナズナのF-BOXタンパク質をコードする遺伝子について各種オミクス解析を行ない、IAAによって発現が強く誘導されるAUXIN UP-REGULATED F-BOX PROTEIN1AUF1At1g78100)と命名した遺伝子について詳細な解析を行なった。AUF1 にはAUF2At1g22220)と命名したパラログが存在するが、AUF2AUF1 に比べて発現量が低く、オーキシン処理による発現量の変化は見られなかった。T-DNA挿入されたauf1 変異体、auf2 変異体、およびauf1 auf2 二重変異体は通常の成育条件で表現型に野生型との差が見られず、正常に稔実した。よって、AUF1、AUF2はシロイヌナズナの成長・生殖過程に必須ではないと考えられる。変異体の天然オーキシンIAAや合成オーキシンNAAに対する応答性も正常であった。しかし、auf1 変異体とauf1 auf2 二重変異体はオーキシン輸送阻害剤の1-ナフチルフタラミン酸(NPA)や2,3,5-トリヨード安息香酸(TIBA)を添加した培地ので芽生えの根の伸長阻害が野生型よりも強く現れた。このことは、AUF1はオーキシン輸送を促進する作用があることを示唆しており、auf1 変異体芽生え根では求基的(シュート方向)と求頂的(根端方向)の両方向のオーキシン輸送が抑制されていた。NPA処理よる根端のオーキシン極大領域の拡張は、auf1 変異体ではさらに大きくなり、根毛を形成する伸長-分裂領域にまで広がった。よって、AUF1は根端部と伸長分裂領域の境界部分の限定された領域でのオーキシン分布の制御に関与していると考えられる。これまでに知られている根のオーキシン輸送に影響を及ぼす変異体は求基的か求頂的かのどちらかの方向に対して影響しているが、auf1 変異体は両方向とも抑制することから、AUF1はオーキシン輸送網全体に対して影響しているものと思われる。auf1 変異体ではオーキシン排出キャリアをコードするPIN2PIN3PIN4 の発現量が野生型と比べて低下しており、PIN1 の発現量に変化はなかったが、PIN7 の発現量が大きく増加していた。よって、AUF1は特定のPINタンパク質の蓄積を制御していると考えられる。このような特定のPIN 遺伝子の発現制御はサイトカイニン処理によって観察されることから、auf 変異体芽生えをサイトカイニン(カイネチン、ゼアチン)処理した際の根の伸長阻害を見たところ、auf1 変異体とauf1 auf2 二重変異体はサイトカイニン感受性が高くなっていることがわかった。auf1 変異体に対するサイトカイニン処理は、NPA処理と同様に、オーキシン輸送をさらに抑制させた。サイトカイニンによる根の伸長阻害には、サイトカイニンによってエチレン生産が刺激され、生産されたエチレンによって細胞伸長が抑制されることが関与している。そこで、auf1 変異体にサイトカイニンとエチレン生合成阻害剤の2-アミノエトキシビニルグリシン(AVG)を同時に与えたところ、サイトカイニン過敏感性が打ち消された。タイプAレスポンスレギュレーターをコードするARR5ARR15 はサイトカイニンにより発現誘導されるが、auf1 変異体では野生型やauf2 変異体よりも発現誘導量が高くなっていた。サイトカイニンは細胞数を減らすことで根端分裂組織を小さくすることが知られているが、auf1 変異体の根端分裂組織の大きさはサイトカイニン無処理では野生型と同じであり、サイトカイニンに処理による根端分裂組織のサイズ縮小も野生型と同じように起こった。したがって、AUF1は根端部裂組織の細胞数の制御はしていないが、サイトカイニンに応答してなされる伸長/分化に対して影響していると推測される。auf1 変異体をサイトカイニン処理すると根の成長速度が野生型よりも遅くなるが、これは細胞伸長量が低下したことによるものであることが確認された。AUF1 とタイプBレスポンスレギュレーターARR1 との二重変異体arr1-5 auf1-2 をNPAもしくはサイトカイニン処理した場合、根の伸長阻害の程度は野生型やarr1 単独変異体と同等になることから、ARR1AUF1 と同じ経路において作用しており、上位に位置していると考えられる。よって、ARR1タンパク質はSCFAUF1/2の直接のターゲットであるかもしれない。

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論文)根毛パターン形成を制御する因子による花成制御

2011-08-25 20:20:32 | 読んだ論文備忘録

WEREWOLF, a Regulator of Root Hair Pattern Formation, Controls Flowering Time through the Regulation of FT mRNA Stability
Seo et al.  Plant Physiology (2011) 156:1867-1877.
doi:10.1104/pp.111.176685

シロイヌナズナMYB転写因子のWEREWOLF(WER)は根毛のパターン形成制御に関与していることが知られている。韓国 ソウル大学校Lee らは、wer 機能喪失変異体およびWER 過剰発現形質転換体を観察し、長日条件下においてwer 変異体は抽台時のロゼット葉数が野生型よりも多くなること、WER 過剰発現個体は野生型よりも早く花成することを発見した。wer 変異体にWER 遺伝子を導入した個体やwer のヘテロ接合系統の花成は野生型と同等になることから、wer は劣性の花成遅延変異体であると考えられる。wer 変異体の花成は短日条件下では野生型と同等であり、低温春化処理による花成促進は幾分かの遅れが見られた。よって、WER の機能喪失は長日条件でのみ花成遅延を起こし、低温処理に対する感受性も若干弱くなっているという日長経路の変異体cogi と類似した花成を示す。WER は根で発現していることが知られているので、wer 変異体と野生型植物との間で接木試験を行なって根で生産されたWERが地上部の花成に影響するかを見たが、花成遅延は接ぎ穂がwer 変異体の場合にのみ起こり、根で発現するWER は花成時期に影響しないことがわかった。WER は根で強く発現しているが、若い葉、茎頂、ロゼット葉、茎、花序においても発現が検出される。WER プロモーターでGUS を発現させた形質転換体芽生えでは、GUS の発現が胚軸、茎頂、根端で見られ、子葉の周縁部でも弱い発現が確認された。成熟個体では、葉柄、茎、柱頭、長角果で発現が見られ、茎頂や根端での発現は胚の段階から見られた。葉での発現は葉が成長するにつれて消失していった。茎頂部での発現は葉原基の表皮に集中していた。WER 転写産物量は長日条件と短日条件で差が見られず、長日条件下において日変化は起こっていなかった。また、低温春化処理、ジベレリン処理といった花成を誘導する処理を行なってもWER 発現量に変化は見られなかった。花成時期に変化の見られる各種変異体(ft-1co-101gi-2flc )におけるWER の発現量にも変化見られず、WER の発現は花成を誘導する経路とは独立していると考えられる。長日条件下のwer 変異体茎頂ではFT の転写産物量が野生型よりも少なく、COFDSOC1 転写産物量は野生型と同等であった。また、短日条件下ではwer 変異体と野生型との間でこれらの遺伝子の転写産物量に差は見られなかった。よって、WERCO とは独立してFT を制御していると考えられる。FT の過剰発現はwer 変異体の花成遅延を完全に抑制したが、CO の過剰発現での抑制は部分的であった。wer 変異とflc 変異は花成遅延に対して相加的に作用することから、WERFLC は独立して作用していると考えられる。花成促進されるWER 過剰発現個体ではFTSOC1 の転写産物量が増加しており、ft 変異体やsoc1 変異体でのWER 過剰発現は花成促進が見られなかった。wer 変異体でのFT 発現量の概日変化は維持されていたが、転写産物量は野生型よりも少なかった。WER は表皮で発現しているが、FT は維管束走向で発現しているので、両者の発現部位は異なっている。よって、WER は直接FT の発現を制御しているのではないと思われる。そこで、野生型とwer 変異体においてFT プロモーターでGUS を発現させたところ、両者のGUS 発現量に差が見られなかった。また、クロマチン免疫沈降によりFT プロモーターに結合するRNAポリメラーゼIIの量を見たところ、野生型とwer 変異体で差は見られなかった。よって、wer 変異体ではFT の転写ではなく転写後にmRNAの分解のような制御を受けているものと思われる。wer 変異体のFT mRNAの半減期は野生型よりも短くなっており、対照としたmRNAでは両者で半減期に差が見られなかったことから、WERFT mRNAの安定性を制御していると考えられる。WERタンパク質はTTG1やGL3/EGL3と複合体を形成してGL2CPC の発現を正に制御して根毛パターン形成を調節している。これら、WERタンパク質と複合体を形成するタンパク質をコードする遺伝子、WER複合体によって発現制御されている遺伝子の変異体での花成時期を見たところ、WER複合体の因子コードする遺伝子の変異体ではwer 変異体と同様に花成が遅延した。よって、WERの下流のシグナルではなくWER複合体自体がFT mRNAの安定性を制御していると考えられる。

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論文)サイトカイニン受容体は小胞体膜に局在する

2011-08-23 20:44:09 | 読んだ論文備忘録

The Cytokinin Receptors of Arabidopsis Are Located Mainly to the Endoplasmic Reticulum
Wulfetange et al.  Plant Physiology (2011) 156:1808-1818.
doi:10.1104/pp.111.180539

サイトカイニンは膜に局在するヒスチジンキナーゼによって受容される。シロイヌナズナには、ARABIDOPSIS HISTIDINE KINASE2(AHK2)、AHK3、CYTOKININ RESPONSE1/AHK4の3種類のサイトカイニン受容体が存在している。現在のサイトカイニンシグナル伝達モデルでは、サイトカイニン受容体は細胞膜に局在していると考えられており、実験的にもシロイヌナズナプロトプラストにおいてAHK3-GFP融合タンパク質が細胞膜に局在するという報告がある。しかしながら、このことを証明する追加実験はなされておらず、サイトカイニン受容体が内膜に局在する可能性を排除することはできていない。さらに、サイトカイニン受容体の生化学的な研究から、この受容体のサイトカイニン結合活性は中性から弱アルカリ性において最大となることが示されており、受容体はアポプラストではなく細胞内で機能していることも考えられる。ドイツ ベルリン自由大学Schmülling らは、シロイヌナズナ発芽6日目の芽生えから単離した膜を二層分配法により細胞膜画分と内膜画分に分け、内膜画分は細胞膜画分よりも4倍サイトカイニン結合することを見出した。それぞれの画分に含まれる内膜タンパク質の分配を考慮すると、サイトカイニン結合部位の98%以上は内膜に存在すると考えられる。サイトカイニン受容体の二重変異体でそれぞれ1種類の受容体のみが含まれる変異体芽生えを用いて同様の実験を行なったところ、AHK3、AHK2のみが発現している変異体では野生型と同じくサイトカイニン結合活性が内膜画分に見られ、CRE1/AHK4のみ発現する変異体では幾分か細胞膜画分のサイトカイニン結合が高くなっていたが、結合部位の90%以上は内膜画分に見られた。よって、シロイヌナズナのサイトカイニン受容体の3種類すべてが内膜に局在しているものと思われる。AHK3-GFP融合タンパク質をタバコ(Nicotiana benthamiana )の葉の表皮細胞で発現させて細胞内局在を観察したところ、AHK3-GFPの局在パターンは小胞体膜局在タンパク質と同じパターンを示した。また、AHK3-GFPは小胞体膜局在の特徴である核周囲において強いシグナルを発していた。AHK3-GFPシグナルと細胞膜のFM4-64色素による染色を重ねたところ、シグナルが重なる領域は非常に限られており、AHK3-GFPの大部分は細胞膜ではなく小胞体膜に局在することが示唆された。同様の結果はGFP-CRE1/AHK4融合タンパク質を用いたい実験からも示された。AHK2についてはsplitYFPを融合させてBiFC法による細胞内局在を調査し、先の結果と同様にAHK2-Split-YFP二量体がER様の細胞内ネットワークや核周囲に局在していることを確認した。AHK3とAKH2にMycのタグをつけて発現させ、ミクロソーム画分をショ糖密度勾配遠心で分画して免疫ブロット法による検出を行なったところ、小胞体膜のマーカーであるBiP2と同じ挙動を示すことが確認された。発芽6日目芽生えと発芽18日目のシュートを実験材料に用いて試験を行なったが、どちらもサイトカイニン受容体は小胞体膜に局在することを示す結果となり、植物の齢に関係なくサイトカイニン受容体は小胞体膜に局在すると考えられる。

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論文)ポリアミンの異化とアブシジン酸シグナルとの関係

2011-08-22 05:59:47 | 読んだ論文備忘録

COPPER AMINE OXIDASE1 (CuAO1) of Arabidopsis thaliana Contributes to Abscisic Acid- and Polyamine-Induced Nitric Oxide Biosynthesis and Abscisic Acid Signal Transduction
Wimalasekera et al.  Molecular Plant (2011) 4:663-678.
doi: 10.1093/mp/ssr023

プトレシン、スペルミジン、スペルミンといったポリアミン(PA)は、植物の様々な成長過程やストレス応答に関与していることが知られている。細胞内のPA量の制御にアミンオキシダーゼによるPAの酸化的異化が関与しており、シロイヌナズナゲノムには銅結合アミンオキシダーゼ(CuAO)をコードする遺伝子が12、FAD結合アミンオキシダーゼ(PAO)をコードする遺伝子が5つある。両遺伝子とも非生物/生物ストレスによって発現制御され、これらの活性がPAによる生理作用に関与していると推測されている。ドイツ ハノーファー大学のScherer らは、銅アミンオキシダーゼ1(CuAO1 ;At1g62810)のT-DNA挿入cuao1 変異体ではPAまたはアブシジン酸(ABA)を与えた際の一酸化窒素(NO)の放出量が減少していることを見出した。よって、これらの処理によるNO生成にCuAO1 が関与していると考えらる。細胞を透過するNO-感受性フルオロフォアのジアミノローダミン-4M-アセトキシメチル(DAR-4M AM)を用いてNO生成部位を詳細に調査したところ、野生型植物をPAまたはABA処理した際のNO生成の増加は一次根の根端部で観察され、cuao1 変異体では無処理の芽生えでは野生型と蛍光の程度に差は見られないが、PAまたはABA処理した際の蛍光の増加が少なくなっていた。野生型植物においてCuAO1 遺伝子の発現はABA処理によって誘導された。野生型植物もcuao1 変異体もPA処理による過酸化水素(H2O2)の生成が見られたが、cuao1 変異体ではスペルミジン処理によるH2O2生成量が野生型よりも低くなっていた。また、cuao1 変異体ではABA処理によるH2O2生成量も減少していた。cuao1 変異体種子は通常の条件下での発芽率は野生型と同等だが、ABA存在下での発芽率は野生型よりも高く、発芽後の緑化した子葉の割合も高くなっていた。cuao1 変異体芽生えはABAもしくはマンニトール存在下で野生型よりも一次根が伸長しており、cuao1 変異体はABAや浸透圧ストレスによる根の伸長阻害に対する感受性が低下していた。cuao1 変異体ではABA処理によるABA生合成遺伝子ABA1 の発現誘導は野生型よりも高くなっていたが、ABA応答遺伝子のRD29AADH1 の発現誘導は野生型よりも低くなっていた。以上の結果から、CuAO1 はPAによって誘導されるH2O2やNOを介したABAシグナル伝達に関与しているものと思われる。

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論文)ジベレリンによるオーキシン輸送の制御

2011-08-20 20:58:19 | 読んだ論文備忘録

Gibberellin Regulates PIN-FORMED Abundance and Is Required for Auxin Transport-Dependent Growth and Development in Arabidopsis thaliana
Willige et al.  The Plant Cell (2011) 23:2184-2195.
doi:10.1105/tpc.111.086355

これまでの知見から、ジベレリン(GA)とオーキシン輸送との間にはクロストークが存在することが示唆されているが、その詳細は明らかとなっていない。ドイツ ミュンヘン工科大学Schwechheimer らは、シロイヌナズナのGA生合成機能喪失変異体ga1 、GA受容体機能喪失変異体gid1ac 、恒常的にGAシグナル伝達が抑制された機能獲得変異体gai-1 の花序茎を用いてオーキシン輸送を野生型と比較し、これらの変異体ではオーキシン輸送能力が低下していることを見出した。GA生合成阻害剤パクロブトラゾ-ル(PAC)処理をした芽生え根の分裂組織領域ではオーキシン排出キャリアのPIN1、PIN2、PIN3の量が減少しており、この減少はga1 変異体においても観察された。しかしながら、PAC処理をした芽生えもga1 変異体も個々のPINタンパク質の極性には変化が見られなかった。また、GA処理をすることでPINタンパク質量は回復した。よって、根の分裂組織領域のPINタンパク質量はGAによる制御を受けていると考えられる。ただし、根におけるGAによるPINタンパク質量の変化は分裂組織細胞に限定されており、伸長領域や分化領域ではそのような変化は見られなかった。GA欠損変異体の花序茎においてもPIN1タンパク質量の減少が観察されたことから、先のオーキシン輸送能力の低下はPINタンパク質量の減少によると考えられる。PIN1 プロモーターによりGUS を発現させるコンストラクト(PIN1:GUS )を導入した形質転換体の根端部でのGUS の発現はGA処理によって減少し、PIN1タンパク質量の変化とは一致していなかった。したがって、GA処理によるPINタンパク質の蓄積はPIN 遺伝子の発現では説明できない。野生型およびga1 変異体でPIN2:GFP を発現させ、根表皮細胞でのPIN2:GFPの細胞内局在を観察したところ、ga1 変異体の液胞中のPIN2:GFPシグナルが野生型のものよりも高くなっていた。また、ga1 変異体根端部のPIN2タンパク質含量は野生型よりも少ないが、コンカナマイシンA(ConA)処理をして液胞でのタンパク質分解を阻害したところPIN2タンパク質量がga1 変異体と野生型でほぼ同じになった。したがって、ga1 変異体根端細胞の細胞膜上のPIN2タンパク質量の減少は、GA欠損によって液胞へ輸送されるPIN2タンパク質が増加した結果生じたものであると考えられる。ga1 変異体芽生えの子葉は、癒合する、一葉になる、三葉になるといったpin1 変異体と類似した表現型を示す個体が見られ、ga1 pin1 二重変異体では異常な子葉を形成する芽生えの頻度が高くなった。よって、GA1 (すなわちGA生合成)は正常な子葉形成に必要であり、ga1 変異体やga1 pin1 二重変異体で観察される子葉の異常はGAによるオーキシン輸送の低下によって生じていると考えられる。GA欠損変異体芽生えは根の重力屈性も低下しており、DELLAタンパク質の機能を喪失させたga1 変異体では重力屈性低下が解消された。よって、根の重力屈性にはGA生合成が必要であり、DELLAタンパク質を介したGAシグナル伝達が関与していると考えられる。ga1 変異体の根では重力方向の変化による下側のオーキシン極大形成が遅くなっており、これはga1 変異体ではPIN2タンパク質量が減少していることによるものであると思われる。GAによるPINタンパク質の液胞へのターゲッティングの制御機構については明らかとなっていない。

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論文)乾燥、塩ストレスにおけるサイトカイニンの役割

2011-08-18 05:54:47 | 読んだ論文備忘録

Analysis of Cytokinin Mutants and Regulation of Cytokinin Metabolic Genes Reveals Important Regulatory Roles of Cytokinins in Drought, Salt and Abscisic Acid Responses, and Abscisic Acid Biosynthesis
Nishiyama et al.  The Plant Cell (2011)23:2169-2183.
doi:10.1105/tpc.111.087395

サイトカイニン(CK)は植物の成長を促進する作用があるが、最近の研究結果からストレス応答に関与していることが明らかとなりつつある。理化学研究所植物科学研究センターTran らは、内生CK量を低下させるためにサイトカイニンオキシダーゼ/デヒドロゲナーゼ(CKX )を過剰発現させたシロイヌナズナは塩ストレスと乾燥ストレスに対して耐性があることを見出した。よって、CKはストレス応答に対する負の制御因子として作用していることが示唆される。同様に、CK生合成に関与するイソペンテニルトランスフェラーゼ(IPT )の変異により内生CK量が減少したipt1 3 5 7 変異体も塩ストレスや乾燥ストレス耐性を示した。乾燥ストレス条件下において、CK欠損変異体は野生型植物よりも水分の喪失が少なくなっていたが、気孔の開閉の程度はアブシジン酸に対する応答性も含めて野生型と同等であり、単位葉面積あたりの気孔数も野生型と変わりはなかった。よって、CK欠損植物体の乾燥耐性は、気孔密度やABAによる気孔閉口制御によるものではなく、水欠乏に対しての感受性や応答性が高くなってことによると考えられる。CK欠損植物では植物の乾燥耐性の主要な要素である細胞膜の安定性が野生型よりも高くなっていることが確認された。CK欠損植物のABA含量は、ipt1 3 5 7 変異体においてもCKX 過剰発現個体においても野生型よりも少なくなっていた。よって、CK含量の低下はABA含量の増加をもたらしてはいない。このCK欠損植物のABA量の低下は、ABA生合成に関与しているABA1ABA2AAO3 の発現量低下によるものと考えられる。また、CK欠損植物は添加したABAに対する感受性が野生型よりも高くなっていた。これはCK欠損植物が内生ABA量の低下を補償するために添加されたABAに対しての感受性か応答性が高くなっていることによるものと思われる。CK欠損植物が乾燥や塩ストレスに曝された際のABA量の増加は野生型植物と同等であったが、ABA応答遺伝子は野生型植物よりも強く誘導されていた。野生型植物において、IPT 遺伝子やCKX 遺伝子の発現量は乾燥や塩ストレス、ABA処理によってCK含量を減少させる方向へと変化し、内生CK量は乾燥ストレスによってトランスゼアチン(tZ)型CK量が減少し、塩ストレスによってtZ型CKとイソペンテニルアデニン(iP)型CKが減少した。これまで塩ストレスや乾燥ストレスに対する応答はABAの作用を中心に解析がなされてきたが、今回の結果からCKも重要な役割を担っていることが示唆される。

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論文)葉身の成長に関与する因子

2011-08-16 22:14:44 | 読んだ論文備忘録

STENOFOLIA Regulates Blade Outgrowth and Leaf Vascular Patterning in Medicago truncatula and Nicotiana sylvestris
Tadege et al.  The Plant Cell (2011) 23:2125-2142.
doi:10.1105/tpc.111.085340

米国 オクラホマ州立大学Tadege らは、タルウマゴヤシ(Medicago truncatula )R108系統にタバコTnt1レトロトランスポゾンを挿入した集団5600個体の中から葉身の細くなった7つの変異体を選抜し、これらの変異体をstenofoliastf ;ギリシャ語でstenosは「細い」を意味する)と命名した。stf 変異体では、葉身形成の誘導は起こり、幾分かの葉身組織は形成されるが、それから先は基部から先端への軸方向へは成長するが、横方向への成長が止まっていた。R108系統の成熟葉は先端から葉柄かけての2/3の葉縁に鋸歯が形成されるが、stf 変異体の葉縁には鋸歯がなく、単葉(第1葉)を除いて葉の向軸側-背軸側の分化が不完全であった。stf 変異体では花においても横方向の拡張が不完全で、外花弁が細くなり、葯、柱頭、子房壁が閉じずに胚珠がむき出しとなっていた。R108系統の葉では側脈が中央脈から等間隔に葉縁の鋸歯まで放射状に伸び、多くの小脈が葉身全体で分枝して網目状となるが、stf 変異体の葉では、中央脈は細く目立たず、側脈の発達が悪く、数が少なく、葉縁まで伸びていなかった。さらに中央脈の両側に別の主脈様の構造が基部から先端に向けて形成され、小脈の数が少なくなっていた。stf 変異体の表皮細胞は野生型よりも細長くなっていた。stf 変異体葉身の横方向の細胞数は野生型の1/3であり、葉縁部の細胞は野生型よりも短くなっていた。葉肉組織の細胞分化が不完全であり、柵状細胞と海綿状細胞の区別がつきにくくなっていた。また中央脈での木部細胞と師部細胞の違いも不明瞭となっていた。以上の結果が示すように、stf 変異体の葉は、極性は維持されているが、細胞の分裂、拡張、分化、維管束形成といった葉身の成長に不備が見られる。STF 遺伝子は358アミノ酸からなるホメオドメイン転写因子をコードしており、STFはシロイヌナズナWOX1と38%、ペチュニアMAWと45%の相同性があった。STF様(STL )の遺伝子はこれまでに配列が明らかとなっているすべての双子葉植物において見出された。STF は若い葉原基では向軸側の幾つかの細胞で発現しており、その後葉原基が発達するにつれて先端から基部にかけての向軸側と背軸側の境界部分で発現が見られるようになった。花では、花弁原基や発達中の花弁で発現しており、発達中の心皮の周縁部、子房基部の胎座部分で発現していた。若い三出葉では、葉の先端側の葉縁部で発現し、葉が成長するにつれて発現領域が基部側へと移行して徐々に弱くなり、成熟葉では発現が見られなかった。単葉、根、子葉、さやにおいても発現が検出された。野生タバコNicotiana sylvestris の古典的な葉身欠損lam1 変異体の表現型がMtstf 変異体と類似していることから、NsSTF1 遺伝子をクローニングして塩基配列を見たところ、アミノ酸レベルで45%の相同性があった。lam1 変異体のNsSTF1 遺伝子座には少なくとも5.67-kbの欠損があり、NsSTF1 ゲノム断片をlam1 変異体に導入したところ変異が相補された。したがって、STFLAM1 のホモログであることが示唆される。タルウマゴヤシの野生型とstf 変異体の芽生え茎頂部での遺伝子発現を比較したところ、241遺伝子で2倍以上の発現量の差があり、105遺伝子は変異体で発現量が増加し、136遺伝子は減少していた。発現量が低下する遺伝子の17.5%、発現量が増加する遺伝子の17.3%は植物ホルモン、特にオーキシンによる制御を受ける遺伝子であった。このことは、葉身成長にとってオーキシンが重要な役割を果たしていることを示唆している。変異体の葉のオーキシン含量は、stf 変異体は野生型の68%、lam1 変異体は野生型の50%程度に低下していた。lam1 変異体へのオーキシン処理、オーキシンの前駆体としてのTrp処理をした実験から、変異体ではオーキシン応答、輸送に異常は見られず、Trpよりも上流の過程のオーキシン生合成経路が影響を受けていることが示唆された。そこで、lam1 変異体における代謝産物量を詳細に調査したところ、シキミ酸経路の代謝産物と五炭糖や六炭糖の代謝産物が変異体において減少していることがわかった。したがって、lam1 変異体でのオーキシン量の低下は糖代謝系全体の低下によって引き起こされているものと思われる。N. sylvestrisSTF を過剰発現させたところ、内生オーキシン量が2倍に増加したが、オーキシンやサイトカイニンを過剰生産した植物体のような表現型を示し、わい化し、花成せず、シュート、根、葉に奇形が生じた。よって、内生オーキシン含量の低下だけでは変異体の葉身異常は説明できないと思われる。また、STF 過剰発現個体では根や地上部に腫瘍が形成されたことから、STF 過剰発現個体はサイトカイニンも過剰生産されているものと思われる。lam1 変異体の茎頂部にサイトカイニンを与えると、しばしば葉の分枝が、まれにシュートが形成された。また、オーキシンとサイトカイニンを同時に与えるとlam1 変異体の表現型が部分的に回復した。よって、STF はサイトカイニン生合成にも関与していると思われる。これらの結果から、STF による葉身の発達にはオーキシン:サイトカイニンの比が関連しているものと思われる。サイトカイニンシグナル活性化することで分裂組織幹細胞の維持に関与しているWUSCHELWUS )をSTF プロモーター制御下でlam1 変異体で発現させたところ、葉身や葉脈の形成に回復が見られた。よって、サイトカイニンシグナルはLAM1 が機能するにあたっての重要な因子であると考えられる。

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論文)ジャスモン酸シグナルとエチレンシグナルの統合

2011-08-14 18:23:50 | 読んだ論文備忘録

Derepression of ethylene-stabilized transcription factors (EIN3/EIL1) mediates jasmonate and ethylene signaling synergy in Arabidopsis
Zhu et al.  PNAS (2011) 108:12539-12544.
doi: 10.1073/pnas.1103959108

ジャスモン酸(JA)とエチレン(ET)は共に植物の成長や病害応答に関与しているが、両者は協働して作用したり、他方の作用を抑制したりして非常に複雑なクロストークをしている。中国 北京大学Guo らは、シロイヌナズナのETシグナル伝達に関与している転写因子のETHYLENE INSENSITIVE 3(EIN3)とそのホモログEIN3-LIKE 1(EIL1)の機能喪失変異体ein3 eil1 ではJAによる病害応答遺伝子(ERF1ORA59PDF1.2 )の発現誘導や根毛形成誘導が打ち消され、JAによる根の伸長阻害が一部解消されることを見出した。しかし、ein3 eil1 変異体の稔性やJAによるアントシアニン生合成誘導は野生型と同等であった。また、EIN3 もしくはEIL1 を過剰発現させた個体はJAによる根の伸長阻害が強まっていた。したがって、EIN3とEIL1は一部のJA応答に対して正の制御因子として機能していることが示唆される。EIN3/EIL1がどのようにJAシグナルに関与しているのか、JAシグナルの抑制因子であるJASMONATE ZIM-DOMAIN(JAZ)タンパク質との相互作用を酵母two-hybridアッセイ、プルダウンアッセイ、共免疫沈降(co-IP)アッセイ、BiFCアッセイによって調査したところ、JAZ1、JAZ3、JAZ9がEIN3、EIL1と相互作用を示すことが確認され、JAZタンパク質のC末端側にEIN3との結合に関与する領域が存在することがわかった。EIN3 の過剰発現はERF1 の発現を誘導するが、ここでさらにJAZ1 を過剰発現させるとERF1 の発現誘導が打ち消された。よって、JAZ1は生体内においてEIN3の機能を抑制していると考えられる。EIN3 過剰発現個体でのJAによる根の伸長阻害の強化は、安定型JAZ1を発現させることによって野生型と同等にまで打ち消されてしまい、EIN3 過剰発現個体でのJAによるERF1 発現強化や根毛形成誘導促進は、coi1 変異体では弱められていた。また、EIN3結合部位を含んだプロモーター制御下でGUS を発現させるコンストラクトを導入した形質転換体はJA処理によってGUS の発現が誘導されるが、ein3 変異体ではJAによる発現誘導が減少し、ein3 eil1 変異体では発現誘導が打ち消されていた。以上の結果から、JAZタンパク質によるEIN3/EIL1の機能抑制は、JAシグナルがCOI1を介してJAZタンパク質を分解することで打ち消されると考えられる。酵母two-hybridアッセイによって、EIN3/EIL1はヒストンデアセチラーゼ6(HDA6)と相互作用すること、JAZタンパク質もHDA6と相互作用を示し、この相互作用はJAZ-EIN3/EIL1相互作用に関する領域とは異なるドメインでなされていることがわかった。また、生体内においてHDA6とEIN3の会合はJA処理によって減少することが確認され、HDA6とEIN3の相互作用を最大とするためにはJAZタンパク質もしくは他の因子の関与が必要であることが示唆される。ヒストンの脱アセチル化は転写抑制に関与しており、HDA6機能喪失変異体axe1-4 ではJAによるERF1 の発現誘導、根毛形成、根の成長阻害が強くなっており、HDA6 過剰発現個体では逆に弱められていた。ヒストン脱アセチル化酵素に特異的な阻害剤トリコスタチンA(TSA)処理は、根毛形成やERF1 の発現においてJAと同様の効果を示した。TSAによる根毛形成はcoi1-2 変異体でも観察されたが、ein3 eil1 変異体では見られず、axe1-4 変異体のJA感受性の増加はein3 eil1 変異が加わることによって打ち消された。よって、HDA6はEIN3/EIL1を介してJAの制御する過程を負に制御していると考えられる。JA処理はヒストンH3およびH4のアセチル化の程度を高め、axe1-4 変異体ではその程度がさらに、特にヒストンH4において、高まっていた。しかし、coi1-2 変異体、ein3 eil1 変異体ではJA処理によるヒストンH4のアセチル化の程度が野生型よりも低くなっていた。以上の結果から、JAZタンパク質はHDA6をリクルートしてヒストン(特にH4)を脱アセチル化してEIN3/EIL1のクロマチンへの結合を妨げており、JA処理はJAZの分解を介してJAZ-HDA6をEIN3/EIL1から引き離し転写を活性化させているものと思われる。EIN3/EIL1は活性化にJAとETの両方のシグナルを必要とする、両シグナル統合する鍵となる因子であると考えられる。

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論文)FLOWERING LOCUS T による気孔の開口

2011-08-11 05:36:35 | 読んだ論文備忘録

FLOWERING LOCUS T Regulates Stomatal Opening
Kinoshita et al.  Current Biology (2011) 21:1232-1238.
DOI:10.1016/j.cub.2011.06.025

青色光受容体キナーゼのフォトトロピンは、細胞膜H+-ATPaseの活性化を介して気孔を開口させることが知られており、シロイヌナズナphot1 phot2 二重変異体は葉が下向きに巻き、光照射をしても気孔が開かない。しかしながら、フォトトロピンからどのようなシグナル伝達がなされて気孔の開口が引きこされるのかは明らかとなっていない。名古屋大学木下らは、phot1 phot2 二重変異体を変異原処理をして葉が平らになった復帰突然変異体の気孔の開閉を調査し、気孔が開口するscssuppressor of closed stomata phenotype in phot1 phot2 )変異体を単離した。scs1-1 変異体は劣性の変異体で、開花が早まる表現型を示した。よって、SCS1 は葉の平板化、気孔開口、早期花成を抑制する因子であると考えられる。scs1-1 変異体の気孔は暗所でも開口しており、アブシジン酸(ABA)の添加やH+-ATPaseの阻害剤であるバナジウム酸やエリスロシンBの添加することで閉口した。scs1-1 変異体の孔辺細胞プロトプラスト(GCP)ではH+-ATPaseが常に高い活性を維持していた。マップベースクローニングによって、SCS1 遺伝子座の同定を行ない、scs1-1 変異体ではEARLY FLOWERING 3ELF3 )に一塩基置換が生じてスプライシング変異が起こっていることがわかった。elf3 変異体は短日条件下で早く花成する変異体として同定されており、ELF3はフロリゲンをコードするFLOWERING LOCUS TFT )の転写抑制因子であることが知られている。よって、elf3 変異体は葉のFT 転写産物量が増加して花成が早まる。さらに、FT 過剰発現個体は、花成が早まる上に、葉が上向きに巻くことが知られている。したがって、scs1-1 変異体の葉の平板化と気孔の開口といった表現型はFT の過剰発現によってもたらされている可能性がある。FT は葉の孔辺細胞で発現しており、scs1-1 変異体GCPは野生型やphot1 phot2 二重変異体の50倍のFT 転写産物があった。また、phot1 phot2 二重変異体でFT を過剰発現させた形質転換体は気孔が開口しており、ABAやH+-ATPase阻害剤の添加によって気孔が閉口した。このことから、FT はH+-ATPaseの活性化因子として機能し、FT の過剰発現は気孔の開口を誘導していることが示唆される。花成していない個体(4週)も花成している個体(6週)も光照射による気孔開口は同じように起こり、FT の発現誘導量も同程度であった。ft-1 変異体やscs1-1 ft-1elf3-101 phot1 phot2 ft-1 四重)変異体では光照射による気孔開口が小さく、ft-1 変異体GCPでは青色光照射によるH+-ATPaseの活性化とリン酸化が阻害されていた。ft-1 変異体をH+-ATPase活性化物質のフシコクシン処理をすると、H+-ATPaseの活性化が誘導され、気孔が開口した。ft-1 変異体GCPのH+-ATPase含量、フォトトロピン含量は野生型と同等であることから、ft-1 変異体では孔辺細胞での青色光シグナル伝達が欠損/不活化しており、FT はこのシグナル伝達に関与する因子の調節因子として、もしくはシグナル伝達因子本体として機能していると考えられる。scs1-1 変異体やft 変異体の葉のABA含量は野生型と同等であることから、これらの変異体での気孔開閉の変化は内生ABA量の変化によるものではない。花成に関与している因子の転写産物(PHYAPHYBCRY1CRY2GICOFDTFL1AP1FUL )は野生型およびphot1 phot2 二重変異体の孔辺細胞で確認されたが、scs1-1 変異体孔辺細胞ではFT のアンタゴニストであるFDTFL1 の発現量が大きく低下していた。花成においてFT の下流で機能しているAP1phot1 phot2 二重変異体で発現させると気孔が開口することから、FT は孔辺細胞においてAP1 を介して気孔開口を誘導していると思われる。しかしながらap1-10 機能喪失変異体では気孔開閉が正常であり、ap1-10 変異体ではFUL のような他のMADS-ボックス転写因子がAP1 の機能喪失を相補しているものと思われる。ELF3は光シグナルの概日時計への伝達に関与しているので、気孔開閉に見られる概日リズムはELF3を介したFT の日変化によって引き起こされていると思われる。孔辺細胞は周囲の細胞との間でプラズモデスマータを介した連絡がないことから、FTタンパク質は孔辺細胞において生成され機能していると考えられる。

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