Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)強光による花成促進機構

2016-10-30 10:56:11 | 読んだ論文備忘録

Chloroplast retrograde signal regulates flowering
Feng et al. PNAS (2016) 113:10708-10713.

doi: 10.1073/pnas.1521599113

光は花成を制御する重要な環境要因の1つであり、光強度も重要な因子となっている。シロイヌナズナをはじめ多くの高等植物は強光に応答して栄養成長が進み、生殖成長への移行が早まるが、その機構は明らかとなっていない。中国科学院植物研究所のZhang らは、シロイヌナズナの57の野生系統を異なる光強度で育成した場合の花成時期を調査し、殆どの系統が強光条件で花成時期が早まるのに対して、Landsberg erecta (Ler )、Da(1)-12、ShakdaraといったFLC 遺伝子が機能していない系統では強光による花成促進が起こらないことを見出した。このことから、強光が誘導する花成はFLC 活性が関与していることが推測される。そこで、flc-3 機能喪失変異体の花成を調査したところ、この変異体は強光処理による花成時期の変化を示さなかった。また、flc-3 変異体でFLC 遺伝子を自身のプロモーター制御下で発現させると強光に対する応答性を示した。FLC 発現量の高いFRI-Colは、低温春化処理をしてFLC の転写を抑制した場合のみ強光応答性を示し、Col-0を強光処理をすることでFLC の転写産物量が減少した。これらのことから、強光はFLC の転写抑制を介して花成を促進していることが示唆される。葉緑体包膜に結合しているPHD型転写因子のPTM(PHD type transcription factor with transmembrane domains)は、強光シグナルを伝達して光合成やストレス応答遺伝子の発現を制御している。ptm 変異体は強光処理による花成促進が殆ど見られず、FLC 発現量の変化も僅かであった。ptm flc-3 二重変異体の花成時期はflc-3 変異体と同程度であり、強光に応答した花成時期変化は起こらなかった。これらの結果から、PTM から発せられるプラスチドのシグナルがFLC の発現を抑制して強光による花成促進をもたらしていると考えられる。主要な光合成産物の1つである糖は、強光条件で蓄積して花成制御に関与しているが、強光処理によるショ糖の蓄積やショ糖添加に対する花成応答において野生型とflc-3 変異体の間で差が見られないことから、FLC を介した強光による花成制御には糖生産の増加は関与していないと考えられる。PTMタンパク質は強光を受けるとタンパク質分子が切断され、58-kDa N末端領域(N-PTM)が核に蓄積する。N-PTMは、FLC 遺伝子プロモーター領域の転写開始点に近い39 bpの領域に結合することが各種アッセイから確認され、この結合はFLC クレイドの他の遺伝子のプロモーターでは見られないFLC 遺伝子に特異的なものであった。デュアルルシフェラーゼアッセイの結果から、N-PTMはFLC 遺伝子の特定領域に結合することで遺伝子発現を抑制することが判った。PHD-タイプの転写因子はヒストン修飾によって遺伝子発現を制御しているとされている。FLC 染色体では活性ヒストン示すH3acやH3K4me3が強光処理によって減少した。一方、抑制ヒストンを示すH3K27me3は殆ど変化しなかった。さらに、強光処理によるH3acやH3K4me3量の減少はptm 変異体では殆ど減少しなかった。強光処理によるH3ac、H3K4me3、H3K27me3の全体的な変化は、野生型もptm 変異体も明確には見られないことから、PTMは強光応答に際して一部の遺伝子のみをターゲットとしていると考えられる。これらの結果から、強光はPTMの作用によってFLC 染色体のH3acやH3K4me3の量を制御することでFCL 遺伝子をサイレンシングしていることが示唆される。PHD型転写因子はクロマチン再構成タンパク質と結合してヒストン修飾を行なうとされている。各種アッセイから、PTMは、FLC の抑制を介して花成を促進することが知られているFVEと相互作用をすることが判った。fve-3 変異体は、ptm 変異体と同様に、強光処理による花成促進が見られなかった。ptm fve-3 二重変異体はptm 単独変異体よりも花成が遅延するが、花成時期はfve-3 単独変異体と同程度であり、相加的な効果は見られなかった。PTM を恒常的に発現させると花成が促進されるが、fve-3 変異体でPTM を発現させても花成促進は起こらなかった。これらの結果から、PTMFVE に依存して花成を制御しているものと思われる。共免疫沈降アッセイの結果、FVEはN-PTMと相互作用をし、複合体の量は光照射量が増えるにつれて増加することが判った。光照射量の増加に伴ってFVEのFLC 遺伝子プロモーター領域への結合量は増加したが、この増加はptm 変異体では見られなかった。したがって、強光下でのFLC 染色体へのFVEの蓄積にはPTMが関与していると考えられる。以上の結果から、強光による花成促進は、葉緑体から逆行シグナルとして放出されたN-PTMとFVEとの複合体がFLC 染色体を修飾してFLC の発現を抑制することでなされると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)サイトカイニントランスポーターによる形態形成制御

2016-10-23 10:52:14 | 読んだ論文備忘録

Plant development regulated by cytokinin sinks
Zürcher et al. Science (2016) 353:1027-1030.

DOI: 10.1126/science.aaf7254

サイトカイニンは植物の形態形成を制御する植物ホルモンで、それぞれの器官においてサイトカイニン応答が時空間的に異なることで形態形成が制御されているが、その詳細については明らかとなっていない。スイス チューリッヒ大学Müller らは、シロイヌナズナ心臓型胚のサイトカイニン応答性を調査した。合成サイトカイニンレポーターTCSn::GFP は心臓型胚において前形成層で発現しているが、胚をベンジルアデニン(BA)処理をしても将来子葉となる組織では、サイトカイニン受容体ARABIBOPSIS HISTIDINE KINASE 4AHK4 )が発現しているにも関わらず、レポーターの発現が見られなかった。そこで、受容体よりも下流のシグナルが機能しているかを調べるために、サイトカイニンとは独立して恒常的に活性を示すCYTOKININ INDEPENDENT 1CKI1 )を発現させたところ、胚全体でレポーターが発現した。したがって、子葉組織の細胞は、サイトカイニンシグナル伝達系は機能しているが、サイトカイニンを添加してもシグナル伝達が起こらないと考えられる。この原因はサイトカイニントランスポーターがもたらすサイトカイニンの細胞分布の差異によるのではないかと考え、シロイヌナズナPURINE PERMEASE(PUP)ファミリーのPUP14に注目して解析を行なった。その結果、心臓型胚においてPUP14は子葉組織のようにサイトカイニンに応答していない細胞に局在していることが判った。誘導性のプロモーターでPUP14 をターゲットとした人工マイクロRNA(amiRPUP14)を発現させたところ、サイトカイニンレポーターが異所的に拡散して発現し、サイトカイニン応答を示さない子葉組織においてもレポーターの発現が見られた。このことから、PUP14はサイトカイニン応答を制限する機能を有していると考えられる。また、amiRPUP14 を発現誘導させた胚では子葉組織や発生初期の根に形態異常が生じており、これは異所的なサイトカイニン応答によるものであると考えられる。PUP14 を過剰発現させた胚は内生サイトカイニンに対する応答性が低下し、胚の形態も異常になった。PUP14 は芽生え主根の分裂組織領域、側根原基、胚珠、種子で発現していた。amiRPUP14 を発現誘導させた芽生えの根では、サイトカイニンレポーターの異所的な発現が見られ、サイトカイニンターゲット遺伝子であるタイプA ARABIDOPSIS RESPONSE REGULATOR 5ARR5 )、ARR6ARR7 の発現が誘導されていた。amiRPUP14 を恒常的に発現誘導すると芽生えのシュートと根の成長が遅延し、側根形成が抑制された。サイトカイニンは茎頂分裂組織(SAM)の恒常性を制御しており、サイトカイニン量が増加すると分裂組織が活性化される。SAMでのPUP14 の発現は、サイトカイニンレポーターの発現と負の相関関係にあった。成熟個体でamiRPUP14 を発現誘導するとSAMにおいてサイトカイニンシグナルが異所的に発生し、花原基の増加、分枝の増加、葉序の異常が生じた。したがって、PUP14は植物の発達過程において形態形成を正常にするためにサイトカイニン応答を制限していると考えられる。PUP14 を一過的に発現させたプロトプラストやミクロソームでは、標識したトランスゼアチン(tZ)の取込みが促進されていた。この取込みは、一般的な天然サイトカイニンのイソペンテニルアデニン(iP)、合成サイトカイニンのBA、またアデニンによっても阻害された。しかしながら、主要なサイトカイニン輸送型であるtZリボシドやサイトカイニン以外の物質(オーキシン、アラントイン)では阻害されなかった。これらの結果から、細胞膜に局在するPUP14は、生物活性のあるサイトカイニンを細胞質に取込み、アポプラストからサイトカイニンを枯渇させることでサイトカイニン応答の抑制を引き起こしていると考えられる。そしてこのことから、細胞外のサイトカイニンが細胞膜に局在する受容体と結合してシグナル伝達が開始され、細胞質は活性型サイトカイニンのシンクとなっているという仮説が考えられる。この仮説を検証するために、サイトカイニン分解酵素CKX2を分泌するプロトプラストのサイトカイニンレポーターの発現を見たところ、tZによるサイトカイニン応答は減少したが、CKX2によって分解されないBAの応答には変化が見られなかった。また、細胞質局在するCKX2を発現させた場合にはサイトカイニン応答に変化は見られなかった。このことから、アポプラストのサイトカイニンがシグナル伝達を引き起こし、細胞質のサイトカイニンはシグナル活性がないことが示唆される。以上の結果から、PUP14はサイトカイニンをアポプラストから細胞質に取込んで細胞膜に局在するサイトカイニン受容体の受容ドメインから離すことでサイトカイニンシグナルの低下を引き起こしていると考えられる。したがって、PUP14活性は細胞のサイトカイニン感受性と負の相関があり、PUP14の時空間的な活性が組織特異的にサイトカイニンシグナルを制御していると考えられる。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)食植者の食害に対するオーキシンの役割

2016-10-19 22:50:28 | 読んだ論文備忘録

Auxin Is Rapidly Induced by Herbivore Attack and Regulates a Subset of Systemic, Jasmonate-Dependent Defenses
Machado et al. Plant Physiology (2016) 172:521-532.

doi:10.1104/pp.16.00940

食植者による食害に対する植物の防御応答は植物ホルモンネットワークによって制御されている。特にジャスモン酸(JA)は主要な制御因子であり、他にもサリチル酸、アブシジン酸、エチレンといったストレス応答ホルモンも重要な役割を演じている。しかしながら、この過程におけるオーキシンの役割は十分理解されていない。スイス ベルン大学Erb らは、野生タバコ(Nicotiana attenuata )がタバコスズメガ(Manduca sexta )幼虫による食害を受けた3時間後に内生インドール-3‐酢酸(IAA)量が増加していることを見出した。このIAA量の増加は、傷つけた葉にタバコスズメガの口内分泌物を添加(W+OS)もしくは傷に食植者に対するエリシターとして機能する脂肪酸-アミノ酸結合体N-linolenoyl-Gluを添加(W+FAC)することによっても起こった。食植者によって誘導されるIAAの蓄積は、食害を受けてから30-60秒後には誘導され、IAA量は2-3倍増加した。W+OS処理によりIAA量は局所的に速やかに増加し、その後一過的に徐々に処理をしてない全身の地上部組織へ広がったが、根では有意な変化は見られなかった。食害によるIAA量の増加は若いロゼットでも開花期の個体でも見られ、植物体の齡に関係なく起こった。IAA生合成遺伝子であるYUCCA-like 遺伝子のうちの幾つかは食害によって発現量が増加した。食害に応答したIAA量の増加は5分後には最大となり、JA量の増加に先行していた。食害に応答したIAA量の増加は、JAの生合成、受容、シグナル伝達が低下した形質転換体でも見られることから、この過程にジャスモン酸シグナルは関与していないと考えられる。タバコスズメガの食害を受けたタバコの茎はアントシアニンが蓄積して赤く変色する。この現象はW+OS処理をしても再現されたが、傷害だけではアントシアニンは蓄積されなかった。IAAもしくはMeJAのみを添加してもアントシアニンの蓄積は起こらないが、両者を同時に与えると蓄積した。また、IAAの生合成や輸送の阻害剤を添加したり、JA生合成が低下した形質転換体ではW+OS処理によるアントシアニン蓄積が見られなかった。防御二次代謝産物の蓄積におけるIAAの効果を見るために、食害やそれを模した処理、MeJA処理をする前に予め葉柄部分にIAAを添加しておくと、処理に応答したカフェオイルプトレシンやジカフェオイルスペルミジンの蓄積が劇的に増加した。一方、ニコチンや7‐ヒドロキシゲラニルリナロールジテルペングルコシドはIAA前処理による蓄積量変化は見られなかった。したがって、IAAは単純にJAシグナル伝達を強めているのではなく、植物の防御ネットワークの特異的な調節を行なっているものと思われる。以上の結果から、IAAは、食害を受けた植物において、全身的でジャスモン酸に依存した二次代謝を制御する急速かつ特異的なシグナルとして機能していると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)細胞内オーキシン輸送の制御

2016-10-12 20:57:05 | 読んだ論文備忘録

Interactions of Oryza sativa OsCONTINUOUS VASCULAR RING-LIKE 1 (OsCOLE1) and OsCOLE1-INTERACTING PROTEIN reveal a novel intracellular auxin transport mechanism
Liu et al. New Phytologist (2016) 212:96-107.

DOI: 10.1111/nph.14021

中国農業科学院Wang らは、イネRNAiライブラリーから草丈の低い矮化変異体を単離した。この変異体はLOC_Os05g45280 がサイレンシングされており、BLAST検索の結果、この遺伝子はシロイヌナズナAtCOV1 (At2g20120)のホモログであることが示されたので、OsCOV-LIKE 1OsCOLE1 )と命名した。この遺伝子の発現抑制個体OsCOLE1-RNAi および過剰発現個体OsCOLE1-OE の実生にオーキシン(NAA)処理をしたところ、対照と過剰発現個体では葉鞘と根の接合部にカルスが形成されたが、発現抑制個体では形成されなかった。また、登熟期の植物体を比較すると、発現抑制個体は対照よりも第2、第3節間が短いために草丈が低く、過剰発現個体は第1、第2節間が対照よりも長く、草丈が高くなっていた。成熟期の第2節間の細胞の長さを比較すると、発現抑制個体は対照よりも短く、過剰発現個体は対照よりも長くなっていた。よって、OsCOLE1は細胞の大きさに関与することでイネの幹長を制御していると考えられる。登熟期の幹基部のオーキシン量を見ると、発現抑制個体は対照よりも減少しており、過剰発現個体では増加していた。よって、OsCOLE1 は幹基部のオーキシン含量の制御に関与しており、基部のオーキシン含量が細胞の大きさを制御していることが示唆される。OsCOLE1 をタバコで過剰発現させたところ、茎頂の成長が強く抑制され、茎頂近傍で側枝が発達した。よって、OsCOLE1 はオーキシン関連経路に関与して植物の成長を制御していると考えられる。解析ツール(TMHMM、PROTTER)によると、OsCOLE1タンパク質は2つの膜貫通ヘリックスを含んでおり、N末端とC末端は細胞質側にあると推測された。そこで、OsCOLE1にmCherryを付加した融合タンパク質を発現させて細胞内局在を確認したところ、OsCOLE1はトノプラストに局在していることがわかった。OsCOLE1 は様々な組織で発現しており、特に成熟した細胞での発現が強くなっていた。COV1の機能は不明だが、他のタンパク質と相互作用をするのではないかと考え、酵母two-hybridスクリーニングを行ったところ、LOC_Os07g34110がOsCOLE1のN末端側と相互作用をすることが判った。LOC_Os07g34110 はEamA-likeトランスポーターファミリーに属する2つのドメインを含んだ膜内在性タンパク質をコードしていると考えられることから、本遺伝子をOsCOLE1-INTERACTING PROTEINOsCLIP )と命名した。バイオインフォマティックス解析から、OsCLIPは膜局在タンパク質で10個の膜貫通ドメインを含み、シロイヌナズナAtWAT1と類似性があった。AtWAT1はトノプラストに局在するオーキシントランスポーターで、二次細胞壁形成や病原菌に対する抵抗性に関与していることが報告されている。OsCLIPとOsCOLE1は、お互いのN末端側を介して相互作用をしており、トノプラストに局在することが確認された。OsCLIP およびOsCOLE1 を発現させた酵母を用いた試験から、OsCLIPは外部環境から酵母細胞内への標識されたインドール-3-酢酸(IAA)の取込みを促進することが確認された。よって、OsCLIPはトノプラストに局在するオーキシントランスポーターであると考えられる。また、OsCLIPOsCOLE1 を同時に発現させると、単独で発現させた場合よりもIAAの取込みが増加した。したがって、OsCOLE1はOsCLIPによるIAA輸送を促進していると考えられる。標識されたIAAの取込みは、標識していないIAA、インドール-3-酪酸(IBA)、NAAを添加することによって減少したが、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)の添加では阻害されなかった。以上の結果から、トノプラストに局在するOsCOLE1はOsCLIPと相互作用をしてOsCLIPによるIAA輸送を促進していると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする