Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)葉先での光受容に応答した葉柄の下偏生長

2023-01-31 13:09:28 | 読んだ論文備忘録

Local light signaling at the leaf tip drives remote differential petiole growth through auxin-gibberellin dynamics
Küpers et al.  Current Biology (2023) 33:75–85.

doi:10.1016/j.cub.2022.11.045

シロイヌナズナの葉は、光照射部位によって組織特異的な成長反応を示す。葉柄への遠赤色光(FR)照射は葉柄の伸長を促し、葉先へのFR照射(FRtip)は葉柄の下偏生長(下面が上面よりも早く生長する現象)を誘発して葉が上向きとなる。このように葉柄の伸長と下偏生長が空間的に分離しているため、植物は自己による遮蔽や近隣植物との競争に対して最適な成長制御を行うことができる。FRtipによる葉柄の下偏生長は、感知する葉の先端と応答する葉柄基部の間に空間的な隔たりがある。さらに、葉柄の下偏生長は、葉柄の背軸(下)側と向軸(上)側で細胞の伸長に差があることが必要である。オランダ ユトレヒト大学Pierik らは、以前に、FRtipが誘導する葉柄の下偏生長は、葉先での局所的なフィトクロムBの不活性化によってPHYTOCHROME INTERACTING FACTOR(PIF)が活性化し、活性化したしたPIFがオーキシン生合成を高めることで引き起こされることを見出している。しかしながら、葉の先端からのオーキシンのシグナルがどのようにして葉柄の下偏生長を誘導するのかは明らかとなっていない。そこで、葉の先端部、葉柄の背軸側と向軸側を経時的(20分刻みに300分まで)にサンプリングしてFRtipによる遺伝子発現の変化を観察した。その結果、葉の先端部ではFRtip初期にはオーキシンおよび光シグナル関連の遺伝子発現が高まり、続いてアブシジン酸関連遺伝子の発現が高まること、葉柄では光シグナル関連遺伝子の発現量変化は見られないが、100分から180分の間にオーキシン応答関連遺伝子の発現が高まり、同時に、ブラシノステロイド応答、エチレン応答、ジベレリン(GA)の生合成と応答関連の遺伝子の発現も高まることが判った。葉柄の背軸側と向軸側で発現量が異なる遺伝子は無かったが、背軸側の遺伝子発現量の変化は向軸側よりも大きいことが判った。したがって、背軸側で優先的に遺伝子発現が活性化されていると考えられる。FRtipによってオーキシンシグナル関連遺伝子の発現が高まることから、遊離オーキシン(IAA)量を調査したところ、FRtipによって葉先と葉柄背軸側のIAA含量が増加するが、向軸側のIAA含量は変化しないことが判った。また、葉柄背軸側にIAA添加をするとFR照射をしなくても下偏生長が起こり、葉柄向軸側にIAA添加をするとFRtipによる下偏生長が阻害された。したがって、下偏生長はオーキシン勾配によって誘導されていると考えられる。蛍光オーキシンレポーターを用いた解析から、FRtipから3時間以内に背軸側細胞層でオーキシン濃度の増加が見られ、向軸側細胞層でのIAA濃度の増加は僅かであることが確認された。FRtipの代わりに葉先にIAAを添加(IAAtip)すると、3時間後に葉柄の両側でIAA濃度が増加し、その後、向軸側のIAA濃度は低下したが背軸側では増加が継続した。下偏生長はオーキシン勾配が関与していると考えられることから、PINオーキシントランスポーターの機能喪失変異体を解析したところ、pin3 変異体やpin3 pin4 pin7 三重変異体はIAAtipに応答した下偏生長が低下し、FRtip、IAAtipによる葉柄背軸側のIAA濃度増加が阻害されることが判った。また、葉柄基部内皮のPIN3タンパク質は向軸側よりも背軸側で多く見られた。したがって、PINが葉先から葉柄背軸側へオーキシンを輸送することで背軸側細胞の伸長と葉先の環境検知に応答した下偏生長を促進していると考えられる。オーキシンシグナル伝達に関与しているAUXIN RESPONSE FACTOR(ARF)の多重変異体は、IAAtipによる下偏生長が抑制された。PIF4、PIF5、PIF7は、FRによる下偏生長を制御しており、pif4 pif5 二重変異体はIAAtipによる下偏生長が抑制されたが、pif7 変異は抑制効果が弱かった。PIF7はYUCCA(YUC)を介したオーキシン生合成を制御しているので、PIF7は葉先でのオーキシン生合成に関与し、PIF4、PIF5は葉柄でのオーキシン応答を促進していると考えられる。葉柄背軸側ではGAの生合成とシグナル伝達関連遺伝子発現量が高く、GA生合成変異体(ga20ox1ga20ox2 )ではFRtipによる下偏生長が抑制された。また、GA生合成阻害剤パクロブトラゾールを前処理することでFRtipによる下偏生長が阻害され、葉柄へGA添加することでこの阻害は解消された。さらに、葉先にGAを添加(GAtip)することで、FR照射なしに下偏生長が起こった。ただし、葉柄背軸側にGA添加をしても下偏生長は起こらなかった。GAtipは葉先でのYUC9 転写産物量を増加させ、yuc 多重変異体ではGAtipによる下偏生長が抑制された。DELLAが機能喪失したdellaP 五重変異体は常に葉が上向きだが、FRtipやIAAtipによって下偏生長が更に誘導され、葉はほぼ垂直となった。また、FRtipやIAAtipによって葉柄でDELLAタンパク質のRGAが分解されることが確認された。これらの結果から、葉先から供給されたオーキシンは葉柄背軸側でのGA合成を誘導し、GA量の増加によってDELLAタンパク質が分解されてPIFやARFといった成長を促進する各種転写因子のDELLAによる阻害が解除されて成長が促進されると考えられる。以上の結果から、植物は近隣植物を検出すると、葉先から葉柄の背軸側基部まで長距離オーキシン輸送を行ない、GA生合成とPIFやARFの活性化を経て局所的に細胞成長を誘導して葉を上向きにしていると考えられる。

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論文)NONEXPRESSER OF PR GENES 3(NPR3)/NPR4による植物免疫の制御

2023-01-25 14:16:04 | 読んだ論文備忘録

UBP12/UBP13-mediated deubiquitination of salicylic acid receptor NPR3 suppresses plant immunity
Zhou et al.  Molecular Plant (2023) 16:232-244.

doi:10.1016/j.molp.2022.11.008

シロイヌナズナNONEXPRESSER OF PR GENES 1(NPR1)とそのパラログのNPR3とNPR4は、サリチル酸(SA)と結合して SAシグナル伝達を媒介することが知られている。NPR1は転写コアクティベーターとして防御遺伝子の発現を促進し、NPR3とNPR4はCullin 3 E3リガーゼ複合体のアダプターとしてNPR1のポリユビキチン化・分解を介してSAシグナル伝達を負に制御してることが示されている。NPR1の制御機構についてはよく研究されているが、NPR3/NPR4の免疫応答における役割は殆ど判っていない。シンガポール テマセックライフサイエンス研究所Chua らは、NPR3/NPR4はSA処理濃度に応じて蓄積量が増加し、病原細菌Pseudomonas syringae pv. tomato DC3000(Pst DC3000)の感染によってもNPR3蓄積量は増加することを見出した。これらの結果から、NPR3/NPR4はSAシグナル伝達活性化後の植物免疫において重要な機能を有しているものと思われる。各種プロテアーゼインヒビター処理によるNPR3量の変化から、NPR3の分解には26Sプロテアソーム活性が関与していることが判った。また、NPR3の分解はSA存在下よりも非存在下で促進された。したがって、通常条件下ではNPR3は不安定でプロテアソーム経路で分解されるが、病原細菌が感染して内生SA量が増加するとNPR3の分解が抑制されると考えられる。26Sプロテアソーム系によるタンパク質の分解はポリユビキチン化が必要であり、ポリユビキチン化は、ユビキチンE3リガーゼと脱ユビキチン化酵素(DUB)によって調節されている。DUBをコードするUBP12UBP13 をRNAiで発現抑制したシロイヌナズナは、病原細菌に対する抵抗性が高まり、npr3/4 二重変異体と類似した表現型を示すという報告があることから、NPR3/NPR4とUBP12/UBP13との関係を調査した。その結果、NPR3はSA存在下でUBP12/UBP13と相互作用をし、SA結合能を欠いた変異NPR3は相互作用をしないこと、NPR4はSAの有無に関係なくUBP12/UBP13と相互作用をすることが判った。UBP12/UBP13 の変異体および過剰発現個体の解析から、UBP12/UBP13は植物免疫を負に制御していることが確認された。ubp12/13 二重変異体はSAの有無に関係なくPst DC3000に対する抵抗性が野生型植物よりも高いが、SA処理による抵抗性の誘導は見られなかった。一方で、UBP12UBP13 の過剰発現個体はSAによる抵抗性誘導が野生型植物よりも強くなっていた。したがって、UBP12/UBP13は植物免疫を負に制御しているが、SAが誘導する免疫に対しては正の制御因子として機能している。npr3/4 二重変異体でUBP13 を過剰発現させても植物免疫はnpr3/4 二重変異体と同等であることから、UPB13による植物免疫の抑制はNPR3/NPR4に依存していると考えられる。npr3/4;ubp12/13 四重変異体のPst DC3000に対する抵抗性は、それぞれの二重変異体よりも強くなった。また、ubp12/12 二重変異体でNPR3 を過剰発現させるとubp12/13 二重変異によるPst DC3000に対する抵抗性が低下した。これらの結果から、UBP12/UBP13による病原細菌抵抗性は、NPR3/NPR4に依存した経路と依存しない経路を介して制御されていることが示唆される。UBP12/UBP13 転写産物量とUBP12/UBP13タンパク質量はSA処理の影響を受けないことから、SAシグナルはUBP12/UBP13とNPR3との結合親和性の制御のみを行なっていると考えられる。UBP12/UBP13 の変異体および過剰発現個体でのNPR3タンパク質量の解析から、UBP12/UBP13は冗長的にSAに依存してNPR3と相互作用をすることでNPR3を脱ユビキチン化して安定性を高めていることが判った。ubp12/13 二重変異体のNPR4タンパク質量はSAの有無に関係なく野生型植物よりも少ないことから、UBP12/UBP13はNPR4の安定性にも関与していることが示唆される。アミノ酸置換によって脱ユビキチン酵素活性を不活性化した変異UPB13を用いた解析から、UBP13の脱ユビキチン化活性はNPR3の安定性維持と植物免疫の抑制に必要であることが判った。NPR3/NPR4はNPR1の分解に関与しており、npr3/4 二重変異体ではSA処理後のNPR1タンパク質量が野生型植物よりも増加する。この増加はubp12/13 二重変異体においても見られ、UBP13 過剰発現個体では減少した。そしてこの減少はNPR3 の機能喪失によって部分的に解消した。したがって、UPB12/UBP13によるNPR3の安定化はNPR1の代謝回転を制御している。以上の結果から、NPR3/NPR4は、脱ユビキチン化酵素UBP12/UBP13による安定性の制御を受けることでNPR1の代謝回転を調節し、植物免疫の制御に貢献していると考えられる。

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論文)FLZタンパク質によるイネの開花日制御

2023-01-22 08:33:42 | 読んだ論文備忘録

OsFLZ2 interacts with OsMADS51 to fine-tune rice flowering time
Ma et al. Development (2022) 149:dev200862. 

doi:10.1242/dev.200862

FCS-LIKE ZINC FINGER(FLZ)タンパク質は、FLZドメインを含む植物特有の制御タンパク質である。イネには29個のOsFLZ 遺伝子が存在するが、その大分部は機能が明らかとなっていない。中国 広東省農業科学院水稲研究所(GDRRI)のLin らは、CRISPR/Cas9遺伝子編集システムを用いてOsFLZ の変異体を作出し、対照の野生型水稲品種日本晴(Nip)との表現型の違いを観察した。その結果、OsFLZ2 Cripr系統の開花日が、Nipと比較して、長日条件で4日程度、短日条件で3日程度早いことを見出した。また、OsFLZ2 を過剰発現させた形質転換イネ(OE)の開花日は、Nipと比較して、長日条件で4-5日、短日条件で6-7日遅れることが判った。これらの結果から、OsFLZ2 はイネの開花を負に制御していることが示唆される。Cripr系統では、イネの主要な花成関連遺伝子(Hd1Ehd1Hd3aRFT1 )の発現量が増加し、OE系統では減少していた。したがって、OsFLZ2は花成関連遺伝子の発現を低下させてイネの出穂日を遅らせていると考えられる。FLZタンパク質に転写因子としての機能はないので、OsFLZ2と相互作用をするタンパク質を免疫沈降-質量分析(IP-MS)法で探索した。その結果、353のタンパク質が見出され、特にイネの出穂日制御に関与しているOsMADS51のペプチドが高いスコアを示した。そして実際にOsFLZ2とOsMADS51が生体内で相互作用をすることが確認された。MADSファミリーのOsMADS8、OsMADS15、OsMADS50も出穂日制御に関与していることが知られており、OsFLZ2はOsMADS50とも相互作用をした。Nipの葉でのOsFLZ2 の発現プロファイルを見ると、実生の段階で高い発現を示し、その後は出穂期まで徐々に減少していくことが判った。したがって、OsFLZ2 は早い段階から花成制御を行なっていることが示唆される。また、OsFLZ2 の発現は日変化を示し、日中は発現量が比較的低く、夜間に高く、深夜にピークを示した。OsMADS51はEhd1 の転写活性化因子として機能することが報告されているので、pEhd1::LUC を用いて共発現解析を行なった。その結果、OsFLZ2はOsMADS51の蓄積量を減少させてpEhd1::LUC の発現を低減させることが判った。これらの結果から、OsFLZ2は、核内でOsMADS51と相互作用をしてOsMADS51によるEhd1 の転写活性化を不安定化・減衰させ、下流の花成遺伝子のHd3aRFT1 の発現を低下させて出穂を遅延させていると考えられる。シロイヌナズナのFLZタンパク質は、タンパク質キナーゼ、転写因子、調節タンパク質など様々なタンパク質と相互作用をすることが報告されていることから、OsFLZ2は、OsMADS51とE3ユビキチンリガーゼなどの制御タンパク質との相互作用を媒介してOsMADS51の代謝回転を促進させているものと思われる。以上の結果から、OsFLZ2はOsMADS51の機能を阻害することでイネの開花時期を微調整していると考えられる。OsMADS51、OsMADS50はHd1 の発現制御に関与していないとされているので、OsFLZ2はこれらの転写因子とは独立してHd1 の発現を制御していると思われる。

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論文)アブシジン酸による芽生え主根の伸長阻害

2023-01-19 09:32:09 | 読んだ論文備忘録

Abscisic acid inhibits primary root growth by impairing ABI4-mediated cell cycle and auxin biosynthesis
Luo et al.  Plant Physiology (2023) 191:265-279.

doi:10.1093/plphys/kiac407

アブシジン酸(ABA)は、植物の様々な発達過程を制御しており、高濃度のABAは根の伸長を抑制するとされている。しかしながら、その詳細な機構については明らかではない。中国 西北工業大学Shuらは、ABAシグナル伝達経路において正の制御因子として機能している転写因子のABA INSENSITIVE 4(ABI4)に着目して解析を行なった。その結果、シロイヌナズナ芽生えをABA処理することによって主根の伸長が阻害され、根端部でのABI4 転写産物量が増加すること、abi4 変異体芽生えはABA処理に対する感受性が低下して、主根伸長阻害の程度が野生型植物(WT)よりも弱いことが判った。通常の培養条件(1/2 MS培地)では、WTとabi4 変異体芽生えの根分裂組織領域の大きさと細胞数に差異は見られないが、ABA処理をするとWTでは領域の大きさと細胞数が減少し、abi4 変異体では減少の程度が少なかった。そこで、ABI4と細胞周期との関連を調査したところ、abi4 変異体の根端部では細胞周期を正に制御するサイクリンやサイクリン依存時キナーゼをコードする遺伝子の発現量がWTよりも高いことが判った。abi4 変異体では、これらの遺伝子のABA処理後の発現量変化がWTよりも少なく、特にサイクリンBをコードするCYCB1;1 とサイクリン依存性キナーゼをコードするCDKB2;2 の発現量は常にWTよりも高くなっていた。クロマチン免疫沈降アッセイから、ABI4が結合する多くの遺伝子は細胞周期に関連していることが判明し、一過的発現解析から、ABI4はCYCB1;1 およびCDKB2;2 のプロモーター領域と直接相互作用をして転写を抑制することが確認された。ABI4CYCB1;1CDKB2;2 を過剰発現させた形質転換体芽生えの主根の長さは、1/2 MS培地で育成した際には同等だが、ABA処理条件ではOE-ABI4 の主根はWTよりも短くなり、OE-CYCB1;1OE-CDKB2;2 はWTと同等であった。また、OE-ABI4 のABA存在下での表現型は、CYCB1;1CDKB2;2 の過剰発現によって回復した。さらに、abi4/cdkb2;2 二重変異体、abi4/cycb1;1 二重変異体の主根長は、1/2 MS培地育成下ではabi4 変異体と同等であったが、ABA処理によりabi4 変異体よりも短くなった。これらの結果から、ABA処理によるOE-ABI4 の主根の伸長抑制は、ABI4によるCYCB1;1CDKB2;2 の発現抑制によるものであり、CYCB1;1CDKB2;2 はABI4の遺伝的下流で作用していることが示唆される。根の発達では根端部のオーキシン濃度が重要であることから、オーキシンレポーターDR5-GFP を発現させて解析を行なった。1/2 MS培地育成下ではabi4 変異体とWTの根端部におけるGFP蛍光レベルは同等であったが、ABA添加後のabi4 変異体のGFP蛍光はWTよりも著しく高いことが判った。また、WTの根ではABA添加によってオーキシン生合成酵素遺伝子YUCCA2YUCCA8 の発現量が減少するが、abi4 変異体での発現量はWTよりも高くなっていた。根端部のオーキシン(IAA、IBA)含量を比較すると、1/2 MS培地育成下ではabi4 変異体とWTで差異は見られないが、ABA処理後のabi4 変異体のオーキシン含量はWTよりも高くなっていた。そして、ABA処理によるOE-ABI4 の主根伸長抑制は、オーキシン添加によって回復した。よって、ABA処理によるOE-ABI4 の主根の伸長抑制は、少なくとも部分的にオーキシン濃度の減少によって引き起こされていると考えられる。オーキシン排出トランスポーターをコードするPIN1 遺伝子の発現を見ると、ABA処理後のabi4 変異体根端部での発現量はWTよりも高くなっていた。これらの結果から、abi4 変異体の根端部はオーキシン濃度が高いので、ABA処理後にWTよりも根が伸長すると考えられる。以上の結果から、ABAはABI4を介して細胞周期およびオーキシン生合成を制御することで主根の伸長を阻害していると考えられる。

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論文)オーキシンによるカルス形成誘導の分子機構

2023-01-16 11:49:58 | 読んだ論文備忘録

High auxin stimulates callus through SDG8‐mediated histone H3K36 methylation in Arabidopsis
Ma et al.  J. Integr. Plant Biol. (2022) 64:2425–2437.

doi:10.1111/jipb.13387

根や胚軸などの多様な器官からのカルス形成は、内鞘または内鞘様細胞から根分裂組織に類似した組織へと細胞運命が移行して誘導される。この過程は、高濃度のオーキシンを含むカルス誘導培地(CIM)によって誘導され、カルス誘導の鍵となる制御因子がいくつか同定されているが、高濃度オーキシンが引き起こす制御メカニズムの多面的な解明は進んでいない。中国 福建農林大学のXu らは、T-DNA挿入によってヒストンH3K36メチルトランスフェラーゼのSET DOMAIN GROUP 8(SDG8)が機能喪失したシロイヌナズナsdg8 変異体の器官は、CIMで培養することによって誘導されるカルスの量が野生型よりも少ないことを見出した。また、sdg8 変異体ではシュートや根への再分化能も低下していた。野生型植物では組織片をCIMに置床すると内鞘細胞や根のマーカー遺伝子の発現量が増加するが、sdg8 変異体では誘導量が減少していた。これらの結果から、SDG8はカルス誘導に関与する遺伝子の発現を制御しており、内鞘細胞からカルス細胞への移行に必要であることが示唆される。SDG8 の転写は CIM置床後に徐々に誘導され、SDG8タンパク質はカルス形成部位に蓄積した。この時、根分裂組織マーカー遺伝子であるWOX5 の発現もSDG8 と同様の時空間的パターンを示した。CIMには植物ホルモンとしてオーキシン(2,4-D)とサイトカイニン(カイネチン)が含まれているが、オーキシンがSDG8 の発現誘導とカルス形成の両方に大きな影響を与えていることが判った。CIMによるSDG8 の発現誘導とカルス形成は、tir1 afb2 afb3 オーキシン受容体三重変異体では見られなかった。したがって、CIMとオーキシンはTIR1/AFBsに基づく機構でSDG8 の発現とカルス形成を誘導していると考えられる。トランスクリプトーム解析から、SDG8は、CIMによるカルス誘導時に、細胞増殖関連遺伝子とカルス特異的遺伝子の両方の転写活性化と、ストレス関連遺伝子の転写抑制に関与していることが判った。SDG8はH3K36のメチル化を触媒しており、クロマチン免疫沈降(ChIP)解析から、SDG8はカルス形成時にカルス化関連遺伝子内でH3K36me3ヒストン修飾を行うことが確認された。WOX5は、根端の静止中心(QC)を維持することが報告されているが、カルス誘導におけるその役割は報告されていない。wox5 変異体は、胚軸や根の組織片からのカルス形成においてsdg8 変異体と類似した表現型を示し、sdg8 wox5 二重変異体はそれぞれの単独変異体よりも強くカルス形成が抑制された。したがって、カルス形成過程において、SDG8を介したヒストン修飾と並行して、WOX5を制御する因子が存在する可能性がある。また、sdg8 変異体もwox5 変異体と同様にQCの並層分裂の異常を引き起こした。よって、SDG8はQCでのWOX5 の転写活性化にも関与していることが示唆される。以上の結果から、オーキシンは、TIR1依存的にSDG8 の発現を誘導してH3K36me3修飾をカルス関連遺伝子内に沈着させ、カルス誘導中の転写プロファイルを再プログラムしていると考えられる。

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論文)沈水処理による葉切片全体のカルス化

2023-01-12 13:46:24 | 読んだ論文備忘録

Submergence promotes auxin-induced callus formation through ethylene-mediated post-transcriptional control of auxin receptors
Shin et al.  Molecular Plant (2022) 15:1947-1961.

doi:10.1016/j.molp.2022.11.001

葉切片をオーキシンを含むカルス誘導培地(CIM)に置床してカルス形成を誘導すると、切片全体が培地に接触しているにもかかわらず、カルス化は切口付近で急速に進行する。このことは、細胞の再プログラミングが切口から遠いところではあまり活発でないことを示している。しかしながら、カルス化を抑制する機構については明らかとなっていない。韓国生命工学研究院(KRIBB)Lee らは、シロイヌナズナ芽生えを1時間水に浸漬した後に葉を切取ってCIMで培養すると、切口だけでなく葉切片全体がカルス化することを見出した。この沈水処理による切片全体のカルス化は、根では見られなかった。沈水処理をしても傷害応答のマーカー遺伝子であるJAZ10 の発現に変化は見られないことから、沈水処理は傷害応答を引起しているのではいない。通常の葉切片では、CIM置床後に切口近傍でのみ細胞分化多能性のマーカー遺伝子であるWUSCHEL-RELATEDHOMEOBOX 11WOX11 )の発現が見られるが、沈水処理をした葉切片では切口から離れた無傷領域でも発現が見られた。このような遺伝子発現部位の拡大は、他の分化多能性やカルス形成に関連する遺伝子においても確認された。沈水処理によるカルス形成領域の拡大は、ハクサイ(Brassica rapa )の葉切片においても観察された。組織切片からのカルス形成は、2つの異なる経路で誘導されており、オーキシンによるカルス形成はオーキシンに関連した側根発生経路を介して主に内鞘細胞で起こるが、傷害によるカルス形成はサイトカイニンのシグナル伝達経路を介して様々なタイプの細胞で起こる。沈水処理によるカルス形成誘導は維管束系から始まることから、沈水処理はオーキシンが誘導する木部内鞘細胞のカルス形成を促進していることが示唆される。そこで、オーキシンシグナルと沈水処理との関係を調査した。オーキシン受容体遺伝子TRANSPORT INHIBITOR RESPONSE 1TIR1 )とAUXIN SIGNALING F-BOX 2AFB2 )の発現は、沈水処理によって無傷領域での発現量が増加した。また、オーキシンレポーター遺伝子DR5rev:GFP を導入した芽生えの葉切片は、沈水処理によってオーキシン応答領域が拡大した。tir1 変異体の葉切片は、沈水処理によるカルス形成の程度が低下していた。これらの結果から、沈水処理は、葉切片の無傷領域でのオーキシンシグナルを活性化し、その結果としてカルス形成が誘導されると考えられる。RNA-seq解析の結果、沈水処理はエチレンの生合成や応答に関与する遺伝子の発現を誘導することが判った。また、エチレン受容阻害剤AgNO3処理は沈水処理による無傷領域でのカルス形成を抑制し、エチレン前駆体ACC処理は切片全体のカルス形成を促進した。エチレン過剰合成ethylene-overproducer 1eto1 )変異体は、野生型植物をACC処理した際と同程度のカルス形成を示した。エチレン受容体ethylene response 1etr1 )変異体は、沈水処理によるカルス形成誘導に対して非感受性となり、無傷領域でのWOX11 やオーキシン受容体遺伝子の発現量が減少していた。恒常的にエチレン応答性表現型を示すconstitutive triple response 1ctr1 )変異体は、沈水処理をしなくても切片全体がカルス形成を起こし、無傷領域でのWOX11TIR1AFB1 の発現量が高くなっていた。これらの結果から、エチレンはオーキシンによるカルス形成を活性化していることが示唆される。エチレン非感受性ein2 変異体は、沈水処理による無傷領域でのカルス形成が抑制され、オーキシン受容体遺伝子やオーキシンレポーター遺伝子の発現量増加が見られなかった。このことから、沈水処理が誘導するオーキシンシグナルの活性化はEIN2に依存していることが示唆される。エチレンシグナル伝達経路において、EIN2は転写因子EIN3、ETHYLENE INSENSITIVE3-LIKE 1(EIL1)を安定化して遺伝子発現を制御しているが、ein3 eil1 二重変異体のカルス形成は野生型と同等であることから、EIN3、EIL1は沈水処理を介したカルス形成には関与していないと考えられる。TIR1AFB2 の転写産物量はmicroRNA393(miR393)による転写後制御を受けており、沈水処理は無傷領域でのmiR393量を減少させたが、ein2 変異体ではそのような変化は見られなかった。沈水処理後のmiR393のプライマリーRNAの発現量は野生型とein2 変異体の間で差異は見られなかったが、miRNAの分解に関与しているSMALL RNA DEGRADING NUCLEASE 1SDN1 )やHEN1 SUPPRESSOR1HESO1 )の沈水処理後の発現量の増加がein2 変異体では見られなかった。これらの結果から、EIN2はSDN1 のようなmiRNA代謝回転に関連する遺伝子の発現を制御することで、沈水後の葉切片の無傷領域でのmiR393の分解を促進することが示唆される。沈水処理で葉切片全体で形成されたカルスは、シュート誘導培地に移植することでシュートを再生させた。よって、沈水処理したカルスはde novoシュート器官形成に利用できる。以上の結果から、切片傷害部から離れた領域ではオーキシンによるカルス形成が抑制されているが、短期間の水浸漬によりエチレンシグナルが活性化されると、EIN2を介したオーキシン受容体遺伝子の転写後制御によってオーキシン応答が誘発されてカルス形成が活性化することが判った。本研究成果は、植物組織培養時の細胞脱分化の抑制解除や再生能力の向上に利用できる可能性がある。

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論文)高温による葉の成長抑制の分子機構

2023-01-06 15:43:12 | 読んだ論文備忘録

High temperature restricts cell division and leaf size by coordination of PIF4 and TCP4 transcription factors
Saini et al.  Plant Physiology (2022) 190:2380–2397.

doi:10.1093/plphys/kiac345

高い環境温度は、シロイヌナズナのロゼット葉の拡大を抑制する。しかしながら、温度による葉の大きさの制御機構については殆ど判っていない。インド 国立植物ゲノム研究所(NIPGR)のRanjan らは、シロイヌナズナを通常温度(21 ℃)と高温(28 ℃)で育成し、高温下ではロゼット葉の面積が減少することを見出した。この変化を細胞レベルで観察すると、高温下では対照と比較して1葉あたりの表皮細胞数が50 %、柵状細胞数が66 %減少していることが判った。また、高温下で展開中の葉では細胞周期のマーカー遺伝子CyclinB1;1 の発現量が減少していた。これらの結果から、高温に長時間曝されると細胞分裂が抑制されることで細胞数が減少し、葉面積が減少することが示唆される。PHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR4(PIF4)は、温度形態形成を制御する転写因子として知られている。高温下の葉では、調査した全てのPIF 遺伝子の発現が誘導され、特にPIF4 の発現量が高くなっていた。この発現誘導は高温処理8時間後には減少していったが、PIF4 だけは高い発現を維持していた。PIF4 は、高温処理した葉の基部で発現量が増加し、表皮細胞でPIF4タンパク質の蓄積も観察された。pif4 変異体は、ロゼット葉の表現型や表皮細胞数の高温処理による変化が見られなかった。したがって、PIF4は細胞数を制御することで高温下で葉の大きさを決定していると考えられる。高温に応答して葉で発現誘導される遺伝子を公的トランスクリプトームデータから探索し、クラスⅡTEOSINTE BRANCHED1/CYCLOIDEA/PCFTCP )転写因子遺伝子のTCP3TCP4 の発現量が増加することを見出した。TCP4は細胞分裂を抑制することで葉の大きさを制御していることが報告されており、tcp4 変異体は高温処理による葉面積の減少は見られず、細胞数の減少も野生型植物と比較すると僅かであった。このことから、TCP4は温度に応答した細胞分裂制御を介して葉の大きさの決定に関与していると考えられる。pif4tcp4 二重変異体の解析から、PIF4とTCP4は葉の温度形態形成において同じ経路上で機能していることが示唆された。TCP4は細胞周期阻害因子をコードするKIP-RELATED PROTEIN1KRP1 )の発現を増加させることで細胞分裂を阻害することが知られている。野生型植物を高温処理すると1時間以内にKRP1 の発現が誘導されたが、pif4 変異体、tcp4 変異体、pif4tcp4 二重変異体では誘導が見られなかった。また、pif4tcp4 二重変異体のKRP1 転写産物量はそれぞれの単独変異体よりも少なかった。krp1 変異体は、高温処理による葉面積の減少が見られず、細胞数の減少も野生型植物よりも少なかった。ベンサミアナタバコを用いたプロモーター活性アッセイから、KRP1 プロモーター活性はPIF4とTCP4によって活性化され、両者は単独の場合よりもプロモーター活性を高めることが判った。また、PIF4とTCP4は相互作用することが確認された。KRP1 プロモーター領域には、既知のTCP4結合部位と、その近傍にPIF4が結合するG-boxが見られた。クロマチン免疫沈降-PCRアッセイから、高温処理によってTCP4のKRP1 プロモーター領域への結合は40倍増加し、PIF4の結合は4倍増加することが判った。また、高温処理によるG-boxへのPIF4結合の増加はtcp4 変異体では見られなかった。PIF4 遺伝子プロモーター領域にもTCP結合エレメントが見られ、高温処理によるPIF4 の発現誘導はtcp4 変異体では見られなかった。したがって、TCP4は高温処理によるPIF4 の発現誘導も制御している。以上の結果から、TCP4は高温下で PIF4 の発現を誘導し、PIF4とTCP4はKRP1 の発現を活性化して高温下での葉の細胞分裂を抑制しており、環境制御因子であるPIF4と発生制御因子であるTCP4の協調的な相互作用が高温下での最終的な葉の大きさを決定していると考えられる。

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謹賀新年

2023-01-01 08:47:12 | Weblog

明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願い致します。

グンバイヒルガオ(軍配昼顔)Ipomoea pes-caprae
ヒルガオ科サツマイモ属
2022年10月25日 沖縄県八重山郡竹富町黒島

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