Karrikin signaling regulates hypocotyl shade avoidance response by modulating auxin homeostasis in Arabidopsis
Xu et al. New Phytologist (2022) 236:1748-1761.
doi: 10.1111/nph.18459
カリキン(KAR)は、植物組織の燃焼によって生じる煙に含まれるブテノライド化合物の一種で、発芽促進等の生理作用がある。最近の研究で、KARはシロイヌナズナ芽生えの光感受性を高めることが報告されており、このことから、中国科学院上海生命科学研究院植物生理生態研究所のCai らは、KARは芽生えの避陰反応(SAS)の制御に関与しているのではないかと考えて解析を行なった。シロイヌナズナのカリキン受容体KARRIKIN INSENSITIVE 2(KAI2)が機能喪失したkai2 変異体は、日陰を模倣した遠赤色(FR)光照射による胚軸や葉柄の伸長促進の程度、葉面積縮小の程度が野生型よりも大きくなっていた。このような日陰処理応答性の変化は、KAI2が相互作用をするF-boxタンパク質MORE AXILLARY GROWTH 2(MAX2)が機能喪失したmax2 変異体においても観察された。KAI2 またはMAX2 を恒常的に過剰発現させた形質転換体は、日陰処理に応答した胚軸や葉柄の伸長や花成促進の程度が野生型よりも低下していた。したがって、KAI2 とMAX2 はSASに対して阻害的に作用していると考えられる。kai2 max2 二重変異体は日陰条件での胚軸や葉柄の伸長、葉面積の縮小がkai2 変異体と同程度であることから、KAI2 とMAX2 は日陰処理応答において同じ遺伝経路上で機能していると考えられる。野生型植物にKAR処理をすると、日陰条件での胚軸伸長が阻害された。MAX2 はKAI2リガンド物質(KL)シグナル以外にもストリゴラクトン(SL)シグナル伝達にも関与しているので、SLの生合成やシグナル伝達が機能喪失した変異体の日陰処理応答性を見たが、野生型との差異は見られなかった。よって、SLではなくKLがKAI2-MAX2 を介した日陰処理に応答した胚軸伸長を制御していると考えられる。KLシグナル伝達系では、SUPPRESSOR OF MAX2-1(SMAX1)やSUPPRESSORS OF MAX2-1-LIKE2(SMXL2)がMAX2の分解ターゲットとなっている。max2 smax1 二重変異体では、max2 変異体の日陰条件での表現型が回復することから、MAX2 による胚軸の日陰処理応答ははSMAX1 に依存していると考えられる。日陰条件での胚軸伸長はオーキシンの蓄積が関与しているので、オーキシン生合成阻害剤(キヌレニン)処理をしたところ、kai2 変異体の日陰処理による胚軸伸長促進の程度が野生型と同程度にまで低下した。また、kai2 変異体のオーキシン含量は野生型よりも高く、特に日陰処理によって差が広がった。kai2 変異体にyuc2 オーキシン生合成変異を導入することで胚軸伸長表現型が野生型と同程度になった。よって、kai2 変異体の胚軸伸長促進はオーキシン含量の増加によるものであると考えられ、KLシグナルとオーキシン経路の相互作用によって胚軸伸長が制御されているものと思われる。kai2 変異体の胚軸では求基的なオーキシン輸送量が増加しており、日陰処理によってPIN3 、PIN7 の発現量が増加した。したがって、kai2 変異体でのオーキシン分布の変化はオーキシン輸送系の変化が部分的に関与していると思われる。KAI2-MAX2の分解ターゲットのSMAX1 を過剰発現させた形質転換体(SMAX1-OE)は、日陰処理条件で野生型よりも胚軸と葉柄が伸長し、葉面積が縮小してSASの表現型が強くなった。野生型植物とSMAX1-OEとの間で発現量が異なる遺伝子を調査したところ、SMAX1-OEではPIN ファミリー遺伝子の発現量に変化は見られなかったが、IAA ファミリー遺伝子の発現が阻害され、ARF ファミリー遺伝子の発現が増加していることが判った。SMAX1-OE芽生えのオーキシン含量は野生型よりも高く、日陰条件で差が広がった。これらの結果から、SMAX1-OEの表現型は、オーキシンシグナル関連遺伝子の発現量変化が関連していると考えられ、これらの変化がオーキシン応答性と求基的オーキシン輸送を高めていると思われる。以上の結果から、カリキンはオーキシンの蓄積と輸送を調節することでシロイヌナズナ胚軸の避陰反応を制御していると考えられる。