Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)エチレンとジベレリンによるフック形成の制御

2012-05-30 20:47:02 | 読んだ論文備忘録

Coordinated regulation of apical hook development by gibberellins and ethylene in etiolated Arabidopsis seedlings
An et al.  Cell Research (2012) 22:915-927.
doi:10.1038/cr.2012.29

芽生えが地中から発芽成長する際、芽生えの上部にフックと呼ばれる鉤状の屈曲構造が形成され、子葉や茎頂を物理的障害から保護する。フック形成には各種植物ホルモンが関与している。オーキシンは不均等分布することで細胞成長の差異をもたらし、フック形成に関与している。シロイヌナズナの変異体の観察から、エチレンとジベレリン(GA)もフック形成に関与することが知られており、両者は協調的に作用してフック形成を制御しているが、詳細な分子機構は明らかではない。中国 北京大学Guo らは、シロイヌナズナ黄化芽生えのフック形成におけるエチレンとGAの分子機構の解析を行なった。これまでの知見から、GA生合成阻害剤のパクロブトラゾール(PAC)がフック形成を抑制することが知られている。エチレンの前駆体であるACC処理、エチレンシグナル伝達経路に関与しているEIN3 の過剰発現個体(EIN3ox )はフックの屈曲が強まるが、ここにPAC処理をすると屈曲が弱まった。しかし、EIN3ox にPACとGAを同時に処理するとフック形成が回復し、屈曲がさらに強まった。また、EIN3ox においてGAの分解に関与するGA2ox8 を過剰発現させることでもフックの屈曲が弱まった。したがって、EIN3によって誘導されるフック形成はGA添加によって強められ、GA除去によって弱められることが示唆される。野生型植物黄化芽生えをPAC処理するとフックはほぼ直線になってしまうが、EIN3ox や恒常的にエチレン応答を示すctr1 変異体ではフックの屈曲は弱まるものの依然として見られることから、エチレンシグナルが活性化されている芽生えではPACの効果は不十分となる。GA応答の抑制因子であるDELLAタンパク質の五重変異体della の黄化芽生えではフックの屈曲が強調され、ここにACC処理をすると屈曲がさらに強まった。しかし、安定型DELLAタンパク質を過剰発現させた黄化芽生えでは殆どフック形成が見られず、ACC処理に対しても応答が見られなかった。よって、DELLAタンパク質はエチレンの誘導するフック形成を抑制し、GAによるエチレン作用の強化はDELLAタンパク質の分解によるものであると考えられる。エチレン生合成阻害剤のAVGは、野生型植物やエチレンを恒常的に生産するeto1 変異体のフック形成を抑制するが、EIN3oxctr1 変異体、della 変異体に対しては効果がなかった。よって、della 変異体のフック形成の強調はエチレン生合成の増加によるものではない。しかし、エチレンシグナル伝達経路に関与する因子の変異体(ein2ein3 eil1 )ではdella 変異によるフック形成の強調が弱められることから、della 変異体でのフック形成の強調にはEIN3/EIL1といったエチレンシグナル伝達経路の因子が必要であると考えられる。HOOKLESS 1HLS1 )はN -アセチルトランスフェラーゼをコードしており、hls1 変異体黄化芽生えはACC存在下であってもフックが形成されない。hls1 変異体はGAを添加してもフックが形成されず、hls1 変異体にdella 変異を導入してもフック形成は起こらなかった。よって、GAやDELLAタンパク質によるフック形成制御はHLS1に依存していることが示唆される。エチレン処理はHLS1 の発現を誘導するが、GA処理もHLS1 の発現を誘導した。ein3 eil1 二重変異体ではACC処理によってもGA処理によってもHLS1 の発現が誘導されないことから、HLS1 の発現誘導にはEIN3/EIL1が必要であると考えられる。della 変異体や恒常的にGA応答を示すspy-3 変異体ではHLS1 の発現量が高くなっていた。EIN3ox ではHLS1 の発現量が増加するが、同時にGA2ox8 を過剰発現させるとHLS1 の発現量が低下し、EIN3oxspy-3 変異を導入するとHLS1 発現量はEIN3ox よりも増加した。ein3 eil1 変異体ににおいてエストラジオール処理によってEIN3 を過剰発現する系を導入したところ、EIN3 の発現を誘導した直後にHLS1 の発現が誘導された。よって、HLS1 はEIN3の直接のターゲット遺伝子であることが考えられる。HLS1 遺伝子のプロモーター領域にはEIN3結合部位(EBS、5'-ATTTCAAA-3')が存在し、ゲルシフトアッセイやクロマチン免疫沈降アッセイからEIN3はHLS1 プロモーター領域に結合し、HLS1 を直接のターゲット遺伝子としていることが確認された。DELLAタンパク質は転写抑制因子として機能するがDNA結合能はないため、他の転写因子と相互作用をしてターゲット遺伝子の発現制御を行なっている。よって、DELLAタンパク質によるHLS1 の発現抑制は、DELLAタンパク質がEIN3/EIL1の機能を抑制することによってなされていることが考えられる。そこで、EIN3/EIL1とRGA/GAIが相互作用するかを調査したところ、両者は相互作用を示し、この相互作用によってEIN3/EIL1の機能が抑制されることが確認された。DELLAタンパク質はEIN3のDNA結合領域と相互作用をすることから、この相互作用によってEIN3のDNA結合が抑制されるものと思われる。hls1 変異体でHLS1 を恒常的に発現させると、hls1 変異が回復してフック形成が強調されるが、この個体においてもPAC処理によるフック形成抑制、ACC、ACC+GA処理によるフック屈曲の強調が観察された。この個体をACCやGA処理することによってHLS1 転写産物量やHLS1タンパク質量に変化は見られないことから、HLS1 の転写制御とは別のフック形成制御経路が存在すると考えられる。過去知見において、オーキシン輸送阻害剤のNPAがHLS1 過剰発現個体のフックの屈曲を抑制することが報告されている。NPA処理は、ctr1 変異体、EIN3oxdella 変異体のフック形成も阻害することから、オーキシンはフック形成においてエチレンやGAの経路の下流において機能していることが示唆され、GAやエチレンはHLS1 の発現誘導に加えてオーキシン輸送にも影響を及ぼしてフック形成を制御していることが考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)オーキシン受容体のS-ニトロシル化

2012-05-28 22:11:24 | 読んだ論文備忘録

Nitric oxide influences auxin signaling through S-nitrosylation of the Arabidopsis TRANSPORT INHIBITOR RESPONSE 1 auxin receptor
Terrile et al.  The Plant Journal (2012) 70:492-500.
doi: 10.1111/j.1365-313X.2011.04885.x

一酸化窒素(NO)は植物の成長や病態生理を制御する分子として機能し、植物ホルモン刺激の第二メッセンジャーとして作用することも知られている。例えば、オーキシンによる根の形態形成や重力屈性にNOが関与していることが報告されている。アルゼンチン マル・デル・プラタ大学のCasalongué らは、オーキシンシグナル伝達におけるNOの役割を解析すること目的に、シロイヌナズナ芽生えをオーキシン(IAA)処理するにあたって、予めNO感受性蛍光体のジアミノフルオレセイン-FM ジアセテート(DAF-FM DA)の前処理を行ない、IAA処理によりNOの蛍光が増加すること見出した。オーキシン応答エレメントによってレポーター遺伝子のGUS を発現させるコンストラクト(BA3:GUS )を導入した芽生えを低濃度のIAAで処理してもGUSの発現誘導は僅かだが、NO供与体であるニトロプルシドナトリウム(SNP)を同時に添加するとGUS発現が増加し、SPN単独処理ではGUSの誘導は起こらなかった。GUS発現が見られる濃度のIAAを添加する際、予めNOのスカベンジャーであるcPTIOやヘモグロビンで処理をすると、GUSの発現誘導が濃度依存的に抑制された。また、オーキシン応答遺伝子であるIAA1IAA5 の発現量はIAAと同時にSNPを添加することで増強された。オーキシン応答遺伝子の発現誘導はAux/IAAタンパク質の分解によって制御されていることから、ARX3/IAA17のN末端側(ARX3NT)とGUSとの融合タンパク質をレポーターとして発現させたシロイヌナズナ芽生えを用いて解析を行なったところ、低濃度IAA処理により幾分かのARX3NT-GUSによるGUS活性の減少が認められたが、同時にNO供与体であるS -ニトロソグルタチオン(GSNO)を添加するとGUS活性が顕著に減少した。また、高濃度IAA処理によるGUS活性の減少は、同時にcPTIOやヘモグロビンを添加することで抑制された。したがって、オーキシンによる遺伝子発現やAux/IAAタンパク質の分解にNOが関与していると考えられる。NOがAux/IAAの分解促進を介してオーキシンシグナルを高める機構として、ターゲットタンパク質のシステイン(Cys)残基のS -ニトロシル化が考えられる。そこで、Aux/IAAタンパク質およびオーキシン受容体のTIR1/AFBファミリータンパク質における酸-塩基 S -ニトロシル化モチーフに位置するCys残基の探索を行なったところ、TIR1においてC140とC480の2つのS -ニトロシル化されうるCys残基が見出された。これらのCys残基はTIR1/AFBファミリーにおいて保存されており、ビオチンスイッチアッセイによってTIR1がS -ニトロシル化されることが確認された。また、TIR1のS -ニトロシル化はTIR1とAux/IAAのIAA存在下での相互作用を強めることが確認された。TIR1のC140もしくはC480をAla残基に置換した変異タンパク質とIAAタンパク質との相互作用を見たところ、tir1 C140A変異はIAAタンパク質との相互作用を完全に打ち消し、tir1 C480A変異も相互作用を強く抑制した。よって、TIR1-Aux/IAA相互作用はC140に依存し、C140よりも程度は劣るがC480 も重要であることが示唆される。tir1 変異体にtir1 C480A変異タンパク質を導入するとオーキシン感受性が部分的に回復したが、tir1 C140Aを導入した場合にはオーキシン感受性の回復が見られなかった。したがって、TIR1のS -ニトロシル化されうるC140は、TIR1とAux/IAAとの相互作用にとって重要なアミノ酸残基であると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)グルコシルトランスフェラーゼによる花成制御

2012-05-25 20:51:34 | 読んだ論文備忘録

UGT87A2, an Arabidopsis glycosyltransferase, regulates flowering time via FLOWERING LOCUS C
Wang et al.  New Phytologist (2012) 194:666-675.
doi: 10.1111/j.1469-8137.2012.04107.x

グルコシルトランスフェラーゼ(GT)は糖供与体から受容体へ糖残基を転移する反応を触媒す酵素で、スーパーファミリーを構成している。ファミリー1に属するGTは低分子量二次代謝産物を基質とする植物二次代謝産物GT(PSPG)であり、UDP-糖を糖供与体としていることからUDP-糖GT(UGT)とも呼ばれている。中国 山東大学Hou らは、GTの生理作用解析を目的に、シロイヌナズナの複数のgt 機能喪失変異体について成長解析を行ない、ファミリー1 GTのUGT87A2 (At2g30140)の変異体が花成遅延(抽だいするまでの日数が長くロゼット葉が多い)を示すことを見出した。ugt87a2 変異体の葉や花は野生型よりも大きく、草丈が高く、長角果は長く、種子の大きさや千粒重も増加していた。シロイヌナズナのファミリー1に属する107のGTで作成した系統樹を見ると、UGT87A2は他に5つのUGTを含んだクレイドに位置付けられ、これら6つのUGTは4つの異なるグループに分かれていた。これらのUGTにおいて機能や酵素活性が確認さているものはなかった。ugt87a2 変異体で35S プロモーター制御下でUGT87A2 を発現させると、花成時期、葉数、草丈、花の大きさが野生型と同等になったが、種子の大きさと千粒重については完全には回復しなかった。ugt87a2 変異体は短日条件でも長日条件でも花成遅延とロゼット葉数の増加を起こすことから、UGT87A2 は光周期経路による花成制御には関与していないと考えられ、自律的な花成経路に関与している可能性がある。また、ugt87a2 変異体は春化処理に応答して、野生型と比較すると完全な回復とは言えないが、花成が促進され、ジベレリンによる花成促進は野生型と同等であった。ugt87a2 変異体ではFLC の発現量が増加し、FTSOC1AP1LFY の発現量が減少していた。また、ugt87a2 変異体でUGT87A2 を過剰発現させると、FLC の発現量が野生型と同等にまで減少し、その下流に位置する花成関連遺伝子の発現量も野生型と同等になった。しかしながら、自律的花成促進に関与している遺伝子(FVEFCAFPA )の発現量に変化は見られないことから、UGT87A2は通常の自律的花成促進経路とは独立して、何らかの分子をグルコシル化することでFLC の発現を制御し、花成時期の制御を行なっていると考えられる。UGT87A2 は、発芽種子、子葉、一次根において強く発現しており、1-2週目の個体では根、葉先や葉縁、茎頂で発現が見られ、4週目になると発現は非常に低くなった。生殖器官では、がく片、花糸、柱頭、長角果とその柄の部分において発現が見られた。UGT87A2タンパク質は細胞質と核の両方に局在していた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)トライコームと根毛の形成を制御するbHLH型転写因子の分子機構

2012-05-22 20:28:12 | 読んだ論文備忘録

A Single Amino Acid Substitution in IIIf Subfamily of Basic Helix-Loop-Helix Transcription Factor AtMYC1 Leads to Trichome and Root Hair Patterning Defects by Abolishing Its Interaction with Partner Proteins in Arabidopsis
Zhao et al.  JBC (2012) 287:14109-14121.
DOI:10.1074/jbc.M111.280735

トライコームと根毛は、いずれも表皮細胞に由来する細胞であり、その形成は類似した機構によって制御されている。WD40リピートタンパク質のTRANSPARENT TESTA GLABRA1(TTG1)、R2R3リピートMYBタンパク質のGLABRA1(GL1;トライコーム)もしくはWEREWOLF(WER;根毛)、IIIf サブファミリーbHLHタンパク質のGLABRA3(GL3)もしくはENHANCER OF GLABRA3(EGL3)からなるMYB-bHLH-WD40複合体がトライコームおよび無毛細胞への分化を誘導しており、これらの因子の変異体はトライコームの減少や異所的な根毛形成が起こる。中国 河北師範大学のMa らは、シロイヌナズナT-DNA挿入集団の中からロゼット葉や主茎のトライコーム数が減少し、根毛数が増加したrtd1-1reduced trichomes density )変異体を単離した。しかしながら、T-DNA挿入と表現型が連鎖していなかったので、rtd1-1 変異体の原因遺伝子の探索を行なったところ、AtMYC1 (At4g00480)のORFに点変異(G518A)があり、この結果、翻訳産物にアミノ酸置換(R173H)が生じることが判った。このことから、この変異体をAtmyc1-1 と改名した。AtMYC1 は、GL3EGL3 と同じbHLH型転写因子IIIf サブファミリーに属し、AtMYC1タンパク質の173番目のArg残基はホモログタンパク質において保存されていた。T-DNA挿入によりAtMYC1 が機能喪失した系統は、Atmyc1-1 変異体と同様にトライコームの減少、根毛の増加が観察され、Atmyc1-1 変異体において野生型AtMYC1 を自身のプロモーター制御下で発現させると表現型の回復が見られることから、Atmyc1-1 変異体の表現型はAtMYC1 の機能喪失によるものであると判断した。GL1-GL3-TTG1複合体の直接のターゲット遺伝子であるGL2 はトライコームや無毛細胞の形成に関与する転写因子をコードしているが、その転写産物量はAtmyc1-1 変異体において減少していた。よって、AtMYC1はGL2 発現の正の制御因子であることが示唆される。AtMYC1 のホモログであるGL3EGL3 の二重変異体gl3 egl3 は、地上部の器官が無毛になり、地下部では根毛が著しく増加し、GL3EGL3 は機能重複している。Atmyc1-1 gl3 二重変異体は花序茎が無毛になり、根毛が増加するが、葉のトライコームの減少の程度はgl3 egl3 二重変異体よりも低く、AtMYC1GL3 は茎のトライコームと根毛の制御に関しては機能重複しているが、葉のトライコーム制御に関する機能重複は部分的であると考えられる。Atmyc1-1 egl3 二重変異体は、Atmyc1-1 単独変異体と比較して、わずかに葉のトライコームの減少と根毛の増加が見られ、茎のトライコームについては差が見られなかった。よって、AtMYC1EGL3 の機能重複の程度はAtMYC1 GL3 よりも低いと考えられる。AtMYC1 とそのホモログの機能の類似性と多様性を見るためにプロモーター交換試験を行なったところ、Atmyc1-1 変異体においてAtMYC1 プロモーター制御下でGL3EGL3 を発現させた場合、Atmyc1-1 のトライコーム数の減少が回復したが、gl3 egl3 二重変異体でAtMYC1GL3 もしくはEGL3 プロモーター制御下で発現させた場合には表現型の変化が見られなかった。同様の結果は根毛数の制御においても観察された。したがって、GL3/EGL3はAtMYC1と同様の活性を示すが、AtMYC1はGL3やEGL3の代わりとはならず、AtMYC1とGL3/EGL3の機能は類似/機能重複する点と異なる点とがあることが示唆される。AtMYC1 の発現パターンを見たところ、根では根毛形成する細胞列で発現しており、GL3EGL3 の発現パターンと類似していたが、ロゼット葉ではトライコームの基部の細胞で発現しており、トライコームで強く発現するGL3EGL3 の発現パターンとは異なっていた。花序茎ではトライコームの少ない基部において強い発現が見られた。AtMYC1は、GL3やEGL3と同様に、GL1、WER、TTG1と相互作用することが酵母two-hybridアッセイ、in vivo BiFCアッセイによって確認された。 また、GL3、EGL3はホモ/ヘテロ二量体を形成するが、AtMYC1は形成しなかった。Atmyc1-1 変異体の点変異/アミノ酸置換は、転写産物量やAtMYC1-1タンパク質の細胞内局在に変化をもたらさなかったが、GL1、WER、TTG1との相互作用能力が低下しており、AtMYC1タンパク質のArg-173残基は複合体形成にとって重要であることが示唆される。AtMYC1タンパク質において、タンパク質相互作用に関与するとされている低複雑性領域(LCR)の予測を行なったところ、bHLHドメイン近傍に3箇所のLCRが見出され、R173Hアミノ酸置換はLCRの1つに含まれており、このアミノ酸置換によってGL1タンパク質との相互作用が低下することがわかった。また、AtMYC1ホモログのGL3、EGL3において、このArg残基をHis残基に置換した場合もGL1との相互作用能力が低下した。よって、IIIf bHLHファミリーにおいて保存されているArg残基はタンパク質相互作用にとって重要であると考えられる。以上の結果から、AtMYC1はトライコームと根毛の形成を制御する転写因子として作用し、そのホモログであるGL3やEGL3とは異なり単量体で機能し、組織によって3者の間には機能の重複や相違があると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

植物観察)箱根

2012-05-20 20:57:38 | 植物観察記録

箱根へ植物観察に行ってきました。バイケイソウは茎がだいぶ伸びてきましたが、まだ花序が出現している個体はありませんでした。花は、キクサキイチゲはほぼ終わっており、タチツボスミレ、ツボスミレ、ホウチャクソウ、ホソバテンナンショウ、ミヤマシキミ、トウゴクミツバツツジが見られました。ベニバナヒメイワカガミはまだ咲き始めで、満開となるのはもう少し先になりそうです。

 

バイケイソウはだいぶ成長してきましたが、花序が出現した個体は見られませんでした。

 

ホウチャクソウ(Disporum sessile

 

ツボスミレ(Viola verecunda

 

ベニバナヒメイワカガミはまだ咲き始めたばかりだった

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)接触形態形成はジャスモン酸によって引き起こされる

2012-05-17 06:00:42 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis Touch-Induced Morphogenesis Is Jasmonate Mediated and Protects against Pests
Wassim Chehab et al.  Current Biology (2012) 22:701-706.

DOI:10.1016/j.cub.2012.02.061

多くの高等植物は、何かに接触することで接触形態形成と呼ばれる成長変化を示す。この応答機構の詳細は明らかではなく、接触刺激はエチレン合成を誘導するが、シロイヌナズナエチレン応答性変異体は接触形態形成を起こすので、エチレン応答はこの機構に関与していない。米国 ライス大学Braam らは、ジャスモン酸(JA)がこの機構に関与しているのではないかと考え、解析を行なった。シロイヌナズナのロゼット葉に1日2回定期的に接触刺激を与え続けると、花成が遅れ、花序の伸長が抑制され、葉柄が短くなる。しかしながら、 JA生合成経路の鍵酵素であるアレンオキシド合成酵素(AOS)の欠損したaos 変異体では接触刺激を与えることによる花序伸長の抑制が起こらず、花成時期も正常であった。よって、AOS は接触形態形成に必要であると考えられる。JA-Ile生合成に関与しているJASMONATE RESISTANT 1(JAR1)やJA-Ileの共受容体であるCORONATINE INSENSITIVE 1(COI1)の機能喪失変異体のjar1coi1 も連続接触刺激による成長変化が起こらなかった。したがって、JAおよびJAシグナルは接触による成長変化に関与していることが示唆される。JA生合成酵素をコードするOXOPHYTODIENOATE REDUCTASE 3OPR3 )を恒常的に過剰発現させることでJAを過剰生産する個体は、連続接触刺激を与えなくても接触形態形成に類似した形態変化を示した。また、この個体に連続接触刺激を与えると、さらに強い接触形態形成を示した。シロイヌナズナに1度接触刺激を与えるとシュートの内生JA量が1.5倍増加し、1日2回の接触刺激を4週間与え続けて接触形態形成を起こした個体では内生JA量が無処理個体の2.5倍になっていた。よって、シロイヌナズナは接触刺激に応じて内生JA量を増加させ、その量と接触形態形成は関連していることが示唆される。ロゼット葉に刺激を与えた30分後に、刺激を与えたロゼット葉と刺激を与えていない花序の内生JA量を測定したところ、どちらも内生JA量の増加が見られ、接触刺激を受けたロゼット葉から花序へのJAの輸送もしくはJA生合成を誘導するシグナルの移行がなされていると考えられる。接触刺激に対する感受性の低下したaos 変異体とその親植物、およびOPR3 過剰発現個体において、花成までに形成されるロゼット葉の数は接触の有無に関係なく同じであることから、接触刺激による花成遅延は葉の形成の遅れに由来していると考えられる。接触刺激によって発現が誘導されることが知られているTCH2CML24 )、TCH4XTH22 )、CML39 は、aos 変異体においても接触刺激による発現誘導が見られることから、JAとは別の接触刺激応答機構が存在していると考えられる。したがって、これらの遺伝子だけでは接触形態形成の変化を説明することはできない。JAは死体栄養性菌類や草食昆虫に対する防御に関与していることが知られている。連続接触刺激により接触形態形成を起こした葉に灰色カビ病菌(Botrytis cinerea )を感染させた際の病斑の大きさは無接触処理の葉のものよりも小さく、aos 変異体では連続接触刺激による病斑の大きさの変化は見られなかった。よって、連続接触刺激は病害抵抗性を高める効果がある。接触形態形成を起こした葉を与えたイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni )幼虫の体重増加は無接触処理葉を与えた場合よりも少なく、最終的な体重は無接触処理のOPR3 過剰発現個体の葉を与えた場合とほぼ一致していた。また、aos 変異体では連続接触刺激葉を与えた幼虫の体重増加は無処理葉を与えた場合と同じであった。よって、連続接触刺激は病虫害抵抗性を高める効果がある。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)ジベレリンによる細胞分裂促進においてDELLAタンパク質の直接の制御を受ける因子

2012-05-15 23:03:15 | 読んだ論文備忘録

STUNTED mediates the control of cell proliferation by GA in Arabidopsis
Lee et al.  Development (2012)139:1568-1576.
doi: 10.1242/dev.079426

ジベレリン(GA)シグナル伝達経路において、DELLAタンパク質は抑制因子として機能しているが、DELLAタンパク質の下流で作用してGAに応答した成長等に関与する因子については不明な点が多い。シンガポール国立大学Yu らは、シロイヌナズナのDELLAタンパク質の1つREPRESSOR OF GA(RGA)の直下のターゲットを探索することを目的に行なったマイクロアレイ解析で見出したクラスVI受容体様細胞質キナーゼ(RLCK)をコードするSTUNTEDSTU 、At2g16750)遺伝子について詳細な解析を行なった。STU の発現はRGA活性による制御を受けており、ga1-3 rga-t2 変異体芽生えでのSTU 転写産物量はga1-3 変異体よりも高い。また、ga1-3 変異体をGA処理するとSTU 転写産物量が増加した。ステロイド誘導型RGA(RGA-GR)を発現させたga1-3 rgl2-1 rga-t2 変異体芽生えをデキサメタゾン処理するとSTU の発現量が減少するが、同時にタンパク質合成阻害剤のシクロヘキシミド処理をしてもSTU 発現量の減少は起こった。よって、RGAはSTU の発現をタンパク質合成を経ずに抑制しており、STU はRGAの直接のターゲットであると考えられる。ga1-3 変異体ではRGA以外のDELLAタンパク質も安定化していると考えられるので、他のDELLAタンパク質についても解析を行なったが、RGAが最も強いSTU 発現抑制効果を示し、RGAはSTU の主要な転写調節因子であると考えられる。クロマチン免疫沈降試験を行なったところ、RGAタンパク質はSTU 遺伝子座に結合していないことが示され、RGAによるSTU 発現制御には他の制御因子も関与しているとが示唆される。STU は調査した全ての組織で発現が見られ、特に根での発現が強く、開花した花や長角果での発現は弱い。また、活発に細胞分裂をしている組織や器官で強く発現していた。T-DNA挿入stu-1 変異体は野生型と比較して芽生えの成長が遅く、結果的に植物体が小型化した。ロゼット葉や茎出葉は湾曲し葉面積が小さいが、クロロフィル含量に変化は見られなかった。根も野生型よりも短くなっていた。野生型植物は発芽5週間目で開花するが、stu-1 変異体はこの時点でまだ抽だいしていなかった。その他に、stu-1 変異体は、発芽率と稔実率が低い、長角果が短い、花粉の形態異常といった、GA欠損変異体に類似した表現型を示した。stu-1 変異体の葉は野生型の6割程度の大きさで、個々の細胞の大きさは野生型と同等だが、葉の細胞数が少なく、細胞分裂の低下が葉面積の低下をもたらしていると考えられる。stu-1 変異体の根分裂組織は細胞分裂活性が野生型よりも低く、野生型植物はGA処理すると細胞分裂活性が上昇し、パクロブトラゾール(PAC)処理をすると低下するが、stu-1 変異体はGAやPACに対する応答性が低下していた。よって、GAによる細胞分裂活性の上昇はSTU を介してなされていると考えられる。根端分裂組織の大きさもstu-1 変異体は小さくなっていた。ga1-3 変異体でSTU を過剰発現させると、ga1-3 変異による植物体の小型化が幾分回復されるが、ga1-3 stu-1 二重変異体の表現型はga1-3 変異体と同等であることから、STU はGA生合成の下流のGAシグナル伝達経路に関与して植物の成長を制御していると考えられる。stu-1 変異体は野生型よりも成長が遅いが、GAに対する応答性は見られることから、GAはSTU とは異なる経路によっても植物成長を制御しているものと思われる。DELLAによる細胞分裂の抑制は、サイクリン/サイクリン依存性キナーゼ(CYC/CDK)複合体に結合するサイクリン依存性キナーゼ阻害因子をコードする転写産物の蓄積によって引き起こされることが知られている。サイクリン依存性キナーゼ阻害因子をコードするSIAMESE RELATED 1SMR1 )とSIAMESESIM )の発現はGA処理によって減少するが、STU を過剰発現させた個体ではGA処理をしない状態であっても野生型よりも両者の発現量が低く、stu-1 変異体では発現量が高くなっていた。また、STU 発現個体およびstu-1 変異体をGA処理した際のSMR1SIM の発現量低下の程度は野生型よりも弱くなっていた。よって、STU はGAシグナル伝達経路においてSMR1SIM の発現を抑制していることが示唆される。sim-1 機能喪失変異体はstu-1 変異による植物体の小型化、葉の細胞数の減少と倍数性の増加を緩和させることから、SIM は細胞分裂制御に関してSTU の下流で作用していることが示唆される。以上の結果から、STU はRGAの下流で作用し、GAシグナル伝達経路を介してSMR1SIM の発現を抑制して細胞分裂の促進を行なっていることが示唆される。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

植物観察)春の北海道 札幌

2012-05-13 22:57:27 | 植物観察記録

今日は野幌森林公園に行きました。タチツボスミレ、エンレイソウ、オオバナノエンレイソウ、ミヤマエンレイソウ、ニリンソウ、エゾエンゴサク、ヒトリシズカ、セントウソウ、フッキソウの花が見られました。バイケイソウはだいぶ草丈が大きくなっていましたが、花序を出している個体は見られませんでした。ニリンソウが多く咲いていたので、じっくり見ていたのですが、花弁のように見える白色のがく片の枚数や形に様々な変異があり(私が見たものには6枚のものが多かった様に思います)、面白く感じられました。色の変異もあるそうで、今回は見られませんでしたが、緑色をしたミドリニリンソウも出現するそうです。

 

 

野幌森林公園のバイケイソウは茎が伸び始めた

 

花が上を向くのがオオバナノエンレイソウ(野幌森林公園)

 

ミヤマエンレイソウは花が横向きになる(野幌森林公園)

 

ニリンソウは白いがく片の枚数や形状に変異が見られる(野幌森林公園)

 

この後、北海道大学植物園へ行きました。こちらでは、エゾノウワミズザクラ、シラネアオイ、チングルマ、ミツガシワ、ボケ、クロフネツツジ、ヤマブキといった花を見ることができました。

 

クロフネツツジ(北大植物園)

 

エゾノウワミズザクラ(北大植物園)

 

ミツガシワ(北大植物園)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

植物観察)春の北海道 旭川

2012-05-12 22:53:17 | 植物観察記録

今日は旭川で植物観察をしました。咲いている花はエゾエンゴサク、ニリンソウ、オオバナノエンレイソウ、オオカメノキ、ヒメイチゲ、ネコノメソウなどで、カタクリは既に結実している個体がほとんどでした。観察したエリアでは林床性のバイケイソウの大群落があり、40-50cm程度に成長していました。葉数は10-14枚であり、この中に開花するものがどの程度あるのか、また開花期に訪れて観察しようと思います。興味深かったのは、花弁が6枚のオオバナノエンレイソウが見られたことです。限られたエリアの中で6枚花弁のオオバナノエンレイソウが多数見られました。

 

バイケイソウの大群落

 

カタクリは既に花期を過ぎており、花が見れたのは一部のエリアのみだった

 

6枚花弁のオオバナノエンレイソウ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

植物観察)春の北海道 稚内

2012-05-11 22:44:35 | 植物観察記録

春の北海道植物観察の初日は稚内の海岸草原のバイケイソウ観察をしました。動きの遅い低気圧の影響で、冷たい強風が吹きすさぶ中での観察でした。雨・雪は降りませんでしたが、オホーツク海側では積雪したところもあったようです。バイケイソウはと言うと、順調に成長しており、茎も伸びはじめてきました。しかし、成長しすぎていて、肝心の環状集団の個体数がうまく数えられませんでした。葉数は10-14枚で、このままであるとすると、開花する個体はほとんど無いのではないかと思われます。

 

稚内海岸草原のバイケイソウ環状集団

バイケイソウはだいぶ成長している

 

おまけ

稚内市立ノシャップ寒流水族館

ノシャップ岬にある日本最北の水族館。クリオネやフウセンウオといった北の海に生息するユニークな生き物が見られ、回遊水槽では海水に馴化させたイトウがソイ、カレイ、ホッケ、オオカミウオなどの寒流系の魚たちと共に泳いでいました。

稚内市ノシャップ寒流水族館

水量90トンの回遊水槽

フウセンウオ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする