Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)SMXLタンパク質による師部形成制御

2017-06-30 05:56:55 | 読んだ論文備忘録

Strigolactone- and Karrikin-Independent SMXL Proteins Are Central Regulators of Phloem Formation
Wallner et al. Current Biology (2017) 27:1241-1247.

DOI: 10.1016/j.cub.2017.03.014

シロイヌナズナSUPPRESSOR OF MAX2 1SMAX1 )とそのホモログSMAX1-LIKE2SMXL2 )~SMXL8 は遺伝子ファミリーを形成しており、3つのサブクレイドに分かれている。ドイツ ハイデルベルグ大学Greb らは、サブクレイド2に属するSMXL3SMXL4SMXL5 の機能を解析するために、それぞれの単独変異体、二重変異体、三重変異体の芽生えの表現型を解析した。その結果、単独変異体の表現型は野生型との差異が認められなかったが、二重変異体はすべての組合せで主根が短くなった。したがって、これら3つの遺伝子は主根の成長に関して冗長的に同等の貢献をしていることが示唆される。このような表現型はSMXL 遺伝子の他のサブクレイドの変異体では見られなかった。三重変異体は成長初期においては二重変異体と同等の表現型を示したが、その後植物体が枯れてしまった。それぞれの遺伝子のプロモーター活性を見たところ、SMXL3 プロモーターは主に根の維管束で活性を示し、子葉の維管束でも弱い活性が見られた。SMXL4SMXL5 のプロモーターは調査した全ての器官の維管束で活性を示し、特に根端部で強い活性を示した。根端分裂組織(RAM)を詳細に観察すると、すべてのプロモーター活性は静止中心近傍の師要素-前形成層幹細胞や成熟した師部で活性が見られた。したがって、SMXL3SMXL4SMXL5 プロモーターは師部関連組織特異的に活性を示す。smxl4;smxl5 変異体のRAMの大きさは、2日目の芽生えでは野生型と同程度だが、その後徐々に小さくなっていった。よって、SMXL4/5 はRAM活性の維持に関与していることが示唆される。smxl4;smxl5 変異体では原生師部や後生師部を形成する二次接線細胞分裂に遅延が生じていた。さらに、いくつかの試験からsmxl4;smxl5 変異体のRAMでは原生師部から師要素への分化過程が損なわれていることが示された。また、SMXL3/4/5 遺伝子は師部形成制御において用量依存的に作用していた。接木試験からsmxl4;smxl5 変異体RAMでは師部による輸送が低下していることが示された。smxl4;smxl5 変異体とsmxl4;smxl5;max2 三重変異体との間に根長やRAMの大きさに差異が見られないこと、max2 変異体の師要素分化に野生型との差異は見られないことから、SMXL4SMXL5 はMAX2によるストリゴラクトン(SL)シグナルやカリキン(KAR)シグナルとは独立して師部分化の促進やRAM活性に影響していると考えられる。SL/KARシグナル伝達に関与しているSMXL 遺伝子ファミリーのSMAX1SMXL5 プロモーター制御下でsmxl4;smxl5 変異体で発現させたところ、SMXL5 を発現させた場合と同様に、変異体の主根が短くなる表現型が抑えられた。したがって、SMAX1はSMXL5と発現する細胞が同じであればSMXL5の代替となりうることが示唆される。SL/KARシグナルを誘導するrac-GR24を添加して育成すると、SMAX1によるsmxl4;smxl5 変異体の根の伸長の補整効果が失われた。しかし、SMXL5 を発現させた変異体では根の伸長回復はみられた。SMXL3、SMXL4もrac-GR24の影響を受けなかった。以上の結果から、SMXLタンパク質サブクレイド2に属するSMXL3、SMXL4、SMXL5は、ストリゴラクトンやカリキンのシグナルとは独立して師部形成の制御に関与していることが示唆される。

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植物観察)箱根

2017-06-24 20:58:26 | 植物観察記録

箱根へバイケイソウの観察に行ってきました。箱根の調査地でも標高の低いエリアから徐々にバイケイソウ開花が始まりました。今日をもって今年花成した個体数を確定しました。調査地3ヵ所とも昨年よりも花成個体数が増加しており、個体数の少ないエリアでは昨年よりも2倍程度の増加(6個体から14個体)、個体数の多い2箇所では約5倍の増加(19個体から95個体、13個体から61個体)が観察されました。開花した花を見ると、訪花昆虫が何種類か見られ、やはりハネカクシが頻度高く観察されます。花の基部に口をつけて何かを吸引するような動作をし、背中にたくさんの花粉をつけています。しかも花上で2頭が交尾をしているような場面にも遭遇します。やはりハネカクシはバイケイソウのポリネーターとなっているのではないのでしょうか。

 

箱根でもバイケイソウの開花が始まった

 

バイケイソウの花上でハネカクシが交尾をしている?

 

花を食べるバイケイソウハバチの幼虫 これをハネカクシが捕食するのか?

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植物観察)北海道バイケイソウ花成個体数調査 野幌

2017-06-20 22:30:55 | 植物観察記録

今日は北海道バイケイソウ花成個体数調査の最後の調査ポイント野幌森林公園に行きました。ここの調査エリアでは2013年の一斉開花で415個体の花成個体が見られましたが、その後2年間花成個体が殆どなく、昨年ようやく12個体が花成しました。そして今年なのですが、花成個体は37個体でした。昨年と比較すれば花成個体数は3倍増になりますが、一斉開花の年と比べるとまだ1/10です。ということで、今回の調査を総括すると、一部の地域を除き本年の道内バイケイソウ花成個体数は昨年よりも増加しているが、一斉開花年と比べるとまだまだ少ないと言うことになろうかと思われます。昨年から花成個体数調査を始めた箱根三国山エリアでは、花成個体が昨年と比べて数倍増加していますが、この数も一斉開花年と比べると少ないのかもしれません。

 

バイケイソウ花成個体は森林公園内でちらほら見られた

 

バイケイソウの花上のヨツボシヒラタシデムシ
どうしてここにいるのだろうか?

 

北大植物園で植栽されているバイケイソウ(左)も今年は花成していなかった
一方、隣のシュロソウ(右)は毎年花成する

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植物観察)北海道バイケイソウ花成個体数調査 旭川

2017-06-19 20:48:26 | 植物観察記録

今日は旭川の調査地に行きました。礼文島でそれなりに花成個体の増加があったので期待していたのですが、なんと花成個体は2個体でした。この調査地では2013年の一斉開花で257個体が花成し、その後は2014年、2015年と花成個体なし、2016年に3個体花成しました。本州の箱根でも今年のバイケイソウ花成個体は昨年よりも増えていたので、旭川でも少しは増えるのかと思っていたのですが、全く増えていませんでした。バイケイソウの花成個体数の変動は全国規模で同調するのではないようです。この地域の一斉開花はどの周期で起こり、それは全道、全国の一斉開花と同調するのでしょうか。2013年の一斉開花は私の調査地でたまたま一致しただけなのでしょうか。道内のもう1つの調査地、野幌には明日行きます。

 

旭川の調査地の様子 中央奥に花成個体がある

 

花成しなかった個体は偽茎が倒れ、葉が枯れ始めている

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植物観察)北海道バイケイソウ花成個体調査 サロベツ

2017-06-18 19:25:30 | 植物観察記録

今日はサロベツ方面で調査を行ないました。去年から新たに観察を始めた兜沼周辺の林床のコバイケイソウ群生地で花成個体数を調査しました。昨年は88個体の花成個体がありましたが、今年は76個体でした。花成した株は昨年とは異なると思いますが、数としては昨年とほぼ同数で花成個体数の大きな変化は認められませんでした。コバイケイソウもバイケイソウと同様に花成個体数に年変化があるのかはもう少し長期間中佐する必要がありますが、兜沼の調査地では今年の花成個体数は昨年と同程度ということになりました。サロベツ原野の草原生のコバイケイソウでは花成個体数がやや多いように感じられました。これまでの観察でコバイケイソウの花が全く見られなかった年というのはなかったと思いますので、コバイケイソウの花成は大きな年変動を起こさないのかもしれません。

 

兜沼周辺の林床コバイケイソウの花成個体数は昨年と同程度

 

コバイケイソウの両性花は緑の雌蕊が目立つので雄花との区別がつきやすい

 

サロベツ原野のコバイケイソウ

 

サロベツ湿原センターの木道では2株のバイケイソウが開花していた

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植物観察)北海道バイケイソウ花成個体調査 礼文島

2017-06-17 23:10:32 | 植物観察記録

北海道へバイケイソウ花成個体数調査に行きました。最初は礼文島から。ここでは昨年から遊歩道上の特定エリア内に生えている草原生バイケイソウの花成個体数を数えるようになりました。昨年が50個体であったのに対して、今年は188個体が花成していました。昨年と比べ約4倍花成個体数が増加しており、箱根において観察した花成個体数の増加と呼応しています。やはり今年はバイケイソウの花の当たり年、一斉開花年と言えるのでしょうか。他の2箇所の調査地(旭川、野幌)の結果が楽しみです。

 

今年は礼文島のバイケイソウ花成個体数はやや多いように思われる

 

礼文島のバイケイソウの葉にも虫食いが見られる

 

おそらくこの巻貝がバイケイソウの葉を食べている。オカモノアラガイか?

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論文)同じ揮発性物質が送粉者と捕食者を誘引する

2017-06-15 05:37:30 | 読んだ論文備忘録

Tissue-Specific Emission of (E)-α-Bergamotene Helps Resolve the Dilemma When Pollinators Are Also Herbivores
Zhou et al. Current Biology (2017) 27:1336-1341.

DOI: 10.1016/j.cub.2017.03.017

(E)-α-ベルガモテンは、食害を受けた植物の葉が局所的もしくは全身で放出するセスキテルペンで、捕食者であるヒメオオメカメムシ属(Geocoris spp.)を誘引することで間接的な防御に関与しているが、花からも放出されている。ドイツ マックス・プランク化学生態学研究所Xu らは、(E)-α-ベルガモテンの食害による誘導と花からの放出について野生タバコN. attenuata を用いて解析した。N. attenuata の花は主に夜間に(E)-α-ベルガモテンを放出している。放出は花冠が開く午後6時頃から急速に増加し、午後8時から午前1時にかけて放出量が最大となり、その後は朝にかけて減少していった。この放出パターンは、花が放出する主要な誘引物質であるベンジルアセトンの放出パターンと類似しており、送粉者であるタバコスズメガ(M. sexta )の活動と一致している。葉では、恒常的に(E)-α-ベルガモテンを放出しており、朝の放出量が最大で、午前2時までに徐々に減少していくが、放出量は非常に少ない。葉に傷を付けて傷口にタバコスズメガ幼虫の口内分泌物を付けることで食害を模倣すると、(E)-α-ベルガモテンの放出は処理によって誘導をかけた日の午後12時から8時の間と翌日の午前6時から10時の間の2回のピークが見られた。この食害処理による(E)-α-ベルガモテンの放出時間帯は、フィールドでのヒメオオメカメムシの活動や発生量と一致していた。N. attenuata の自然系統23種について花および食害誘導した葉からの(E)-α-ベルガモテン放出量を見ると、系統間での差はあるが、両器官の放出量に相関が見られた。したがって、系統間での(E)-α-ベルガモテン放出量の差異は花と食害誘導葉とも同じ遺伝学的な制御によるものであることが示唆される。(E)-α-ベルガモテン放出量の少ないアリゾナ産の自殖系統と放出量の多いユタ産の自殖系統を交雑して作成したアドバンストインタークロス組換え近交系(AI-RIL)集団を用いてQTLマッピングを行ない、(E)-α-ベルガモテンの食害誘導放出を制御する2つのQTL遺伝子座(QTL1、QTL2)が見出された。QTL1とQTL2は優性で相加的に作用した。主要なQTL遺伝子座のQTL2についてトマトゲノムのシンテニー領域の解析を行ない、テルペンシンターゼ(TPS)クラスター内のTPS38 が見出された。NaTPS38N. attenuata の葉の食害によって強く誘導された。また、NaTPS38 は花の花冠筒部で強く発現していたが花冠では発現していなかった。大腸菌でNaTPS38 を発現させた試験から、NaTPS38 は(E)-α-ベルガモテン生合成に関与していることが示唆された。ウイルス誘導遺伝子サイレンシング(VIGS)でNaTPS38 をサイレンシングしたN. attenuata は、花や葉、メチルジャスモン酸処理した葉での(E)-α-ベルガモテン放出量が減少していた。花や食害誘導葉でのNaTPS38 転写産物量は、N. attenuata 自然系統23種の間で(E)-α-ベルガモテン放出量と相関が見られた。これらの結果から、N. attenuata における食害誘導葉や花での(E)-α-ベルガモテンの放出はNaTPS38 を介してなされていると考えられる。NaTPS38の生成物はセスキテルペンだが、NaTPS38 はモノテルペンシンターゼクラスター(TPS-bクレイド)に属している。系統樹解析から、TPS38 はナス科植物特異的であることがわかった。モノテルペンシンターゼは多くの場合プラスチドに局在するが、セスキテルペン類は主に細胞質で合成される。NaTPS38タンパク質は細胞質に局在しており、祖先型から葉緑体トランジットペプチドを喪失したことが示唆される。また、細胞内局在以外にも、NaTPS38 は進化の過程においてN. attenuata 集団で正の自然選択がなされてきたと思われる。花での(E)-α-ベルガモテン放出の生態学的な機能を調査するために、タバコスズメガの触角電図を計測したところ、花のヘッドスペースに相当する(E)-α-ベルガモテンの濃度で弱い反応が見られることが判った。また、この濃度の(E)-α-ベルガモテンでガの口吻においてニューロン反応が見られた。(E)-α-ベルガモテンはスズメガが口吻を伸ばして周囲を探索するプロービング行動を延長させる効果があり、(E)-α-ベルガモテンを放出しないN. attenuataVIGS-NaTPS38 )の花よりも放出する花の方がプロービング時間が長かった。観察されたプロービング行動の変化が植物の適応度に対して直接の影響があるかを調査するために、半自然環境の巨大テントの中にタバコスズメガを放ち、花冠筒部に(E)-α-ベルガモテンを添加した除雄花と対照の除雄花の稔実を比較したところ、(E)-α-ベルガモテンの添加は蒴形成数と花当りの種子数を増加させることがわかった。したがって、花の(E)-α-ベルガモテンはタバコスズメガを介したN. attenuata の他家受粉を高めていることが示唆される。以上の結果をまとめると、N. attenuata の花はNaTPS38 を発現して(E)-α-ベルガモテンを夜間に放出し、タバコスズメガによる授粉を促進するが、一部の送粉者は同じ植物の葉に卵を産み、葉が孵化した幼虫に食べられてしまう。しかし、タバコスズメガ幼虫によって食害を受けた葉は日中に同じ遺伝子を発現させて同じ物質を放出して幼虫の捕食者を誘引し、結果的に食害を抑える。したがって、NaTPS38 とその生成物である(E)-α-ベルガモテンの組織特異的かつ時間特異的な発現は防御と送粉者誘引の両方に寄与し、自らに適合した送粉者が貪欲な植食者でもあるというN. attenuata が直面しているジレンマの解決に貢献している。さらに、植食者と送粉者との相互作用は、植物の進化に相乗的もしくは相加的に作用しうることが示唆される。

マックス・プランク化学生態学研究所のプレスリリース

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植物観察)箱根

2017-06-11 22:21:43 | 植物観察記録

箱根へバイケイソウの観察に行ってきました。関東は先週梅雨入りし、バイケイソウの生える林床は大分薄暗くなってきました。花成しなかった個体は葉が黄変し始め、偽茎も倒れ始めました。バイケイソウハバチの食痕も見られるようになりました。ですが、昨年の同じ時期と比べると、元気なバイケイソウが多いようです。3ヶ所の調査地での花成個体数は、昨年よりも4~5倍多くなっていました。この三国山エリアでの花成個体数調査は昨年から始めたので、この数が一斉開花に相当するものなのかは判りませんが、かつて箱根神山エリアで観察していた時の経験からすれば、群生地あたりの花成個体の頻度は一斉開花と言えるくらいの多さとなっています。来週は北海道エリアで調査を行ないますので、そこでの花成個体数がどのくらいなのか、2013年並に多いのかが興味がもたれるところです。

 

バイケイソウの葉が黄変し始めたが、昨年の同じ時期と比べると元気な個体が多いようだ

 

花成個体は昨年よりも4~5倍多い

 

バイケイソウハバチの食痕が目立つようになってきた。

 

葉を裏返すとハバチの幼虫がいた

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論文)ジャスモン酸の細胞内分布を制御するトランスポーター

2017-06-05 05:57:47 | 読んだ論文備忘録

Transporter-Mediated Nuclear Entry of Jasmonoyl-Isoleucine Is Essential for Jasmonate Signaling
Li et al. Molecular Plant (2017) 10:695-708.

DOI:10.1016/j.molp.2017.01.010

ジャスモン酸(JA)は細胞質においてイソロイシン(Ile)と結合して生物活性のあるJA-Ileとなり、核内でユビキチンリガーゼ複合体を形成しているCOI1に結合することでJAZタンパク質のユビキチン化、分解をもたらしている。しかしながら、JA-Ileを核内へ輸送する特異的トランスポーターの存在については明らかとなっていない。中国農業大学のLiu らは、JA処理をすることでシロイヌナズナの雄ずいにおいて発現が誘導されるABCトランスポーター遺伝子を酵母で発現させ、JAが酵母の成長を阻害する作用を基にトランスポーターのスクリーニングを行なった。その結果、AtJAT1/AtABCG16を発現する酵母はJA耐性を示し、細胞内JA保持量が少ないことを見出した。したがって、AtJAT1/AtABCG16は酵母細胞膜上でJAの排出を行なっていることが示唆される。シロイヌナズナをメチルジャスモン酸(MeJA)処理することでAtJAT1/AtABCG16 転写産物量は急速に増加し、2時間後には最大となった。atjat1 T-DNA挿入変異体は草丈が伸び、葉が長くなり、花や種子が大型化した。これは細胞の大きさが拡大したことによるものであった。atjat1 変異体ではJAによって発現が誘導されるOPR3JAZ5JAZ7 やJAシグナル伝達に関与する転写因子遺伝子のMYB21MYB24 の発現量が野生型よりも低くなっていた。 したがって、AtJAT1/AtABCG16はCOI1を経由したJAシグナル伝達経路の活性化に関与していると考えられる。GFP-AtJAT1融合タンパク質や免疫金による観察から、AtJAT1は細胞膜と核膜の両方に局在していることが示された。単離核を用いた実験から、AtJAT1/AtABCG16はJA-Ileの核内への取込みを高い親和性で行なうことが判った。この取込みはABCトランスポーター阻害剤によって阻害され、ATPに依存していた。また、AtJAT1/AtABCG16によるJA-Ileの取込みはコロナチン(COR)によって阻害されたが、JA、MeJA、リノレン酸、サリチル酸、アブシジン酸、グルコシノレートでは阻害されなかった。したがって、AtJAT1/AtABCG16は核膜を介したJA-Ileの取込みに関与していることが示唆される。標識したJAを野生型の細胞に与えると標識物は細胞質と核の両方で検出されるが、細胞質でのJA-Ile形成を触媒するJAR1が機能喪失したjar1 変異体の細胞では核の標識物量が減少して細胞質で多く見られるようになった。したがって、核内の標識物はJA-Ileであると考えられる。野生型植物の根において、JAZ1-GFP融合タンパク質はJA処理によって速やかに核内から消失するが、atjat1 変異体では消失しなかった。したがって、AtJAT1/AtABCG16はCOI1によるJAZタンパク質の分解に関与していることが示唆される。標識したJAを用いたい実験から、atjat1 変異体懸濁培養細胞はJA蓄積量が多く、AtJAT1 を過剰発現させた細胞では少ないことがわかった。したがって、細胞膜上のAtJAT1/AtABCG16は細胞外へのJAの排出に関与していることが示唆される。また、細胞膜上のAtJAT1/AtABCG16はJAのみを輸送基質としていた。これらの結果から、AtJAT1/AtABCG16は核膜上ではJA-Ileの核内への取り込みを、細胞膜上ではJAの細胞外への排出を行なっていると考えられる。

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