《 2016・10・8 掲載記事 》
わ~きゃあ! きゃあ、わ~、わ~わ~。まさに、単なるお祭り騒ぎ、馬鹿騒ぎ。
リオ五輪でメダルを手にした選手たちが、10月7日、パレードに参加。
ソレを何気なく見つめながら、ある3人の選手のことを思い浮かべていた。
リオ五輪の競泳種目。
すでに過去のことと思わず、読んで戴きたい。
女子100メートル×4。4人が、心までもつなぐ、400メートルリレー。
写真は競泳順不動ながら、第1競泳者・内田美希、第2競泳者・池江瑠花子、第3競泳者・山口美咲、そして第4競泳者・アンカーが松本弥生。
決勝、世界8か国での争い。
結果は、8位。入賞という名の、最下位。
1人目で、5位。
2人目で、6位。
3人目で、7位。
そして、アンカーの松本が最下位で泳ぎ切った。
な~んだ!だらしない、と思うだろうか・・・・・。
4人とも、今持てる能力を出し切った泳ぎだった。優勝は、ラストでアメリカを抜いて、劇的逆転をした、オーストラリア。
世界との厚い壁を否がおうにも痛感したレースとも言えた。
わたしが、胸を打たれたのは、4人へのインタビューの時。
3人目の山口美咲(みさき)にマイクが回った。
一瞬、息が止まった表情。そして、静かに両目から涙があふれ出した。
「・・・・・2回目なんですけど・・・・。北京の時に、1回経験してるんですけど・・・・」
ムッとした表情は、カケラも見えない。
競技専任レポーター兼アナウンサーにさえ、知られていない、調べられていない”厳実”を、よりにもよってこの場で突きつけられた。
メダルを手にした選手のみが、取材者に知られ、記憶の片隅に残る。ソレ以外は、こんな手荒い扱いを受ける。
次の涙をこらえながらも、山口は言った。
「今日が、水泳人生最後のレースでした。本当にいろんな方々に支えられて」
「この3人がいなかったら泳げなかったですし。わたしの9割は、本当に水泳で出来ているんで」
隣りの松本弥生が、すかさずチャチャ入れた。
「9割が水泳と言う? わたし、9割が筋肉と思っていたんだけど」
涙顔から、とたんに笑顔になる、山口。
「もう、本当に最高の水泳人生でした。本当にみなさんにありがとうと言いたいです。良いチームでした」
この場で、あらかじめ言おうとしていた言葉であったろうが、万感の想いは、遠く離れた日本でも、じんわりと伝わってきた。
仲の良さが感じられた山口と松本。調べて知ったのだが、2人は中学生のころからライバルだった。
共に、自由形。中学時代は、全国大会などで山口が優勝するなどリード。
それが、高校生になると、松本がインターハイなどで優勝。
しのぎを削ってきた歴史が、活字だけでも分かる。どちらかが欠けていたら、リオ五輪まで来れなかった。
引退する山口は、まだ26歳。長崎県諫早(いさはや)市出身。近畿大学から、イトマンSSに所属。
かたや松本も同い年の、静岡県出身。日体大を経て、ミキハウス所属に。
実は、山口によれば、ライバルだった松本がロンドン五輪で引退するということを聞き、なんとかその意思を撤退させようとしたのだという。
「一緒のチームで最期は泳ごうよ、ねえ! 最期くらいは、ライバルのままじゃなくて、同じチームで頑張って泳ぎ終えたいの!」
4年間、引退を延長した。
今年の4月。五輪のこのメンバーで、400メートルリレーで国内選考を勝ち取り、リオへの切符を手にした。
これが今の、世界最強に向けての全力を出し切った4人。結果こそ「ダメダメ」だったかもしれないが、すがすがしい想いでテレビ中継画面を見つめていた。
内田美希、まだ21歳。池江瑠花子にいたっては、16歳。
日本国内では、まだまだ通用するはずの戦績、成績、タイム。そんな26歳の2人は、いさぎよく、世界トップの壁に跳ね返され、現役を退く。
松本の言葉のセンスは、絶妙に面白い。例えば・・・・
「去年の世界水泳の時は、自分が足を引っ張ったので、今回はみんなを引っ張っていくつもりだった」
いいねえ・・・・・。
水泳を教え続けた山口の母・栄美(えみ)は、娘の引退宣言を聞き終え、こう言った。
「26年間、泳ぎ続けてきてましたしね。本人は、やりきったと想いますよ。お疲れ様と、言ってあげたい」
日本水泳陣は、いっせいに8月17日の夕刻、帰国。
「はい、メダリストの皆様は、あちらの記者会見会場へお急ぎ下さい。それ以外の方は、はい、そちらから出口の方へ。どうぞ自由にお帰りください」
この、差別。この現実。
まだ、26歳。しかし、世界の舞台で限界を痛感し、やりきった26歳。
諫早市に帰郷しても、同じ郷土のメダリスト、内村航平と並んで、市長に挨拶に行くことも無い。
ましてや、パレードに呼ばれることも無い。
しかし、心からの拍手を贈りたい。松本弥生へも。
しばらく、心身を休めさせたあと、指導者の道を歩むのか、それとも妻になるのだろうか・・・・・。
松本弥生のツィッターを見ると、すっかり引退ペース。
静岡県の招待レースに出場して、4連覇。
練習に打ち込まなくてもだ。
あとは、アイドルのコンサートへ行ったり、沖縄県の竹富島へ行ったりして、26歳の1人の女性となって、ゆったりとくつろぎ、遊ぶ日々。
競泳については、「やりきりました」との文面。
ただし、ミキハウスを辞めると、スポンサー無しの無給が待ち構えている。それをどうしてゆくのか?
メダルを持たない五輪出場選手が待ち構える問題が、松本にも襲いかかる。
一方の、山口美咲もまた、帰国報告会や、記録会に顔を出したあとは、松本同様、コンサートに行って、ミーハー気分丸出しで記念写真撮ったり、リオ五輪の際、自分への御ほうびとして予約を入れていた沖縄へ行って、すっかり、身も心もリラックスタイムの日々。
2人とも、26年間、したくても出来なかったことを、次々とやっている。
にしても・・・・・・・
メダリストという、おかしな変造語。
メダルを手にした選手だけを、異常にもてはやす、我が国のマスコミ。ソレに乗っかって思い上がり、人生を踏み外した愚か者がいる。
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