Alkoxy-auxins Are Selective Inhibitors of Auxin Transport Mediated by PIN, ABCB, and AUX1 Transporters
Tsuda et al. JBC (2011) 286:2354-2364.
doi:10.1074/jbc.M110.171165
オーキシンの輸送は、細胞膜上に局在するPIN-FORMED(PIN)排出キャリア、ATP-結合カセットグループB(ABCB)オーキシントランスポーター、AUX1/Like AUX1(LAX)オーキシン取り込みキャリアによってなされており、これらのトランスポーターによって行なわれるオーキシンの極性輸送や局所的な蓄積は様々な成長・分化をもたらす。オーキシン輸送についてはこれまでに阻害剤を用いた研究が行なわれてきており、1-ナフチルフタラミン酸(NPA)、トリヨード安息香酸(TIBA)などが用いられてきたが、これらの化合物はオーキシン輸送以外の生理作用や弱いオーキシン活性を示すことがあり、オーキシン輸送に特異的な阻害剤とは言い難い。岡山理科大学の林らは、化学修飾したIAAもしくはNAAのうち、5-アルコキシ-IAAおよび7-アルコキシ-NAA誘導体がシロイヌナズナ芽生え根の重力屈性を阻害することを見出した。どちらの誘導体もオーキシン誘導プロモーターDR5::GUS のオーキシンによる発現誘導に対しては影響しないことから、オーキシンアナログやアンチオーキシンとしては作用しない。見出された誘導体のうち、5-ヘキシロキシ-IAA(Hex-IAA)、7-ヘキシロキシ-NAA(Hex-NAA)、5-ベンジロキシ-IAA(Bz-IAA)、7-ベンジロキシ-NAA(Bz-NAA)を用いて詳細な調査を行なった。アルコキシオーキシンはオーキシンによって発現が上昇するAux/IAA 遺伝子(IAA3 、IAA7 、IAA12 、IAA13 、IAA14 、IAA19 )のプロモーター活性に影響を及ぼさず、オーキシンによるAux/IAAタンパク質の分解に対しても影響しなかった。このことは、これらの誘導体はオーキシン受容体TIR1のオーキシン結合ポケットにうまくはまり込むことができないためにオーキシンシグナル伝達経路には関与しないことによると考えられる。アルコキシオーキシンはシロイヌナズナ芽生えの一次根の成長と側根形成を阻害し、NAAによる根の成長阻害を増強させた。これは、アルコキシオーキシンがPINとABCBによるNAAの細胞外排出を阻害したために細胞内NAA濃度が上昇したことによって引き起こされたものであると考えられる。オーキシントランスポーターを発現させた酵母を用いた実験から、アルコキシIAAとアルコキシNAAはPINタンパク質によるIAAの排出、ABCB4タンパク質によるIAAの排出入を阻害し、アルコキシIAAはAUX1タンパク質によるIAAの取り込みを阻害することが確認された。また、NAAを基質としないAUX1によるIAAの取り込みに対してアルコキシNAAは影響しなかった。トウモロコシ子葉鞘およびシロイヌナズナ芽生えを用いてアルコキシオーキシンによるオーキシン輸送阻害を調査したところ、アルコキシIAA、アルコキシNAAともにIAAの輸送を阻害した。Bz-NAAはNPAの1/10の濃度でシロイヌナズナ芽生えの重力屈性を阻害するが、一次根の成長阻害の程度はNPAよりも弱かった。Bz-NAAは芽生え胚軸の伸長と重力屈性も阻害するが、その作用はNPAよりも弱かった。また、アルコキシオーキシンはPINタンパク質の細胞内輸送(エンドサイトーシス)に対して影響を示さなかった。よって、今回見出されたアルコキシオーキシンはオーキシン輸送に特異的な阻害剤であり、オーキシン輸送研究の有効なツールであると考える。