WRKY42 transcription factor positively regulates leaf senescence through modulating SA and ROS synthesis in Arabidopsis thaliana
Niu et al. Plant Journal (2020) 104:171-184.
doi: 10.1111/tpj.14914
中国 西北農林科技大学のJiang らは、シロイヌナズナの葉が老化する際にWRKYファミリー転写因子遺伝子WRKY42 の発現が強く誘導されること、WRKY42はサリチル酸(SA)生合成経路の重要な酵素遺伝子isochorismate synthase 1(ICS1 )のプロモーターに結合することを見出している。これらの結果から、WRKY42は葉の老化制御において重要な役割を演じているのではないかと考え、解析を行なった。WRKY42 の発現プロファイルを詳細に観察すると、老化の初期から後期にかけて発現量が増加し、葉の中でも先端の黄化領域で発現量が高くなっていた。WRKY42 を過剰発現させた形質転換体(WRKY42-OE )は、葉の老化が野生型よりも早まり、老化マーカー遺伝子のSAG12 の発現量、活性酸素種(ROS)H2O2の含量が高くなっていた。植物体のライフサイクルも短くなり花成が促進されたが、種子量は野生型と同等であった。T-DNA挿入wrky42 変異体は、葉の老化が遅延し、野生型と比較して、H2O2含量が少なく、クロロフィル含量が多く、電解質の漏出量が少なく、SAG12 発現量が減少していた。これらの結果から、WRKY42は加齢による葉の老化を正に制御していると考えられる。WRKY42-OE と野生型植物のRNA-seq解析の結果、両者で発現量の異なる遺伝子の中に葉の老化を正に制御することが報告されている7つの遺伝子グループ、1)老化関連遺伝子(SAG)、2)SA生合成・シグナル伝達関連遺伝子、3)プログラム細胞死(PCD)関連遺伝子、4)エチレン生合成関連遺伝子、5)アブシジン酸(ABA)生合成関連遺伝子、6)ジャスモン酸(JA)生合成・シグナル伝達関連遺伝子、7)ROS生産・シグナル伝達関連遺伝子、が見られた。また、WRKY42-OE では老化転写因子遺伝子の転写産物量も増加しており、老化により発現量が減少する遺伝子(SDG)は発現抑制されていた。これらの結果から、WRKY42は複雑な制御ネットワークを介して葉の老化を調節していると考えられる。WRKY転写因子はシスエレメントW-box(TTGACC/T)に直接結合するが、WRKY42-OE で転写産物量が増加している1498遺伝子のうち1164遺伝子はプロモーター領域にW-boxを含んでいた。実際に、WRKY42はSAG 遺伝子、SA関連遺伝子、ROS関連遺伝子のプロモーター領域W-boxに結合して転写を活性化することが確認された。WRKY42-OE の葉は老化を促進する植物ホルモンのSA、JA、ABAの含量が増加しており、wrky42 変異体ではSA量は減少していたが、JA、ABAは野生型と同等であった。よって、WRKY42による葉の老化制御にはSA蓄積が関与しており、ABAとJAも間接的に関与していることが示唆される。SA生合成酵素遺伝子 ICS1 (SID2 )が変異したWRKY42-OE/sid2 は老化が促進される表現型は消失し、SA量が減少した。また、ROS関連遺伝子respiratory burst oxidase homolog F (RbohF )が機能喪失したWRKY42-OE/rbohf は老化が遅延し、H2O2蓄積が抑制された。さらに、WRKY42-OE/sid2 はH2O2含量がWRKY42-OE よりも減少し、WRKY42-OE/rbohf のSA含量はWRKY42-OE よりも低くなっていた。よって、SA量とH2O2量は高い相関があると考えられる。野生型植物を高濃度のSAもしくはH2O2処理をするとWRKY42 の発現が抑制されることから、WRKY42 の発現は複雑な負のフィードバック制御によって微調整されていることが示唆される。以上の結果から、WRKY42は齢に応じた葉の老化を正に制御する転写因子として機能していると考えられる。