Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)AHL転写因子による胚軸伸長抑制機構

2016-08-31 22:20:46 | 読んだ論文備忘録

SUPPRESSOR OF PHYTOCHROME B4-#3 Represses Genes Associated with Auxin Signaling to Modulate Hypocotyl Growth
Favero et al. Plant Physiology (2016) 171:2701-2716.

doi:10.1104/pp.16.00405

AT-HOOK MOTIF CONTAINING NUCLEAR LOCALIZED(AHL)ファミリー転写因子はシロイヌナズナに29種類あり、様々な成長過程を制御している。AHL29 は、当初、アクティベーションタギングスクリーニングによりSUPPRESSOR OF PHYTOCHROME B4-#3 DOMINANTSOB3-D )として同定され、この遺伝子の過剰発現はphyB-4 変異体の明所で胚軸が長くなる表現型を抑制した。したがって、SOB3は胚軸伸長を抑制する転写因子として機能しているが、SOB3の下流に位置するターゲットは明らかとなっていない。米国 ワシントン州立大学Neff らは、RNA-seqの手法を用いて、野生型、SOB3-D 系統、sob3-6 変異体の各芽生えにおける遺伝子発現を解析した。胚軸伸長変化に対応して発現量が変化している遺伝子のうちオーキシン応答のアノテーションが付いた一群に着目したところ、その中にはSMALL AUXIN UP-REGULATEDSAUR )遺伝子ファミリーの多くが含まれていた。シロイヌナズナには79のSAUR 遺伝子があり、その中でもSAUR19 サブファミリーに属する6つの遺伝子(SAUR19SAUR24 )の発現は、SOB3-D で減少し、sob3-6 変異体で上昇しており、胚軸伸長の表現型と正の相関を示していた。これらのSAUR 遺伝子はオーキシンによって発現誘導される遺伝子であることから、オーキシン生合成経路のフラビンモノオキシゲナーゼをコードする11のYUCCAYUC )遺伝子の発現とSOB3 変異体との関係を見たところ、YUC8 のRNA-seqデータのみが胚軸の表現型に対応していた。したがって、SOB3 は芽生えにおいてSAUR19 ファミリーとYUC8 の発現を抑制していると考えられる。シロイヌナズナ芽生えにオーキシン処理をすると胚軸伸長が抑制されるが、SOB3 変異体のオーキシン応答性を見ると、SOB3-D は野生型と同等であったが、sob3-6 変異体は高濃度オーキシンに対する感受性が野生型よりも高くなっていた。芽生えをオーキシン極性輸送の阻害剤であるN-1-ナフチルフタラミン酸(NPA)で処理すると、低濃度処理では胚軸伸長が促進され、高濃度処理では伸長が阻害される。SOB3-D はNPAに対する感受性が胚軸伸長の促進、阻害の両方とも野生型よりも低く、sob3-6 変異体は感受性が高くなっていた。よって、SOB3 変異体はオーキシンシグナルと胚軸表現型との間に密接な関連があると考えられる。SOB3-DSAUR19 を過剰発現させた形質転換体の芽生えを、胚軸の長さが長いものと短いのものに分けて、SOB3 の転写産物量を比較したが、差は見られなかった。しかしながら、SAUR19 の発現量は、胚軸が長い個体の方が短い個体よりも3~6倍高くなっていた。よって、SAUR19 の発現量を高めることで胚軸伸長が部分的に回復したと考えられる。ChIP-qPCR解析の結果、SOB3はSAUR19 遺伝子のプロモーターに直接結合することが確認された。SAUR19 サブファミリーの6遺伝子は、シロイヌナズナ第5染色体の21 kbの領域内に局在している。そして、SAUR20/21SAUR22/23 の2つの遺伝子ペアは互いの転写開始部位の頭同士が2 kb以下の間隔で向かい合っており、間の領域はデュアルプロモーターとして両方のSAUR 遺伝子の発現を制御していると考えられる。ChIP-qPCR解析の結果、SOB3はSAUR20SAUR21との間のデュアルプロモーターの少なくとも2つのサイトに結合することがわかった。また、SOB3はYUC8 のプロモーターにも結合した。したがって、SOB3はYUC8SAUR19 ファミリー遺伝子に直接結合して発現を制御していることが示唆される。以上の結果から、SOB3は芽生えの胚軸伸長をオーキシンシグナルに関与する遺伝子の転写を直接抑制することで制御していると考えられる。

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論文)デンプン分解速度を制御する新規タンパク質

2016-08-28 13:18:08 | 読んだ論文備忘録

The Starch Granule-Associated Protein EARLY STARVATION1 Is Required for the Control of Starch Degradation in Arabidopsis thaliana Leaves
Feike et al. Plant Cell (2016) 28:1472-1489.

doi:10.1105/tpc.16.00011

シロイヌナズナの葉では、光合成で同化した炭素の半分は葉緑体でデンプンとして蓄積し、夜間にショ糖に転換して明方までに95%のデンプンを消費する。英国 ジョンイネスセンターSmith らは、夜間の炭素利用に異常が生じた変異体を得ることを目的に、糖によって発現抑制される遺伝子(At1g10070 )のプロモーター制御下でルシフェラーゼを発現する飢餓レポーター系統に変異原処理をして得た集団の中から、夜の終わりに生物蛍光を発する個体を単離した。この変異体のロゼット葉は、夜の終わりにはデンプンが殆ど残っていないことが確認され、この変異体をearly stavation1-1esv1-1 )と命名した。esv1-1 は劣性の変異で、機能未知の遺伝子At1g42430 の第2イントロンのアクセプター部位のGがAに置換していた。この変異によりesv1-1 ではAt1g42430 転写産物が野生型よりも短くなっており、At1g42430翻訳産物が検出されなかった。At1g42430 の第4エクソンにT-DNAが挿入されたesv1-2 変異体も、esv1-1 変異体と同様に、夜の終わりにはロゼット葉のデンプンが残っていなかった。また、esv1-2 変異体では、糖によって発現が抑制されているAt3g59940At1g76410 の転写産物量が、日中の終わりでは野生型と同等だが、夜の終わりでは増加していた。ESV1タンパク質は426アミノ酸から構成され、注釈の付いたドメインは含んでいないが、C末端にプロリンリッチな領域があり、C末端側2/3はトリプトファンや芳香族アミノ酸が多く含まれていた。BLAST検索の結果、ESV1はAt3g55760 にコードされている未知タンパク質と類似性が高いことが判り、このタンパク質をLIKE ESV1(LESV)と命名した。LESV1はプロリンリッチなC末端領域は含んでいないが、トリプトファンリッチなC末端領域はESV1と同じであった。LESV はすべての組織で発現しており、葉では夜の終わりに発現量が高く、日中に低くなった。LESV はデンプン代謝に関連する酵素をコードする幾つかの遺伝子と強く共発現していた。ESV1LESV と相同性のある遺伝子は、陸上植物や緑藻に見られ、原核生物や紅藻にはなかった。したがって、ESV1とLESVは緑色植物に特異的な重要な機能を有していることが示唆される。ESV1、LESVにYFPを付加した融合タンパク質を一過的に発現させたところ、蛍光は主に葉緑体に局在し、デンプン粒のように分離して存在していることが確認された。デンプン合成能が欠失した変異体では融合タンパク質の蛍光は葉緑体ストロマ内に拡散して見られることから、野生型で観察された蛍光はデンプン粒そのものであると考えられる。融合タンパク質はデンプン結合タンパク質が局在していると思われる不溶性画分に多く含まれており、デンプン欠失変異体では可溶性画分に含まれていた。ESV1、LESVタンパク質は、デンプン量が低下した夜の終わりでは可溶性となり、デンプン量が最大となる日中の終わりには不溶性となった。両タンパク質は精製したデンプンに含まれており、シロイヌナズナの葉のデンプン粒結合タンパク質に多く含まれていた。両タンパク質は、キャッサバの根、バレイショ塊茎、イネ籾から抽出したデンプンにも含まれていた。esv1 変異体はデンプンの分解速度が野生型よりも速く、夜の長さが12時間の場合は夜の終りの2時間前に、長さが16時間の場合は4時間前にデンプンは完全に消費された。野生型植物は夜の長さに応じてデンプン分解速度を調節するが、esv1 変異体は分解速度の調節ができなくなっていた。野生型植物ではデンプン分解速度はデンプンの貯蔵量に応じて調節するが、esv1 変異体ではデンプンが枯渇する時間は最初のデンプン量に依存していた。esv1 変異体は日中のデンプン蓄積速度が野生型よりも遅く、そのために夜の始まりの際のデンプン量が少ない。esv1 変異体の日中のショ糖およびマルトース含量は野生型よりも高いが、夜の終わりでは野生型よりも低くなっていた。一般的にマルトース含量の増加はデンプン分解を示しているので、esv1 変異体では日中でも夜と同じようにデンプン分解が起こるために野生型よりもデンプン蓄積量が少ないと考えられる。lesv 変異体のショ糖およびマルトース含量の日変化は野生型と同等であり、esv1 lesv 二重変異体での日変化はesv1 変異体と類似していた。esv1 変異体の葉は、葉脈周囲の細胞の日中のデンプン蓄積量が野生型よりも少なく、網目状にデンプンが蓄積した。esv1 変異体では根のコルメラ細胞、茎、花、長角果のデンプン量も低下していた。esv1 変異体は、野生型よりも、ロゼット葉が小さく、生重量が少なく、花成が遅くなった。また、分枝したシュートが主茎に対して開いており、茎が重力を感知する内皮細胞のデンプン粒が消失していた。ESV1を恒常的に発現させた個体はデンプン含量が増加した。LESVを恒常的に発現させた個体は、日中のデンプン含量に変化は見られなかったが、夜の終りのデンプン含量は野生型よりも少なくなっていた。esv1 変異体、lesv 変異体のデンプン粒は凸凹していた。ESV1過剰発現個体のデンプン粒は野生型のものよりも厚みがあり大きくなっていた。LESV過剰発現個体は葉緑体あたりのデンプン粒数が野生型よりも多く、様々な形や大きさのデンプン粒が見られ、デンプン粒の多くは野生型のものよりも小さかった。また、esv1 変異体、lesv 変異体のデンプンはアミロース含量が野生型よりも高くなっていた。アミロース合成酵素のGBSSとESV1が機能喪失したevs1 gbss 二重変異体はアミロースが欠失し、デンプン含量は野生型やgbss 単独変異体よりも少なく、esv1 単独変異体と同程度になっていた。したがって、ESV1の欠失はデンプンのアミロースの有無に関係なくデンプン分解を速めていると考えられる。ESV1過剰発現個体もアミロース含量が高くなっていたが、LESV過剰発現個体はアミロース含量が少なくなっていた。ESV1とLESVはアミロペクチンの鎖長や分枝には影響していなかった。デンプン分解初期課程を触媒するグルカン‐水ジキナーゼ(GWD)の機能喪失変異体sex1 はデンプン蓄積量が高い。esv1 sex1 二重変異体はデンプン含量がsex1 単独変異体よりも少ないが、esv1 単独変異体や野生型よりもはるかに多い。sex1 変異体は植物体全体のデンプン量が高いが、evs1 sex1 二重変異体は根冠細胞のデンプン量が非常に低く、esv1 変異体と同程度であった。GWD以外のデンプン分解やデンプン代謝に関連しているタンパク質の変異体もデンプン蓄積量が増加するが、ESV1との二重変異体は単独変異体よりもデンプン含量が低くなっていた。よって、デンプン分解においてESV1は、デンプン分解酵素の負の制御因子として機能しているのではないと考えられる。また、esv1 変異体での高いデンプン分解速度は、デンプン分解酵素の活性変化によるものでもない。

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論文)フラボノールによる根の光応答成長制御

2016-08-24 22:34:23 | 読んだ論文備忘録

Flavonols Mediate Root Phototropism and Growth through Regulation of Proliferation-to-Differentiation Transition
Silva-Navas et al. Plant Cell 2016 28: 1372-1387.

doi:10.1105/tpc.15.00857

植物の根は光から逃れるように成長する能力があり、これは光回避もしくは負の屈光性として知られている。これまでの知見から、この応答は青色光とフォトトロピン(PHOT)によって制御されていることが明らかとなっている。スペイン マドリード工科大学-国立農業・食品研究所(INIA) 植物バイオテクノロジー・ゲノミックスセンターdel Pozo らは、根を暗所で地上部を明所で育成する装置「D-root」を用いて、シロイヌナズナ芽生えの根の光に対する応答性を調査した。暗所で育成した根に側面から白色光を照射すると、25度の角度で光源とは逆向きに屈曲した。光源として赤色光を照射すると6度、青色光を照射すると20度屈曲した。よって、暗所で育成した根は青色光をに対する応答性が高いことが示唆される。cry1 cry2 二重変異体の根は野生型の根よりも光を回避する屈曲角度が小さいが、phot1 phot2 二重変異体は光を回避する屈曲を示さなかった。よって、この装置を用いた実験系においてもPHOT受容体が光回避に関与していることが示された。屈曲部分の光照射側の細胞は陰側の細胞よりも長く、細胞の数は両側で同じであった。したがって、根の光に対する短時間での応答は、光照射側と陰側の細胞伸長の差によって引き起こされていると考えられる。8日から12日間光照射された根は、暗所で育成した根よりも20~25%短くなった。したがって、根への長期間の光照射は成長抑制を引き起し、3~8時間の短時間の側面からの光照射は根に光回避を起こさせる。光照射下で育成した根は、暗所で育成した根よりも皮層細胞が少なく分裂組織が短くなっていた。したがって、光照射は根の分裂組織の大きさが小さくなることで成長低下を引き起すものと思われる。暗所で育成した根と比較して、明所で育成した根では約1000種の転写産物が変化(725が増加、358が減少)していた。発現量が増加していた遺伝子は、UV、光合成、光応答に関連した遺伝子で、その他にも酸化ストレス、ホルモンシグナル、二次代謝、ストレス応答に関連したものがあった。フラボノイド生合成経路に関連する転写産物の大部分は発現量が増加しており、特にケルセチン、ケンペロールとそれらの配糖体の生産に関与する酵素をコードしている遺伝子の発現量が増加していた。また、暗所育成の根と明所育成の根で代謝産物プロファイリングを行ない、両者の間で219の代謝産物量が異なることを見出した。一方、両者の地上部では127の代謝産物に差異が見られた。よって、根への光照射は地上部の代謝変化も誘導することが示唆される。光に応答してフラボノール関連代謝産物の多くに差異が生じており、光照射した根の移行領域は暗所育成の根よりもケルセチンとケンペロールの含量が高くなっていた。暗所で育成した根にケルセチン処理をすると成長が抑制されて明所育成の根と同等の長さになった。ケルセチンやケンペロールの前駆物質であるナリンゲニンカルコンの生産を触媒するカルコンシンターぜをコードしているTRANSPARENT TESTA4TT4 )の機能喪失変異体tt4 の明所育成の根は、野生型よりも長く、ケルセチン処理をすると根の長さは野生型と同等になった。暗所で育成した根に側面から光照射すると、照射した側でフラボノールの蓄積とTT4 の発現量増加が観察された。tt4 変異体では根の光回避角度が小さくなっており、フラボノールの欠失は負の屈光性を低下させることが示唆される。恒常的に根にフラボノールを蓄積するconstitutive photomorphogenesis 1-4cop1-4 )変異体やケルセチン処理をした野生型の根においても光回避角度が低下しており、これは光照射部分でフラボノール蓄積量の差異が起こらなかったことによるものと思われる。tt4 変異体では光照射側と陰側の細胞数や細胞の長さに有意差は見られなかった。暗所育成の根にケルセチン処理をすると、分裂組織の拡大と細胞数の増加を抑制した。さらに、明所で育成したtt4 変異体の根の分裂組織は、明所で育成した野生型の根のものよりも大きく、ケルセチン処理によって小さくなった。暗所で育成した根の分裂組織は、明所で育成した根の分裂組織よりも有糸分裂マーカーの発現量が多いが、ケルセチン処理をすることで発現量は明所で育成した根と同程度にまで低下した。光照射もしくはケルセチン処理した根の移行領域の細胞は暗所で育成した根よりも速く伸長したが、分化領域の細胞の大きさは暗所で育成した根も明所で育成した根も同じであった。したがって、ケルセチンとケンペロール(もしくはそれらの配糖体)の蓄積は、細胞増殖の抑制と細胞伸長の加速によって根の成長制御に貢献しており、明所で育成した根が暗所で育成した根よりも短くなるのは分裂組織での細胞増殖の低下によるものであると思われる。植物ホルモンのオーキシンは、細胞増殖を制御しているPLETHORA(PLT)の勾配を形成することで根分裂組織の大きさを制御している。また、細胞増殖を抑制するフラボノールは、オーキシン輸送を阻害することが知られている。明所で育成してフラボノール含量の高い根は、オーキシン排出トランスポーターであるPIN1のタンパク質量が暗所で育成してフラボノール含量が低い根よりも少なくなっており、PIN2、PIN3およびオーキシン取込トランスポーターのAUX1の量に変化は見られなかった。フラボノール処理をした暗所で育成した根においてもPIN1タンパク質の減少が観察された。また、明所で育成した根ではオーキシン応答マーカーDR5:GFP の発現量が減少していた。暗所で育成した根はPLT2の勾配が強くなっているが、ケルセチン処理をすると勾配は弱くなった。これらの結果から、フラボノールはオーキシン-PLTの勾配を制御することで分裂組織の大きさを制御していると考えられる。我々のトランスクリプトーム解析では、光照射に応答して活性酸素種(ROS)関連の転写産物量も変化を示しており、暗所で育成した根ではNADPHオキシダーゼ遺伝子の発現量が高くなっていた。超酸化物は細胞増殖を促進することが報告されており、フラボノールはROSのスカベンジャーとして機能するとされている。暗所で育成した根の分裂組織の超酸化物量は明所で育成した根よりも高くなっており、tt4 変異体の明所で育成した根も超酸化物量が野生型よりも高くなっていた。したがって、フラボノールの蓄積は超酸化物量を減少させることで細胞増殖を低下させているものと思われる。暗所で育成した根にオーキシン処理をすると、分裂組織のフラボノール含量が低下し、超酸化物量が増加した。そして、この増加はtt4 変異体で顕著であった。したがって、超酸化物の蓄積はフラボノールによって阻害されると考えられる。暗所で育成したtt4 変異体の根は野生型の根よりも長く、分裂組織も長いが、ケルセチン処理をすると成長量が低下し、分裂組織の長さの差異も見られなくなった。根の細胞分化誘導シグナルとして知られている過酸化水素を暗所で育成した根に処理すると、分化領域のケルセチンとケンペロールの含量が増加した。また、分化領域の過酸化水素量を増加させるUPB1 転写因子を過剰発現させてもケルセチンとケンペロールの含量が増加した。これらの結果から、UPB1‐過酸化水素経路は、分化過程にある細胞のフラボノール含量を増加させることが示唆される。UPB1 を過剰発現させた根の光回避角度は野生型よりも少ないこととから、UPB1によるフラボノール蓄積は負の光屈性を妨げるものと思われる。根の分化を誘導するサイトカイニンを暗所で育成した根に処理すると、分化領域においてケルセチンおよびケンペロールの蓄積が観察された。この蓄積は、サイトカイニン受容体の二重変異体であるcre1 ahk1 では観察されなかった。サイトカイニンによる根の細胞分化に関与しているSHORT HYPOCOTYL2SHY2 )機能獲得変異体shy2-2 の暗所で育成した根の分化伸長領域はケルセチンおよびケンペロール量が増加していたことから、サイトカイニンはSHY2 を介してフラボノール生合成を誘導し、このことがサイトカイニンシグナルによる根の成長抑制と分裂組織活性の制御を一部担っていると考えられる。cre1 ahk1 二重変異体の根は光回避応答が低下し、shy2-2 変異体では完全にブロックされていた。したがって、サイトカイニンシグナルは根の光屈性に強く作用していると考えられる。以上の結果から、フラボノールは光に応答した根の成長制御においてオーキシン‐サイトカイニンホルモンシグナルと活性酸素種シグナルを統合したシグナルとして機能していると考えられる。

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論文)アブシジン酸とサリチル酸による植物免疫応答制御

2016-08-16 06:02:55 | 読んだ論文備忘録

Abscisic acid promotes proteasome-mediated degradation of the transcription coactivator NPR1 in Arabidopsis thaliana
Ding et al. The Plant Journal (2016) 86:20-34.

DOI: 10.1111/tpj.13141


転写コアクティベーターのNPR1(non-expressor of pathogenesis-related genes 1)は、局所的獲得抵抗性(LAR)と全身獲得抵抗性(SAR)の主要な調節因子であり、サリチル酸(SA)依存性遺伝子の多くを制御している。米国 フロリダ大学Mou らは、以前にシロイヌナズナnpr1 変異体を変異原処理した集団からPseudomonas syringae pv. maculicola (Psm ) ES4326に感染した際にSAをnpr1 変異体よりも高蓄積する変異体isn2increased SA accumulation in npr1 )を単離した。マップベースクローニングの結果、isn2 変異はアブシジン酸(ABA)の生合成に関与する酵素をコードするABA3 遺伝子内の一塩基置換であることが判った。そのことからisn2aba3-21 と改名した。過去知見において、ABA欠損変異体ではSAシグナル経路のマーカー遺伝子であるPR1 が恒常的に発現していることが報告されている。aba3-21 変異体においてもPR1 遺伝子の発現上昇が観察され、aba3-21 npr1 二重変異体ではこの上昇は打ち消された。よって、ABA欠損変異体ではNPR1に依存してPR 遺伝子が発現上昇すると考えられる。aba3-21 を含めてABA欠損変異体はPsm ES4326に対する抵抗性が高く、この抵抗性強化はnpr1 変異が加わることで部分的に抑制された。したがって、ABA欠損変異は、Psm ES4326に対してNPR1に依存した抵抗性と依存しない抵抗性の両者を活性化させていると考えられる。aba3-21 変異とSA生合成変異のsid2-2 の二重変異体は野生型よりもPsm ES4326に感染しやすいが、sid2-2 単独変異体よりは感染しにくかった。このことからも、aba3-21 変異はSAに依存した抵抗性と依存しない抵抗性の両方を引き起こしていると考えられる。公的なマイクロアレイデータベースを見ると、NPR1 mRNA量はABA処理では変化していない。そこで、NPR1タンパク質量の変化を見たところ、ABA処理はNPR1タンパク質量を減少させることが判った。恒常的にABA含量が野生型よりも高いcds2-1D 変異体は、NPR1タンパク質量が野生型よりも少なくなっていた。また、aba3-21 等のABA欠損変異体ではNPR1タンパク質量が野生型よりも多くなっていた。これらの結果から、ABAはNPR1タンパク質の蓄積を負に制御していると考えられる。Myc-NPR1やNPR1-GFPといった融合タンパク質を発現させた植物体をABA処理すると、これらのNPR1タンパク質は減少するが、ABAと同時に26Sプロテアソーム阻害剤のMG115を処理するとNPR1タンパク質の減少が抑制された。この時のGFP蛍光から、NPR1-GFPタンパク質は核に局在することが確認された。したがって、ABAによって促進されるNPR1タンパク質の分解は26Sプロテアソーム経路を介してなされているものと思われる。NPR1タンパク質の核局在シグナル(NLS)を変異させたnpr1-nls-GFP融合タンパク質はNPR1-GFPタンパク質よりもABA処理による分解を受けにくくなっていた。また恒常的に核に局在するように変異したnpr1C156A-GFPタンパク質はNPR1-GFPタンパク質よりもABA処理による分解を受けやすくなった。これらの結果から、ABA処理によるNPR1タンパク質の分解は核において起こっていることが示唆される。ABA処理によるNPR1タンパク質の分解はcul3a cul3b 二重変異体では非常に低下しており、分解過程にはCUL3 E3 リガーゼが関与していることが示唆される。SA受容体のNPR3とNPR4はCUL3 E3 リガーゼのアダプターであり、NPR1とCUL3との相互作用に関与している。npr3 npr4 二重変異体ではABA処理によるNPR1タンパク質の減少が見られなかった。これらの結果から、ABAが誘導するNPR1タンパク質の分解はCUL3NPR3/NPR4 複合体が関与していると考えられる。植物体にABA処理をした後にSA処理をするとSAによるNPR1タンパク質の蓄積やPR1 遺伝子の発現誘導は阻害されたが、ABAとSAの同時処理もしくはSA処理後のABA処理ではABAによる阻害が見られなかった。同時添加するSAとABAの比率を変えると、それに応じてNPR1タンパク質の蓄積量とPR1 遺伝子の発現量が変化した。したがって、与えるSAシグナルとABAシグナルの順序と強度がNPR1タンパク質の蓄積とPR1 遺伝子の発現の制御にとって需要であると考えられる。NPR1タンパク質のSer11とSer15はSA処理によってリン酸化される。このSer残基をアスパラギン酸に置換して擬似リン酸化状態にしたnpr1S11/15D変異タンパク質は、無細胞系分解アッセイにおいてNPR1-GFPタンパク質よりも分解されやすいが、生体内でのABA処理後の分解ではNPR1-GFPタンパク質よりも安定していた。ABA処理によるPsm ES4326に対する罹病性の増加は、NPR1-GFPを恒常的に発現させた場合よりもnpr1S11/15D-GFPを発現させた場合の方が低かった。したがって、ABAは少なくとも一部は細胞内NPR1タンパク質の排除を介してPR 遺伝子の発現とPsm ES4326に対する抵抗性を抑制していることが示唆される。Psm ES4326を感染させると内生SA量は一過的に増加し、遊離SA量は感染12時間後、全SA量は24時間後に最大となった。ABA量は指数的に増加した。NPR1タンパク質量は感染後から徐々に増加し、24時間後に最大となり、36時間後には基底量に戻った。しかしこの時、SA量は最大量の55%程度はあることから、SAはPsm ES4326が感染した際の細胞内NPR1を決定する唯一の因子ではないと思われる。葉の半分にPsm ES4326を感染させ、感染させていない隣接組織でのSA、ABAの変化を見たところ、感染組織と類似した変化を示したが、遊離SAは感染24時間後、全SAは感染36時間後に最大となってその後減少し、ABAは感染48時間後から徐々に減少していった。NPR1タンパク質も類似した変化を示したが、感染組織よりも変化が遅く、感染36時間後に最大となり、その後ゆっくりと減少していった。aba3 変異体でのPsm ES4326感染後のSA量の変化は、感染組織、隣接組織ともに野生型よりも低くなっており、感染によるSA量の適切な増加には基底量のABAが必要であることが示唆される。Psm ES4326感染後のNPR1タンパク質量の変化は、aba3 変異体では感染組織、隣接組織とも野生型のような変化は見られなかった。このことから、NPR1タンパク質量の変化にはABAの蓄積が関与していることが示唆される。事実、感染後期のSA量はaba3 変異体と野生型でほぼ同程度だが、NPR1タンパク質量はaba3 変異体よりも野生型でより大きく減少していた。したがって、病原菌の誘導するABAの蓄積はSA濃度が低下した時のNPR1の除去に関与していると思われる。PR1 遺伝子の発現量変化を見ると、野生型の感染組織では感染12時間後、24時間後のNPR1タンパク質の蓄積に伴って発現量が増加していった。しかし、その後NPR1タンパク質が基底量にまで減少してもPR1 遺伝子の発現量の増加は継続した。これはおそらくNPR1とは独立したPR1 遺伝子の発現誘導によるものと思われる。一方、隣接組織でのPR1 遺伝子の発現はNPR1タンパク質量の変化と一致していた。aba3 変異体の感染組織でのPR1 遺伝子の発現は、NPR1タンパク質量の変化と対応していた。しかし、感染24時間後のNPR1タンパク質量は野生型と同等であるのに、PR1 遺伝子の発現量は野生型の57%であった。aba3 変異体の隣接組織は感染24時間後のSA量が野生型の63%はあるが、PR1 遺伝子の発現は強く阻害されていた。aba3 変異体ではPsm ES4326感染後のNPR1タンパク質量の大きな変化は見られないことも考慮すると、NPR1タンパク質量の変化がPR 遺伝子の発現量を制御しているものと思われる。Psm ES4326を感染させた際に隣接組織をABAで処理すると、NPR1タンパク質の蓄積とPR1 遺伝子の発現が阻害された。感染24時間後に隣接組織をSA処理するとNPR1タンパク質の減少が妨げられ、PR1 遺伝子の発現も高い状態が維持された。野生型植物やaba3 変異体をSA処理をし、その後にABA処理をしてNPR1タンパク質量やPR1 遺伝子の発現量の変化を見た結果から、ABAはSA量が低下した際にNPR1タンパク質の代謝回転を促進し、PR1 遺伝子の発現を抑制すると考えられる。aba3 変異体の隣接組織でPR 遺伝子の発現誘導が低下していることから、ABAシグナルはNPR1を介した転写に対して促進的に作用することが推測される。そこで、Psm ES4326感染もしくはSA処理後のNPR1ターゲット遺伝子(PR1WRKY18WRKY38WRKY62 )の発現を見たところ、これらの処理によるターゲット遺伝子の発現誘導はaba3 変異体やPYR/PYL ABA受容体の六重変異体112458では減少していることがわかった。また、aba3 変異体を低濃度のABAで処理すると、Psm ES4326感染後のNPR1ターゲット遺伝子の発現が促進された。したがって、ABAシグナルはNPR1ターゲット遺伝子の発現を完全に誘導するために必要であることが示唆される。以上の結果から、サリチル酸とアブシジン酸は細胞内NPR1タンパク質量の制御において拮抗的作用しており、病原菌の感染によって活性化した連続的なSAとABAのシグナルはNPR1タンパク質蓄積量とPR 遺伝子の発現の変化と密接に関連していると考えられる。

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植物観察)伊吹山

2016-08-12 18:02:11 | 植物観察記録

伊吹山に行ってきました。8月11日は今年より新しく制定された祝日「山の日」ということで、それにちなんでちゃんと登山すべきでしたが、今日は12日なので(?)伊吹山ドライブウェイで9合目までバスで行きました。今回利用したのは、名古屋からの直行ハイウェイバスで、夏期のみ運行しています。予約制ですが、片道1550円ですのでお得感はあります。9合目から頂上までは40分程度でで簡単に登れます。頂上はガスっていて琵琶湖を臨むことはできませんでした。花としてはそこそこいろいろなものが見られました。時期的にはシモツケソウがピークかやや過ぎ、サラシナショウマが咲き始めといった感じで、コオニユリ、ヤマホタルブクロ、カワラナデシコ、クガイソウ、アキノキリンソウ、ツリガネニンジン、ルリトラノオ、ワレモコウ、ウツボグサ、クルマバナ、クサフジ、キオンなどが見られました。簡単に登れてこれだけの花が見れるのであれば、(天候にもよりますが)まあまあ宜しいのではないでしょうか。

 

サラシナショウマ

 

ツリガネニンジン

 

ルリトラノオ

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論文)塩ストレスによるジャスモン酸シグナルの活性化と根の伸長阻害

2016-08-02 05:13:58 | 読んだ論文備忘録

Salt stress response triggers activation of the jasmonate signaling pathway leading to inhibition of cell elongation in Arabidopsis primary root
Valenzuela et al. Journal of Experimental Botany (2016) 67:4209-4220.

doi:10.1093/jxb/erw202

塩分は主要な非生物ストレスであり、イオンストレス、浸透圧ストレス、酸化ストレスをもたらすことで植物の成長に対して負に作用する。近年、塩ストレス応答とジャスモン酸(JA)シグナルが関連していることが報告されており、塩ストレスによってJAシグナルが活性化され根の伸長が阻害されるという仮説が成り立つが、詳細は明らかとなっていない。チリ タルカ大学のFigueroa らは、水耕栽培のシロイヌナズナに3時間の塩処理(150mM NaCl)をして、JAによって発現誘導されるJAZ 遺伝子の転写産物量変化を調査した。その結果、シロイヌナズナの9つのJAZ 遺伝子のうち、JAZ4JAZ6 以外は根において転写産物量の増加が確認された。一方、JA処理(50μM MeJA)をした際にはJAZ4 以外のJAZ 遺伝子の転写産物量が増加した。したがって、塩ストレスは根のJAシグナル経路の活性化を引き起こしていることが示唆される。塩ストレスによるJAZ 遺伝子の発現誘導は、処理1時間後には転写産物量の増加が観察され、6時間後に最大となり、その後減少した。塩ストレスは、JAシグナルの正の制御因子をコードするMYC2 の転写産物量も増加させたが、JA受容体をコードするCOI1 の発現量は変化が見られなかった。coi1-2 変異体では、塩ストレスおよびJA処理によるJAZ 遺伝子の発現誘導が対照よりも減少していた。このことから、塩ストレスによる根でのJAZ 遺伝子発現誘導にはCOI1が関与していることが示唆される。塩ストレスを介したJAシグナルの活性化が根のどの領域で起こっているかを見るために、JAZ1-GUS融合タンパク質をCaMV 35Sプロモーターで恒常的に発現させたシロイヌナズナを塩もしくはJA処理をして主根でのGUSシグナルの減少(JAZ1-GUSの分解)を見たところ、両処理とも分化領域(DZ)、伸長領域(EZ)、分裂領域(MZ)の3領域においてシグナルの減少が見られた。COI1、JAZ3、MYC2/3/4といったJAシグナル伝達に関与する因子の変異体ではJA処理をしても主根が伸長する。coi1-2 変異体、myc2/3/4 変異体は塩ストレスによって主根の成長が阻害されたが、野生型と比較すると阻害の程度は弱かった。根の各領域で伸長阻害の程度を見ると、myc2/3/4 変異体やjai3-1 変異体はEZの長さが野生型よりも長く、JA関連の変異体(aoscoi1jai3myc2/3/4 )ではEZの細胞の長さが野生型よりも長くなっていた。COI1 のヌル変異体であるcoi1-1 においても、塩処理によるEZ細胞の伸長阻害が見られることから、塩ストレスによるEZ細胞の伸長阻害にはJAシグナル依存した経路と依存していない経路が関与していると考えられる。NaClによる塩ストレスはイオンストレスと浸透圧ストレスの2つに分けることが出来る。そこで、NaCl処理、JA処理に加えて、イオンストレスとしてLiCl処理、浸透圧ストレスとしてマンニトール処理をしてEZの細胞伸長を見たところ、LiCl処理では伸長阻害が見られなかった。よって、イオンストレス自体はEZの伸長阻害は引き起こさないものと考えられる。マンニトール処理はEZの細胞の伸長阻害を起こし、この阻害はCOI1やJAZ3に依存していた。以上の結果から、塩ストレスはジャスモン酸シグナルを活性化することによって根の伸長領域の細胞伸長を阻害しており、このことが塩ストレスによる根の伸長阻害に部分的に関連していると考えられる。

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