Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)茎頂分裂組織におけるオーキシンとサイトカイニンのクロストーク

2010-06-30 23:33:39 | 読んだ論文備忘録

Hormonal control of the shoot stem-cell niche
Zhao et al.  Nature (2010) 465:1089-1092.

doi:10.1038/nature09126

シロイヌナズナの茎頂分裂組織(SAM)は、中心部の幹細胞で生産される分泌性ペプチドCLAVATA3(CLV3)とその下層に位置する形成中心(OC)で発現するホメオドメイン転写因子WUSCHEL(WUS)との間の負のフィードバックループによって維持されている。また、植物ホルモンのオーキシンはSAM周縁部での細胞分化・器官形成を誘導する。サイトカイニンは分裂組織の活性と細胞周期の維持に対して重要な役割を果たしており、サイトカイニンシグナル伝達の負の調節因子であるA-タイプARABIDOPSIS RESPONSE REGULATORARR )の発現はWUSによる負の制御受けている。ドイツ ハイデルベルグ大学のLohmann らは、茎頂でのARRの機能を解析することを目的に、人工マイクロRNAによりARR7ARR15 の発現を抑制させたシロイヌナズナを作成し、この個体では茎頂の肥大、葉序の欠如、CLV3 転写産物量の低下とWUS 発現の増加を起こしていることを見出した。ARR7ARR15 の発現部位はCLV3 発現部位と重なることから、CLV3 の発現にはARR7ARR15 が必要で、ARR7ARR15 発現抑制個体での形態変化はCLV3 の発現低下によるもの考えられる。トランスクリプトーム解析から、ARR7ARR15 はサイトカイニンやオーキシンに応答する遺伝子の多くに影響を及ぼしていることが示された。ARR7ARR15 の発現はサイトカイニンによって誘導されるが、植物体へのオーキシンもしくはオーキシン輸送阻害剤(NPA)処理、オーキシン生合成変異体(yucca )やオーキシン輸送変異体(pin1pid )の解析から、オーキシンはこれらの遺伝子の発現を抑制することがわかった。また、ARR7ARR15 の発現はauxin response factor5arf5 )/monopterosmp )変異体で大きく上昇していた。ARR7ARR15 の発現は、胚発生の過程においては、プロモーター領域に存在するAuxRE様モチーフを介してオーキシンによって活性化されるが、茎頂では、このモチーフとMPが相互作用して発現を抑制していることがわかった。以上の結果から、ARR7ARR15 はサイトカイニンとオーキシンのシグナルを統合してSAMの機能維持に関与しているものと思われる。

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論文)ブラシノステロイド生合成を制御する因子

2010-06-28 22:11:37 | 読んだ論文備忘録

TCP1 Modulates Brassinosteroid Biosynthesis by Regulating the Expression of the Key Biosynthetic Gene DWARF4 in Arabidopsis thaliana
Guo et al.  The Plant Cell (2010) 22:1161‐1173.

doi:10.1105/tpc.109.069203

ブラシノステロイド(BR)は、他の植物ホルモンと異なり、植物体内を長距離輸送されない。したがって、組織もしくは細胞単位で成長に必要とするBR量の維持がなされていると考えられる。そのような制御機構としては、BR分子の修飾による不活性化やBR生合成のフィードバック制御が知られているが、BR生合成を正に制御している機構についてはあまり解っていない。米国 オクラホマ大学のLi (中国 蘭州大学)らは、シロイヌナズナのBR受容体の1アミノ酸の置換によって生じた弱い変異体bri1-5 のT-DNAアクティベーションタギング集団の中からbri1-5 の半わい性の表現型が部分的に回復したtcp1-1D 変異体を得た。bri1-5 tcp1-1D 二重変異体は、葉の形はbri1-5 単独変異体と変わりはないが、bri1-5 単独変異体よりも葉柄が長い、花成が遅れ花序が大きいといった特徴が見られる。この変異体において、T-DNAは塩基性HLH型転写因子TCP1 (At1g67260)遺伝子の転写開始点から2281塩基上流に挿入されおり、TCP1 の発現量が増加していた。tcp1-1D 単独変異体は葉身が長くなり、これはBR受容体をコードするBRI1 やBR生合成酵素をコードするDWARF4DWF4 )を過剰発現させた個体と表現型が類似していた。BR生合成の変異体det2 tcp1-1D との二重変異体はdet2 の表現型が部分的に回復したが、BR受容体の機能喪失変異体bri1-4 との二重変異体ではbri1-4 の表現型の回復は起こらなかった。TCP1のC末端にEARモチーフを付加したキメラリプレッサー(TCP1-SRDX)を発現させた形質転換シロイヌナズナは、BR生合成/シグナル伝達変異体のように、わい化・脱黄化した表現型を示した。TCP1-SRDX 発現個体にBRを与えるとわい化した表現型が回復すること、tcp1-1D 単独変異体にBR生合成阻害剤のブラシナゾール(BRZ)を与えるとわい化することから、TCP1はBR生合成経路に関与する因子であると考えられる。そこで、TCP1がBR生合成をどのように制御しているかを調べたところ、DWF4の活性とDWF4 遺伝子の発現量がtcp1-1D 変異体で高く、TCP1-SRDX 発現個体で低いことがわかった。さらに、クロマチン免疫沈降試験により、TCP1タンパク質がDWF4 遺伝子プロモーター配列と相互作用を示すことがわかった。よって、TCP1はBR生合成経路の鍵酵素をコードするDWF4 の発現を正に制御する因子として機能していると考えられる。また、TCP1 の発現がBRによって誘導されることがわかった。

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論文)PINタンパク質の可逆的リン酸化による細胞内局在の制御

2010-06-23 22:56:19 | 読んだ論文備忘録

Phosphorylation of Conserved PIN Motifs Directs Arabidopsis PIN1 Polarity and Auxin Transport
Huang et al.  The Plant Cell (2010) 22:1129‐1142.
doi:10.1105/tpc.109.072678

シロイヌナズナのオーキシン排出キャリアPIN-FORMED(PIN)タンパク質は、細胞膜に局在するPIN1型(PIN1、2、3、4、7)と小胞体膜に局在するPIN5型(PIN5、6、8)に分類される。PIN1型タンパク質は細胞膜上に不均等に分布し、細胞から細胞へ一定方向のオーキシン極性輸送を行なっている。PINタンパク質の極性を持った局在は、タンパク質中央部の親水性ループ(PINHL)の可逆的なリン酸化によって制御されており、これにはPINOID(PID)Ser/ThrキナーゼとPP2Aフォスファターゼが関与している。オランダ ライデン大学のOffringa らは、PIN1タンパク質のPIN1HLに存在する20箇所のリン酸化されると推測されるアミノ酸残基のうち、17の部位について12の合成ペプチドを作成してin vitroでのPIDによるリン酸化が起こるかを調査した。その結果、6箇所はPIDによってリン酸化されることを見出した。そこで、他のPINタンパク質においても保存されている親水性ループ内の3つのTPRXS(N/S)モチーフのSer残基、Ser-231(S1)、Ser-252(S2)、Ser-290(S3)について詳細な解析を行なった。これらのSer残基をAla残基(A)に置換したリン酸化変異PIN1タンパク質のPIDによるin vitroリン酸化試験から、モチーフ中央部のSer残基はPIDによりリン酸化されることが確認された。次に、これらのSer残基をAla残基もしくは擬似リン酸化状態としてGlu残基(E)に置換したPIN1を野生型シロイヌナズナで発現させて形態観察を行なった。その結果、Ser残基をGlu残基に置換したPIN1 (S1,2,3E)、S3をAla残基に置換したPIN1 (S3A)を発現させた形質転換体ではほぼ正常な成長をしたが、S1をAla残基に置換したPIN1 (S1A)、S1とS3の2箇所をAla残基に置換したPIN1 (S1,3A)を発現させた芽生えではリン酸化変異PIN1 の発現量に応じて子葉が1-4枚となる形態変化が見られ、これはpid 機能喪失変異体芽生えの子葉が3枚となる変化と類似していた。3つのSer残基をAla残基に置換したリン酸化変異PIN1(S1,2,3A)では形態変化がさらに強く現れた。リン酸化変異PIN1をpin1 変異体で発現させると、S1E、S3E、S1,3Eを発現させると正常なPIN1 を発現させた場合と同様にpin1 変異の形態異常が相補され、S1A、S3Aを発現させると部分的にpin1 変異が相補された。しかし、S1,3A、S1,2,3Aを発現させるとpin1 変異体の形態異常がpin1 pid 二重変異体のようにさらに強くなり、花序茎頂部の細胞においてS1,3A、S1,2,3Aはpid 変異体におけるPIN1のように基部側に局在していた。S1,2,3Eは正常なPIN1と同様に細胞の頂端側に局在していたが、pin1 変異体の形態異常を相補しなかった。PID を過剰発現させた芽生えの根の細胞ではPIN1が地上部側に局在するために根端部でのオーキシン極大が形成されず根端分裂組織がつぶれてしまうが、S1,3Aを発現させるとこれが細胞の根端側に局在するためにPID 過剰発現による根端の異常が相補された。以上の結果から、PIN1HLにおいて保存されているSer残基のPIDによる可逆的なリン酸化は、PIN1の細胞内局在の決定にとって必要であり、形態形成を導くオーキシンの不均等分布にとってきわめて重要であることが示唆される。

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論文)CONSTANS の発現を制御する新規因子

2010-06-20 16:37:15 | 読んだ論文備忘録

DAY NEUTRAL FLOWERING Represses CONSTANS to Prevent Arabidopsis Flowering Early in Short Days
Morris et al.  The Plant Cell (2010) 22:1118‐1128.
doi:10.1105/tpc.109.066605

シロイヌナズナは、短日条件では日中のCONSTANSCO )発現量が低いが、長日条件では夕方から明け方にかけてに発現量が上昇してFLOWERING LOSUS TFT )の発現が誘導され花成が起こる。CO の発現誘導とCOタンパク質の安定性は様々な要因により制御されており、概日時計やGIGANTEAGI )による発現制御が知られている。英国 ウォーリック大学のJackson らは、CO の発現を制御している新規因子の探索を目的に、シロイヌナズナT-DNA挿入ノックアウト系統の中から短日条件で花成の早まる変異体day neutral floweringdnf )を得た。dnf 変異体は長日条件での花成は野生型と同等であり、日長による花成に変異が生じたものである。dnf 変異の原因遺伝子を探索したところ、RINGフィンガードメインを有するタンパク質をコードする遺伝子(At3g19140)のコード領域にT-DNA挿入が見られた。dnf 変異体にDNF ゲノム遺伝子を導入することで短日条件での花成時期が野生型と同等になり、DNF をターゲットとするRNAi系統ではdnf 変異体のように短日条件での花成が早まった。DNFタンパク質はRINGフィンガードメインに加えてN末にシグナルペプチド、中央部に膜貫通ドメインと想定される領域があり、自己ユビキチン化活性を有していた。よって、DNFは膜結合RING型E3ユビキチンリガーゼであると考えられる。DNF を35Sプロモーターで過剰発現させた形質転換体は、dnf 変異体ほどではないが花成が野生型よりも早くなった。野生型は日長が10時間以下になると花成の遅延が起こるが、dnf 変異体は6時間以下にならないと起こらない。よって、DNFは明け方4-10時間の花成シグナルを抑制しているものと考えられる。また、dnf 変異体は光受容や概日リズムの経路の異常によって花成が変化したものではなく、DNFはこれらの経路よりも下流で機能していると推測される。dnf co 二重変異体およびdnf gi 二重変異体は、それぞれco およびgi 単独変異体と同様に花成が遅れることから、dnf 変異にはCO、GIの機能が必要であり、DNF はCO 、GI と同じ花成制御経路において機能していると考えられる。短日条件においてDNF の発現は明け方4-6(ZT4-ZT6)時間に観察され、それ以外の時間帯では発現が極僅かしか見られなかった。長日条件では、短日条件において観察されたZT4-ZT6での発現に加えて夕方前(ZT12-ZT16)に大きな発現の増加が見られた。DNF は葉、茎、根、花で発現しており、ロゼット葉での発現が最も強かった。dnf 変異体でのCO の発現は、長日条件では野生型と同じパターンを示すが、短日条件では明け方4時間後から夕方までと夜間に発現の上昇が見られ、FT の発現も夕方に上昇していた。しかし、GI の発現は野生型と同等であった。以上の結果から、DNFはCO の発現リズムに影響を及ぼして日長による花成応答を制御しているものと思われる。DNFによるCO 発現抑制機構は不明だが、DNFがE3ユビキチンリガーゼであることから、ユビキチン/プロテアソーム系によるタンパク質分解が関与していると考えられる。

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論文)低分子RNAによる側根成長制御

2010-06-17 19:40:48 | 読んだ論文備忘録

miR390, Arabidopsis TAS3 tasiRNAs, and Their AUXIN RESPONSE FACTOR Targets Define an Autoregulatory Network Quantitatively Regulating Lateral Root Growth
Marin et al.  The Plant Cell (2010) 22:1104‐1117.
DOI:10.1105/tpc.109.072553

オーキシンシグナル伝達に関与しているオーキシン応答因子(ARF)の多くは、マイクロRNA(miRNA)やトランス作動性siRNA(tasiRNA)による制御を受けていることが知られている。フランス科学研究庁 植物科学研究所(ISV-CNRS)のMaizel らは、シロイヌナズナのARF2ARF3ARF4 mRNAをターゲットとしているtasiRNA(tasiARFs)の前駆体TAS3a (At3g17185)の発現量が100倍以上増加しているアクティベーションタギング系統およびTAS3a を過剰発現させた形質転換体の形態を観察し、これらの芽生えでは側根の長さが野生型よりも長いことを見出した。また、TAS3a 発現量が低下しているtas3a-1 変異体芽生えでは側根が短くなっていた。よって、TAS3a 転写産物量は側根の長さと正の相関があり、側根原器の発達に関与することで側根の成長を正に制御してると考えられる。TAS3aMIR390a の発現により根で生産されるmiR390と相互作用をして分解されてtasiRNAを生成する。TAS3a は根の中心柱柔細胞で、MIR390a は木部、内鞘、側根原器の基部と側面で発現しており、側根原器の誘導される領域でTAS3a とmiR390の発現部位に重なりが見られた。側根の形成は主根の特定部位での局所的なオーキシン極大の形成によって誘導されるが、MIR390a の発現は直接にはオーキシンによって誘導されず、オーキシン極大形成のステージとmiR390の生成時期には食い違いが見られた。ARF2ARF3ARF4 をターゲットとする人工的なmiRNA(aMIR-ARF)を発現させた形質転換体、arf2arf3arf4 の単独変異体は、TAS3a 過剰発現形質転換体と同様に側根が野生型よりも長くなった。よって、tasiARFのターゲットは側根の成長に関与していることが示唆される。また、tasiARFのターゲットのうち、ARF3は正のフィードバックループによりMIR390a の発現を促進し、ARF4はMIR390a の発現を負に制御していることがわかった。以上の結果から、低分子RNAとARFは相互の発現を空間的・時期的に制御し合うことで、側根成長の制御を行なっていると考えられる。

 

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HP更新)バイケイソウ群落写真と西表島の植物を追加

2010-06-14 05:43:10 | ホームページ更新情報

私のホームページ「Laboratory ARA MASA 」を更新しました。

バイケイソウプロジェクト」の「バイケイソウ群落の変遷」に2010年6月6日の群落写真を掲載しました。この時点では、まだ、葉にバイケイソウハバチによる食害は見られず、下位葉の褐変もあまり見られません。左端に花序のある個体がありますが、他にはないようです。木の葉の展開が始まり、林床はこれから徐々に暗くなっていきます。


Wild Flowers 沖縄編」に、5月30日、31日に西表島で撮影した花の写真を3枚掲載しました。

ヒメタムラソウ」(シソ科アキギリ属)
西表島の渓流沿いで普通に見られます。盛夏の頃は判りませんが、大体いつの時期でも花が見られるように思います。

ヤエヤマノボタン」(ノボタン科ハシカンボク属)
近縁の「ハシカンボクに」に似ていますが、ヤエヤマノボタンの葉は無毛で光沢があり、花弁の先端が丸みを帯び、ハシカンボクよりも花の時期が早いようです。

タイワンイワタバコ」(イワタバコ科イワタバコ属)
この花の群生に出会えたことは、今回の植物観察での一番の収穫でした。別名イリオモテイワタバコ。

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論文)DELLAタンパク質のリン酸化による安定化

2010-06-13 17:50:04 | 読んだ論文備忘録

Rice early flowering1, a CKI, phosphorylates DELLA protein SLR1 to negatively regulate gibberellin signalling
Dai & Xue  The EMBO Journal (2010) 29:1916-1927.
doi:10.1038/emboj.2010.75

中国科学院 植物生理生態研究所のXie らは、イネT-DNA挿入変異体集団の中からearly flowering1el1 )変異体を単離した。この変異体は野生型よりも出穂時期が早く、葉の展開速度が遅くなっていた。el1 変異体は、カゼインキナーゼⅠ(CKⅠ)をコードする遺伝子(Os03g57940)の第15エクソンにT-DNAが挿入されており、変異体では転写産物が検出されなかった。EL1 は様々な組織で発現しており、EL1タンパク質は核に局在していた。芽生えを用いた実験から、EL1 の発現はジベレリン(GA)処理にによって速やかに抑制されることがわかった。また、el1 変異体は最上位の節間が野生型よりも長いことから草丈が高く、el1 変異体種子はα-アミラーゼ活性が高いことがわかった。EL1 を過剰発現させた形質転換イネはGAに対する応答が抑制されていた。以上の結果から、EL1はGAシグナル伝達に関与する因子をリン酸化することでGA応答に対して負に作用していると考えられる。そこで、GAシグナル伝達の調節因子であるDELLAタンパク質とEL1との関係について調査した。イネのDELLAタンパク質であるSLR1にはリン酸化されうるSer残基が2箇所(Ser196、Ser510)存在しており、EL1とSLR1が相互作用を示すこと、SLR1がEL1によってリン酸化されることが確認された。SLR1 を過剰発現させた形質転換イネは極端にわい化するが、el1 変異体でSLR1 を過剰発現させるとわい化は起こらなくなった。よって、SLR1が機能するためにはEL1によるリン酸化が必要であると考えられる。GAによるSLR1タンパク質の分解はel1 変異体で強まっていることから、EL1によるSLR1のリン酸化は、SLR1の安定性に関与しているものと思われる。SLR1のリン酸化されるアミノ酸残基を点変異によって置換し、リン酸化されないかたち(Ala)もしくは擬似リン酸化のかたち(Asp)としたものを野生型イネで発現させてGA応答を見た結果、Ser510およびSer196/Ser510の擬似リン酸化はGAシグナル伝達が強く抑制された。以上の結果から、EL1はDELLAタンパク質をリン酸化して安定化させることでGAシグナル伝達を負に制御しているものと考えられる。

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論文)インドール‐3‐酪酸(IBA)トランスポーター

2010-06-11 05:56:13 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis PIS1 encodes the ABCG37 transporter of auxinic compounds including the auxin precursor indole-3-butyric acid
Růžička et al.  PNAS (2010) 107:10749-10753.
doi:10.1073/pnas.1005878107

植物組織内のオーキシンの不均等分布は、オーキシンの細胞間輸送、生合成と分解、誘導体形成による不活化等によって形成され、様々な形態形成を引き起こす。活性型のオーキシンであるインドール‐3‐酢酸(IAA)を輸送するトランスポーターとしては、アミノ酸パーミアーゼに類似したオーキシン取り込みキャリアのAUXIN RESISTANT1(AUX1)、オーキシン排出キャリアのPIN-FORMED(PIN)、MULTIDRUG RESISTANCE/PGLYCOPROTEIN(PGP)クラスのATP-Binding Cassette(ABC)トランスポーターが知られているが、オーキシンの前駆体や代謝産物などの類縁物質の輸送機構については明らかとなっていない。ベルギー ゲント大学のFriml らは、シロイヌナズナ芽生えの根のオーキシンによる伸長抑制に関して、合成オーキシン(2,4-D、2-NOA)やオーキシン輸送阻害剤(1-NOA、NPA、PAB、TIBA)に対する感受性が高いpolar auxin transport inhibitor sensitive1pis1 )変異体を得た。この変異体は、IAAやフェニル酢酸(PAA)に対する感受性は正常だが、IAAの前駆体であるインドール‐3‐酪酸(IBA)に対する感受性が増加していた。マップベースクローニングにより、pis1 の原因遺伝子は、G-サブグループのABCトランスポーターABCG37/PDR9をコードする遺伝子の第3イントロンに1塩基置換が生じたために成熟mRNAのATP結合AAAドメインコード領域が9アミノ酸分欠失したものであることがわかった。ABCG37は側根の根冠や表皮の細胞の外側(遠心面)に局在しており、この局在パターンは、病害応答やカドミウム輸送にも関与することが知られているIBAエクスポーターのABCG36/PDR8/PEN3と類似していた。abcg37 abcg36 二重変異体は単独変異体よりもIBAに対する感受性が高く、酵母やHeLa細胞で発現させたABCG37はIBA輸送活性を有していることが確認された。よって、ABCG37とABCG36は共にIBAのエクスポーターとして機能していると考えられる。しかしながら、両者の輸送する物質は完全には重複していなかった。シロイヌナズナ芽生え根端部のコルメラ細胞に添加したIBAは周囲の細胞へ移行してIAAに変換されることから、ABCG37とABCG36は共にIBAを細胞外へ排出することで根端部でのオーキシン分布の調節に関与しているものと思われる。

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HP更新)バイケイソウ定点観察群落写真を掲載

2010-06-09 21:19:52 | ホームページ更新情報
私のホームページ「Laboratory ARA MASA 」のバイケイソウプロジェクトの「バイケイソウ群落の変遷」に4月25日5月15日のバイケイソウ定点観察群落の写真を掲載しました。6月6日の群落写真も近々掲載する予定です。
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論文)オーキシンシグナルによらない側根形成の制御

2010-06-08 20:50:50 | 読んだ論文備忘録

RLF, a cytochrome b5-like heme/steroid binding domain protein, controls lateral root formation independently of ARF7/19-mediated auxin signaling in Arabidopsis thaliana
Ikeyama et al.  The Plant Journal (2010) 62:865-875.
DOI: 10.1111/j.1365-313X.2010.04199.x

シロイヌナズナを用いた研究から、側根形成には、オーキシン応答因子のARF7とARF19およびこれらの因子と相互作用を示すSLR/IAA14といったAux/IAAタンパク質が関与していることが知られている。しかし、これらのオーキシンシグナル伝達に関与する因子以外にも側根形成を制御する因子が存在している。神戸大学の深城らは、側根形成の少ないシロイヌナズナ変異体rlf (reduced lateral root formation )を単離し、RLF 遺伝子はチトクロムb5様ヘム/ステロイド結合ドメインを有したタンパク質(At5g09680)をコードしていることを見出した。RLF は植物体のほぼ全体で恒常的に発現しており、RLFタンパク質は細胞質に局在していた。rlf 変異体芽生えの一次根は野生型よりもやや短く、側根原器の形成数が減少していることから側根数が少なくなっていた。また、地上部の各器官も野生型よりも小さくなっていた。これらの形態変化は、細胞の大きさの変化によるものではなく、細胞分裂の変化による細胞数の減少によって引き起こされていることが示唆された。rlf 変異体芽生えは、オーキシンによる根の伸長抑制、根端部でのオーキシン極大の形成が野生型と同等であり、オーキシンの生合成、輸送、応答に異常が生じた変異ではないと考えられる。rlf 変異体芽生えをオーキシン処理しても常に野生型よりも側根形成数が少ないが、添加するオーキシンの濃度に呼応して側根数が増加した。rlf 変異体の根でのARF7ARF19 の発現量、LBD16/ASL18LBD29/ASL16 のオーキシンによる誘導は野生型と同等であった。また、rlf arf7 およびrlf arf19 二重変異体は、arf7 arf19 単独変異体よりも側根形成数が減少した。よって、RLFはこれらの側根形成に関与するオーキシン応答因子とは別の機構によって側根形成を制御しているものと思われる。

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