Hormonal control of the shoot stem-cell niche
Zhao et al. Nature (2010) 465:1089-1092.
doi:10.1038/nature09126
シロイヌナズナの茎頂分裂組織(SAM)は、中心部の幹細胞で生産される分泌性ペプチドCLAVATA3(CLV3)とその下層に位置する形成中心(OC)で発現するホメオドメイン転写因子WUSCHEL(WUS)との間の負のフィードバックループによって維持されている。また、植物ホルモンのオーキシンはSAM周縁部での細胞分化・器官形成を誘導する。サイトカイニンは分裂組織の活性と細胞周期の維持に対して重要な役割を果たしており、サイトカイニンシグナル伝達の負の調節因子であるA-タイプARABIDOPSIS RESPONSE REGULATOR (ARR )の発現はWUSによる負の制御受けている。ドイツ ハイデルベルグ大学のLohmann らは、茎頂でのARRの機能を解析することを目的に、人工マイクロRNAによりARR7 とARR15 の発現を抑制させたシロイヌナズナを作成し、この個体では茎頂の肥大、葉序の欠如、CLV3 転写産物量の低下とWUS 発現の増加を起こしていることを見出した。ARR7 とARR15 の発現部位はCLV3 発現部位と重なることから、CLV3 の発現にはARR7 、ARR15 が必要で、ARR7 、ARR15 発現抑制個体での形態変化はCLV3 の発現低下によるもの考えられる。トランスクリプトーム解析から、ARR7 、ARR15 はサイトカイニンやオーキシンに応答する遺伝子の多くに影響を及ぼしていることが示された。ARR7 、ARR15 の発現はサイトカイニンによって誘導されるが、植物体へのオーキシンもしくはオーキシン輸送阻害剤(NPA)処理、オーキシン生合成変異体(yucca )やオーキシン輸送変異体(pin1 、pid )の解析から、オーキシンはこれらの遺伝子の発現を抑制することがわかった。また、ARR7 、ARR15 の発現はauxin response factor5 (arf5 )/monopteros (mp )変異体で大きく上昇していた。ARR7 、ARR15 の発現は、胚発生の過程においては、プロモーター領域に存在するAuxRE様モチーフを介してオーキシンによって活性化されるが、茎頂では、このモチーフとMPが相互作用して発現を抑制していることがわかった。以上の結果から、ARR7 、ARR15 はサイトカイニンとオーキシンのシグナルを統合してSAMの機能維持に関与しているものと思われる。