Descendants of Primed Arabidopsis Plants Exhibit Resistance to Biotic Stress
Slaughter et al. Plant Physiology (2012) 158:835-843.
doi:10.1104/pp.111.191593
Next-Generation Systemic Acquired Resistance
Luna et al. Plant Physiology (2012) 158:844-853.
doi:10.1104/pp.111.187468
Herbivory in the Previous Generation Primes Plants for Enhanced Insect Resistance
Rasmann et al. Plant Physiology (2012) 158:854-863.
doi:10.1104/pp.111.187831
植物は病虫害を受けるとその刺激に応答して様々な抵抗性を示す。そして、一度そのような刺激を受けた植物は、次に同じ刺激を受けた際には前よりも防御応答が強まることが知られている。このようなプライミング効果が、刺激を受けた個体の次世代にも伝播することを示した論文がPlant Phyiology 2月号に3報出た。
スイス ヌーシャテル大学のMauch-Mani ら(158:835-843)は、非タンパク性アミノ酸のβ-アミノ酪酸(BABA)による病原性関連(PR)タンパク質をコードする遺伝子PR1 の発現誘導の系を用いて、BABA処理をしたシロイヌナズナ(Ws-0)の自殖後代でのPR1 の発現誘導について調査した。BABA処理をしていない親の後代(WsH)をBABA処理をするとPR1 転写産物量の増加が観察されるが、BABA処理をした親の後代(WsB)でのPR1 発現誘導量はWsHの3倍高く、二世代にわたってBABA処理をした個体(WsBB)ではWsHよりも4.6倍高くなっていた。一方、BABA処理をした後代をBABA処理せずに自殖した後代(WsBH)でのPR1 転写産物量はWsHと同等であり、BABA処理による遺伝子発現のプライミング効果は無処理世代を経ることで切れてしまうことがわかった。BABA処理によって誘導される稔性低下が弱まったinduced BABA sterility1 (ibs1 )変異体を用いて同様の試験を行なったところ、PR1 遺伝子の発現量は低いが、同様の効果が見られた。BABA処理をした植物の後代(WsB、WsBB、WsBH)はWsHよりもPseudomonas syringae (Pst )DC3000に対する抵抗性が強くなっており、抵抗性の程度は親の代でのBABA処理の回数が多いものほど強くなっていた。BABA処理後にPst DC3000を感染させると、WsHではPR1 転写産物の蓄積は24時間後に最大となり、WsBHにおいても同様の傾向が見られるが、WsBではPR1 転写産物の蓄積が早くかつ多くなっていた。ibs 変異体ではWs-0系統に比べてPR1 転写産物の蓄積の遅れと蓄積量の減少があるものの、同様の傾向が見られた。後代でのプライミング効果は化学物質だけでなく実際の菌感染によっても引き起こされ、無発病性のPst avrRpt2 を感染させたシロイヌナズナCol-0系統の後代にPst DC3000を感染させると無感染の後代よりも菌の増殖や病徴の拡張が減少していた。BABAや無発病性Pst 処理による後代での抵抗性増加は卵菌( Hyaloperonospora arabidopsidis )に対しても効果があった。
英国 シェフィールド大学のTon ら(158:844-853)は、Pst DC3000を感染させたシロイヌナズナの後代はH. arabidopsidis に対する抵抗性が無感染親の後代よりも強いことを見出した。しかしながら、サリチル酸(SA)非感受性変異体npr1-1 では後代での抵抗性が現れなかった。よって、後代の抵抗性にはNPR1タンパク質が関与していることが示唆される。後代でのH. arabidopsidis に対する抵抗性は、Pst DC3000を感染させた後代を菌感染させずに得た次世代においても見られることから、無感染世代を経由しても維持されると考えられる。後代での抵抗性にNPR1が関与していることは、病原菌によって誘導される全身獲得抵抗性(SAR)の機構と類似している。そこで、SAによるPR1 の発現誘導を見たところ、菌感染させた後代では無処理の後代よりもPR1 の発現誘導が早くかつ強く起こることがわかった。このPR1 の発現誘導も無感染世代を経由しても維持された。また、菌感染させた後代では、PR1 に加えて、WRKY6 、WRKY53 、WRKY70 といったSAによって誘導される遺伝子の発現量も高くなっていた。Pst DC3000の感染はSAを介した防御応答は活性化されるが、ジャスモン酸(JA)を介した病原性糸状菌Alternaria brassicicola に対する抵抗性は抑制されることが知られている。そこで、JAによって発現誘導されるPLANT DEFENSIN1.2 (PDF1.2 )とVEGETATIVE STORAGE PROTEIN2 (VSP2 )のJA応答性を見たところ、Pst DC3000感染後代ではどちらの遺伝子も発現量が無処理後代よりも低かった。しかしながら、npr1-1 変異体のPst DC3000感染後代では両遺伝子の発現誘導は無処理後代と同等であった。Pst DC3000感染後代と無処理後代との間で、JAおよびその誘導体、SAおよびその誘導体の内生量に差が見られないことから、Pst DC3000感染後代におけるSA、JA応答性の変化は内生ホルモン量の変化によるものではなく、下流の応答経路において制御されていると考えられる。Pst DC3000感染後代のPR1 遺伝子やPDF1.2 遺伝子のプロモーター領域のヒストン修飾をクロマチン免疫沈降(ChIP)によって調査したところ、PR1 遺伝子プロモーター領域ではアセチル化されたヒストンH3(H3K9ac)が増加しており、この増加はnpr1-1 変異体では見られなかった。そして同様の変化はWRKY6 、WRKY53 遺伝子のプロモーター領域においても観察された。PDF1.2 遺伝子プロモーター領域では、H3K9acの量に違いは見られなかったが、トリプルメチル化されたヒストンH3(H3K27me3)量が増加しており、npr1-1 変異体ではそのような増加は見られなかった。したがって、ヒストン修飾が後代での防御応答遺伝子の発現制御に関与していることが示唆される。一方、DNAのメチル化も次世代に伝わることが知られており、シロイヌナズナにおいてPst DC3000の感染はDNAメチル化レベルを低下させることが報告されている。そこで、DNAメチル化が低下したdrm1 drm2 drm3 (ddc )三重変異体のPst DC3000感染後代と無処理後代のH. arabidopsidis に対する抵抗性を見たところ、どちらも野生型植物をPst DC3000感染させた後代と同程度の抵抗性を示した。また、ddc 変異体はPst DC3000感染後代と無処理後代ともにSA処理によるPR1 の発現誘導が野生型よりも高くなっていた。よって、Pst DC3000感染による次世代への抵抗性伝達にはDNAの低メチル化が関与していると考えられる。
米国 ボイストンプソン植物研究所(BTI)のJander ら(158:854-863)は、トマトとシロイヌナズナを実験材料に用いて、食植性の幼虫による食害、メチルジャスモン酸(MeJA)処理、物理的傷害を与えた個体の後代について、食植性幼虫に対する抵抗性を調査した。その結果、これらの処理をしたトマトの後代では、アメリカタバコガ(Helicoverpa zea )幼虫の成長が無処理後代よりも遅くなることを見出した。またシロイヌナズナでは、モンシロチョウ(Pieris rapae )幼虫の食害を受けた後代とMeJA処理をした後代でモンシロチョウ幼虫の体重増加が抑制され、物理的傷害を与えた個体の後代では幼虫の体重増加は対照と同等であった。シロイヌナズナの後代における抵抗性について、アブラナ科のスペシャリストであるコナガ(Plutella xylostella )、ジェネラリストであるキンウワバ(Trichoplusia ni )とシロイチモジヨトウ(Spodoptera exigua )についても調査したところ、シロイチモジヨトウの幼虫のみがモンシロチョウ幼虫の食害を受けた個体の後代で成育が悪くなった。また、モンシロチョウ幼虫とシロイチモジヨトウ幼虫の成育はコナガ幼虫の食害を受けた個体の後代においても無食害個体の後代よりも悪くなった。モンシロチョウ幼虫の食害を受けた後代に食害を与えずに得た次世代も幼虫に対する抵抗性が見られたが、さらに次の世代では抵抗性が見られなくなった。モンシロチョウ幼虫の食害を受けた個体から得られた種子のジャスモン酸(JA)、サリチル酸(SA)、アブシジン酸、インドール-3-酢酸の内生量は無処理の対照と同等であり、これらのホルモンの蓄積が抵抗性のプライミング効果を示す原因となっているのではないと考えられる。食害を受けた個体の後代の形態やロゼット葉のトライコームの密度も無処理の対照と同等であった。モンシロチョウ幼虫の食害を受けたJA非感受性のcoi1-1 変異体を野生型植物の花粉で交雑して得た後代は抵抗性の増加が認められなかったが、食害を受けたCOI1 /coi1-1 ヘテロ接合体の自殖後代はすべての遺伝子型で抵抗性を示した。よって、後代に受け継がれた抵抗性には後代でのCOI1によるJA-Ileの受容は関係していないことが示唆される。食害を受けた親の後代の葉の内生JA量は、食害を受けていない状態でも対照よりも多く、食害を受けることによる内生JA量の増加も対照よりも高くなっていた。一方、内生SA量については親の代での食害処理の有無による差は認められなかった。また、内生JA量の上昇に呼応して、JA応答遺伝子であるLIPOXYGENAZE2 (LOX2 )およびJA生合成酵素をコードするALLENE OXIDE SYNTHASE (AOX )遺伝子の食害による発現量増加量も親の代で食害を受けた個体のほうが高くなっていた。この後代へ抵抗性を伝播する因子として低分子干渉RNA(siRNA)が関与しているかを検証するために、低分子RNA生合成が欠損したnrpd2a nrpd2b 二重変異体、siRNAのプロセシング酵素が欠損したdcl2 dcl3 dcl4 三重変異体を用いて解析を行なったところ、これらの変異体では親の代での食害による後代での抵抗性増加が見られないことがわかった。また、親の代でMeJA処理をしても後代での抵抗性に変化が見られなかった。