Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)根の水分屈性はサイトカイニンの不均等分布によって引き起こされる

2019-12-20 05:33:09 | 読んだ論文備忘録

Asymmetric distribution of cytokinins determines root hydrotropism in Arabidopsis thaliana
Chang et al. Cell Research (2019) 29:984-993.

doi:10.1038/s41422-019-0239-3

植物の根端が土中の水分勾配を感知して水分ポテンシャルの高い方向に成長する現象を水分屈性と呼ぶ。これまでの研究から、根の水分屈性は重力屈性や光屈性とは異なる機構によって制御されていることが示唆されているが、詳細は明らかとなっていない。中国 蘭州大学Li らは、シロイヌナズナ芽生えの根に水分勾配を与えて屈曲を誘導したところ、水ポテンシャルの低い凸面側は活発に分裂する細胞が多く、オーキシン蓄積量が多いことがわかった。根の重力屈性では、凹面側にオーキシンが蓄積して成長を抑制していること、pin2 変異体は重力屈性応答が欠失して水分屈性応答が強まることから、オーキシンは水分屈性を負に制御していると思われる。次にサイトカイニンの分布について調査したところ、水ポテンシャルの低い凸面側に蓄積しており、このようなサイトカイニンの不均等分布は水分屈性応答変異体miz1-2 では見られないことがわかった。そこで、サイトカイニン(ゼアチン)の濃度勾配をつけた培地で芽生えを育成したところ、低濃度のゼアチン(1 nM)は根端部の細胞分裂を促進することが確認された。サイトカイニンシグナル伝達に関与するタイプAレスポンスレギュレーターをコードしているARR16ARR17 の根端部での発現は、水分刺激を与えることで増加し、不均等な発現パターンを示した。また、miz1-2 変異体では水分刺激に関係なくARR16ARR17 の発現量は低くなっていた。よって、ARR16とARR17は根の水分応答制御に関与していることが示唆される。ARR16ARR17 がエストラジオールで誘導されるコンストラクトを導入した野生型およびmiz1-2 変異体においてARR16ARR17 を不均等に誘導させると、不均等な細胞分裂が起こり、誘導側から離れるように根が屈曲していった。サイトカイニンの生合成やシグナル伝達に関与する遺伝子の機能喪失変異体は、根の水分屈性が低下していた。また、サイトカイニンの生合成を阻害するロバスタチンや細胞分裂を阻害するコルヒチンを添加すると、根の伸長や重力屈性は起こるが、水分屈性は抑制された。したがって、サイトカイニンを介した細胞分裂が根の水分屈性にとって重要であると考えられる。以上の結果から、根の水分屈性はサイトカイニンの不均等分布によって引き起こされていると考えられる。

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論文)側根形成と根粒共生の遺伝子共用

2019-12-13 05:49:29 | 読んだ論文備忘録

A shared gene drives lateral root development and root nodule symbiosis pathways in Lotus
Soyano et al. Science (2019) 366:1021-1023.

DOI: 10.1126/science.aax2153

PERSPECTIVE
Turning lateral roots into nodules
Anthony Bishopp and Malcolm J. Bennett  Science (2019) 366:953-954.

DOI: 10.1126/science.aay8620

ミヤコグサを用いた研究から、NODULE INCEPTION(NIN)転写因子が根粒形成誘導とって重要であることが示されている。NIN とそのターゲットであるNuclear Factor-YNF-Y )サブユニット遺伝子NF-YA1NF-YB1 を異所的に発現させると、側根原基の発達と根粒形成に向けた皮層細胞分裂の活性化が起こる。このことは、NINとそのターゲット因子は根粒発達プログラムと側根発達プログラムを結びつけていることを示している。理化学研究所 環境資源科学研究センターらは、ChIP-seq解析によりASYMMETRIC LEAVES 2-LIKE 18/LATERAL ORGAN BOUNDARIES DOMAIN 16aASL18/LBD16a )がNINのターゲット遺伝子であることを見出した。2つあるASL18aASL18b 遺伝子のイントロン領域にはNIN結合配列が含まれており、ASL18a の発現がNINによって誘導されることが確認された。ASL18 は側根原基形成時に発現しており、asl18a ノックアウト植物は野生型よりも側根密度が低くなった。ASL18a 遺伝子プロモーターはオーキシンに応答して発現し、根粒菌感染時に形成される根粒原基においても発現していた。asl18a 変異体は根粒の数と大きさが野生型よりも減少した。よって、ASL18a は根粒の成長に関与していることが示唆される。nf-ya1 nf-yb1 二重変異体は根粒の発達が抑制されるが、asl18a nf-ya1 nf-yb1 三重変異体ではさらに根粒発達が抑制され、根粒原基数が二重変異体の半分程度になった。一方、nf-y 変異体は側根密度に変化は見られなかった。ASL18aはNF-Yサブユニットと相互作用をすることが確認された。NF-YA1NF-YB1 を過剰発現させると側根密度が2倍に増加するが、ASL18a を過剰発現させてもそのような変化は見られなかった。しかし、ASL18a と2つのNF-Y サブユニットを過剰発現させると側根密度が6倍になった。また、NIN の発現が低下しているdaphne 変異体でASL18aNF-Y サブユニットを発現させることで根粒が形成された。以上の結果から、側根発達を制御する経路がNINの下流で根粒共生の誘導に組入れられていることが示唆される。

 

本研究のプレスリリース

マメ科植物の根粒と側根の発達は共通した遺伝子が制御することを発見

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論文)シス桂皮酸による成長促進

2019-12-05 22:27:41 | 読んだ論文備忘録

cis-Cinnamic acid is a natural plant growth-promoting compound
Steenackers et al. Journal of Experimental Botany (2019) 70:6293-6304.

doi:10.1093/jxb/erz392

フェニルプロパノイドの桂皮酸(CA)は、植物の成長を促進することが知られている。桂皮酸のシス異性体(c-CA)はオーキシンの極性輸送を阻害することが報告されているが、CAによる成長促進についての詳細な研究はない。ベルギー ゲント大学 フランダースバイオテクノロジー研究機関(VIB)植物システムバイオロジーセンターのVanholme らは、シロイヌナズナにCAを与えて成長を観察し、2.5 μMの桂皮酸異性体混合物(c/t-CA)を与えることで、葉面積、地上部のバイオマス、根の乾物重量が増加することを確認した。また、シロイヌナズナと異なりロゼットや抽だいがないベンサミアナタバコを用いた試験においても、c/t-CA添加によって葉面積、地上部のバイオマス、根の乾物重量の増加が観察され、草丈が高くなり、茎が太くなった。オーキシン結合酵素をコードするiaaLを過剰発現させて内生オーキシン量を低下させた形質転換体(35S::iaaL)は、c/t-CA添加による成長促進が見られなくなった。オーキシンマーカーpDR5::GUS を発現させた系統を用いた解析から、c/t-CA添加は根においてのみオーキシン蓄積量を増加させ、地上部のオーキシン量は変化していないことがわかった。したがって、オーキシンはc/t-CAによる成長促進に必須であるが、地上部バイオマスの増加には直接関与しておらず、c/t-CA処理によるオーキシンに依存した根の成長促進の結果として地上部の成長が促進されたものと思われる。CAの異性化はUV-B照射によって引き起こされ、蛍光灯が発するUVによって、cis/trans-CAは60/40で平衝に達する。そこで、LED光照射下でc-CAもしくはt-CAを添加して成長を観察したところ、c-CA処理をした場合にシロイヌナズナの根の成長に変化が見られた。よって、CAの成長促進活性はシス異性体が有していると思われる。そこで、CAのアナログで構造が安定している2-フェニル-1-シクロプロパンカルボン酸(PCPCA)のシス/トランス異性体を用いて解析を行なった。その結果、c-PCPCA処理をした場合にc-CAと同じような結果が得られた。以上の結果から、シス桂皮酸は植物の成長を促進する物質して機能することが示唆される。c-CAは植物体内での移動性がないので、成長した根による水分や養分の取込量の増加が地上部バイオマスの増加をもたらしているのかもしれない。

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