やはり、ボクシング・ファンは、連休とはいえ、家族団らんを放っても、見たいカード(試合)には、何を差し置いても駆けつけるもんだな~。
そんなことを、改めて思い知らされる日となった。
この日、5月4日の後楽園ホールは、チケット完売。客席は満員。2階の、バルコニーも、立ち見客でぎっしり! カメラを、競り出せないほどだ。
むろん、他にも、加藤善孝。佐々木基樹。荒川仁人など、人気ボクサーの試合もあり、相乗作用が働いたとはいえ、「日本中重量級 最前戦」の、キャッチ・フレーズに恥じない試合展開となった。
柴田明雄(写真左・左側)、そして、淵上誠(同・右側)へ贈られる大歓声が、交錯する中、1ラウンドのゴングが、鳴った。
先の記事でも予想されたように、淵上は右ジャブを絶えず出して、距離を測りつつ、連打のチャンスをうかがう。左腕は、この日は下げることなく、低くガード。
対する柴田は、足を使ってリングを自在に回り、上体を振ってパンチを繰り出す。
ジリジリと詰めてく、淵上。そこに放つ、柴田の、キレイに伸びきった左ストレート、バーン!!(写真上)
手数と、有効打でまさる、柴田が着実にポイントを積み上げていく。
あせってくる、淵上。そして、繰り出す、ブンブン、右フック! そら、来たっ!とばかりに、サッとかがんで、見切ってかわす
柴田(写真上)
積みあげてきた練習の数々が、生きた瞬間だ。身体に覚え込ませた、自然な反応。
石原雄太トレーナーは、どこからでも手が伸びてくる淵上の夢を見て、うなされたという。そんな悪夢を、はねのけて緻密に組み立てた戦略が、ラウンドを増すごとに、花開いていった。
いつもより、空振り大フックが少なかった、淵上。接近しての、ボディへの、連打は見事という他なかった。こちらもまた、研究と対策を、重ねていた。
それにしても、ここまで読み切って対策と、緻密な作戦を立ててきた、柴田陣営の石原雄太トレーナーの「名参謀」ぶりには、いまさらながら感心する。
名トレーナーがいるから、選手が成長し、勝つ。逆は、無い!
危惧していた、柴田の右目眉下からの、大出血!
「前が、見えなかった」と、試合後、柴田は語った。
それも、見事に止血。
4ラウンド終了時の、スコア。
38-38が、1人。あとの2人は、40-36と、柴田へのフルマーク。
7ラウンドには、絶好のタイミングで放った、柴田の右フックで、淵上の身体が崩れ落ち、ダウン!(写真・左)
ダメージは少なかったが、自分のパンチに自信を持ったか? 柴田が、果敢に打ち合いに応じた!
こうなると、淵上の方が、1枚も2枚も上。 柴田の身体が、時折り、グラリ、フラリと揺れる。
再び、柴田の流血、ドバッ! 目、見えねえ!
あわてた石原と、ジム会長の渡辺均。
コーナーに、転がるように戻ってきて、イスに精も根も尽き果てたようにストンと、力なく座った柴田に危機感を持った2人は、柴田に、厳命!
「打ち合うな! 足使って、距離取れ! ポイント、取ってるんだから、このまま進め!」
アッと、我に返った柴田。流血しながらも、再び、ヒット&ウエーに、戻す。打ったら、クリンチ。打たれたら、クリンチ。身体、離れた瞬間に、パンチ、パーン!と、放つ。
時には、グイッと、突き飛ばし! ダメージ、重なってる淵上、よろっ、よろっ・・・
8ラウンド、終了時の、採点が出た。
77-74.そして、79-72もの差で2人。3-0で、柴田のリード。
新チャンピオン誕生間近! と思われた、9ラウンド。
マジカ? と、思われた、2度目の柴田の目への、ドクターチェツクが入る。
ああっ! ここで、試合ストップ! 「負傷判定」に。
その瞬間、淵上、ガクッとヒザをまげて、リング上に、突っ伏した(写真左)
自らの、負けを知り、東洋・太平洋ミドル級のベルトが、柴田に移ったことを知った瞬間だ。
採点は、87-83。.89-82。89-81
柴田が、淵上に負けたラウンドは、3、4、8のラウンドだけ。
笑顔の柴田。
これで、2階級のベルトを持つことになった柴田。しかし、どちらも持ち続けることは、出来ない。
リングを降りると、祝福と、歓喜の嵐のなかで迎えられる柴田(写真。右側)。その前に、歌手であり、ジムのアドバイス・トレーナーでもある、山川豊(同・左側の帽子をかぶった男)が笑顔で祝福。
治療を終えて、控え室へ戻ってきた柴田(写真・中央)を、石原雄太トレーナー(同・左)と、会長の渡辺均(同・右)が迎え、記者会見開始。
笑顔が少ないように見えるが、これは、ひと段落した安堵感と、次なる戦いに向けての緊張から。
「もう、減量がキツイので、次からは、多分・・・・よく、考えて・・・」と、柴田が、ミドル級でやることへの、チョッピリちゅうちょを見せた。
てえゆうのも、ミドルでやるということは、遅かれ早かれ、先に書いた村田諒太と試合をやらざるを得ないということ。
実は柴田。オリンピック前にスパーリングに来た村田と、3ラウンド、手合せした。
パコン.、パコンと打たれ続け、あわやダウン寸前まで、いったという。
まさに、一喜。まさに、一憂そのもの。う~ん。しかし、名参謀が、そばにいるじゃん、ねっ!
ひと時の後、着替えて現れた敗者の淵上誠(写真右)が、柴田の控え室を、訪問。
互いの生真面目さが、臭い出るワンショット、です。詳しく、会話。書きません。どちらも、人格的に、ステキな人。それが、叩きあう。
それが、ボクシング。
ちなみに淵上。控え室では、うなだれたまま、「・・・・・これが、最後だと思って、試合に臨みましたので・・・・・・」と、繰り返すのみ。
すわ、引退? と、会長とトレーナーに確認してみると、2人、苦笑い。
「あいつは、いつも負けると、そう、口癖のように言うんだよなあ。この前だって、そうだったよなあ」
あはっ。一安心。杞憂、杞憂。
帰る時、奥さんがそばに。ショートヘアの、小柄な可愛い女性でした。
ちなみに、柴田にも、恋人が。
「なんか、そっちの奥のほうに、いるんじゃないかなあ」と、照れ笑い。
ホールの外には、柴田を長い間支え、声援を送ってきた友人や知人らが、2階級制覇を成し遂げた、新チャンピオンの出を待ち続けていた。
その横を、「勤め」を果たした石原雄太が、サラリと通り、去った。誇る表情、一つ、見せることもせず。
そんな、チャンピオン請負人の後姿に、1人、心で拍手を贈った。
実父の死から、間もないのに、何も愚痴もこぼさず、もくもくと課せられた「仕事」を見事にこなし上げた。
手柄は、チャンピオンに渡して・・・・・
その新チャンピオンは(写真上・左)は、皆の前で、直立不動! で、こう言った。
「いつも、試合後に思います。自分は、こういう皆に支えられているんだなということを、実感できることが、嬉しくてなりません。本当に、どうもありがとうございました」
そういって、深々と頭を下げた。
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ボクサーというより、「人間」を、これからも書き続けたい。
あらためて、今夜も、そう誓った
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