こまめに、ブログの更新をしている、”和製 シュガー”礼ナードこと、”佐藤”通也(みちや)。
以前書いた、6月28日の激闘試合で、ランキング・ボクサーの一場仁志に勝ち、今度は自らが、日本スーパー・フェザー級8位に、一気にランク・アップ。現在は、他の選手の試合結果と、ランキング間の調整で、9位に。
それにしても、結果の厳しさ。きれいに、入れ替わってしまった。
それでも、シュガーは、かつて、最高位6位にまで勝ち上がった栄光の日々を経験しているだけに、さらに上位を目指している。今、33歳。気持ちは、燃え上がっていると言う。
勝利を受けての、職場や後援者の祝福。ささやかなお祝いの場でも、奢りや、浮かれた気持ちや、精神的”甘さ”は、微塵も感じ取れない。”礼”節も、キチンと、わきまえたまま。
そのシュガーのブログに、こんな一節が、打ち込まれていた。
[スパーリングを、開始します}
おっ! まず、とりあえず、見にいっておこう。そう、思った。でも、相手は、誰?
シュガーが所属する「石丸ジム」は、選手層が薄く、まあ、ぶっちゃけて言えば、選手数が少ない。
だから、他のジムに出かけて、スパーリングを重ねる。ボクシング業界で言うところの「出稽古」。または、相手が佐藤通也と拳を合わせたいと希望し、ジムにわざわざ来てくれるか、どちらか。
聞けば、今回は、来てくれる選手のパターン。相手の名前は、鈴木淳(あつし)。都内江戸川区の葛西にある「上滝(かみたき)ジム」の選手、だとのこと。
それも、調整目的で来るのでは無く、この9月20日(金)に、試合を控えているのだという。
失礼だが、初めて聞く名前。行く前に、戦績をあらかじめ調べてみた。
プロデビューは、12年半ほど前。現在、32歳。
戦績は、22戦こなして、8勝8敗6引き分け。8勝のうち、KO&レフェリー・ストップ勝ちは2勝だけ。フェザー級の選手だが、ランキングには、入ってはいない。
そんな鈴木が戦う相手は、緒方勇希、29歳。
ランキング入りしており、なんと、日本フェザー級の1位。東洋・太平洋(OPBF)でも、同級6位。おおっ!
戦績は? と目を転じると、19戦して、18勝1引き分け!
18勝のうち、KO&レフェリー・ストップ勝ちは、3勝。
えっ! 無敗!?
たった1つの引き分けは、6年前の、東日本新人王戦の予選で。
緒方自身によれば、4ラウンドを戦い終えて、自分では「悪くてもギリギリ、判定勝ちだろうな」と、思っていた。ところが、引き分け。その上、敗者扱いにされたあ!
「くそ~つ! と。何もかも信じらんなくなって。もう、何だか、ヤル気無くなっちゃつて」と、本人、その時を思い出して、苦笑い。
「でね、1年間、練習する気、まったく無くなって。ジムに行かなかった。さぼってた!」と言って、また苦笑い。
さすがに、ふるさとの佐賀県唐津市に引き揚げるまではしなかったものの、ふてくされの日々。
で、やっぱり、ボクシングがやりたくなって、ジムに出戻りして以来、勝つ、勝つ、勝つ!! 勝ちまくり。勝利街道を、ぶっ飛ばしてきた。
ちょっと、ボクシングに詳しいと自認している読者なら、この9月の試合。もう、やる前に、結果、見えてるじゃん! と、したり顔で言うかも。
おまけに、鈴木淳について、ネットの網を、くぐっていくと、もろ、したり顔のブログが。
<引き分けが6試合もあるってことは、バッティングする人が多いんだってさ。知り合いに聞いたことあるよ。早いラウンドで流血。負傷判定される前に、引き分けになっちゃうんだってさ>
よく読んでゆくと、書いたやつ、鈴木の試合、1回も見てない! おいおいおい!試合見ないで、したり顔の駄文、やめてくんない!
とはいえ、これほど引き分けと、負けが多いのは、なんじゃらほい? 確かに、一見、鈴木には失礼だが、無謀とも思える、1位とのマッチメイク。
しかし、先のシュガーと一場の試合にしても、その前の、一場と山元浩嗣の試合にしても、結果は、ある種の番狂わせの、下剋上。
ただ、書くだけじゃなく、戦うボクサーの気持ちに”火をつける”100円ライターを自認している、私。
ただ、はいはい、スパーリング見ました。試合結果、コレコレでした、なら、他の速筆の人のブログ、見りゃいい。
遅筆なら遅筆なりに、じっくり、ボクサー心理まで書き込みたい。遅筆の言い訳みたいだが、そういう気持ちで書いている。
で、やっぱり、その下剋上の行方を見たいと、ジムへ。
おうおう、思ったより、写真大きくなってしまったけれど、この、苦み走った良い男が、鈴木淳(写真、上)。よく陽に焼けている。
撮ったのは、4ラウンド、シュガーとのスパーリングが終わった直後。そのため、汗がTシャツに、へばり付いている。
すごく、終始、礼儀正しい。練習を終えても、ジムの隅にあるシャワー室に入る前、キチンと、一礼と共に、「シャワー、お借りします」と頭を下げる律義さ。
最初こそ、「突然ですが、佐藤さんとのスパーリングの模様を見させていただきます」とだけ告げて始めた取材。
でも、見てるうちに、やっぱり、書きたいなという想いが、じわじわと、胸に込み上げてきた。
で、急にコメント申し込んだのに、帰り支度の手を止め、快く受けてくれた。
結局、2回。2日間にわたって、スパーリングをつぶさに見た。
もっとも、対する緒方勇希の方にも、2日間にわたって取材を重ねたのだが。
さてさて、スパーリング。バッティングに至る、頭下げて、突っ込む戦闘姿勢は、まったく無い。
写真、正面に立つのが、鈴木淳。背中を見せているのが、シュガー。
「そんなに、バッティング、多くないですよ。まあ、まったく無いわけでは無いですけれど。なので、眉の下の以前切れたところ、美容整形のようなもので、きれいに跡残らない様に、縫い合わせているので、流血はしにくいと思いますよ」と言って、苦笑いを見せた。
確かに、写真で確認していただくとわかるが、痕跡は残っていない。
どうやら、引き分けは、激闘の末に、コレ!という採点の決め手が無いまま、試合終了を迎えてしまった産物のようだ。
シュガーの小倉トレーナーが、こそっと言う。
「彼、強いのとばかり、試合やってきてるんですよ」
ご本人は、「そんなこと、ないですよ」と、照れ笑いしながら、謙遜する。
そう言いつつも「名のあるやつと、試合どうせやるなら、やった方が良いじゃないですか」と、キッパリ!
してみると、単に数字で刻まれている戦績以上に、手ごわく、強いのではないか。
鈴木の残した戦績の単なる数字と、「事実上の戦績」は、まったく別物と、考えたほうが良さそうだ。
それは、シュガーと2回、全8ラウンド。ほぼ互角に渡り合い、打ち合い、一歩も引かないチカラからして、数字見て、舐めてかかると、文字通り「痛い目」に、あいそうだ。
さて、「これまで佐藤さんとは、4回ぐらい、スパーリングの相手をさせて戴いております。有り難い存在で、感謝してます」と言う。
久しぶりの1度目の手合せは、様子見で、スタート。
実は鈴木、大きな課題を抱えて、スパーリングに臨んでいた。
闘うスタイルは、まったく、奇をてらわない オーソドックスなもの。
翌日から取材を始めた緒方の言葉を借りるならば、「キレイな」戦法。
しかし、従来のまんまでは、たやすく倒されはしないが、緒方のペースにてこずるうちに、ポイントを重ねられてしまうことになりかねない。
鈴木。繰り出すパンチは、多彩。コンビネーションも良い。足も、使える。
しかし、緒方との試合、良く頑張ったね!の、善戦マンでは、いけない。すでに、プロ生活、12年半。キッチリ、グワ~ン! と、浮上しなければ。1位を喰うべき、いわば、人生、最大のチャンス!
シュガーは鈴木に、パンチの最後の当て方をレクチャー。
いうなれば、パン!ではなく、相手の筋肉をえぐり取るように、ビシッ!と、拳を最後の最後までひねって、対戦相手に、より深くダメージを与えるようにし、ジャッジにも見栄えよく、アピールを!と。
ボクシングって、スポーツという以上に、格闘技。しかし、その反面、倒さなきゃ、完全第三者の観た者が付けるという採点競技に転じる。
レフェリーと、ジャッジ。日本にも数いるなかで、ランキング入りして活躍したプロ経験者は、ビニ―・マーチン、たったの1人! その影響下、泣かされ続けてきたともいえる鈴木。
最近の、世界戦でも、ボクサー経験者ではない者たちが、それも、10ポイント・マストシステムに沿って記入しているため、ますます、クビを傾げる判定結果が生じている。
さて、2度目のスパーリングも、間合いを計り、距離を詰め、タイミングを計り・・・・・・
それらを課題に、1度目より、一段と激しく、さまざまなやり方で、打って出た。写真左上の、左が、鈴木。表情からも、それが、のぞく。
もっとも、スウェーして、鈴木のパンチを避けるシュガーのほうも、彼なりの課題を引っ提げて打って出てる。ただでは、やらせない。
激しさはさらに4ラウンド分、増していった。
「今度の試合は、何としても、勝ちたい! 気持ち、賭けてます。最大のチャンス!と、とらえてます」
そう、2度の取材、ともに、力強く、鈴木は言った。仮想・緒方に見立てて、対策は、一歩、また一歩と完成しつつあるようだ。
鈴木のトレーナー、小林賢太郎は、かつて同じ上滝ジム所属で、バンタム級で活躍した、元プロボクサー。
緒方を評して、こう言う。
「すごく、やりにくい相手ですよね。当てさせないという」
それで、知恵をしぼり、試行錯誤しながら、「緒方との距離と、間合い」を、まさに、詰めていっている。
面白く、なりそうな予感がして、ならない。
一方の、ランキング上でも、受けて立つ、緒方勇希を訪ねた。
1度目は、彼が早めに角海老宝石ジムへ来ていて、ほぼ練習も終わりかけていた。
笑顔が、良い!(写真左、中央)。それが、第一印象。
意外や1位でも、インタビュー取材は少ないとかで、帰りを遅らせて、すぐ応じてくれた。スパーリングは翌日、見させてもらうことにして、御話しをば、先に。
ーーーすごい、無敗。だけど、その割に、相手を、倒し切れてない?ですね
「そうなんですよねえ」
そう言って、苦笑い。
「そこが、僕のいけないところなんですよねえ。ラウンド終盤で考えちゃうというか、計算しちゃうんですよねえ。このラウンドは、確実にポイントを、相手より取ったなあ。ここまで、相手に取られたラウンドは、あっても、アソコぐらいかな? もう、ほぼ、間違いなくリードしてるな、と、コーナーの椅子に座ったまま、計算してる(苦笑)」
「そうすると、無理に、危険を犯してまで、イチかバチかの勝負に出ないんですよ。もう、大丈夫だ。このペース配分で最終ラウンドまで持ちこたえりゃ、勝ちはもらったなって」
で、結果、そうなってきた。もはや、揺るぎない自信。積みあげてきた、18もの勝利。
たった1つっきりの、「引き分け」のテンマツは、先ほど書いた。
「んん、でもね。それじゃ、いけないな! と、思っているんですよ。それで、今度の試合は、リードしてると分かってても、もう、最後まで、ガンガン行こう!、がむしゃらに、いってみよう!と、思ってます!」
「まあ、6-4で、リードしててもですよ。ん? あ、もちろん、6は、僕ですけどね」
そう言い終えて、余裕の笑い。う~ん、笑顔が、やっぱり良い。もっとも、練習を始めるや、目つき鋭く、厳しい顔に、豹変する。
自信満々だが、嫌味に感じないのは、とびっきり明るい性格ゆえか。
まあ、鈴木の戦績だけを鵜呑みにすれば、それも無理もない、か・・・。
負けて、チャンピオンの座から滑り落ち、あっさりと引退を公言したあと、関西のジムから、これまたあっさりと東京へと、移籍してきた、小國以載とも、すぐに打ち解け、談笑の光景もこの目で見た。
これが、しかし、ひょっとして、我が身の墓穴を掘るんじゃないか?
そう思っていたら、この前日、緒方とスパーリングした、一場仁志に話しを聞くことが出来た。
「強いですよ、緒方さんは。う~ん、強いというより、とても、相手する者にとっては、やりにくいんですよ。ともかく、当てさせてくれない。かわされる。いや、スウェーしてよけるんじゃなくって、緒方さん独特の間合いと、距離の取りかたなんですよ。出したパンチが、当たらないし、微妙に届かない。うまいっ!というか、やりにくい相手っすよ~(笑)」
「だから、そこらへんにいないタイプなもんで、ウチのジムのチャンピオンクラスが、次々と階級が違っても、スパーリングしたがっているんですよ。こういうタイプと、経験しておきたいっていう考えで」
う~ん、明日のスパーリングが、楽しみになってきた!
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??な、なんじゃあ、こりゃあ!?
予想を、超えてた。
変わっているというか、独特とは聞いていたが、このビミョーに遅れたタイミングで、パンチを放ち、間合いをずらして、わずかな距離の差で、グイッ!と伸びてきた相手のパンチをスルリと、いとも簡単にかわす。
はあ??? なに、コレ?
この日の、スパーリングの相手は、緒方が「光政」と呼ぶ、親しい、高橋光政(写真左上の、左側)、25歳。
高橋は、緒方の3階級上の、スーパー・ライト級。しかし、普段は減量してないため、体重差、さほど変わらないようで、この世界。ごくフツーに、スパーリング出来る。
ちなみに、高橋の戦績。これまで12戦して、8勝(2KO&レフェリー・ストップ)4敗。
2人の身長差、5センチ。丁度、良い相手と言えよう。
少し余談だが、練習に励んでいる角海老の選手の、ざっと8割が、発汗性の良いTシャツを着ていた。ただの綿のTシャツと違い、練習をやっていると、まったくラク。
なにより、キツイ練習をこなさなければならないプロボクサーには、絶対にお勧めする。体感が、段違いに違うので、気持ちがのる。
さあ、スパーリング開始。緒方のトレーナー、加藤良紀(左下の写真の右端。ピンク色のTシャツ姿)に聞くと、「5ラウンドやります」とのこと。
始まるや、へえ~っ、うわっ、当たらない、当てさせない。なんじゃこりゃあ・・・・・・緒方独特の戦闘スタイルに目を奪われた。
相手の出方を、体を振りながら、じっと見てて、0・3秒くらい、出をビミョーに遅らせて、パンチを繰り出し、ビシッ!ビシッ! と、当てておいて、一転、半身になって、スウェ―したり、ウイービングしたり、パンチを避けまくる。で、ガードは、固く、崩さない。
んんんん、嫌な相手、やりにくい相手と言われるのは、シロート目にも、理解出来る。
自分の距離にして、右からの連打(写真左。右の赤いTシャツが、緒方)。上下の打ち分けも、上手い。
高橋(写真。右側の黒いTシャツ)の、早く、重い左フックを、見切って、スッ!と、いとも簡単にかわす。
相手が出てくる瞬間、サッ!と、引く(写真。左側)
ロープに詰め寄られても、ガードは固く、足を使って回り、すぐ、攻撃に転じる。
イケル! と判断すれば、一気にラッシュをかけ、ポイントを積み上げる。ガードは、さほど崩さない。
半身の体勢で、相手のパンチをかわして、0・3秒遅く、相手の出たり、引いたりするテンポとリズムを壊して、左を放つ!
上手いというか、駆け引き上手というか、リズム崩し屋というべきか・・・・
それでも、高橋の強烈なパンチを浴び、緑色のヘッドギアがズルッ!と、ずれ、すぐ直したが、スパーリング終わってみたら、目の下に擦り傷が出来ていた。
にしても、あの「間合い」と、距離と、遅出しパンチ。
----あれは、持って生まれたモノ? それとも、練習してゆく中で、築きあげたモノですか?
「う~ん、自然に出来たモノではないですね。練習してゆくなかで、ですね」
正直、鈴木よりパンチそのものは、軽い。相手を、1発ないし、左右のコンビネーションでリングに這わすまでの、威力は無い。
しかし、そのかわり、小憎らしいほどに、当てさせない。当たっても、芯にまでビシッ!と、響かせ、緒方がヒザを折るまでに至らない。
さあ、9月20日(金)、どんな試合展開になるか? 17時50分、第1試合開始。2人の試合は、華のメイン! 10試合目だ。
緒方に、人生初の負けを教えて、下剋上なるか? 鈴木の、ボクシング人生、変わるか? はたまた、どうして、当てさせないか?を、鈴木の心と体にも、分からせるか? 順当か?
緒方。言葉では、余裕を滲ませるどころか、溢れかえらせていたが、加藤良紀トレーナーは、たづなを緩めさせず、その後も、ミット打ちから始まり、みっちりと、緒方が、くたくたになるまで、パンチ以上に、練習に打ち込ませた。
それを、当たり前のように、平然とこなす、緒方。
余裕のままなら、面白くなるかも?と、思ったが、あれれ?
それでも、ボクシング。こればっかりは、リングに上がって、やってみなければ、分からない!
テレビ中継は、無い。おそらく、スポーツニュースでも、流れない。
しかし、こういう1戦こそ、ボクシング・ファン以外の人も、その目で見て欲しい。
えっ!? と、驚く展開になるか? あなたの目で、確かめて欲しい!
少なくとも、胸に熱いものが、込み上げてくることは、保証する。それが、ボクシングってモノだから。
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2023・1・11
本日、報道された、昨年の12月25日、交際中の女性を殴打してけがをさせたという、プロボクサーの、鈴木淳は、上記。鈴木淳とは、まったく別人です
まず、顔違う、年齢違う、そして所属ジムも、違います
一応、検索あったので、誤解されるといけないので、書き添えておきます
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