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論文)低温で植物の成長が鈍る理由

2008-10-08 20:15:24 | 読んだ論文備忘録

The cold-inducible CBF1 factor-dependent signaling pathway modulates the accumulation of the growth-repressing DELLA proteins via its effect on gibberellin metabolism
Achard et al. Plant Cell (2008) 20:2117-2119

転写促進因子CBF/DREB1はシロイヌナズナを低温処理すると発現が誘導され、低温に応答する遺伝子群の発現を誘導している。この転写因子を恒常的発現させた形質転換植物は低温耐性となるが、同時に極度の成長遅延を起こす。植物の成長は植物ホルモンのジベレリン(GA)による制御を受けていることから、CBFのとGAシグナル伝達との関係を調査した。その結果、ジベレリンシグナル伝達経路における抑制因子であるDELLAタンパク質が低温処理によって増加することがわかった。また、CBF1 過剰発現個体をGA処理をすると成長遅延が回復することが確かめられた。このことは、CBF1はGAを介して植物の成長を抑制していることを示している。CBF1 過剰発現個体におけるDELLA 転写産物量の変化を見たところ、RGL3 転写産物の量は増加していたが、他のDELLA 転写産物には変化見られなかった。よって、CBF1によるDELLAタンパク質の蓄積は主に転写後調節機構によりなされていると考えられる。DELLAタンパク質の蓄積は内生GA量が少ない場合に見られる現象なので、低温処理した個体やCBF1 過剰発現個体でのGA代謝に関係する酵素遺伝子の発現を見たところ、活性型GAを不活性型に変えるGA2オキシダーゼ(GA2ox )の転写産物量が増加していた。したがって、CBF1によるDELLAタンパク質の蓄積は、GA2ox 転写産物の増加による活性型GAレベルの低下によって引き起こされていると考えられる。GA2ox 遺伝子のプロモーター領域にはCBFの結合するシス配列は見られないことから、CBFによるGA2ox の発現誘導は間接的になされていると思われる。CBFにより誘導される低温耐性は、凍結防止ポリペプチドや可溶性糖類やプロリンといった溶質の生産によって獲得されるが、DELLAはそのような物質の合成には関与していない。しかし、GA応答突然変異体gai は低温耐性を示すことから、DELLAタンパク質自身も何らかの低温耐性機構に関与していると思われる。以上の結果から、CBFはGA2ox の発現を誘導することで活性型ジベレリン量を減らしDELLAタンパク質を蓄積させることで植物体の成長抑制と未知の低温耐性機構をもたらし、さらにDELLAの経路とは別個に凍結耐性を獲得するための物質の合成を誘導するという2つの異なる機構によって植物に低温耐性を付与していると考えられる。

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