Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)MAPキナーゼカスケードによる種子休眠の解除

2024-02-28 11:26:08 | 読んだ論文備忘録

The MKK3–MPK7 cascade phosphorylates ERF4 and promotes its rapid degradation to release seed dormancy in Arabidopsis
Chen et al.  Molecular Plant (2023) 16:1743-1758.

doi:10.1016/j.molp.2023.09.006

中国農業科学院 深圳農業ゲノム研究所(AGIS)Xiangらは、シロイヌナズナの種子休眠を正に制御しているタイプ2Cタンパク質フォスファターゼREDUCED DORMANCY5RDO5)のT-DNA挿入変異体rdo5-2 をγ-線処理した変異体集団の中から、rdo5-2 変異による種子休眠の低下が抑制された6つの復帰突然変異体odr16 を単離している。このうち、ODR1についてはアブシジン酸(ABA)生合成を制御する因子であることを明らかにしているが、今回、ODR2について解析を行なった。odr2 変異体は、MAPキナーゼキナーゼMKK3(AT5G40440)遺伝子座の第2エクソンに1-bpの欠失を有し、未成熟停止コドンを引き起こしていた。別途入手したmkk3 機能喪失変異体は、種子休眠が強く、rdo5-2 変異による休眠が浅くなる表現型を回復させた。よって、MKK3ODR2 であり、種子休眠を負に制御していると考えられる。MKK3の直下のMPKとして、グループCのMPK(MPK1、MPK2、MPK7、MPK14)が同定されていることから、これらのMPKの機能喪失変異体について発芽試験を行なったところ、mpk7 変異体のみが強い種子休眠を示した。また、MPK7 は種子の発達や発芽過程で高い発現を示していた。MKK3およびMPK7の過剰発現は、種子休眠を有意に低下させた。興味深いことに、恒常的に活性を示すMKK3EEを過剰発現させると、種子の発芽能力が劇的に増加した。したがって、MKK3-MPK7カスケードは、シロイヌナズナの種子休眠制御において重要な役割を担っていると考えられる。種子休眠の解除においてジベレリン(GA)が重要な役割を担っているので、mkk3 変異体、mpk7 変異体にGA処理をしたが、休眠打破に対する感受性は野生型植物よりも低かった。さらに、乾燥および浸漬した変異体種子のGA恒常性関連遺伝子の発現は、野生型植物と有意な差は見られなかった。これらの結果から、MKK3-MPK7モジュールは、GAによる休眠打破に必要であり、GA代謝経路を通じて種子休眠を制御しているのではないことが示唆される。種子の休眠を打破する他の方法として、GA生合成を活性化する冷湿処理(CS)があるが、mkk3 変異体、mpk7 変異体は野生型植物よりもCSに対する感受性が低かった。この結果は、MKK3-MPK7モジュールはCSによる休眠打破にも必要であり、GAおよびCS処理によってMKK3-MPK7カスケードを活性化する共通のシグナル分子が存在する可能性が示唆される。過酸化水素(H2O2)も種子休眠解除の重要な調節因子であり、GAやCS処理によって生成されるが、mkk3 変異体、mpk7 変異体は野生型植物よりもH2O2処理に対する感受性が低かった。これらの結果から、MKK3-MPK7モジュールは、H2O2、GA、CSの下流で作用していることが示唆される。MKK3-MPK7モジュールによる種子休眠解除とABAシグナルによる種子休眠との関係を明らかにするために、mkk3 変異体、mpk7 変異体の種子発芽におけるABA感受性を野生型植物および種子発芽においてABA高感受性を示すahg1-5 変異体と比較した。その結果、mkk3 変異体、mpk7 変異体のABA感受性は、野生型植物よりも高かったが、ahg1 変異体よりも低いことが判った。しかしながら、mkk3 変異体、mpk7 変異体の種子休眠の程度は、ahg1 変異体と同等かそれ以上強かった。さらに、ABAシグナル伝達関連遺伝子の発現は、mkk3 変異体、mpk7 変異体と野生型植物の間で非常に類似していた。これらの結果から、MKK3-MPK7モジュールはABAシグナル伝達に大きく影響してはおらず、ABAはmkk3 変異体、mpk7 変異体の種子休眠増強の主要な要因ではないと思われる。また、種子休眠の主要な調節因子であるDELAY OF GERMINATION1DOG1)およびRDO5 の発現量およびタンパク質量は、mkk3 変異体と野生型植物で同等であり、DOG1、RDO5とMKK3は相互作用をしないことが確認された。したがって、MKK3-MPK7モジュールによる休眠制御は、おそらくDOG1/RDO5とは無関係であると考えられる。これらの結果を総合すると、MKK3-MPK7モジュールは、主に休眠の確立よりも休眠解除の際にその役割を果たしていることが示唆される。MKK3-MPK7モジュールの下流で作用している因子を探索するためにRNA-seq解析を行なったところ、mkk3 変異体、mpk7 変異体では、種子浸漬時に9つのα-EXPANSINEXPA)遺伝子(EXPA13EXPA810EXPA13EXPA15EXPA20)の発現誘導が抑制されていることが判った。これらのEXPA 遺伝子は種子浸漬時に高発現し、GAおよびH2O2処理によって劇的に誘導され、細胞拡大に必須であることが知られている。そこで、種子浸漬後の幼根や胚軸の細胞長や細胞伸長率を計測したところ、mkk3 変異体、mpk7 変異体ではこれらの領域の細胞伸長が阻害されていることが判った。また、mpk7 変異体においてEXPA1EXPA13 を過剰発現させたところ、休眠を増強する表現型が回復した。これらの結果は、MKK3-MPK7モジュールは、EXPA 遺伝子の発現を促進することにより種子浸漬時の胚の拡大を促進していることを示唆している。MKK3-MPK7モジュールによる遺伝子発現促進は、MPK7のキナーゼ活性によって転写因子等が活性化されることによると推測される。そこで、MPK7と相互作用をする転写因子を酵母two-hybridスクリーニングによって探索した。その結果、種子休眠に関与していることが報告されているERF4が見出され、MPK7はERF4と生体内で相互作用をして、ERF4をリン酸化することが確認された。erf4 機能喪失変異体は種子休眠が低下し、過剰発現系統は種子休眠が強くなった。したがって、ERF4は種子休眠を正に制御していることが示唆される。興味深いことに、♀erf4×♂Col-0(野生型)のF1種子(種皮がerf4 ホモ接合体で胚がヘテロ接合体)の発芽は、♀Col-0×♂Col-0のそれと区別がつかず、胚がERF4による休眠制御において主要な役割を果たしていることが示唆される。そこで、浸漬種子の幼根-胚軸伸長を見たところ、erf4 変異体は、野生型植物よりも3~4倍高く、mkk3 変異体、mpk7 変異体よりも8倍近く高いことが判った。この結果は、ERF4とMKK3-MPK7モジュールが相反する方向で細胞拡大を制御していることを示している。ERF4は、ターゲット遺伝子のGCC boxに結合して発現を抑制することが知られている。解析の結果、erf4 変異体では、EXPA13EXPA810EXPA15 の発現が有意に増加しており、ERF4はEXPA 遺伝子のエクソン領域にあるGCC boxモチーフと相互作用をすることが確認された。よって、ERF4はEXPA 遺伝子のエクソンにあるGCC boxに直接結合し、その発現を阻害していると考えられる。無細胞実験系による解析から、ERF4は26Sプロテアソーム系によって分解されること、MPK7によってリン酸化されると推測される3つのSer残基をAsp残基に置換したERF4DDDは速く分解され、Ala残基に置換したERF4AAAは分解が遅延すること、mkk3 変異体、mpk7 変異体由来の無細胞系ではERF4の分解が遅延することが判った。これらの結果から、MKK3-MPK7モジュールによるERF4のリン酸化は、ERF4の分解を調節していることが示唆される。種子休眠制御においてERF4がMPK7の下流で作用しているかを確認するために、mpk7 変異体、erf4 変異体、mpk7 erf4 二重変異体の種子休眠を比較したところ、ERF4 の機能喪失がmpk7 変異体の休眠強化を有意に抑制することが判った。さらに、ERF4 の機能喪失によってmpk7 変異体でのEXPA 遺伝子発現量の低下が回復することが判った。しかしながら、ERF4 機能喪失によって、mpk7 変異体の種子休眠とEXPA 遺伝子発現量が野生型植物と同等にまでは回復しなかった。このことから、MPK7によってさら他の下流制御因子が影響を受けていることが示唆される。以上の結果から、MKK3-MPK7モジュールは、ERF4をリン酸化して分解を促進するこでEXPA 遺伝子の発現を促進し、種子を休眠から発芽へと移行させていると考えられる。

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論文)2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)による不定胚形成誘導

2024-02-19 10:36:37 | 読んだ論文備忘録

Structure–activity relationship of 2,4-D correlates auxinic activity with the induction of somatic embryogenesis in Arabidopsis thaliana
Karami et al.  Plant Journal (2023) 116:1355-1369.

doi:10.1111/tpj.16430

2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)は、植物ホルモンのオーキシンの合成アナログであり、植物再生実験系の不定胚形成(somatic embryogenesis;SE)に使用されている。また、2,4-Dはストレス関連遺伝子の発現を上昇させ、高濃度の2,4-Dは双子葉植物を対象とした除草剤として利用されている。いくつかのストレス関連転写因子はSEに影響することが示されていることから、2,4-DのSE誘導効果は、オーキシン活性よりも、2,4-Dが誘導するストレスに起因していると考えられるが、この仮説はまだ十分に検証されてはいない。オランダ ライデン大学Offringaらは、40種類の2,4-Dアナログについて、シロイヌナズナのSE誘導能とオーキシン活性を指標にして構造と活性との関係を調べた。第一段階として、2,4-Dアナログのシロイヌナズナ未熟胚からのSE誘導能を試験した。各化合物を2,4-Dと同じ濃度(5 µM)で試験したところ、4種類の化合物(クラス1:4-Cl、4-Br、2,4-DP、2,4-Br)が2,4-Dと同程度に未熟胚から不定胚を効率的に誘導することができた。他の13化合物(クラス2:2,4-DB、2-Cl-4-F、MCPA、Mecoprop、4-F、4-I、2,5-D、3,4-D、2-F-4-Cl、2-F-4-Br、2,4,5-T、2,4-DiB、MCPB)はSE誘導したが、2,4-Dと比較して効果は低かった。残りのアナログ(クラス3:2-Cl、2-I、3-Cl、2,6-D、3,5-D、2,4-F、2,3,4-F、2,3,4-T、2-NO2-4-Cl、2,4-DnB、PHAA、4-NO2、3,5-Me、2-Cl-4-ホルミル、2,4,6-F、3-Me、2,3-D、3,5-D、2,4,6-T、2,4-DnP)はSE誘導しなかった。全体として、SE誘導する化合物の能力は、2,4-D様の構造と相関しているように思われた。幾つかのクラス1、クラス2化合物について濃度を2倍(10 µM)にして試験を行なったところ、2,4-D、4-Br、4-I、MCPAでは不定胚形成数が減少したが、4-Cl、4-F、2,4,5-TではSE効率に大きな影響はなかった。この結果は、クラス1化合物では、2,4-Dと同様に5 µMが適正濃度であり、クラス2化合物のSE効率の低さは高濃度適用でも補えないことを示している。次に、オーキシンによる主根の伸長阻害について調査した。その結果、4-Cl、4-Br、2-Cl-4-F、2,4-DB、MCPA、Mecopropは、2,4-Dと同様に、低濃度(50 nM)でも高濃度(5 µM)でも主根の伸長を効率的に阻害した。4-F、4-I、2,5-D、3,4-D、2,4-Br、2-F-4-Cl、2-F-4-Br、2,4,5-T、2,4-DiB、2,4-DP、MCPBは、低濃度では阻害効果を示さなかったが、高濃度で強い阻害効果を示した。このことから、これらの化合物は「活性型」に分類した。一方、2-Cl、2-I、3-Cl、2,6-D、2,4-F、2-NO2-4-Cl、2,3,4-T、2,3,4-F、2,4,6-T、2,4,6-F、2,4-DnP、2,4-DnBは、高濃度でも根の伸長に対して弱い効果しか示さなかったので、「弱活性」と分類した。残りのPHAA、2-F、3-Me、2,3-D、3,5-M、3-OMe、4-NO2、3,5-Me、3,5-D、2-CL-4-ホルミル、2,4,6-T、2,4-DnPは、高濃度でも根の長さに対して明らかな抑制効果を示さなかったことから、これらの化合物はオーキシン活性が非常に弱いか、あるいは全くないことが示唆される。根系構造に着目したところ、2,5-D、3-Clは、側根と不定根の形成を強く促進した。一方、2,4,6-T、3-Me、2,3-D、3,5-D、2,4-DnPは、根長に明確な影響を与えずに側根の数を減少させた。さらに、3-Cl、3,4-D、2,4-DP、Mecopropは根毛の発達を強く促進した。これらの結果から、特定の2,4-Dアナログは、濃度と構造に依存して根の成長と発達に特異的な影響を及ぼすことが示唆される。オーキシン応答プロモーターpDR5 でGUSを発現するコンストラクトを導入したシロイヌナズナを用いて、2,4-Dアナログによる根の伸長阻害がオーキシン応答によるものかを調査した。その結果、非常に活性が高いと分類された化合物は、いずれも根の細胞伸長部におけるpDR5 活性を強く促進し、根の伸長阻害活性と一致した。したがって、2,4-Dアナログの根の成長を阻害する能力は、オーキシン活性(オーキシン応答を誘導する能力)とよく一致しているといえる。2,4-DアナログのTIR1/AFB-Aux/IAAオーキシンコレセプターとの結合能力を分子動力学シミュレーションにより調査したところ、コレセプター結合能とオーキシン活性、SE誘導能の間には強い相関があることが判った。これらの結果から、(i) 2,4-Dとそのアナログは、TIR1/AFB共受容体を介したオーキシンシグナル伝達経路を通じてSEを誘導し、(ii) SE誘導に必要なストレス応答は、2,4-Dとそのアナログによって誘導される強いオーキシン応答の結果である、という推測が導かれた。そこで、シロイヌナズナのtir1afb1afb2afb3afb4afb5 の各単独変異体および多重変異体を用いてSE誘導実験を行なった。その結果、4種の単独変異体と2つの二重変異体においては軽度ではあるが有意にSE効率が低下し、変異がさらに集積することでSE効率の低下が強まることが判った。これらの結果から、2,4-Dはオーキシンの典型的なシグナル伝達経路を介してSEを誘導しており、2,4-Dに特異的なコレセプターは存在せず、TIR1/AFBファミリーが冗長的に作用していることが示唆される。2,4-Dによるストレス応答について調査したところ、tir1 afb2 afb3 三重変異体およびtir1 afb2 afb4 afb5 四重変異体では、2,4-Dによるストレスレポーター遺伝子(At2g18690At3g26440At4g16260ERF6)の発現誘導は野生型植物に比べて強く減少し、活性酸素種の発生は観察されなかった。このことから、2,4-Dによって誘導されるストレス応答は、オーキシンシグナル伝達経路の下流にあると考えられる。以上の結果から、2,4-Dによる不定胚形成誘導はオーキシン活性と相関しており、2,4-D処理によって誘導され、SE誘導に必要であると報告されているストレス応答は、オーキシンシグナルの下流に位置していると考えられる。

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論文)胚軸の避陰反応を制御するヒストン脱アセチル化酵素

2024-02-14 10:41:19 | 読んだ論文備忘録

HISTONE DEACETYLASE 9 promotes hypocotyl-specific auxin response under shade
Nguyen et al.  Plant Journal (2024) 116:804-822.

doi:10.1111/tpj.16410

HISTONE DEACETYLASE 9(HDA9)は、RPD3/HDA1ファミリーに属するヒストン脱アセチル化酵素で、シロイヌナズナの様々な成長・発達過程において遺伝子発現の抑制因子として機能していることが報告されている。一方で、HDA9が遺伝子の活性化を制御するという通常とは異なる機能を持っている可能性を示唆する研究もある。シンガポール国立大学Jangらは、HDA9が各種環境ストレス応答に関与していることから、光ストレスに対する応答性を調査した。その結果、hda9 変異体芽生えは、日陰条件(光量を下げて遠赤色光の割合を高める)で育成した際の避陰反応(SAS)による胚軸伸長が野生型植物よりも弱いことを明らかにした。これは、hda9 変異体では日陰処理に応答した細胞伸長が抑制されているために生じていることが判った。しかしながら、子葉の大きさや葉柄の長さは、日陰条件下で育成した野生型植物とhda9 変異体の間に明らかな差は見られなかった。さらに、日陰処理によるロゼット葉の下偏生長や葉柄の伸長などの形態変化もhda9 変異体と野生型植物で同等であった。このことから、HDA9は日陰条件下での胚軸細胞伸長の制御に特異的に機能している可能性が示唆される。HDA9 の発現は、温度上昇に応じて増加することが知られているが、日陰処理によるHDA9 発現量とタンパク質量の変化は見られなかった。芽生えのトランスクリプトーム解析を行なったところ、白色光下で育成したhda9 変異体と野生型植物のトランスクリプトームは非常に類似していたが、日陰条件では若干の違いが見られた。両者の間の発現変動遺伝子(DEG)を見ると、hda9 変異体で発現が減少する遺伝子は上昇する遺伝子よりも3倍多く、胚軸のDEG数は子葉のDEGよりも多くなっていた。これらの結果から、HDA9は胚軸での遺伝子活性化に対して優先的に機能している可能性が示唆される。野生型植物とhda9 変異体の胚軸で日陰処理によって誘導されるDEGのうち、447遺伝子が同一で、このうち58遺伝子はhda9 変異体での発現量が野生型植物よりも低く、その多くがSASの主要な植物ホルモンであるオーキシンの応答またはシグナル伝達経路に関与するものであった。これらの遺伝子のうち3遺伝子(SAUR15SAUR65IAA5)についてqRT-PCRにより発現を確認したところ、日陰処理をしたhda9 変異体での発現は、胚軸では野生型植物よりも低くいが、子葉では有意差が見られないことが判った。このことから、HDA9は、シロイヌナズナ芽生えにおいて、胚軸の日陰処理に応答した細胞伸長に得意的に関与していると考えられる。HDA9はG-box(C-A/G-CGTG)やW-box(T/G-TTGAC-T/C)に結合することが知られており、IAA5IAA6IAA19SAUR15SAUR65ACS4 などの日陰/オーキシン応答性遺伝子のプロモーター領域にこれらの結合モチーフがあり、HDA9は日陰条件下でこれらのモチーフに結合することが確認された。HDA9タンパク質自身はDNA結合ドメインを有していないので、日陰条件で誘導される転写因子と相互作用して、日陰に反応する遺伝子の発現を制御している可能性が示唆される。PHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR(PIF)転写因子ファミリーのPIF4、PIF5、PIF7は、シロイヌナズナのSASを制御しており、PIF4/7はG-boxに結合することが知られている。変異体を用いた解析の結果、hda9 pif4 およびhda9 pif7 の二重変異体は、それぞれの単独変異体と比較して、日陰条件下での胚軸伸長に対して相加的に抑制効果を示すことが判った。さらに、各二重変異体の胚軸のIAA6ACS4 転写産物量は、各単独変異体と比較して相加的に減少していた。また、Y2Hアッセイ、BiFCアッセイから、HDA9はPIF7と相互作用をし、PIF4とはしないことが確認された。以上の結果から、HDA9は、日陰条件下で胚軸特異的な転写制御機構の構成要素として作用し、オーキシン応答を活性化して胚軸伸長を促進していると考えられる。

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論文)ジャスモン酸による内生ジベレリン量の制御

2024-02-11 12:57:32 | 読んだ論文備忘録

Jasmonate inhibits plant growth and reduces gibberellin levels via microRNA5998 and transcription factor MYC2
Fukazawa et al.  Plant Physiology (2023) 193:2197–2214.

doi:10.1093/plphys/kiad453

ジベレリン(GA)とジャスモン酸(JA)は植物の成長に対して拮抗的に作用する。GAとJAのシグナル伝達は、それぞれDELLAタンパク質とJAZタンパク質によって抑制されており、DELLAとJAZは相互作用をすることでそれぞれの抑制作用を阻害している。そのため、JAがJAZの分解を促進するとDELLAが遊離してGAシグナルを抑制、GAがDELLAの分解を促進するとJAZが遊離してJAシグナルを抑制し、DELLA-JAZの相互作用を介してJA-GA間のクロストークが形成されている。広島大学深澤らは、DELLAタンパク質のREPRESSOR OF ga1-3(RGA)にGFPを付加した融合タンパク質を自身のプロモーター制御下で発現(RGApro:GFP-RGA)する形質転換シロイヌナズナ芽生えに各種処理をして根でのGFP-RGAの蓄積を観察した。GA生合成阻害剤のパクロブトラゾール(PAC)処理およびJA処理は根のGFP-RGA蓄積を促進したが、JAとGAの同時処理によってGFP-RGAは分解された。このことから、JAによるDELLAタンパク質の蓄積促進は、DELLAタンパク質の分解を阻害しているのではなく、内生GA量の制御によってもたらされている可能性が示唆される。そこで、芽生えをJA処理した際の内生GA量の変化を観察した。その結果、JA処理は、シロイヌナズナの活性型GAであるGA4、活性型GAの前駆体であるGA12、GA53、GA15、GA24、GA19、不活性型GAのGA34、GA8の量を減少させることが判った。したがって、JA処理をした芽生えでは活性型GAが減少したことによってDELLAが蓄積すると考えられ、JAはGA生合成を阻害してGAの不活性化を促進していることが示唆される。GAの生合成や不活性化に関与する酵素遺伝子の発現を見たところ、JA処理はGA生合成に関与するAtKSAtGA3ox1AtGA3ox2 の発現を有意に低下させたが、AtGA20ox1AtGA20ox2 の発現は上昇させた。また、GAの不活性化に関与する遺伝子のうち、AtGA2ox4AtGA2ox7AtGA2ox9 の発現を上昇させた。AtGA20ox1AtGA20ox2 の発現上昇は、GA量の減少によるフィードバック制御に起因すると考えられるが、AtGA3ox1 の発現は抑制されたことから、JAによってAtGA3ox1 のGAフィードバック制御が阻害されている可能性がある。JAシグナル伝達を制御しているMYC2ファミリータンパク質(MYC2、MYC3、MYC4)が機能喪失したmyc2 myc3 myc4 三重変異体では、JA処理によるAtGA3ox1AtGA3ox2AtGA2ox4AtGA2ox7 の発現変化が見られなかったことから、これらの遺伝子の転写はMYC2ファミリータンパク質によって制御されていることが示唆される。MYC2ファミリータンパク質は転写活性化因子として機能しており、一過的発現解析やChIP解析から、MYC2ファミリータンパク質はAtGA2ox4AtGA2ox7AtGA2ox9 のプロモーター領域に結合して発現を活性化することが判った。AtGA3ox1 の発現は内生GA量によって制御されており、PAC処理によって発現量が上昇するが、JAを同時に処理すると発現上昇が抑制された。JAによるAtGA3ox1 の発現抑制はMYC2ファミリータンパク質に依存しているが、MYC2ファミリータンパク質は転写活性化因子なので、この過程には何らかの他の機構が関与している可能性がある。AtGA3ox1pro:LUC を用いた一過的発現解析において、JA処理はLUC活性に影響を示さなかったことから、JAによるAtGA3ox1 の発現抑制は、mRNAの安定性のような転写後制御によるものである可能性が示唆される。そこで、miRNAデータベースmiRbaseを検索したところ、miR5998がAtGA3ox1 mRNAの5′UTR配列と相同性を示し、JAによって発現誘導されることが判った。また、一過的発現解析において、miR5998 の過剰発現はAtGA3ox1 の発現を抑制した。したがって、AtGA3ox1 はmiR5998のターゲットであると考えられる。miR5998 プロモーター領域にはMYC2結合部位が存在し、MYC2はmiR5998 の発現を直接活性化した。miR5998 を過剰発現させた形質転換体は、AtGA3ox1 発現量が減少して矮化したが、GA処理をすることで成長が回復した。以上の結果から、ジャスモン酸は、AtKSAtGA3ox1AtGA3ox2 の発現を低下させてGA生合成を阻害し、MYC2ファミリータンパク質を介してAtGA2ox4AtGA2ox7AtGA2ox9 の発現を促進してGA不活性化を促進することにより、内生GAレベルを減少させることが判った。AtGA3ox1 の発現は、MYC2ファミリータンパク質を介したmiR5998 発現の活性化により抑制されるが、AtKSAtGA3ox2 はmiR5998のターゲットとなっていないことから、他の発現制御機構が存在するものと思われる。

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論文)重力刺激に応答したアミロプラスト沈降の分子的役割

2024-02-04 14:55:07 | 読んだ論文備忘録

Amyloplast sedimentation repolarizes LAZYs to achieve gravity sensing in plants
Chen et al.  Cell (2023) 186:4788-4802.

doi:10.1016/j.cell.2023.09.014

LAZY ファミリー遺伝子は、重力屈性応答を正に制御しており、シロイヌナズナlazy 多重変異体の根は単独変異体よりも重力応答性が低下する。中国 清華大学Chenらは、CRISPR/Cas9で作出したシロイヌナズナlazy2 lazy3 lazy4lazy234)三重変異体を用いて根の重力屈性応答とLAZYタンパク質との関係についてについて解析を行なった。lazy234 変異体の主根と側根は全ての方向にランダムに伸長したが、重力方向を変えた際のコルメラ細胞でのアミロプラストの沈降は野生型植物と同じ挙動を示した。よって、これらのLAZYタンパク質はアミロプラストの沈降に関与していないことが示唆される。また、DR5ver::GFP オーキシンレポーターの発現から、lazy234 変異体では重力方向の変化に応答したオーキシン分布の変化が見られず、これらのLAZYタンパク質は重力刺激が誘導するオーキシンの極性分配と屈曲応答に必須であることが示唆される。lazy234 変異体でLAZY-GFPを自身のプロモーター制御下で発現させ、LAZYタンパク質の細胞内局在を確認したところ、3種のLAZYタンパク質はコルメラ細胞細胞の周縁部だけでなく、アミロプラスト表面にも局在していた。解析の結果、LAZYタンパク質は、複数の膜リン脂質、特にホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)と結合することが判った。したがって、LAZYタンパク質はリン脂質との結合を介して膜に結合している可能性が示唆される。N末端領域が欠失したLAZYタンパク質は、アミロプラスト局在が見られず、lazy234 変異体の重力屈性の欠損を補完しなかった。これらの結果から、LAZYタンパク質のアミロプラスト表面の局在は重力屈性にとって重要であると思われる。LAZYタンパク質はコルメラ細胞の下側に優先的に局在しており、重力方向を変えることで、LAZYタンパク質は再配置されて下側に多く蓄積した。ホスホグルコムターゼ1が機能喪失したpgm1 変異体のプラスチドは、デンプンを含まないため重力応答が遅くなり、LAZYタンパク質の新しい下側への再分布が遅れた。このことから、重力刺激後のアミロプラストの沈降はLAZYタンパク質の再分布を促進していることが示唆される。複数の画像データから、LAZYタンパク質はアミロプラストに隣接する細胞膜領域に優先的に局在することが確認された。また、LAZYタンパク質はアミロプラストから隣接する細胞膜へ移動しうることが判った。LAZY4-GFPタンパク質の免疫沈降-質量分析(IP-MS)解析から、LAZY4タンパク質に複数のリン酸化部位が見出され、リン酸化は重力刺激によって増加し、その後徐々に元の状態に戻ることが判った。また、IP-MSデータから、LAZY4は重力刺激後に2つのタンパク質キナーゼMPK3とMKK5との相互作用が強くなり、その後元の状態に減少していくという、LAZY4タンパク質のリン酸化状態と同じような挙動を示すことが判った。その後の解析で、MKK5によって活性化したMPK3はLAZY4をリン酸化することが確認された。これらの結果から、重力刺激はMKK5およびMPK3によるLAZY4のリン酸化を速やかに誘導することが示唆される。MPK3と機能重複しているMPK6が機能喪失している変異体でMPK3 をRNAiで発現抑制して作出した二重変異体では、LAZY4-GFPのアミロプラスト表面への局在と重力刺激によるLAZY4-GFPの細胞膜上での極性再分布が阻害され、その結果、重力応答が遅延した。また、LAZY4の13ヶ所のリン酸部位をAla残基に置換したLAZY4-A13-GFPは、アミロプラスト表面への局在と、重力刺激下での細胞膜への極性再分布が見られず、lazy234 変異体の重力屈性欠損を補完しなかった。これらの結果から、MAPKカスケードによるLAZY4のリン酸化は、重力屈性におけるLAZY4の機能にとって重要であることが示唆される。葉緑体およびアミロプラストの外包膜に存在するタンパク質輸送装置(TOC)複合体の構成要素の機能喪失変異体の解析から、TOCタンパク質は重力屈性に対して正の役割を果たしていることが示されていたが、その根本的な機構は不明であった。LAZYタンパク質もアミロプラスト表面に局在することから、両者の関係について調査したところ、リン酸化状態のLAZY4はTOCタンパク質(TOC34、TOC120、TOC132)と強い相互作用を示すことが判った。このことから、LAZY4タンパク質のリン酸化は、細胞質に面したTOCタンパク質との相互作用を促進し、LAZY4タンパク質のアミロプラスト表面への移動を促進すると考えられる。CRISPR/Cas9によってTOC120TOC132 を機能喪失させた変異体では、LAZY4-GFPタンパク質のアミロプラストへの局在と細胞膜への極性再分布が見られなくなり、重力屈性も見られなくなった。したがって、これらのTOCタンパク質はアミロプラスト表面の重要なアンカータンパク質であり、LAZYタンパク質に結合して再分布を促進していると考えられる。以上の結果から、重力刺激に応答してMKK5-MPK3モジュールによりリン酸化されたLAZYタンパク質は、アミロプラスト外包膜上のTOCタンパク質との相互作用を促進し、アミロプラストが沈降することでコルメラ細胞の細胞膜下側にLAZYタンパク質が蓄積、このことがオーキシンの不均等分布、ひいては根の重力屈性をもたらしていると考えられる。

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