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Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)サリチル酸受容体

2012-10-30 20:24:32 | 読んだ論文備忘録

NPR3 and NPR4 are receptors for the immune signal salicylic acid in plants
Fu et al.  Nature (2012) 486:228-232.
doi:10.1038/nature11162

植物に病原菌が感染すると、感染した細胞は過敏感反応(HR)と呼ばれるプログラム細胞死(PCD)を起こす。この局所的なPCDは、サリチル酸(SA)の生産を介して全身獲得抵抗性(SAR)を誘導する。シロイヌナズナにおいて、転写コファクターのnonexpressor of PR genes 1(NPR1)がSARに関与していることが知られている。NPR1タンパク質は通常の条件下ではオリゴマーを形成して細胞質に局在しているが、病原菌が感染するとモノマーとなって核へ移行し、転写因子のコファクターとして機能して防御応答遺伝子の発現を誘導する。よって、NPR1はSA受容体ではないかと考えられていたが、NPR1自体にはSA結合活性はない。NPR1はタンパク質相互作用に関与するBTBドメインを有しており、このドメインを持つタンパク質はクリン3(CUL3)E3リガーゼと相互作用をしてタンパク質分解に関与することが知られている。しかしながら、NPR1はプロテアソーム系によって分解される。分解されない変異NPR1を生成する個体もしくはCUL3 遺伝子の変異体は防御応答遺伝子の発現量は増加するが、SARの誘導は低下する。したがって、NPR1の核蓄積は防御応答遺伝子の発現に必要であるが、SARを起こすためにはその後のNPR1の分解が必要となる。米国 デューク大学Dong らは、NPR1のパラログのNPR3とNPR4がNPR1の分解に関与しCUL3のアダプターとして機能するのではないかと考えて解析を行なった。npr4 変異体、npr3 npr4 二重変異体はSA非存在下でNPR1タンパク質が野生型よりも多く含まれており、npr3npr4npr3 npr4 の各変異体はSA処理によるNPR1タンパク質の蓄積が野生型よりも早く起こった。変異体においてNPR1 転写産物量には変化が見られないことから、npr3npr4 変異によるNPR1タンパク質量の増加は転写後の制御によってなされていると思われる。野生型植物の粗抽出液にNPR1タンパク質を添加するとNPR1の分解が観察されたが、npr3 npr4 変異体の粗抽出液ではNPR1タンパク質の分解は見られなかった。また、プロテアソーム阻害剤MG115を添加することによって野生型粗抽出液でのNPR1タンパク質の分解が抑制された。in vitro プルダウン試験からNPR3とNPR4はCUL3と相互作用をすることが確認され、NPR4はNPR3よりも強くCUL3と結合した。形質転換体を用いた共免疫沈降試験から、NPR1とCUL3の相互作用にはNPR3、NPR4が必要であることがわかった。よって、NPR4、NPR3はNPR1の分解においてCUL3のアダプターとして機能していると考えられる。酵母two-hybrid(Y2H)法によってNPR1、NPR3、NPR4の相互作用を見たところ、NPR1とNPR4は相互作用示し、NPR1とNPR3の相互作用は弱かった。しかしながら、培地にSAやSAの機能的アナログの2,6-ジクロロイソニコチン酸(INA)を添加すると、NPR1とNPR4の相互作用が抑制され、NPR1とNPR3の相互作用が強まった。さらに、NPR3とNPR4はSAやINA存在下でヘテロ/ホモ二量体を形成した。よって、NPR3とNPR4はNPR1の安定性を制御するだけでなく、自己の制御も行なっていると考えられる。Y2Hの試験結果はin vitro プルダウンアッセイによっても確認された。以上の結果から、SAはNPR3やNPR4に直接結合してNPR1との相互作用を制御していることが推測される。そこで、NPR3とNPR4のSAとの親和性を測定したところ、どちらもSAと結合し、NPR3のSAとの親和性はNPR4よりも弱いことがわかった。また、NPR4には複数のSA結合部位があると考えられ、最初の結合によって他の部位への結合親和性が弱まる負の協同性があることがわかった。ゲルろ過解析から、NPR4は四量体を形成し、四量体にSA結合能があることが確認された。SARの正の制御因子であるNPR1のNPR3/4による分解の生物学的意義についてnpr3npr4npr3 npr4 変異体に病原菌を感染させて調査したところ、npr3npr3 npr4 変異体でのNPR1の安定化はSAR誘導性の低下をもたらし、これはcul3 acul3b 二重変異体の表現型と類似していることが明らかとなった。よって、NPR3、NPR4はCUL3を介したNPR1の分解とSARの誘導において重要であることが示唆される。また、npr3 npr4 二重変異体では菌感染によるPCDが起こらず、病原菌の生産するエフェクターに応答した抵抗性が弱くなっていた。この表現型はnpr1 npr3 npr4 三重変異体では抑制されていることから、npr3 npr4 二重変異体での抵抗性低下はNPR1の蓄積増加によって引き起こされていると考えられる。恒常的に核に局在するNPR1(C82A)とGFPとの融合タンパク質を発現させた個体に病原菌を感染させたところ、菌感染した細胞でのGFP蛍光は減少し、その周囲の細胞でのGFP蛍光は増加していた。よって、NPR1は抵抗性反応として引き起こされるPCDの阻害因子として機能していることが示唆される。以上の結果から、NPR3とNPR4はSAの受容体であると考えられる。菌感染していない状態では、CUL3-NPR4よってNPR1が分解されることで無用な抵抗性の活性化が抑制されるが、基底レベルのSAによってNPR1とNPR4の相互作用が妨げられことで、一定量のNPR1が維持される。病原菌が感染するとSA量は局所的および全身で増加し、感染部位から周辺部位へとSAの濃度勾配が形成される。そしてSA濃度の高い部位ではCUL3-NPR3によってNPR1が分解されてPDCが起こり、SA濃度の低い領域ではCUL3-NPR3相互作用が制限されることでNPR1が蓄積してSARが起こる。NPR3とNPR4によるSAの受容は、病原菌感染応答による細胞の生と死を決定する機構として機能していると言える。

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学会)植物化学調節学会第47回大会(鶴岡)

2012-10-27 22:05:09 | 学会参加

植物化学調節学会第47回大会が10月27、28日に山形大学農学部(鶴岡市)で開催された。午前中に口頭発表の前半部分が行なわれ、午後からは、総会、学会賞の授賞式、受賞講演があった。本年度の受賞者は以下のとおり。


学会賞 

小林正智(理化学研究所バイオリソースセンター)
「ジベレリンによる植物成長調節機構の研究と植物遺伝資源の整備」

中嶋正敏(東京大学大学院農学生命科学研究科)
「ジベレリンの作用発現の分子機構に関する研究」


奨励賞 

朝比奈雅志(帝京大学理工学部)
「植物切断組織の癒合における植物ホルモンおよび転写因子の役割」

米山香織(宇都宮大学雑草科学研究センター)
「ストリゴラクトン生合成・分泌に及ぼす植物栄養の影響に関する研究」
 (受賞講演は次年度大会)


受賞講演の後、理化学研究所植物科学研究センターの神谷勇治先生が、4月に亡くなられた名古屋大学の坂神洋次先生を追悼する「若き日の天然物生理活性物質ハンターの坂神洋次先生と過ごした日々」と題した特別講演を行なった。その後、鶴岡市にある慶應義塾大学先端生命科学研究所の冨田 勝先生による特別講演「最新のメタボロミクスとシステムバイオロジー」が行なわれた。

 

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論文)サイトカイニンによる根の成長制御

2012-10-22 21:42:05 | 読んだ論文備忘録

A PHABULOSA/Cytokinin Feedback Loop Controls Root Growth in Arabidopsis
Dello Ioio et al.  Current Biology (2012) 22:1699-1704.
doi:10.1016/j.cub.2012.07.005

根は先端部分から基部に向かって明確な分化の勾配が形成されている。根端にある幹細胞周辺は細胞分裂を行なっている分裂領域(DZ)で、基部に近くなると細胞分裂が止まり細胞伸長によって成長する伸長/分化領域(EDZ)となる。DZとEDZの境界は移行領域(TZ)と呼ばれ、TZの位置によって分裂組織の長さが決まる。分裂細胞と分化細胞のバランスはサイトカイニンとオーキシンによって制御されており、根端部で形成されるオーキシン極大が幹細胞機能を維持し、サイトカイニンは先端部へ向けてオーキシンシグナルを抑制するように作用して分化を促進し、TZの位置を決定している。したがって、サイトカイニンは根の分裂組織のサイズを決めていることになるが、その詳細な機構は明らかとなっていない。英国 オックスフォード大学Tsiantis らは、冗長的に作用するHD-ZIPIII転写因子のPHABULOSAPHB )とPHAVOLUTAPHV )のマイクロRNA非感受性シロイヌナズナ機能獲得変異体phb-1dphv-1d の芽生えは根が短くなり、分裂組織が小さくなること、その表現型はサイトカイニン処理した芽生えやバクテリアのサイトカイニン合成酵素遺伝子ISOPENTENYL TRANSFERASEIPT )を過剰発現させた個体と類似していることを見出した。よって、PHBとPHVはTZの位置すなわち根分裂組織のサイズをサイトカイニンと同様の機構によって制御していると考えられる。PHBの活性がサイトカイニンシグナルを介していることを示す証拠として、サイトカイニンに応答するARABIDOPSIS RESPONSE REGULATOR 5ARR5 )の発現領域がphb-1d 変異体やphv-1d 変異体では野生型よりも拡張していること、サイトカイニンによる分裂組織サイズの制御に関与しているARR1 の機能喪失はphb-1d 変異体の根が短くなる表現型を抑制することが挙げられる。また、phb-1d 変異体やphv-1d 変異体の根端部の幹細胞には異常が見られないことから、これらの変異体ではTZの位置のみが異常であると考えられる。phb phv 二重変異体芽生えは野生型よりも根が長く、根分裂組織も長くなっており、これはサイトカイニンの生合成経路や受容体の変異体の表現型と類似している。phb phv 二重変異体芽生えをサイトカイニン処理すると根の表現型は野生型と同等になることから、PHB、PHVはサイトカイニン生合成を促進する作用があると思われる。サイトカイニン生合成酵素をコードするIPT 遺伝子のうち、IPT7 の転写産物量はphb phv 二重変異体で減少しており、phb-1d 変異体やphv-1d 変異体では増加していた。よって、PHB、PHVはIPT7 の発現活性化に必須であると考えられる。PHBIPT7 の発現部位は重なっており、クロマチン免疫沈降試験からPHBがIPT7 遺伝子プロモーター領域に結合することが確認されたことから、IPT7 はPHBの直接のターゲットであることが示唆される。ipt7 変異体は野生型よりも根と根分裂組織が長くなることから、IPT7 を介したサイトカイニン生合成は根分裂組織のサイズを決定していると言える。PHB/PHVが根分裂組織サイズの制御においてIPT7 以外の遺伝子をターゲットとしているかを調査するために、IPT7PHB プロモーター制御下で発現させたphb phv 二重変異体の表現を観察したところ、この個体の根の長さや根分裂組織のサイズは野生型と同等であった。よって、PHB 発現領域でのIPT7活性は正常な根の発達におけるPHB/PHVの機能に十分に取って代り得る事が示唆される。さらに、phb phv ipt7 三重変異体の根分裂組織のサイズはphb phv 二重変異体やipt7 変異体と同等であり、PHB/PHVはIPT7によるTZ位置決定にとって主要な制御因子であることが示唆される。サイトカイニンは一定のの量を超えるとIPT の発現量を低下させることで自身の生合成を抑制するフィードバックが存在する。野生型植物をサイトカイニン処理するとPHBPHV 転写産物量が減少し、この発現抑制にはARR1 が関与していることが確認された。したがって、サイトカイニン/ARR1を介したPHB 発現抑制は、PHBによるサイトカイニン生合成制御を通じてTZの位置決定に関与している。PHB はmiR165/166による転写後抑制も受けているが、サイトカイニンはARR1を介してMIR165A の発現を抑制していることが確認された。したがって、サイトカイニンは自らの生合成を活性化するPHB と、PHB の抑制をするマイクロRNAの両者の抑制を行なうという一貫性に欠ける制御ループを形成していることになる。この調節回路は、根の発達過程での細胞分裂と細胞分化のバランスを決定し、サイトカイニン機能の頑強性をもたらしていると考えられる。

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論文)DELLAタンパク質による花成制御

2012-10-18 20:40:09 | 読んだ論文備忘録

Gibberellin Regulates the Arabidopsis Floral Transition through miR156-Targeted SQUAMOSA PROMOTER BINDING-LIKE Transcription Factors
Yu et al.  The Plant Cell (2012) 24:3320-3332.
doi:10.1105/tpc.112.101014

短日条件下にあるシロイヌナズナが花成する経路には、ジベレリン(GA)による経路と、SQUAMOSA PROMOTER BINDING-LIKE(SPL)転写因子をターゲットとするマイクロRNA156(miR156)を介した経路の2つがある。中国科学院上海生命科学研究院植物生理生態研究所のWang らは、花成誘導におけるGAの役割を解明することを目的に、GA非感受性型のRGA であるRGAd17 を自身のプロモーター制御下で発現するコンストラクト(ProRGA:RGAd17 )を導入したシロイヌナズナを作出し、表現型を観察した。この形質転換体はGA欠損変異体と類似した表現型を示し、葉が小さく葉色が濃くなり、花成遅延を起こした。RGAd17 を師部特異的プロモーターのSUC2 もしくは分裂組織特異的プロモーターのFD によって発現させたところ、長日条件下ではどちらの個体も花成遅延を起こし、短日条件下ではSUC2 プロモーターで発現させた個体の花成時期は野生型と同等であったが、FD プロモーターで発現させた場合には花成時期の更なる遅れが見られた。よって、RGAは長日条件下では葉と茎頂の両方で花成を抑制し、短日条件では茎頂において花成遅延を引き起こす。SUC2 プロモーターでRGAd17 を発現させた場合、葉のFLOWERING LOCUS TFT )の転写産物量が減少しており、RGAは葉維管束組織でのFT の発現を抑制していると考えられる。植物の齢が進んでmiR156が減少することによって増加したSPLは、FT の発現を負に制御するAP様転写因子SCHLAFMUTZESMZ )およびSCHNARCHZAPPENSNZ )をターゲットとするmiR172を活性化することが知られている。SUC2 プロモーターでRGAd17 を発現させた個体ではmiR172量が非常に低くなっており、miR172をコードする遺伝子の1つであるMIR172b の転写産物量も減少していた。しかし、FT の発現を制御しているCONSTANSCO )、FLOWERING LOCUS C FLC )、SHORT VEGETATIVE PHASESVP )、TEMPRANILLOTEM )の発現量には大きな変化は見られなかった。また、RGAd17 を発現する個体でFT もしくはMIR172a を発現させると、RGAによる長日条件下での花成遅延が抑制されて花成時期が早くなった。野生型植物では、栄養成長から生殖成長に移行するにつれてMADS box転写因子をコードするFRUITFULLFUL )やSUPPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CO1SOC1 )の茎頂での発現量が徐々に増加していくが、FD プロモーター制御下でRGAd17 を発現させた個体ではFULSOC1 の発現量増加は見られなかった。よって、RGAはMADS box 遺伝子の発現を抑制していることが示唆される。野生型植物をGA処理すると花成が促進されるが、MIR156 を過剰発現させた個体ではGAに対する感受性が低下し、花成促進が打ち消された。また、GA処理によるSOC1FUL の発現量増加が、MIR156 過剰発現個体では見られなかった。シロイヌナズナの5つのDELLAタンパク質が機能喪失したdella 五重変異体長日条件下において野生型よりも花成が早くなるが、MIR156 を過剰発現させることによって花成が遅延した。miR156のターゲットであるSPL9およびSPL15が機能喪失したspl9 spl15 二重変異体はMIR156 過剰発現個体と同様に花成遅延を起こす。また、miR156耐性型のSPL9rSPL9 )を自身のプロモーター制御下発現させた個体は長日条件下で花成が促進される。rSPL9RGAd17 を同時に発現させた個体は、RGAd17 を発現させた個体と同様に葉色が濃い小さい葉を形成するが、花成はRGAd17 発現個体よりも早くなった。したがって、miR156のターゲットとなるSPLはGAによる花成誘導に必須であり、DELLAはSPLによる花成誘導経路を抑制していると考えられる。RGAとSPLとの相互作用を酵母two-hybrid 法によって調査したところ、RGAはmiR156のターゲットとなるSPLと相互作用をすることがわかり、BiFCアッセイや共免疫沈降(CoIP)試験から、この相互作用が植物体内においても確認された。rSPL9 を発現させた個体ではSOC1MIR172b の発現量が増加するが、RGAd17 を同時に発現させると発現量は野生型と同等になった。野生型植物をGA生合成阻害剤のパクロブトラゾール(PAC)処理をするとSOC1MIR172b の発現量が減少するが、rSPL9 発現個体やMIR156 過剰発現個体はPAC非感受性となり、PAC処理によるSOC1MIR172b の発現量変化は見られなくなった。よって、RGAはSPLを介したMADS box 遺伝子やMIR172 の発現を抑制していることが示唆される。以上の結果から、植物体の齢による花成誘導とGAによる花成誘導は、SPLとDELLAの直接の物理的相互作用によって制御されていることが示唆される。

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論文)ジベレリンシグナルとジャスモン酸シグナルの統合

2012-10-12 05:36:16 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis DELLA RGA-LIKE3 Is a Direct Target of MYC2 and Modulates Jasmonate Signaling Responses
Wild et al.  The Plant Cell (2012) 24:3307-3319.
doi:10.1105/tpc.112.101428

シロイヌナズナには、GA INSENSITIVE(GAI)、REPRESSOR OF GA1-3(RGA)、RGA-LIKE1(RGL1)、RGL2、RGL3の5種類のDELLAタンパク質が見られる。これまでの研究から、ジベレリン(GA)による生理作用のうち、栄養成長はRGAとGAI、発芽はRGL2、花芽形成はRGA、RGL1、RGL2が関与していることが明らかとされているが、RGL3については機能がよくわかっていない。フランス 植物分子生物学研究所(IBMP)Achard らは、RGL3の機能を明らかにすることを目的に、ATTED-IIシロイヌナズナ遺伝子共発現データベースを用いた解析を行ない、RGL3JAZ 遺伝子等のジャスモン酸(JA)関連遺伝子と共発現していることを見出した。実際に、シロイヌナズナ芽生えをメチルジャスモン酸(MeJA)処理するとRGL3 の発現量が一過的に植物体全体で増加した。JAによるRGL3 の発現誘導はcoi1 変異体では見られず、RGL3COI1 の下流に位置していると考えられる。また、myc2 変異体ではJAによるRGL3 の発現誘導が部分的に抑制され、myc2 myc3 myc4 三重変異体では発現誘導が完全に抑制された。よって、MYC2/MYC3/MYC4は冗長的にRGL3 の発現誘導に関与していると考えられる。MYC2/MYC3/MYC4はG-box(CACGTG)もしくはG-box様モチーフに結合することが知られているが、RGL3 プロモーター領域にはそのようなモチーフが5つ存在していた。クロマチン免疫沈降(ChIP)やゲルシフトアッセイ(EMSA)から、MYC2は直接RGL3 プロモーター領域をターゲットとしていることが判った。最近の研究から、DELLAタンパク質はJAZタンパク質と相互作用をすることが報告されているが、幾つかの実験からRGL3も植物体内でJAZタンパク質と相互作用をすることが確認された。rgl3 変異体では、MYC2を介してJAに応答して発現誘導される遺伝子(VSP2TAT1LOX2 )の誘導量が野生型よりも低くなっており、RGL3はこれらの遺伝子を十分に発現誘導させるために必要であることが示唆される。また、RGL3 過剰発現個体ではVSP2TAT1LOX2 の発現量が恒常的に高くなっていた。したがって、JAによるMYC2の転写活性の活性化には、COI1を介したJAZの分解と、増加したRGL3とJAZタンパク質との複合体形成の2種類のMYC2活性抑制解除機構が存在すると考えられる。RGL3とJAZタンパク質との相互作用による制御機構は、JAZ8のようにJAによる分解に対して比較的耐性を示すJAZタンパク質にとっては重要であると思われる。RGL3 は死体栄養性病原菌の灰色カビ病菌(Botrytis cinerea )の感染によって発現誘導されるるが、rgl3 変異体はB. cinerea の感染に弱く、菌の感染に応答して発現するPLANT DEFENSIN1.2ETHYLENE RESPONSIVE FACTOR1 といった病害応答遺伝子の発現量が低下していた。よって、RGL3はJAによる死体栄養性病原菌に対する病害応答を強めていると考えられる。半生物栄養性病原菌のトマト斑葉細菌病菌(Pseudomonas syringae pv. tomato strain DC3000)の感染によってRGL3 は発現誘導されるが、コロナチン(COR)を生成しない系統の菌の感染ではRGL3 の発現誘導は起こらなかった。よって、P. syringae はCORに依存した経路でRGL3 の発現を制御している。rgl3 変異体では接種したP. syringae の成長が抑制されていた。P. syringae に対する防御応答ではサリチル酸(SA)がシグナル伝達物質として機能しているが、rgl3 変異体ではSAによるPATHOGENESIS-RELATED1PR1 )の発現誘導が野生型よりも強くなっていた。よって、RGL3はSAシグナル伝達経路に対して抑制的に作用していると考えられる。以上の結果から、RGL3は病原菌に対する抵抗性の制御においてGAシグナルとJAシグナルを統合する因子として機能していると考えられる。

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論文)フィトクロムによる花成制御に関与する転写因子

2012-10-10 21:15:46 | 読んだ論文備忘録

The Phytochrome-Interacting VASCULAR PLANT ONE-ZINC FINGER1 and VOZ2 Redundantly Regulate Flowering in Arabidopsis
Yasui et al.  The Plant Cell (2012) 24:3248-3263.
doi:10.1105/tpc.112.101915

京都大学河内らは、酵母two-hybrid法によってフィトクロムB(phyB)と相互作用をするタンパク質の選抜を行ない、ジンクフィンガーモチーフを含んだ転写活性化因子VASCULAR PLANT ONE ZINC FINGER PROTEIN1(VOZ1)とVOZ2を見出した。VOZ1VOZ2 の機能を解析することを目的に両遺伝子のT-DNA挿入機能喪失変異体を表現型を調査したところ、voz1 voz2 二重変異体は長日条件下で花成遅延を起こすことがわかった。voz1 voz2 二重変異はphyB 変異体による早期花成を完全に抑制することから、VOZ1VOZ2 はphyBによる花成時期の制御に関与していることが示唆される。phyB voz1 voz2 三重変異体ではphyB 変異体で観察される葉柄伸長、葉の下偏成長、葉の小型化といった表現型に変化は見られず、VOZ1VOZ2 はphyBによる花成時期制御にのみ関与していると考えられる。VOZタンパク質はphyBと相互作用をし、phyBは葉においてFLOWERING LOCUS TFT )の発現を抑制することが知られている。そこで、葉でのVOZ の発現を調査したところ、VOZ1 は維管束で発現し、VOZ2 は維管束だけでなく葉肉細胞でも発現していることがわかった。よって、VOZ1VOZ2 は葉の維管束で発現して花成を制御していると考えられる。voz1 voz2 二重変異体ではFT の発現が抑制されており、野生型植物において観察される日没期のFT 発現量のピークも見られなかった。CONSTANSCO )の発現パターンは野生型とvoz1 voz2 変異体の間で類似していたが、野生型植物のロゼット葉で見られる日没期と深夜のCO 発現のピークが変異体では弱くなっていた。voz1 voz2 二重変異体でのFLOWERING LOCUS CFLC )の発現量は野生型よりも高くなっており、voz1 voz2 二重変異体の花成遅延はFLC 発現量増加によってもたらされる葉でのFT 発現量の減少によるものであると考えられる。VOZタンパク質の細胞内局在をGFP-VOZ2融合タンパク質を用いて調査したところ、融合タンパク質は主に細胞質に局在し、光質(赤色光-遠赤色光)による局在変化は起こらないことがわかった。しかし、VOZタンパク質は転写活性化因子であることから核において機能すると考えられる。そこで、GFP-VOZ2に核局在シグナル(NLS)もしくは核排出シグナル(NES)を付加してvoz1 voz2 二重変異体で発現させたところ、核局在シグナルを付加したものでは花成遅延が相補されたが、核排出シグナルを付加した場合は相補が起こらなかった。よって、VOZ2タンパク質は核に局在することで花成に対して機能していると考えられる。生体内においてphyBとVOZタンパク質との相互作用は細胞質において起こっており、光質を変えても複合体の細胞内局在に変化は見られなかった。しかしVOZとphyBとの相互作用は遠赤色光照射下で起こり、赤色光照射下では起こらないことがわかった。これらの結果から、VOZタンパク質は光条件による制御によって細胞質から核へ移行し、そこで分解されるのではないかと思われる。遠赤色光照射下と暗黒下に置かれた植物体のVOZ2タンパク質量は明所下や赤色光照射下のもよりも少なくなっていた。しかし核排出シグナルを付加したGFP-VOZ2タンパク質は光条件の違いによる量の変化は見られなかった。よって、VOZタンパク質量は光条件によって核での翻訳後制御を受けていると考えられる。阻害剤を用いた実験から、核でのVOZタンパク質の分解はプロテアソーム系を介してなされていることがわかった。phyA 変異体、phyB 変異体では遠赤色光下でのVOZタンパク質の分解程度が低く、hy1 hy2 二重変異体では遠赤色光下においてVOZタンパク質量の変化はほとんど起こらなかった。よって、光条件によるVOZタンパク質の分解制御にはphyA、phyB等のフィトクロムが関与していると考えられる。以上の結果から、VOZ1、VOZ2はシロイヌナズナにおいて冗長的に花成促進をする転写因子として機能していると考えられる。そして、phyBはVOZタンパク質と相互作用をすることで、VOZタンパク質を遠赤色光条件下で細胞質に留め、核への移行を制限していると考えられる。また、phyBはVOZタンパク質と細胞質で相互作用をした際にリン酸化等の修飾をし、VOZタンパク質が核へ移行した後の分解が起こるものと思われる。

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HP更新)バイケイソウ群落写真を追加

2012-10-06 17:35:01 | ホームページ更新情報

私のHP「Laboratory ARA MASA 」の「バイケイソウプロジェクト」の「バイケイソウ群落の変遷」に定点観察をしている箱根のバイケイソウ群落の5月20日7月29日8月19日9月9日の群落写真を追加しました。今年は6、7月に箱根へ調査に行けなかったため、この間の群落写真が抜けています。今年の箱根ではバイケイソウ開花個体が非常に少なく、私がいつも調査しているコースでは数個体の花成個体を目撃しただけでした。この数少ない花成個体が、1株この定点観察エリアの中に含まれていました(写真の左上あたり、7月29日の写真でよく判ると思います)。今年のバイケイソウ花成個体数は北海道でも非常に少なかったので、何らかの全国レベルの要因がバイケイソウの花成に影響しているのかもしれません。今後は、北海道と箱根での花成個体数を定量的に調査し、年変動を長期的に見ていけたらと思っています。

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論文)グルコースによるイネ発芽遅延を制御するF-boxタンパク質

2012-10-03 21:03:34 | 読んだ論文備忘録

A rice F-box gene, OsFbx352, is involved in glucose-delayed seed germination in rice
Song et al.  Journal of Experimental Botany (2012) 63:5559-5568.
doi:10.1093/jxb/ers206

F-box遺伝子はシロイヌナズナで692、イネで779が確認されており、植物の生理作用の様々な局面での制御機構に関与していると考えられている。中国科学院植物研究所のZhang らは、イネのF-box遺伝子の1つであるOsFbx352 について詳細な解析を行なった。定量PCRによってイネの各器官でのOsFbx352 の発現量を見たところ、葉での発現が高く、茎での発現が最も低かった。また、OsFbx352 の発現はアブシジン酸(ABA)処理によって増加した。イネ種子を水に浸漬するとOsFbx352 発現量が急激に上昇し、浸漬2時間後に最大となった。しかし、この発現上昇はグルコース添加によって抑制された。OsFbx352 の過剰発現形質転換体とRNAiノックアウト系統を作成して形態を観察したところ、水に浸漬させた通常状態での種子発芽と実生の成長に野生型との差異は認められなかったが、ABA添加による発芽遅延がRNAi個体で野生型よりも強くなり、過剰発現個体ではABAに対する感受性が弱くなっていた。ABA存在下での実生のシュート長は、過剰発現個体は野生型よりも長く、RNAi個体では短くなっていた。また、グルコースによる発芽阻害や実生の成長阻害の程度も過剰発現個体では野生型よりも弱く、RNAi個体では強くなっていた。乾燥種子のABA含量は野生型と過剰発現個体、RNAi個体で差は見られず、水に浸漬することによってABA含量は減少した。グルコースを添加した水に浸漬した場合はABA含量が水に浸漬した時よりも高くなるが、過剰発現個体のABA含量は野生型よりも低く、RNAi個体は高くなっていた。よって、OsFbx352 過剰発現個体ではグルコースによるABA代謝の変化が弱まり、発芽におけるグルコース感受性が低下していると考えられる。水に浸漬したOsFbx352 過剰発現個体種子ではABA生合成酵素をコードするOsNced2 の転写産物量が野生型よりも低く、RNAi個体では高くなっていた。グルコースを添加した水に浸漬するとOsNced2 転写産物量は野生型と過剰発現個体では減少するがRNAi個体では増加していた。同様の傾向はOsNced3 においても見られた。また、ABAの異化に関与してるOsAba-ox2 の転写産物量は、OsFbx352 過剰発現個体では野生型やRNAi個体よりも高くなっていた。OsAba-ox2 の発現はグルコース添加によって抑制されるが、抑制の程度は過剰発現個体では野生型よりも弱く、RNAi個体では強くなっていた。以上の結果から、OsFbx352 はABA代謝を制御することでグルコースによるイネ種子の発芽抑制に関与していることが示唆される。

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論文)プロアントシアニジンによる種子発芽阻害

2012-10-02 05:13:19 | 読んだ論文備忘録

Proanthocyanidins Inhibit Seed Germination by Maintaining a High Level of Abscisic Acid in Arabidopsis thaliana
Jia et al.  Journal of Integrative Plant Biology (2012) 54:663-673.
doi: 10.1111/j.1744-7909.2012.01142.x

プロアントシアニジン(PA)は種子のフラボノイド生合成経路での主要産物である。PAの生物学的作用については様々な調査がなされており、シロイヌナズナ変異体の解析から種子休眠との関連が示されているが、詳細は明らかとなっていない。中国 香港中文大学Zhang らは、シロイヌナズナ種子をPAを含む培地で発芽させると、培地のPA含量が増加するにつれて発芽率が低下することを見出した。種皮を剥いだアブラナ種子を用いた実験においても、培地に含まれるPA量が増加すると幼根の伸長が抑制された。よって、PAの種子発芽阻害効果は幼根伸長の抑制が一部関与していると考えられる。種子を浸漬するとアブシジン酸(ABA)が徐々に減少していくが、PAを含んだ液に浸漬するとABA含量が増加した。よって、PA処理はABAの新規合成を誘導していることが示唆される。ABA含量は生合成と分解のバランスによって制御されている。そこで、発芽種子でのABA生合成酵素遺伝子NCED6NCED9 およびABA異化酵素遺伝子CYP707A2 の発現量を見たところ、PA処理した発現種子では水に浸漬した種子よりもABA生合成酵素遺伝子の発現量が高く、ABA異化酵素遺伝子の発現量には差が見られなかった。よって、PA処理によるABA蓄積量の増加はABA生合成の上昇によるものであると考えられる。ABA含量はPA処理12時間後においても高い状態を維持しているが、この時にはABA生合成酵素遺伝子の転写産物量は大きく減少していた。しかし、ABA異化遺伝子の転写産物量も減少していることから、PA処理12時間後において見られる高いABA蓄積量はABAの異化の低下によるものであると思われる。ABA生合成の阻害剤であるノルジヒドログアヤレチック酸(NDGA)もしくはABA異化の阻害剤であるジニコナゾールを用いてPAとABAとの関係を見たところ、NDGAはPAによる種子発芽阻害を打ち消し、ジニコナゾールとPAの同時処理は発芽阻害をさらに強めることがわかった。PA欠損変異体成熟種子のABA含量は野生型よりも少なく、PAは種子の成熟過程でのABA蓄積にも影響していることがわかった。以上の結果から、PAはABA生合成を促進することで種子発芽を阻害していると考えられる。

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