Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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お知らせ)Ara Masa Facebook

2023-11-30 08:55:22 | Weblog

これまで、本ブログにおいて「植物観察記録」としてバイケイソウやその他植物の観察記録を投稿してきましたが、今後は私の研究テーマであるバイケイソウの観察記録についてのみをブログに掲載し、その他の植物の日々の観察記録につきましては「Ara Masa Facebook」に投稿することとしました。左欄にブックマークを載せましたので、植物に興味のある方は覘いてみてください。

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論文)B-box転写因子BBX14による葉の老化制御

2023-11-22 11:00:01 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis BBX14 negatively regulates nitrogen starvationand dark-induced leaf senescence
Buelbuel et al.  Plant Journal (2023) 116:251–268.

doi: 10.1111/tpj.16374

シロイヌナズナB-box転写因子遺伝子のBBX14(AT1G68520)は、窒素飢餓や暗黒処理といった葉の老化が誘導される条件で転写が低下することが知られている。また、BBX14 は、液体培養系において窒素の再添加によって数時間以内に発現誘導される。これらの結果から、ドイツ マックス・プランク分子植物生理学研究所Mueller-Roeberらは、BBX14は老化の制御に関与しているのではないかと考え、解析を行なった。シロイヌナズナ芽生えを用いたRT-qPCR解析から、BBX14 は窒素飢餓処理後12-24時間で転写産物量が大きく減少することが判った。BBX14 プロモーター制御下でGUS を発現するコンストラクトを導入した形質転換体の芽生えでは、葉や根で強いGUS活性を示したが、窒素飢餓処理をすることで活性が急激に低下した。成熟個体では成熟葉で強い活性を示したが、老化葉ではかなり低下していた。これらの結果から、BBX14 は老化によって発現が抑制される遺伝子で、窒素飢餓による葉の老化に重要な役割を果たしていることが示唆される。BBX14 の生理学的な役割を解析するために、過剰発現系統(BBX14-OX)と人工マイクロRNA系統(bbx14-amiR)を用いて解析を行なった。芽生えに窒素飢餓処理をしたところ、bbx14-amiR 芽生えは野生型植物よりも早く老化し、BBX14-OX 芽生えは老化が遅延した。目に見える表現型と一致して、クロロフィル(Chl)含量はBBX14-OX で高く、bbx14-amiR では低くなっていた。BBX14-OXbbx14-amiR で見られる窒素飢餓による老化の表現型は、切り葉を用いた実験や、水耕栽培個体においても観察された。これらの結果から、BBX14は窒素飢餓が誘導する葉の老化の負の転写制御因子であると考えられる。BBX14 転写産物量は暗黒誘導性老化(DIS)の際にも減少することが報告されているので、BBX14がDISの制御にも関与しているのかを調査した。植物体を8日間暗所で育成したところ、bbx14-amiR は野生型植物よりも早く老化し、BBX14-OX は老化が遅延した。このような差異は、切り葉を用いた実験においても観察された。そして、bbx14-amiR ではChl含量と光化学系タンパク質(Lhca1、Lhca4、Lhcb1、Lhcb2、Lhcb4、PsaA)量が野生型植物よりも有意に低く、BBX14-OX では高くなっていた。これに伴い、BBX14-OX の葉のイオン漏出は、野生型植物よりも低かった。また、老化マーカー遺伝子STAY-GREEN1SGR1)とSENESCENCEASSOCIATED GENE12SAG12)の発現は、bbx14-amiR では野生型植物よりも高いが、BBX14-OX では減少していた。したがって、BBX14は、窒素飢餓が誘導する葉の老化に加えて、DISも負に制御していると考えられる。BBX14が窒素飢餓誘導老化にどのように関与しているのかを調べるために、植物体の栄養素や一次代謝産物量を調査した。その結果、窒素飢餓処理をしたBBX14-OX のロゼット葉では、硝酸塩やAsp、Gluの含量がbbx14-amiR や野生型植物よりも高くなっていた。一方で、bbx14-amiR では、NH4+や分岐鎖アミノ酸(Val、Leu、Ile)、芳香族アミノ酸(Tyr、Phe、Trp)、Lysが高蓄積していた。これら7つのアミノ酸は葉の老化期に有意に増加することが知られており、ここで観察された代謝産物パターンは、BBX14が窒素飢餓時の葉の老化を負に制御しているという結論を支持するものとなっている。BBX14による転写制御機構を解明するために、窒素飢餓による老化関連遺伝子(SAG)の発現量変化を見たところ、典型的な老化マーカー遺伝子(SAG12)や既知の機能的SAG(EIN3ARF2WRKY75)を含む様々なSAGが、bbx14-amiR では有意に発現が上昇していたが、BBX14-OX では低下していた。また、集光複合体やプロトクロロフィリド酸化還元酵素Bをコードする遺伝子といった老化により発現量が減少する遺伝子は、bbx14-amiRで発現量が低下していたが、BBX14-OXでは上昇していた。さらに、これらの遺伝子の発現パターンは、DISでも同様に観察された。機能的SAGのうち、EIN3は窒素シグナル伝達の制御に関与していることが知られている。そこで、ein3 変異体芽生えに窒素飢餓処理を行なったところ、野生型植物よりも老化が遅延することが判った。また、窒素飢餓条件で、EIN3 転写産物量は、bbx14-amiR で高く、BBX14-OX で低くなっていた。そして、クロマチン免疫沈降(ChIP)解析やコトランスフェクション解析から、BBX14はEIN3 遺伝子プロモーター領域に結合してプロモーター活性を直接抑制することが確認された。BBX14 の上流の制御因子を探索するために、酵母one-hybridスクリーニングを行なったところ、MYB型転写因子のMYB44が同定された。そこで、MYB44 のノックアウト変異体と過剰発現系統(MYB44-OX)の表現型を観察したところ、窒素飢餓処理によりMYB44-OX 芽生えでは野生型植物と比較して葉の老化が遅延したが、myb44 変異体は葉の黄化が促進された。そして、同様の葉の表現型の変化はDISにおいても観察された。BBX14 の転写は、窒素飢餓処理によってmyb44 変異体で強く抑制され、MYB44-OX では増加した。BBX14 プロモーター領域にはMYB44結合モーチーフが存在し、ChIP-qPCRアッセイににより、MYB44がBBX14 遺伝子プロモーター領域に強く結合することが確認された。また、コトランスフェクション解析から、MYB44はBBX14 プロモーターを活性化することが判った。これらの結果から、MYB44はBBX14 遺伝子プロモーター領域と相互作用をして転写を直接活性化していることが示唆される。過去の研究で、フィトクロムB(phyB)が葉の老化を制御していることが報告されており、phyB 変異体はDISが促進され、PHYB 過剰発現系統は遅延する。また、phyBの下流においてPHYTOCHROME INTERACTING FACTOR4(PIF4)とPIF5がDISの促進因子として作用している。phyB 変異体芽生えに窒素飢餓処理をしたところ、葉の黄化が促進され、Chl含量も低下した。また、pif1 pif3 pif4 pif5 四重変異体芽生えは、窒素飢餓処理による葉の黄化が遅延した。pif 単独変異体の中では、pif4 変異体で老化遅延が強く表れた。一方で、PIF4 過剰発現系統(PIF4-OX)芽生えは窒素飢餓による葉の黄化が促進された。pif4 変異体の葉の老化遅延の表現型は水耕栽培個体においても観察された。これらの結果から、PIF4は窒素飢餓が誘導する葉の老化の促進因子として機能していることが示唆される。暗黒処理によって、BBX14 の発現はpif4 変異体で増加し、PIF4-OX で減少した。同様のBBX14 発現量の変化は、窒素飢餓処理によっても観察された。BBX14 遺伝子プロモーター領域にはPIFが結合するG-boxモチーフが存在し、PIF4はこのモチーフに結合してBBX14 の発現を抑制することが確認された。これらの結果から、PIF4はBBX14 の転写を直接抑制することで窒素飢餓が誘導する葉の老化制御に関与していることが示唆される。以上の結果から、BBX14は、EIN3 の発現を抑制することで窒素飢餓が誘導する葉の老化の負の制御因子として機能しており、BBX14 の発現自体はPIF4とMYB44によって制御されていることが明らかとなった。よって、MYB44/PIF4-BBX14-EIN3の制御カスケードは、窒素飢餓が誘導する葉の老化の中心的な構成要素であるといえる。

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論文)ストライガ種子の発芽におけるジベレリンの役割

2023-11-19 12:31:31 | 読んだ論文備忘録

Gibberellins Promote Seed Conditioning by Up-Regulating Strigolactone Receptors in the Parasitic Plant Striga hermonthica
Yap and Tsuchiya  Plant Cell Physiol (2023) 64:1021-1033.

doi:10.1093/pcp/pcad056

ジベレリン(GA)は、種子発芽を誘導する重要な植物ホルモンとして認識されているが、寄生植物のストライガ(Striga hermonthica)では、GAではなく、宿主の根から滲出するストリゴラクトン(SL)を感知して発芽が誘導される。しかしながら、ストライガ種子はすぐにSLに応答することはなく、種子を実験環境で発芽させるためには、30~40℃で2~14日間吸水させる「コンディショニング」を行なう必要がある。名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)土屋らは、ストライガ種子をコンディショニング(30℃の暗所で7日間吸水)する際にGA生合成阻害剤のパクロブトラゾール(PAC)を添加すると、その後のSL(GR24)処理による発芽が抑制されることを見出した。しかし、水でコンディショニングし、発芽誘導時にGR24とPACを同時に処理をしても発芽率の低下はごく僅かであった。これらの結果から、ストライガにおいてGAは種子のコンディショニングにおいて重要であり、コンディショニング後の種子発芽で内生GAは発芽促進をしていないことが示唆される。コンディショニング時にPACとGA3を同時に添加し、その後GR24によって発芽誘導したところ、GA3は濃度に依存してPACによる発芽抑制を緩和した。しかし、コンディショニング時にPAC処理した後にGR24とGA3を同時に添加した場合はPACによる発芽抑制は緩和されなかった。コンディショニング時のGA生合成関連遺伝子の発現を見ると、GA生合成遺伝子ShGA20ox1ShGA3ox1 の発現量が増加し、GA異化遺伝子ShGA2ox1 の発現量は低下していた。これらの結果から、GAはストライガ種子のコンディショニングを正に制御していることが示唆される。ストライガ種子は宿主が滲出するSLに対して非常に敏感で、ピコモル濃度のSLで発芽を起こすが、添加するGR24濃度を高めてもPACによる発芽阻害を打ち消すことはできなかった。よって、GA欠損種子ではSLシグナル伝達の因子が発芽の律速となっていることが示唆される。そこで、SL受容体をコードするShHTL 遺伝子の発現を見たところ、PAC処理はストライガの発芽において重要なSL受容体をコードするShHTL4ShHTL9 を含む、ほとんどのShHTL 遺伝子の発現を大幅に減少させることが判った。一方、GA3添加によって、PAC処理種子でのShHTL 遺伝子の発現が有意に増加した。発蛍光性ストリゴラクトンのヨシムラクトングリーンW(YLGW)を用いたライブイメージング解析を行なったところ、PAC処理によって発芽後のSL認識が低下し、しかもSL認識の伝搬が遅延していることが判った。したがって、GAはSL受容体遺伝子の発現を制御するだけでなく、発芽時のSL認識の伝播を制御する因子にも作用している可能性がある。また、GA処理は、至適条件ではないコンディショニング(22℃、15℃、3日間吸水)処理での発芽を促進させた。以上の結果から、GAはストライガ種子のコンディショニング時にSL受容体遺伝子ShHTL の発現を高めることで、SLによる発芽誘導を促進していると考えられる。

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論文)芽生えフック形成におけるジャスモン酸とブラシノステロイドの拮抗作用

2023-11-15 11:19:20 | 読んだ論文備忘録

Jasmonates regulate apical hook development by repressing brassinosteroid biosynthesis and signaling
Zhang et al.  Plant Physiology (2023) 193:1561-1579.

doi:10.1093/plphys/kiad399

双子葉植物の芽生えにみられる茎頂フックは、芽生えが土中から発芽する際に茎頂分裂組織を損傷から守っている。フックはオーキシンの不均等分布によって形成されるが、他の植物ホルモンによっても制御されており、ブラシノステロイド(BR)はフック形成に対して促進的に作用し、ジャスモン酸(JA)は抑制的に作用する。中国 広州大学のLiらは、シロイヌナズナ黄化芽生えをメチルジャスモン酸(MeJA)処理するとフック形成が抑制されて子葉が展開するが、MeJAとブラシノライド(BL)を同時に処理するとMeJAの作用が抑制されることを見出した。したがって、BLはMeJAによるフック形成の抑制や子葉の展開に対して抑制的に作用している。BRシグナル伝達経路の負の制御因子であるBRASSINOSTEROID INSENSITIVE 2(BIN2)とそのパラログが機能喪失したbin2-3 bil1 bil2 三重変異体(bin2-tri)の芽生え、BRシグナル伝達においてBR応答遺伝子の発現に関与しているBRASSINAZOLE RESISTANT 1(BZR1)の機能獲得変異体bzr1-1D の芽生えは、MeJA処理によるフックの消失と子葉の展開が抑制された。これらの結果から、BRシグナルはJAが誘導するフックの消失に対して抑制的に作用していると考えられる。次に、JA受容体のCOI1、JAシグナル伝達経路上の転写因子の1つであるMYC2の機能喪失変異体について調査を行なった。これらの変異体(coi1-2myc2)は、MeJA処理に対する感受性が低下してフックが形成されるが、BR生合成阻害剤ブラシナゾール(BRZ)処理をするとフックが消失して子葉が展開した。また、BR生合成酵素DWARF 4(DWF4)もしくはBR受容体BRASSINOSTEROID INSENSITIVE 1(BRI1)の機能喪失変異をmyc2 変異体に導入した二重変異体(dwf4-44 myc2bri1-701 myc2)においてもフックが消失して子葉が展開した。これらの結果は、JAシグナルを抑制してもBR関連変異体のフック消失表現型は救済されないことを示しており、JAはBRを抑制することでフック発達を制御しているものと思われる。MeJAはDWF4 の発現を抑制することが知られている。このMeJA処理によるDWF4 の発現量低下は、myc2 変異体では抑制され、myc2 myc3 myc4 三重変異体(myc2-tri)では完全に見られなくなった。よって、MeJAはMYC2MYC3MYC4 に依存してDWF4 の発現を抑制している。DWF4 プロモーターにレポーター(GUSLUC)を接続したコンストラクトを用いた一過的発現解析から、MYC2、MYC3、MYC4はDWF4 プロモーター活性を阻害することが判った。しかし、RNAiによってDWF4 の発現を抑制した黄化芽生えは野生型と同等のフックを形成することから、JAによるフックの消失は、DWF4 の発現抑制のみによって引き起こされているのではないと思われる。MeJA処理はBZR1のリン酸化状態に影響していないことが確認できたことから、フック形成制御におけるMeJAとBLのクロストークはBZR1の下流で行なわれていると思われる。そこで、BZR1とJAシグナル伝達に関与する因子との相互作用を調査した結果、BZR1のC-末端側領域とMYC2のN-末端側領域が相互作用をすることが判った。過去の研究において、BZR1のC-末端側領域にHY5が結合することでBZR1ターゲット遺伝子の発現が抑制されることが報告されている。したがって、MYC2もBZR1の転写活性を阻害することでフック形成を制御していることが推定される。そこで、公的データベースを用いて、発現がBRによって促進され、JAによって抑制される遺伝子のうちフック形成に関連のありそうな遺伝子を探索したところ、タンパク質キナーゼをコードするWAVY ROOT GROWTH 2WAG2)が見出された。WAG2はオーキシンの不均等分布を制御することでフック形成に関与していることが知られている。WAG2 遺伝子プロモーター領域にはBZR1とMYC2が共通して結合するG-boxモチーフが含まれており、ChIP-qPCR解析の結果、このモチーフにBZR1とMYC2の両方が結合することが確認された。BZR1は、ターゲット遺伝子の発現活性化においてヘテロ二量体を形成する。解析の結果、BZR1はPIFとヘテロ二量体を形成してWAG2 の発現を活性化すること、MYC2はBZR1とPIFとの相互作用を減少させることが判った。WAG2 の発現はMeJA処理によって減少するが、この作用はmyc2-tri 変異体では見られなかった。また、MeJAによるWAG2 発現量の低下はBLを添加することで回復すること、bzr1-1D 変異体では野生型植物よりもMeJA処理によるWAG2 の発現量低下が弱いことが判った。以上の結果から、JAは、BR生合成遺伝子DWF4 の発現を抑制することよりも、主にMYC2を介してBZR1とPIFとの複合体形成を阻害することでBRシグナルを抑制してフック形成を制御していると考えられる。

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論文)カルスからのシュート再生の分子機構

2023-11-06 10:44:00 | 読んだ論文備忘録

Spatial transcriptomics reveals light-induced chlorenchyma cells involved in promoting shoot regeneration in tomato callus
Song et al.  PNAS (2023) 120:e2310163120.

doi:10.1073/pnas.2310163120

植物組織切片からのシュート器官形成(de novo shoot organogenesis: DNSO)は、カルス形成とそれに続くシュート再生が行われ、体細胞の初期化、細胞運命決定、形質転換、発生など複数の段階があり、カルス細胞の異質性が高いことを示している。シュート再生の基礎となる分子機構は複雑で、転写因子、植物ホルモン、外部環境などの様々な因子が関与している。中国 北京大学現代農業研究院のLiらは、シュート再生培地で培養したトマト子葉由来カルスについて、シングル核RNAシーケンシング(snRNA-seq)および空間トランスクリプトームプロファイリングを行ない、組織学的画像とマーカー遺伝子発現を組み合わせることで、サンプル内の細胞タイプを「表皮」、「維管束組織」、「シュート原基」、「伸長シュート」、「内部カルス」に分け、それぞれの解析を行なった。「表皮」は、主にカルス切片の最外層周辺に位置しており、サブクラスタリング解析を行なったところ、空気に接している「Epidermis-like 1」と 培地に接している「Epidermis-like 2」の2つのサブタイプに分かれることが判った。各サブタイプで発現する遺伝子の遺伝子オントロジー(GO)termを見ると、「Epidermis-like 1」では、「クチクラ発達」、「脂質輸送」、「水への応答」のもが多く含まれていた。これは、シュートの表皮と類似しており、このサブタイプの保水と保護における役割を示している。一方、培地に接している「Epidermis-like 2」は、「多糖代謝プロセス」、「解糖プロセス」、「プロトン膜貫通輸送」などのGO termのものが多く含まれ、培地からの栄養吸収と代謝への関与が示唆される。したがって、トマトカルスの「表皮」は、細胞不均一性と機能的多様性が空間的に異なっている。表皮細胞から吸収された養分は、維管束細胞によって分配される。トマトカルスでは、根や茎に類似した中央木部と葉脈に似た側面に走る木部の特徴を持つ2つタイプの「維管束組織」が確認され、これらは、カルス内で複数に分岐した複雑なネットワークを形成し、成長したシュートの維管束組織とつながっていた。また、「維管束組織」で発現する遺伝子のGO termには、維管束発生プロセス関連ものが多く含まれ、さらに代謝や輸送プロセスのものも含まれていた。したがって、トマトカルスの「維管束組織」は、栄養代謝と輸送に関与する複雑なネットワークを形成していると考えられる。「Epidermis-like 2」と「維管束組織」の機能的類似性から、両者はシュート再生をサポートするために必要な物質を代謝・輸送するための協調的かつ効果的なシステムであることが示唆される。「シュート原基」の細胞は、シュート前駆細胞として機能し、将来の茎頂分裂組織やシュート全体に発達する重要な細胞である。空間的クラスタリングの結果、「シュート原基」は、主に「Epidermis-like 1」に近い上部領域で密集した細胞集団を形成していることが判った。「シュート原基」では、シュート再生に関与する転写因子遺伝子や、オーキシンシグナル伝達、サイトカイニンシグナル伝達、アブシジン酸シグナル伝達に関与する遺伝の発現量が高くなっていた。「シュート原基」の各細胞の形態は類似しているが、分子レベルでのトランスクリプトームの違いから、「shoot primordia 1」、「shoot primordia 2」、「shoot primordia 3」の3つのサブタイプに分かれた。「shoot primordia 1」で発現する遺伝子は、「細胞分裂」、「細胞周期プロセス」、「ヒストンアセチル化」、「核からのRNA輸送」に関連するGO termのものが多く、細胞分裂を促進するSlWUS とMyb-ドメインタンパク質3R4(SlMYB3R4)も発現していた。「shoot primordia 2」では、「オーキシン輸送」、「幹細胞集団維持」、「器官成長」に関わるGO termのものが多く見られた。「shoot primordia 3」では、「光合成」、「炭素固定」、「主根の発達」などのGO termのものが多かった。大抵の「シュート原基」は、光合成関連遺伝子を多く発現して葉緑体のような構造の見られる細胞に囲まれており、このことから、これらの細胞を「緑色組織細胞(chlorenchyma cells)」に分類した。「緑色組織細胞」では、光合成関連遺伝子に加えて、窒素同化関連遺伝子も発現していた。暗所で培養したカルスでは「緑色組織細胞」の出現が抑制され、シュート再生も阻害された。暗所から明所へ培養条件を移行すると「緑色組織細胞」の出現とシュート再生が誘導されたが、明所から暗所へ移行した場合は抑制された。よって、光照射はカルス形成には影響しないが、「シュート原基」の形成とシュート再生には影響しているとことが示唆される。光照射による「緑色組織細胞」の出現は、「シュート原基」の出現に先行していることから、「緑色組織細胞」はシュート再生を促進する上で重要な役割を果たしていると考えられる。各種光条件で培養したカルスのRNA-seq解析を行なったところ、暗所で培養したカルスを1時間光照射すると、SlCABSlLHCASlLHCB などの葉緑体の発達に関連する遺伝子、SlNFPSlNIA2SlGS2 などの窒素の輸送と同化に関わる遺伝子、SlCYCBSlCYCD などの細胞周期に関わる遺伝子の発現が上昇した。さらに、さらに、SlPLT3SlPLT7SlCUC1SlSTM などのシュート原基の特性に関連する遺伝子の発現が有意に上昇した。一方で、SlPHASlPHYBSlHY5 などの光シグナルに関連する遺伝子は、「シュート原基」や「緑色組織細胞」において特異的な空間的発現パターンを示さなかった。シュート再生における光誘導緑色組織細胞の重要性を検証するために、「緑色組織細胞」のPSII活性を光合成阻害剤DCMUで阻害したところ、シュート再生率が有意に低下した。よって、「緑色組織細胞」の光合成は正常なシュート再生に必要であることが示唆される。光合成産物である糖は、グルコース駆動型のTOR(target-of-rapamycin)シグナル伝達経路を通じて、分裂組織幹細胞の運命を制御する栄養シグナルとして働くことができる。解析の結果、「シュート原基」ではインベルターゼ遺伝子とSlTOR が、周囲の「緑色組織細胞」と比較して相対的に高い空間的発現を示していることが判った。また、TORキナーゼの活性阻害剤のTorin2処理をすると、シュートの再生が著しく低下した。このことから、「緑色組織細胞」で生産されたショ糖が「シュート原基」へ移動してグルコースに変換され、グルコース-TORシグナル伝達経路を活性化してシュート原基や分裂組織の発達をもたらしている可能性が示唆される。以上の結果から、シュート再生中のトマトカルスは非常に不均一な細胞から構成され、「表皮」、「維管束組織」、「シュート原基」、「内部カルス」、「伸長シュート」など様々な細胞型に分類されることが判った。また、シュート原基細胞の周囲に光合成遺伝子が濃縮された緑色組織細胞が存在することを見出した。この細胞は光によって誘導され、おそらく糖によるTORシグナル伝達を介して、シュート再生に対して積極的な役割を果たしていると考えられる。

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