世間的には、まったく無名にも関わらず、驚くほど多くの検索数を戴いた、「納谷和希」(なや・かずき)という、フェザー級プロボクサーの、デビュー戦に向けての記事。
初試合日は、今から2か月前の、7月17日。3-0の判定勝ちで、納谷和希のプロボクサー人生は、好スタートを切った。
大阪府四条畷(しじょうなわて)市出身。1994年12月1日生まれの、まだ20歳。
ちなみに、彼の産まれた6日後の12月7日、フィギュア・スケート選手の羽生結弦(ゆずる)が、この世に生を受けている。
その試合が、「REASON C級トーナメント 準決勝戦」と設定されており、勝てば、その時点で、2か月後の9月29日(火)に行なわれる決勝戦に進むことが決まっていた。
それどころか、「東日本新人王戦」に似て、すでに対戦相手までも、決まっていた。
納谷の試合のあった3日前の7月14日。その相手、川渕大地は、若松大輝というボクサーを、2ラウンド2分57秒、ラウンド終了間際のレフェリーストップ勝ちで、一足早く、進出を決めていた。
その試合は、観ていないうえ、捜したが動画も見当たらない。
納谷和希自身に聞いてみたら、「アマチュアで26戦していて、左フックが強いと、聞いています」という答えが即座に返ってきた。
ボクシングの世界も、ある種の情報戦が必須。後楽園ホールの2階ベランダ立ち見席から、しっかりビデオカメラを回している人を、時折り見かけるし、ユーチューブをのぞくと、4回戦でも、いくつかアップされていたりするから、時に驚き、記事を書くうえで助かることがある。
相手の川渕は、アマチュアでの試合経験がある、とのこと。納谷も、9戦して、5勝4敗。1RSC(プロでいうレフェリーストップ勝ち)をしている。
川渕大地は、どのくらいなのだろうか?
彼が所属する、川崎新田ジムのホームページを見る限り、簡略なプロフィールしか掲載されていない。アマチュア経験の「ア」の字も無い。
見えるのは、1989年5月22日生まれの、現在26歳ということと、身長くらい。
ジムの応対は厳しく、異常に警戒心が強い。以前は、無かったこと。
原因・起因は、あのせいだな。「いつまでも、へっぴり腰で打つのは変わらないんで・・」と、新田渉世会長が苦笑する、所属ヌードボクサーの対外的影響・波紋のせいだなと、直感。
せめて、アマチュア戦績だけでも教えて戴けませんかと、お願いした。
しばらくして、学生の頃からやっていたらしいことと、タイトルとかは取っていないとの御回答。戦績は、16勝10敗しているらしいとのこと。RSCは「わかりません」と言う。
こりゃ、この先、取材を、などと言おうものなら、大変なことになりそうで、気持ちが完全に引いた。写真も、切り抜きのものが掲載中。
「良い写真が、無くて・・・・・」と、言う。
まあ、その実力は9月29日の当日、この目で確認するほかないな、と。
さて、納谷の記念碑的デビュー戦の闘いぶりを、ここに記しておこう。
リングに上がるなり、しこ踏んで、そのあとジャンプ!(写真左)
緊張感を解きほぐして、リラックスしようという行為、とみた。
彼の、写真の位置で言うと、右隣りに立つのが、加藤健太トレーナー。強打の元プロボクサーでもある。
意外や、落ち着いていた。
が、<1ラウンド> 開始のゴングが鳴るや、右フック、左フック、相次いで振る振る。しかし、大振りのうえ、空振りのブンブン丸。気負いか。そう、もろ、気負っている。
逆に、相手の内川大輔。ストレートは伸びてくるし、ジャブも的確で、狙いはシャープ。
納谷。右ストレート!左フック!は、ヒットするものの、左アッパーは、スカッと空振り!
勢いづいて、あやうくスリップダウンしかけた。
その勢いを止めようと、内川、クリンチに出る。
納谷、ガードはしっかりとして、崩れない。今度は、右アッパー! 絵に描いたような、右アッパー! また、見事に、はずれる・・・・・・。
例えて言うなら、かつての人気劇画「あしたのジョー」に出てくる、矢吹丈の放つ、あのアッパー! 決まれば、鮮やか、カッコ良い。が、はずれると・・・・・カッコ悪う・・・・・。
内川の、右フック、ヒットして、1ラウンド終了。
コーナーに戻ると、加藤健太トレーナーの指示が飛ぶ。
< 2ラウンド >
おっ!納谷、フェイントかまして、左ストレート放ち、当たる。
対する内川も、フックから、左ストレートの流れ。が、作戦なのか、すぐさまクリンチの策に出る。
足使って、リングを回る内川。ソレを、ひたむきに追う納谷。
また、納谷の右アッパー、かすりもせず。あ~あ・・・・。すぐ体勢崩さず、左ストレート!
当たらず、当たり、当たらず、当たり、当た当た・・・の繰り返し。ワンツーの連打も、時折り見せる納谷。だが、ハッキリとしたポイントにまでは、至っていない。
追ってゆく積極的姿勢が、ポイントにならないかな?と、どこかで期待している自分がいた。
じりじりと、距離を詰めて、追ってゆく納谷。
左ボディ! 突っ込み過ぎて、またクリンチされる。
2ラウンド、終了。コーナーに戻ると、加藤健太トレーナーから、ひじキチッと折って、ショートフック打って見ろとでも言うような仕草の指示。
< 3ラウンド >
左フック、ヒット! 引く、下がる内川を追ってゆく納谷。
また、かの幻の右アッパー・・・・・・当たらず。そりゃあ、当たればさ、儲けモンだけどさあ・・・・・もう、いいよ・・・・・・。
納谷のはく、真紅のトランクス。「和希」の文字の刺繍とともに、、大きく「閃光」と読み取れる文字。
閃光が、すぐ消える線香花火のように、ならないように。「未来の大器」、期待してんだからさあ。
常に追い、手を休めず出し続ける。ヒット率、60%。
コーナーに内川を追いこみ、渾身の左ボディ! 内川の表情が、少しゆがむ。
このラウンドで、一歩リードしたかな?と想う。
とりわけ、先の岩井大相手にしてのスパーリングでも見せていた、右ストレートと、左ボディは、良い。
< 4ラウンド >
最終ラウンドだ。”決め手”が、文字通り、一手二手欲しい。
おお、納谷の連打で、内川が棒立ちの状態に。
すかさず、加藤健太トレーナーから、鋭く短い声が、リングに飛んだ!
「 もっと、コンビネーション!!」
「手数!!」
内川、思わずクリンチ作戦。だが、ほどき、すぐ振ってくる。軽い、苦しまぎれのクリンチなので、レフェリーからの注意の対象にもならない。
納谷、左右のフック、ヒット!
内川、クリンチ。
納谷、また右アッパー! こだわってんなあ・・・・見てるコッチが当てられてないのに、のけぞる。だが、ホンの少し、当たる。
試合、終了。
よしっ! 判定で、勝ったなと、確信。最悪でも、2-0か。
コーナーに戻ってきた納谷。浮かぬ顔。負けたような顔。
・・・・・・・・・・判定結果が、リングアナウンサーによって、声高らかに読み上げられる。
「39-37。39-37。残る1者も、39-37。3対0で・・・・・・・」
じらして、間を置く。
「勝者、赤コーナー! 納谷和希~~~~~~っ!!」
んでも、浮かぬ顔の、納谷和希。
本人、負けたと思っていたというより、こんな内容にまったく喜べないよう(内容)ってこと?
早速、控え室に向かう。
保健室で診察を終えて、戻ってきた。
パッと浮かんだ笑顔、一瞬。反省の言葉が、クチをついて出る。
「全然、ダメでした・・・・・」
「4ラウンド。相手は引いて打ってくるから、くっ付いて行けと言われたことは、出来たけど・・・・」
「足使って行けと言われたのに、出来なかったし・・・・」
言葉はさんで、聞いた。
ーーーアッパー、全然、ダメだったねえ?
「でも、3・4ラウンド、当たってたでしょ!?」
はあ? そうかなあ・・・・・。その強気さが、でもプロボクサーには、必要だ。
加藤健太トレーナーが、苦笑しながら、すかさず言う。
「納谷、戻って来て、ナニ、言ってたと思います? 全然、ダメでしたと言って、落ち込んでたんですよお」
とたんに、笑いが巻き起こる。
「スパーリングの時のグローブは14オンス。でも、今日は、試合仕様の薄い8オンス。おまけに、ヘッドギアも無い。アマチュアの時とも違うしね。違いが、分かったと想いますよ」と、加藤トレーナー。
「1ラウンド。落ち着いていたつもりでしたけど、堅くなってましたね、今想うと」と、納谷。あれが、ブンブン丸の気負いになって現われたわけか。
バンテージを取り去ってあげながら、加藤トレーナーが納谷に言いきかす。
「納谷。お前、判定勝ちのコールを受けたあと、せっかく応援に来てくれて、喜んでいた人達や、観客に向かって、納得出来ないと言う顔のままでいただろう。 アレは、プロとしてはやってはいけないことだぞ」
「今日からはプロボクサーで、なお且つ、勝ったんだから。自分としては多少納得出来ない試合内容であっても、あの時は、笑顔作って、大きくガッツポーズするくらいじゃなきゃ! お客さんの歓声に、応える。それが、アマチュア時代とは、違うこと。なあ、もう、プロなんだからな!」
聞いてたこちらも、納得。
気持ちが落ち着いてきた納谷。
ひょいと聞いた彼女の存在。
「います。名前は・・・・・・」と、書きにくいことまで話し始めた。
そのうち控え室に、三迫仁志・三迫ボクシングジム名誉会長や、同ジム出身の輪島功一・輪島ジム会長兼芸能人が、納谷の初勝利に、祝福に訪れた。
期待の大きさが分かる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれから、2か月。
納谷和希に、2戦目の試合に向けての仕上がり状態を聞いた。
「あとちょっと落とすと、規定体重になるんで、予定通り大丈夫だと思います」
「先輩に聞いて、それに習って落としていく方法を見つけたんで」
声も、はずむように明るい。
「スタミナも、大丈夫です」
「前回は、情けない試合をしてしまったんで、今回はトレーナーの言う通り、上下の打ち分けをしっかりして。相手は左フックが強いと聞いているんで、しっかりストレート主体に練習しています」
「スパーリングも、出稽古に来た選手の皆さんとか、あれから2か月、数多くこなしてきました」
あまりプレッシャーは掛けたくないが、期待はしたい。
9月29日、午後6時、第一試合スタートの、第6試合だ。
全10試合。華々しい、タイトルマッチこそ組まれてはいないけれど、納谷和希など、これからチャンピオンを狙う新鋭が、ズラリと出場します。
是非、後楽園ホールに、その足を運んで戴きたいと、熱く想う。