Volatile compounds emitted by diverse phytopathogenic microorganisms promote plant growth and flowering through cytokinin action
Sanchez-Lopez et al. Plant, Cell and Environment (2016) 39:2592-2608.
doi: 10.1111/pce.12759
植物の葉圏、根圏および内部に生息する微生物は様々な物質を放出し、植物の成長や形態形成に影響をおよぼしている。スペイン 農業バイオテクノロジー研究所のPozueta-Romero らは、寒天培地で育成しているシロイヌナズナの傍らに様々な真菌や細菌をお互いが物理的に接触しないようにセットし、微生物から放出される揮発性物質(VC)によるシロイヌナズナ成長を調査した。その結果、試験した微生物が放出するVCはシロイヌナズナの生重量を2~5倍増加させることがわかった。また、殆どの微生物が放出するVCは花成誘導やデンプン蓄積を促進した。放出されるVCに対する応答の程度は微生物種によって異なっており、微生物から放出される様々なVCの混合物に植物の様々なシグナル伝達経路が応答していると考えられる。このような微生物由来VCによる成長促進は、トウモロコシやピーマンを用いた実験においても観察された。代表的な土壌菌で植物病原菌として知られているアルテルナリア(Alternaria alternata )が放出するVCに晒されたシロイヌナズナの葉は、対照よりも炭酸同化効率が向上しており、糖類やカルビン‐ベンソン回路の中間代謝産物の含量が増加していた。アルテルナリアのVC処理によって葉のアブシジン酸含量がやや減少し、イソペンテニルアデニンリボシド(iPR)やtrans-ゼアチン(tZ)といった色素体のメチルエリスリトールリン酸(MEP)経路で合成されるサイトカイニン類の含量が増加した。そこで、サイトカイニン酸化酵素を過剰発現させた形質転換体(35S:CKX1)やサイトカイニン感受性が低下した変異体akh2/3 をVC処理したところ、ロゼット葉の生重量の増加、花成誘導、デンプン蓄積の促進といった効果が見られなくなっていた。しかし、ahk2/4 変異体やahk3/4 変異体は野生型と同じようにVCに応答した。したがって、アルテルナリアのVCによる種々の効果はサイトカイニンによって制御されており、この応答は主にAHK2、AHK3を介してなされていると考えられる。植物体を16時間明期/8時間暗期で育成し、アルテルナリアのVCに明期もしくは暗期にのみ晒して応答性を見たところ、明期に処理した場合にのみ成長促進、デンプン蓄積、花成誘導が見られ、暗期に処理した場合には効果は見られなかった。したがって、アルテルナリアのVCによる植物の変化は光に依存していると考えられる。シロイヌナズナをアルテルナリアのVCで処理することで、530遺伝子の発現量が増加し、496遺伝子の発現量が減少した。発現量の変化した遺伝子は、光捕獲、デンプン合成および分解、花成、細胞壁合成、アントシアニンおよびカロテノイドの代謝、酸化ストレス防御等、様々な過程のものが含まれていた。VCに応答する遺伝子の多くは、光、オーキシン、エチレン、ジャスモン酸、ジベレリン、硝酸、糖類による制御を受けるものであった。細菌と真菌では放出する揮発性物質が異なることから、アルテルナリアのVCで処理した葉と、植物の成長に促進的に作用する根圏細菌の枯草菌(Bacillus subtilis )GB03のVCで処理した葉で遺伝子発現を比較した。その結果、枯草菌のVCによって発現量が低下した254遺伝子のうち101遺伝子はアルテルナリアのVCによっても発現量が低下し、枯草菌のVCによって発現量が増加した378遺伝子のうち99遺伝子はアルテルナリアのVCによっても発現量が増加した。また、枯草菌とアルテルナリアのどちらのVCで処理しても発現量が変化した遺伝子の25%はサイトカイニン応答遺伝子であった。以上の結果から、微生物が放出する揮発性物質は、それが植物病原菌由来のものであっても、植物の成長にとって有益な効果をもたらし、この過程にはサイトカイニンが関与していると考えられる。