Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)器官伸長とブラシノステロイド応答性を制御する因子

2012-03-29 05:19:57 | 読んだ論文備忘録

SHORT GRAIN1 Decreases Organ Elongation and Brassinosteroid Response in Rice
Nakagawa et al.  Plant Physiology (2012) 158:1208-1219.
doi:10.1104/pp.111.187567

農業生物資源研究所の森らは、イネのアクティベーションタギング集団の中から半わい性で籾長が短くなる優性の変異体を単離し、Short grain1 DominantSg1-D )と命名した。Sg1-D 変異体の葉は短く、幅が広く、葉色が濃くなり、ブラシノステロイド(BR)欠損変異体の表現型と類似していた。T-DNAが挿入された部位の3'側領域をクローニングしたところ、Os09g0459200 がT-DNAの1.4-kb下流に位置していることがわかった。変異体では本遺伝子の発現量が劇的に増加していた。完全長cDNAプロジェクトにおいて穂から単離されたSG1 のcDNA(AK110733)は、1139-bp、ORFは474-bpあり157アミノ酸のタンパク質をコードしている。SG1 cDNAをトウモロコシユビキチンプロモーターで過剰発現させた形質転換イネはわい化し籾長が短くなることから、SG1Sg1-D 優性変異体の原因遺伝子であると判断した。栄養成長期のイネにおいて、SG1 は主に根で発現していた。生殖成長期には若い穂において強い発現が見られ、穂が成熟するにつれて発現量は減少していった。発達中の穂では、頴花、穂軸の基部側、枝梗において強い発現が見られた。SG1タンパク質は機能の知られている他のタンパク質との相同性が見られないが、SG1とそれに類似したタンパク質からなるファミリーが単子葉植物、双子葉植物において保存されていた。イネには2つのSG1関連タンパク質をコードする遺伝子(Os02g0762600、Os08g0474100)があった。SG1-LIKE PROTEIN1SGL1 )と命名したOs02g0762600は主に葉で発現しており、完全長cDNAも単離されていた。Os08g0474100は完全長cDNAもESTも単離されておらず、発現量がSG1SGL1 よりも少ないと考えられる。SG1タンパク質には細胞内局在や細胞外分泌に関与するようなモチーフは含まれておらず、GFPとの融合タンパク質を一過的に発現させたところ、細胞全体に分布した。SG1 過剰発現個体、Sg1-D 変異体ともにBR欠損変異体と類似した表現型を示すが、野生型とSG1 過剰発現個体の内生BR量に差は見られず、BR生合成酵素をコードするOsBR6ox /BRD1 の転写産物量も変化していなかった。葉節屈曲アッセイによりブラシノライド応答性を見たところ、SG1 過剰発現個体はBR感受性が低下していることがわかった。SG1 過剰発現個体のジベレリン(GA)に対する応答性は正常であることから、SG1 過剰発現個体のわい化にはGAシグナルは関与していないと考えられる。SG1 過剰発現個体の穂を詳細に観察したところ、籾長と枝梗の節間が野生型よりも短くなっていた。よって、SG1 は籾と枝梗節間の伸長を阻害する作用があると考えられる。SGL1 の過剰発現個体もSG1 過剰発現個体と同じ表現を示すことから、SGL1もBRシグナル伝達もしくは応答性を抑制していることが示唆される。SG1SGL1 をRNAiによってノックダウンしたイネは、籾と枝梗節間の伸長に関して過剰発現個体とは逆の表現型を示したが、植物体全体の形態や草丈には変化は見られなかった。SG1SGL1 を単独でノックダウンした個体においても籾と枝梗節間の伸長促進が見られたが、両遺伝子をノックダウンした個体のほうが促進効果が高かった。よって、SG1SGL1 は機能重複して籾と枝梗節間の伸長抑制をしていると考えられる。SG1 過剰発現個体と野生型の外頴、枝梗、葉鞘の細胞を比較した結果、SG1 過剰発現個体の器官の縮小は細胞数の減少によって引き起こされていることがわかった。SG1SGL1 のオーソログは他の穀物や双子葉植物にも存在し、トウモロコシSG1 オーソログのESTは花序と根から単離されている。よって、SG1SGL1 オーソログの発現調節による器官サイズ制御は他作物にも適応可能であると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)CONSTANSの転写を活性化するbHLH型転写因子

2012-03-27 19:27:33 | 読んだ論文備忘録

FLOWERING BHLH transcriptional activators control expression of the photoperiodic flowering regulator CONSTANS in Arabidopsis
Ito et al.  PNAS (2012) 109:3582-3587.
doi:10.1073/pnas.1118876109

シロイヌナズナにおいて、概日時計によるCONSTANSCO )遺伝子の転写制御とCOタンパク質の光依存翻訳後制御は、光周性花成において最も重要な日長計測機構となっている。CO 遺伝子の転写は様々な因子によって制御されているが、直接CO 遺伝子のプロモーター領域に結合することが示されている転写因子はCYCLING DOF FACTOR(CDF)のみであり、しかもCDFはCO の転写抑制因子として機能している。米国 ワシントン大学今泉らは、CO 遺伝子のプロモーター領域を用いて酵母one-hybrid 法により概日時計による制御を受ける転写因子ライブラリーのスクリーニングを行ない、bHLH 型転写因子ファミリーに属するAt1g35460を見出した。シロイヌナズナゲノムには、この遺伝子のコードするbHLH転写因子と相同性が高いタンパク質をコードする遺伝子がもう1つ(At4g09180)があり、それぞれをFLOWERING BHLH 1FBH1 )、FBH2 と命名した。酵母one-hybrid 法によりFBH2もFBH1と同様にCO プロモーター領域に結合することが確認された。FBH1とFBH2はCO プロモーター領域のE-box エレメントに結合することがわかった。FBH1 もしくはFBH235S プロモーターで過剰発現させた形質転換体は、CO 過剰発現個体と類似して日長に関係なく花成が早まり、CO 発現量も増加していた。CO の発現を制御している遺伝子の発現量は過剰発現個体と野生型で違いは見られないことから、FBH1FBH2 の過剰発現はCO 転写産物量を直接に特異的に増加させていると考えられる。FBH 過剰発現個体での花成制御遺伝子の発現量を見たところ、FLOWERING LOCUS TFT )の転写産物量は日長に関係なく増加しており、FLOWERING LOCUS CFLC )の転写産物量は僅かに減少、SUPPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CONSTANSSOC )転写産物量は変化が見られなかった。ft 変異体でFBH1 を過剰発現させた系統は、ft 変異体と同じく花成遅延が起こることから、FBH1 過剰発現個体の早期花成の表現型はCO 発現量の上昇によるFT 転写産物量の増加により引き起こされていると考えられる。野生型植物においてCO は維管束組織において発現しているが、FBH1 過剰発現個体においてもCO 発現部位に変化は見られず、発現量のみが増加していた。よって、FBH1、FBH2の活性は維管束組織に限定されていることが示唆される。野生型植物でのFBH1 の主な発現部位もCO と同様に維管束組織であった。クロマチン免疫沈降アッセイにより、CO の発現量が長日条件で底値となるツァイトゲーバー時刻4(ZT4)とCO の発現量が最大となるZT13におけるFBH1タンパク質のCO プロモーターへの結合を見たところ、FBH1タンパク質はZT13にCO プロモーターのE-box を含んだ領域に多く結合することが確認され、FBH1は生体内おいてCO クロマチンに結合してCO の転写を制御していることが示唆される。FBH1タンパク質は日長条件に関係なく一日を通して常に同じ量が蓄積いていることから、FBH1がCO の発現を誘導するためには何らかの翻訳後修飾か未知のタンパク質が必要であると思われる。FBH1 の人工マイクロRNA導入とFBH2 のT-DNA挿入で構成されたamiRFBH1 fbh2 系統は、COFT の発現に野生型との違いが見られず、他に機能重複するタンパク質が存在することが示唆された。FBH1FBH2 と同じクレイドに属するbHLHは、両者に加えて4つあり、そのうち3つについてクローニングができたので過剰発現個体を作成して花成を見たところ、At1g51140(FBH3 )とAt2g42280(FBH4 )の過剰発現個体は花成が早くなり、CO の発現量も増加していた。また、FBH3、FBH4ともにCO プロモーター領域にE-box を介して結合することが確認された。4つのFBH 遺伝子は日長条件に関係なく一日を通して発現しており、FBH4 (おそらくFBH1 も)の転写産物量は概日周期の変動パターンを示した。FBH3 は維管束組織において発現しており、FBH4 は維管束組織に加えて気孔においても発現が見られた。したがって、FBH3、FBH4もFBH1、FBH2と同様にCO の転写制御に関与していると考えられる。4つのFBH 遺伝子を発現抑制したamiRFBH1 fbh2 fbh3 amiRFBH4 系統では暗期のCO 発現量が野生型よりも50 %以上低下しており、これらのFBHタンパク質は暗期の始まりでのCO 発現の主要な活性化因子であると考えられる。CO /FT による花成制御機構は多くの植物において保存されていることから、ポプラ(長日の樹木)とイネ(短日植物)のFBH ホモログをシロイヌナズナにおいて過剰発現させたところ、日長条件に関係なくCO の発現量が増加した。そしてポプラFBH ホモログ(PtFBH1 )を過剰発現させた個体は長日・短日条件で花成が早まり、イネFBH ホモログ(OsFBH1 )を過剰発現さえ他個体は長日条件での花成が早くなった。よって、両植物のFBHともシロイヌナズナFBHと同じ機能を有していると考えられる。以上の結果から、FBHは光周性花成においてCO の転写を正に制御する因子であり、この機構は多くの植物種において保存されていると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)トライコーム分枝を制御するC2H2型転写因子

2012-03-24 17:28:58 | 読んだ論文備忘録

GLABROUS INFLORESCENCE STEMS (GIS) is Required for Trichome Branching Through Gibberellic Acid Signaling in Arabidopsis
An et al.  Plant Cell Physiol (2012) 53:457-469.
doi:10.1093/pcp/pcr192

トライコームは表皮の始原細胞が4回の核内倍加を経てDNA量が32Cとなり、2つ以上の分枝を形成する。これまでの遺伝学的な研究からトライコーム形成に関与する遺伝子座が複数見出されており、それらは核内倍加と分枝の両方に関与するものと分枝のみに関与するものに分けられる。また、トライコームの形成・分枝にジベレリン(GA)シグナルが関与していることが知られている。中国 浙江大学Gan らは、C2H2型転写因子をコードするGLABROUS INFLORESCENCE STEMSGIS )のトライコーム形成制御に関して解析を行なった。野生型シロイヌナズナでは、主茎や側枝のトライコームは分枝が1つもしくは2つであり、ロゼット葉では多くのトライコームが三枝となる。一方、gis 変異体では茎や側枝のトライコームの多くが三枝となり、ロゼット葉では五枝のトライコームも観察された。GIS と相同性の高いGIS2 の変異体gis2 ではトライコームの分枝パターンに変化は見られなかった。ロゼット葉の向軸側、背軸側のトライコームの分枝数を調査したところ、gis 変異体は野生型よりも分枝数が増加しており、GIS はトライコームの分枝形成を抑制する因子として機能していると考えられる。GIS35S プロモーターで過剰発現させた系統は、茎、ロゼット葉共にトライコームの分枝数が減少していた。野生型植物をGA処理すると茎やロゼット葉でトライコームの分枝数の増加が観察されるが、gis 変異体をGA処理してもトライコームの分枝に変化は見られなかった。GA生合成阻害剤であるパクロブトラゾール(PAC)処理をするとトライコームの分枝が減少し、gis 変異体は野生型よりもPAC感受性が高く、低濃度のPAC処理によって分枝数減少を引き起こした。よって、GIS はGAシグナルによるトライコームの分枝形成を制御していると考えられる。ジベレリンシグナル伝達に対して抑制的に作用するSPINDLYSPY )の機能喪失変異体は、葉のトライコームは四枝や五枝のものが増加し、トライコームのDNA量も増加する。gis spy 二重変異体のロゼット葉のトライコームは四枝、五枝のもがgis 変異体よりも多く、spy 変異体と同等であった。よって、GIS はロゼット葉のトライコーム分枝の制御においてSPY の上流で機能していることが示唆される。花序茎では、spy 変異体のトライコームは一枝のもが多く、分枝は野生型よりも減少するが、gis spy 二重変異体の花序茎のトライコームの多くは三枝であり、gis 変異体の表現型と類似していた。よって、花序でのトライコーム分枝形成においてGISSPY の下流で機能していると考えられる。gis 変異体でのSPY の発現を見たところ、ロゼット葉では発現量が減少しており、花序茎では発現量に変化が見られなかった。gis 変異体花序のトライコームは野生型よりも分枝数が多くなるが、トライコームの核のDNA含量は野生型と比べて大きな違いは見られなかった。よって、GIS はトライコーム細胞の核内倍加には関与しておらず、核内倍加とは関係なく分枝増加を引き起こしていると考えられる。核内倍加とは独立した経路でトライコーム分枝を制御する因子をコードするSTICHELSTI )の機能喪失変異体sti は無分枝のトライコームを形成するが、sti 変異体ではGIS の発現量が大きく減少していた。GIS を過剰発現させた個体でのSTI の発現量に変化は見られず、gis sti 二重変異体のトライコームの形状はgis 変異体と類似していた。よって、GISSTI の下流において機能していると考えられる。GIS の発現はGA処理によって誘導されるが、STI もGA処理によって発現誘導されることから、GISSTI の下流においてGAシグナルを介してトライコームの分枝を制御していると考えられる。以上の結果から、GIS は核内倍加と独立してトライコーム分枝を制御しているSTI の下流においてジベレリンシグナルを介してトライコームの分枝を負に制御しており、トライコーム形成をする器官に応じてGAシグナルの負の制御因子であるSPY の上流もしくは下流において機能していると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)メディエーターによる花成制御

2012-03-21 22:52:09 | 読んだ論文備忘録

CRYPTIC PRECOCIOUS/MED12 is a Novel Flowering Regulator with Multiple Target Steps in Arabidopsis
Imura et al.  Plant Cell Physiol (2012) 53:287-303.
doi:10.1093/pcp/pcs002

京都大学荒木らは、花成誘導因子FLOWERING LOCUS TFT )の下流の制御機構を解明するために、35S プロモーターの制御下でFT を発現する形質転換シロイヌナズナ(35S:FT )を変異原処理した集団の中から早咲きとなる変異体の選抜を行ない、優性の変異体cryptic precocious-1Dcrp-1D )を単離した。crp-1D 35S:FT は栄養成長期をスキップして花成が非常に早くなり、その表現型は花成誘導経路においてFTによって発現が促進されるSUPPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CONSTANS 1SOC1 )の機能獲得変異体でFT を発現させた個体soc1-101D;35S:FT と非常に類似していた。よって、crp-1D 変異はSOC1 と同様にFT の下流で作用する遺伝子の発現増加によって引き起こされているものと考えられる。野生型植物にcrp-1D 変異が導入された場合、花成は長日条件、短日条件ともに僅かに促進され、この場合にも優性の変異を示した。crp-1D 変異体では、At4g00450の第4エクソンにCからTへの置換が見られ、コードするタンパク質の99番目のアミノ酸残基がセリンからフェニルアラニンに変化することが推測された。CRP 遺伝子は2235アミノ酸のタンパク質をコードしており、このタンパク質はRNAポリメラーゼIIのメディエーター複合体のサブユニット12(MED12)に相当する。CRP 遺伝子はシロイヌナズナ芽生えや若い植物体において恒常的に発現しており、特に維管束組織や茎頂で強い発現が見られた。成熟個体では若い花芽や発達中の花器官において強く発現していた。crp-1D 転写産物量は野生型と同等であり、crp-1Dタンパク質も野生型タンパク質も核に局在していた。crp 機能喪失変異体は長日条件下では花成が野生型よりも遅くなるが、短日条件ではそのような差は見られなかった。よって、CRP は光周期依存経路において花成促進を行なっているものと考えられる。crp 変異体における花成制御関連遺伝子の転写産物量を野生型と比較したところ、FT の上流に位置する促進因子のCONSTANSCO )の転写産物量に変化は見られなかったが、FTTWIN SISTER OF FTTSF )の抑制因子であるFLOWERING LOCUS CFLC )の転写産物量は増加し、これに呼応してFTTSF の転写産物量は減少していた。また、茎頂部では、FTのパートナーであるFLOWERING LOCUS DFD )、FTのターゲットであるSOC1FRUITFULLFUL )の転写産物量も減少していた。crp 変異体においてFT を師部特異的発現させたところ、花成遅延が部分的に回復したが、完全には戻らなかった。また、crp ft-2 二重変異体はft-2 単独変異体よりも花成が遅延した。よって、CRPFT の下流遺伝子の発現も制御していると考えられる。crp flc-3 二重変異体は長日条件下においてcrp 単独変異体よりも花成が早まり、FTTSF の転写産物量の低下にも部分的な回復が見られた。よって、crp 変異体での花成遅延にFLC の発現量増加が関与していると考えられる。CRP35S プロモーターで過剰発現させた形質転換体は、花成の表現型が野生型と同等であるかcrp 変異体と同等であるかのどちらかであり、crp 変異体と同等の場合、長日条件下での花成遅延はcrp 変異体ほどではなかった。また、CRP 過剰発現個体ではFTTSF の発現量も減少していた。これは過剰なCRP(MED12)タンパク質がメディエーター複合体の形成を妨げていることが原因と思われる。crp 変異体やCRP 過剰発現個体の表現型から推測して、crp-1D 変異体はドミナントネガティブな変異体でもタンパク質の安定性が増した機能獲得変異体でもないと考えられる。crp-1D 変異体でCRP を過剰発現させると花成促進効果が弱まることから、crp-1D は野生型CRPと同じ機構において作用していると考えられる。crp-1D において花成に関与しているSOC1APETALA1AP1 )の発現量を高めても花成促進効果に変化が見られないことから、crp-1DSOC1AP1 の上流の過程に作用していると考えられる。crp-1D 変異体でのFTTSF の発現量は野生型と同等であり、crp-1D ft-2 二重変異体では長日条件下での花成促進効果が抑制されることから、crp-1DFT 経路においてその下流で作用していると考えられる。crp-1D 変異体においてFD の発現量に変化は見られず、fd-1 変異はcrp-1D の花成促進に対して殆ど効果を示さないことから、crp-1D の花成制御はFDとは独立したものであると考えられる。crp-1D 変異体ではFTのターゲットであるSOC1FUL の発現量が上昇しており、crp-1D ft-2 二重変異体ではSOC1FUL の発現量が減少していることから、crp-1DFT と同じ経路において作用していると考えられる。メディエーター複合体においてMED12と対になって作用するMED13に対応するシロイヌナズナのタンパク質をコードするMACCHI-BOU2MAB2 )の機能喪失変異体mab2 も長日条件下での花成が遅延し、crp mab2 二重変異体はそれぞれの単独変異体と同じ表現型を示した。したがって、MED12 /CRPMED13 /MAB2 は同一経路において密接に関連して機能していると考えられる。mab2 変異はcrp-1D の花成促進を完全に抑制することから、crp-1D が機能するためにはMED13 /MAB2 が必要であると考えられる。crp 変異体は、花成遅延に加えて、不定期な胚致死、子葉の異型、初期成育遅延、わい化、葉の形態や維管束パターンの異常、花柄での異所的な苞葉状器官形成、花器官のキメラ化等の発達異常、花粉量低下や葯裂開不良による不稔といった様々な表現型を示した。よって、MED12 は植物の様々な成長過程に関与していると考えられる。以上の結果から、MED12/CRPが構成要素となっているメディエーターは花成を制御する因子の1つであると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

学会)第53回日本植物生理学会年会(京都) その3

2012-03-18 22:14:23 | 学会参加

ランチョンセミナーにおいてPCP表紙コンテストの授賞式が行なわれ、2010年5月号の「Special Issue Articles Barley」の表紙が1位となった。

 


おまけ その1 京都府立植物園

京都府立植物園は京都市左京区にあり、日本で最初の公立植物園として、1924年(大正13年)に開園した。面積24ヘクタールの広大な敷地に約12000種類、約12万本の植物が植えられている。行ったときには梅、クリスマスローズが見ごろを迎えており、イベントとして「花の回廊 早春の草花展」と「早春の山野草展」が開催されていた。

 



園内では梅が見ごろを迎えていた

 



観覧温室は面積、植栽植物の種類ともに日本最大級の温室

 



観覧温室内の奇想天外(Welwitschia mirabilis )グネツム綱グネツム目ウェルウィッチア科ウェルウィッチア属に属する1科1属1種の裸子植物


おまけ その2 京都水族館

海のない京都盆地の京都駅のすぐ近くに、内陸型水族館としては国内最大級の京都水族館が本年3月14日に開館した。地上3階建ての館内には、京の川ゾーン、ペンギンゾーン、大水槽、イルカスタジアム、京の里山ゾーンなどの9つのエリアがある。京の川ゾーンでは、世界最大級の両生類「オオサンショウウオ」を展示している。

 



水族館の概観

 



水量約500tの大水槽では丁度餌付けが行なわれていた

 



ミュージアムショップで購入した京都水族館のアイドル オオサンショウウオのマグネット

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

学会)第53回日本植物生理学会年会(京都) その2

2012-03-17 21:57:35 | 学会参加

年会2日目の午後に学内の神山ホールにて学会賞の授賞式と受賞講演があった。受賞者は以下のとおりである。

日本植物生理学会功績賞
 宮地重遠(東京大学名誉教授)

日本植物生理学会賞
 島崎研一郎(九州大学大学院・理学研究院)
 「植物の青色光応答の研究―気孔開口を中心にして」

日本植物生理学会奨励賞
 西村宜之(農業生物資源研究所・遺伝資源センター・放射線育種場)
 「アブシジン酸受容および情報伝達機構に関する研究」
 吉本光希(理化学研究所・植物科学研究センター:(現)フランう国立農学研究所)
 「植物における細胞内自己分解システム・オートファジーの分子機構とその生理機能に関する研究」

PCP論文賞
 近藤竜彦(名古屋大学大学院・生命農学研究科)
 「Stomatal Density is Controlled by a Mesophyll-Derived Signaling Molecule. (Plant Cell Physiol. 51(1):1-8.)」

日本植物生理学会若手海外共同研究フェローシップ
 第10回 奥田賢治(中央大学・理工学部)
 「植物オルガネラ遺伝子発現を統御するPPR蛋白質によるRNA配列認識機構の解明」
 第11回 米田新(理化学研究所:(現)奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科)
 「FESEM を用いた表層微小管とセルロース微繊維の平行性に対する新阻害剤コブトリンの作用の解析」

なお、若手フェローシップは予算である「N.H.Chua基金」を使い切ったために第11回が最後となる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

学会)第53回日本植物生理学会年会(京都) その1

2012-03-16 21:50:46 | 学会参加

第53回日本植物生理学会年会が3月15日(金)-18日(日)の日程で京都産業大学において開催された。京都産業大学は京都市北区上賀茂本山の鞍馬街道に貫かれた本山から神山の山の斜面にある大学である。京都市営地下鉄烏丸線の国際会館駅からバスに乗り、京都産業大学前で降りるとエスカレーターがあり、山腹にある会場へ上る。今大会では、年会の国際化を促すために口頭発表・ポスター発表とも資料の使用言語を英語とすることが求められ、口頭発表において英語で行なうことも可とされた。そのため、口頭発表を英語で行なう日本人発表者もいた。



京都産業大学前でバスを降りると学内へのと上るエスカレーターがある



京都産業大学のシンボルはギリシャ神話に登場する半身半馬の賢者ケイロンをかたどった星座のサギタリウス(射手座)

 

学内には大学創設者の荒木俊馬博士(宇宙物理学者・天文学者)の「建学の精神」を具現化する神山天文台がある

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)SPINDLYによるサイトカイニン応答制御

2012-03-13 19:53:41 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis O-Linked N-Acetylglucosamine Transferase SPINDLY Interacts with Class I TCPs to Facilitate Cytokinin Responses in Leaves and Flowers
Steiner et al.  Plant Cell (2012) 24:96-108.
doi:10.1105/tpc.111.093518

O-結合 N-アセチルグルコサミン(O-GlcNAc)のSer残基もしくはThr残基への付加によるタンパク質の修飾は、タンパク質の機能調節に関与していることが知られている。この反応はO-GlcNAcトランスフェラーゼ(OGT)によって触媒され、シロイヌナズナにはSPINDLY(SPY)とSECRET AGENT(SEC)の2種類のOGTが存在している。SECの機能には不明な点が残されているが、SPYは、DELLAタンパク質を修飾して活性化しジベレリン(GA)シグナルの負の制御因子として機能すること、サイトカイニンシグナルの正の制御因子として機能すること等の様々な解析結果が報告されている。イスラエル エルサレム・ヘブライ大学Weiss らは、SPYと相互作用をするタンパク質の探索を酵母two-hybrid選抜によって行ない、TCP転写因子のTCP15とそのホモログのTCP14をSPYと相互作用をするタンパク質として同定した。シロイヌナズナゲノムにはTCPをコードする遺伝子が24あり、TCP14とTCP15はクラスI のTCPに分類されている。TCP14とSPYとの関係を解析するためにTCP1435S プロモーター制御下で恒常的に発現する形質転換体の作出を試みたが、著しい発達異常を生じて致死となってしまった。そこで、側生器官原基で発現するASYMMETRIC LEAVES1AS1 )プロモーター制御下でTCP14 を発現するコンストラクトを導入した形質転換体を用いて解析を行なった。この形質転換体は、節間伸長の阻害、花弁成長の阻害、稔性低下、がく片でのトライコーム形成の促進、クロロフィル含量の増加によって濃緑色となり小型化した葉の形成、といった表現型を示し、TCP15AS1 プロモーター制御下で発現させた場合にも同様の傾向が見られた。この形質転換体にspy 変異を導入するとTCP14 過剰発現による表現型が抑制された。spy 変異はTCP14 の発現には影響していないことから、TCP14の活性にはSPYが必要であると考えられる。SECを用いたin vitro の実験系によって、TCP14、TCP15がO-GlcNAc修飾を受けることが確認された。tcp14 tcp15 二重変異体は葉縁が滑らかになり、がく片が無毛となるといったspy-4 変異体と類似した表現型を示したが、spy-4 変異体において観察される、細長い草型、早期開花、GA生合成阻害剤パクロブトラゾ-ル非感受性といった形質は見られなかった。葉縁の形態やがく片のトライコーム形成はSPYがサイトカイニン応答を促進していることの指標であり、草型、花成、パクロブトラゾール耐性はSPYによるGA応答の抑制に関与していることから、SPYとTCP14/TCP15との相互作用はサイトカイニン応答と関連しているものと思われる。野生型植物をサイトカイニン(BA)処理すると葉が小さくなり鋸歯が増加するが、spy-4 変異体やtcp14 tcp15 二重変異体ではそのような変化は見られなかった。また、BA処理によって野生型植物ではがく片のトライコーム形成が強く誘導されるが、spy-4 変異体、tcp14 tcp15 二重変異体でのトライコームの形成誘導は僅かであった。BA処理は花序の伸長成長を阻害し、spy-4 変異体ではその阻害が抑制されるが、tcp14 tcp15 二重変異体では野生型と同様に花序の伸長が阻害された。よって、SPY、TCP14、TCP15の機能は完全に重複してるのではない。TCP14TCP15 過剰発現させた個体は、がく片でのトライコーム形成の促進に加えて、分枝の促進や老化遅延といった野生型植物をサイトカイニン処理した際と同じような表現型を示した。また、TCP14 過剰発現個体ではサイトカイニンによって発現誘導されるARR5 の転写産物量が野生型よりも高くなっていた。サイトカイニンは細胞分裂を促進する作用があり、tcp14 tcp15 二重変異体では分裂因子CYCLIN B2;1CYCB2;1 )の転写産物量が減少していることが明らかとなっている。CYCB2;1 プロモーター制御下でGUS 遺伝子を発現するコンストラクトを導入したTCP14 過剰発現個体の花序では、GUS活性が野生型よりも強く、活性が長く持続した。サイトカイニン処理をすると、野生型、TCP14 過剰発現個体共に花序でのGUS活性が誘導されるが、TCP14 過剰発現個体の方がサイトカイニンの効果が強く現れた。よって、TCP14はサイトカイニン経路の制御を介して細胞分裂を促進していると考えられる。野生型芽生えをサイトカイニン処理するとARR5 の転写産物量が増加するが、TCP14TCP15 の転写産物量は変化しなかった。サイトカイニン分解酵素をコードするCK OXIDASE /DEHYDROGENASE3CKX3 )をAS1 プロモーター制御下で発現する形質転換体とTCP14AS1 プロモーター制御下で発現する形質転換体を交雑して得た個体は、CKX3 を発現させた形質転換体の特徴である花成遅延が起こり、TCP14 を過剰発現させた個体の特徴である花弁の成長抑制とがく片のトライコーム増加は抑制された。しかし、この個体にサイトカイニンを添加することでTCP14 過剰発現個体の表現型が回復した。よって、サイトカイニンはTCP14活性を促進していると考えられる。以上の結果から、SPYはTCP14、TCP15といったクラスI TCP転写因子と相互作用をすることで葉や花におけるサイトカイニン応答を促進していると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)ブラシノステロイドによる気孔形成の制御

2012-03-11 18:20:39 | 読んだ論文備忘録

Brassinosteroid regulates stomatal development by GSK3-mediated inhibition of a MAPK pathway
Kim et al.  Nature (2012) 482:419-422.
doi:10.1038/nature10794

気孔は光合成や水利用の効率の制御にとって重要であり、表皮上の密度と分布は、内在する発生プログラムによって、植物ホルモンによって、光、湿度、二酸化炭素といった環境要因によって制御されている。米国 カーネギー研究所Wang らは、シロイヌナズナのブラシノステロイド(BR)欠損変異体では気孔が増加していることに着目して、この機構について解析を行なった。野生型のシロイヌナズナでは、気孔は常に少なくとも1つの表皮細胞(pavement cell)をはさんで分布するが、BR欠損変異体det2-1 や非感受性変異体であるbri1-116 変異体、bus 四重変異体(bus-q )、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GKS3)様キナーゼBIN2の機能獲得変異体bin2-1BIN2 過剰発現個体では気孔がクラスターを形成し、野生型植物をブラシノライド処理をすることで気孔密度が低下した。よって、BRは気孔形成に対して抑制的作用していると考えられる。しかしながら、BZR1の機能亢進変異体のbzr1-1D では気孔の発達に変化が見られず、BR非感受性変異体との二重変異体では、わい化表現型については抑制効果を示したが気孔密度の表現型については抑制効果を示さなかった。したがって、気孔発達のBRによる制御は、BRI1、BSU1、BIN2といった因子を介してなされているが、BIN2のターゲットであるBZR1は関与していないと考えられる。GKS3様キナーゼ特異的な阻害剤であるビキニンを野生型植物に添加すると気孔形成数が減少し、bin2-1 変異体に添加すると気孔のクラスター形成が抑制され、bus-q 変異体においても表現型が緩和された。よって、BR欠損変異体や非感受性変異体での気孔形成の増加はGKS3様キナーゼ活性の増加によるものであると考えられる。既知の気孔形成変異体として、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)キナーゼキナーゼ(MAPKKK)であるYDA(YODA)の恒常的な活性型(CA-YDA)を発現する個体では気孔形成が完全に喪失することが知られており、これはMAPキナーゼ経路の活性化が気孔分化に関与しているbHLH型転写因子のSPEECHLESS(SPCH)をリン酸化して不活性化することによるとされている。CA-YDAの発現は、bri1-116 変異体、bus-q 変異体、bin2-1 変異体での気孔形成を抑制し、bus-q spch-3 変異体においても気孔形成が抑制された。よって、BRシグナル伝達因子は気孔形成に関与するMAPキナーゼ経路よりも上位に位置していると考えられる。ビキニンは気孔のクラスター形成を引き起こすtmm 変異体やer erl1 erl2 三重変異体の表現型を抑制するが、yda 変異体、MPK3やMPK6を不活性化する病原菌由来のエフェクターHOPAI1 の過剰発現個体、scrm-D 機能獲得変異体での気孔クラスター形成に対しては効果を示さなかった。BR生合成阻害剤のブラシナゾールはtmm 変異体の表現型を強めた。以上の結果から、GKS3様キナーゼはERやTMMの下流、YDA MAPKKKの上流において作用していると考えられる。YDAにはGKS3によってリン酸化されうる部位が84箇所ある。特に、キナーゼドメインのアミノ末端側にあるリン酸化部位は他植物のYDAホモログにおいても保存されており、この領域が欠損したYDAは恒常的な活性化型となる。しかもBIN2のターゲットであるBZR1にも類似した領域が含まれている。そこでBIN2とYDAの関係について調査したところ、in vitro および in vivo の試験により、BIN2はYDAと相互作用をしてこの領域をリン酸化することがわかった。また、BIN2によるYDAのリン酸化はYDAのキナーゼ活性を不活性化することが確認された。以上の結果から、BRはBIN2によるYDAのリン酸化と不活性化を阻害することによって気孔形成を負に制御していると考えられる。BR量が低い条件下では、活性型のBIN2が直接YDAをリン酸化、不活性化してMAPキナーゼ経路活性を低下させ、このことによってSPCHが脱抑制されて気孔形成を誘導する。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)病虫害に対するプライミング効果は次世代に伝播する

2012-03-08 20:43:14 | 読んだ論文備忘録

Descendants of Primed Arabidopsis Plants Exhibit Resistance to Biotic Stress
Slaughter et al.  Plant Physiology (2012) 158:835-843.
doi:10.1104/pp.111.191593

Next-Generation Systemic Acquired Resistance
Luna et al.  Plant Physiology (2012) 158:844-853.
doi:10.1104/pp.111.187468

Herbivory in the Previous Generation Primes Plants for Enhanced Insect Resistance
Rasmann et al.  Plant Physiology (2012) 158:854-863.
doi:10.1104/pp.111.187831

植物は病虫害を受けるとその刺激に応答して様々な抵抗性を示す。そして、一度そのような刺激を受けた植物は、次に同じ刺激を受けた際には前よりも防御応答が強まることが知られている。このようなプライミング効果が、刺激を受けた個体の次世代にも伝播することを示した論文がPlant Phyiology 2月号に3報出た。

スイス ヌーシャテル大学Mauch-Mani ら(158:835-843)は、非タンパク性アミノ酸のβ-アミノ酪酸(BABA)による病原性関連(PR)タンパク質をコードする遺伝子PR1 の発現誘導の系を用いて、BABA処理をしたシロイヌナズナ(Ws-0)の自殖後代でのPR1 の発現誘導について調査した。BABA処理をしていない親の後代(WsH)をBABA処理をするとPR1 転写産物量の増加が観察されるが、BABA処理をした親の後代(WsB)でのPR1 発現誘導量はWsHの3倍高く、二世代にわたってBABA処理をした個体(WsBB)ではWsHよりも4.6倍高くなっていた。一方、BABA処理をした後代をBABA処理せずに自殖した後代(WsBH)でのPR1 転写産物量はWsHと同等であり、BABA処理による遺伝子発現のプライミング効果は無処理世代を経ることで切れてしまうことがわかった。BABA処理によって誘導される稔性低下が弱まったinduced BABA sterility1ibs1 )変異体を用いて同様の試験を行なったところ、PR1 遺伝子の発現量は低いが、同様の効果が見られた。BABA処理をした植物の後代(WsB、WsBB、WsBH)はWsHよりもPseudomonas syringaePst )DC3000に対する抵抗性が強くなっており、抵抗性の程度は親の代でのBABA処理の回数が多いものほど強くなっていた。BABA処理後にPst DC3000を感染させると、WsHではPR1 転写産物の蓄積は24時間後に最大となり、WsBHにおいても同様の傾向が見られるが、WsBではPR1 転写産物の蓄積が早くかつ多くなっていた。ibs 変異体ではWs-0系統に比べてPR1 転写産物の蓄積の遅れと蓄積量の減少があるものの、同様の傾向が見られた。後代でのプライミング効果は化学物質だけでなく実際の菌感染によっても引き起こされ、無発病性のPst avrRpt2 を感染させたシロイヌナズナCol-0系統の後代にPst DC3000を感染させると無感染の後代よりも菌の増殖や病徴の拡張が減少していた。BABAや無発病性Pst 処理による後代での抵抗性増加は卵菌( Hyaloperonospora arabidopsidis )に対しても効果があった。

英国 シェフィールド大学Ton ら(158:844-853)は、Pst DC3000を感染させたシロイヌナズナの後代はH. arabidopsidis に対する抵抗性が無感染親の後代よりも強いことを見出した。しかしながら、サリチル酸(SA)非感受性変異体npr1-1 では後代での抵抗性が現れなかった。よって、後代の抵抗性にはNPR1タンパク質が関与していることが示唆される。後代でのH. arabidopsidis に対する抵抗性は、Pst DC3000を感染させた後代を菌感染させずに得た次世代においても見られることから、無感染世代を経由しても維持されると考えられる。後代での抵抗性にNPR1が関与していることは、病原菌によって誘導される全身獲得抵抗性(SAR)の機構と類似している。そこで、SAによるPR1 の発現誘導を見たところ、菌感染させた後代では無処理の後代よりもPR1 の発現誘導が早くかつ強く起こることがわかった。このPR1 の発現誘導も無感染世代を経由しても維持された。また、菌感染させた後代では、PR1 に加えて、WRKY6WRKY53WRKY70 といったSAによって誘導される遺伝子の発現量も高くなっていた。Pst DC3000の感染はSAを介した防御応答は活性化されるが、ジャスモン酸(JA)を介した病原性糸状菌Alternaria brassicicola に対する抵抗性は抑制されることが知られている。そこで、JAによって発現誘導されるPLANT DEFENSIN1.2PDF1.2 )とVEGETATIVE STORAGE PROTEIN2VSP2 )のJA応答性を見たところ、Pst DC3000感染後代ではどちらの遺伝子も発現量が無処理後代よりも低かった。しかしながら、npr1-1 変異体のPst DC3000感染後代では両遺伝子の発現誘導は無処理後代と同等であった。Pst DC3000感染後代と無処理後代との間で、JAおよびその誘導体、SAおよびその誘導体の内生量に差が見られないことから、Pst DC3000感染後代におけるSA、JA応答性の変化は内生ホルモン量の変化によるものではなく、下流の応答経路において制御されていると考えられる。Pst DC3000感染後代のPR1 遺伝子やPDF1.2 遺伝子のプロモーター領域のヒストン修飾をクロマチン免疫沈降(ChIP)によって調査したところ、PR1 遺伝子プロモーター領域ではアセチル化されたヒストンH3(H3K9ac)が増加しており、この増加はnpr1-1 変異体では見られなかった。そして同様の変化はWRKY6WRKY53 遺伝子のプロモーター領域においても観察された。PDF1.2 遺伝子プロモーター領域では、H3K9acの量に違いは見られなかったが、トリプルメチル化されたヒストンH3(H3K27me3)量が増加しており、npr1-1 変異体ではそのような増加は見られなかった。したがって、ヒストン修飾が後代での防御応答遺伝子の発現制御に関与していることが示唆される。一方、DNAのメチル化も次世代に伝わることが知られており、シロイヌナズナにおいてPst DC3000の感染はDNAメチル化レベルを低下させることが報告されている。そこで、DNAメチル化が低下したdrm1 drm2 drm3ddc )三重変異体のPst DC3000感染後代と無処理後代のH. arabidopsidis に対する抵抗性を見たところ、どちらも野生型植物をPst DC3000感染させた後代と同程度の抵抗性を示した。また、ddc 変異体はPst DC3000感染後代と無処理後代ともにSA処理によるPR1 の発現誘導が野生型よりも高くなっていた。よって、Pst DC3000感染による次世代への抵抗性伝達にはDNAの低メチル化が関与していると考えられる。

米国 ボイストンプソン植物研究所(BTI)Jander ら(158:854-863)は、トマトとシロイヌナズナを実験材料に用いて、食植性の幼虫による食害、メチルジャスモン酸(MeJA)処理、物理的傷害を与えた個体の後代について、食植性幼虫に対する抵抗性を調査した。その結果、これらの処理をしたトマトの後代では、アメリカタバコガ(Helicoverpa zea )幼虫の成長が無処理後代よりも遅くなることを見出した。またシロイヌナズナでは、モンシロチョウ(Pieris rapae )幼虫の食害を受けた後代とMeJA処理をした後代でモンシロチョウ幼虫の体重増加が抑制され、物理的傷害を与えた個体の後代では幼虫の体重増加は対照と同等であった。シロイヌナズナの後代における抵抗性について、アブラナ科のスペシャリストであるコナガ(Plutella xylostella )、ジェネラリストであるキンウワバ(Trichoplusia ni )とシロイチモジヨトウ(Spodoptera exigua )についても調査したところ、シロイチモジヨトウの幼虫のみがモンシロチョウ幼虫の食害を受けた個体の後代で成育が悪くなった。また、モンシロチョウ幼虫とシロイチモジヨトウ幼虫の成育はコナガ幼虫の食害を受けた個体の後代においても無食害個体の後代よりも悪くなった。モンシロチョウ幼虫の食害を受けた後代に食害を与えずに得た次世代も幼虫に対する抵抗性が見られたが、さらに次の世代では抵抗性が見られなくなった。モンシロチョウ幼虫の食害を受けた個体から得られた種子のジャスモン酸(JA)、サリチル酸(SA)、アブシジン酸、インドール-3-酢酸の内生量は無処理の対照と同等であり、これらのホルモンの蓄積が抵抗性のプライミング効果を示す原因となっているのではないと考えられる。食害を受けた個体の後代の形態やロゼット葉のトライコームの密度も無処理の対照と同等であった。モンシロチョウ幼虫の食害を受けたJA非感受性のcoi1-1 変異体を野生型植物の花粉で交雑して得た後代は抵抗性の増加が認められなかったが、食害を受けたCOI1 /coi1-1 ヘテロ接合体の自殖後代はすべての遺伝子型で抵抗性を示した。よって、後代に受け継がれた抵抗性には後代でのCOI1によるJA-Ileの受容は関係していないことが示唆される。食害を受けた親の後代の葉の内生JA量は、食害を受けていない状態でも対照よりも多く、食害を受けることによる内生JA量の増加も対照よりも高くなっていた。一方、内生SA量については親の代での食害処理の有無による差は認められなかった。また、内生JA量の上昇に呼応して、JA応答遺伝子であるLIPOXYGENAZE2LOX2 )およびJA生合成酵素をコードするALLENE OXIDE SYNTHASEAOX )遺伝子の食害による発現量増加量も親の代で食害を受けた個体のほうが高くなっていた。この後代へ抵抗性を伝播する因子として低分子干渉RNA(siRNA)が関与しているかを検証するために、低分子RNA生合成が欠損したnrpd2a nrpd2b 二重変異体、siRNAのプロセシング酵素が欠損したdcl2 dcl3 dcl4 三重変異体を用いて解析を行なったところ、これらの変異体では親の代での食害による後代での抵抗性増加が見られないことがわかった。また、親の代でMeJA処理をしても後代での抵抗性に変化が見られなかった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする