Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)リン酸欠乏によるストリゴラクトン合成と地上部分枝抑制

2011-02-28 22:21:02 | 読んだ論文備忘録

Strigolactones Are Transported through the Xylem and Play a Key Role in Shoot Architectural Response to Phosphate Deficiency in Nonarbuscular Mycorrhizal Host Arabidopsis
Kohlen et al.  Plant Physiology (2011) 155:974-987.
doi:10.1104/pp.110.164640

オランダ ワーゲニンゲン大学Bouwmeester らは、リン酸欠乏条件に置かれたシロイヌナズナの根の浸出液が寄生植物PhelipancheOrobancheramosa の発芽を誘導することを見出した。そこで、根浸出液から発芽刺激物質をHPLCにより分離精製し、オロバンコール、オロバンキル酢酸、5-デオキシストリゴールを検出した。リン酸欠乏によるオロバンコール生産の増加は野生型植物(Col-0)とmax2 変異体において観察されたが、max1 変異体やmax4 変異体では殆ど見られなかった。また、リン酸が十分にある条件でmax2 変異体のオロバンコール生産量は野生型よりも高くなっていた。リン酸が十分にある条件で野生型植物は平均して4つの二次分枝を形成するが、すべてのmax 変異体はそれよりも多くの二次分枝を形成した。リン酸欠乏条件では野生型植物の形成する二次分枝数は減少したが、max 変異体ではそのような減少は見られなかった。リン酸欠乏により根からシュートに輸送される分枝に関するシグナルを調べるために、木部溢泌液を集めP. ramosa の発芽試験を行なったところ、リン酸欠乏条件の野生型植物の木部溢泌液はP. ramosa の発芽を高めることがわかった。また、リン酸欠乏条件で育成した野生型植物の木部溢泌液オロバンコール濃度はリン酸が十分にある条件で育成した植物よりも27%高くなっていた。合成ストリゴラクトンのGR24を加えた水耕液でシロイヌナズナを栽培し、液に触れていない地上部から調製した抽出液にGR24が含まれていることが確認された。以上の結果から、リン酸欠乏条件で根においてMAX1、MAX4活性によって生産されたストリゴラクトンは、木部によって地上部へ輸送され、二次分枝形成を抑制していると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

植物展)世界らん展日本大賞2011

2011-02-26 17:50:34 | 植物観察記録

世界らん展日本大賞2011」に行ってきました(2月19日~27日、東京ドーム)。3時過ぎに会場に入りましたが、ツアーできている団体の方が多くいました。今年の個別審査部門は以下の方が受賞しました。

日本大賞 The Japan Grand Prix
セロジネ クリスタータ,ホロレウカ ‘ピュア ホワイト’
Coelogyne cristata fma. hololeuca ‘Pure White’)
千葉県市川市 須和田農園 / 江尻 光一

優秀賞 Award for Distinction
カトレア メロディフェア ‘サチ’
Cattleya Melody Fair ‘Sachi’)
福島県いわき市 いわき洋らん園 / 波汐 英次

優良賞 Merit Award
パピリオナンテ テレス,アルバ ‘オオヤマザキ’
Papilionanthe teres fma. alba ‘Oyamazaki’)
茨城県つくば市 斉藤 正博

今年の日本大賞は蘭の栽培家として著名な江尻光一さんの出品したセロジネの大株が受賞しました。日本大賞は1991年、1994年に次いで3度目の受賞となります。優秀賞を受賞した波多さんと優良賞の斉藤さんも世界らん展日本大賞では何度も賞をとっている方です。斉藤さんは2008年、2009年と二年連続して日本大賞を受賞しています。今年は主催者展示として 「あなたの知らない蘭との出会い クモ・へび・蝶」と題して不思議な形態をしたラン、タランチュラオーキッド(Stelis tarantula )、コブラオーキッド(Bulbophyllum maximum )、バタフライオーキッド(Psychopsis papilio )の3種類が展示されていました。また、2013年に沖縄海洋博公園で開催される第11回アジア太平洋蘭会議(APOC11)のPRに、沖縄美ら海水族館から熱帯魚の泳ぐ大型水槽とランを組み合わせたディスプレイが展示されていました。

 

世界らん展日本大賞2011 会場の様子


日本大賞  セロジネ クリスタータ,ホロレウカ ‘ピュア ホワイト’ (Coelogyne cristata fma. hololeuca ‘Pure White’)

優秀賞  カトレア メロディフェア ‘サチ’ (Cattleya Melody Fair ‘Sachi’)

優良賞  パピリオナンテ テレス,アルバ ‘オオヤマザキ’ (Papilionanthe teres fma. alba ‘Oyamazaki’)

花茎がコブラのような形をしているコブラオーキッド(Bulbophyllum maximum


花が細かい毛で覆われ毒蜘蛛のようなタランチュラオーキッド(Stelis tarantula


これは個別審査分門にあったランだが、やはり不思議な形態をしているPleurothallis teaguei
大きな葉の付け根から複数の花を咲かせいている。


沖縄美ら海水族館から熱帯魚の泳ぐ大型水槽とランを組み合わせたディスプレイ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)ストリゴラクトンによる根系構造の変化

2011-02-25 19:08:42 | 読んだ論文備忘録

Physiological Effects of the Synthetic Strigolactone Analog GR24 on Root System Architecture in Arabidopsis: Another Belowground Role for Strigolactones?
Ruyter-Spira et al.  Plant Physiology (2011) 155:721-734.
doi:10.1104/pp.110.166645

シュートの分枝はオーキシンやストリゴラクトンといった植物ホルモンの厳密な相互作用によって制御されている。根の成長や分枝も幾つかの植物ホルモンが関与している。オランダ ワーゲニンゲン大学Bouwmeester らは、ストリゴラクトンが根系の構造に与える影響を調査した。シロイヌナズナストリゴラクトン生合成変異体のmax1max4 、ストリゴラクトンシグナル伝達変異体のmax2 の芽生えの一次根は野生型よりも短く、根端分裂組織の細胞数が少ないが、合成ストリゴラクトンGR24処理することによって、max2 変異体以外で一次根の伸長が促進され根端分裂組織細胞数が増加した。GR24処理は根の分裂領域と伸長領域の間の移行領域の細胞数を増加させ、移行領域のサイズを大きくした。GR24処理による根の成長の変化がオーキシン濃度勾配と関係しているか、PINタンパク質の分布を見ることで確認したところ、GR24処理によって、一次根前形成層のPIN1、PIN3、PIN7の量が減少した。また、GR24処理は側根の成長を抑制することで側根形成密度を減少させた。これはGR24処理によるPINタンパク質の減少がオーキシンの勾配に変化をもたらしたことによると考えられる。オーキシン(NAA)とGR24を同時に与えると、オーキシンを単独で与えた場合と同様に側根原器の発達が促進され、PIN1タンパク質の減少も見られなかった。しかも、オーキシン単独処理よりも形成された側根が長くなった。よって、GR24処理は局所的なオーキシン量の変化をもたらし、GR24の作用は植物体のオーキシン量に依存していると考えられる。側根原器の発達は地上部から供給されるオーキシンによって刺激されるが、GR24処理は葉のオーキシン量を低下させる作用があり、これはMAX2を介してなされていることがわかった。よって、GR24による側根成長の抑制には地上部からのオーキシン供給の減少も関与していると思われる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)ジャスモン酸による葉の老化誘導とルビスコ活性化酵素との関係

2011-02-23 23:20:14 | 読んだ論文備忘録

The Role of Arabidopsis Rubisco Activase in Jasmonate-Induced Leaf Senescence
Shan et al.  Plant Physiology (2011) 155:751-764.
doi:10.1104/pp.110.166595

ジャスモン酸(JA)は葉の老化を誘導することが知られているが、その分子機構は明らかとなっていない。中国 清華大学Xie らは、メチルジャスモン酸(MeJA)処理をした野生型およびcoi1 変異体のシロイヌナズナのタンパク質を二次元電気泳動で分離し、両者でタンパク質量に差がある61のスポットを見出した。これらのスポットについてMALDI-TOF MSを用いてペプチドフィンガープリンティングを行ない、43のスポット、35種類のタンパク質を同定した。このうち、21のタンパク質はMeJA処理をした野生型植物で増加し、14のタンパク質は減少していた。これら35のタンパク質は、JA無処理では野生型とcoi1 変異体で差が見られず、coi1 変異体ではJA処理の有無による変化を示さなかった。よって、これらのタンパク質量はJA処理によってCOI1依存的に制御されている。35のタンパク質の多くは酵素をコードしており、それらはJA生合成、アミノ酸代謝、光合成/クロロフィル代謝、呼吸、防御/ストレス応答に関与するものであった。また、35のタンパク質のうち15は過去のマイクロアレイ解析においてJAによって転写産物量が制御されることが確認されていた。35のタンパク質の中には、ルビスコ活性化酵素(RCA)が含まれており、RCAタンパク質はJA処理によって減少していた。RCA 転写産物量もJA処理によって減少しており、このような変化はcoi1 変異体では見られなかった。このRCA 転写産物のJA処理による減少はタンパク質量の減少に先行して起こっていた。RCAの減少に呼応して野生型植物ではJA処理によって葉の老化、特に黄化が起こったが、coi1 変異体をJA処理しても葉の黄化は僅かしか起こらなかった。よって、COI1はJAの誘導する葉の老化に必須であり、COI1を介したJAによるRCAの減少は、JAの誘導する葉の老化と関連していることが示唆される。RCAの減少と老化との関係をT-DNA挿入rca 変異体を用いて調査したところ、rca 変異体はクロロフィル含量が少ないために葉色が淡く、成長が悪いといった形態変化を示し、老化のマーカー遺伝子であるSAG21 (senescence-associated gene 21)、SAG13SEN4 (senescence 4)の発現量が増加し、老化で発現量が減少するCAB1 (chlorophyll a/b-binding protein 1 )、CAB2RBCS (Rubisco small subunit)の発現量が減少していた。よって、JAによるRCAの減少はJAの誘導する葉の老化において重要な役割を演じていると考えられる。JAにより発現誘導されるCOR1 (coronatine-induced protein 1)、PDF1.2 (plant defensin 1.2)、Thi2.1 (thionin 2.1)、VSP (vegetative storage protein)はcoi1 変異体では誘導されないが、rca 変異体でもCOR1PDF1.2Thi2.1 のJAによる発現誘導が低下していた。しかし、VSP に関してはrca 変異体においても正常にJAによる発現誘導が起こることから、VSP は他の遺伝子とは異なるJA誘導機構が働いていると考えられる。暗処理によって誘導される葉の老化においてもRCAタンパク質の減少が観察された。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)DELLAタンパク質はJAZタンパク質を介してジャスモン酸シグナルを制御する

2011-02-22 19:20:36 | 読んだ論文備忘録

DELLAs Modulate Jasmonate Signaling via Competitive Binding to JAZs
Hou et al.  Develpmental Cell (2010) 19:884-894.
DOI:10.1016/j.devcel.2010.10.024

ジャスモン酸(JA)シグナル伝達経路は他の植物ホルモンとのクロストークによって複雑な調節ネットワークを形成している。JAによるストレス応答や成長制御には、ジベレリン(GA)によって分解が誘導されるDELLAタンパク質が関与していることが報告されているが、その詳細な分子機構は明らかとなっていない。シンガポール国立大学Yu らは、シロイヌナズナGA欠損ga1-3 変異体芽生えのJA応答遺伝子の発現誘導がJAとGAを同時に処理することによって弱められること、野生型植物をGA生合成阻害剤パクロブトラゾール(PAC)処理するとJA処理によるJA応答遺伝子の発現が増加することを見出した。また、DELLAタンパク質の機能喪失はJA処理によるJA応答遺伝子の発現誘導を弱めること、ga1-3 変異体でのDELLAタンパク質の機能喪失はJAとGAを同時に処理した際のJA応答遺伝子の発現抑制が弱まることがわかった。よって、DELLAタンパク質はJA応答遺伝子のJAシグナルによる発現を促進する作用がある。ga1-3 変異体芽生えの根の成長はJA処理によって抑制されるが、ga1-3 変異と各種DELLA変異を組み合わせることでJAによる抑制効果が弱まった。よって、DELLAタンパク質はシロイヌナズナの成長におけるJA応答に対しても正に作用している。DELLAタンパク質と相互作用をする因子を探索するために、N末端を欠いたRGA(RGAΔN)をベイトに用いてシロイヌナズナcDNAライブラリーの酵母two-hybridスクリーニングを行なったところ、JAシグナル伝達における主要な抑制因子であるJAZ1がRGNΔNと相互作用をすることがわかった。他のJAZタンパク質のJAZ3やJAZ9もRGAΔNと相互作用を示し、RGA以外のDELLAタンパク質(GAI、RGL1、RGL2)もJAZ1と相互作用を示した。しかし、JA応答遺伝子発現の活性化転写因子であるMYC2はRGAΔNと相互作用を示さなかった。RGAとJAZ1の相互作用は生体内でも起こることが確認され、DELLAタンパク質はJAZタンパク質相互作用をすることでJAシグナル伝達経路を制御していると考えられる。JAによるJAZ1の分解にGAやPACは関与しておらず、JAはRGAの分解に関与していなかった。また、JA応答遺伝子の発現に対するGAやPACの効果はJAZタンパク質の分解が起こらないcoi1-1 変異体においても観察された。in vitroプルダウンアッセイにより、MYC2とJAZ1との相互作用はRGA量が増加するにつれて弱められること、同様にMYC2もまたRGAとJAZ1との相互作用を弱めることがわかった。よって、DELLAタンパク質はJAZタンパク質との結合においてMYC2と拮抗することでJAZ/MYC2複合体からのMYC2の解離を促進する作用があると思われる。生体内において、PAC処理によるDELLAタンパク質量の増加はMYC2の直接のターゲットであるLOX2TAT1 遺伝子のプロモーター領域への結合を強め、MYC2の転写活性を促進させた。一過的発現実験系において、MYC2によるターゲット遺伝子の転写促進はJAZ1によって抑制され、さらにRGAを発現させることで発現抑制が弱められた。MYC2ターゲット遺伝子のJAZ1による発現抑制のRGAによる阻害は、GAを添加することで効果が失われた。よって、DELLAタンパク質はMYC2のターゲット遺伝子の転写制御に影響することでJAシグナル伝達を調節していることが示唆される。GA欠損ga1 変異にJA過剰生産変異hy1-101 を付与した芽生えは根の成長が抑制されるが、ここへさらにRGA機能喪失rga28 変異が加わると根の伸長抑制が緩和された。ga1 coi1-1 二重変異体はJAZタンパク質が蓄積してJAに対する感受性が低下するが、ここへRGA機能喪失rga28 変異を付与してもJA感受性低下に変化は見られなかった。よって、DELLAタンパク質によるJA応答の制御は、JAを受容するCOI1の機能に依存している。JAZタンパク質において保存されているNT、ZIM、Jasの3つのドメインのうち、NTドメインとJasドメインがRGAとの相互作用に関与しており、DELLAタンパク質のDELLAドメインとLZ1ドメインはJAZ1との相互作用とMYC2転写活性制御に関与していることがわかった。以上の結果から、DELLAタンパク質は直接JAZ1と相互作用を示すことでJA応答に関与していることが明らかとなった。この相互作用はJAZ1とMYC2の相互作用を妨げ、MYC2のターゲット遺伝子のプロモーター領域への結合を高める。その結果として、DELLAタンパク質はJA応答遺伝子の発現を促進することになる。一方、GAはDELLAタンパク質の分解を引き起こしてJAZ1とMYC2との結合を可能とし、JAシグナルを抑制する。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)brassinazole-resistant 1(BZR1)を脱リン酸化する酵素

2011-02-20 23:48:02 | 読んだ論文備忘録

PP2A activates brassinosteroid-responsive gene expression and plant growth by dephosphorylating BZR1
Tang et al.  Nature Cell Biology (2011) 13:124-131.
doi:10.1038/ncb2151

ブラシノステロイド(BR)シグナル伝達において、brassinazole-resistant(BZR)ファミリー転写因子のリン酸化/脱リン酸化は重要な役割を演じている。BRがない状態ではBZR1やそのホモログのBZR2/BES1はGSK3/SHAGGY様タンパク質キナーゼのbrassinosteroid-insensitive 2(BIN2)によってリン酸化されてDNA結合活性を失い、14-3-3タンパク質によって細胞質に保持される。細胞膜に局在する受容体キナーゼのbrassinosteroid-insensitive 1(BRI1)がBRを受容すると、BRI1の細胞内キナーゼドメインと相互作用を示していたBRI1-結合タンパク質BKI1が解離し、補助受容体キナーゼのBRI1-associated receptor kinase 1(BAK1)がBRI1とヘテロ二量体を形成して相互リン酸化によってBRI1が活性化される。BRI1はbrassinosteroid-signaling kinase 1(BSK1)をリン酸化し、リン酸化されたBSK1はタンパク質フォスファターゼBRI1 suppressor 1(BUS1)を活性化し、BUS1はBIN2を脱リン酸化して不活性化する。このことによってBZR1/2のリン酸化が抑制されるが、BZR1/2を脱リン酸化するフォスファターゼは明らかとなっていない。中国 河北師範大学のSun らと米国 カーネギー研究所Wang らは、BZR1と親和性を有するタンパク質の精製・同定を行ない、タンパク質フォスファターゼ2A(PP2A)の幾つかのサブユニットを見出した。これらのうち、B'サブユニットサブファミリーに属するタンパク質がBZR1と直接相互作用を示すことを酵母two-hybridアッセイにより確認した。BZR1との結合強度の違いからPP2A B'サブユニットは3つのグループに分類され、PP2A B'αがリン酸化されたBZR1と最も強く結合することがわかった。BZR1とPP2A B'との結合は生体内でも起こることがBiFCアッセイにより確認され、この結合はBZR1とPP2Aホロ酵素との相互作用を促進することがわかった。PP2A B'αもしくはPP2A B'βを過剰発現させた形質転換シロイヌナズナはBR生合成阻害剤ブラシナゾール(BRZ)に対する感受性が低下しており、bzr1-1D 機能獲得変異体と同様にBRZ存在下で胚軸の伸長が見られた。また、bri1 変異体でPP2A B'αやPP2A B'βを過剰発現させることで、わい化した表現型が部分的に回復し、BZR1が発現抑制しているconstitutive photomorphogenic dwarfCPD )の発現量が減少した。過剰発現個体ではBZR1タンパク質量が脱リン酸化型、リン酸化型の両者とも増加しており、PP2A B'との結合はBZR1を分解から保護していることが示唆される。機能獲得bin2-1 変異体でのPP2A B'βの過剰発現は、脱リン酸化型BZR1の量を野生型と同等のレベルにした。よって、PP2AはBRシグナル伝達経路においてBIN2の下流もしくは並行してBZR1に対して作用していると考えられる。BZR1にはタンパク質分解に関与しているPESTドメインが含まれており、このドメインを欠いたBZR1(ΔPEST)はPP2Aと相互作用を示さず、脱リン酸化されにくくなった。PESTドメインを欠いたBZR1を過剰発現させた形質転換シロイヌナズナは、わい化して葉色が濃くなり、BR欠損変異体のような表現型を示した。よってリン酸化型BZR1はBR応答に対して阻害効果を示すと考えられる。bzr1-1D 変異体はPESTドメインのProがLeuに置換しており、この変異はPP2Aとの結合と脱リン酸化を強める作用があることがわかった。BZR1にはBIN2によってリン酸化されうる部位が25箇所あり、そのうちのSer173のリン酸化は14-3-3タンパク質との結合に関与している。PP2Aはこの部位を含めてBIN2によってリン酸化されうる殆どすべての部位を脱リン酸化すると考えられる。PP2A B'αやB'βは細胞質に局在しており、このことはリン酸化型BZR1が細胞質に保持されていることと一致している。以上の結果から、PP2AはBIN2によってリン酸化されたBZR1を脱リン酸化して活性化し、BRシグナル伝達経路においてBIN2と拮抗して作用していることが示唆される。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)フラクトースシグナル

2011-02-17 19:31:29 | 読んだ論文備忘録

Signaling Role of Fructose Mediated by FINS1/FBP in Arabidopsis thaliana
Cho & Yoo   PLoS Genetics (2011) 7:e1001263.
doi:10.1371/journal.pgen.1001263

グルコースは動物・植物においてシグナル物質として機能しているが、他のヘキソースにそのような機能があるかは明らかではない。韓国 成均館大学校のYoo らは、シロイヌナズナを材料に用いて、フラクトースがシグナル物質として機能しているかを調査した。シロイヌナズナ芽生えを高濃度フラクトース(6 %)添加培地で育成すると、胚軸や根の成長が遅れ、子葉の拡張とクロロフィル蓄積が抑制される。これは高濃度グルコース(6 %)添加培地での成長抑制と類似しているが、ヘキソキナーゼ(HXK1 )が発現しないためにグルコース非感受性となったgin2 変異体やアミノ酸置換により酵素活性が喪失したHXK1 を発現させたgin2 変異体もフラクトースによる成長阻害を受けることから、グルコースセンサーのHXK1はフラクトースシグナルと関連していないと考えられる。しかしながら、アブシジン酸(ABA)生合成経路の単鎖脱水素酵素/還元酵素(SDR)をコードするGIN1 /ABA2 の変異体gin1 やエチレンシグナル伝達経路の負の制御因子であるMAPKKKをコードするCTR1 /GIN4 の変異体ctr1 はグルコースだけでなくフラクトースに対しても非感受性となり、子葉が緑化した。したがって、フラクトースシグナルはABA生合成を介してABAシグナルに正に作用し、エチレンシグナルに対しては負に作用すると考えられる。gin1 変異体のグルコース非感受性は子葉と根の両方に見られるが、フラクトース非感受性は子葉においてのみ観察され、根の成長阻害は継続していた。よって、フラクトースによる根の成長阻害はABA生合成とは関連していない。フラクトースの代謝に関連する酵素がフラクトースセンサーとして機能しているかを調査するために、シロイヌナズナ葉肉細胞プロトプラストにおいてクロロフィルA/B結合タンパク質2遺伝子プロモーターに蛍ルシフェラーゼ遺伝子を融合したレポーター遺伝子(CAB2 -fLUC )とフラクトース代謝関連酵素を同時に一過的に発現させてルシフェラーゼ活性を比較したところ、細胞質型フラクトース-1,6-ビスフォスファターゼ(FBP 、At1g43670)を発現させた際にCAB2 プロモーター活性が抑制された。この抑制はアミノ酸置換により酵素活性を喪失したFBP を発現させても正常なFBP を発現させた時と同じように起こり、FBPによるフラクトースシグナルはグルコースシグナルにおけるHXK1と同様に酵素活性とは関連していないことがわかった。T-DNA挿入により完全長FBP 転写産物が蓄積しない変異体は、グルコースに対して感受性を示し成長が抑制されたが、フラクトース非感受性を示し子葉が緑化した。このfbp 変異体をfructose insensitive 1 fins1 )と命名して詳細な解析を行なった。fins1 変異体芽生えは、ABAシグナル伝達に関与する転写因子ABA4 のフラクトース処理による発現誘導が起こらず、エチレン応答性AP2型転写因子ERF1 のフラクトース処理による発現抑制が起こらなかった。fins1 変異体で酵素活性を喪失したFBP を発現させるとフラクトース感受性が野生型同程度にまで回復した。細胞質型FBPはショ糖合成において重要であるため、fins1 変異体ではショ糖濃度が低下しているが、fins1 変異体の表現型はショ糖濃度とは関連がないことが確認された。gin1 変異体でFBP を過剰発現させた芽生えは、野生型と同様に高濃度フラクトース添加培地での成長が抑制され、ABAに対する感受性が高くなっていた。よって、FBPによるフラクトースシグナルはABAシグナルの下流に位置していると考えられる。fins1 変異体とctr1 変異体の芽生えはABA非感受性となるが、形態的に両者は異なることから、fins1 変異体のABA非感受性は、エチレン感受性の変化とは直接には関連していないと思われる。各変異体の芽生えにおけるABAシグナル伝達の負の調節因子をコードするABI1 、正の調節因子をコードするABI3ABI4ABI5 の発現を比較したところ、fins1ctr1gin2 の各変異体でのABI1 の発現量は野生型やgin1 変異体よりも高く、正の調節因子の発現量はfins1 変異体で低く、ctr1 変異体ではさらに抑制されていた。以上の結果から、フラクトースはグルコースとは別のヘキソースシグナル物質として機能しており、このシグナルはFBPを介してABAシグナルの下流において機能していることが明らかとなった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)CLAVATA受容体によるタンパク質キナーゼの活性制御

2011-02-15 20:07:43 | 読んだ論文備忘録

Mitogen-Activated Protein Kinase Regulated by the CLAVATA Receptors Contributes to Shoot Apical Meristem Homeostasis
Betsuyaku et al.  Plant Cell Physiol. (2011) 52:14-29.
doi:10.1093/pcp/pcq157

シロイヌナズナの茎頂分裂組織幹細胞集団の大きさはCLAVATA(CLV)経路によって制御されている。茎頂中心部(central zone)の幹細胞から分泌されるCLV3ペプチドは、ホメオボックス転写因子をコードするWUSCHELWUS )の発現領域を制限しており、CLV3の受容体複合体として、CLV1、CLV2-SOL2/CRN、RPK2/TOAD2の3種類が知られている。しかしながら、CLV3シグナルがどのように伝達されるかについての詳細は明らかではない。東京大学の別役らは、CLV受容体やCLV3をN. benthamiana で一過的に発現させる実験系を用いて、CLV1はSOL2/CRN存在下でCLV2、SOL2/CRN、RPK2/TOAD2と相互作用を示すこと、CLV1はCLV3を認識することによって自己リン酸化すること、この自己リン酸化は他のCLV受容体による制御を受けている可能性があることを見出した。CLV経路の下流に位置するシグナルとして、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)によるリン酸化の有無をゲル内キナーゼアッセイにより調査し、N. benthamiana でのCLV3の一過的発現によりNbSIPKに相当する46 kDaのタンパク質キナーゼが活性化されることがわかった。46 kDa タンパク質キナーゼの活性化はCLV受容体を一過的に発現させた場合にも観察されるが、CLV1とCLV2はCLV3を同時に発現させると発現させなかったときよりも活性が低下し、RPK2/TOAD2ではCVL3を同時に発現させることによってタンパク質キナーゼ活性が上昇した。また、シロイヌナズナ芽生えをCLV3処理することでMPK6が活性化されること、cvl1-101 変異体ではCLV3処理なしにMPK6が恒常的に活性化され、CLV3処理をするとMPK6の活性化状態がCLV3無処理の野生型と同等にまで低下すること、clv2-101 変異体ではCLV3無処理の状態でMPK6活性が野生型よりも僅かに低く、CLV3処理によってMPK6活性が上昇すること、cvl1-101 clv2-101 二重変異体ではCLV3処理の有無によるMPK6活性の変化が見られないことを見出した。したがって、CLV受容体はMAPKの活性化に対して異なる応答を示し、CLV3に依存してCLV1は負の、RPK2/TOAD2は正の制御因子として機能していると考えられる。CLV2はCLV3が存在しない状態ではMAPKの活性化因子として機能するが、CLV3が存在するとその機能は失われる。以上の結果から、これらのCLV受容体は、茎頂分裂組織においてCLV3によって引き起こされるMAPKの異所的な活性化を抑制し、MAPK活性を一定の状態に保つことで茎頂分裂組織の維持を行なっていると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)概日時計と免疫機構との関係

2011-02-13 20:11:06 | 読んだ論文備忘録

Timing of plant immune responses by a central circadian regulator
Wang et al.  Nature (2011) 470:110-114.
doi:10.1038/nature09766

News & Views Plant biology:
Defence at dawn
C. Robertson McClung  Nature (2011) 470:44-45.
doi:10.1038/470044a

植物の病原に対する免疫機構に、抵抗性( R )遺伝子を介した防御応答がある。Rタンパク質が病原菌に由来する毒性因子を受容すると、プログラム細胞死(PCD)や過敏感反応と呼ばれる様々な応答を引き起こす。米国 デューク大学Dong らは、シロイヌナズナのべと病の原因となる病原性の卵菌Hyaloperonospora arabidopsidisHpa )Emwa1に対して抵抗性を示すR 遺伝子のRPP4 によってどのような遺伝子の発現量に変化が見られるかを野生型とrpp4 変異体にHpa Emwa1を感染させた後の遺伝子発現プロファイルを比較して調査し、106の発現量の異なる遺伝子を同定した。これらの遺伝子のT-DNA挿入変異体にHpa Emwa1を感染させ、胞子嚢柄形成や病徴を指標として感染性が高まった22の変異体を見出した。これら22の遺伝子は大きく2つのグループに分類され、グループ1はR 遺伝子を介したPCDに関与する遺伝子、グループ2はPCD以外のカロースの堆積やフェノール化合物の蓄積に関与する遺伝子であった。グループ1変異体はグループ2変異体よりも感染を受けやすく、PCDは抵抗性にとって重要な要因であると考えられる。これら22の遺伝子がRPP4特異的に発現誘導される機能を解析するために、これらの遺伝子のプロモーター領域の配列を調査したところ、22遺伝子中14遺伝子のプロモーター領域にevening elementもしくは概日リズム調節因子CIRCADIAN CLOCK-ASSOCIATED 1(CCA1)結合部位が見られた。さらにRPP4 プロモーター領域にも2つのevening elementが存在し、RPP4 の発現は概日リズムを示すことがわかった。cca1 変異体や概日時計に関与しているF-boxタンパク質をコードしているZEITLUPE の変異体ztl-4 は、抵抗性が低下し、CCA1 過剰発現個体は抵抗性が高まっていた。しかしながら、CCA1 のホモログであるLATE AND ELONGATED HYPOCOTYLLHY )の変異体lhy の抵抗性は野生型と同等だった。よって、RPP4による防御機構は概日時計による制御ではなくCCA1が特異的に関与している。感染に関係なく防御遺伝子が周期的に発現することは、植物が概日リズムに合わせて感染を予測するようプログラムされていることを示しており、CCA1による防御遺伝子の発現制御は、Hpa Emwa1が主に夜に胞子形成して明け方に胞子を放出するというリズムと一致している。試しに夕方に胞子を感染させたところ、野生型植物もrpp4 変異体も感染性が高まった。これらの結果は、概日時計と植物の免疫機構が機能的に関連していることを示している。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)SCARECROW-LIKE 3によるジベレリンシグナルの制御

2011-02-11 15:49:43 | 読んだ論文備忘録

SCARECROW-LIKE 3 promotes gibberellin signaling by antagonizing master growth repressor DELLA in Arabidopsis
Zhang et al.  PNAS (2011) 108:2160-2165.
doi:10.1073/pnas.1012232108

Funneling of gibberellin signaling by the GRAS transcription regulator SCARECROW-LIKE 3 in the Arabidopsis root
Heo et al.  PNAS (2011) 108:2166-2171.
doi:10.1073/pnas.1012215108

ジベレリン(GA)は植物の様々な成長過程を制御している。GAを受容したGA INSENSITIVE DWARF1(GID1)はGAシグナルの抑制因子であるDELLAと結合し、この結合がDELLAのユビキチン化とプロテアソーム系による分解をもたらす。DELLAはGRASファミリーに属する植物特異的なタンパク質で、シロイヌナズナには5種類 [RGA、GAI、RGA-LIKE1(RGL1)、RGL2、RGL3] 存在している。DELLAによる植物の成長/発達制御機構については様々な研究がなされており、マイクロアレイによるDELLAターゲット遺伝子の網羅的な探索から、SCARECROW-LIKE 3SCL3 ; At1g50420)がDELLAによって発現が誘導され、GAによって抑制されることが報告されている。このSCL3の機能に関して、2つ論文がPNAS 2月1日号[vol. 108 no. 5 (2011)]に掲載された。

米国 デューク大学Sun らと理化学研究所植物科学研究センター山口らは、シロイヌナズナscl3 T-DNA挿入変異体の表現型を観察したが、通常の生育条件では野生型との差異を見出すことができなかった。しかしながら、GA生合成阻害剤パクロブトラゾール(PAC)存在下でscl3 変異体は野生型よりも発芽率、芽生えの一次根の伸長量が低下しており、SCL3 を過剰発現させた形質転換シロイヌナズナはPAC存在下で一次根が野生型よりも長くなった。scl3 変異体黄化芽生えの胚軸はPAC存在下で野生型よりも短く、SCL3 過剰発現個体では長くなった。連続光下で育成た芽生えにGAを与えるとSCL3 過剰発現個体の胚軸は野生型よりも長くなったが、scl3 変異体の胚軸の長さは野生型と同じだった。scl3 変異はGA欠損変異体ga1 のわい化をさらに強めた。scl3 変異体ではGA生合成の初期過程の酵素遺伝子(KSKOKAO1KAO2 )やGA異化酵素遺伝子(GA2ox )の発現量は野生型と同等だったが、GA生合成酵素遺伝子のうちのGA20ox1GA20ox2GA20ox3GA3ox の発現量が増加していた。よって、scl3 変異体に見られるPAC感受性はGA量の減少によるものではなく、GAシグナル活性の低下によるものであると考えられ、このことがGA生合成遺伝子の発現をフィードバック上昇させていると考えられる。したがって、SCL3はGAシグナルの活性化因子であると思われる。そこで、RGA、DELLAを修飾して活性化するO-ClcNAcトランスフェラーゼのSPINDLY(SPY)とscl3 の二重変異体を作出してPAC存在下での芽生えの根の伸長を比較したところ、rga scl3spy scl3 各二重変異体ともrgaspy 単独変異体と同様に野生型よりも根が長くなった。よって、rgaspy の変異はGAシグナル伝達においてscl3 変異よりも上位であるといえる。ただし、植物体が成長するにつれてrga の上位性は薄らいでいった。SCL3タンパク質はDELLAと同様に核に局在しており、酵母two-hybridアッセイ、プルダウンアッセイ、共免疫沈降アッセイによりSCL3とDELLAが相互作用を示すことが確認された。この相互作用ににはGAは関与していないと思われる。SCL3 過剰発現個体では内生SCL3 の発現量が減少しており、SCL3は自己の発現を抑制している。RGASCL3 を同時に過剰発現させた個体でのSCL3 の発現量はRGA を単独で過剰発現させた個体よりも低いことから、RGAとSCL3はSCL3 の発現制御に関して対立して作用していると考えられる。クロマチン免疫沈降アッセイによりSCL3がSCL3 プロモーター領域に結合することが確認され、その領域はRGAの結合領域と重なっていた。以上の結果から、SCL3はDELLAと相互作用をしてアテニュエーターとして機能することでGA応答の制御を行なっていると考えられる。

韓国 建国大学校Lim らは、SCL3 はシロイヌナズナ根の内皮、皮層/内皮の始原細胞(CEI)、静止中心(QC)で主に発現しており、この発現はGA処理によって抑制され、PAC処理によって増加することを見出した。SCL3 の発現部位は、SCARECROWSCR )の発現部位やSHOOT-ROOT(SHR)タンパク質の局在部位と重なっていることから、SCL3とSHR/SCRは関連があるものと推測される。scrshr 変異体ではSCL3 の発現量が減少していることから、根におけるSCL3 の発現はSHR/SCR経路による制御を受けていると考えられる。rga scr 二重変異体でのSCL3 発現抑制の程度はそれぞれの単独変異体よりも強いことから、SCL3 の発現はGA/DELLAとSHR/SCRの2つの経路によって制御されていると考えられる。SCL3 発現のGA/DELLAによる制御から、SCL3はGAシグナル伝達の負の制御因子であることが推測されるが、scl3 ga1-3 二重変異体芽生えの根はga1-3 単独変異体よりも短くなり、ga1-3 変異体でSCL3 を過剰発現させても根の長さはga1-3 変異体と同等であった。さらにscl3 変異体の根の成長はPAC処理によって野生型よりも抑制され、SCL3 過剰発現個体では促進された。また、PAC存在下でrga 変異体とrga scl3 二重変異体の根の成長に差異は認められなかった。よって、SCL3はGAシグナルの正の制御因子として機能しているように思われる。野生型とscl3 変異体で芽生え根端分裂組織の大きさに差は見られず、PAC処理による分裂細胞数の減少も両者に違いは見られなかった。しかし、scl3 変異体へのPAC処理もしくはga1-3 変異の導入による根の伸長/分裂領域における細胞伸長抑制は野生型よりも強く現れることから、SCL3はGAによる根の細胞伸長に関与していると考えられる。分解を受けない変異型のgairga を発現させた芽生えの根の伸長は抑制されるが、scl3 変異体では抑制がさらに強くなり、SCL3 過剰発現個体では抑制が緩和された。よって、SCL3は非分解型gaiおよびrgaによる根の伸長抑制を弱める作用があり、SCL3とDELLAはGAによる根の細胞伸長を制御していると考えられる。scl3 変異体では根の分裂組織における中皮層(middle cortex)の形成が促進されるが、scl3 変異体へのGA添加やSCL3 過剰発現個体では中皮層形成に遅れが見られる。よって、SCL3とGAは相加的もしくは協働的に根の基本組織形成の調節を行なっていると考えられる。中皮層形成にはSHR/SCRも関与しており、scl3 shr 二重変異体ではPAC処理やGA処理に関係なく付加的な層の分裂が観察されなかった。また、scl3 scr 二重変異体はscr 単独変異体よりも中皮層形成が早まり、scr 変異体でSCL3 を過剰発現させると中皮層形成が遅れた。よって、scl3scr は相加的もしくは協働的に中皮層形成促進に関与していると考えられる。以上の結果は、GAシグナルを介した根の発達過程の制御は、GRASファミリー転写調節因子に属するSCL3、DELLA、SHR/SCRによる制御ネットワークによってなされていることを示している。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする