Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)分裂組織の増殖停止機構

2022-03-13 13:10:57 | 読んだ論文備忘録

A cellular analysis of meristem activity at the end of flowering points to cytokinin as a major regulator of proliferative arrest in Arabidopsis
Merelo et al. Current Biology (2022) 32:749-762.

doi:10.1016/j.cub.2021.11.069

一回結実性植物は、ある程度の数の果実が成熟すると生殖分裂組織の活動が停止して花成が止まる。この増殖停止(proliferative arrest)は、種子生産に必要な栄養素を確保するための進化的適応と考えられているが、その制御機構は明らかではない。スペイン 植物分子細胞生物学研究所(IBMCP)のFerrandiz らは、シロイヌナズナの花成期の茎頂分裂組織(SAM)を観察し、増殖停止は抽苔4~5週間後に観察され、SAMの細胞分裂活性(CYCB1;2 発現)が抽苔3週間後から低下していくこと、増殖停止は可逆的であり、果実を切取ることでSAMの活性が回復することを見出した。SAMの活性にはサイトカイニンが関与していることから、サイトカイニン蛍光センサーTCSn:GFP-ER (two-component signaling Sensor new)を導入したシロイヌナズナのSAMを観察したところ、SAMの活性低下に呼応してサイトカイニンシグナルの低下が見られることが判った。そこで、花序にサイトカイニン(N6-benzylaminopurine [BAP])を添加したところ、SAMの活性が維持されて増殖停止が抑制された。サイトカイニンはWUSCHELWUS )の発現を活性化することでSAMの活性を維持しており、増殖停止の際のサイトカイニンシグナル低下とSAMでのWUS 発現量の低下は連動していた。転写因子FRUITFULL(FUL)が機能喪失したful 変異体は増殖停止が起こらず、花と果実が形成され続ける。ful 変異体では、野生型植物と同じように抽苔5週間後まで花数が減少し、SAMの大きさ、細胞分裂活性、サイトカイニンシグナル、WUS 発現量が低下していくが、それ以降は、野生型植物で果実を切取った場合と同じように、SAMの細胞分裂活性、サイトカイニンシグナル、WUS 発現が再活性化され、花も少数形成された。したがって、FULはサイトカイニンに関連したSAMの活性化経路を抑制することで増殖停止を引き起こしていると考えられる。以上の結果から、生殖分裂組織の増殖停止は、初期にみられるサイトカイニンシグナルやWUSなどの下流因子の減少と、後期のFULに強く依存した完全な抑制の2つの段階によってもたらされると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)単子葉植物の接ぎ木

2022-03-01 22:40:43 | 読んだ論文備忘録

Monocotyledonous plants graft at the embryonic root–shoot interface
Reeves et al.  Nature (2022) 602:280-286.

doi:10.1038/s41586-021-04247-y

News & Views
Hard graft problem solved for key global food crops
Colin Turnbull & Sean Carrington  Nature (2022) 602:214-215.

doi:10.1038/d41586-022-00050-5

接ぎ木は、異なる植物の組織を接合する手法として古くから園芸や研究において行われてきた。しかしながら、単子葉植物は維管束形成層がなく維管束が散在しているために接ぎ木が困難であると考えられている。英国 ケンブリッジ大学Hibberd らは、単子葉植物でも未分化組織や胚性組織であれば融合して接ぎ木が成立するのではないかと考え、様々な試みを行なった。そして、コムギを用いた実験で、胚のシュート部分を切取って別の種子の同一部分と置換えることで通常のコムギと同じような接ぎ木植物を得ることに成功した。得られた接ぎ木植物の篩部と木部は機能的に接続しており、接ぎ木接合部は幼芽と幼根の間の胚軸上で形成されていた。コムギの接ぎ木効率は、幼芽を切取って同じ種子に置換えた場合に最も高く(79 %)、異なる遺伝子型のコムギであっても融合した(31 %)。接ぎ木はイネでも成功した。実生の齢が進むと接ぎ木効率が低下することから、胚性組織が多いほど融合率が高いと考えられる。接ぎ木をしたイネとしていないイネ、傷害を与えたイネの遺伝子発現の変化を経時的に追ったところ、数百の遺伝子に発現量の変化が見られ、遺伝子オントロジー(GO)を見ると、接ぎ木イネでは地上部や柔組織を融合させるための維管束細胞分裂、細胞間接着、ホルモンシグナル伝達、維管束接続の確立などのプロセスに関連する遺伝子が多く見られ、双子葉植物の接ぎ木の際と同じような遺伝子発現変化を示していた。細胞周期、細胞分裂、細胞壁のリモデリングと伸長に関連する遺伝子は接ぎ木初期に発現量が高く、このことは接ぎ木の際の穂木と台木のギャップが細胞分裂と伸長の組み合わせによって埋められていることを示唆しており、双子葉植物での接ぎ木と一致している。いくつかのシロイヌナズナ遺伝子とイネオルソログ遺伝子は接ぎ木に際して類似した応答を示しており、単子葉植物と双子葉植物において、接ぎ木過程の遺伝子発現の変化は類似していることが示唆される。次に、単子葉植物の他の分類群でも接ぎ木が可能かどうかを検証したところ、単子葉植物11目のうち、系統的に多様な9目の数十種で自己接ぎ木をすることができた。これらの種は、単子葉植物の3つの分類群(ツユクサ類、ユリ類、オモダカ類)にまたがり、パイナップル、バナナ、タマネギ、テキーラリュウゼツラン、アブラヤシ、ナツメヤシなどの重要な作物種が含まれていた。コムギからは、デュラムコムギとの種間接ぎ木、ライムギとの属間接ぎ木、オートムギとの連間接ぎ木を作り出せた。また、コムギ、イネ、ライムギなどのC3光合成経路を利用するイネ科植物を、トウジンビエやソルガムなどのC4光合成を利用する種に接ぎ木することができた。ストリゴラクトン生合成酵素遺伝子CCD8 が機能喪失して分けつ数が増加するイネ変異体の穂木を野生型イネの台木に接ぐことにより多分けつの表現型が解消された。コムギは土壌病原菌Gaeumannomyces graminis の感染により立枯病を発症するが、コムギの穂木を広域抵抗性を示すオートムギの台木に接ぎ木することで、この病原菌に対する耐性が得られた。以上の結果から、接ぎ木の互換性は種子植物に共通する能力であると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする