Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)アブシジン酸とジベレリンによるイネの根の成長の拮抗的制御

2020-06-30 18:28:42 | 読んだ論文備忘録

The APC/CTE E3 Ubiquitin Ligase Complex Mediates the Antagonistic Regulation of Root Growth and Tillering by ABA and GA
Lin et al.  Plant Cell (2020) 32:1973-1987.

DOI: https://doi.org/10.1105/tpc.20.00101

イネTILLER ENHANCER(TE)はANAPHASE-PROMOTING COMPLEX/CYCLOSOME(APC/C) E3ユビキチンリガーゼ複合体の活性化因子であり、GRAS転写因子のMONOCULM1(MOC1)の分解を促進することで分けつを抑制する。また、TEはアブシジン酸(ABA)受容体OsPYL/RCAR10(R10)の分解を促進することで、種子発芽を促進する。ABAはSNF1関連タンパク質キナーゼSnRK2を活性化してTEのS77残基をリン酸化を促進してTEとABA受容体との相互作用を抑制するが、ジベレリン(GA)はSnRK2活性を阻害する。したがって、APC/CTEはGAとABAのシグナル伝達において拮抗的に作用する。中国農業科学院 作物科学研究所Wan らは、TE を過剰過剰発現させたイネ(OE)は分けつが減少することに加えて根が短くなることを見出した。このことから、APC/CTEは根の成長も制御していることが示唆される。GAは、根端分裂組織(RM)および腋芽分裂組織(AM)の大きさを抑制することで、根の成長と分けつを抑制し、ABAはRMとAMの大きさを維持することで根の成長と分けつを促進していた。そして、ABAとGAの拮抗的な作用にAPC/CTEが関与していた。シロイヌナズナGRASファミリー転写因子のSHORT-ROOT(SHR)とSCARECROW(SCR)は、根端分裂組織の幹細胞の維持に関与していることが知られている。SHRのイネホモログOsSHR1にはTEによって認識されるD-boxモチーフが含まれており、TEはOsSHR1と相互作用をすること、OsSHR1はte 変異体で蓄積していること、プロテアソーム阻害剤MG132の添加によりOsSHR1の分解が抑制されることがわかった。これらの結果から、OsSHR1はAPC/CTEの基質であることが示唆される。RNAiでOsSHR1 をノックダウンしたイネは根が短く草丈が高くなり、分解を受けない変異型OsSHR1(OsSHR1-mD)を発現させたイネは根が長く草丈が低くなった。OsSHR1 RNAiイネはRMの細胞分裂と大きさが減少しており、OsSHR1-mDイネでは増加していた。OsSHR1-mDイネではGA処理による根の成長抑制がみられず、OsSHR1 RNAiイネではABA処理による成長促進がみられなかった。これらの結果から、OsSHR1は根の成長の正の制御因子として機能し、ABAとGAの拮抗的制御に関与していると考えられる。ABA処理をすることで野生型イネの根のOsSHR1タンパク質量が安定化したが、OEでは減少した。また、GA処理は野生型イネのOsSHR1量を減少させたが、te 変異体では減少しなかった。地上部のMOC1タンパク質量も同様の変化を示した。よって、ABAとGAはAPC/CTEを介したOsSHR1およびMOC1の分解を拮抗的に制御することで根の成長および分けつを制御していることが示唆される。ABAによって活性化されたSnRK2によるTEのS77残基のリン酸化は、OsSHR1とMOC1との結合を抑制し、GAがSnRK2を不活性化することでOsSHR1、MOC1との結合が促進されることがわかった。以上の結果から、APC/CTEはABAとGAのシグナル伝達のクロストークを介したイネの形態の制御において重要な役割を果たしていると考えられる。

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植物観察)北海道バイケイソウ花成個体数調査 野幌

2020-06-23 23:06:53 | 植物観察記録

北海道バイケイソウ調査最終日は野幌森林公園へ行きました。旭川やサロベツで花成個体が少なかったので、野幌も少ないのではないかと思っていたのですが、ここ数年の中では比較的多い花成個体が見られました。2013年の一斉開花の時から見れば1/6程度ですが、2017年の2倍は花成個体がありました。この調査地の潜在能力はもっと高いはずなので、来年、再来年はもっと沢山の花成個体が見られるのではないでしょうか。

今年の野幌は比較的バイケイソウ花成個体が多い

このバイケイソウは花弁が細い

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植物観察)北海道バイケイソウ花成個体数調査 サロベツ&ベニヤ

2020-06-22 23:00:23 | 植物観察記録

今日はサロベツ周辺とオホーツク海側のベニヤ原生花園に行きました。サロベツの海岸沿いの草原も、礼文と同様にバイケイソウの花成個体は殆ど見られませんでした。今年はバイケイソウのはずれ年なのでしょうか。定点観察している兜沼周辺の林床のコバイケイソウ群生地の花成個体数もほんの極僅かで、昨年は300個体近く花成したのですが、今年確認できたのは6個体でした。今年のコバイケイソウの花成についてはサロベツ湿原でも少ないようで、サロベツ湿原センターHPの最新開花情報にも「今年はコバイケイソウの休眠の年?」と記してありました。
オホーツク海側のベニヤ原生花園では、バイケイソウが一斉開花しており、定点観察しているエリアで昨年の3倍程度の花成個体がありました。礼文やサロベツとは逆の現象です。

兜沼周辺のコバイケイソウ群生地 昨年はここに300個体近くの花成個体があった

サロベツ湿原センターも今年はコバイケイソウが少ない

ベニヤ原生花園ではバイケイソウが一斉開花

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植物観察)北海道バイケイソウ花成個体数調査 礼文島

2020-06-21 22:57:37 | 植物観察記録

今日は礼文島の草原生バイケイソウを観察しました。この定点観察している群生地では2019年は300個体近くの花成個体がありましたが、今年は17個体でした。今年は礼文島全体で草原のバイケイソウ花成個体が非常に少なく感じられます。礼文島の花の時期としては、ヨツバシオガマ、チシマフウロが見頃を迎えていました。

今年の礼文島のバイケイソウ花成個体は少ない

ヨツバシオガマ

チシマフウロ

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植物観察)北海道バイケイソウ花成個体数調査 旭川

2020-06-20 22:48:14 | 植物観察記録

ようやく都道府県を超えての移動の自粛が解除となったので、今年の北海道バイケイソウ調査を開始しました。まずは旭川の林床の調査地から。ここは2013年の一斉開花以降、花成個体が非常に少ない状態が続いています。今年も花成個体は5個体のみでした。まだ、2013年に花成した個体の子ラメットには花成するだけの資源が溜まっていないということなのでしょうか。

 

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論文)腋性分裂組織形成の分子機構

2020-06-15 21:34:59 | 読んだ論文備忘録

Control of Plant Branching by the CUC2/CUC3-DA1-UBP15 Regulatory Module
Li et al.  Plant Cell (2020) 32:1919-1932.

DOI: https://doi.org/10.1105/tpc.20.00012

ユビキチン依存的ペプチダーゼDA1は、シロイヌナズナの細胞分裂に影響することで種子や器官の大きさを制御している。変異型DA1タンパク質をコードしているda1-1 変異体は、DA1およびそのホモログのDAR1の機能に対して負に作用し、種子や器官が大きくなる。中国科学院遺伝与発育生物学研究所Li らは、da1-1 変異体は分枝や腋芽が減少することを見出し、この機構の解析を行なった。da1-1 変異体ロゼット葉の葉腋は、分裂組織構造が見られず、腋性分裂組織(AM)のマーカー遺伝子であるSHOOT MERISTEMLESSSTM )の発現量が減少していた。よって、DA1はAM形成を制御していると考えられる。シロイヌナズナのAM形成に関与する遺伝子としては、GRAS転写因子をコードするLATERAL SUPPRESSORLAS )、MYB転写因子をコードするREGULATORS OF AXILLARY MERISTEMS1RAX1 )、RAX2RAX3 、NAC転写因子をコードするCUP‐SHAPED COTYLEDON1CUC1 )、CUC2CUC3 が知られている。これらの遺伝子の変異体はAM形成が抑制されるが、da1-1 変異が加わることで抑制の程度が強まった。これらの転写因子のうち、CUC2、CUC3はDA1 遺伝子のプロモーター領域に結合してDA1 の発現を促進することが判った。DA1の下流に位置する因子を探索するために、da1-1 変異体をEMS処理してsuppressors of da1-1 in the formation of branchessdb )変異の単離を行ない、da1-1 変異体よりも分枝を多く形成するsdb1-1 da1-1 変異体を得た。マッピングの結果、sdb1-1 変異はUBIQUITIN-SPECIFIC PROTEASE15UBP15 )/SUPPRESSOR2 OF DA1SOD2 )がスプライシング異常を起こしていた。DA1はUBP15と相互作用をしてUBP15を分解することが知られている。ubp15-1 変異体はわずかに腋芽数が増加し、UBP15 の過剰発現はロゼット葉や茎出葉の葉腋数を減少させ、STM の発現量を低下させた。ubp15-1 変異は、da1-1 変異、cuc2-3 変異、cuc3-105 変異によるAM形成の抑制を緩和させた。よって、UBP15はAM形成においてDA1の下流で作用し、CUC2、CUC3と同じ経路で機能していることが示唆される。以上の結果ら、転写因子のCUC2、CUC3はユビキチン依存的ペプチダーゼDA1 の発現を活性化し、DA1はユビキチン特異的プロテアーゼUBP15と直接相互作用をして分解し、腋性分裂組織の形成を誘導していると考えられる。

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論文)炭疽病菌が生産するプロテアソーム阻害物質

2020-06-11 06:08:57 | 読んだ論文備忘録

Inhibition of jasmonate-mediated plant defences by the fungal metabolite higginsianin B
Dallery et al.  Journal of Experimental Botany (2020) 71:2910-2921.

doi:10.1093/jxb/eraa061

多くの病原菌は、植物免疫を操作もしくは回避するためのタンパク質や低分子物質を分泌している。フランス パリ=サクレ大学O’Connell らは、サリチル酸応答遺伝子PATHOGENESIS RELATED 1PR1 )もしくはジャスモン酸(JA)応答遺伝子VEGETATIVE STORAGE PROTEIN 1VSP1 )のプロモーター制御下でGUSレポーターを発現する形質転換シロイヌナズナを用いて、レポーター発現の阻害を指標に炭疽病菌(Colletotrichum higginsianum )代謝産物の化学遺伝学スクリーニングを行なった。その結果、higginsianin B がメチルジャスモン酸(MeJA)によるVSP1p:GUS の発現活性化を低下させることを突き止めた。higginsianin B はMeJAおよびJA-Ile処理によるJAZ1タンパク質の分解を抑制した。JAセンサーのJas9-VENUS(J9V)を恒常的に発現させたシロイヌナズナ芽生えの根の生細胞イメージング観察から、higginsianin B はMeJAによるJ9Vの分解を強く阻害すること、higginsianin B の類縁物質であるhigginsianin A 、higginsianin C 、13-epi-higginsianin C ではMeJAによるJ9Vの分解を阻害しないことがわかった。JAレポーターコンストラクトJAZ10p:GUSPlus を導入したシロイヌナズナ芽生えの子葉に機械的傷害を与えて、レポーターの発現を見る試験において、higginsianin B の前処理は傷害による根でのレポーター発現を低下させた。しかし、JAZ10 の発現量はシュート、根ともに対照よりも減少していた。したがって、higginsianin B は内生のJAを介した応答も抑制する。JAZタンパク質の分解は、SCFCOI1複合体によるポリユビキチン化を経て26Sプロテアソームによってなされる。higginsianin B の前処理は、オーキシンレポーターのDR5p:GUS のNAA処理による誘導を抑制した。よって、higginsianin B はオーキシンシグナル伝達を含めプロテアソームに関与する過程に影響していると考えられる。higginsianin B はプロテアソームのキモトリプシン様活性とカスパーゼ様活性を阻害することが確認された。higginsianin B は、病原菌感染初期に見られる病原体関連分子構造誘導免疫(PTI)応答の1つであるflg22誘導活性酸素種(ROS)生成を阻害した。以上の結果から、higginsianin B は、C. higginsianum 感染時に植物のジャスモン酸を介した防御応答を抑制する物質として機能していると考えられる。

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論文)マルハナバチによる花成促進

2020-06-05 22:00:29 | 読んだ論文備忘録

Bumble bees damage plant leaves and accelerate flower production when pollen is scarce
Pashalidou et al.  Science (2020) 368:881-884.

DOI:10.1126/science.aay0496

スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)De Moraes らは、セイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris )の働きバチがアブラナ科やナス科の植物の葉に口吻や大顎を使って穴を開ける行動を観察した。この行動において、セイヨウオオマルハナバチは葉を摂食したり巣に持ち帰ったりはしていなかった。植物に傷害を与えると花成が促進されることが知られているので、セイヨウオオマルハナバチは花成促進のために葉へ傷害を与えているのではないかと考え、解析を行なった。トマトとクロガラシの葉にハチによる傷害、もしくは類似の機械的傷害を与え、開花時期を調査したところ、ハチによる傷害を受けたトマトは傷害のない植物よりも30日早く、機械的傷害を与えた植物よりも25日早く開花し、同様の傾向はクロガラシにおいても見られた。傷害による花成促進はハチの花粉獲得に影響する。そこで、花粉を十分に与えたマイクロコロニーと花粉を剥奪したマイクロコロニーの働きバチがクロガラシの葉に傷害を与える程度を比較したところ、花粉を剥奪したコロニーの働きバチの方が葉への傷害行動の頻度が高いことがわかった。このことから、セイヨウオオマルハナバチの葉への傷害行動は花成を促進させて花資源の獲得を増やしていることが示唆される。野外実験から、花の少ない3月下旬から花の増える5月下旬までマイクロコロニーの周囲に花のない植物を置き、働きバチによる葉への傷害行動を見たところ、花資源が豊富になる4月の終わり頃から傷害行動が大きく減少することがわかった。同様の試験を花の多い6月から7月下旬にかけても行なったが、この時期の葉への傷害行動は春よりもはるかに減少し、花資源が豊富になることで傷害行動は減少していた。花のない植物の葉への傷害行動は、野生のレッドテールマルハナバチ(B. lapidarius )やホワイトテールマルハナバチ(B. lucorum )の働きバチも行ない、花のない植物ではマルハナバチのみが観察され、セイヨウミツバチ(Apis mellifera )やタカネコハナバチ(Lasioglossum calceatum )等は殆ど見られなかった。また、別の野外試験で、マイクロコロニーの近くにある花壇の花が刈り取られてしまうとコロニー周囲の花のない植物の葉への傷害行動が増加することが確認された。以上の結果から、マルハナバチは花資源獲得のために花のない植物の葉に傷害を与えていると考えられる。

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論文)真菌からの遺伝子水平伝播により得られた赤かび病耐性

2020-06-01 10:43:48 | 読んだ論文備忘録

Horizontal gene transfer of Fhb7 from fungus underlies Fusarium head blight resistance in wheat
Wang et al. Science (2020) 368, eaba5435.

DOI: 10.1126/science.aba5435

赤かび病(FHB)は、病原性のフザリウム属真菌を原因とするコムギの真菌病である。FHBは、コムギ収穫量の大きな減少に加えて、真菌が産生するエポキシ-セスキテルペノイド化合物のトリコテセンがヒトと動物の健康に有害な毒性作用を示す。コムギ連チノピラム属(Thinopyrum )は、様々な耐性の遺伝資源としてコムギ育種に利用されており、Thinopyrum elongatumFhb7 はFHB抵抗性のQTLとして知られている。中国 山東農業大学のKong らは、Th. elongatum の全ゲノムシークエンシングとアセンブリを行ない、マップベースクローニングによりFhb7 がグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)をコードしていることを突き止めた。BLAST検索の結果、Fhb7 配列のホモログは植物界には見られず、草に感染することが知られている子嚢菌門真菌エピクロエ属のEpichloë aotearoae に97%相同のホモログが存在していることが判明した。このことから、Th. elongatum ゲノムのFhb7 は真菌から植物への遺伝子水平伝播により得られた可能性が推測される。Fhb7 は真菌のグルタチオン トランスフェラーゼ エーテラーゼ関連(GTE)サブファミリーに属している。Fhb7はトリコテセンのデオキシニバレノール(DON)のグルタチオン付加物(DON-GSH)を形成する活性を有していた。よって、Fhb7のGST活性は生体異物を解毒化する作用があると考えられる。Fhb7はDON以外のフザリウム属真菌が産生するトリコテセンも解毒化した。Fhb7 を導入したコムギはFHBと菌核病に耐性を示した。

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