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論文)ストライガ種子の発芽におけるアブシジン酸の役割

2024-06-01 11:38:08 | 読んだ論文備忘録

Abscisic acid inhibits germination of Striga seeds and is released by them likely as a rhizospheric signal supporting host infestation
Jamil et al.  The Plant Journal (2024) 117:1305–1316.

doi: 10.1111/tpj.16610

アブシジン酸(ABA)は、様々な生長・発達過程、ストレス応答を制御しているが、ストライガ(Striga hermonthica)種子の発芽時や宿主植物との初期相互作用におけるABAの役割については、まだ十分に研究されていない。サウジアラビア キング・アブドゥッラー科学技術大学Al-Babiliらは、ストライガ種子の休眠とコンディショニング(30℃ 湿潤処理)におけるABAの機能を調べるため、コンディショニングしていないストライガ種子にストリゴラクトン(SL)アナログrac-GR24非存在下または存在下でABA(カロテノイド)生合成阻害剤のフルリドン(FL)を添加し、処理後の発芽率を測定した。その結果、FLまたはrac-GR24を単独で処理した場合の発芽率は8~13 %あり、同時に処理することで発芽率は約70 %まで上昇して相乗効果を示すことが判った。また、FL+rac-GR24にABAを添加すると、発芽率は1.0 %程度まで低下した。いずれの処理も時間の経過とともに発芽率の増加が観察された。これらの結果から、FLによるABA生合成阻害は、ストライガ種子の発芽誘発とコンディショニング期間の短縮に関与し、ABAは寄生植物の種子発芽過程の微調整にとって重要な根圏シグナルであると考えられる。ABAと種子のコンディショニング・発芽との関係をさらに解析するために、ストライガ種子のABA含量を測定した。その結果、24時間水処理をした種子とその滲出液には高濃度のABAが含まれていることが判った。rac-GR24処理した種子はABA含量は低かったが、滲出液には水処理の際と同程度のABAが含まれていた。したがって、ストライガ種子はコンディショニング初期過程にABAを放出していると考えられる。2日間コンディショニングしたストライガ種子は、ABAによって濃度依存的に発芽抑制されたが、8日間コンディショニングした種子はABA感受性が低下していた。コンディショニングすることで種子のABA含量は低下したが、8日間コンディショニングした種子にrac-GR24処理をすると、発芽した芽生えが過剰なABA生合成と放出を起こした。コンディショニングしていないストライガ種子をFLやSLアナログ(MP3 27EC)を添加したポットで2週間発芽させ、宿主作物としてイネを移植してストライガの生長を調査した。対照としたFL、SLともに添加していないポットではストライガの蔓延が最大となり、宿主の草丈が著しく低下した。FLを添加したポットではストライガの出芽は減少したが宿主の生長にも悪影響が現れていた。FLとSLの同時添加でも同様の結果となった。したがって、FLによるストライガ種子中のABA生合成阻害は、SLの自殺発芽活性を高め、ストライガの出芽を有意なレベルで減少させることが示唆される。ABAが種子のコンディショニングと発芽に悪影響を及ぼすことを考慮すると、発芽したストライガ種子が放出するABAは隣接するストライガ種子のコンディショニングと発芽に悪影響を及ぼしていることが推測される。そこで、rac-GR24処理した発芽種子がコンディショニングステージが異なる(0~7日)種子の発芽に対してどのような影響を及ぼすかを調査した。その結果、発芽種子はコンディショニング中の種子の発芽を阻害することが示された。この効果は、コンディショニングしていない種子で最も顕著であり、コンディショニング時間が長くなるにつれて低下した。このような効果は、発芽種子の代りにABAを添加することでも見られた。これらの結果から、ABAは種子間のコミュニケーションに関与しており、発芽した種子が根圏にABAを過剰に放出することによって、隣接する種子の休眠を維持していると考えられる。ABAによる発芽阻害効果はコンディショニング時間が長くなるにつれて減少したが、これはストライガ種子がコンディショニングの過程でABAに対する感受性が低下したことによると思われる。発芽したストライガ種子から放出されるABAが宿主の根の生長を制御しているかをポット栽培試験で調査したところ、発芽したストライガ種子と共に栽培したイネは、根長と側根数が有意に増加し、シュートの生長が阻害された。以上の結果から、アブシジン酸はストライガ種子のコンディショニングと発芽において重要であり、根圏シグナルとして、ストリゴラクトン非依存的にストライガ種子間のコミュニケーションに関与し、すでに発芽した種子に競争上の優位性をもたらす役割を果たしていると考えられる。さらに、放出されたABAが宿主の根の成長を促進することにより、侵入プロセスを促進していると考えられる。

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