Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)新規オーキシン輸送阻害剤

2011-01-31 23:41:55 | 読んだ論文備忘録

Alkoxy-auxins Are Selective Inhibitors of Auxin Transport Mediated by PIN, ABCB, and AUX1 Transporters
Tsuda et al.  JBC (2011) 286:2354-2364.
doi:10.1074/jbc.M110.171165

オーキシンの輸送は、細胞膜上に局在するPIN-FORMED(PIN)排出キャリア、ATP-結合カセットグループB(ABCB)オーキシントランスポーター、AUX1/Like AUX1(LAX)オーキシン取り込みキャリアによってなされており、これらのトランスポーターによって行なわれるオーキシンの極性輸送や局所的な蓄積は様々な成長・分化をもたらす。オーキシン輸送についてはこれまでに阻害剤を用いた研究が行なわれてきており、1-ナフチルフタラミン酸(NPA)、トリヨード安息香酸(TIBA)などが用いられてきたが、これらの化合物はオーキシン輸送以外の生理作用や弱いオーキシン活性を示すことがあり、オーキシン輸送に特異的な阻害剤とは言い難い。岡山理科大学らは、化学修飾したIAAもしくはNAAのうち、5-アルコキシ-IAAおよび7-アルコキシ-NAA誘導体がシロイヌナズナ芽生え根の重力屈性を阻害することを見出した。どちらの誘導体もオーキシン誘導プロモーターDR5::GUS のオーキシンによる発現誘導に対しては影響しないことから、オーキシンアナログやアンチオーキシンとしては作用しない。見出された誘導体のうち、5-ヘキシロキシ-IAA(Hex-IAA)、7-ヘキシロキシ-NAA(Hex-NAA)、5-ベンジロキシ-IAA(Bz-IAA)、7-ベンジロキシ-NAA(Bz-NAA)を用いて詳細な調査を行なった。アルコキシオーキシンはオーキシンによって発現が上昇するAux/IAA 遺伝子(IAA3IAA7 IAA12IAA13IAA14IAA19 )のプロモーター活性に影響を及ぼさず、オーキシンによるAux/IAAタンパク質の分解に対しても影響しなかった。このことは、これらの誘導体はオーキシン受容体TIR1のオーキシン結合ポケットにうまくはまり込むことができないためにオーキシンシグナル伝達経路には関与しないことによると考えられる。アルコキシオーキシンはシロイヌナズナ芽生えの一次根の成長と側根形成を阻害し、NAAによる根の成長阻害を増強させた。これは、アルコキシオーキシンがPINとABCBによるNAAの細胞外排出を阻害したために細胞内NAA濃度が上昇したことによって引き起こされたものであると考えられる。オーキシントランスポーターを発現させた酵母を用いた実験から、アルコキシIAAとアルコキシNAAはPINタンパク質によるIAAの排出、ABCB4タンパク質によるIAAの排出入を阻害し、アルコキシIAAはAUX1タンパク質によるIAAの取り込みを阻害することが確認された。また、NAAを基質としないAUX1によるIAAの取り込みに対してアルコキシNAAは影響しなかった。トウモロコシ子葉鞘およびシロイヌナズナ芽生えを用いてアルコキシオーキシンによるオーキシン輸送阻害を調査したところ、アルコキシIAA、アルコキシNAAともにIAAの輸送を阻害した。Bz-NAAはNPAの1/10の濃度でシロイヌナズナ芽生えの重力屈性を阻害するが、一次根の成長阻害の程度はNPAよりも弱かった。Bz-NAAは芽生え胚軸の伸長と重力屈性も阻害するが、その作用はNPAよりも弱かった。また、アルコキシオーキシンはPINタンパク質の細胞内輸送(エンドサイトーシス)に対して影響を示さなかった。よって、今回見出されたアルコキシオーキシンはオーキシン輸送に特異的な阻害剤であり、オーキシン輸送研究の有効なツールであると考える。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)SUPERMANによるホルモンシグナルの制御

2011-01-29 18:23:42 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis and Tobacco SUPERMAN regulate hormone signalling and mediate cell proliferation and differentiation
Nibau et al.  J Exp Bot (2011) 62:949-961.
doi: 10.1093/jxb/erq325

SUPERMAN(SUP)はzinc fingerモチーフを有する転写抑制因子で、花の発達過程において雄ずいと心皮の細胞増殖を制御している。シロイヌナズナsup 変異体の花は心皮が失われて雄ずいが増える。しかしながら、SUPによって引き起こされる細胞分裂・分化機構の詳細は明らかとなっていない。米国 マサチューセッツ大学アマースト校Cheung らは、SUP を35Sプロモーターで過剰発現させた形質転換タバコを作出し、SUP の発現量に応じて様々な形態異常を示す個体を得た。最も激しい異常を示すSUP Badは、シュートや根の成長が悪く、極端にわい化した個体となった。SUP の発現が中程度のSUP Curlyは、葉が上向きに巻き、根が太くかつ長くなって分岐が増え、草丈が低く、頂芽優勢が喪失して茂ったようになった。このような形態異常は、オーキシン量が増加した変異体のものと類似しており、SUP 過剰発現個体ではオーキシン応答プロモーターDR5 によるレポーター遺伝子GUS の発現量が増加していた。よって、SUPの作用はオーキシンシグナル伝達と関連していると考えられる。一方、SUP 過剰発現個体は、頂芽優勢が喪失したり、花序が短くなる、芽生えから複数のシュートが形成される、暗所育成芽生えの脱黄化、葉からの分裂組織の形成、若い葉が黄化するといったサイトカイニン量もしくはシグナル伝達の変化によると思われる表現型を示す。野生型タバコ芽生えを高濃度サイトカイニン条件下で育成すると根やシュートの成長が悪くなるが、これはSUP Bad芽生えの形態と類似している。SUP 過剰発現個体ではサイトカイニン誘導プロモーターARR5 によるGUS の発現がサイトカイニン処理をしない状態でも高くなっていることから、SUPはサイトカイニンに関連する過程にも関与していると考えられる。SUP Curlyの葉切片はホルモン無添加の培地に置床してもシュートと根が分化し、SUP Curlyの根組織由来の培養細胞は野生型由来の細胞よりも増殖が速かった。よって、SUP活性は細胞分裂を促進する作用があると考えられる。ただし、SUP Badの葉切片では再分化が起こらないことから、SUP活性が閾値を超えると成長が阻害されると考えられる。SUP 過剰発現個体の花は、がくや花冠が融合していなかったり、がく片が花弁化したといった異常が見られることがあった。また、2つ以上の心皮で構成された雌ずい、雄ずいのわい化や柱頭化した葯などといった雌性化した形態変化を示していた。野生型タバコにおいてもサイトカイニン処理によってがく片の花弁化を引き起こすことができることから、SUP 過剰発現はサイトカイニンに関連する過程に影響していると考えられる。以上の結果から、SUPはオーキシンとサイトカイニンによって制御されている過程を介して細胞分裂や雌性組織分化の制御を行なっていると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)類似性のあるペプチドによる転写因子の活性制御

2011-01-28 19:03:20 | 読んだ論文備忘録

Nuclear Import and DNA Binding of the ZHD5 Transcription Factor Is Modulated by a Competitive Peptide Inhibitor in Arabidopsis
Hong et al.  JBC (2011) 286:1659-1668.
DOI:10.1074/jbc.M110.167692

シロイヌナズナゲノム中には100アミノ酸残基以下のタンパク質をコードする遺伝子が3000以上存在し、その中には転写因子と相同性のあるタンパク質が含まれている。MIF(mini zinc finger)タンパク質は、zinc finger homeodomain (ZHD)転写因子と相同性のあるzinc finger(ZF)モチーフを有しているが、DNAとの結合に必要なホメオドメインを持っていない。韓国 ソウル大学校Park らは、シロイヌナズナの3種類のMIFタンパク質と14種類のZHDタンパク質が相互作用をするか酵母two-hybrid法で調査し、MIFタンパク質はZHD5、ZHD8、ZHD10、ZHD13と強い相互作用を示すことを見出した。さらにMIF1とZDH5を用いた詳細な解析から、MIF1とZHD5はZFモチーフを介してヘテロダイマーを形成することがわかった。ZHD5はホモダイマーもしくはモノマーの形でDNAと結合するが、MIF1が存在するとその量に応じてDNAに結合するZHD5が減少し、MIF1はZHD5ホモダイマーのDNA結合を妨げる作用があることがわかった。蛍光タンパク質を付加した融合タンパク質を用いてシロイヌナズナ葉肉細胞プロトプラストでのZHD5、MIF1の細胞内局在を調査したところ、ZHD5は主に核に局在し、MIF1は細胞質で小胞様の構造を形成していた。また、MIF1は生体内でZHD5と複合体を形成して細胞質の小胞様構造に局在させることでZHD5の核への移行を阻害することがわかった。MIF1 を過剰発現させた形質転換シロイヌナズナは、わい化し、小さく緑色が濃く光沢のある葉を形成し、湾曲した短い花糸とねじれて長くなった雌ずい群から構成された異常な花を形成した。ZHD5 を過剰発現させた形質転換シロイヌナズナは、MIF1 過剰発現個体とは逆に、成長が加速し、葉が大きくなった。MIF1 過剰発現個体とZHD5 過剰発現個体を交配して両者の発現量が増加した形質転換体の表現型は野生型と同じになった。以上の結果から、MIF1タンパク質は、ZHD5タンパク質とヘテロダイマーを形成することでZHD5タンパク質の核移行を阻害し、核内においてもZHD5タンパク質のDNA結合を阻害するという2つのステップによりZDH5活性を負に制御することが示された。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)アブシジン酸シグナルを負に制御する第3のDWDタンパク質

2011-01-26 22:45:49 | 読んだ論文備忘録

DWA3, an Arabidopsis DWD protein, acts as a negative regulator in ABA signal transduction
Lee et al.    Plant Science (2011) 180:352-357.
doi:10.1016/j.plantsci.2010.10.008

米国 エール大学Deng らは、以前に、シロイヌナズナのCUL4-DDB1-DWD E3ユビキチンリガーゼの基質受容体であるDWDタンパク質をコードする遺伝子にT-DNA挿入された変異体についてアブシジン酸(ABA)感受性を調査し、ABI5を受容してユビキチン-プロテアソーム系で分解することでABAシグナル伝達を負に制御しているDWD hypersensitive to ABA1DWA1 ;At2g19430)とDWA2 (At1g76260)を見出している[Lee et al.、The Plant Cell (2010) 22:1716-1732.]。今回、DWA3 (At1g61210)と命名したもう1つの遺伝子について詳細な解析を行なった。DWA3タンパク質はN末端側にあるWD40リピート内にDWDドメインを含んでおり、さらに、DWA1やDWA2タンパク質にはないBLLF1ドメインを含んでいる。DWA3タンパク質は1183アミノ酸から構成されており、DWA1(367アミノ酸)やDWA2(359アミノ酸)よりもはるかに大きく、DWA1やDWA2とは異なる機能があると推測される。T-DNA挿入dwa3 変異体は、ABA存在下での発芽率が野生型よりも悪い、ABAもしくはNaCl存在下での芽生えの根の成長が野生型よりも悪い、切り葉の水分損失が野生型よりも少ない、といったABAやNaClに対する感受性の増加を示した。DWA3がCUL4 E3リガーゼの基質受容体として機能するかを、酵母two-hybrid法、共免疫沈降法によって調査し、DWA3はCUL4 E3リガーゼのアダプタータンパク質であるDDB1と相互作用を示すことが確認された。dwa3 変異体がABA、NaCl高感受性を示すことから、ABA応答転写因子であるABI5AtMYC2 の発現を野生型と比較したところ、両転写因子の転写産物はABA処理によって野生型でもdwa3 変異体でも同じように増加して両植物体間で転写産物量の差異は認められなかった。しかし、タンパク質レベルで比較すると、野生型ではABA処理やNaCl処理をしてもABI5、AtMYC2タンパク質量は変化しないが、dwa3 変異体ではABA処理によって両転写因子タンパク質量が増加し、NaCl処理によってABI5タンパク質量が増加した。また、これらの転写因子により発現が制御されているRD29ARD29BRD22 のABA処理による転写産物量の増加は、dwa3 変異体において野生型よりも高くなっていた。したがって、DWA3の喪失によるABA、NaClに対する感受性の増加は、ABA応答転写因子(ABI5、AtMYC2)タンパク質量の増加とそれらの制御下にある遺伝子の転写活性の増加によって引き起こされていると考えられる。しかしながら、DWA3はABI5やAtMYC2と相互作用を示さず、CUL4-DDB1-DWA3 E3ユビキチンリガーゼはこれらの転写因子を直接のターゲットとしていないと思われる。また、DWA3はDWA1、DWA2と相互作用を示さなかった。以上の結果から、DWA3はDWA1やDWA2とは別の機構によってABA応答の負の制御を行なっていると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)糖、アブシジン酸、ジベレリンに対する応答を制御する因子

2011-01-25 06:04:53 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis tandem zinc finger protein AtTZF1 affects ABA- and GA-mediated growth, stress and gene expression responses
Lin et al.  The Plant Journal (2011) 65:253-268.
doi: 10.1111/j.1365-313X.2010.04419.x

シロイヌナズナTZF1AtTZF1 /AtCTH /AtC3H23 )遺伝子は2つのタンデムに並んだ亜鉛結合CCCHモチーフを持つtandem zinc finger(TZF)タンパク質をコードしている。これまでの報告から、AtTZF1 はグルコース応答遺伝子であること、AtTZF1タンパク質は核-細胞質を移動し、DNAやRNAと結合することが知られている。米国 オハイオ州立大学Jang らは、シロイヌナズナ芽生えを糖処理した際のAtTZF1 の応答を調査し、AtTZF1 転写産物量は低濃度の糖(0.1 % グルコース)で素早く減少することを見出した。この転写産物量の減少はヘキソキナーゼ(HXK)の基質となる糖を添加した際に強く現れ、HXK を発現抑制した植物体ではAtTZF1 の糖による発現抑制程度は低下していた。糖シグナル伝達の下流においてアブシジン酸(ABA)が作用していることが報告されているが、芽生えをABA処理してもAtTZF1 転写産物量の減少は見られず、ABAシグナル伝達の変異体abi4-1 やABA生合成の変異体aba2-1 では糖によるAtTZF1 発現抑制に変化は見られなかった。よって、AtTZF1 の糖による発現抑制にABAは関与していない。AtTZF1 を恒常的に過剰発現させた形質転換シロイヌナズナは野生型よりも小さくなり、葉の頂端部-基部の拡張に異常が生じて帆立貝のような形の葉となり、葉肉細胞は小さく、並びが不規則となっていた。成熟葉は幅広となり表面にひだが見られた。過剰発現個体にジベレリン(GA)を噴霧すると葉の形態異常が部分的に解消した。過剰発現個体は花成が遅延し、FLOWERING LOCUS TFT )、SUPPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CONSTANS 1SOC1 )の発現量が低下し、FLOWERING LOCUS CFLC )の発現量が上昇していた。この過剰発現個体の花成遅延もGA噴霧によって部分的な回復が見られた。AtTZF1 をRNAiによって発現抑制した個体では形態異常は見られなかった。過剰発現個体種子はABAおよびグルコース存在下での発芽が野生型よりも遅く、逆に発現抑制個体では野生型よりも早くなっていた。野生型種子ではグルコース存在下での発芽遅延がGA添加によって解消するが、過剰発現個体種子ではGAを添加しても発芽が遅れた。一方、過剰発現個体は乾燥や低温といった非生物ストレスに対して耐性を示し、馴化していない個体においてABA/低温耐性マーカー遺伝子であるCOR15AKIN1RD29A の発現量が野生型よりも高くなっていた。過剰発現個体の内生ABA、GA含量を野生型と比較したところ、過剰発現個体はABA感受性が高く非生物ストレス耐性を示すにもかかわらずABA含量は野生型と同等であった。また、過剰発現個体はGA欠損/非感受性のような表現型を示すがGA含量は野生型よりも高くなっていた。糖類に関しては、過剰発現個体はグルコース、フラクトース含量が野生型よりも低く、ショ糖、デンプン含量が僅かに高くなっていた。したがって、植物ホルモンや糖類の含量だけでは過剰発現個体の表現型を説明することはできない。そこで、マイクロアレイ解析によって遺伝子発現の網羅的な比較解析を行なったところ、過剰発現個体は野生型と比較して59遺伝子の発現量が低下し、46遺伝子が増加していた。発現量が低下している遺伝子には細胞増殖や糖応答関連のものやGAによって発現が誘導される分泌ペプチドホルモン前駆体をコードするGA-Stimulated Arabidopsis 6GASA6 、At1g74670)が含まれ、発現量が増加した遺伝子には生物/非生物ストレス応答関連のものが含まれていた。よって、AtTZF1 の過剰発現はABA応答、GA欠損応答を模倣した遺伝子発現変化をもたらしており、AtTZF1は糖、ABA、GAに対する応答の制御因子として機能していると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)MADS-ボックス転写因子AGAMOUS-LIKE 6の花成制御機構

2011-01-23 21:47:20 | 読んだ論文備忘録

AGAMOUS-LIKE 6 is a floral promoter that negatively regulates the FLC/MAF clade genes and positively regulates FT in Arabidopsis
Yoo et al.  The Plant Journal (2011) 65:62-76.
doi: 10.1111/j.1365-313X.2010.04402.x

韓国 高麗大学校のAhn らは、シロイヌナズナアクティベーションタギング変異体ライブラリーの中から日長条件に関係なく花成が早まる変異体を単離した。この変異体のT-DNA挿入領域を調べたところ、MADS-ボックス転写因子をコードするAGAMOUS-LIKE 6 遺伝子(AGL6 :At2g45650)と同じくMADS-ボックス転写因子遺伝子のSUPPRESSOR OF OVEREXPESSION OF CONSTANS 1SOC1 :At2g45660)の間に挿入されていることがわかり、変異体ではAGL6 の発現量が増加していた。そこで本変異体をagl6-1D と命名し、詳細な解析を行なった。花成において光周期に依存した促進経路に関与しているCONSTANS(CO)とAGL6の関係についてagl6-1D 変異体でCO を過剰発現させた形質転換体およびagl6-1D co-9 二重変異体の花成時期を比較した結果、両者は相加的に作用することが示され、AGL6 は光周期花成促進経路と平行して機能していることが示唆された。また、自律的花成促進経路に関与しているFLOWERING LOCUS CA(FCA)やFVEとAGL6の関係についてfca-9fve-4 花成遅延変異体とagl6-1D fca-9agl6-1D fve-4 二重変異体の花成時期を比較したところ、どちらの二重変異体もfca-9fve-4 単独変異体より花成時期が早まった。よって、AGL6FCAFVE よりも上位(下流)に位置していると考えられる。agl6-1D 変異体では花成抑制因子のFLOWERING LOCUS CFLC )やそのホモログのMADS AFFECTING FLOWERING 4 MAF4 )、MAF5 の発現量が低下し、花成促進因子のFLOWERING LOCUS TFT )の発現量が上昇していた。よって、AGL6FLCMAF4MAF5 の負の制御因子として、FT の正の制御因子として機能していると考えられる。FLC の発現を正に制御するFRIGIDAFRI )が機能している植物体は長日条件での花成が非常に遅くなるが、agl6-1D FRI FLC 変異体では花成が早くなった。しかしながら、agl6-1D FRI FLC 変異体でのFLC の発現量は高く、AGL6FLC 活性の転写後制御も行なっているのではないかと思われる。また、agl6-1D fri flc 変異体ではさらに花成が早まり、AGL6 のターゲットはFLC 以外にも存在すると思われる。agl6-1D FRI FLC 変異体の花成はFRI FLC 個体よりも早くなるが、FT の発現量はどちらの個体も同程度に低くなっていた。しかし、agl6-1D ft 変異体はagl6-1D 変異による花成促進効果がほぼ完全に抑制されていた。よって、agl6-1D 変異による花成促進にはFT 活性が必要であり、FTAGL6 の下流に位置する主要な因子であると考えられる。人工マイクロRNAによってAGL6 をノックダウンした形質転換体は花成が遅くなり、FT 発現量が僅かに低下していた。以上の結果から、AGL6はFLC /MAF の発現を負に制御し、FT の発現を正に制御することで花成を促進しているものと考えられる。また、AGL6はFLC/MAFタンパク質やFTの下流に位置する因子に対しても何らかの制御を行なっていると思われる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)根端分裂組織幹細胞維持におけるチロシン硫酸化酵素の機能

2011-01-22 17:49:41 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis Tyrosylprotein Sulfotransferase Acts in the Auxin/PLETHORA Pathway in Regulating Postembryonic Maintenance of the Root Stem Cell Niche
Zhou et al.  The Plant Cell (2010) 22:3692-3709.
doi:10.1105/tpc.110.075721

中国科学院遺伝学発生生物学研究所Li らは、シロイヌナズナT-DNA挿入系統の中から、芽生えの根の成長が悪くなっているactive quiescent center1-1aqc1-1 )変異体を得た。この変異体は根の分裂組織で細胞分裂をする細胞数や伸長領域の細胞数が少なくなっており、AQC1 は根端での細胞分裂活性に関与していると考えられる。しかし、根端分裂組織の静止中心(QC)細胞の数が多く、分裂活性も高くなっており、QC特異的に発現するWOX5 の発現領域が拡張してQCの直下に位置するコルメラ細胞の細胞層も増えていた。マップベースクローニングによりaqc1-1 変異の原因遺伝子の同定を行なったところ、At1g08030 遺伝子の第6エクソンにT-DNAの挿入が見られ、相補性試験、他のT-DNA挿入変異体の表現型、転写産物量比較から、本遺伝子へのT-DNA挿入がaqc1-1 変異の原因であることが確認された。At1g08030 は、根の幹細胞維持に関与するペプチドホルモンRGF(root meristem growth factor)のチロシン硫酸化を触媒するtyrosylprotein sulfotransferase(TPST)をコードしている。TPST は心臓型胚の根原層細胞とその周辺部で発現しており、発芽後はQCとその周囲の幹細胞やコルメラ細胞で強い発現が見られる。芽生えをオーキシン処理すると一次根でのTPST の発現量、タンパク質量が増加し、発現領域が拡張した。aqc1-1 変異体の根端部のオーキシン量は野生型よりも多く、オーキシン排出キャリアをコードするPIN 遺伝子のうちの根端分裂組織周辺で発現しているPIN3PIN4PIN7 の発現量が低下していた。よって、aqc1-1 変異体根端ではオーキシン分布が野生型とは異なることが示唆される。また、aqc1-1 変異体根端ではオーキシン合成酵素をコードするYUCCA2ASB1ASA1 の発現量も低下しており、TPST は根の分裂組織でのオーキシン合成にも関与していると思われる。aqc1-1 変異体において、SHORT-ROOTSHR )、SCARECROWSCR )の発現に変化は見られなかったが、PLETHORA1PLT1 )/PLT2 の発現量は低下していた。また、aqc1-1 変異体でPLT2 を過剰発現させることで部分的な変異の回復が観察された。よって、TPST活性はPLT1 /PLT2 の発現を制御することで根の幹細胞の維持を行なっていると考えられる。以上の結果から以下のスキームが考えられる。オーキシンシグナルはTPST を発現誘導し、TPSTによって活性化されたRGFsがPLT1 /PLT2 の発現を誘導して根端分裂組織幹細胞の維持を行なっている。PLT1/PLT2はPIN3PIN4PIN7 の発現を正に制御していることが知られており、aqc1-1 変異体でこれらのPIN 遺伝子の発現量が減少しているのは、PLT1 /PLT2 の発現低下によるものであると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)根の成長過程におけるSHORT-ROOTの役割

2011-01-21 18:48:39 | 読んだ論文備忘録

SHORT-ROOT Regulates Primary, Lateral, and Adventitious Root Development in Arabidopsis
Lucas et al.  Plant Physiol (2011) 155:384-398.
doi:10.1104/pp.110.165126

シロイヌナズナのGRASファミリー転写因子SHORT-ROOT(SHR)は、根端分裂組織の幹細胞の維持に関与している。shr 変異体は一次根の成長が著しく抑制されるが、植物体自体は正常なライフサイクルを示す。英国 ノッティンガム大学Bennett らは、shr 変異体芽生えの根を野生型と比較し、野生型では主根が無限成長するのに対してshr 変異体ではほぼ同じ長さの短く太い根が多数生じ、側根形成を殆どしないという違いがあることを見出した。また、shr 変異体の新しい根や根の分枝は芽生えの根とシュートの境界部分から形成されていた。このような根の形態の違いが細胞分裂活性の違いによるものかを調べたところ、胚発生過程では両者に大きな違いは見られなかったが、発芽後の根端での細胞分裂活性は殆ど見られなくなっていた。よって、SHRは芽生えの一次根の無限成長に関与していると考えられる。根端分裂組織活性の維持にはオーキシンが関与しているが、発芽3-6日後のshr 変異体の根端の内生IAA量は野生型よりも多かった。しかし、発芽10日後にはIAA量の差は見られなくなった。この発芽初期の根端でIAA量が野生型よりも高いのは、根端でのIAA合成量が多く、一過的にオーキシンが蓄積することによるものであって、地上部からの供給によるものではない。また、shr 変異体の根端ではオーキシン排出キャリアのPINタンパク質が成長と共に減少していった(ただし、AUX1タンパク質はそのような変化を示さなかった)。PIN 遺伝子は直接SHRの制御を受けていないので、PINタンパク質量のSHRによる制御は間接的なものであると思われるが、一次根の無限成長の喪失にはPINタンパク質の減少が関与していると考えられる。shr 変異体芽生えは、根と胚軸の境界部分から新しい根(anchor root)が出現して三脚のような形態を示すが、これは根端分裂組織が活性を失った結果、境界部分で根の形成が起こったことによると思われる。この新しく形成された根は正常な細胞層で構成されているが、一次根と同じ長さで成長が止まってしまう限定成長を示す。SHRは側根形成にも関与しており、側根形成過程において発現が見られる。shr 変異体は側根形成数が野生型よりも少なく、形成される側根は維管束が発達して野生型よりも太くなった。また、側根原器が球状の組織となったり、幾つかの側根が融合して形成されるといった形態異常が観察される場合があった。以上の結果から、SHRは一次根、側根、不定根の無限成長の維持に関与する因子であると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)オーキシンシグナルと光形態形成シグナルに応答する因子

2011-01-18 23:10:00 | 読んだ論文備忘録

Misregulation of the LOB domain gene DDA1 suggests possible functions in auxin signalling and photomorphogenesis
Mangeon et al.  Journal of Experimental Botany (2011) 62:221-233.
doi:10.1093/jxb/erq259

LATERAL ORGAN BOUNDARIES DOMAINLBD )遺伝子ファミリーはシロイヌナズナに43種類存在し、DNA結合活性を示すLOBドメインを持つ植物特異的な転写因子をコードしている。この遺伝子ファミリーの中には植物の発生過程に関与しているものが幾つか存在しているが、多くの遺伝子については機能が未知である。米国 カリフォルニア大学リバーサイド校植物細胞学センターSpringer らは、LBD 遺伝子のうちのLBD25 (At3g27650、ASL3 としても知られている)について機能解析を行なった。この遺伝子のプロモーター領域にレポーター遺伝子としてGUS を繋いだコンストラクトをシロイヌナズナに導入し、発現部位を調査したところ、葉の維管束、胚軸の基部、根端以外の根、がく片の維管束、柱頭、胎座、花粉粒、花の基部で発現していることがわかった。また、芽生えのオーキシン処理、暗黒処理によって発現量が減少することがわかった。このことから、本遺伝子を新たにDOWN IN DARK AUXIN1DDA1 )と命名することにした。DDA1 遺伝子のイントロンにT-DNAが挿入されて発現量が低下したdda1-1 変異体芽生えは、オーキシンによる根の伸長阻害と側根形成の程度が野生型よりも低く、オーキシン感受性が低下していた。オーキシン応答の抑制因子であるAux/IAAタンパク質IAA17の機能獲得変異体axr3-1 ではオーキシン処理によるDDA1 転写産物量の減少が見られず、オーキシンによるDDA1 転写産物量の減少にはAux/IAAタンパク質の分解が必要であると考えられる。暗所で育成したdda1-1 変異体芽生えの胚軸は野生型よりも短くなるが、長日条件で育成すると野生型よりも僅かに長くなった。光形態形成に関与しているbZIP型転写因子HY5の変異体hy5-1 の芽生えではDDA1 の転写産物量が減少しており、HY5はDDA1 の正の制御因子として機能していると考えられる。ただし、DDA1 遺伝子プロモーター領域にはHY5結合サイトが見られないことから、この制御は間接的なものであると考えられる。dda1-1 変異体ではDDA1 の発現量が野生型よりも減少しているが、オーキシン処理や暗黒処理をすることによって野生型とは逆に転写産物量が増加した。この転写産物量の増加はスプライシング効率の変化によるものではなく、原因は不明であるが、dda1-1 は高形質(hypermorphic、遺伝子機能の増加を引き起こす)な対立遺伝子であると考えられる。DDA1にグルココルチコイド受容体(GR)を融合したタンパク質(DDA1-GR)を恒常的に発現させたシロイヌナズナ芽生えはデキサメタゾン(DEX)処理によってオーキシンに対する感受性が低下することから、DDA1はオーキシンシグナルの負の制御因子として機能していると考えられる。DDA1-GR を発現させた芽生えはDEX処理によって暗所での胚軸の伸長が抑制されることから、DDA1 は光形態形成において胚軸伸長を抑制する作用がある。以上の結果から、DDA1 は光とオーキシンの両方のシグナル応答に関与する転写因子であると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

論文)ELONGATED HYPOCOTYL5によるフィトクロムAシグナルのフィードバック制御

2011-01-17 06:21:43 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis Transcription Factor ELONGATED HYPOCOTYL5 Plays a Role in the Feedback Regulation of Phytochrome A Signaling
Li et al.  The Plant Cell (2010) 22:3634-3649.
doi:10.1105/tpc.110.075788

フィトクロムA(phyA)は、遠赤色光を受容して活性型(Pfr型)となって細胞質から核へ輸送され、様々な光応答を引き起こす。phyAは核局在シグナルを持っておらず、FAR-RED ELONGATED HYPOCOTYL1(FHY1)やそのホモログのFHY1-LIKE(FHL)が光によって活性化されたphyAと結合してphyAの核移行とその後のシグナル伝達に関与する。FHY1FHL の発現は、トランスポーゼス様転写因子のFHY3とそのホモログのFAR-RED IMPAIRED RESPONSE1(FAR1)によって直接活性化され、遠赤色光照射によって抑制されることが知られているが、その詳細な機構は明らかではない。米国 エール大学Deng らは、FHY1 /FHL の発現を制御している転写因子を探索するために、酵母one-hybrid法によりフィトクロムシグナル伝達に関与している因子(PIF3、HY5、LAF1、HFR1)がFHY1 /FHL 遺伝子のプロモーター領域に結合するかを調査し、HY5が両遺伝子のプロモーター領域に結合することを見出した。HY5はACGT-containing element(ACE)に結合することが知られており、両遺伝子ともそれぞれの上流にコードされている遺伝子の終始コドンの近くと自らの開始コドンの150-300塩基上流の2箇所にACEを含む領域が見られる。それそれの遺伝子のプロモーター領域を4つに断片化してHY5の結合領域の絞込みを行なったところ、開始コドン150-300塩基上流のACEを含む断片にHY5が結合することがわかった。この断片にはFHY1 プロモーターには2つ、FHL プロモーターには3つのACEが存在している。さらにこの断片にはFHY3/FAR1結合サイト(FBS)も含まれており、HY5はFBSに最も近い位置(10bp以下)にあるACEに結合することがわかった。また、HY5とFHY3/FAR1は相互作用を示し、HY5のC末側のbZIPドメインとFHY3/FAR1のN末のC2H2 zinc fingerドメインが結合することがわかった。HY5がFHY1 プロモーターと結合するACEはFBSと数bpしか離れていないことから、FHY3のFHY1 プロモーターへの結合に対するHY5の影響を調査したところ、HY5のFHY1 プロモーターへの結合が増加するとFHY3の結合が減少すること、HY5とFHY3の物理的相互作用がFHY3のFHY1 プロモーターへの結合を妨げることがわかった。シロイヌナズナhy5 変異体芽生えを遠赤色光処理すると、初めはFHY1FHL の発現量が減少するが、その後増加することから、HY5はこれらの遺伝子発現の主要な負の調節因子として機能していると考えられる。hy5 fhy3 far1 三重変異体でのFHY1 の発現は、fhy3 far1 二重変異体での発現と同様に大きく低下していることから、HY5によるFHY1 の発現抑制にはFHY3やFAR1といった転写活性化因子の存在が必要である。以上の結果から以下のスキームが考えられる。遠赤色光を受容して活性化型となったphyAはFHY1/FHLによって核に輸送されシグナル伝達が起こりHY5が蓄積して様々な光形態形成を引き起こす。同時に、HY5はFHY3/FAR1と競合してFHY1 /FHL の転写を抑制し、phyAの核移行を妨げる。よって、HY5はphyAシグナルのフィードバック制御による微調整を行なっていると考えられる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする