Asymmetric distribution of cytokinins determines root hydrotropism in Arabidopsis thaliana
Chang et al. Cell Research (2019) 29:984-993.
doi:10.1038/s41422-019-0239-3
植物の根端が土中の水分勾配を感知して水分ポテンシャルの高い方向に成長する現象を水分屈性と呼ぶ。これまでの研究から、根の水分屈性は重力屈性や光屈性とは異なる機構によって制御されていることが示唆されているが、詳細は明らかとなっていない。中国 蘭州大学のLi らは、シロイヌナズナ芽生えの根に水分勾配を与えて屈曲を誘導したところ、水ポテンシャルの低い凸面側は活発に分裂する細胞が多く、オーキシン蓄積量が多いことがわかった。根の重力屈性では、凹面側にオーキシンが蓄積して成長を抑制していること、pin2 変異体は重力屈性応答が欠失して水分屈性応答が強まることから、オーキシンは水分屈性を負に制御していると思われる。次にサイトカイニンの分布について調査したところ、水ポテンシャルの低い凸面側に蓄積しており、このようなサイトカイニンの不均等分布は水分屈性応答変異体miz1-2 では見られないことがわかった。そこで、サイトカイニン(ゼアチン)の濃度勾配をつけた培地で芽生えを育成したところ、低濃度のゼアチン(1 nM)は根端部の細胞分裂を促進することが確認された。サイトカイニンシグナル伝達に関与するタイプAレスポンスレギュレーターをコードしているARR16 とARR17 の根端部での発現は、水分刺激を与えることで増加し、不均等な発現パターンを示した。また、miz1-2 変異体では水分刺激に関係なくARR16 、ARR17 の発現量は低くなっていた。よって、ARR16とARR17は根の水分応答制御に関与していることが示唆される。ARR16 、ARR17 がエストラジオールで誘導されるコンストラクトを導入した野生型およびmiz1-2 変異体においてARR16 、ARR17 を不均等に誘導させると、不均等な細胞分裂が起こり、誘導側から離れるように根が屈曲していった。サイトカイニンの生合成やシグナル伝達に関与する遺伝子の機能喪失変異体は、根の水分屈性が低下していた。また、サイトカイニンの生合成を阻害するロバスタチンや細胞分裂を阻害するコルヒチンを添加すると、根の伸長や重力屈性は起こるが、水分屈性は抑制された。したがって、サイトカイニンを介した細胞分裂が根の水分屈性にとって重要であると考えられる。以上の結果から、根の水分屈性はサイトカイニンの不均等分布によって引き起こされていると考えられる。