Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)ブラシノステロイド生合成調節因子

2011-03-31 23:04:22 | 読んだ論文備忘録

CESTA, a positive regulator of brassinosteroid biosynthesis
Poppenberger et al.  The EMBO Journal (2011) 30:1149-1161.
doi:10.1038/emboj.2011.35

ブラシノステロイド(BR)の生合成は植物体内のBR量を調節する機能を担っていることが知られているが、その制御機構は明らかではない。オーストリア ウィーン大学マックス ペルーツ研究所(MFPL)Poppenberger らは、シロイヌナズナT-DNA挿入優性変異体cesta-Dces-D )を単離した。この変異体は芽生え胚軸の成長がよく、ロゼット葉は葉柄・葉身が長く、鋸歯があり、外側に向かって曲がって上を向き、cestaのような形となる(cestaはスペイン語でバスケットの意で、ここではバスク地方で行なわれている球技ペロタで用いるラケットのようなものを指している)。ces-D 成熟個体は腋芽がよく発達して二次ロゼットを形成して多くのロゼット葉と花序をつける。また、花成と老化が野生型よりも遅くなる。ces-D 変異体においてT-DNAは第1染色体上のbHLH転写因子をコードする遺伝子(At1g25330)の5'非翻訳領域の翻訳開始点から152 bp上流に35Sエンハンサーエレメントを開始コドンに向けて挿入されており、挿入部位には6塩基の欠失が見られた。ces-D 変異体でのAt1g25330 遺伝子の発現は野生型よりも高く、At1g25330 を過剰発現させた形質転換シロイヌナズナはces-D と類似した表現型を示した。よって、CES の過剰発現がces-D 変異体の表現型をもたらしているといえる。bHLH転写因子はシロイヌナズナゲノムに160以上あり、CESはbHLHサブファミリー18に属するbHLH075と命名されている。CESと相同性の高いホモログにbrassinosteroid enhanced expression 1(BEE1)とBEE3があり、これらはBR初期応答遺伝子に属し、互いに機能重複してBR応答の正の調節因子として機能していることが知られている。よって、CES もBRシグナルに関連したbHLH転写因子をコードしていることが推測される。CES は植物体のすべての器官で発現しており、特に若い組織や維管束での発現が強い。そしてこの発現パターンはCPDROT3 といったBR生合成酵素遺伝子の発現領域と重複している。ces-D 変異体のBR量を測定したところ、3-デヒドロ-6-デオキソテアステロン(6-Deoxo3DT)、6-デオキソティファステロール(6-DeoxoTY)、ティファステロール(TY)の含量が減少し、6-デオキソカスタステロン(6-DeoxoCS)、カスタステロン(CS)といった生合成経路後半の代謝産物の含量が増加していた。また、ces-D 変異体ではBR生合成に関与するDWF4CPDROT3 の転写産物量が増加していた。T-DNA挿入によりCES が機能喪失したces-1 変異体は、成熟個体ではBR欠損の表現型は示さないが、芽生えでは胚軸が短く、DWF4ROT3 転写産物量が減少しており、24-epiBLを添加することで胚軸伸長が回復した。以上の結果から、CESはBR生合成の正の調節因子として機能していると考えられる。ces-D 変異体において発現量が変化している遺伝子をマイクロアレイによって網羅的に解析したところ、370遺伝子の発現量が上昇し、572遺伝子の発現量が減少していた。さらにces-D 変異体において発現量が上昇する遺伝子のプロモーター領域にはbHLHタンパク質が結合することが知られているG-boxモチーフ(5'-CACGTG-3')が見られた。ces-D 変異体において発現量が上昇し、プロモーター領域にG-boxモチーフを含んでいるCPD 遺伝子やCYP718 遺伝子についてクロマチン免疫沈降試験を行ない、これらの遺伝子プロモーター領域のG-boxモチーフにCESが結合することが確認された。CESタンパク質は核内に分散して局在しているが、BR処理をすると核内で斑点状に局在することがわかった。このCESタンパク質の斑点状の局在は、BRシグナルを恒常的に活性化するビキニン(Bkn)処理によっても観察されることから、この現象はBRシグナルによって制御されていると考えられる。bHLHタンパク質は二量体を形成することから、酵母two-hybrid法によりCESのタンパク質相互作用を調査したところ、CESはCES、BEE1、BEE3と相互作用することが確認され、BiFC法によりCESとBEE1は生体内においても相互作用することが示された。CESはBIN2によってリン酸化されることがin vitroキナーゼアッセイにより確認されたが、リン酸化はCESのDNA結合能に変化を起こさないことから、このリン酸化はBES1やBZR1とは別の意味があると考えられる。

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論文)CLAVATA3によるCLAVATA1の液胞へのターゲッティング

2011-03-29 21:49:58 | 読んだ論文備忘録

Plant Stem Cell Signaling Involves Ligand-Dependent Trafficking of the CLAVATA1 Receptor Kinase
Nimchuk et al.  Current Biology (2011) 21:345-352.
DOI:10.1016/j.cub.2011.01.039

茎頂分裂組織の細胞数は、糖ペプチドリガンドのCLAVATA3(CLV3)とCLAVATA1(CLV1)受容体キナーゼおよびCLV2/CORYNE(CRN)受容体様複合体によるフィードバックループによるホメオドメインタンパク質WUSCHEL(WUS)の発現量調節によって維持されている。米国 カリフォルニア工科大学Meyerowits らは、GFPタンパク質を付加したCLV1(CLV1-2×GFP)を発現させたシロイヌナズナを用いてCLV1の局在を観察したところ、若い花序分裂組織においてGFP蛍光が細胞膜に局在するのに加えてL3層細胞の液胞中にも僅かに見られ、このようなGFP蛍光の液胞への蓄積は髄状分裂組織細胞においても見られることを見出した。しかしながらclv3-2 変異体バックグラウンドではGFP蛍光は髄状分裂組織において細胞膜でのみ観察され、液胞でのGFP蛍光の蓄積は見られなかった。よって、CLV3不在条件ではCLV1は細胞膜に蓄積し、CLV3が存在するとCLV1は液胞に局在する。このことからCLV3はCLV1の細胞膜から液胞へのエンドサイトーシスをもたらしていることが示唆される。トランスゴルジネットワーク/前液胞画分に局在し分解液胞への物質輸送に関与しているQ-SNAREタンパク質をコードするZIG /VTI11 の変異体zig-1 では、CLV1-2×GFPの液胞局在が野生型と比べて大きく減少し、細胞膜に局在していた。よって、CLV1はZIG/VTI11によって分解液胞へと輸送されていることが示唆される。CLV3はCLV1の細胞膜からの除去と分解液胞への輸送の両方に必要であり、他に分裂組織特異的に発現しているコファクターが関与している。clv2-1 変異体においてCLV1-2×GFPの輸送に変化が見られないことから、CLV2はCLV3によるCLV1のターゲッティングには関与していないと考えられる。CLV3によるCLV1の細胞膜からの除去は、CLV3シグナルを緩衝するよう機能して分裂組織幹細胞の維持に貢献していると考えられる。

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論文)プログラム細胞死をもたらすペプチド「死の接吻」

2011-03-25 20:09:15 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis peptide kiss of death is an inducer of programmed cell death
Blanvillain et al.  The EMBO Journal (2011) 30:1173-1183.
doi:10.1038/emboj.2011.14

英国 マンチェスター大学Gallois らは、シロイヌナズナの胚発生過程においてサスペンサーのマーカー遺伝子を得ることを当初の目的に、pΔGUSプロモータートッラプ系統集団から球状胚以降のサスペンサーでのみGUSが発現している系統276Sを見出した。yoda 変異体において276Sをマーカー系統として用いると、プログラム細胞死(PCD)を起さないyoda 変異体の異常なサスペンサーではGUS発現が見られなかった。よって276SでのGUS発現はサスペンサー細胞のマーカーとして有効であり、PCDと関連していると考えられる。276S系統においてT-DNAは25アミノ酸のペプチドをコードする75-bpのORFの9 bp下流に挿入されており、この遺伝子をKOD (kiss of death)と命名した。KOD の発現は、シロイヌナズナに過敏感細胞死をもたらすPseudomonas syringae pv. tomato DC3000を感染させた葉において4時間後に8倍に増加していた。また、葉切片にPCDを誘導する過酸化水素処理をすることでも5時間後に発現量が9倍に増加していた。さらに熱ショックを与えた葉切片で13倍、熱ショックを与えた芽生えでは2倍に処理後30分で増加した。NMR解析から、KODは両親媒性のペプチドで、タンパク質もしくは生体膜と相互作用をする2つの疎水性領域を持ったαへリックスを含んでいることが推測される。KODは生物/非生物ストレスで誘導されること、サスペンサーで発現していることから、PCDの制御と関連していると考えられる。KOD の変異体として、ORFの上流にT-DNAが挿入されてKOD 転写産物量が大きく減少したkod-1 と、コードするペプチドにアミノ酸置換(P9S)の生じる点変異のkod-2 が見出され、いずれの変異体も野生型と比べてサスペンサーがPCDを起こす割合が低下していた。よって、KOD はPCD促進効果があり、Pro9はその機能に関係しているものと考えられる。kod 変異体は芽生えも成熟個体も見た目には野生型と変わりはない。kod 変異体芽生えは熱ショックを与えた際の根毛のPCDが低下していた。アグロバクテリウムによりタバコの葉にKOD を導入するとPCDが誘導され、kod-2 を導入した場合に生じるPCDの程度はKOD を導入した際の半分ほどであった。光合成組織でのPCDは光に依存していることが知られていることから、KOD を導入したタバコを暗所に置いたところ、明所のものよりもPCDの程度が低下した。KOD を恒常的に発現させた形質転換シロイヌナズナは芽生えの段階からPCDを伴った著しい成長阻害を示した。N末端側の15アミノ酸のみからなるKOD を発現させた場合にはそのような阻害は見られなかった。このKOD の異所的発現によって誘導されるPCDにはカスパーゼ3様のプロテアーゼ活性が介在していた。KODは細胞質に局在していることがタマネギ表皮細胞を用いた実験から確認された。PCDの初期過程としてミトコンドリアの機能障害が観察されるが、KOD を発現させたタマネギ表皮細胞においてもミトコンドリアの脱分極が確認された。KOD の誘導するPCDに対する各種PCD阻害因子の影響を見たところ、PCD-サプレッサーBAX inhibitor 1 のシロイヌナズナオーソログ(AtBi-1 )とバキュロウイルスカスパーゼインヒビターp35KOD により誘導されるPCDを抑制したが、UVの誘導するPCDを阻害するdefender against apoptotic death 1AtDAD1 )はPCD抑制効果を示さなかった。KODペプチドのアミノ酸置換によりPCD誘導に関与するアミノ酸残基としてPro9に加えてCys23が重要であることがわかった。

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論文)沈水耐性イネの洪水後の成長

2011-03-22 17:46:13 | 読んだ論文備忘録

The Submergence Tolerance Regulator SUB1A Mediates Crosstalk between Submergence and Drought Tolerance in Rice
Fukao et al.  The Plant Cell (2011) 23:412-427.
doi:10.1105/tpc.110.080325

イネは半水生の植物だが、完全に水没してしまうと多くの栽培品種は死んでしまう。特定の栽培品種は水没に対して正反対の応答をすることで洪水に適応している。深水イネ(deepwater rice)は節間の伸長成長を促進して水面より頭を出すことで洪水を克服し、沈水耐性イネ(submergence-tolerant rice)は伸長成長を抑制して洪水後の新葉の成長のために炭水化物の消費を節約している。沈水耐性イネの静止応答はAP2/ERF転写因子SUBMERGENCE1A(SUB1A)によって制御されており、SUB1Aはエチレン生成を抑制し、ジベレリンシグナルの負の制御因子SLENDER RICE1(SLR1)とSLR1-like1(SLRL1)を蓄積させることでエネルギー消費を抑制している。そしてSUB1Aは水が引いた後の再酸素化ストレスから分裂組織細胞を保護して新葉形成をもたらす作用があると考えられる。米国 カリフォルニア大学リバーサイド校植物細胞生物学研究センターBailey-Serres らは、SUB1A が水が引いた後の水欠乏に対する耐性にどのように貢献しているかを調べるために、イネ近交系M202とSUB1 遺伝子が導入された準同質遺伝子系統M202(Sub1 )を14日間育成した後に8日間脱水ストレスを与え成育を観察した。どちらの遺伝子型も脱水処理8日後には葉が萎れてしまい、補水しても回復が見られなかった。しかしながら、補水14日後M202(Sub1 )では71.7%の個体が新葉を形成したのに対して、M202で新葉を形成した個体は11.7%であった。脱水処理後の葉の相対水分含量(RWC)を測定したところ、どちらの遺伝子型も脱水処理4日目までは同じようにRWCが減少したが、その後の減少はM202(Sub1 )において緩やかになった。よって、SUB1A は脱水条件下での水の損失を抑制する作用があると考えられる。脱水ストレスは活性酸素種(ROS)を蓄積をもたらし、このことが細胞に傷害をもたらすと考えられる。酸化ストレスのマーカーであるマロンジアルデヒド(MDA)の量は脱水ストレスを与えるとどちらの遺伝子型においても増加するが、M202(Sub1 )では脱水処理3日目以降のMDAの増加が緩やかになった。よって、SUB1A は脱水によるROSの蓄積を抑制する作用があると考えられる。イネ実生をPEG-8000溶液で浸透圧ストレスを与えて育成したところ、M202(Sub1 )ではSUB1A 転写産物量が増加し、M202よりもシュートと根の成長抑制の度合いが緩やかであった。よって、SUB1A は浸透圧ストレス耐性も強める作用があると考えられる。SUB1A によって発現制御されている遺伝子をマイクロアレイにより網羅的に解析したところ、SUB1A によって発現が正に制御されている793の遺伝子のうち、226(28.5%)は乾燥ストレスに応答して発現上昇する遺伝子に分類されるものであり、乾燥適応に関連する遺伝子(DREB1ADREB1EAP37AP59 )の発現量はM202(Sub1 )においてM202よりも高くなっていた。また、LEA(late embryogenesis abundant)タンパク質をコードするRAB16A やジャッカリン様レクチンをコードするSalT の発現量も脱水条件下でM202(Sub1 )での発現量が高くなっていた。植物の水のバランスを制御しているアブシジン酸(ABA)はSUB1A の転写を抑制して転写産物量の低下を引き起こすが、SUB1A はABAに対する応答性を高める作用があり、ABAによって誘導される遺伝子の発現を高めていることがわかった。SUB1A 転写産物量は沈水7日後に約900倍増加し、その後の脱水で減少していくが、脱水4時間後であっても沈水処理前の300倍程度の転写産物量があった。SUB1A はROSスカベンジャー酵素をコードする遺伝子(APX1APX2CatACatB )の発現を高める作用があることがわかった。以上の結果から、水が引いた後の再酸化・乾燥条件において、SUB1A はROSの蓄積を抑制して酸化的傷害を低減し、乾燥適応に関与する遺伝子の発現を高め、ABA応答性を高めることでLEA の発現や葉の水分損失を抑制させることで、洪水後のイネの成長を可能にしていると考えられる。

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論文)ブラシノステロイドによる根分裂組織の細胞周期と分化の制御

2011-03-20 17:52:58 | 読んだ論文備忘録

Brassinosteroids control meristem size by promoting cell cycle progression in Arabidopsis roots
Gonzalez-Garcia et al.  Development (2011)138:849-859.
doi:10.1242/dev.057331

スペイン IRTA-UBA 植物分子遺伝学研究所のCaño-Delgado らは、シロイヌナズナのブラシノステロイド(BR)非感受性変異体bri1-116BRI1 過剰発現形質転換体、BRシグナルが強化されたbes1-D 機能獲得変異体といった各種BR関連変異体の芽生えの根は野生型よりも短いことを見出した。根の表皮細胞の最終的な大きさが決まる分化領域において、BRI1 過剰発現形質転換体とbes1-D 機能獲得変異体の表皮細胞は野生型よりも長く、bri1-116 変異体では短くなっていた。根の分裂組織における細胞分裂の指標として等直径の表皮細胞数を計測したところ、bri1-116 変異体では野生型よりも有意に少なく、BRI1 過剰発現形質転換体とbes1-D 機能獲得変異体でも少なくなっていた。分裂組織の細胞数が機能喪失変異体でも機能獲得変異体でも減少しているということは、分裂組織のサイズの制御においてバランスの取れたBRシグナルが必要であることを示唆している。シロイヌナズナ芽生えに対してのごく低濃度のブラシノライド(BL)処理は根の成長を促進したが、0.04 nM以上のBL処理をすると根の成長や分裂組織の拡張が阻害された。BRによる根の伸長阻害は分裂組織の大きさの縮小と関連しており、BL処理した根の分裂組織の細胞数は無処理の根の60%程度になっていた。よって、BRは分裂組織の大きさを制御することで正常な根の成長を維持するために必要であると考えられる。分裂組織での細胞周期(CYCB1;1 )や細胞質分裂(KNOLLE )のマーカーの発現はBL処理した芽生えやBR機能喪失/機能獲得変異体のいずれにおいても減少しており、細胞分裂の低下が分裂組織の大きさに対して負に作用していると考えられる。細胞周期阻害因子ICK2 /KRP2 の発現は、BL処理個体、bes1-D 機能獲得変異体、BRI1 過剰発現形質転換体で減少しており、bri1-116 変異体で増加していた。このことによってbri1-116 変異体では細胞分裂が抑制されていると考えられ、bri1-116 変異体でCyclinD3;1 を過剰発現させることで分裂組織やコルメラ細胞の細胞数増加が起こった。したがって、根分裂組織で正常な細胞周期を起こすためにはBRシグナルのバランスが重要であり、このことが分裂組織の大きさや根の成長に貢献していると考えられる。BL処理は静止中心(QC)周辺の幹細胞のマーカー遺伝子(WOX5AGL42SCRQC25QC142 )の発現を高め、WOX5 の発現量はbri1-116 変異体で低下し、bes1-D 変異体、BRI1 過剰発現形質転換体、BL処理個体では発現している細胞数が増加していた。よって、WOX5 の発現はBRI1やBES1によって制御されていると考えられる。このBRによるWOX5 発現促進はSCRとは別の作用によってなされていると考えられる。野生型植物ではコルメラ細胞にのみデンプン粒が観察されるが、bes1-D 変異体やBL処理個体ではコルメラ幹細胞にもデンプン粒が見られた。よって、BRは根端先端部の幹細胞の分化に対しても促進的に作用していると考えられる。以上の結果から、BRは根の分裂組織の細胞周期と分化の制御にとって重要であることが示唆される。

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論文)根の表皮からのブラシノステロイドシグナルが分裂組織のサイズを制御している

2011-03-17 19:13:39 | 読んだ論文備忘録

Brassinosteroid perception in the epidermis controls root meristem size
Hacham et al.  Development (2011)138:839-848.
doi: 10.1242/dev.061804


イスラエル工科大学Savaldi-Goldstein らは、シロイヌナズナBR受容体キナーゼ変異体bri1 と野生型の芽生えの根の伸長を比較し、bri1 変異体の根は根端から500μmのところから伸長が停止し、成熟した皮層細胞の長さは野生型の半分、分裂組織の長さも短く、細胞数も少なくなっており、結果的に根の長さは野生型の1/3程度になっていることを見出した。よって、BRは根の分裂組織細胞の数と伸長に対して影響を及ぼしている。bri1 変異体では細胞周期のマーカーであるCYCB1;1 、細胞質分裂のマーカーであるKNOLLE の発現量が野生型の半分にまで低下しており、BRは正常な細胞周期活性にとって必要であることが示唆される。BR生合成阻害剤ブラシナゾール(BRZ)処理をした際に根端分裂組織幹細胞近傍のパターン形成に関与する遺伝子の発現を見たところ、PLT1WOX5 の発現が僅かに弱くなり、AGL42 の発現が大きく低下していた。bri1 変異体の根端側の分裂組織は細胞数や組織の長さの減少は野生型と比べて僅かであったが、基部側の分裂組織は長さも細胞数も野生型よりも大きく減少していた。このような分裂組織基部での細胞数減少はBR生合成変異体cpd でも観察された。よって、BRは細胞周期と細胞伸長を促進することで分裂組織領域全体の正常な発達をもたらしているものと考えられる。ブラシノライド(BL)もしくはBRZ処理をした根の分裂組織やbri1 変異体の分裂組織でのPIN1PIN3PIN7 の発現量に変化が見られないことから、BRを介した根分裂組織の大きさの制御はオーキシンによる細胞分裂促進やサイトカイニンによる分化といった機構とは別のかたちで引き起こされているものと考えられる。bri1 変異体において様々な組織特異的プロモーターによりBRI1 を発現させて形態を観察したところ、表皮特異的に発現するGL2 プロモーターによりBRI1 を発現させた場合に根の成長が野生型と同等になった。よって、表皮でBRシグナルを受容することで根の伸長と分裂組織の大きさを十分に制御することができる。静止中心(QC)および中心柱で特異的に発現するAGL42 はBRZ処理した根やbri1 変異体では発現量が低下しているが、GL2 プロモーターでBRI1 を発現させたbri1 変異体では高い発現が見られた。よって、表皮で発現したBRI1は内部の細胞層での遺伝子発現を制御している。このBRシグナルの内部細胞層への移行は、BRI1の下流に位置する転写因子のBES1やBZR1とは異なる因子によって伝達されていると考えられる。

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論文)サイトカイニンによる花器官サイズの制御

2011-03-15 20:53:33 | 読んだ論文備忘録

Cytokinin Regulates the Activity of Reproductive Meristems, Flower Organ Size, Ovule Formation, and Thus Seed Yield in Arabidopsis thaliana
Bartrina et al.  The Plant Cell (2011) 23:69-80.
doi:10.1105/tpc.110.079079

シロイヌナズナにはサイトカイニンを分解するサイトカイニンオキシダーゼ/デヒドロゲナーゼ(CKX)をコードする遺伝子が7つあり、それぞれ発現領域、細胞内局在、生化学的性質が異なる。ドイツ ベルリン自由大学Schmülling らは、そのうち5つ(CKX2CKX3CKX4CKX5CKX6 )についてT-DNA挿入により機能喪失したホモ系統を確立したが、それらの変異体では形態変化が観察されなかった。そこで、様々な二重変異体ホモ系統を作出したところ、ckx3 対立遺伝子を含む二重変異体では花の数が増え花序分裂組織の活性が高まることがわかった。特に、ckx3 ckx5 二重変異体において強い変化が見られたことから、この二重変異体について詳細な解析を行なった。ckx3 ckx5 変異体は野生型よりも大きな花序分裂組織を形成するが、分裂組織表面の細胞は小さいことから、細胞数の増加が分裂組織の肥大をもたらしていると考えられる。一方、CXK1 を恒常的に発現させた形質転換シロイヌナズナは花序分裂組織が非常に小さくなった。よって、CKX3CKX5 は花序分裂組織の大きさと活性を負に制御していることが示唆される。ckx3 ckx5 変異体ではしばしば長角果の茎での並び方が不規則となった。これは分裂組織の肥大により原基を形成する位置もしくは時期を制御するシグナルに異常が生じたことによるものと思われる。ckx3 ckx5 変異体の茎は野生型よりも太く、これはサイトカイニンが影響していることが知られている形成層の活性増加によるものと思われる。ckx3 ckx5 変異体花序では生物活性のあるtrans -ゼアチンおよびtrans -ゼアチンリボシドが野生型の約4倍含まれており、CKX3CKX5 は花序のサイトカイニン量を調節することで分裂組織活性を制御しているものと考えられる。ckx3 ckx5 変異体の花は野生型やckx 単独変異体の花よりも大型化していた。これはサイトカイニンが花器官成長過程の細胞分裂の期間を延長させて細胞数が増加したことによると考えられる。ckx3 ckx5 変異体の雌ずい群は野生型の約2倍多く胚珠があり、胎座の活性が高いことが示唆される。変異体の雌ずい群は胚珠が密に詰まっており、そのために変形した胚珠が見られた。変異体の長角果は野生型よりも長く、種子数が多く、全種子生産量は野生型植物よりも55%増加していた。CKX3 転写産物は花序分裂組織や花分裂組織の中心部で検出され、これはWUSCHELWUS )の発現部位と一致している。しかしながら、CKX3 の発現は花の発達過程においてWUS の発現時期よりも遅い。CKX5 は花序の茎や花の前形成層で強く発現し、花序や花の分裂組織でも弱い発現が見られ、雌ずい群の発達過程では胎座において発現が見られた。ckx3 ckx5 変異体の茎頂分裂組織ではWUS の発現している領域が拡張しており、サイトカイニンはWUS 発現領域の大きさを、そしてWUS 発現量を制御していることが示唆される。シロイヌナズナの根の維管束の形成過程においてサイトカイニンシグナルを阻害することが知られている偽リン酸転移タンパク質をコードするARABIDOPSIS HISTIDINE PHOSPHOTRANSFER PROTEIN 6AHP6 )の変異体ahp6 は、花序分裂組織が僅かに大きくなるが、ahp6 変異とckx3 変異、もしくはckx3 ckx5 変異を組み合わせるとさらに花序分裂組織が大きくなり、花原基数も増加した。しかしながら、花の大きさや雌ずい群当りの胚珠数はckx3 ckx5 変異体とckx3 ckx3 ahp6 変異体の間で差が見られないことから、AHP6はこれらの形質の制御に関与していないと考えられる。

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学会)第52回植物生理学会仙台年会は中止

2011-03-13 16:28:30 | 学会参加

3月20日から22日までの3日間東北大学川内北キャンパスで行う予定だった「第52回植物生理学会年会」は、11日午後2時46分ごろ三陸沖を震源として発生した東北地方太平洋沖地震(M9.0)のため中止となりました。

他の春の学会についても開催するかを検討しているところがあるようです。

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学会)第58回日本生態学会(札幌) その2

2011-03-10 16:35:51 | 学会参加

今日は朝から雪がが降り、地下鉄の駅から会場までの道のりは、雪に不慣れな私にとっては大変だった。午前はシンポジウム「なぜ,日本列島の生物多様性は保たれてきたのか?-ダイアモンド「文明崩壊」を越えて-」を聴いた。日本はコンサベーション・インターナショナル(CI)の発表した世界34ヶ所の「生物多様性ホットスポット」のうちの1つとなっている。この理由としてジャレド・ダイアモンドは著書「文明崩壊」の中で、日本は江戸時代に将軍による森林保護政策が有効に機能したために自然環境の破綻が起こらなかったと説明している。しかし、必ずしも江戸時代の自然環境が現在より優れているとは言えない。そこで本シンポジウムでは、日本列島の生物多様性が保たれてきた要因について主に地理的、気候的、地史的側面からの検討を試み、今後の「自然と人間の関係」をどうしていくのかを展望した。地球研の辻野は、日本列島に多様な生物が生息している要因として3つの仮説、1)日本列島は水平的・垂直的な環境の広がりがあり自然環境が多様で豊かであること、2)生物相が形成されるにあたって過去の気候変動と地形形成などの地史が豊かな生物多様性を涵養したこと、3)日本列島では人と自然の関係が調和的で、人々が「賢明」に生物多様性を利用してきたこと、を仮説として挙げ、1)もともと生物多様性が非常に高かった、2)原生自然が破壊されても、人為的な逃避地(里山、神聖な森、半自然草原)が存在した、3)高山や奥山、地形険阻な森林なども逃避地として機能した、ことを主要な要因として挙げていた。


今日は朝から(雪に不慣れな私にとっては)吹雪だった


ポスター会場の様子

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学会)第58回日本生態学会(札幌) その1

2011-03-09 16:29:43 | 学会参加

第58回日本生態学会が3月8日(火)~12日(土)の日程で札幌コンベンションセンターで開催された。今日の午前はシンポジウム「トキとコウノトリが出会うとき~里地の自然再生を考える」を聴いた。日本における野生絶滅種の再導入は、兵庫県豊岡市でのコウノトリ、新潟県佐渡市(佐渡島)でのトキの二例があり、いずれも日本において古くから生活に密接な存在である里地が舞台となっている。そのため、これらの再導入事業は単なる絶滅種の復元だけでなく、これらを象徴種とした里地生態系の復元、生態系と地域社会の繋がりの再構築をも含めた取り組みとなっている。本シンポジウムでは、日本の二大自然再生現場での成果や課題を対比させながら“日本流”の自然再生手法について幾つかの取り組み事例が紹介された。夕方からの自由集会は、「希少植物研究の魅力-希少植物が語る複雑な事情-」を聴いた。希少植物は、地理的分布が狭い、生育環境レンジが小さい、個体群サイズが小さいといった特徴があり、保全生態学や進化生態学の分野で良い材料となることが多い。本集会では、プロットスケールから景観スケールまで、個体レベルから系統地理まで、種レベルから群集レベルまで、様々な時空間スケールで希少植物を研究している研究者からの話題提供があった。


会場となった札幌コンベンションセンター


会場のエントランスホール

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