Resistance to Striga parasitism through reduction of strigolactone exudation
Shi et al. Cell (2025) 188:1955-1966.
doi:10.1016/j.cell.2025.01.022
半寄生植物ストライガの発芽と生長は、宿主植物がリン酸(Pi)欠乏条件に置かれた際に根から分泌されるストリゴラクトン(SL)に依存している。中国農業大学のYuらは、ストライガの宿主となるソルガムの芽生えのRNA-seq解析を行ない、Piの有無での代謝経路や発現遺伝子の変化を調査した。その結果、Pi欠乏条件ではフェニルプロパノイドやフラボノイドの生合成に関与する遺伝子やABCトランスポーター遺伝子の発現が増加していることが確認された。ペチュニアのG-クラスABCトランスポーター(ABCG)のpleiotropic drug-resistant 1(PDR1)は、SLトランスポーターとして最初に報告され、PDR1 欠損変異体は、根からのSL分泌が減少して全寄生植物オロバンキ(Phelipanche ramosa)の発芽に悪影響を与えることが知られている。しかしながら、単子葉植物ではSL特異的トランスポータータンパク質は同定されていない。そこで、Pi欠乏条件とGR245DS処理の両方に応答して発現が変化するソルガムABCG遺伝子を探索したところ、ABCG36 とABCG48 の発現が上昇することが判った。両遺伝子は主に根で発現しており、表皮細胞で強い発現を示した。また、両タンパク質は細胞膜に局在していた。ABCG36、ABCG48がSLトランスポーターとして機能するかを確認するために、酵母での発現実験系による調査を行なった。SLは濃度依存的に酵母の成長を阻害するが、ABCG36 もしくはABCG48 を発現させた酵母は、高濃度GR245DS処理に対して耐性を示した。この耐性が輸送活性によるものであることを確認するために、ABCトランスポーター阻害剤であるNa3VO4で処理したところ、発現酵母で観察されたGR245DS毒性耐性が阻害された。また、ABCトランスポーターのATPase活性に関与しているWalker-Bモチーフが欠損したABCG36 またはABCG48 を発現させた酵母は、Na3VO4処理と同様に、SLによる酵母増殖阻害を緩和する機能を失った。さらに、短期取込みアッセイから、ABCG36 またはABCG48 を発現している酵母は、対照に比べて2倍量のGR245DSを排出し、この能力はNa3VO4処理によってほぼ消失した。これらの知見に基づき、ABCG36 およびABCG48 をそれぞれsorghum SL transporter 1(SbSLT1)およびSbSLT2 と命名した。SL存在下では、SL受容体のDWARF14(D14)とSLリプレッサーのDWARF53(D53)が相互作用をするが、SbSTL1 もしくはSbSTL2 を発現させた酵母ではD14とD53の相互作用が低下していた。SbSTL1、SbSTL2によるSLの細胞外排出は、アフリカツメガエル卵母細胞実験系においても確認された。植物体におけるSbSTL1、SbSTL2 の機能を確認するために、SbSTL1、SbSTL2 を過剰発現するシロイヌナズナ形質転換体を作出して表現型を観察したところ、両系統とも高濃度GR245DS処理による根の伸長阻害が見られず、対照よりも根のGR245DS含量が低く、根からのGR245DS排出量が多くなっていた。これらの結果から、SbSTL1、SbSTL2は植物体においてSL排出タンパク質として機能していることが示唆される。ソルガムには75のABCGサブファミリートランスポーター遺伝子があり、そのすべてがヌクレオチド結合ドメインと膜貫通ドメインを有している。系統樹解析から、SbSLT1 およびSbSLT2 にそれぞれ近縁な2つの遺伝子、Sobic.003G215800 およびSobic.010G165500 が同定されたが、これらのタンパク質にはSL排出能は見られなかった。また、ペチュニアSLトランスポーターPhPDR1 のホモログ遺伝子としてSbPDR1 が同定されたが、こちらもSL排出能を有していなかった。よって、ソルガムABCGサブファミリーのうち、SbSTL1とSbSTL2がSLトランスポーターとして作用していることが示唆される。SbSTL1、SbSTL2の三次元構造予測から、基質輸送チャネル形成に関与していると推測される幾つかのヘリックスが見出された。そして、ヘリックス内の特定のフェニルアラニン残基がSL排出活性に不可欠であることがアミノ酸置換実験から確認された。また、同様のフェニルアラニン残基を有するホモログがトウモロコシ、イネ、アワ(Setaria italica)、エノコログサ(Setaria viridis)から見出され、トウモロコシホモログ(ZmSTL1、ZmSTL2)にSL排出活性があることが確認された。CRISPR/Cas9ゲノム編集で作出したソルガムのSbSTL1、SbSTL2 の変異体の根の内生SL(5DS)含量を見たところ、SbSLT1ko 変異体、SbSLT2ko 変異体の5DSレベルは野生型植物と同程度であったが、SbSLT1koSbSLT2ko 二重変異体では顕著に高い5DS量を示した。さらに、全ての変異体において、水耕培地滲出液中の5DS量が野生型植物と比較して有意に減少し、中でも二重変異体が最も顕著な減少を示した。これらの結果から、SbSLT1とSbSLT2はソルガム根のSL滲出に寄与していることが示唆される。また、全ての変異体において、根に添加したGR245DSの地上部での含量が野生型植物同等であったことから、SbSTL1、SbSTL2は根から地上部へのSL輸送には関与していないと考えられる。各変異体を育成した水耕培地に曝露したストライガ種子の発芽率は、野生型植物育成培地暴露と比較して有意に低く、二重変異体培地では発芽がほぼ完全に阻害された。このことから、SbSLT1 とSbSLT2 の二重変異は、ソルガム根から根圏へのSL分泌を著しく阻害し、その結果、ストライガ種子の発芽率を低下させていると考えられる。SLトランスポーターの機能喪失がソルガムの生長においてストライガの寄生による影響を軽減できるかどうかを評価するために、中国広東省で変異体の圃場試験を行った。その結果、ストライガが蔓延していない圃場条件下で、各変異体はすべて正常な生育を示し、野生型植物との明らかな差は見られなかった。ストライガ種子を接種した各変異体の圃場では、2年続けて野生型植物圃場に比べてストライガ株が有意に減少した。さらに、変異体の地上部バイオマス(新鮮重、藁重)は野生型植物よりも有意に高かった。野生型植物ではバイオマスのかなりの割合を占める下葉の大部分が乾燥して落下したが、二重変異体系統では下葉が緑色のままであった。さらに、二重変異体系統は生長後期の分けつ数が多く、このことも新鮮重の差の一因となった。これらの結果から、SbSLT1 とSbSLT2 の機能喪失は圃場におけるストライガの蔓延を効果的に抑制することができ、ストライガの蔓延によるソルガム生産の損失を軽減できる可能性があることが示唆される。以上の結果から、ソルガムABCGトランスポーターのABCG36(SbSTL1)とABCG48(SbSTL2)は、根から土壌へストリゴラクトンを排出するトランスポーターとして機能していると考えられる。SbSLT1/2 を機能喪失させたソルガムは、根滲出液のストリゴラクトンが減少することによってストライガの発芽が減少し、圃場におけるストライガ蔓延が減少して収量の向上が期待される。