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論文)シロイヌナズナ腋芽の活性化過程

2024-07-05 14:10:39 | 読んだ論文備忘録

The activation of Arabidopsis axillary buds involves a switch from slow to rapid committed outgrowth regulated by auxin and strigolactone
Nahas et al.  New Phytologist (2024) 242:1084-1097.

doi: 10.1111/nph.19664

英国 ケンブリッジ大学Leyserらは、シロイヌナズナの腋芽の活性化制御機構を解析するために、1つの腋芽とその下部の茎生葉を持つ茎節片を切り出して培養液に差し、生長過程を観察した。その結果、茎節片の腋芽は、シグモイダルな生長曲線を描いて生長する芽と、ほとんど生長しない芽の2つの集団に分かれることが判った。活性芽の生長曲線をを対数スケールでプロットしたところ、芽の生長は直線的ではなく、最初はゆっくりと生長し(ラグ期)、その後急速な生長期に切り替わり、その後に生長が止まる(プラトー期)という生物学的に異なる3つの段階があることが判明した。対照的に、不活性芽は、生長しないか、あるいは急速な生長期に移行することなくわずかに生長するのみであった。芽の生長が活性化する時期は茎節片によって異なるが、遅い成長段階と速い成長段階は維持されていた。これらの結果から、シロイヌナズナの芽の活性化にはスイッチのようなものが存在し、ゆっくりと生長する期間と、急速に伸長する期間という2つの異なる段階で進行すると考えられる。茎頂を切除していない茎節片の芽は拡張が遅いが、茎頂を除去するとほとんどすべての芽は活性化し、急速に伸長した。2つの条件における全体的な生長量は異なるが、両者の生長曲線は非常によく似ていた。しかも、驚くべきことに、活性芽は茎頂の有無に関係なく同じようなタイミングで急速に生長期に移行した。したがって、茎頂は芽の生長を継続的に抑制するわけではなく、急速な成長段階への移行を著しく低下させ、頂芽優勢から逃れた芽の生長については影響を与えないと考えられる。このことから、芽がいったん転換点に達すると、頂芽優勢に対して鈍感になり、その活性化を逆転させることは困難となるといった、ヒステリシスなスイッチによって芽の生長は活性化されているものと思われる。芽の生長は茎頂から供給されるオーキシンによって阻害されることから、茎節片の茎頂除去後に切口にオーキシンアナログNAAを含んだラノリンペーストを付けて芽の生長を観察した。その結果、オーキシン処理はラグ期を延長させるが、その後の急速な成長段階には影響しないことが判った。芽の活性化は茎との間のオーキシン輸送運河の形成と関連していることから、運河が形成されている芽は茎頂からのオーキシンに対する感受性を失うのではないかと考えた。そこで、茎頂を除去して時間が経過してからオーキシンを供給したところ、茎頂除去直後、24時間後、48時間後にNAAを投与すると芽の活性化を抑制して急速成長への転換を遅らせたが、72時間後以降からは抑制されなくなることが判った。興味深いことに、NAA無処理茎節片の芽の生長のラグ期は平均3.15日で、これはオーキシン感受性の期間を反映しており、茎頂オーキシンによる阻害に鈍感となり急速生長へ切り替わる時期と一致している。これらの観察と一致する仮説として、ラグ期は芽から主茎へのオーキシン輸送運河が確立されるまでの期間であるということが考えられる。運河形成は、元に戻すことはできないヒステレリシスな過程であることから、3日後に芽が茎頂オーキシンに鈍感になる理由を説明している。ストリゴラクトン(SL)はシュート分枝の制御因子として重要であり、オーキシンによって生合成が促進される。SLは、分枝を抑制する転写因子BRANCED1BRC1)の発現を促進し、細胞膜上のオーキシントランスポーターPIN1の蓄積を減少させることが知られている。茎節片に基部からSLアナログのrac-GR24を与えると、芽の活性化が阻害されてラグ期が延長し、生長も抑制された。brc1 brc2 二重変異体の芽は、野生型植物Col-0よりも早く活性化し、活性化した芽はCol-0と同じ速度で生長した。このことは、brc1 brc2 変異が頂芽優勢に対する感受性を変化させていることを示唆している。brc1 brc2 変異体の芽のSL応答性を見たところ、Col-0と同様の効果を示し、SL処理はラグ期の日数を増加させ、芽の生長を抑制した。対照的に、SL非感受性d14 変異体の芽はSL処理による抑制を受けなかった。したがって、SLの効果にはBRC1非依存的な作用が含まれていると考えられる。PIN1以外のオーキシントランスポーターが急速な芽の生長に関与しているかをpin347 三重変異体を用いて解析を行なったが、ラグ期の長さ、芽の生長速度、SL応答性はCol-0と同等であることが判った。したがって、PIN3/4/7によるオーキシン輸送は、芽の生長とSL応答において主要な役割を果たしてはいないと考えられる。ABCB19オーキシントランスポーターは、芽の活性化初期段階の芽へのオーキシン極性輸送に影響していると考えられており、abcb19 変異体の芽は、Col-0よりも生長が遅く、活性後の生長も遅くなっていた。全体的に、abcb19 変異体の表現型はSL処理に似ており、ラグ期と急速な成長期の両方が変異の影響を受けていた。brc1 brc2 変異は、abcb19 変異体のラグ期の延長を部分的に抑制したが、芽の生長速度に対しては影響しなかった。Col-0のBRC1 転写産物量は、不活性芽に比べて活性芽で低くなっており、abcb19 変異体でも同じ傾向が見られるが、発現量はCol-0よりも低くなっていた。したがって、BRC1はラグ期の長さにのみ影響し、BRC1 発現量が低いということだけでは芽の活性化を促進するには不十分であることが示唆される。2つの腋芽を有する2節からなる茎節片の芽は、1節の茎節片の芽よりも活性化が遅れて生長速度が低下し、SL処理やabcb19 変異体と類似した表現型を示した。以上の結果から、シロイヌナズナの腋芽は、ゆっくり生長する期間とそれに続く急速な生長への転換によって活性化されることが判った。この腋芽の活性化は、オーキシン輸送運河の確立やストリゴラクトンによる制御をうけている。

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