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論文)ジャスモン酸シグナル伝達に関与するユビキチンリガーゼ

2012-11-07 21:37:36 | 読んだ論文備忘録

Two Novel RING-Type Ubiquitin Ligases, RGLG3 and RGLG4, Are Essential for Jasmonate-Mediated Responses in Arabidopsis
Zhang et al.  Plant Phyiology (2012) 160:808-822.
doi:10.1104/pp.112.203422

リングドメインリガーゼ(RGLG)はN末端側のフォンビルブランドA(VVA)ドメインとC末端側のリングドメインで構成されており、シロイヌナズナには5つ存在する。RGLG1とRGLG2はユビキチンリガーゼ活性を有していることが確認されており、オーキシンによる頂芽優勢や乾燥ストレス応答に関与していることが知られている。中国 北京大学An らは、機能の明らかとなっていないRGLG3、RGLG4について解析を行なった。系統樹解析からRGLG3とRGLG4は他のRGLGと比べて類似性が高く、どちらもユビキチンリガーゼ活性を有していることが確認された。RGLGファミリーのRGLG2はユビキチン結合酵素(E2)のUBC35と相互作用をするが、RGLG3、RGLG4はUBC35と相互作用をしないことから、RGLG2とは異なる活性を示すことが示唆される。RGLG3RGLG4 は様々な組織で発現しており、芽生えの根や成熟個体の葉において発現量が高くなっていた。また、メチルジャスモン酸(MeJA)処理によって、RGLG3 の発現が誘導され、RGLG4 の発現は抑制されることがわかった。そこで、RGLG3RGLG4 のJA応答性についてT-DNA挿入変異体を用いて解析を行なった。通常の成育条件で、rglg3 変異体、rglg4 変異体、rglr3 rglg4 二重変異体の芽生えの根の成長に差異は認められないが、MeJAを添加すると、rglg3 変異体、rglg4 変異体は野生型と同様に根の伸長が阻害されたが、rglr3 rglg4 二重変異体では阻害の程度が、JA非感受性のcoi1-2 変異体ほどではないが、弱くなっていた。よって、RGLG3とRGLG4はMeJAによる根伸長阻害効果に対して促進的に機能重複して作用することが示唆される。rglr3 rglg4 二重変異体ではcoi1-2 変異体と同様にJA応答遺伝子の発現誘導も抑制されており、RGLG3とRGLG4はJAシグナル伝達において重要な機能を担っていることが示唆される。RGLG3 もしくはRGLG4 を過剰発現させた個体ではMeJAによる根の伸長阻害がより強く起こり、rglr3 rglg4 二重変異体でRGLG3 もしくはRGLG4 を過剰発現させると野生型と同程度に根の伸長阻害が起こった。rglg3 rglg4 coi1-2 三重変異体およびrglg3 rglg4 myc2-2 三重変異体芽生えをMeJA処理すると、根はrglg3 rglg4 二重変異体よりも長くなり、それぞれcoi1-2 変異体、myc2-2 変異体と同程度になった。よって、rglg3 rglg4 変異によるJA非感受性はcoi1-2myc2-2 変異によってさらに強まる。coi1-2myc2-2 変異はRGLG3RGLG4 の過剰発現によるJA高感受性を完全に抑制し、根の伸長はcoi1-2 変異体、myc2-2 変異体と同程度になった。よって、RGLG3、RGLG4はJAによる根の伸長阻害にCOI1、MYC2を必要とする。PLANT DEFENSINE1.2PDF1.2 )とVEGETATIVE STORAGE PROTEIN2VSP2 )はJAによって発現誘導される遺伝子で、rglg3 rglg4 二重変異体やcoi1-2 変異体では発現誘導が抑制される。myc2-2 変異体ではJAによるPDF1.2 の発現誘導が高まり、VSP2 の発現誘導は抑制され、MYC2 はこれらの遺伝子の発現において異なる制御をしている。rglg3 rglg4 coi1-2 三重変異体でのPDF1.2 の発現誘導は抑制されたが、rglg3 rglg4 myc2-2 三重変異体ではmyc2-2 変異体のように発現誘導が促進された。rglg3 rglg4 myc2-2 三重変異体でのVSP2 の発現誘導は他の変異体と同様に抑制された。RGLG3RGLG4 の過剰発現個体ではPDF1.2VSP2 の発現誘導が促進されるが、coi1-2 変異やmyc2-2 変異によって発現促進効果が打ち消された。したがって、RGLG3やRGLG4によるJA応答性の制御にははCOI1やMYC2といったJAシグナル伝達に関与する因子が必要であることが示唆される。RGLG3とRGLG4はJA-Ileの模倣物であるコロナチン(COR)に対する応答性にも影響しており、CORを生産するPeudomonas syringae pv tomatoPst )DC3000の感染に対してrglg3 rglg4 二重変異体は抵抗性を示した。RGLG3、RGLG4の変異体や過剰発現個体は、雄ずいの発達や稔性といったJAの関連する成長発達過程には変化が見られず、RGLG3、RGLG4はJAを介したストレス応答に主に関与していると考えられる。植物体に機械的な傷害を与えると成長が抑制されるが、myc2-2 変異体では成長抑制の程度が弱く、rglg3 rglg4 二重変異体もmyc2-2 変異体と同程度に傷害による成長抑制が弱くなった。よって、RGLG3、RGLG4の機能喪失は傷害による成長遅延を抑制する。傷害によってJAZ7OXOPHYTODIENOATE-REDUCTASE3OPR3 )、JASMONIC ACID RESPONSIVE2JR2 )といったJA応答遺伝子の急速な発現誘導が起こるが、rglg3 rglg4 二重変異体ではこれらの遺伝子の発現誘導が抑制され、RGLG3RGLG4 の過剰発現個体では促進された。この促進作用はcoi1-2 変異やmyc2-2 変異によって抑制されることから、傷害応答におけるRGLG3RGLG4 の作用もJAシグナル伝達系が関与していると考えられる。coi1-1 変異体ではMeJA処理によるRGLG3 の発現誘導とRGLG4 の発現抑制が妨げられ、myc2-2 変異体ではあまり影響を受けなかった。よって、RGLG3RGLG4 のJAに対する応答はCOI1を介してなされていると考えられる。傷害によるRGLG3RGLG4 の発現誘導は、coi1-1 変異体では抑制され、myc2-2 変異体ではRGLG4 の発現誘導は抑制されたが、RGLG3 の発現誘導は影響を受けなかった。よって、RGLG3RGLG4 は傷害応答において異なる因子によって制御されていると考えられる。以上の結果から、ユビキチンリガーゼRGLG3、RGLG4は様々な刺激に応答してJAシグナル伝達の初期過程を制御していると考えられる。

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