Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)マイクロRNA mir156によるジベレリン経路の制御

2019-09-28 09:38:01 | 読んだ論文備忘録

The grain yield modulator miR156 regulates seed dormancy through the gibberellin pathway in rice
Miao et al. Nature Communications (2019) 10:3822.

doi:10.1038/s41467-019-11830-5

マイクロRNA miR156は、草型や粒径を調節して作物の収量を制御している。しかしながら、miR156が様々な制御機能を引き起こしている分子機構は明らかとなっていない。イネゲノムには11のMIR156 遺伝子があり、12のmiR156前駆体が転写される。中国科学院 上海植物ストレス生物学研究センターZhu らは、CRISPR/Cas9でイネMIR156 をノックアウトし、表現型を観察した。MIR156d-MIR156i の6つのMIR156 遺伝子をノックアウトしたグループⅠmir156 変異体は、野生型と比較して草丈が高く、幹が太く、分けつ数が少なくなった。よって、グループⅠMIR156 遺伝子はイネの地上部の構造を調節していると考えられる。MIR156a-MIR156cMIR156kMIR156l の5遺伝子をノックアウトしたグループⅡmir156 変異体は、地上部の構造に変化は見られなかった。また、mir156abcdfghikl 10重変異体は、幼苗の生育遅延が見られた。グループⅠmir156 変異体は籾サイズが大きくなり、mir156gf 変異がこの形質に関与していた。一方、グループⅡmir156 変異体は籾の形態に変化は見られなかった。mir156 10重変異体は不定根数が非常に少なく、グループⅠmir156 変異体、グループⅡmir156 変異体も不定根数が減少した。グループⅡmir156 変異体は、野生型よりも種子発芽が遅延し、穂発芽が抑制された。よって、グループⅡ MIR156 は種子休眠の制御に関与していると考えられる。このmir156 変異体の種子休眠の強化は、アブシジン酸(ABA)の蓄積やABAシグナル伝達の変化によるものではなかった。そして、mir156 変異体はジベレリン(GA)の生合成や受容体をコードする遺伝子の発現量が減少、GA不活性化に関与する遺伝子の発現量が増加、活性型GA量が減少しており、種子発芽におけるGA感受性が低下していた。また、mir156 変異体幼苗ではGAシグナル伝達の負の制御因子をコードするSLENDER RICE 1SLR1 )やSPINDLYSPY )の発現量が増加していた。よって、mir156 変異体の種子休眠の強化や幼苗の生育遅延は、GA生合成とシグナル伝達の抑制とGA不活性化の促進によるものであると考えられる。イネmir156はSQUAMOSA-PROMOTER BINDING PROTEIN-LIKESPL )転写因子遺伝子をターゲットとしており、その中でもmir156 変異体においてIdeal Plant Architecture 1IPA1 )/SPL14 の発現量が他のターゲット遺伝子と比較して非常に高くなっている。IPA1 を過剰発現させた形質転換体は種子休眠が強く草丈が低くなった。したがって、mir156 変異による種子休眠や成長の変化はIPA1 を介してなされていると考えられる。さらに、IPA1はGAの生合成、シグナル伝達、不活性化に関与する遺伝子の発現を直接制御していることが確認された。以上の結果から、mir156 変異はジベレリン経路を抑制することで種子休眠を強め、幼苗の成長を阻害しており、これらはmir156のターゲット遺伝子の1つであるSPL転写因子遺伝子IPA1 によるジベレリン経路に関与する複数の遺伝子の直接の制御によると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

学会)日本植物学会第83回大会(仙台)2日目

2019-09-16 22:22:54 | 学会参加

大会2日目の午後からは学会賞の授与式、大賞、学術賞の受賞講演が行なわれた。また、講演後の「会員の集い」で、特別賞を受賞した三浦しをん氏と塚谷裕一会員による特別対談が行われた。三浦しをん氏は、塚谷研究室の取材をもとに、人生のすべてをシロイヌナズナの研究に捧げているリケジョを描いた「愛なき世界」という小説(元々は読売新聞の連載小説)を発表され、対談では小説の裏話が紹介された。

大賞
島崎 研一郎 (九州大学 名誉教授)
興味尽きない光による気孔開口の研究

学術賞
西谷 和彦 (神奈川大学理学部生物科学科(申請時:東北大学大学院生命科学研究科))
細胞壁再編酵素XTHの発見を基にした新しい植物細胞壁像の構築と研究領域の開拓

奨励賞
奥山 雄大 (国立科学博物館植物研究部)
チャルメルソウ類をモデルとしたフィールド・遺伝子研究統合による植物の種分化研究

寿崎 拓哉 (筑波大学生命環境系)
根粒形成を正および負に制御する分子機構の解析

土松 隆志 (千葉大学大学院理学研究院)
シロイヌナズナとその近縁種における自家受精の進化に関する遺伝的基盤の解明

若手奨励賞
肥後 あすか (横浜市立大学木原生物学研究所植物遺伝資源部門)
苔類ゼニゴケを用いた植物の精子形成に関する遺伝子発現制御機構と雄性配偶子形成の進化についての研究

平川 健 (奈良先端科学技術大学院大学先端技術研究科(申請時:東京理科大学大学院理工学研究科))
植物DNA 損傷応答におけるクロマチン構造制御機構に関する研究

特別賞
● 技 術
名古屋大学ライブイメージングセンター
代表者:佐藤 良勝 (名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所)
植物イメージング研究への貢献

● 教 育
佐藤 直樹 (東京大学 名誉教授)
植物科学の知識の社会的普及・教育への貢献

松浦 克美 (首都大学東京 名誉教授)
高等学校生物教育の改善のための学習指導要領の改訂協力や教員研修講座の実施等の活動

● その他
三浦 しをん (小説家)
小説作品における植物研究活動の正確な描写と,それを介した一般社会への植物科学の啓発

2019年度JPR論文賞
[Best Paper Award]
Kanako Bessho-Uehara, Jovano Erris Nugroho, Hirono Kondo, Rosalyn B. Angeles-Shim, Motoyuki Ashikari
Sucrose affects the developmental transition of rhizomes in Oryza longistaminata.
J. PlantRes.(2018)131:693-707.

Atsushi Kume, Tomoko Akitsu, Kenlo Nishida Nasahara
Why is chlorophyll b only used in lightharvesting systems?
J. Plant Res. (2018)131:961-972.

[Most-Cited Paper Award]
Wataru Yamori
Photosynthetic response to fluctuating environments and photoprotective strategies
under abiotic stress.
J. Plant Res.(2016)129:379-395.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

学会)日本植物学会第83回大会(仙台)1日目

2019-09-15 21:12:31 | 学会参加

今日から公益社団法人日本植物学会第83回大会が東北大学川内北キャンパスで開催された。仙台での大会開催は30年ぶりに なる。一般講演口頭発表 230 演題、ポスター発表 243 演題、シンポジウム講演 65 演題、受賞講演 7 演題、関連集会 15 演題、合計 560 演題の発表が行われる予定。大会初日の今日は高校生研究ポスター発表と表彰式が行なわれた。夕方からは 、「ミキサー」、「シニアの集い」が行われた。

 

地下鉄東西線 川内駅から南2出口を出ると目の前が東北大学川内キャンパス

 

シンボルマークは東北大学のロゴマークと同様、仙台を象徴する植物である「萩」をモチーフにしている

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

学会)日本植物学会第83回大会(仙台)

2019-09-14 20:07:25 | 学会参加

公益社団法人日本植物学会第83回大会が、2019年9月15日(日)から17日(火)までの日程で、東北大学川内北キャンパス(仙台市)にて開催される。大会前日の9月14日に公開シンポジウム「復興:植物科学による環境の再生」が東北大学川内北キャンパスマルチメディア教育研究棟 I会場(M206)で開催された。2011年の東日本大震災後の、植生、生態系の回復や希少植物の保全のための取り組みを紹介し、植物の力を借りた自然環境の保護、植物研究が社会に果たす役割について考える講演が以下の内容で行われた。

「はじめに」 三村 徹郎(神戸大学大学院理学研究科・日本植物学会会長)
「震災から8 年:福島県の沿岸部植生の現状と課題」 黒沢 高秀(福島大学共生システム理工学類)
「復興事業と海岸環境保全の両立はどうなされるべきか」 平吹 喜彦(東北学院大学教養学部)
「植物を用いて来たるべき次の災害に備える」 中静 透(総合地球環境学研究所)
「菜の花の力で被災農地の復興を」 北柴 大泰(東北大学大学院農学研究科)
「最後に―将来展望―」 高橋 秀幸(東北大学大学院生命科学研究科)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)キュウリBRANCHED1による腋芽成長阻害

2019-09-11 22:37:05 | 読んだ論文備忘録

CsBRC1 inhibits axillary bud outgrowth by directly repressing the auxin efflux carrier CsPIN3 in cucumber
Sher et al. PNAS (2019) 116:17105-17114.

doi:10.1073/pnas.1907968116

オーキシンは腋芽の成長を抑制する因子として作用している。また、TCPファミリー転写因子のBRANCHED1(BRC1)はシュート分枝を阻害する。しかしながら、オーキシンとBRC1の直接の関連は明らかとなっていない。中国農業大学のZhang らは、分枝数の異なるキュウリ品種を用いて分枝に関連する遺伝子の発現量を調査し、BRC1 ホモログ遺伝子(CsBRC1 )の発現と分枝形成との間に負の相関があることを見出した。また、RNAiによってCsBRC1 をノックダウンした形質転換キュウリ(CsBRC1-RNAi)は腋芽の成長が促進された。よって、CsBRC1 はキュウリの腋芽成長を抑制する重要な因子であると考えられる。CsBRC1-RNAi系統のわき芽では、オーキシン排出キャリアをコードするCsPIN1bCsPIN3 の発現量が高く、オーキシン含量が減少していた。よって、CsBRC1-RNAi系統ではオーキシン量の減少が分枝の成長をもたらしているのもと思われる。また、CsBRC1はCsPIN3 遺伝子プロモーター領域に直接結合して発現を抑制していることが確認された。CsPIN3 は腋芽、葉原基、茎で発現していた。CsPIN3CsBRC1 プロモーター制御下で発現させた形質転換キュウリは、分枝の成長が促進され、わき芽のオーキシン含量が減少していた。他植物において、BRC1 は日陰に応答した分枝抑制を促進していることが報告されている。キュウリ品種に日陰処理をすると、分枝数の少ない栽培品種では腋芽でのCsBRC1 発現量が増加したが、分枝の多い野生キュウリではそのような発現量変化は見られなかった。以上の結果から、キュウリではCsBRC1が腋芽でのCsPIN3 の発現を抑制してオーキシンを蓄積させることでわき芽の成長を阻害していると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)AP2/ERF転写因子TINYとブラシノステロイドとの関係

2019-09-06 22:47:50 | 読んだ論文備忘録

The AP2/ERF Transcription Factor TINY Modulates Brassinosteroid-Regulated Plant Growth and Drought Responses in Arabidopsis
Xie et al. The Plant Cell (2019) 31:1788-1806.

doi:10.1105/tpc.18.00918

AP2/ERFファミリーDREBタンパク質A4サブファミリーのTINYは、植物の成長を抑制し、乾燥、低温、塩といった様々なストレスに対する応答を促進することが知られている。しかしながら、その作用機作については明らかになっていない。米国 アイオワ州立大学Yin らは、シロイヌナズナのトランスクリプトーム解析において、ブラシノステロイド(BR)に応答する転写因子遺伝子の中にTINY とそのホモログが含まれていることを見出した。そこで、TINYとBRとの関係を調査した。TINY を過剰発現させた形質転換体(TINY-OE )は生育不良を起こし、tiny tiny2 tiny3 三重変異体は葉柄が伸長して肥大成長した。TINY-OE 植物はBR生合成阻害剤に対する感受性が強く、阻害剤処理による成長抑制が野生型よりも強く現れるが、tiny tiny2 tiny3 三重変異体はBR阻害剤感受性が弱くなっていた。また、TINY-OE ではBRによって発現誘導される植物成長関連遺伝子の発現量が減少し、BRによって発現抑制される成長阻害関連遺伝子の発現量が増加しており、tiny tiny2 tiny3 三重変異体は逆の発現プロファイルを示していた。これらの結果から、TINYはBRによる成長やBR応答遺伝子の発現を抑制していると考えられる。TINY-OE をBR処理すると成長抑制が回復し、植物体内のTINYタンパク質量が減少した。この減少はプロテアソーム阻害剤MG132を処理することで抑制されることから、TINYの安定性は26Sプロテアソームを介した分解によって制御されていることが示唆される。TINYタンパク質はBRシグナル伝達の負の制御因子として機能するBR-INSENSITIVE2(BIN2)によってリン酸化されることがわかった。BIN2によってリン酸化されたTINYは安定化し、植物の成長を阻害した。TINY-OE は、水欠乏条件下での生存が促進され、アブシジン酸(ABA)処理による気孔閉鎖が野生型よりも強く、乾燥応答遺伝子の発現量が増加していた。よって、TINYは乾燥応答を正に制御していると考えられる。RNA-seq解析の結果、TINY-OE では成長関連遺伝子の発現が減少し、ストレス応答関連遺伝子の発現が増加していることがわかった。また、BRによって制御されている遺伝子の多くはTINYによって逆の方向の制御を受けていた。BR応答遺伝子はBRASSINOSTERIOID INSENSITIVE1-ETHYL METHANESULFONATE SUPRESSOR1(BES1)/BRASSINAZOLE-RESISITANT1(BZR1)による直接の制御を受けているが、TINY-OE で発現量が変化した4622遺伝子のうち2110遺伝子はBES1/BZR1のターゲット遺伝子であった。よって、TINYとBES1は共通のターゲット遺伝子を有していることが示唆される。TINYとBES1は核内で相互作用をすることが確認された。乾燥応答のマーカー遺伝子であるRD29ACOR15A のプロモーター領域にはTINYおよびBES1の結合ドメインであるDREエレメントおよびE-boxが含まれており、TINYは発現を活性化、BES1は発現を抑制し、両者が同時に結合するとお互いの活性を相殺した。BR誘導成長関連遺伝子のCESA5IAA19 は、プロモーター領域にDREエレメントとE-boxがあり、TINYは発現を抑制、BES1は発現を活性化し、両者が同時に結合するとお互いの活性を相殺した。以上の結果から、BRシグナルはBIN2によるリン酸化を介してTINYを負に制御し、TINYは乾燥応答を正に制御するとともに、BRによる成長促進をTINY-BES1の拮抗的相互作用によって阻害していると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする