goo blog サービス終了のお知らせ 

Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)ソルガムのストリゴラクトン排出トランスポーター

2025-05-21 10:04:10 | 読んだ論文備忘録

Resistance to Striga parasitism through reduction of strigolactone exudation
Shi et al.  Cell (2025) 188:1955-1966.

doi:10.1016/j.cell.2025.01.022

半寄生植物ストライガの発芽と生長は、宿主植物がリン酸(Pi)欠乏条件に置かれた際に根から分泌されるストリゴラクトン(SL)に依存している。中国農業大学のYuらは、ストライガの宿主となるソルガムの芽生えのRNA-seq解析を行ない、Piの有無での代謝経路や発現遺伝子の変化を調査した。その結果、Pi欠乏条件ではフェニルプロパノイドやフラボノイドの生合成に関与する遺伝子やABCトランスポーター遺伝子の発現が増加していることが確認された。ペチュニアのG-クラスABCトランスポーター(ABCG)のpleiotropic drug-resistant 1(PDR1)は、SLトランスポーターとして最初に報告され、PDR1 欠損変異体は、根からのSL分泌が減少して全寄生植物オロバンキ(Phelipanche ramosa)の発芽に悪影響を与えることが知られている。しかしながら、単子葉植物ではSL特異的トランスポータータンパク質は同定されていない。そこで、Pi欠乏条件とGR245DS処理の両方に応答して発現が変化するソルガムABCG遺伝子を探索したところ、ABCG36ABCG48 の発現が上昇することが判った。両遺伝子は主に根で発現しており、表皮細胞で強い発現を示した。また、両タンパク質は細胞膜に局在していた。ABCG36、ABCG48がSLトランスポーターとして機能するかを確認するために、酵母での発現実験系による調査を行なった。SLは濃度依存的に酵母の成長を阻害するが、ABCG36 もしくはABCG48 を発現させた酵母は、高濃度GR245DS処理に対して耐性を示した。この耐性が輸送活性によるものであることを確認するために、ABCトランスポーター阻害剤であるNa3VO4で処理したところ、発現酵母で観察されたGR245DS毒性耐性が阻害された。また、ABCトランスポーターのATPase活性に関与しているWalker-Bモチーフが欠損したABCG36 またはABCG48 を発現させた酵母は、Na3VO4処理と同様に、SLによる酵母増殖阻害を緩和する機能を失った。さらに、短期取込みアッセイから、ABCG36 またはABCG48 を発現している酵母は、対照に比べて2倍量のGR245DSを排出し、この能力はNa3VO4処理によってほぼ消失した。これらの知見に基づき、ABCG36 およびABCG48 をそれぞれsorghum SL transporter 1SbSLT1)およびSbSLT2 と命名した。SL存在下では、SL受容体のDWARF14(D14)とSLリプレッサーのDWARF53(D53)が相互作用をするが、SbSTL1 もしくはSbSTL2 を発現させた酵母ではD14とD53の相互作用が低下していた。SbSTL1、SbSTL2によるSLの細胞外排出は、アフリカツメガエル卵母細胞実験系においても確認された。植物体におけるSbSTL1SbSTL2 の機能を確認するために、SbSTL1SbSTL2 を過剰発現するシロイヌナズナ形質転換体を作出して表現型を観察したところ、両系統とも高濃度GR245DS処理による根の伸長阻害が見られず、対照よりも根のGR245DS含量が低く、根からのGR245DS排出量が多くなっていた。これらの結果から、SbSTL1、SbSTL2は植物体においてSL排出タンパク質として機能していることが示唆される。ソルガムには75のABCGサブファミリートランスポーター遺伝子があり、そのすべてがヌクレオチド結合ドメインと膜貫通ドメインを有している。系統樹解析から、SbSLT1 およびSbSLT2 にそれぞれ近縁な2つの遺伝子、Sobic.003G215800 およびSobic.010G165500 が同定されたが、これらのタンパク質にはSL排出能は見られなかった。また、ペチュニアSLトランスポーターPhPDR1 のホモログ遺伝子としてSbPDR1 が同定されたが、こちらもSL排出能を有していなかった。よって、ソルガムABCGサブファミリーのうち、SbSTL1とSbSTL2がSLトランスポーターとして作用していることが示唆される。SbSTL1、SbSTL2の三次元構造予測から、基質輸送チャネル形成に関与していると推測される幾つかのヘリックスが見出された。そして、ヘリックス内の特定のフェニルアラニン残基がSL排出活性に不可欠であることがアミノ酸置換実験から確認された。また、同様のフェニルアラニン残基を有するホモログがトウモロコシ、イネ、アワ(Setaria italica)、エノコログサ(Setaria viridis)から見出され、トウモロコシホモログ(ZmSTL1ZmSTL2)にSL排出活性があることが確認された。CRISPR/Cas9ゲノム編集で作出したソルガムのSbSTL1SbSTL2 の変異体の根の内生SL(5DS)含量を見たところ、SbSLT1ko 変異体、SbSLT2ko 変異体の5DSレベルは野生型植物と同程度であったが、SbSLT1koSbSLT2ko 二重変異体では顕著に高い5DS量を示した。さらに、全ての変異体において、水耕培地滲出液中の5DS量が野生型植物と比較して有意に減少し、中でも二重変異体が最も顕著な減少を示した。これらの結果から、SbSLT1とSbSLT2はソルガム根のSL滲出に寄与していることが示唆される。また、全ての変異体において、根に添加したGR245DSの地上部での含量が野生型植物同等であったことから、SbSTL1、SbSTL2は根から地上部へのSL輸送には関与していないと考えられる。各変異体を育成した水耕培地に曝露したストライガ種子の発芽率は、野生型植物育成培地暴露と比較して有意に低く、二重変異体培地では発芽がほぼ完全に阻害された。このことから、SbSLT1SbSLT2 の二重変異は、ソルガム根から根圏へのSL分泌を著しく阻害し、その結果、ストライガ種子の発芽率を低下させていると考えられる。SLトランスポーターの機能喪失がソルガムの生長においてストライガの寄生による影響を軽減できるかどうかを評価するために、中国広東省で変異体の圃場試験を行った。その結果、ストライガが蔓延していない圃場条件下で、各変異体はすべて正常な生育を示し、野生型植物との明らかな差は見られなかった。ストライガ種子を接種した各変異体の圃場では、2年続けて野生型植物圃場に比べてストライガ株が有意に減少した。さらに、変異体の地上部バイオマス(新鮮重、藁重)は野生型植物よりも有意に高かった。野生型植物ではバイオマスのかなりの割合を占める下葉の大部分が乾燥して落下したが、二重変異体系統では下葉が緑色のままであった。さらに、二重変異体系統は生長後期の分けつ数が多く、このことも新鮮重の差の一因となった。これらの結果から、SbSLT1SbSLT2 の機能喪失は圃場におけるストライガの蔓延を効果的に抑制することができ、ストライガの蔓延によるソルガム生産の損失を軽減できる可能性があることが示唆される。以上の結果から、ソルガムABCGトランスポーターのABCG36(SbSTL1)とABCG48(SbSTL2)は、根から土壌へストリゴラクトンを排出するトランスポーターとして機能していると考えられる。SbSLT1/2 を機能喪失させたソルガムは、根滲出液のストリゴラクトンが減少することによってストライガの発芽が減少し、圃場におけるストライガ蔓延が減少して収量の向上が期待される。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)WRKY転写因子によるイネの生物ストレスと収量の制御

2025-05-16 10:53:42 | 読んだ論文備忘録

A WRKY transcription factor confers broad-spectrum resistance to biotic stresses and yield stability in rice
Liu et al.  PNAS (2025) 122:e2411164122.

doi:10.1073/pnas.2411164122

中国 南京農業大学のWanらは、イネの転写因子遺伝子T-DNA挿入変異体ライブラリーをスクリーニングしてイネ害虫トビイロウンカ(BPH、Nilaparvata lugens)感受性が増加する変異体を同定し、BPH susceptible 1-DominantBphs1-D)と命名した。解析の結果、T-DNAはWRKY転写因子遺伝子OsWRKY36 の5′-UTRに挿入されており、Bphs1-D 変異体ではOsWRKY36 発現量が高くなっていることが判った。OsWRKY36 とBPH抵抗性との関係を確認するために、OsWAKY36 の過剰発現系統(OsWRKY36-OE)とノックアウト系統(OsWRKY36-KO)を作出して表現型を観察した。その結果、OsWRKY36-OE 系統はBHP感受性が高く、OsWRKY36-KO 系統はBPH抵抗性が高いことが判った。このことから、OsWAKY36 はイネのBHP抵抗性を負に制御していると考えられる。OsWRKY36 は根、茎、葉身、葉鞘、穂で恒常的に発現しており、維管束鞘細胞および厚壁細胞で高発現していた。BPHが集るとOsWAKY36 の発現が一時低下するが、徐々に回復していった。OsWRKY36タンパク質は核に局在していた。また、各種解析から、OsWAKY36は転写抑制因子として作用することが示唆された。BPHが集ったOsWRKY36-KO 系統と野生型植物のトランスクリプトーム解析を行なったところ、OsWRKY36-KO 系統では3809遺伝子の発現が野生型植物よりも高くなっており、KEGG解析から、炭素代謝とフェニルプロパノイド生合成に関与する遺伝子の発現に変化が見られた。フェニルプロパノイド経路によって合成されるリグニンは、厚壁組織の二次細胞壁の重要な構成要素であり、病原菌や害虫から植物を守る重要な役割がある。フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)はフェニルプロパノイド経路の鍵酵素であり、リグニン生合成にとって重要である。OsWRKY36-KO 系統では、OsPAL1OsPAL6 を含む48のフェニルプロパノイドおよびリグニン生合成関連遺伝子の発現が高くなっており、Bphs1-D 変異体およびOsWRKY36-OE 系統では発現量が減少していることが判った。また、葉鞘のリグニン含量、葉鞘厚壁組織の細胞層の数と厚さは、OsWRKY36-KO 系統で増加し、Bphs1-D 変異体、OsWRKY36-OE 系統で減少していた。これらの結果から、OsWAKY36 は葉鞘でのリグニン蓄積と厚壁組織の厚さを負に制御していると考えられる。WRKYファミリー転写因子は、標的遺伝子プロモーターのW-box[TGAC(C/T)]モチーフを認識することが知られている。OsPAL1 遺伝子、OsPAL6 遺伝子のプロモーター領域にはW-boxが存在し、解析の結果、OsWRKY36は、OsPAL6 遺伝子、OsPAL1 遺伝子プロモーター領域のW-boxモチーフに直接結合することで発現を負に制御していることが判った。この結果と一致して、OsPAL6OsPAL1 転写産物量はOsWRKY36-OE 系統で減少し、OsWRKY36-KO 系統では増加していた。OsPAL1OsPAL6 とBPH抵抗性との関係を解析するために、OsPAL 過剰発現系統を作出して表現型を観察したところ、BHP抵抗性が高まり、リグニン蓄積が増加し、厚壁組織の厚さも増していることが判った。また、Bphs1-D 変異体でOsPAL6 を過剰発現させたところ、BPH抵抗性が回復し、葉鞘でのリグニン蓄積、厚壁組織の細胞層や厚さが増加していることが確認された。これらの結果から、OsWAKY36はOsPAL6OsPAL1 の転写を抑制することでBPH抵抗性を負に制御していると考えられる。BPHの他にも、セジロウンカ(WBPH、Sogatella furcifera)やヒメトビウンカ(SBPH、Laodelphax striatellus)も稲作における主要害虫であり、BPHとWBPHがイネを特異的に食害するのに対し、SBPHはコムギ、トウモロコシ、オオムギなど幾つかの主要作物を含む広い宿主域を持つ。変異体を用いた解析の結果、OsWRKY36はWBPH、SBPHに対する抵抗性も負に制御しており、広範な害虫に対する抵抗性を調節する上で重要な役割を果たしていることが判った。OsPAL は、イネ白葉枯病菌(Xanthomonas oryzae pv. oryzae)やイネいもち病菌(Magnaporthe oryzae)を含む様々な病原菌に対する広域抵抗性に寄与することが知られている。解析の結果、OsWRKY36 のノックアウトにより、これらの病原菌に対する抵抗性が増強されることが確認された。OsWRKY36 の欠損によってもたらされる広範な抵抗性が農業形質に影響するかを調べるために、圃場栽培試験を行なった。その結果、OsWRKY36-KO 系統は、登熟期に低温を受けると籾千粒重が減少するが、害虫や病原菌に対する幅広い抵抗性が付与されるとともに、一穂籾数と分けつ数が増加し、作物収量が維持されることが判った。OsWAKY36 と一穂籾数、分けつ数との関係を調査したところ、OsWRKY36-KO 系統幼苗では、それぞれ、イネの籾数および分けつ数を正に制御していることが報告されている転写因子遺伝子IDEAL PLANT ARCHITECTURE 1IPA1)およびMONOCULM 2MOC2)の発現が有意に上昇していることが判った。IPA1MOC2 のプロモーター領域にはW-boxモチーフが含まれており、解析の結果、OsWAKY36はIPA2 遺伝子プロモーター領域のW-boxモチーフに結合して転写を抑制することが確認された。これらの結果から、OsWRKY36は、IPA1 およびMOC2 の発現を負に制御することにより、分けつ形成や一穂籾数に影響を及ぼしていると考えられる。以上の結果から、OsWRKY36は、昆虫と病原菌の両方に対して広範な抵抗性を付与するだけでなく、イネの抵抗性と収量のトレードオフのバランスをとる調節遺伝子であると考えられる。OsWRKY36 の過剰発現は、害虫や病気に対する抵抗性が負に制御されるだけでなく、収量も低下させ、逆に、OsWRKY36 をノックアウトすると、昆虫や病原菌に対する幅広い抵抗性を示すだけでなく、一穂籾数と分けつ数も増加する。したがって、OsWRKY36 はイネの収量と広範な生物抵抗性を同時に改善するための貴重な標的遺伝子であると言える。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)ヒストン脱メチル化酵素による光形態形成の制御

2025-05-12 09:13:37 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis demethylase REF6 physically interacts with phyB to promote hypocotyl elongation under red light
Yan et al.  PNAS (2025) 122:e2417253122.

doi:10.1073/pnas.2417253122

ヒストンH3のLys27のトリメチル化(H3K27me3)は、遺伝子発現を調節し、植物の発生と環境変化への応答を支配している。しかし、光形態形成がヒストン修飾による制御を受けているかは殆ど明らかにされていない。中国科学院 遺伝与発育生物学研究所のDengらは、H3K27me3脱メチル化が光形態形成に関与しているかを調べるために、シロイヌナズナH3K27me3デメチラーゼ遺伝子REF6/JMJ12ELF6/JMJ11JMJ13JMJ30JMJ32 の各種変異体芽生えを暗所もしくは明異所で育成し、表現型を解析した。その結果、暗所で育成した変異体芽生えの胚軸長は野生型植物Col-0と同等であったが、明所で育成したref6 変異体芽生えはCol-0よりも胚軸が短くなり、elf6 ref6 二重変異体、ref6 elf6 jmj13 三重変異体の胚軸はref6 変異体よりも短かくなることが判った。このことから、REF6は光照射下での胚軸伸長を正に制御しており、ELF6とJMJ13はREF6と部分的に冗長していることが示唆される。芽生えのREF6 転写産物量は、暗黒下と光照射で差異は見られないが、REF6タンパク質蓄積量は暗黒下よりも光照射下で多くなっており、特に赤色光照射下で多いことが判った。REF6タンパク質は、主に子葉、茎頂、根端に局在しており、赤色光下で育成した芽生えでは、茎頂、葉柄、子葉、胚軸での蓄積量増加が観察された。光照射下でのREF6の機能を解析するために、REF6と相互作用をする因子を探索したところ、REF6は光照射に依存してPfr型のフィトクロムB(phyB)と相互作用をすることが判った。phyB 変異体芽生えの赤色光下でのREF6タンパク質量は、Col-0よりも少なくなっていた。赤色光下において、ref6 変異体芽生えの胚軸はCol-0よりも短く、phyB 変異体芽生え胚軸は長くなるが、ref6 phyB 二重変異体芽生えの胚軸長はCol-0と同等になった。REF6はN末端にJmjC酵素ドメイン、C末端にC2H2-ZnFドメインを持ち、C2H2-ZnFドメインを介して特定のCTCTGYTYモチーフを認識することでH3K27me3を特異的に脱メチル化し、植物の様々な発生過程や環境刺激に対する応答において遺伝子を活性化することが知られている。アミノ酸置換(H264A)により酵素活性を失ったREF6(REF6H264A)もしくはC2H2-ZnFドメインをを欠いたREF6(REF6ΔZnF)をref6 変異体で発現させたところ、胚軸伸長はREF6H264A の発現によって部分的に回復したが、REF6ΔZnF の発現では回復しなかった。したがって、REF6のDNA結合能力と酵素活性は赤色光下での胚軸伸長とって必要であることが示唆される。ChIP-seq解析から、REF6の標的として688遺伝子が見出され、GO解析から、これらの標的遺伝子には細胞増殖や形態形成過程に関与するものが含まれていることが判った。よって、REF6は生長関連遺伝子のH3K27me3を脱メチル化することで光形態形成を制御していることが示唆される。Col-0とref6 変異体のATAC-seqから、ref6 変異体では赤色光下においてH3K27me3が全体的に増加し、クロマチンアクセシビリティが低下することが判った。赤色光下においてCol-0と比較してref6 変異体で発現量が減少している958遺伝子のうち、171遺伝子はREF6が結合し、H3K27me3過剰メチル化された遺伝子であった。そしてこの中には、細胞壁修飾酵素遺伝子XYLOGLUCAN ENDOTRANSGLUCOSYLASE/HYDROLASE 22XTH22)、ブラシノステロイド生合成関連遺伝子DWARF 4DWF4)、生長制御因子遺伝子DUF668 といった幾つかの成長関連遺伝子が含まれていた。これらの結果から、REF6はゲノム全体のH3K27me3の脱メチル化に関与し、クロマチンを開いて光応答性の下流標的遺伝子を活性化していると考えられる。光に応答したREF6のDNA結合能の変化とphyBとの関係を解析したところ、phyBはREF6の標的遺伝子へのターゲティングを促進し、いくつかのREF6標的遺伝子の発現を部分的に協働制御していることが判った。REF6はPIF4と協働して高温条件での温度応答遺伝子の活性化を行なっている。REF6とPIF4が光に応答した胚軸伸長も制御しているかを変異体を用いて解析したところ、赤色光下において、ref6 pif4 二重変異体芽生えは、それぞれの単独変異体やCol-0よりも胚軸が非常に短く、DUF668 発現においてREF6とPIF4が共役していることが確認された。このことは、REF6がをPIF4と共役し、赤色光条件下でPIFを介した遺伝子活性化に必須であることを示唆している。このことから、REF6は、phyB-PIF4モジュールとともに、光環境変化に応答した植物生長を制御していると考えられる。以上の結果から、H3K27me3デメチラーゼREF6は、phyBやPIF4と共役してシロイヌナズナの赤色光下での胚軸伸長を制御していると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)メディエーターによるジベレリンシグナルを介した生長の制御

2025-05-08 10:01:23 | 読んだ論文備忘録

MEDIATOR15 destabilizes DELLA protein to promote gibberellin-mediated plant development
New Phytologist (2025) 245:2665-2680.

doi: 10.1111/nph.20397

転写コアクチベーターであるメディエーターは、様々な転写制御因子と相互作用することにより、植物の生長と発生を制御している。シロイヌナズナMEDIATOR15(MED15)は、メディエーター複合体のサブユニットの1つで、T-DNA挿入変異体が多面的な生長表現型を示すことから、MED15は発生制御に関与していることが示唆されている。最近、Hernández-Garcíaら [PNAS (2024) 121:e2319163121.] が、MED15とDELLAの相互作用を報告したが、この相互作用がジベレリン(GA)シグナル伝達とGAを介した発生過程にどのように影響するかは完全には解明されていない。シンガポール テマセク生命科学研究所Chuaらは、MED15とDELLAファミリータンパク質RGAとの相互作用を解析し、一般的に哺乳類や酵母の転写コアクチベーターが転写因子との相互作用に利用しているKIXドメインはMED15-RGA相互作用に関与していないこと、DELLAタンパク質のC末端側にあるGRASドメインはMED15-RGA相互作用に関与していないことが判明した。よって、MED15-RGA相互作用は通常とは異なるものであることが示唆される。MED15のGA応答への関与について、MED15 T-DNA挿入ノックダウン変異体(nrb4)と過剰発現系統(MED15OE)を用いて解析した。MED15OE 芽生えは長日条件下で野生型植物(WT)よりも有意に胚軸の長い表現型を示し、短日条件下ではWTとの差は縮小した。MED15OE にGA処理をすることにより、影響は限定的であったが胚軸伸長が促進された。よって、MED15OE においてGAシグナル伝達は制限されないことが示唆される。nrb4 変異体の長日条件下での胚軸長とGA応答性はWTと同程度であったが、短日条件下ではnrb4 変異体の胚軸はWTより有意に短く、GA処理によりWTと同等にまで伸長した。GA生合成阻害剤パクロブトラゾール(PAC)処理は、すべての系統の胚軸伸長を抑制したが、MED15OE に対する抑制効果は長日条件下でWTよりも大きかった。一方、nrb4 変異体は長日条件下ではWTと同程度のPAC応答性を示したが、短日条件下ではWTに比べて抑制効果は小さかった。MED15OE およびnrb4 変異体の胚軸表現型は、それぞれdella 多重変異体およびga1 GA生合成変異体の表現型に類似しており、MED15はDELLAの機能を負に制御することでGA応答を促進していることが示唆される。nrb4 rga-29 二重変異体は、短日条件下で nrb4 変異体の短い胚軸の表現型を部分的に回復させた。また、MED15OE に熱ストレス処理によりGA耐性GAI(gai-1D)の発現を誘導するコンストラクトを導入したところ、MED15OE の長い胚軸の表現型は gai-1D 誘導量に依存して抑制された。これらの結果から、MED15は遺伝的にDELLAの上流で作用しており、GA応答を正に制御していることが示唆される。以前に報告されたように、nrb4 変異体成熟個体は遅咲きの表現型を示し、この表現型はGA処理によって回復した。さらに、MED15OE 成熟個体は花成促進表現型を示し、GA処理の効果はWTと比較して顕著ではなかった。これらの結果からも、MED15がGA応答の正の制御因子として機能していることが示唆される。DELLAは暗形態形成の負の制御因子として機能していることが知られていることから、nrb4 変異体、MED15OE の黄化芽生えの表現型を観察したところ、nrb4 変異体黄化芽生えは、GA欠損変異体のように恒常的光形態形成を示して子葉が展開した。しかし、MED15OE 黄化芽生えでも子葉が弱く開く傾向が見られた。このことから、MED15はGA非依存的に黄化芽生えの発生制御に関与しているように思われる。GA応答はDELLAタンパク質の分解を介して制御されているので、各系統のRGA量を見たところ、nrb4 変異体ではRGAが蓄積し、MED15OE のRGA量はWTより低くなっていた。RGA 転写産物量は両系統で同程度であったことから、MED15は転写後にRGAの安定性を負に制御していることが示唆される。GAのMED15に対する効果を見たが、GAはMED15タンパク質量や細胞内局在に影響しないことが確認された。DELLAは、GAとの間の負のフィードバック制御によって、GA生合成遺伝子発現のコアクチベーターとして機能している。よって、MED15はDELLAを介してGA生合成遺伝子転写制御に関与している可能性がある。そこで、DELLAの標的として知られているGA生合成遺伝子(GA20ox2GA3ox1)とGAシグナル遺伝子(SCL3)の発現量を調査した。その結果、nrb4 変異体ではRGAが過剰蓄積しているにもかかわらず、これらの遺伝子の発現量はWTよりも有意に低く、GA4含量も低くなっていることが判った。GA非感受性RGA(rga-Δ17)を発現させた系統はGA生合成遺伝子発現が高くなるが、nrb4 変異を導入することで発現上昇が抑制された。また、nrb4 rga-29 二重変異体でのGA生合成遺伝子発現量は、それぞれの単独変異体よりも低くなっていた。一方、MED15OE ではGA生合成遺伝子発現量がWTよりも高くなっていた。これらの結果から、MED15は、DELLAによるGA生合成遺伝子の発現誘導の正の制御因子であり、未知の機構を介してこれらの遺伝子の転写制御に関与していると考えられる。GAはDELLAの26Sプロテアソーム系による分解を促進している。26Sプロテアソーム阻害剤MG132処理をすることでWTとnrb4 変異体のRGA蓄積量が同等となること、MED15によるRGA蓄積量の減少がMG132処理によって抑制されること、rga-Δ17はMED15による蓄積量減少に対して抵抗性であることから、MED15はGAに依存したプロテアソーム系による分解を介してRGAを不安定化していることが示唆される。オートファジーは特定のタンパク質の安定性に関与しており、オートファジー阻害剤E-64d処理はRGAを安定化し、この効果はMG132処理と相加的に作用した。しかし、この相加効果はMED15OE では限定されていた。よって、MED15は26Sプロテアソーム系とオートファジー以外の未知の機構によってもRGAを不安定化しているものと思われる。GA濃度はDELLAの安定性の主要な決定因子であるが、多くの他の因子もGA依存的/非依存的にDELLAの安定性を調節している。PACとGAを同時処理して各系統のGA量を一定にした条件でRGAの安定性を比較したところ、nrb4 変異体はWTと比較してRGAの分解が遅く、MED15OE ではWTよりも僅かに早いことが判った。よって、MED15はGA生合成以外の機構でRGA分解に影響してRGA量を調節していることが示唆される。しかしながら、GA自身はMED15-RGA相互作用に関与しておらず、MED15はDELLA分解を引起すDELLA–GID1–SCFSLY1複合体形成に影響してはいなかった。DELLAタンパク質量は環境の変化に応じて素早く変化して植物の生長を最適化しており、暗処理や温度上昇は胚軸でのRGAの急速な分解を引起し、胚軸伸長を促進する。しかし、nrb4 変異体では環境変化によるRGAの減少は比較的緩やかであり、胚軸伸長促進も抑制された。MED15OE の環境に応答した胚軸伸長は正常であったが、WTとMED15OE の胚軸長の相対的な差は小さかった。WTやMED15OE では、GA処理をしても環境変化に応答した胚軸伸長の促進に変化はなかったが、nrb4 変異体では胚軸や葉柄においてGA処理によって部分的に促進された。よって、MED15はGA経路の活性化を部分的に介して環境変化に応答した生長を正に制御していることが示唆される。以上の結果から、MED15は、DELLAタンパク質との相互作用と不安定化およびGAシグナル伝達の活性化を介して、植物の生長を正に制御していると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)FTとTFL1による種子の休眠と品質特性の制御

2025-05-02 10:18:03 | 読んだ論文備忘録

The PEBP genes FLOWERING LOCUS T and TERMINAL FLOWER 1 modulate seed dormancy and size
Nadal Bigas et al.  Journal of Experimental Botany (2025) 76:1049–1067.

doi:10.1093/jxb/erae466

ホスファチジルエタノールアミン結合タンパク質(PEBP)ファミリーのFLOWERING LOCUS T(FT)とTERMINAL FLOWER 1(TFL1)は、生殖の主要な制御因子として機能しており、FTタンパク質は分裂組織の栄養生長から生殖生長への転換を促進し、TFL1タンパク質は栄養生長状態を維持することでこの転換を抑制している。これ以外にも、FTとTFL1は様々な生長過程の制御において拮抗的に作用しており、ここ数年、種子の発生に関連する形質におけるFTとTFL1の関与に対する関心が高まっている。これまでのところ、FTは種子の休眠を制御する因子として認識されており、TFL1は種子の大きさを制御する因子として同定されている。しかしながら、両者の包括的な役割はまだ完全には解明されていない。オランダ ヴァーヘニンゲン大学Imminkらは、FTとTFL1が種子品質に与える影響を調べるため、CRISPR/Cas9技術を用いてシロイヌナズナLandsberg erecta(Ler)のFTTFL1 の新規変異体を作出して解析を行なった。作出したft 変異体の収穫直後の種子は、野生型植物Lerよりも深い一次休眠を示し、この休眠の深さは4週間の乾燥種子貯蔵によって失われた。ft 変異体とは対照的に、tfl1 変異体の収穫直後の種子はLer と比較して種子休眠が顕著に浅く、休眠の深さは時間の経過とともに徐々に減少した。ft 変異体種子は、Ler 種子と比較して発芽速度の低下を示したが、tfl1 変異体種子ではそのような変化は見られなかった。これらの結果から、FT の変異は種子の休眠性を高め、発芽速度を低下させ、TFL1 の変異は休眠性を低下させると考えられる。種子の大きさについて調査したところ、tfl1 変異体では種子の重量と表面積の両方が著しく増加していた。一方、ft 変異体種子の重量はLer 種子と比較して有意差は見られなかったが、表面積は有意に増加していた。以上のように、FTTFL1 は、休眠性、発芽速度、大きさなど、様々な種子の品質特性を制御する役割を果たしていることが示唆される。そこで、両遺伝子の花序、長角果、珠柄、種子での発現をpFT:GUSpTFL1:GUS レポーターを用いて解析した。その結果、FTTFL1 は共に、花序、珠柄で発現し、発達中の種子では、解析したすべてのステージにおいて、維管束、篩部アンローディング領域、種皮との合点で発現していることが判った。さらに、TFL1 は、以前に報告されていたように、内乳において特異的な発現を示していた。したがって、開花前にはFT は葉、TFL1 は茎頂分裂組織と異なる発現パターンを示すが、開花後は、雌性配偶体組織の一部で共発現しており、TFL1 は受精前後の雌性組織と種子発生初期の内乳組織で発現していると考えられる。FTタンパク質とTFL1タンパク質は移動性のタンパク質で、最近の研究において、TFL1タンパク質が種子の発達を促進する移動性因子として機能していることが報告されている。そこで、種子発達過程でのFTタンパク質とTFL1タンパク質の組織局在をGFP融合タンパク質を用いて調査したと。その結果、FT-GFPは、子房隔壁、珠柄の維管束組織、篩部アンローディング領域で検出され、維管束とアンローディング領域でのFT-GFPシグナルは種子発達過程の全てのステージで検出された。TFL1-GFPシグナルは珠柄の維管束組織、篩部アンローディング領域で検出された。したがって、種子と結合組織ではFTタンパク質とTFL1タンパク質は雌性組織領域で共局在しており、FTタンパク質の移動性はないようである。種子品質におけるFTTFL1 との関係を解析するために、ft tfl1 二重変異体を作出して表現型を調査した。その結果、ft tfl1 二重変異体の種子休眠はLer と同程度であること、種子表面積はtfl1 変異体とLer の中間的な表現型を示し、種子重量はtfl1 変異体の表現型に類似していることが判った。ft tfl1 二重変異体の長角果当りの種子数はLer よりも少なかったが、10株当たりの総種子収量は増加しており、これらの表現型はft 変異体と類似していた。これらの観察から、種子休眠、種子サイズ、種子総収量に関して、FTとTFL1の複雑で動的な相互作用が示唆される。ft 変異体での深い種子休眠は、プロアントシアニジン(縮合型タンニン)生合成遺伝子の発現量増加が影響しているとされており、tfl1 変異体の長角果や発達中種子ではプロアントシアニジン生合成遺伝子(BANLDOXDFR)の発現量が減少していた。花成におけるFTとTFL1の拮抗的な作用は、bZIP型転写因子FDとの相互作用の競合によって引き起こされると考えられている。シロイヌナズナには78個のbZIP型転写因子が存在し、酵母two-hybridアッセイを行なったところ、FD以外にも、FTでは9つの強い相互作用因子と2つの弱い相互作用因子が、TFL1では7つの強い相互作用因子と2つの弱い相互作用因子が同定された。これらは全てA-サブグループのbZIP型転写因子で、幾つかはFTとTFL1の両方と相互作用をした。A-サブグループのbZIP転写因子には、アブシジン酸(ABA)シグナル伝達の中核で作用する因子が含まれており、これらは種子の発生と成熟の後期段階を制御することにも関連している。そこで、13のA-サブグループbZIP型転写因子遺伝子について、種子発達過程での発現を見たところ、4遺伝子(GBF4bZIP12bZIP67AREB3)は高発現、6遺伝子(bZIP13ABI5、ABF1ABF4)は中程度の発現、3遺伝子(FDFDPbZIP15)は低発現またはほとんど検出できない発現レベルを示すことが判った。これらのうち、bZIP67は、シロイヌナズナの種子休眠に関連しているDELAY OF GERMINATION1(DOG1)の活性化因子として機能していることが知られており、bZIP67 欠損変異体はLer に比べて発芽が遅れることが示された。これらの結果から、FTとTFL1は種子休眠の制御において拮抗的な役割を果たしており、その一因は、ABA関連bZIPタンパク質との相互作用、および長角果におけるタンニン生合成遺伝子の発現への影響にあると考えられる。以上の結果から、FTとTFL1は種子休眠において拮抗的に相互作用をしていることが判った。両遺伝子は発達中の種子の雌性組織において部分的に共発現しており、種子の品質特性と種子総収量を微調整する上で、複雑かつダイナミックな役割を果たしていることが示唆される。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)サイトカイニンによる半寄生植物コシオガマの吸器形成の制御

2025-04-23 15:40:01 | 読んだ論文備忘録

A long-distance inhibitory system regulates haustoria numbers in parasitic plants
Kokla et al.  PNAS (2025) 122:e2424557122.

doi:10.1073/pnas.2424557122

寄生植物は、吸器と呼ばれる栄養獲得器官を介して宿主の根から栄養を吸収している。吸器形成には、2,6-dimethoxy-1,4-benzoquinone(DMBQ)などの宿主から放出される吸器誘導因子(HIF)や、オーキシンやエチレンといった植物ホルモンが関与していることが知られているが、寄生植物がどのようにして吸器の数を調節しているのかは理解が不足している。スウェーデン農業科学大学Melnykらは、シロイヌナズナを条件的半寄生植物(光合成能力を持ち独立して生活できるが、近傍に宿主植物がいる場合には寄生する植物)のコシオガマ(Phtheirospermum japonicum)に寄生させ、その10日後に同じコシオガマの根に新しいシロイヌナズナを宿主として追加寄生させて吸器形成を調査した。その結果、2回目の寄生では、1回目の寄生に比べて吸器数が有意に少なく、道管連結の発達が抑制されていることが判った。このような現象が距離が離れていても起こるかどうかを調べるため、コシオガマの根を左右に分けたsplit-root実験系を開発した。宿主を両側から同時に寄生させた場合、根系の両側での吸器形成は同じであった。次に、片側に宿主を寄生させた3、5、7、10日後にもう片方に宿主を寄生させたところ、最初に寄生させた側は対照と同数の吸器を形成したが、もう片方の吸器形成数は段階的に減少していくことが判った。片側のDMBQによる前処理は吸器形成に変化をもたらさなかった。さらに、宿主寄生5日後に宿主を除去し、10日後にもう片方に宿主を寄生させたところ、吸器形成が抑制された。これらの結果から、成熟した吸器が全身での吸器形成抑制に必要であり、宿主を除去しても抑制シグナルは数日間持続することが示唆される。コシオガマでは、窒素添加によってアブシジン酸(ABA)シグナルを介して吸器形成が阻害されることが知られている。そこで、片側に硝酸アンモニウムを処理したところ、局所的にも全身的にも吸器形成が阻害された。このことから、窒素が負の調節シグナルの一部として機能している可能性が示唆される。しかし、ABA処理による吸器形成阻害は局所的なものであり、ABAは移動性の全身的なシグナル伝達因子ではないことが示唆される。宿主寄生した根としていない根のRNA-seq解析を行なったところ、数百の発現変動遺伝子が見出され、それらには、DNA複製、シグナル伝達、細胞壁修飾、生物刺激に対する応答に関連する遺伝子が含まれていた。植物ホルモンが吸器形成に重要であることを考慮し、宿主寄生後の根とシュートのトランスクリプトームデータを解析したところ、CYTOKININ OXIDASE3PjCKX3)、ISOPENTENYLTRANSFERASE1PjIPT1a)、RESPONSE REGULATOR5bPjRR5b)、PjRR9 などのサイトカイニン関連遺伝子やPURINE PERMEASE1PjPUP1)、PjPUP3 といったサイトカイニントランスポーター遺伝子が宿主寄生した根で発現上昇していることが判った。サイトカイニンレポーターpTCSn を導入したシロイヌナズナとコシオガマにおいて、寄生4日後の時点でコシオガマの吸器と寄生されたシロイヌナズナの根の吸器より上の部分でサイトカイニンシグナルが観察された。寄生10日後のコシオガマの根は、非寄生根に比べてサイトカイニン含量(tZ、tZR、cZ、cZR)が有意に高く、寄生されたシロイヌナズナの根は非寄生根に比べてtZ、tZR、iPの含量が有意に高かった。tZ含量は、片側または両側に寄生したコシオガマのシュートで増加したが、tZR含量は片側だけ寄生したシュートでわずかに増加しただけであった。サイトカイニン関連遺伝子PjRR5PjHK3 の発現も、片側に寄生した際に根とシュートの両方で増加した。サイトカイニン生合成遺伝子PjIPT1 は、寄生根で発現が上昇したが、シュートでは有意な増加は認められなかった。寄生の際のサイトカイニン増加の役割を解明するために、寄生時にサイトカイニン処理を行なったところ、吸器の誘導を有意に減少させることが判った。一方、サイトカイニンアンタゴニストPI-55を処理してサイトカイニンシグナル伝達を阻害すると、吸器数が増加した。サイトカイニン処理はDMBQ処理による吸器形成誘導も減少させた。シロイヌナズナのサイトカイニン関連変異体cre1ahk3ckx3ckx5p35S:CKX1arr1,12arrx8ahp6-3ipt161 を宿主として用いても、野生型植物(Col-0)と比較して吸器形成数に有意差は見られなかった。RNA-seq解析の結果、吸器に対するサイトカイニン処理の有無で1000以上の発現変動遺伝子が見られ、寄生時に発現が上昇した遺伝子の多くは、サイトカイニン処理によって発現が低下しており、サイトカイニンが吸器誘形成導プログラムを抑制していると考えられる。また、シロイヌナズナのサイトカイニン分解酵素CKX3 を過剰発現させたコシオガマ毛状根は、非形質転換毛状根と比較して、Col-0宿主上で有意に多くの吸器を形成した。このことは、コシオガマ由来のサイトカイニンが吸器形成を阻害するために重要であることを示している。コシオガマの片側の根をサイトカイニン処理したところ、処理した側としていない側の両方の根で吸器数が有意に減少した。片側の根をPI-55で処理し、10日後にもう片方に宿主を寄生させたところ、吸器数の減少は見られたが、無処理対照の吸器数よりも多く、PI-55処理側の0日目寄生の吸器数との有意差はなかった。また、CKX3 を過剰発現させたコシオガマでは0日目と10日後の感染で吸器数に有意差は見られなかった。これらの結果から、吸器形成を制御する全身的なシグナル伝達を開始するためには、寄生した根における局所的なサイトカイニンの産生または応答が必要であることが示唆される。以上の結果から、コシオガマが宿主に寄生した際の吸器でのサイトカイニンの局所的な増加は、その後の新規吸器形成を負に制御していると考えられる。絶対半寄生植物のストライガ(Striga hermonthica)や絶対全寄生植物のオロバンキ(Phelipanche ramosa)では、サイトカイニンが吸器誘導因子として働いており、これらの植物とコシオガマでは、おそらくその生活様式や生理的性質に起因してサイトカイニンが異なる役割を担っているものと思われる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)ラパマイシン標的複合体構成因子RAPTORによる花成制御

2025-04-18 14:53:42 | 読んだ論文備忘録

The Regulatory-associated protein of target of rapamycin 1B (RAPTOR 1B) interconnects with the photoperiod pathway to promote flowering in Arabidopsis
Urrea-Castellanos et al.  PNAS (2025) 122:e2405536122.

doi:10.1073/pnas.2405536122

Regulatory-associated protein of target of rapamycin(RAPTOR)は、ラパマイシン標的複合体(TORC)の構成要素の1つであり、TORの基質リクルーターとして機能している。シロイヌナズナにはRAPTORの2つのホモログ遺伝子(RAPTOR1ARAPTOR1B)があり、RAPTOR1B のノックアウト変異体は、花成を含む発生転換の遅延を示す。ドイツ マックスプランク植物分子生理学研究所Caldanaらは、花成におけるRAPTOR1Bの役割を解析するために、T-DNA挿入raptor1b 変異体の表現型を観察した。その結果、初期に短日条件下で育成した際のraptor1b 変異体の生長は野生型植物(Col-0)と同等であったが、長日条件に移行した際の茎頂分裂組織の花原基への移行やSUPPRESSOR OF OVEREXPRESSION CO1SOC1)の発現誘導がCol-0よりも遅いことが判った。よって、raptor1b 変異体の花成遅延表現型は、それ以前の発生段階の遅延によるものではなく、RAPTOR1Bは花成制御に役割を果たしていることが示唆される。葉での花成関連遺伝子の発現を見たところ、長日条件への移行によってFLOWERING LOCUS TFT)とTWISTER OF FTTSF)の発現は誘導されたが、raptor1b 変異体での発現量はCol-0よりも低く、徐々に減少していった。SQUAMOSA-PROMOTER BINDING PROTEIN-LIKESPL)遺伝子、特にSPL3SPL4SPL5 は、花成誘導されるとロゼット葉と茎頂で発現が誘導されることが知られているが、raptor1b 変異体では発現が抑制されていた。Col-0にTORC阻害剤のAZD-8055を処理したところ、raptor1b 変異体と同じ様に、FTTSFFULSPL4SPL5 の発現が抑制された。これらの結果から、RAPTOR1BとTORは相乗的に作用しており、RAPTOR1B は、長日条件下において花成の正の調節因子であるFTSPL3SPL4SPL5 の発現を促進するのに必要であると考えられる。FTSPL3SPL4SPL5SOC1 の発現はCONSTANS(CO)によって促進され、長日条件下では夕暮れ時にCOタンパク質が蓄積する。長日条件下でのraptor1b 変異体でのCO の発現プロファイルはCol-0と同等だが、COタンパク質量が減少しており、この減少はプロテアソーム阻害剤MG132を添加することによって抑制された。したがって、raptor1b 変異体ではCOタンパク質の分解が促進されていると思われる。COタンパク質の安定性にはGIGANTEA(GI)が関与しており、raptor1b 変異体ではGI 発現量に変化は見られなかったが、GIタンパク質量が減少していた。また、花成への移行期にあるCol-0をAZD-8055処理したところ、GIタンパク質量が減少した。このことから、RAPTOR1Bは、おそらくTOR経路を介して、GIの転写後制御によってCO量を制御していると思われる。解析の結果、RAPTOR1BとGIは相互作用を示すことが確認された。これらの結果から、RAPTOR1BはGIを介して光周経路に関与し、夕暮れ時にCOタンパク質量を増加させていることが示唆される。CO を異所性発現させたraptor1b 変異体(raptor1b + ProCO::HA-CO)は、抽苔時期とロゼット葉数をCol-0と同等にまで回復させた。しかしながら、対照(co-10, ProCO::HA-CO)と直接比較すると、依然として開花の遅れを示した。一方、GI を異所的に発現させたraptor1b 変異体は、開花時期が部分的に回復したが、Col-0の表現型を完全に再現することはできなかった。raptor1b 変異体では、長日条件下の夕暮れ時および暗期の初期4時間でのGIの蓄積が抑制されており、raptor1b 変異体ではGIの分解が促進されていることが示唆される。以上の結果から、TORCの構成要素であるRAPTOR1Bは、GIタンパク質の蓄積を促進することにより、夕暮れ時のCOタンパク質の安定性に寄与していると考えられる。TORCは光と糖によって活性化されることが知られており、RAPTORが栄養状態(この場合は炭素の利用可能性)を伝達してGIの蓄積を調節し、光周期経路を介して花成を微調整していることが示唆される。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)植物免疫における細胞間相互作用

2025-04-13 14:48:23 | 読んだ論文備忘録

A rare PRIMER cell state in plant immunity
Nobori et al.  Nature (2025) 638:197-205.

doi:10.1038/s41586-024-08383-z

植物には移動性の免疫細胞がないため、病原体に遭遇した細胞は免疫応答を起こして周囲の細胞とコミュニケーションを取らなければならない。しかしながら、病原体に感染した植物の細胞性免疫状態の多様性、空間的組織化、機能については十分に理解されていない。米国 ソーク研究所Eckerらは、シロイヌナズナの葉に細菌病原体のPseudomonas syringae pv. tomato DC3000(DC3000)、DC3000 AvrRpt2(AvrRpt2)、DC3000 AvrRpm1(AvrRpm1)を感染させて免疫応答を抑制(DC3000)または誘発(AvrRpt2、AvrRpm1)させ、単一核RNA-seq(snRNA-seq)による遺伝子発現解析、単一核assay for transposase-accessible chromatin-seq(snATAC-seq)によるオープンクロマチン領域解析、multiplexed error robust fluorescence in situ hybridization(MERFISH)による空間トランスクリプトーム解析を用いて経時的に細胞状態を解析した。その結果、病原体が感染した葉での免疫応答は不均一な空間分布をしており、病原体に感染した葉組織の免疫活性化領域は限定的に分布することが判った。これらの免疫活性化領域は時間の経過とともに拡大し、24時間後には融合しているようであった。注目すべきは、各免疫活性化領域における免疫状態も経時的にダイナミックに変化していることで、古い免疫活性化細胞は、若い免疫活性化細胞に囲まれていた。これらの結果は、古い免疫活性化細胞は、おそらく初期の時点で病原体細胞と直接接触していた植物細胞であり、免疫応答は時間の経過とともに細胞間コミュニケーションを通じて周囲の細胞に広がっていったことを示している。免疫活性化領域の中心に向かって発現が高くなる遺伝子としてBON3ALD1FMO1 が同定され、特にBON3 の発現は最も古い免疫活性化細胞に濃縮されており、これらの細胞が病原体の侵入に対して早期に反応する細胞であることが示唆される。そこで、病原体の侵入に対して早期に反応す細胞をPRIMER(primary immune responder)細胞、PRIMER細胞を取り囲む細胞を bystander細胞と呼ぶことにした。PRIMER細胞とbystander細胞は、それぞれで異なる転写およびエピジェネティックな特徴を示しており、accessible chromatin領域(ACR)のモチーフエンリッチメント解析を行なうと、PRIMER細胞ではCAMTAモチーフとGT-3Aモチーフに富んでいたのに対し、bystander細胞ではWRKYモチーフに富んでいた。カルモジュリン結合転写活性化因子3(CAMTA3)によって抑制されることが示されている遺伝子は、PRIMER細胞と比較してbystander細胞で有意に過剰に発現していた。PRIMER細胞のマーカー遺伝子として見出されたBON3WRKY8LSD1 は、すべて免疫の負の制御因子であった。また、葉の免疫における機能はまだ解明されていないGT-3A(trihelix DNA結合転写因子をコード)もPRIMER細胞マーカー遺伝子として同定された。GT-3ABON3 と同様の空間的発現パターンを示し、GT-3AモチーフはPRIMER細胞でアクセシビリティが非常に高くなっていた。そこで、GT-3A の役割を理解するために、この遺伝子を異所的に過剰発現させた形質転換体(GT-3A-ox)を作出して表現型を解析したところ、DC3000に感染したGT-3A-ox系統は、サリチル酸(SA)経路に関与する遺伝子の誘導が阻害されており、DC3000感染に対する感受性が高くなっていることが判った。このことから、GT-3Aは免疫を負に制御している可能性が示唆される。また、GT-3A をノックアウトした形質転換体(gt3a-KO)は、AvrRpt2感染に対する感受性が高くなっていた。これらの結果は、PRIMER細胞におけるGT-3Aの機能が、病原体に対する最適な防御に必要であることを示している。gt3a-KO のsnRNA-seq解析から、GT-3Aによって直接もしくは間接的に発現制御を受けている遺伝子が見出され、このような遺伝子のうち、PUB36 の発現はgt3a-KO系統のPRIMER細胞で有意に低下しており、PUB36 遺伝子は上流領域にGT-3A結合モチーフを有していた。ALD1 を含むSA関連遺伝子は、gt3a-KO系統のbystander細胞では野生型植物よりも発現が減少していた。 このことは、PRIMER細胞におけるGT-3A の発現誘導が、周囲の細胞における防御遺伝子の適切な誘導に重要であることが示唆される。以上の結果から、植物免疫の活性化に際して、PRIMER細胞と命名した稀な細胞集団が最初に出現し、PRIMER細胞は長距離の細胞間免疫シグナル伝達遺伝子を活性化するbystander細胞に囲まれていることが判った。そして、これらの細胞の相互作用は葉全体に免疫応答を伝播させる鍵となっていると考えられる。


ソーク研究所のNews

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)イネの根系構造を制御するE3ユビキチンリガーゼ

2025-04-07 13:10:51 | 読んだ論文備忘録

A root system architecture regulator modulates OsPIN2 polar localization in rice
Li et al.  Nature Communications (2025) 16:15.

doi:10.1038/s41467-024-55324-5

根系構造(RSA)は、作物が効率よく土壌養分を取り込み収量を高める重要な要素となっている。中国 浙江大学Maoらは、ジャポニカイネ品種 秀水63(XS63)のメタンスルホン酸エチル(EMS)変異集団から、根の重力屈性の異常によってRSAが浅くなるgravitropism loss 1gls1)変異体を単離した。7日齢のgls1 変異体幼苗は、野生型XS63幼苗と比較して、主根が長く、不定根が多く、草丈が高く、根伸長角(RGA)が広くなっていた。gls1 変異体の根は重力応答が失われていたが、シュートの重力応答は正常であった。さらに、gls1 変異体の根の空間分布は、XS63よりも明らかに大きく、根は土壌表層に多く集中していた。また、7週齢のgls1 変異体の地上部と根の乾燥重量は、XS63よりも大きくなっていた。これらの結果から、OsGLS1はイネの生長を負に制御しており、RSAの制御に重要な役割を果たしていることが示唆される。水田では、窒素、リン、カリウムなど、ほとんどの養分は水に溶けやすく、土壌表層に蓄積しやすい。したがって、表層から養分を取り込むには、浅い根の方が適している。同位体窒素15Nを用いた解析から、gls1 変異体の何れの組織においても15N量がXS63よりも高く、gls1 変異体は土壌からの養分吸収が高いことが示唆される。gls1 変異体は、XS63と比較して、草丈、着粒率、籾千粒重、籾長、籾幅には明確な差異は見られなかったが、有効穂数、穂長、株当たり収量が高かった。さらに、XS63の地上部と比較して、gls1 変異体の総N濃度と総P濃度は高くなっていた。これらの結果から、OsGLS1 の変異は土壌からの養分吸収と穀物収量を向上させていると考えられる。一方で、水耕栽培試験から、OsGLS1 の変異は養分の取込みや輸送に影響してはいないことが判った。gls1 は単一劣性変異で、第4染色体上にマッピングされている。解析の結果、gls1 ではLOC_Os04g01160の第2エクソン内にGの挿入(開始コドンから1538 bp下流)があり、相補性試験やCRISPR/Cas9で新たに作出した変異体の解析から、この遺伝子(OsGLS1)の変異がgls1 変異体でのRSA異常の原因遺伝子であることが確認された。OsGLS1 は調査したすべての組織で恒常的に発現しており、特に幼苗の根端部と主根伸長領域の表皮、外皮、厚壁細胞といった外細胞層、開花期の止葉で強い発現を示していた。また、OsGLS1の細胞内局在を見たところ、OsGLS1は、根の外細胞層において、細胞の細胞膜基底部側に極性局在していることが判った。さらに、OsGLS1の細胞膜上の極性局在にはN末端側30番目のSer残基のリン酸化が重要であることが判った。イネのRSA制御にオーキシン排出キャリアのPIN-FORMED2(OsPIN2)が関与していることが知られている。そこで、pin2 gls1 二重変異体を作出して表現型を観察したところ、不定根数、主根長、根毛長は、pin2 変異体と同程度であったが、gls1 変異体よりも有意に低くなっていた。また、pin2 gls1 二重変異体のRGAはgls1 変異体と同程度であり、pin2 変異体よりも有意に大きかった。これらの結果から、OsGLS1OsPIN2 が同じ遺伝経路で根の発達に関与していることが示唆される。gls1 変異体の根でのオーキシン分布をレポーターコンストラクト(DR5:VENUSDR5:GUS)を用いて解析したところ、gls1 変異体の外細胞層ではオーキシンシグナル出力が低いことが判った。一方、中心柱細胞と根冠細胞では、XS63の根と比較してオーキシンシグナル出力が高くなっていた。根を90°回転させて水平にしたところ、XS63の根では伸長領域の下側でより強いオーキシンシグナルが観察されたが、gls1 変異体の根では観察されなかった。これらの結果から、OsGLS1はオーキシン分布に関与している可能性が示唆される。gls1 変異体とXS63の間で、OsAUX 遺伝子やOsPIN 遺伝子の発現に差異は見られなかったが、オーキシントランスポーターの細胞内局在を見たところ、OsPIN2は、XS63では根の外細胞層において細胞膜頂端部に極性局在していたのに対して、gls1 変異体では細胞膜頂端部と基底部の間で均一に分布していることが判った。一方、皮層細胞では、gls1 変異体とXS63の両方で、細胞膜基底部に極性局在していた。これらの結果から、OsGLS1は根の外細胞層におけるOsPIN2の正常な存在量と細胞膜極性局在にとって重要であることを示唆される。OsGLS1とOsPIN2との関係を調査したところ、OsGLS1はOsPIN2の中央部親水性ループ領域と相互作用をすることが確認された。OsGLS1はRINGドメインを有しており、E3ユビキチンリガーゼとして機能していることが示唆される。解析の結果、OsGLS1はOsPIN2を直接ユビキチン化して26Sプロテアソーム系による分解へと導くことが判った。以上の結果から、OsGLS1は、細胞膜基底部に局在するOsPIN2のプールを26Sプロテアソーム分解経路を介して直接分解してOsPIN2の細胞膜極性局在を調節することでオーキシンの極性輸送を維持し、イネの根系構造の負の制御因子として機能していると考えられる。gls1 変異体は根が非常に浅く、水田での養分吸収や収量に貢献するが、干ばつ条件には適さない可能性がある。したがって、OsGLS1 の発現を適切に制御することで、養分吸収効率、耐乾性、高収量に適したRSAを持つ系統を作出できるかもしれない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)ブラシノステロイドシグナル伝達を強化する新規因子

2025-04-02 18:03:38 | 読んだ論文備忘録

BIL7 enhances plant growth by regulating the transcription factor BIL1/BZR1 during brassinosteroid signaling
Miyaji et al.  Plant Journal (2025) 121:e17212.

doi: 10.1111/tpj.17212

ブラシノステロイド(BR)のシグナル伝達において、BIL1/BZR1ファミリー転写因子の細胞質から核への移行と標的遺伝子の転写活性化はBRシグナル伝達経路における重要なステップとなっている。しかしながら、BIL1/BZR1の制御機構、特に核局在がどのように制御されているかについては、まだ不明な点が多い。京都大学中野らは、シロイヌナズナのfull-length cDNA overexpressor(FOX)Huntingシステムを用いて、BR生合成阻害剤ブラシナゾール(Brz)存在下の暗所で野生型植物よりも胚軸が伸長し、bil1-1D/bzr1-1D 変異体と類似した表現型を示すBrz-insensitive-long hypocotyl7-1Dbil7-1D)変異体を単離した。bil7-1D 変異体は、At1g63720 がコードするcDNAを過剰発現しており、本遺伝子をBIL7 と命名した。BIL7 は、核局在シグナル(NLS)と推定される配列以外に機能ドメインが見られない新規タンパク質をコードしていた。シロイヌナズナには3つのBIL7 ホモログ遺伝子[BIL-sevenhomolog (BSH) 1-3]があり、他の多くの植物種にもホモログが存在していた。bil7-1D 変異体やBIL7 過剰発現系統(BIL7-OX)は、BRシグナル伝達の負のフィードバックループにより、BR生合成遺伝子(DWF4CPD)の発現量が低下し、BR中間代謝産物量が減少していた。また、BIL7 とホモログ遺伝子をRNAiでノックダウンしたBIL7-RNAi 系統やbil7 機能喪失変異体は、BR感受性が低下していた。これらの結果から、BIL7はBRシグナル伝達の正の制御因子として機能していることが示唆される。bil7-1D 変異体は、野生型植物と比較して花序が長く、二次花序数が多いが、BIL7-RNAi 系統の花序は短く、これには細胞分裂と細胞伸長が影響していた。また、BIL7-RNAi 系統の根は野生型植物よりも短くなっていた。これらの結果から、BIL7は、細胞伸長と細胞分裂を制御することによって、花序と根の生長を制御していることが示唆される。BIL7 プロモーター制御下でGUS レポーターを発現させた解析から、BIL7 は根端、若齢の花序やロゼット葉といった発達初期の器官で高い発現をしており、伸長した花序や展開したロゼット葉での発現は弱く、発現量が減少していることが判った。したがって、BIL7は器官の発達初期に機能しており、器官が成熟するにつれて発現は減少していくと考えられる。GFPを融合したBIL7を用いてBIL7タンパク質の細胞内局在を見たところ、2日目芽生えでは子葉、胚軸、根においてBIL7-GFPは核と細胞質の両方に局在しており、4日目や6日目の芽生えではGFP蛍光が減少していることが判った。bil7-1D 変異は、BRシグナル伝達を負に制御しているGSK3-likeキナーゼの変異体bin2-1 およびBR生合成酵素変異体det2-1 において観察される暗所育成芽生えの短い胚軸や矮性花序といった表現型を有意に回復させた。また、bil7-1D 変異は、弱いBR受容体変異体bri1-5 を明らかに回復させたが、ヌル変異体のbri1-116 は回復できなかった。これらの結果から、BIL7はBIN2の下流で働く可能性が高く、その機能には何らかのBRシグナル伝達が必要であることが示唆される。解析の結果、BIL7は、BIN2およびSer/ThrフォスファターゼのBSU1と核および細胞質で相互作用をするが、BR受容体キナーゼのBRI1やBRシグナル伝達経路の因子とは相互作用をしないことが判った。また、BIN2は直接BIL7をリン酸化すること、このリン酸化はBSU1存在下では抑制されることが判った。さらに、BIL7はBIN2阻害剤であるbikinin存在下で核局在が促進されることが判った。これらの結果から、BRシグナルによるBIN2の阻害がBIL7の核局在化を引き起こすことが示唆される。BIL1/BZR1とBIL7の関係を解析したところ、BIL7は細胞質および核においてリン酸化および脱リン酸化されたBIL1/BZR1と相互作用すること、BIL7はBIL1/BZR1の核内蓄積を促進することが判った。BR処理やbikinin処理は、BIL1/BZR1の脱リン酸化と核蓄積を促進してBRシグナル伝達を活性化する。BIL7-OX 系統は、脱リン酸化型BIL1/BZR1の蓄積を促進し、BIL7-RNAi 系統は、脱リン酸化型およびリン酸化型の両方のBIL1/BZR1の蓄積が減少していた。これらの結果は、BIL7は、BRやbikininの処理と同様に、脱リン酸化された活性型のBIL1/BZR1の蓄積を促進していることが示唆される。bil1-1D/bzr1-1D 変異体やBIL1/BZR1 過剰発現系統にbil7-1D 変異やBIL7-RNAi を導入した系統の表現型解析から、胚軸伸長に対するBIL1/BZR1の作用がBIL7によって増強されることが判った。これらの結果から、BIL7はおそらくBIL1/BZR1の核内蓄積を増強することにより、BIL1/BZR1を介した胚軸伸長を促進していると考えられる。以上の結果から、BIL7は、BRシグナル伝達経路の重要な転写因子であるBIL1/BZR1の核移行と蓄積を促進することで、植物の生長を促進する新規因子であると考えられる。

京都大学 Latest research news

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする