成塚亮(なりつか りょう)。かなり、良いプロボクサーなんすよ。手数は、良く出るし(写真左下の、左側)、常に攻め込む姿勢もある。気持ちも、印象や、見た目以上に、強い。
相手の繰り出すパンチを、うまく避けきるウイービングも、上手い。
練習の成果という以上に、天性のものかも? とさえ、思える。
左の写真は、今年2月27日。川崎スーパーアリーナで行われた、彼の試合の、一瞬を切り取ったもの。
相手は、小俣達也(写真上。右側)。地元の川崎新田ジム所属。今まで8戦して、4勝4敗。4勝のうち、2KO&TKO。
ところが、ここ2連敗中。
片や、この成塚亮。4年前にデビュー。昨年11月4日、ミニマム級で、東日本新人王戦の、決勝まで進んだ。
しかし、残念ながら、山本浩也に0-3の、判定負け。
ポイント差も、3、2、2。明白な敗戦。
そして、この2月27日の、小俣戦。
成塚は、すでに7戦こなしたものの、KOやTKO勝ちが、1度もない。トータル、4勝3敗。
なもんで成塚、この試合の前日計量が終わった後。テレビカメラの回る前で、勢い込んで、堂々の、ご発言。
「自分のボクシングを、するだけです。前回の試合では、5ラウンドまでやってますし、まあ、6ラウンドは初めてですが、完封して勝ちたい!」
うん、うん、その気持ちは分かる。完封というより、せめて1度は、目にも鮮やかなKO勝ちしたいという気持ち、ギラギラ、きらきら。
さあ、1夜明けて、1ラウンドの開始を告げるゴングが鳴るや、左ストレート、サッと放つ!
この成塚、常に常に、左ジャブから入ってゆく。
ストレート、ジャブ。ヒットもするが、届かないことも多い。打ち終わりを狙われ、顔面に、しばしばジャブを喰う。
もう、ラウンド増すごとに、ジャブジャブ、ジャ~ブジャブ、戴いてしまう!
顔が、次第にもう見事な郵便ポスト状態。見る間に、赤くなってゆく。
以前の試合では、顔面が真っ赤になって、ハレ上がっただけでは無く、目がふさがり、見るからに、相手のパンチが見えにくいのが、素人目にも分かった。
その試合もと言うべきか、判定勝ちこそしたものの、コレは、成塚にとって、今後、必ず付いて回る課題になるはず。そう、感じた。
2ラウンドも、ほぼ同様の展開。
この成塚、この左で自分の繰り出すパンチの、リズムやテンポを計ってゆくタイプなのだろう。そのためか。左腕を上下させてるものの、ガードがひどく甘くなる。
右のガードも、下がり気味で低く、甘い(写真上。左側)。
試合を見ながら、想い出したのが、淵上誠。
彼は、右腕から繰り出すパンチが、自分のリズムと、テンポを創っている。もう、先の柴田明雄戦を見ても分かるように、そのスタイルは永遠に、抜け切れないようだ。
しかし、衰えてきつつあるとはいえ、淵上には、相手を1発でリングに沈めるパンチ力がある。しかし、成塚には、・・・・・。
とはいえ、ウイービングが巧み(写真上。右側)だから、ある程度の実力のプロボクサーまでが相手なら、かわしてはいける。だが、猛打者相手には、ひとたまりも無いかも知れない。
3ラウンドでも、4ラウンドでも、左右のガードが下がり、常に左を差してはいるが、相手のジャブが、顔面にヒット。
足を巧みに使って回る、成塚。
しかし、試合展開としては、有効打数、手数,攻める積極姿勢が、明らかに成塚がまさっており、ポイントは微差ながら、リードしているように見える。
それを、分かっているからか、小俣が左右のフックをぶん回し、当たれば儲けモンとばかりに、逆転狙いにきた。
しかし、大振り。それを、成塚が、ウイービングで、かわし続ける。
小俣、上だけ狙って、ボディは全く狙わず。もし、今後迎え撃つ相手に、上下、巧みに、強打をテンポ良く打ち込まれたら・・・・・・・。ボディを深く、えぐられたら・・・・。
危惧は、尽きない。老婆心ながら・・・・・・。
試合は、5ラウンドに入る。
逆転を狙って、小俣、大振り、連発!
成塚のセコンドから、声が飛んだ。
「ウイービング! ウイービング!! 忘れるなよ!」
成塚、忘れずに、且つ、足使って、リングを回りながら、果敢に打って出る。
小俣、なおも大振りブリ!
最終6ラウンド。
ウイービング、忘れず、小俣のパンチをかわす。しかし、不用意に、一瞬の間を突かれて、顔面にパンチ、またまた喰らう。ガードの甘さも、突かれる。
成塚も、大振りのパンチ、かわされる。狙ってるのだとしたら、少々、危ない。
試合終了を告げる、ゴングが鳴った。
小俣に、驚異的なパンチ力が無いから、試合を無事終えた(写真左上。左・成塚亮。右・小俣達也)ものの、今後が少し気になった。
判定結果は、予期した通り、成塚の勝ち。
採点は、58-57。58-56。そして、59-57。妥当な、ところだろう。
が、この試合。テレビ録画中継が、入っていた。
女性レポーターが、勝利者インタビューとして、成塚にマイクを向けた。
成塚、舞い上がっていたとは思わないが、こう言ってのけた。
「最後、KOで終わりたかったんですけど、やあ、上手くいかないですね」
「今後は、KO狙えるくらい、パワーつけて、・・・・ランカーから、・・・チャンピオンになりたい!」
やあ、気持ちは、分かるけどさあ~・・・・・・・。
やがて、客席でその戦いぶりを見守っていた、佐藤洋輝(ひろき)や、田口良一ら、同じジムの選手の待つ所へ来た、成塚。
写真で、お分かりのように、またも、顔面、とりわけ、目の周辺は、はれ上がりまくり。口元は・・・・・・・。
「ずいぶん、顔面打たれたなあ」と、冷やかす日本チャンピオンであり、世界ランカーの田口。
「ジャブ、もらい過ぎだよ、なあ」と、日本ランカーの、佐藤。
リング上での、大言壮語は、すっかり消し飛び、マスク越しにも、苦笑いしてるのが分かる。今は、クチを動かすのも、少し痛いのかも知れない。
こちらは、あえて、何も聞かず。
ただ、「もし録画出来てたら、DVD欲しいですか?」 と、聞いたら、大きくうなずいたので、後日、今回載せた、つたない試合写真とともに、差し上げた。
素直に、喜んでくれた。
その後の練習ぶりは、あえて見ていない。
どう修正して、次の試合に臨むのか!? 楽しみにし、且つ、気にして、ジムの試合日程表の、ホワイト・ボードを見たら
<6月4日 成塚亮 対 松川真也 >
と、あった。
前の試合から、3か月後と、少し。ボクサーとしては、良いローテ―ションだなと、思う。
相手の、松川真也は、神奈川県厚木市にある、「T&T ボクシング・スポーツジム」所属。
すでに、14戦を経験している、29歳。戦績、6勝7敗、1引き分け。6勝のうち、1KOとあるが、これはどうやらデビュー戦の時のもの。顔立ちは、いかにも神経質そう。
今は、負け数のほうが、上回っているが、実は、この松川もまた、昨年、小俣に勝っている。
その上、かつて同じく、ミニマム級の東日本新人王戦の準決勝で、4ラウンド、TKO負け
似通った、ボクサー。そうとも、言える。
そして、この6月4日、[DANGAN74 ナックルボックス B級グランプリ]とタイトルされた、全試合が、5ラウンドで終了のもの。
なんと、先の小俣達也も、成塚の試合の後に出場するという、トライアングル状態。
松川が、目標にするボクサーは、長谷川穂積というわりには、自ら積極的に打って出ないタイプ。どちらかといえば、迎え打つ。
とはいえ、甘く見下したら、文字通り、”痛い目”にあう可能性も、ある。
今度こそ、KOを狙っていく! とか、今度こそ完封勝ちをしたい! とかは、間違っても、思わないほうが良い。捨て去った方が、良い。で、ないと・・・・。
あの、スタイルは、いわば両刃の剣。変に気負ったら、思わぬ自業自得に、陥る。
見る方は、スリルと、差すペンス、一杯で、面白がるだろうが・・・・。
ちなみに、成塚亮が、目標とするボクサーは、同じジムにいる世界チャンピオンの、内山高志。
誰が付けたか、「ノックアウト ダイナマイト」の異名を持つ。
だが、その内山でさえ、今まで、ただの1度も、「KOを狙っていきます」とも、「完封します」とも、言明したことは、ない。どんなに、記者が記事のキャッチと、タイトル欲しさに水を向けても、言わない。
その代わりと言うべきか。こうは、言う。
「KOは、結果として、付いてくるもの」
昨年の10月8日。後輩の佐々木左之介が、当時日本ミドル級チャンピオンであり、日本人初の4階級制覇王者でもあった湯葉忠志を、4ラウンド、左右のフックで倒し、新王者となった。
奇跡とも、まさか、とも、番狂わせ、とも言われた、この結果。
当夜、控え室近くで、左之介が倒したパンチについて、内山に聞いたとき、彼はさりげなく、こう言ってのけた。
「ピンポイントで、ぴったりはまったパンチですよ。もう、アレが、数センチずれていたら、湯葉さんは、倒れなかったと思います」
・・・・・・・・。
そして、当人の試合。
この5月6日、7度目の防衛戦。
ハイデル・パーラ相手に、5ラウンド。見事な、左ボディ・ブロー1発で、パーラをリングに這わせた。
「これ、100%とは言わないけれど、間違いなく倒せるパンチだと、スパーリングで分かって。練習を積み重ねてきたパンチです」と、試合後、内山はたんたんと、クチにした。
そりゃそうだろうと、納得しつつも、さらに後日、担当の佐々木修平トレーナーに、聞いた。
「あれは、レバーの奥深くを、狙ったパンチです。ピンポイント? そうですね。1、2センチ、狙った位置がずれてたら、1発だけでは成功しなかったかもしれませんね」
・・・・・・・・・・・・
レバー。人間の肝臓だ。そこに、パンチや衝撃が、加わると、例え、人並みはずれて強靭な肉体を持つ、強打を誇るプロボクサーでも、一瞬、息が止まり、足と身体の自由が、効かなくなるという。
それでも、計算通り、練習通り、いかないのが、ボクシング。さらに、スパーリング通りいかないのが、ボクシング。
我が国のプロボクサー、約3000人。防衛戦での安定感も含め、その頂点に立つ内山だから、文字通り、1発で成功した。
内山と成塚。KOをクチにしない人と、狙うひと。確かに、同じフロアで汗は流してはいるものの、さてさて・・・・・
どんな勝ち方をするか? はたまた、どんな負け方を、してしまうか?
今度は、テレビカメラ、無し。
この目で、見て欲しい。
ボクシングを、この駄文で興味を持って下さってる方も。ひとつ、よろしく。
この夜の、断崖絶壁に立たされた、弱~い日本代表の”ひやひや”サッカーの試合より、胸わくわくさせる・・・・・はず・・・・なんだからあ・・・・ホントに