Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)ジンクフィンガータンパク質による花芽形成の抑制

2023-07-28 11:05:48 | 読んだ論文備忘録

LEAFY and APETALA1 down-regulate ZINC FINGER PROTEIN 1 and 8 to release their repression on class B and C floral homeotic genes
Hu et al.  PNAS (2023) 120:e2221181120.

doi:10.1073/pnas.2221181120

シロイヌナズナC2H2ジンクフィンガータンパク質(ZFP)のArabidopsis ZINC FINGER PROTEIN 1(ZP1)は、EARモチーフを含む転写抑制因子で、根毛の発生と伸長に対して抑制的に作用することが知られている、しかしながら、ZP1の地上部での役割は不明である。米国 サウスカロライナ大学Xu らは、ZP1 遺伝子プロモーター領域にGUS を融合したコンストラクト用いた解析から、ZP1 は栄養成長期の葉で高発現し、花や果実では発現が低下することを見出した。そこで、ZP1の地上部での役割を調査するために、T-DNA挿入zp1 変異体を観察したが、表現型は野生型と同等であった。一方で、ZP1 過剰発現系統は長日条件下で花成しなかった。ZP1の属するC1-1i型ZFPファミリーは、シロイヌナズナに32種類あり、RNA-seq解析から、ZFP4ZFP7ZFP8ZP1 と同じように4週目の花序で発現量が減少していた。花芽形成は、花芽分裂組織決定遺伝子のLEAFYLFY)とAPETALA1AP1)によって促進される。lfy-1 変異体では花のホメオティック遺伝子であるAPETALA 3AP3)、PISTILLATAPI)、AGAMOUSAG)、SEPALLATA 3SEP3)の発現が減少するが、ZP1ZFP4ZFP8 の発現量は増加していた。ap1-10 変異体ではAP3PISEP3 の発現量は野生型植物と同等だったが、ZP1ZFP4ZFP8 の発現量は増加していた。ZP1ZFP8 は、茎頂分裂組織や葉原基で発現し、発達初期の花芽分裂組織ではごくわずかの発現が検出されるのみであるが、lfy-1 変異体やap1-10 変異体の花芽分裂組織では高い発現が見られた。これらの結果から、ZP1ZFP8 は栄養成長組織で高発現しており、花芽分裂組織ではLFYとAP1によって発現抑制されていると考えられる。クロマチン免疫沈降qPCR(ChIP-qPCR)解析の結果、LFYとAP1はZP1 およびZFP8 遺伝子のプロモーター領域に直接結合することが確認された。LFY 遺伝子およびAP1 遺伝子のプロモーター制御下でZP1ZFP4ZFP7ZFP8 を発現させたところ、ZP1 およびZFP8 を発現させた系統では花弁、雄ずい、心皮に異常が見られ、クラスB、クラスC遺伝子の活性が欠けたような花を形成し、実際にクラスB遺伝子のAP3PI、クラスC遺伝子AG の発現量が減少していた。また、AP1 の発現量が増加しており、LFY の発現量はLFY::ZP1AP1::ZFP8 系統で僅かに減少していた。これらの結果から、LFY およびAP1 の発現部位でのZP1ZFP8 の発現低下は、AP3PIAG の発現上昇と、花弁、雄しべ、心皮の適切な発達に不可欠であると考えられる。ap1-10 変異体やlfy-1 変異体は花弁の無い花をつけることがあるが、zp1 変異、zfp8 変異が導入されることによって花弁形成異常が回復し、zp1 zfp8 二重変異はさらに回復効果を強めた。野生型植物とzp1 zfp8 二重変異体の花芽分裂組織ではAP3PIAG が発現していたが、lfy-1 変異体では検出されなかった。しかし、lfy-1 zp1 zfp8 三重変異体の花芽分裂組織ではAP3PI の発現が部分的回復し、AG の発現も検出された。これらの結果から、LFYとAP1は直接的、間接的にAP3PIAG の発現活性化を促進し、間接的な経路ではZP1、ZFP8、その他の因子による冗長な作用が関与していることが示唆される。ZP1ZFP8 は栄養成長組織で高い発現を示すが、そのような組織でAP3PIAG の発現は殆ど検出されない。しかし、zp1 zfp8 二重変異体の葉原基の幾つかの細胞で発現が検出された。解析の結果、ZP1は栄養成長組織においてAP3PIAG 遺伝子に結合して発現を抑制していることが判った。以上の結果から、ZP1とZFP8は(おそらく他のジンクフィンガータンパク質とともに)冗長的に機能し、栄養成長組織でのAP3PIAG の発現を抑制していると考えられる。LFYとAP1が花芽分裂組織で活性化されると、ZP1ZFP8 は発現を低下させ、AP3PIAG の発現抑制が解除される。よって、LFYとAP1は、AP3PIAG の発現抑制解除と並行して、AP3PIAG を直接活性化しており、花成誘導後の花器官形成を強固にしていると考えられる。

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論文)PLATZ型転写因子によるコムギ草丈の制御

2023-07-24 13:39:38 | 読んだ論文備忘録

Wheat plant height locus RHT25 encodes a PLATZ transcription factor that interacts with DELLA (RHT1)
Zhang et al.  PNAS (2023) 120:e2300203120.

doi:10.1073/pnas.2300203120

「緑の革命」において、ジベレリン(GA)非感受性REDUCED HEIGHTRHT)半矮性対立遺伝子Rht-B1b およびRht-D1b の導入によりコムギの穀物収量が大幅に増加したことから、倒伏を減らし収穫指数を向上させるためには草丈の最適化が重要であることが実証された。しかしながら、Rht1b 対立遺伝子を持つ半矮性品種は、成長を抑制するDELLAタンパク質を蓄積してGAによる成長促進効果を低下させているため、葉柄が短く、地上部のバイオマスが減少するといった多面的な影響が出る。米国 カリフォルニア大学デービス校Dubcovsky らは、以前に、半矮性普通コムギ(Triticum aestivum)UC1110系統とPI610750系統の交配から得られた集団を用いて、6A染色体短腕上の0.2 cMの領域内に草丈制御に関与するGA感受性の新たな遺伝子座RHT25QHt.ucw-6AS)を見出した。今回、草丈の異なる8つのコムギマッピング集団を利用して、この領域内に17のSNPと2つのインデルからなる6つのハプロタイプを見出した。そして、RHT25 半矮性対立遺伝子に関連する2つのハプロタイプ(H1とH6)においてTraesCS6A02G156600 が機能喪失多型を示すことが判った。ハプロタイプH1(UC1110)は、TraesCS6A02G156600 の第3エクソンに13bpの欠失があり、読み枠のシフトと未成熟終止コドンを生じ、予測アミノ酸の59 %が除去された。ハプロタイプH6(P515HP)では、TraesCS6A02G156600 第2イントロンのアクセプタースプライス部位に変異があるために第2イントロンが保持され、予測アミノ酸の66 %が除去される未成熟終止コドンが生じていた。これらの結果から、TraesCS6A02G156600RHT25 の最も可能性の高い候補遺伝子である判断し、解析を進めた。TraesCS6A02G156600 は、PLATZ(plant-specific AT-rich sequence- and zinc-binding protein)型転写因子をコードしている。コムギには62のPLATZ 遺伝子があり、6つのグループに分けられている。TraesCS6A02G156600 は、グループⅢに属しており、系統樹解析からホメオログを同定し、TraesCS6A02G156600 をPLATZ1ホメオロググループとした。4倍体デュラムコムギ(Triticum turgidum)品種KronosのEMS集団からPLATZ-A1PLATZ-B1 の機能喪失変異体を単離して作出した二重変異体は、野生型植物と比較して、草丈(12.7 %)、穂首長(18.7 %)およびその他の節間において有意な減少を示した。分析の結果、PLATZ-A1PLATZ-B1 は草丈と穂首長の調節において冗長な役割を持ち、platz-A1 変異はplatz-B1 変異よりも強い影響をおよぼすことが判った。さらに、ユビキチンプロモーター制御下でPLATZ-A1 を過剰発現させた形質転換Kronosコムギは、野生型植物よりも草丈、穂首、止葉が伸長した。これらの結果から、RHT25 の原因遺伝子はPLATZ-A1 であると考えられる。以前に発表された六倍体コムギのRNA-seqデータを見ると、PLATZ1 転写産物量は、伸長初期の茎で最も高く、次いで発育初期の穂で高くなっており、葉、根、穀粒でも転写産物が観察されていた。また、多くの組織において、Dゲノムホメオログの転写産物量が最も高く、Aゲノムホメオログが中間、Bゲノムホメオログが最も低くなっていた。PLATZ1タンパク質の解析から、PLATZ1タンパク質はプロテアソーム経路によって速やかに分解されること、PLATZ1タンパク質は主に核に局在することが判った。また、PLATZ1タンパク質はRHT1(DELLA)タンパク質のGRASドメインと相互作用をすることが判った。DELLAタンパク質は、GROWTH-REGULATING FACTOR 4(GRF4)転写因子と相互作用をしてGRF4による成長促進を阻害することが知られている。解析の結果、GRF4とDELLAの相互作用はPLATZ-A1とDELLAとの相互作用よりも20倍以上強いことが判った。このことから、GRF4はDELLA-PLATZ1相互作用の競合者になっていると考えられる。PLATZ-A1 矮性対立遺伝子がコムギの品種改良の過程で選択されたかどうかを調べるため、コムギ45系統のPLATZ-A1 自然突然変異を調査したところ、新たに第3エクソン内に欠損がある2種類の変異とプロモーター領域の挿入変異を見出した。これらのRHT25 変異は6倍体コムギの30%を占めており、コムギの品種改良において正の選択を受けていることが示唆される。以上の結果から、GA感受性RHT25 草丈制御遺伝子座の原因遺伝子はPLATZ-A1 であり、PLATZ1タンパク質はDELLAタンパク質と相互作用をすることが判った。このplatz1 変異は、GA感受性の半矮性コムギ品種の開発に利用しうると考えられる。PLATZ1-DELLA相互作用による草丈制御の作用機作は不明である。

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論文)ブラシノステロイドによる栄養相転換の制御

2023-07-14 14:06:16 | 読んだ論文備忘録

Coordinated regulation of vegetative phase change by brassinosteroids and the age pathway in Arabidopsis
Zhou et al.  Nature Communications (2023) 14:2608.

doi:10.1038/s41467-023-38207-z

高等植物は、発芽後、生殖能力を獲得するまでに幼若相と成熟相を経る。幼若相から成熟相への移行は栄養相転換(vegetative phase change)と呼ばれており、シロイヌナズナでは、向軸側葉身のトライコーム形成、葉の縦横比の増加、葉縁鋸歯の増加、細胞サイズの減少などが特徴として挙げられる。栄養相転換は、マイクロRNA miR156量が徐々に減少し、それに応じてmiR156の標的であるSQUAMOSA PROMOTER BINDING PROTEIN-LIKESPL)遺伝子の発現が増加することによって制御されている。中国 浙江農林大学のWu らは、miR156-SPL経路を制御する新たな因子を同定することを目的に、シロイヌナズナの変異体集団から、向軸側葉身のトライコーム形成が遅く、葉が円形で小さいといった栄養相転換が遅延している変異体を単離し、delayed juvenile-to-adult phase transition mutant2det2)変異体と命名した。del2 変異体は、全体的に小さく、葉色が濃く、発育が遅延するなどの多面的な異常も示した。解析の結果、det2 変異体は、ブラシノステロイド(BR)生合成に関与するDWARF5DWF5)遺伝子の1848番目の塩基がGからAに置換して終始コドンが形成され、DWF5タンパク質の早期翻訳停止を起こすことが判った。このことから、det2 変異体をdwf5 変異体と改名した。dwf5 変異体のブラシノライド(BL)含量は、野生型植物よりも低く、BL処理をすることで向軸側葉身トライコーム形成が促進された。このことから、dwf5 変異体の表現型はBL量の低下が部分的に関与していると考えられる。dwf5 変異体でのmiR156-SPL経路の主要な遺伝子の発現を見たところ、野生型植物と比較してMIR172B と成熟miR172量が減少していることが判った。miR172は、発生過程においてmiR156とは対称的な発現パターンを示し、栄養相転換を抑制するAP2様転写抑制因子遺伝子TARGET OF EARLY ACTIVATION TAGGED1TOE1)、TOE2 の発現を抑制している。よって、dwf5 変異体での栄養相転換の遅延は、miR172量の減少によるものと思われる。MIR172B の発現はSPL9によって活性化されることが知られているので、野生型植物とdwf5 変異体のSPL9タンパク質量を比較したところ、dwf5 変異体ではSPL9タンパク質量が減少していた。解析の結果、SPL9はプロテアソーム系を介して分解され、dwf5 変異体ではSPL9の安定性が大きく低下していることが判った。よって、BRは栄養相転換においてSPL9を安定化させる機能を有していると考えられる。BRシグナル伝達における重要な因子の1つであるGSK3様キナーゼのBRASSINOSTEROID INSENSITIVE2(BIN2)は、基質をリン酸化することでBRシグナル伝達を負に制御している。そこで、dwf5 変異体でのSPL9の減少にBIN2が関与しているかを調査したところ、BIN2はSPL9と物理的に相互作用してSPL9をリン酸化すること、リン酸化されたSPL9は安定性が低下し、SPL9による栄養相転換促進機能が抑制されることが判った。また、dwf5 変異体ではBIN2タンパク質量が野生型植物よりも増加しており、dwf5 変異体をGSK3様キナーゼの阻害剤(LiCl)で処理すると向軸側葉身トライコーム形成が促進された。よって、dwf5 変異体の栄養相転換遅延は、BIN2タンパク質量の増加が関与していることが示唆される。さらに、BIN2はTOE1とも物理的に相互作用をしてリン酸すること、このリン酸化によってTOE1が不安定化し、TOE1による栄養相転換遅延機能を抑制することが判った。したがって、BIN2は、SPL9を不安定化させてmiR172量を減少させることでTOE1量を増加させ、一方でTOE1と相互作用をして不安定化させるという方向の異なる二重の方法で栄養相転換を制御をしていることになる。プロトプラストでの一過的発現解析からTOE1の安定性を調査した結果、SPL9-miR172経路を介したTOE1量の制御は、BIN2による制御よりも優勢な役割を果たしていることが判った。よって、miR172とBIN2によるTOE1量の転写後制御は、正常な栄養相転換を起こすのに必要なTOE1量を維持するために重要であると考えられる。以上の結果から、ブラシノステロイドはSPL9とTOE1を同時に安定化させることで植物の栄養相転換の制御に貢献していると考えられる。

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論文)ブラシノステロイドシグナル伝達変異による新たな緑の革命

2023-07-06 17:10:19 | 読んだ論文備忘録

Reducing brassinosteroid signalling enhances grain yield in semi-dwarf wheat
Song et al.  Nature (2023) 617:118-124.

doi:10.1038/s41586-023-06023-6

現代コムギの緑の革命品種は、Reduced height-B1bRht-B1b)およびRht-D1b 対立遺伝子により、半矮性で倒伏抵抗性の植物構造を付与している。しかし、Rht-B1bRht-D1b はともにジベレリン(GA)シグナル抑制因子DELLAタンパク質の機能獲得変異対立遺伝子であり、植物の成長を抑制し、窒素利用効率と穀粒登熟に悪影響をおよぼしている。そのため、緑の革命品種は、穀粒が小さく、収量を維持するために大量に窒素肥料を必要とする。そこで、中国農業大学のNi らは、新たな緑の革命品種を育成することを目的に、半矮性コムギ品種のHeng597(Heng)とShi4185(Shi、Rht-B1b 対立遺伝子を有する)のF2分離集団における量的形質遺伝子座(QTL)を解析した。その結果、Heng由来の高い籾千粒重に関与するQTL QTgw.cau-4B を同定した。さらに遺伝子マッピングを進めた結果、QTgw.cau-4B は、Hengゲノムのr-e-z と呼ばれる約500キロ塩基断片の欠失と関連していることが判った。このr-e-z 断片の欠失によって、HangゲノムではRht-B1EamA-BZnF-B の3遺伝子が欠損している。また、r-e-z 欠失遺伝子型は、Rht-B1bEamA-BZnF-B 対立遺伝子を有する遺伝子型と同様の半矮性形質を示した。よって、r-e-z ハプロブロック欠失は半矮性品種の穀物収量を高めることに応用できる可能性がある。r-e-z 断片の欠失したNIL-HengRht-B1bEamA-BZnF-B 対立遺伝子を有するNIL-Shi の2つの準同質遺伝子系統(NIL)を解析した結果、両NILとも草丈は同程度であったが、NIL-Heng はNIL-Shi よりもコンパクトな植物体形状、太く丈夫な稈、大きな止葉と穂、高い籾重となり、より好ましい農業形質を示した。また、NIL-Heng はNIL-Shi よりも低窒素条件下でのバイオマスが高く、窒素利用効率が有意に改善した。さらに、NIL-Hengでは、窒素代謝関連遺伝子を活性化する転写因子GROWTH-REGULATING FACTOR 4(GRF4)が増加し、DELLAタンパク質が減少していた。圃場試験の結果、NIL-Heng は、栽植密度が高くなるにつれて、NIL-Shi よりも単位当たりの穀物収量の増加率が高くなり、密植への優れた適応性を示した。また、NIL-Shi の圃場では著しい倒伏が見られたが、NIL-Heng では栽植密度が高い圃場でも倒伏は見られなかった。r-e-z ハプロブロック欠失は、12の中国コムギ品種に見られ、それらの多くは、Rht-B1b またはRht-D1b 対立遺伝子を持つ遺伝子型と比較して、有意に高い籾千粒重と大きな穂を示したが、草丈は同程度であった。ゲノム編集によって、半矮性コムギ品種FielderのZnF-BEamA-BRht-B1b をノックアウトした変異体を作出して表現型を解析した結果、rht1-bb 変異体はFielderよりも草丈と籾千粒重が高くなったが、znf-bb 変異体はFielderよりも草丈、籾千粒重とも僅かに低くなり、EamA の変異体(eama-bbeama-aabbdd )の草丈と籾千粒重は、Fielderと同等であった。これらの結果から、r-e-z 欠失株ではZnF-BRht-B1b の欠損がそれぞれ半矮性と籾千粒重増加をもたらしたことが示唆される。znf-bb rht1-bb 二重変異体は、Fielderと同程度の草丈を示したが、Fielderよりも穂と穀粒が大きくなった。したがって、ZnF-B 欠失変異体はRht-B1b と同様の半矮性形質を与えるが、Rht-B1b よりも穀物形質に対する多方面への影響が少なく、半矮性コムギ育種において緑の革命遺伝子を置き換える可能性が大きいと考えられる。暗所で育成したznf-bb 変異体実生は野生型植物よりも子葉鞘が短く、epi-brassinolide(eBL)処理に対する非感受性表現型を示した。また、全てのZnF ホモログ遺伝子をノックアウトしたznf-aabbdd 変異体は、子葉鞘と草丈が有意に短く、eBLとブラシノステロイド(BR)生合成阻害剤brassinazoleに対して感受性を示さなかった。転写産物解析から、znf-aabbdd 変異体ではBR生合成とシグナル伝達に関連する遺伝子の転写産物量がFielderと比べて有意に変化していることが判った。これらの結果から、ZnF はBRシグナル伝達を正に制御していることが示唆される。BRシグナルはGA生合成を制御していることが知られており、znf-aabbdd 変異体ではGA生合成遺伝子(DWARF18)の発現量が低下してGA不活性化遺伝子(GA2ox10GA2ox3)発現量が増加し、その結果、生理活性GA量が減少していた。一方、castasterone、typhasterolを含む内生BR量は、znf-aabbdd 変異体とFielderの間で有意差はなかった。ZnFタンパク質は、C末端側にコイルドコイルドメインとRING-fingerドメイン、N末端に7つの膜貫通ドメインを有しており、細胞膜局在タンパク質であることが示唆される。解析の結果、ZnFはBR受容体のBR INSENSITIVE 1(TaBRI1)、およびTaBRI1によるBR受容を抑制しているBRI1 KINASE INHIBITOR 1(TaBKI1)と特異的に相互作用することが判った。さらに、eBLはZnFとTaBKI1の相互作用を増強し、ZnFとTaBRI1の結合を抑制した。また、TaBRI1は、ZnF-TaBKI1間の相互作用を強めた。これらの結果から、TaBRI1は、BRシグナルに応答してZnF-TaBKI1の結合を促進していると考えられる。znf-aabbdd 変異体は、Fielderと比較してTaBKI1蓄積量が多く、Fielderでは、znf-aabbdd 変異体とは異なり、eBL処理によって細胞膜上のTaBKI1が急速に減少した。解析の結果、ZnFはE3ユビキチンリガーゼとしてTaBKI1をユビキチン化してプロテアソーム系による分解へと導いており、この分解は細胞膜上のTaBKI1を対象に行われていることが判った。よって、ZnFはBRシグナル抑制因子TaBKI1のプロテアソームによる破壊を促進してBRシグナル活性化因子として働き、ZnF の欠損はTaBKI1を安定化させてBRシグナル伝達を遮断していると考えられる。r-e-z ハプロブロック欠失を実際のコムギ育種に用いたところ、この育種系は、Rht-B1b のように効果的に半矮化を達成させるだけでなく、コムギ生産の収量ポテンシャルと持続可能性を高めることが示された。以上の結果から、r-e-z ハプロブロックの欠失によるRht-B1ZnF-B の欠損は、BRシグナル伝達を操作することによって高収量で半矮性のコムギ品種を作出する重要な育種戦略を提供しているといえる。

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植物観察)箱根

2023-07-04 20:35:25 | 植物観察記録

箱根へバイケイソウの観察に行ってきました。今年の箱根はバイケイソウが一斉開花しており、群生地では一面が開花個体であふれていました。多くの花は葯の裂開が進んでおり、すでに花粉がなくなっている花が多く見られましたが、訪花昆虫は観察することができました。一番多く見られたのは、ハイイロハネカクシで、コメツキムシ類も見られました。また、今回初めてヒメホシカメムシが訪花昆虫として観察されました。以前は、ハエ類が多く観察されたのですが、天気が曇りのためか、花粉を付けた葯が少ないためか、今回は全く見られませんでした。

 


群生地ではバイケイソウは一斉開花

 


花の多くは葯が裂開して花粉はほとんど無くなっていた

 

訪花昆虫は背中に花粉を付着させている(左上より、ハイイロハネカクシ、コメツキムシ類1、2、ヒメホシカメムシ)

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