Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)ユビキチン特異的プロテアーゼによる避陰反応の制御

2021-11-28 08:19:36 | 読んだ論文備忘録

Ubiquitin-specific proteases UBP12 and UBP13 promote shade avoidance response by enhancing PIF7 stability
Zhou et al.  PNAS (2021) 118:e2103633118.

doi:10.1073/pnas.2103633118

シロイヌナズナの脱ユビキチン化酵素(DUB)の ユビキチン特異的プロテアーゼ(UBP)サブファミリーに属するUBP12とUBP13の機能喪失変異体は、葉柄が短く、矮化した表現型を示す。シンガポール国立大学Chua らは、各種UBP12/UBP13変異体および過剰発現個体の光に対する応答性を調査した。その結果、ubp12/13 二重変異体は赤色/遠赤色(R/FR)比の低い光(SL)を照射した際の避陰応答(SAR)が野生型植物よりも悪く、胚軸や葉柄の伸長が殆ど促進されないことが判った。また、UBP12 もしくはUBP13 過剰発現個体はSL照射による胚軸伸長が野生型よりも促進された。これらの結果から、UBP12/UBP13はSARの正の制御因子として作用していることが示唆される。光質の検知はフィトクロムphyBの作用が重要であり、phyB 機能喪失変異体は高R/FR比光照射下でも胚軸や葉柄の伸長が促進される。phyB 変異体にubp12/13 変異を導入するとphyB 変異体の恒常的SARが抑制されることから、UBP12UBP13phyB の下流で作用していると考えられる。phyBを介したSL応答ではオーキシンの生合成酵素遺伝子の発現が活性化され、オーキシン蓄積量が増加することが知られている。そこで、ubp12/13 二重変異体にオーキシンアナログのピクロラム(PIC)を添加したところ胚軸伸長が促進された。また、ubp12/13 二重変異体はオーキシン合成酵素遺伝子YUC8YUC9 およびオーキシン応答遺伝子IAA19IAA29 のSL照射による発現誘導が見られなかった。したがって、UBP12/UBP13はSL受容とオーキシン生合成の連動に関与していると考えられる。SLに応答したオーキシン蓄積は、PHYTOCHROME INTERACTING FACTOR(PIF)によって制御されており、特にPIF7が重要であることが知られている。pif7 変異体はSL照射に対する感受性がやや低下し、UBP12 もしくはUBP13 を過剰発現させても感受性の回復は見られなかった。このことから、UBP12/UBP13を介したSARはPIF7に依存していると考えられる。解析の結果、PIF7とUBP12/UBP13は光質に関係なく相互作用をすることが判った。PIF7タンパク質は26Sプロテアソーム系によって分解され、SL照射はPIF7の分解に対して抑制的に作用した。PIFタンパク質の安定性はリン酸化やユビキチン化によって制御されており、SLはPIF7の脱リン酸化を促進することで安定性を高め、SLに応答した成長が促進されることが判った。また、PIF7の分解はUBP12 過剰発現個体で抑制され、ubp12/13 二重変異体で促進された。PIF7は、SL照射条件と比較して白色光照射条件では高度にポリユビキチン化されており、UBP12 過剰発現個体ではPIF7のポリユビキチン化が低下していた。よって、UBP12/UBP13はPIF7を脱ユビキチン化して安定性を高めていると考えられる。ubp12/13 二重変異体でPIF7 を過剰発現させると表現型が改善され、SL照射によるYUC8IAA19 の発現誘導も見られるようになった。以上の結果から、ユビキチン特異的プロテアーゼのUBP12とUBP13は、PIF7を脱ユビキチン化して安定性を高め、避陰応答におけるphyB-PIF7-オーキシンカスケードの正の制御因子として機能していると考えられる。通常の光条件下ではphyBはPfr型となりPIF7と相互作用をし、PIF7のリン酸化が促進される。この修飾はPIF7のポリユビキチン化を促進し、PIF7は26Sプロテアソーム系により分解される。一方、SL条件下ではphyBがFR光によってPr型となることでPIF7は脱リン酸化型となり、UBP12/13による脱ユビキチン化が進むことによって安定化する。このことで蓄積量が増加したPIF7がオーキシン生合成遺伝子を活性化してオーキシン蓄積量が増加し、避陰応答が起こると考えられる。

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論文)受容体様細胞質キナーゼによる傷害誘導ジャスモン酸蓄積の制御

2021-11-06 15:32:03 | 読んだ論文備忘録

A tomato receptor-like cytoplasmic kinase, SlZRK1, acts as a negative regulator in wound-induced jasmonic acid accumulation and insect resistance
Sun et al.  Journal of Experimental Botany (2021) 72:7285–7300.

doi:10.1093/jxb/erab350

受容体様細胞質キナーゼ(RLCK)は、生物学的/非生物学的ストレス応答や成長過程といった様々な植物の細胞活性に関与している。中国農業大学のQu らは、トマトのRLCK-XII-2メンバーであるHOPZ-ETI-DEFICIENT 1(ZED1)-related kinases 1(SlZRK1)について詳細な解析を行なった。SlZRK1は細胞膜に局在しており、キナーゼ活性のない偽キナーゼである。SlZRK1 は様々な組織で発現しており、根や成熟果実での発現量が高かった。葉に機械的傷害を与えることでSlZRK1 の発現量は30分後に10倍に増加し、その後減少していった。また、黄化芽生えをメチルジャスモン酸(MeJA)処理することによって発現量が増加した。CRISPR/Cas9でSlZRK1 をノックアウトしたslzrk1 変異体と野生型植物の葉の遺伝子発現の差異をRNA-seq解析により調査したところ、変異体では31遺伝子の発現量が野生型よりも増加し、158遺伝子の発現量が減少しており、発現量が減少した遺伝子にはエチレンシグナル伝達に関与する遺伝子やサリチル酸およびジャスモン酸の生合成に関与する遺伝子が含まれていた。葉に傷害を与えると、1時間後にジャスモン酸(JA)の生合成やシグナル伝達に関与する遺伝子、JA応答遺伝子の発現量が増加するが、slzrk1 変異体は野生型よりも強く誘導された。よって、SlZRK1 は傷害応答に対して負に作用していると考えられる。slzrk1 変異体と野生型植物の葉の植物ホルモン含量を比較したところ、変異体のJA含量は無傷の葉では野生型よりも少ないが傷害葉では多くなっていた。また、変異体傷害葉はアブシジン酸蓄積量が野生型傷害葉よりも多くなっていた。そして、slzrk1 変異体は野生型植物よりもオオタバコガ(Helicoverpa armigera )幼虫の摂食に対する抵抗性が強くなっていた。以上の結果から、SlZRK1は傷害によって誘導されるジャスモン酸の蓄積に対して負の制御因子として機能しており、植食性昆虫の摂食に対する応答にも作用していることが示唆される。

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