Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)MYC2の安定性を制御するE3ユビキチンリガーゼ

2015-08-28 05:29:28 | 読んだ論文備忘録

PLANT U-BOX PROTEIN10 Regulates MYC2 Stability in Arabidopsis
Jung et al.  Plant Cell (2015) 27:2016-2031.

DOI: 10.1105/tpc.15.00385

PLANT U-BOX(PUB)タンパク質はU-boxドメインを有したE3ユビキチンリガーゼで、シロイヌナズナでは64個見出されている。しかしながら、生物学的機能が知られているものはごくわずかである。米国 ロックフェラー大学Chua らは、シロイヌナズナPUB10と相互作用をする転写因子タンパク質を酵母two-hybrid法によって探索し、MYC2が相互作用をすることを見出した。この相互作用はPUB10のarmadillo(ARM)リピートとMYC2のC末端ドメインとの間で起こっていた。PUBタンパク質のE3リガーゼ活性に関与しているC249をAに置換したPUB10(C249A)もMYC2と相互作用を示した。PUB10およびPUB10(C249A)はホモ二量体およびヘテロ二量体を形成した。PUB10はMYC2およびMYV2のホモログであるMYC3、MYC4をポリユビキチン化し、PUB10(C249A)ではユビキチン化されないこと、PUB10とMYC2の相互作用は核で起こっていることが確認された。PUB10 は、発芽した種子、主根、側根、維管束組織、葉肉細胞、トライコーム、花弁、雄ずい、柱頭、胚で強い発現が見られ、MYC2 の発現部位と比較すると根や葉の維管束で発現が重なっていた。PUB10は26Sプロテアソームによる制御を受けており、自身のユビキチンE3リガーゼ活性が半減期を決定する主要因となっていた。野生型植物でのMYC2の半減期は1時間以下だが、PUB10活性のないpub10 変異体では半減期が2時間程度に伸びていた。また、PUB10 過剰発現させるとMYC2の減衰速度が早まり、PUB10(C249A)を過剰発現させると内生のPUB10活性が抑制されてMYC2の減衰が遅くなった。よって、MYC2はPUB10によって不安定化されると考えられる。ジャスモン酸によるシロイヌナズナ芽生えの主根の伸長阻害はMYC2を介してなされるが、PUB10 過剰発現個体やMYC2の欠損したjin1 変異体はJAに対する感受性が低く、MYC2 過剰発現個体やpub10 変異体は感受性が高くなっていた。したがって、PUB10はMYC2を介したJA応答を負に制御している。JAによって発現誘導される遺伝子のうち、TATJR2 はMYC2による正の制御を受け、PDF1.2 は負の制御を受けている。TATJR2 のJAに対する応答性はpub10 変異体とMYC2 過剰発現個体で高く、jin1 変異体とPUB10 過剰発現個体で低くなっていた。PDF1.2 の応答性については逆の挙動を示した。PUBタンパク質ファミリーのうち、PUB10と最も類似性の高いPUB11はARMリピートを介してMYC2と相互作用を示した。PUB11はE3リガーゼとしてPUB11自身とMYC2、MYC3、MYC4をポリユビキチン化する活性を有していた。pub11 変異体は、pub10 変異体と異なり、JA処理による根の成長阻害や遺伝子発現の変化は野生型と同等であった。また、pub10 pub11 二重変異体の表現型はpub10 変異体と同等であった。よって、PUB11のJA応答に対する重要性は低いと考えられる。

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論文)アルカリストレスによる根の成長阻害

2015-08-21 06:00:54 | 読んだ論文備忘録

Ethylene Inhibits Root Elongation during Alkaline Stress through AUXIN1 and Associated Changes in Auxin Accumulation
Li et al.  Plant Physiology (2015) 168:1777-1791.

doi:10.1104/pp.15.00523

アルカリストレスはシュートや根の成長阻害を引き起こす。アルカリストレスによる根の成長阻害には、オーキシン分布の変化、細胞膜プロトンATPアーゼ活性、微小管の安定性が関与しているとされている。中国 武漢大学のLu らは、シロイヌナズナの芽生えにpH 8.0もしくは9.0のアルカリストレスを与え、アルカリストレスによる主根の伸長阻害機構を解析した。根の成長阻害はアルカリ強度と相関があり、根端分裂組織や伸長領域の成長量が低下し、分化領域の細胞の長さが短くなっていた。アルカリストレスは幹細胞の活性には影響していなかったが、分裂組織の細胞分裂能力を低下させており、細胞周期に関与する遺伝子や細胞周期を制御する転写因子遺伝子の発現量を低下させていた。ストレス応答や主根の伸長阻害にエチレンが関与していることが知られていることから、エチレン受容の拮抗剤である銀イオンの処理をしたところ、アルカリストレスによる根の伸長阻害が緩和された。よって、アルカリストレスによる根の伸長阻害にはエチレンが関与していると考えられる。アルカリストレスはエチレンシグナル伝達に関与しているETR1EIN2EIN3 の発現を誘導し、エチレンレポーターであるEBS::GUS の根端部分での発現を誘導した。また、etr1 変異体、ein2 変異体、ein3 変異体は野生型植物よりもアルカリストレスによる根の成長阻害が弱くなっていた。エチレン生合成の拮抗剤であるコバルトイオンを与えるとアルカリストレスによる根の伸長阻害が抑制された。根においてエチレン生合成に関与しているACS2ACS5ACS6ACS8 の発現量はアルカリストレスによって増加し、内生エチレン量も増加した。恒常的にエチレンを過剰生産するeto1-1 変異体はアルカリストレスに対する感受性が高くなっていた。エチレンは根の分裂組織や伸長領域のオーキシン蓄積を促進し、根端のオーキシン量を増加させることが知られている。アルカリストレスはTrp生合成やTrpからのIAA生合成に関与する酵素の遺伝子の転写産物量を増加させ、内生IAA量を増加させた。また、インドールグルコシノレート生合成に関与する遺伝子の発現量も増加させた。オーキシン生合成が欠失しているwei2 変異体やwei8 変異体はアルカリストレスによる根の伸長阻害が緩和していた。したがって、アルカリストレスは、オーキシン生合成遺伝子の発現量を増加させることで増加したオーキシンによって根の伸長を抑制していると考えられる。エチレンの前駆体であるACCを処理すると根のオーキシンシグナルが増加すること、銀イオンやコバルトイオンを添加してアルカリストレスを与えるとオーキシンシグナルの増加が抑制されることから、アルカリストレスによるオーキシンシグナルの増加にはエチレン生合成やエチレンシグナルか関与していると考えられる。アルカリストレスに対する感受性の高いeto1-1 変異体にオーキシン非感受性のaxr1-3 変異を導入すると、感受性の増加が抑制された。アルカリストレスによるIAA量の増加は、etr1 変異体やein3 変異体では抑制されていた。よって、エチレンはアルカリストレス下においてオーキシン量を増加させることで根の成長阻害を引き起こしていると考えられる。根におけるオーキシンの分布や蓄積にはオーキシンの極性輸送も関与しており、アルカリストレスによる根の伸長阻害にオーキシン排出キャリアPIN2が関与していることが報告されている。根の伸長制御に関与しているオーキシン流入キャリアをコードするAUX1 の発現量はアルカリストレスによって増加した。また、aux1 変異体はアルカリストレスによる根の伸長阻害に対してやや感受性が低下していた。よって、AUX1 はアルカリストレスによる根の伸長阻害に関与していると考えられる。アルカリストレスによるAUX1 の発現量増加は、銀イオンやコバルトイオンを添加した野生型植物、etr1 変異体、ein2 変異体、ein3 変異体では抑制された。また、aux1 変異体のアルカリストレス感受性低下はeto1-1 変異を導入しても変化しなかった。したがって、アルカリストレスによるAUX1 の発現量増加にエチレンが関与していることが示唆される。以上の結果から、エチレンはAUX1 とオーキシン生合成に関与する遺伝子の発現を誘導してオーキシン蓄積量を増加させることでアルカリストレスによる根の成長阻害を引き起こしていると考えられる。

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論文)ジャガイモBRANCHED1a遺伝子の選択的スプライシング

2015-08-13 05:42:15 | 読んだ論文備忘録

A Recently Evolved Alternative Splice Site in the BRANCHED1a Gene Controls Potato Plant Architecture
Nicolas et al.  Current Biology (2015) 25:1799-1809.

DOI: 10.1016/j.cub.2015.05.053

TCPタンパク質BRANCHED1(BRC1)はシロイヌナズナにおいてシュートの分枝を制御している。BRC1 は腋芽で発現しており、腋芽の成長を抑制するような条件では転写産物量が増加する。トマトなどのナス科植物にはBRC1aBRC1b の2つのBRC1-likeパラログがある。また、トマトSlBRC1a は、選択的スプライシングにより2種類のmRNAが生産され、それらはC末端ドメインが異なるタンパク質をコードしている。しかしながら、この選択的スプライシングの制御機構や生物学的機能は明らかとなっていない。スペイン国立研究評議会  国立バイオテクノロジー・センターCubas らは、ジャガイモのBRC1a をRNAiで発現抑制した形質転換体は、地上部の分枝が増加し、ストロンも分枝することを見出した。よって、ジャガイモのBRC1a は、他植物のBRC1-like遺伝子と同様に、分枝の制御を行なっていることが示唆される。ジャガイモのBRC1a も、他のソラナム属植物と同様に、選択的スプライシングを起こして2種類のスプライスバリアント( StBRC1aLong、StBRC1aShort)を形成した。この2種類の転写産物は茎や葉、特に腋芽やストロンに多く蓄積しており、BRC1aShort 転写産物量は BRC1aLong 転写産物量の半分から1/8程度であった。 BRC1aLongとBRC1aShortはどちらも同じターゲット遺伝子のプロモーター上のモチーフに結合した。 BRC1aLongとBRC1aShortはホモ二量体およびヘテロ二量体を形成することが確認された。 BRC1aLongは核と細胞質の両方に局在した。BRC1aShortはTCPドメインの近傍に核局在シグナル(NLS)があるにも関わらず完全に核から排除されていた。 BRC1aLongとBRC1aShortの違いは、選択的スプライシングによってBRC1aShortに形成される両親媒性のHドメインの有無である。そこで、BRC1aのパラログのBRC1bやMYB転写因子のPHOSPHATE STARVATION RESPONSE 1(PHR1)といった強い核局在を示すタンパク質のC末端にHドメインを付加したところ、こらのタンパク質は核外に局在するようになった。したがって、HドメインはNLSによる核へのターゲッティングをくつがえすことが示唆される。BRC1aShortは BRC1aLongと相互作用をして BRC1aLongを細胞質に留めさせ、 BRC1aLongの転写因子としての核における活性を制限していることが考えられる。一過的発現解析において、 BRC1aLongによるレポーター遺伝子の発現誘導活性がBRC1aShortを発現させることによって抑制されたことからも、BRC1aShortは BRC1aLongの転写活性を核局在を制限することで抑制していることが示唆される。BRC1aShort を過剰発現させた個体は対照よりもシュートやストロンの分枝が増え、BRC1a を発現抑制した個体と類似した表現型となった。一方、 BRC1aLong を過剰発現させた個体は、生育不能であるか矮化した形態となった。よって、BRC1aShort は腋芽における BRC1aLong の機能に対して拮抗する作用のみを示している。 BRC1aLongBRC1aShort の転写産物の割合を様々な条件で比較したところ、 BRC1aLong 転写産物の相対量は腋芽の成長が誘導される摘心後に減少し、摘心後のオーキシン添加や遠赤色光照射といった分枝が抑制される条件下では増加することがわかった。以上の結果から、ジャガイモBRC1a 遺伝子は選択的スプライシングによって2種類のタンパク質を形成し、 BRC1aLongは分枝抑制をする転写因子として機能し、BRC1aShortは BRC1aLongの核へのターゲッティングを制限することで転写活性を抑制する機能があると考えられる。

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論文)概日時計による側根形成の制御

2015-08-06 05:25:38 | 読んだ論文備忘録

The circadian clock rephases during lateral root organ initiation in Arabidopsis thaliana
Voss et al.  Nature Communications (2015) 6:7641.

DOI:10.1038/ncomms8641

英国 ノッティンガム大学Bennett らは、側根誘導過程に関与する新規遺伝子や制御機構を明らかにすることを目的に、シロイヌナズナ芽生えの根に重力屈性刺激を与えて側根形成を誘導して遺伝子発現の変化を経時的に観察した。側根原基の形成は重力屈性刺激を与えてから15時間後に観察され、側根の出現は42時間後に見られることから、刺激を与えて6時間後から54時間後まで3時間毎に屈曲部分をサンプリングして遺伝子発現解析を行なった。その結果、全体を通して8000以上の遺伝子に発現量の変化が見られ、主成分分析の結果、第3主成分において24時間周期の振動パターンが認められた。転写産物量プロファイルから77のクラスターが形成され、側根形成過程には様々なmRNAの発現パターンが存在することが認められた。このうち17のクラスターは19.4時間から35.9時間の振動パターンを示し、そのうち4つには概日時計遺伝子が含まれていた。重力屈性刺激と側根原基誘導との関係を明らかにするために、TOC1:LUC をレポーターとして発現させて蛍光を観察した。重力刺激を与えていない根では蛍光の周期変動は見られないが、刺激を与えると根端部と屈曲部で蛍光の周期変動が観察された。屈曲部は、当初、根の他の部分や植物体の他の部分とは異なる周期を示していたが、刺激を与えてから48時間後には屈曲部と根端部の周期変動が同調した。屈曲刺激を与えて遺伝子発現の観察を開始した時点では、朝方に発現するCCA1LHYPRR7 の転写産物量は少なく、午後や夕方に発現するPRR5PRR3GITOC1ELF3ELF4 の発現量は高くなっていた。しかし、刺激を与えて9時間後からTOC1GI の発現量が減少し、LHY 量が上昇し始めた。よって、これらの遺伝子が側根での概日時計の周期変動を制御していると考えられる。芽生えの根を側根誘導に関与している植物ホルモンのオーキシンで処理すると、側根原基が形成される伸長領域でTOC1 転写産物量が急速に増加した。側根誘導に関与しているオーキシン応答因子ARF7とARF19が機能喪失したarf7arf19 変異体においてもオーキシン処理によるTOC1 の増加が見られた。したがって、オーキシンが側根の概日時計を制御していることが示唆される。概日時計が側根形成に関与しているかを見るために、CCA1LHYTOC1 の機能喪失変異体もしくは過剰発現個体の側根を観察したところ、toc1 変異体、CCA1 過剰発現個体、LHY 過剰発現個体において側根数や側根原基密度の著しい減少が起こり、他の系統においても側根形成の弱い低下が見られた。toc1 変異体は、野生型と比較すると、出現した側根を含め原基の密度は同程度だが、発達初期過程の原基の比率が高くなっていた。LHY 過剰発現個体も発達初期の側根原基が多くなっていたが、全原基の密度は野生型よりも少なくなっていた。CCA1 過剰発現個体では側根原基の表現型に大きな変化は見られなかった。これらの結果から、概日時計の欠損は側根の発達や出現に強い障害をもたらすが、側根原基の誘導に対しては影響していないことが示唆される。側根の発達過程において、49のオーキシン関連遺伝子が概日振動を示し、これらの遺伝子には側根誘導の主要な調節因子であるオーキシン応答抑制因子IAA14 が含まれていた。また、IAAを不活性型のoxIAAに変換するオーキシンオキシダーゼ(DAO)をコードしているAtDAO2 も強い概日振動を示し、内生oxIAA量もAtDAO2 転写産物量に呼応して概日変化をしていた。同時に、遊離IAA量はAtDAO2 やoxIAAとは逆位相の変化を示していた。このようなAtDAO2 やIAA量の概日変化は、根の発達の間にIAA14 のようなオーキシン誘導遺伝子の発現のゲート開閉を引き起こしていると思われる。AtDAO2 は、CCA1 と同様に、TOC1 とは逆位相の概日変動をしていた。AtDAO2 遺伝子のプロモーター領域には9つのTOC1結合モチーフが含まれており、TOC1は転写抑制因子として機能すること、AtDAO2 の発現誘導とTOC1 転写産物の減少が一致することから、AtDAO2 はTOC1による負の制御を受けていると考えられる。以上の結果から、概日時計は側根の発達過程においてオーキシンシグナルのゲートとして作用して器官形成を促進していると考えられる。

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