Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)カリキンによる避陰反応の制御

2022-11-21 11:22:57 | 読んだ論文備忘録

Karrikin signaling regulates hypocotyl shade avoidance response by modulating auxin homeostasis in Arabidopsis
Xu et al.  New Phytologist (2022) 236:1748-1761.

doi: 10.1111/nph.18459

カリキン(KAR)は、植物組織の燃焼によって生じる煙に含まれるブテノライド化合物の一種で、発芽促進等の生理作用がある。最近の研究で、KARはシロイヌナズナ芽生えの光感受性を高めることが報告されており、このことから、中国科学院上海生命科学研究院植物生理生態研究所Cai らは、KARは芽生えの避陰反応(SAS)の制御に関与しているのではないかと考えて解析を行なった。シロイヌナズナのカリキン受容体KARRIKIN INSENSITIVE 2(KAI2)が機能喪失したkai2 変異体は、日陰を模倣した遠赤色(FR)光照射による胚軸や葉柄の伸長促進の程度、葉面積縮小の程度が野生型よりも大きくなっていた。このような日陰処理応答性の変化は、KAI2が相互作用をするF-boxタンパク質MORE AXILLARY GROWTH 2(MAX2)が機能喪失したmax2 変異体においても観察された。KAI2 またはMAX2 を恒常的に過剰発現させた形質転換体は、日陰処理に応答した胚軸や葉柄の伸長や花成促進の程度が野生型よりも低下していた。したがって、KAI2MAX2 はSASに対して阻害的に作用していると考えられる。kai2 max2 二重変異体は日陰条件での胚軸や葉柄の伸長、葉面積の縮小がkai2 変異体と同程度であることから、KAI2MAX2 は日陰処理応答において同じ遺伝経路上で機能していると考えられる。野生型植物にKAR処理をすると、日陰条件での胚軸伸長が阻害された。MAX2 はKAI2リガンド物質(KL)シグナル以外にもストリゴラクトン(SL)シグナル伝達にも関与しているので、SLの生合成やシグナル伝達が機能喪失した変異体の日陰処理応答性を見たが、野生型との差異は見られなかった。よって、SLではなくKLがKAI2-MAX2 を介した日陰処理に応答した胚軸伸長を制御していると考えられる。KLシグナル伝達系では、SUPPRESSOR OF MAX2-1(SMAX1)やSUPPRESSORS OF MAX2-1-LIKE2(SMXL2)がMAX2の分解ターゲットとなっている。max2 smax1 二重変異体では、max2 変異体の日陰条件での表現型が回復することから、MAX2 による胚軸の日陰処理応答ははSMAX1 に依存していると考えられる。日陰条件での胚軸伸長はオーキシンの蓄積が関与しているので、オーキシン生合成阻害剤(キヌレニン)処理をしたところ、kai2 変異体の日陰処理による胚軸伸長促進の程度が野生型と同程度にまで低下した。また、kai2 変異体のオーキシン含量は野生型よりも高く、特に日陰処理によって差が広がった。kai2 変異体にyuc2 オーキシン生合成変異を導入することで胚軸伸長表現型が野生型と同程度になった。よって、kai2 変異体の胚軸伸長促進はオーキシン含量の増加によるものであると考えられ、KLシグナルとオーキシン経路の相互作用によって胚軸伸長が制御されているものと思われる。kai2 変異体の胚軸では求基的なオーキシン輸送量が増加しており、日陰処理によってPIN3PIN7 の発現量が増加した。したがって、kai2 変異体でのオーキシン分布の変化はオーキシン輸送系の変化が部分的に関与していると思われる。KAI2-MAX2の分解ターゲットのSMAX1 を過剰発現させた形質転換体(SMAX1-OE)は、日陰処理条件で野生型よりも胚軸と葉柄が伸長し、葉面積が縮小してSASの表現型が強くなった。野生型植物とSMAX1-OEとの間で発現量が異なる遺伝子を調査したところ、SMAX1-OEではPIN ファミリー遺伝子の発現量に変化は見られなかったが、IAA ファミリー遺伝子の発現が阻害され、ARF ファミリー遺伝子の発現が増加していることが判った。SMAX1-OE芽生えのオーキシン含量は野生型よりも高く、日陰条件で差が広がった。これらの結果から、SMAX1-OEの表現型は、オーキシンシグナル関連遺伝子の発現量変化が関連していると考えられ、これらの変化がオーキシン応答性と求基的オーキシン輸送を高めていると思われる。以上の結果から、カリキンはオーキシンの蓄積と輸送を調節することでシロイヌナズナ胚軸の避陰反応を制御していると考えられる。

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論文)SHOOT MERISTEMLESSによる半水生植物異形葉性の制御

2022-11-15 15:31:46 | 読んだ論文備忘録

SHOOT MERISTEMLESS participates in the heterophylly of Hygrophila difformis (Acanthaceae)
Li et al.  Plant Physiology (2022) 190:1777-1791.

doi:10.1093/plphys/kiac382

植物は環境変化に対して葉の可塑性を示す。これは異形葉性と呼ばれており、両生植物や水生植物で広く観察されている。両生植物では、一般に沈水葉は深裂し糸状または線状で薄く、気孔を持たないが、地上葉は浅裂卵形葉で、気孔と維管束が多い。中国科学院 水生生物研究所Hou らは、異形葉性の分子機構を解明するために、形質転換実験系が確立している半水生植物のHygrophila difformis (ウォーターウィステリア)を用いて解析を行なった。シロイヌナズナにおいて茎頂分裂組織で発現して葉の形成に関与していることが知られているクラス1 KNOTTED1-LIKE HOMEOBOXKNOX1 )遺伝子SHOOT MERISTEMLESSSTM )のH. difformis ホモログ遺伝子HdSTM の発現を見ると、沈水シュートで発現量が高くなっていた。組織毎に発現を見ると、茎頂分裂組織、葉原基、腋芽、分裂組織下の茎の皮質で発現しており、地上シュートでは発達中の葉の鋸歯部とその境界部、沈水シュートでは発達中の葉とその境界部で発現が検出された。また、発達中の葉での発現は向軸側で見られた。葉の発達過程でのHdSTM の役割を確認するために、35Sプロモーター制御下でHdSTM を発現するコンストラクト(35S::HdSTM )をシロイヌナズナに導入したところ、ロゼット葉に切れ込みが入り、葉柄が短くなる形態変化が起こった。また、CUP-SHAPED COTYLEDON 遺伝子(AtCUC1AtCUC2AtCUC3 )の発現量が増加していた。35S::HdSTM を導入したH. difformis は、HdCUC3 の発現量が増加しており、陸上育成個体の表現型に野生型との差異は見られなかったが、沈水条件で育成した場合は新規展開する葉の切れ込みが野生型よりも早く形成されることが判った。よって、HdSTM は沈水時の葉の切れ込み形成に関与していることが示唆される。RNAiでHdSTM を発現抑制したH. difformis は、HdCUC3 発現量が減少し、陸上育成個体は鋸歯が浅くなり、葉の形態異常や葉序の乱れが起こった。沈水条件育成個体は、切れ込みのある沈水葉を展開したが、野生型よりも葉が単純化して切れ込みが弱くなっていた。H. difformisHdCUC3 の発現パターンを見ると、一般的なCUC 発現部位である茎頂と葉原基の境界部以外にも様々な組織で発現しており、HdSTM と類似した発現パターンを示していた。また、HdSTMとHdCUC3は生体内で直接相互作用をすることが判った。異形葉性に関して、エチレンは沈水葉、アブシジン酸は地上葉の形成に促進的に作用することが知られている。HdSTM の発現はエチレンによって誘導されることが確認されたことから、HdSTMH. difformis のエチレンによる異形葉形成に関与していると考えられる。以上の結果から、半水生植物H. difformis の異形葉性の制御にHdSTM が関与していると考えられる。

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論文)フィトクロムによるダイズの花成制御

2022-11-04 13:35:51 | 読んだ論文備忘録

Novel and multifaceted regulations of photoperiodic flowering by phytochrome A in soybean
Lin et al.  PNAS (2022) 119:e2208708119.

doi:10.1073/pnas.2208708119

ダイズは日長に敏感な短日作物で、開花のタイミングは緯度によって大きく異なる。高緯度のダイズ品種は、2つのフィトクロムA遺伝子PHYA3(E3) 、PHYA2(E4)とマメ科植物特有の花成抑制因子E1 の作用を阻害することで長日条件での花成に適応している。しかしながら、phyAとE1による花成制御機構については殆ど判っていない。中国 広州大学Kong らは、ダイズ品種Williams 82(W82)のPHYA 遺伝子、PHYB 遺伝子をCRISPR-Cas9 法を用いてノックアウトし、各植物体の開花時期を調査した。その結果、PHYA2PHYA3 のノックアウトは長日条件下での花成を促進し、PHYB のノックアウトは花成促進に対して僅かな効果しか示さないことが判った。phyA2 phyA3 二重変異体では、長日条件でE1 とそのホモログのE1laE1lb の発現量が著しく低下しており、ダイズの主要なFLOWERING LOCUS TFT )ホモログであるFT2aFT5a の発現量が増加、花成を制御している概日時計遺伝子のLUXJLHYTOF1TOF12 の発現量が減少していた。これらの結果から、phyA2とphyA3はE1 ファミリー遺伝子やフロリゲン遺伝子の発現を制御し、概日時計遺伝子の発現にも影響を与えて光周期花成を制御していると考えられる。phyA3、phyA2の各種光条件下での安定性を調査したところ、phyA3はphyA2よりもすべての光条件下で安定していることが判り、phyA3はphyA2よりも光周期花成を制御する主要な機能を有していることが示唆される。phyA2とphyA3は光条件に関係なくLUX1、LUX2と相互作用をし、この相互作用はLUXタンパク質の26Sプロテアソーム系による分解を誘導することが判った。LUXは、E1 ファミリー遺伝子のプロモーター領域に直接結合してその発現を抑制する花成促進因子として機能する。phyA2 phyA3 lux1 lux2 四重変異体は、phyA2 phyA3 二重変異体よりも花成遅延するが、lux1 lux2 二重変異体と同程度であった。したがって、PHYA2PHYA3 による花成制御は、完全にではないがLUX に大きく依存していると考えられる。phyA3はE1 遺伝子プロモーター領域のLUX結合配列(LBS)モチーフ近傍と相互作用をするが、この相互作用はlux1 lux2 二重変異体では見られなかった。よって、phyA3ははLUXタンパク質によってE1 遺伝子プロモーター領域にリクルートされると考えられる。これらの結果から、phyA2およびphyA3によるダイズの花成遅延は、phyA-LUXタンパク質複合体がE1 遺伝子のプロモーターに直接結合し、phyAがLUXの分解を仲介してLUXを含む複合体(evening complex)によるE1 ファミリー遺伝子の転写抑制を減少させることによって行われると考えられる。phyA2、phyA3はE1ファミリータンパク質と相互作用をすること、phyA2 phyA3 二重変異体ではE1タンパク質の26Sプロテアソーム系による分解が促進されることから、phyA2およびphyA3は、E1ファミリータンパク質と相互作用をして安定化し、E1によるFT 遺伝子の発現抑制を高めて花成遅延をもたらしていると考えられる。E1 ファミリー遺伝子、PHYA2PHYA3 の機能喪失変異を組み合わせた解析から、PHYA2PHYA3 によるダイズの花成制御はE1 ファミリー遺伝子に依存していることが判った。以上の結果から、phyA2およびphyA3は、evening complexの重要な構成要素であるLUXタンパク質に直接結合してLUXタンパク質の分解を誘導することでE1 遺伝子の発現を促進することと、E1タンパク質と直接結合して安定化させることで、花成抑制の中核をなすE1ファミリーを転写および転写後レベルで二重に制御し、ダイズの光周期花成を調節していると考えられる。

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