Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)微生物が放出する揮発性物質による植物の成長促進

2016-12-27 05:46:08 | 読んだ論文備忘録

Volatile compounds emitted by diverse phytopathogenic microorganisms promote plant growth and flowering through cytokinin action
Sanchez-Lopez et al. Plant, Cell and Environment (2016) 39:2592-2608.

doi: 10.1111/pce.12759

植物の葉圏、根圏および内部に生息する微生物は様々な物質を放出し、植物の成長や形態形成に影響をおよぼしている。スペイン 農業バイオテクノロジー研究所のPozueta-Romero らは、寒天培地で育成しているシロイヌナズナの傍らに様々な真菌や細菌をお互いが物理的に接触しないようにセットし、微生物から放出される揮発性物質(VC)によるシロイヌナズナ成長を調査した。その結果、試験した微生物が放出するVCはシロイヌナズナの生重量を2~5倍増加させることがわかった。また、殆どの微生物が放出するVCは花成誘導やデンプン蓄積を促進した。放出されるVCに対する応答の程度は微生物種によって異なっており、微生物から放出される様々なVCの混合物に植物の様々なシグナル伝達経路が応答していると考えられる。このような微生物由来VCによる成長促進は、トウモロコシやピーマンを用いた実験においても観察された。代表的な土壌菌で植物病原菌として知られているアルテルナリア(Alternaria alternata )が放出するVCに晒されたシロイヌナズナの葉は、対照よりも炭酸同化効率が向上しており、糖類やカルビン‐ベンソン回路の中間代謝産物の含量が増加していた。アルテルナリアのVC処理によって葉のアブシジン酸含量がやや減少し、イソペンテニルアデニンリボシド(iPR)やtrans-ゼアチン(tZ)といった色素体のメチルエリスリトールリン酸(MEP)経路で合成されるサイトカイニン類の含量が増加した。そこで、サイトカイニン酸化酵素を過剰発現させた形質転換体(35S:CKX1)やサイトカイニン感受性が低下した変異体akh2/3 をVC処理したところ、ロゼット葉の生重量の増加、花成誘導、デンプン蓄積の促進といった効果が見られなくなっていた。しかし、ahk2/4 変異体やahk3/4 変異体は野生型と同じようにVCに応答した。したがって、アルテルナリアのVCによる種々の効果はサイトカイニンによって制御されており、この応答は主にAHK2、AHK3を介してなされていると考えられる。植物体を16時間明期/8時間暗期で育成し、アルテルナリアのVCに明期もしくは暗期にのみ晒して応答性を見たところ、明期に処理した場合にのみ成長促進、デンプン蓄積、花成誘導が見られ、暗期に処理した場合には効果は見られなかった。したがって、アルテルナリアのVCによる植物の変化は光に依存していると考えられる。シロイヌナズナをアルテルナリアのVCで処理することで、530遺伝子の発現量が増加し、496遺伝子の発現量が減少した。発現量の変化した遺伝子は、光捕獲、デンプン合成および分解、花成、細胞壁合成、アントシアニンおよびカロテノイドの代謝、酸化ストレス防御等、様々な過程のものが含まれていた。VCに応答する遺伝子の多くは、光、オーキシン、エチレン、ジャスモン酸、ジベレリン、硝酸、糖類による制御を受けるものであった。細菌と真菌では放出する揮発性物質が異なることから、アルテルナリアのVCで処理した葉と、植物の成長に促進的に作用する根圏細菌の枯草菌(Bacillus subtilis )GB03のVCで処理した葉で遺伝子発現を比較した。その結果、枯草菌のVCによって発現量が低下した254遺伝子のうち101遺伝子はアルテルナリアのVCによっても発現量が低下し、枯草菌のVCによって発現量が増加した378遺伝子のうち99遺伝子はアルテルナリアのVCによっても発現量が増加した。また、枯草菌とアルテルナリアのどちらのVCで処理しても発現量が変化した遺伝子の25%はサイトカイニン応答遺伝子であった。以上の結果から、微生物が放出する揮発性物質は、それが植物病原菌由来のものであっても、植物の成長にとって有益な効果をもたらし、この過程にはサイトカイニンが関与していると考えられる。

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論文)シスに作用する非コードアンチセンス転写産物による種子休眠の制御

2016-12-23 09:21:51 | 読んだ論文備忘録

Control of seed dormancy in Arabidopsis by a cis-acting noncoding antisense transcript
Fedek et al. PNAS (2016) 113:E7846-E7855.

doi: 10.1073/pnas.1608827113

シロイヌナズナのQTL解析から種子休眠を制御しているDelay of Germination 1DOG1 )遺伝子が同定された。種子休眠におけるDOG1タンパク質の機能は不明だが、DOG1 の発現量と種子休眠の強度には相関がある。DOG1 の発現は種子特異的であり、休眠が確立する種子成熟の間に発現量が最大となる。DOG1 転写産物は、3つのエクソンからなる長いmRNA lgDOG1 と2つのエクソンの短いmRNA shDOG1 のポリアデニル化部位が異なる2種類のmRNAが存在している。shDOG1 は翻訳され種子休眠に関与していることが確認されているが、lgDOG1 は生体内では翻訳されす、dog1 変異体の弱い種子休眠を相補しない。ポーランド科学院生化学生物物理学研究所Swiezewski らは、アブラナ科植物のDOG1 遺伝子の塩基配列を比較し、第3エクソンと第2イントロンに保存性の高い領域があることを見出した。しかしながら、第3エクソンがコードするポリペプチド配列には保存性は見られなかった。したがって、DOG1 の第2イントロンから第3エクソンにかけての領域はDNAレベルで進化的に保存されおり、何らかの機能があるものと推測される。DOG1 遺伝子を詳細に解析したところ、アンチセンス鎖に幾つかのポリアデニル化部位が存在し、5’RACEから、DOG1 遺伝子第2イントロン内から転写が始まりキャップ構造を持ったアンチセンス転写産物asDOG1 を発見した。asDOG1 の転写開始点は、shDOG1 のポリアデニル化部位と一致しており、前述した第2イントロンから第3エクソンにかけての保存領域にあった。asDOG1 の3’末端はDOG1 センスmRNAの転写開始点まできており、シスに作用する機構によってDOG1 遺伝子の発現を制御する可能性が推測される。asDOG1 の半減期は約46分で、タンパク質をコードしている半減期の短い転写産物と同程度であり、ncRNAとしては比較的長い。DOG1 のアンチセンスとセンスの発現プロファイルは相反しており、asDOD1 は種子での発現よりも芽生えでの発現が高くなっていた。DOG1 遺伝子のセンスプロモーター領域およびアンチセンス側のプロモーター領域と推測される第2エクソンから第3エクソンまでの領域にレポーターとしてLUC 遺伝子を融合したコンストラクトを導入した形質転換体でLUCシグナルを観察したところ、両プロモーターともそれぞれの転写産物の発現プロファイルと同じパターンでLUCシグナルが検出された。したがって、DOG1 遺伝子下流領域ではアンチセンス鎖の転写が行われ、独立したプロモーターを有していることが示唆される。DOG1 遺伝子センスプロモーター領域にT-DNAが挿入された機能喪失変異体dog1-3 は、センス転写産物量が減少しているが、asDOG1 転写産物量は野生型と同等であった。よって、センスプロモーター活性はアンチセンスプロモーターによる転写には影響しないと考えられる。これらの結果から、DOG1 アンチセンス転写産物は独立したプロモーターによって転写されており、このプロモーター領域において塩基配列が保存されていることは、このプロモーターが進化的に保存されていることを示唆している。dog1-5 変異体は機能獲得変異体で、shDOD1 転写産物量とDOG1タンパク質量が野生型よりも多くなっている。dog1-5 変異体はDOG1 遺伝子の第3エクソンにT-DNAが挿入されており、新鮮種子中のasDOG1 転写産物量が野生型よりも少なくなっていた。したがって、dog1-5 変異体での強い種子休眠の表現型、shDOG1 転写産物量の増加は、DOG1 アンチセンスの機能喪失の二次的な効果であると推測される。種子成熟過程におけるDOG1 遺伝子の発現を経時的に追ったところ、shDOG1 転写産物もasDOG1 転写産物も種子が成熟するにつれて徐々に増加し、shDOG1 は種子が成熟しただ段階で転写産物量が最大となりその後急速に減少したが、asDOG1 は長角果の成熟後期まで増加が継続した。shDOG1 転写産物量は種子を浸漬させることで減少するが、asDOG1 も同様の変化を示した。dog1-5 変異体の種子成熟過程ではasDOG1 転写産物量の増加が殆ど見られず、成熟後期の転写産物量は野生型の1/5程度になっていた。一方、shDOG1 転写産物量は野生型の5倍に増加していた。LUC 遺伝子を完全長のDOG1 ゲノム遺伝子で発現させるコンストラクト(pDOG1-LUC::DOG1 )とDOG1 アンチセンスプロモーター領域を欠いたゲノム遺伝子で発現させるコンストラクト(psDOG1::DOG1 )でLUC の発現量を比較したところ、psDOG1::DOG1 の方がpDOG1-LUC::DOG1 よりもはるかに高い発現を示した。したがって、T-DNAの挿入やプロモーター領域の欠失によってasDOG1 の発現が抑制されるとDOG1 センス転写産物が増加する。よって、asDOG1DOG1 発現の負の制御因子として作用し、種子休眠を抑制していると考えられる。dog1-5 変異体と野生型とのヘテロ接合F1種子はdog1-5 変異体よりも僅かに種子休眠が弱くなった。したがって、野生種親由来のアンチセンス転写産物が存在していても変異体由来の種子休眠は強く作用していることが示唆される。dog1-3 変異体とdog1-5 変異体とのF1種子は、shDOG1 の発現量がdog1-5 変異体の半分以下にはなっておらず、センスDOG1 遺伝子が1コピー欠失した際に推測される転写産物量とほぼ一致していた。また、asDOG1 をトランスに発現させた系統でセンスDOG1 の転写産物量に変化は見られなかった。したがって、別の対立遺伝子からトランスとして発現したasDOG1 はセンスDOG1 転写産物量を低減させる能力はなく、asDOG1 はシスに作用し、転写そのものがセンスDOG1 の転写制御にとって重要であると考えられる。

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論文)フィトクロムBは光だけでなく温度も感知する

2016-12-11 15:42:37 | 読んだ論文備忘録

Phytochromes function as thermosensors in Arabidopsis
Jung et al. Science (2016) 354:886-889.

DOI: 10.1126/science.aaf6005

Phytochrome B integrates light and temperature signals in Arabidopsis
Legris et al. Science (2016) 354:897-900.

DOI: 10.1126/science.aaf5656

PERSPECTIVE
Light-sensing phytochromes feel the heat
Karen J. Halliday, Seth J. Davis Science (2016) 354:832-833.

DOI: 10.1126/science.aaj1918

植物は温度に応答して成長を調節する能力を持っている。シロイヌナズナでは、暖かい条件では花成や伸長成長が促進されることが知られているが、どのようにして温度シグナルを受容しているのかは明らかとなっていない。Science誌11月18日号に、フィトクロムB(phyB)が温度を感知するとうい報告が2報出された。

英国 ケンブリッジ大学Wigge ら[Jung et al. Science (2016) 354:886-889.]は、フィトクロム活性が欠失しているシロイヌナズナphyABCDE 五重変異体の芽生えは12℃や17℃といった低い温度でも胚軸の伸長抑制が起こらないことを見出した。phyABCDE 変異体と野生型植物を22℃もしくは27℃で育成し、1日の転写産物の変化をRNA-seqで調査し、転写産物を日変化パターンから20のグループに分類した。温度形態形成は主に夜に起こり、フィトクロム相互作用因子4(PIF4)やPIF5が関与しているとされている。PIF4 は20のグループの中のクラスター20に属し、27℃育成条件の夜間に発現量が高くなっていた。クラスター15および16に属する遺伝子は、27℃の夜間に発現量が高い上にphyABCDE 変異体で強く発現誘導されており、ここにはホルモンシグナルや伸長成長に関与する遺伝子が含まれていた。したがって、27℃の夜間に発現している遺伝子はフィトクロム活性の影響を受けていることが示唆される。主成分分析の結果、夜間に温度に応答して発現が変化する遺伝子とphyABCDE 変異に応答して発現が変化する遺伝子の間には正の相関があり、この関係は日中には失われることがわかった。アミノ酸置換によって恒常的に活性型となったphyB を発現するYHB 系統は、27℃の夜間に発現する遺伝子の発現が抑制されており、温度に応答した胚軸伸長も殆ど見られなかった。温度によって発現が変化する遺伝子の79%は、phyABDE 変異体、YHB 系統もしくは両者で発現量変化を示していた。ChIP-seqから、phyBは100以上のサイト(およそ95のプロモーター領域)に結合し、27℃よりも17℃の方が結合するターゲットが多いことがわかった。そして多くのphyBターゲット遺伝子は温度に応答して夜間にphyB活性が低下した際に発現し、日中にはそのような関係は見られなくなっていた。phyBが結合する部位の多くにB-boxが含まれており、PIFタンパク質が結合する部位と重複していた。先のRNA-seq解析で、PIF4のターゲット遺伝子が属するクラスターの転写産物量はPIF4 の発現とは対応しておらず、フィトクロムシグナルに対して高い応答性を示していた。したがって、フィトクロムは温度に依存してPIF4活性を制御し、活性型フィトクロム(Pfr)がPIF4活性を抑制することでターゲット遺伝子の発現が抑制されると考えられる。活性型phyBの暗反転速度は温度によって変化し、22℃でのPfrの半減期が2.09時間であるのに対して、27℃では1.53時間であった。これらの結果から、Pfrの暗反転速度は温度差に応答した成長制御に関与していると考えられる。


アルゼンチン ルロワール研究所財団 ブエノスアイレス生化学研究所Casal ら[Legris et al. Science (2016) 354:897-900.]は、温度が高くなるにつれて活性型のPfr phyB量が減少して不活性型のPr phyB量が増加する熱反転についてin vitroin vivo で解析を行ない、Pfr:Prヘテロ二量体からPr:Prホモ二量体への移行速度は温度が上昇するにつれて速くなることを明らかにした。Pfr phyBは核内で顆粒の構造体を形成するが、顆粒の大きさは温度によって変化し、20℃の時に最大となった。そして高温は光条件に関係なくPfr:Pfrホモ二量体を減少させた。これらの結果は、phyBの活性は温度が上昇するに連れて低下することを示している。シロイヌナズナ芽生えの胚軸伸長について、野生型、phyB 変異体、アミノ酸置換により熱によるPfrからPrへの反転が抑制されたphyBを発現する系統を用いて、様々な光条件や温度条件で解析した結果、phyBは温度変化による胚軸伸長に関与しており、この関与は低光照射下で大きいことがわかった。以上の結果から、温度はphyB Pfr:Pfrホモ二量体の量を制御しており、phyBは光受容体に加えて温度センサーとしても機能していると考えられる。

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