「そちらの記事、いやあ、僕の周りでは評判いいんすよねえ」
丸刈りクリクリ頭のうえ、童顔の岩井大(いわい・だい)が、いたずらっぽい目線を投げかけて、私に言う。
例え冗談でも、そうヨイショされりゃあ、ちょいとだけ舞い上がる私。
でも、記事は「リアル」を意識し、決して必要以上に持ち上げないけどさ。
この岩井。昨年11月29日の、佐藤通也(みちや)戦でも判定勝ち。
それ以降は、今年の3月4日、同じ東京・後楽園ホールで、石川昇吾(新日本木村ジム)と、拳を合わせた。
それが、前戦。
試合前の仕上がりぶりを、岩井の所属する「三迫(みさこ)ジム」に観に行くつもりだったのが、都合で行く時間が取れなくなった。
彼の、チョッピリ、気落ちした声。
せめて、試合はキッチリ見て、書かねば!
そう思って、雨の降りしきるなか、会場へと向かった。
その試合の模様を、・・・・3か月以上も経った今、書く。
いやいや、いやいや、岩井大には、顔向けしにくい・・・・のだが、、6月25日(水)に試合が決まったと、調べて分かったので、その展望記事に代える。
(試合ポスター写真、抜粋)
相手の、伊藤圭太(左側)の試合も、一昨年、昨年と見ていた。
その試合内容も、お伝えしたい。
先に、岩井大の3月4日の試合を書く。 雨模様というのに、最寄りの駅周辺は、溢れかえる人の波。
そんなに、岩井大って、知名度あったっけ? ほほ~っ! ボクシング、今日は満員札止めか?と思ったら、なんと「ザ・ローリング・ストーンズ」の、東京ドーム公演に向かう、観客の列だった。
気持ち、グラッ!
結構、ストーンズのコンサート、行ったクチ。なぬ?当日券あり?
窓口行ってみりゃ、ステージ斜め後ろの場所。目いっぱい増席させて、1万円。なんとまあ、商魂、たくましい。
「で、ミックの歌う表情、見えるの?」
販売窓口の女性に聞く。
「さあ・・・・厳しいんじゃないでしょうか・・・。メンバー全員? 後ろ姿なら。それに、太い柱もありますし。それでも、雰囲気だけでも、味わいたいのでしたら・・・」
そ、それで1万円! でも、ズラリと並ぶ客。チケット、飛ぶように、売れてく。
ハッ!と、我に帰る。浮気しちゃいけないっ!
後楽園ホールへと、Uターン。
んなことしてたもんで、入ったら、岩井大の前の試合の、さなか。
いやあ、やばい、やばい。時間的に、ギリギリになっちまった。
お客は入っていた。すでに、この時刻で9割の席が埋まっている。
岩井や石川には悪いが、メインに登場する、日本人初の、「正味」の「5階級制覇王者」湯葉忠志の集客力は、やはり、並みでは無い。
亀田兄弟との違いを知るファンは、正しい目を持っている。ええこっちゃ!
おっ!先に、青コーナーへと、岩井大が入ってきた(写真上。坊主頭)
入場曲は、いつものように「8(エイト)マン」。
午後6時58分。リングインして、軽快な動きで、ジャブ、スッ、スッ!と、繰り出す。
が、顔は緊張気味。
次いで、赤コーナーから、石川昇吾が、バチさばき高鳴る三味線のBGMに乗って、リング・イン。
岩井が、白トランクス。石川は、黒トランクス。観てて、分かりやすい。
< 1ラウンド>
午後7時2分、ゴングが鳴った!
岩井、左ジャブで先制。
対する石川、右フックを振ってくる。その瞬間、岩井。スッと、身体引いて、かわす。
石川のボディパンチ、岩井に届かない。その後も、せいぜい、やっと届くくらい。
そのかわしかた、絶妙。この後も、うまく、紙一枚ほどの距離で、ギリギリ、かわし続ける。
その逆に、岩井もまた、距離の、わずかな取り過ぎで、ボディ打ちが、ヒットしない。
打たせない代わりに、打ち込めない。
左ジャブ打ち、届かない。
タイミング計っての左ボディ、届くだけ。
石川もまた、左右のフック、右フック、届くだけ。
見た目にも、互いに、効いてはいない。
1ラウンド、終了。
岩井より3歳年上で28歳。元同僚選手でもある加藤健太トレーナーが、セコンドに立って、フットワークと、身体振ってのフック打ちを、身振り手振りで、文字通り指示。
ちなみに、この加藤。プロでは、11戦して、9勝(7KO&レフェリー・ストップ)1敗1引き分けという、素晴らしい戦績を残して転身した逸材だ。
<2ラウンド>
岩井、低い姿勢で、相手に入っていく。
互いのストレート!相打ち。クロスパンチ。
石川、パンパンパン!と、小気味よく、テンポよく、ジャブ放ち、ヒット! 返しの、左ストレートも当たる!
距離と、タイミング、掴み始めたか!?
岩井、相手のフトコロに入ろうとすると、打ち込まれる。
でも、入る。ボクシングは、当たり前のことながら、打ってナンボ。当たって、叩いて、ナンボ。
打たせないでナンボには、なかなか・・・・・なりにくい。日本のリングでは、残念なことに、評価されない。
でも、外国のチャンピオンだと、ことさらに絶賛されるのに・・・・。
岩井入ってくると、石川、頭低くして屈み、岩井へボディ3連発、喰らわす。リズム、良し。上手いっ!
<3ラウンド>
インターバルの間、今度は加藤トレーナー。キッチリ、ガードして、上体を左右に振るように、岩井にアドバイス。
そのようにして、石川のパンチを、うまくかわせ! ということか?
洪(ほん)東植トレーナーもセコンドに付いている。このヒトは、韓国アマチュアで100戦以上闘った、歴戦の勇士。日本語も、上手い。
岩井、左フック打つも、相打ち。
石川は、2ラウンドで味をしめたか、ボディ、またボディへと岩井の腹へ集中打!
加藤の指示通り、岩井、ガード固めて、上体引いて、今度はわずかにかわす(写真下)。
かたや、岩井。左ジャブ連打。
一瞬置いて、また左ジャブ!石川も、負けじと左ジャブ!
おうおう! 見事に、上体屈み、岩井、石川のパンチ、頭かすらせるようにかわす(写真上)。練習と、研究のたまものだ。
上下、打ち分ける岩井、。
互いに、クリンチし合ってる間に、3ラウンド終了。
今度は加藤(立っている、黒いTシャツ)。ショート・ボディ打ちを、また身振り手振り手振りで、指示。洪は、介助役(背中の男)。
<4ラウンド>
おっ! いきなり石川、距離詰めて、大きく振ってくる。
それを、待ってました!とばかりに、かわす、岩井。かわす、また、かわす。
ここで、ポイントを広げて置きたいのだろう、石川陣営としては。
出た、また、クリンチ。双方からだ。
岩井、ワンツー放つが、距離取られて???。
クリンチ。
岩井、思い切って、距離詰めて打つ。ところが、今度は近づき過ぎて、クリンチで封じられる。
う~ん・・・・・・・
うまく、いかんのう・・・・・どちらも。
ある種、頭脳戦。
<5ラウンド>
岩井の左ジャブ! ガツ~ン! 見事に、石川への痛打になる。
石川だって負けてないっ! 入って、痛打っ! 左右のフックを振りまくって、岩井を近づけさせない。
フック、空振り。距離、取った、岩井、うまい。
おっ! きたっ!石川の振りまくるパンチを低い姿勢でかわすと同時に、石川のボデイに打ち込む!(写真下)。
石川、足使って、リング回る。付いてく、岩井。
「シュツ!」「シュツ!」
声出して石川、左右のフック、ボディ狙う。
岩井も、ボディ打ち。
ラウンド終了近く、双方、頭付けあう、というより、ガツンガツン、突け合って、ショートパンチの、叩き合い。ボディ中心に攻めまくる。
あら? 岩井の右目、切れた。
ラウンド、終わって、場内アナウンス。
「岩井選手。右目の上を、カットしましたが、これは偶然のバッティングによるものです」
<6ラウンド>
岩井、低い姿勢で入って、ボディ打ち。
石川も、ボディから、フックへの流れ。
「ダイ~っ!」 「ショ~っ!」
ダイは、大。ショ~は、昇吾の昇だろう。
激しく、双方から、応援コール飛ぶ。つばぜり合いの、接戦の展開。
勝敗は、際どくなっている、ということが、友人たちにも、ひしひしと伝わったからこその、声援。
それまで、じっと見ていたが、もう、声でポイントに加点できれば!と必死だ!
岩井、大きくステップ踏みこんで、石川の左ストレートを鮮やかにかわして、右ストレート!(写真上)。
ゆがむ石川の顔面。
このあたりの進境が、1戦ごとに、まさに進んでいる。失敗を繰り返しながらも、打たせず、かわした瞬間に打ち込む! 見切る!
だから、気になる。
だから、岩井を見続けたいと、想わせる。
まだまだ、同僚ボクサーのように、パンチ・ドランカー特有の症状は見えていないのも、一安心。
プロデビューして、8年。拳も、まだ大きく痛んではいない。
石川。岩井の詰めをかわそうと、足を使って回り始める。追う、岩井。
石川、ジャブ突いて、岩井を突き放そうとする。
ひるむ事無く、付いていく岩井。だが、パンチ、手打ち。届くが、突き刺さっていない。
石川、回りながら、ジャブ突き、ボディから、アッパーのパターン繰り返す。しかし、すべて空振りに終わる。
<7ラウンド>
岩井、ショート・フック。
あら? リングサイド席に奥さんと座って観戦していた、三迫ジム会長が、セコンドに歩み寄り、何やらトレーナーにアドバイス。
秘策を思いついたか? または、相手、石川のクセを見抜いたか?
左ジャブ突く、岩井。かたや、石川、左ボディ放つが、届かず・・・
岩井、左ボディ打って、すぐさま回る。フック、また、フック!
石川、射程距離に入らせまいとしつつ、ボディ打ち!
負けるもんか!と、岩井は、ボディから、アッパー。
石川も、なおもボディ狙い打ち、集中打。
両者、ボディ狙って、相手のスタミナ、一気に奪い取ろうという作戦か。
ボディだけは、鍛えきれないと長く、ボクシング界で言い継がれている。確かに、内山高志などは、ピンポイント、狙い澄まして打ち込み、相手を一気にヒザ折らして、文句なしのKO防衛したことがある。
互いの、ボディ打ち展開。身体折って、前傾姿勢のうえ、ボディまで、しっかりガードしようとする岩井。
さらに、前傾! ともかく、かわす努力続ける岩井。
打って、距離取る石川。追ってく、岩井。左ジャブ放つ。パンチ喰うと、すぐさま距離取り、体引く。
そして、左ジャブの連、連打!そこから、左ボディへと、ねばる。
たまらず、石川、クリンチへ持っていく。
7ラウンド、かくして終了。
<8ラウンド 最終ラウンド>
う~ん・・・・ここまで、岩井がポイント、リードおそらくしているだろうが・・・差2ポイントほどでは、ないだろうか?
まあ、あの巧みなガード振りから見て、最終ラウンドで、倒されることは、まず、無いだろうが・・・・倒せる可能性も、また、低い。
インターバルの間に、場内アナウンスで、石川が、右目上をカット(切ってる)とのこと。しかしそれは、岩井の有効打によるものでは無く、偶然のバッティングによるもの、とコールされた。
8ラウンド開始の鐘が鳴る前、「い・わ・い!」 「い・わ・い!」コールがリングに注がれた。
右腕を上げ、ガッツポーズで、それに応える岩井大。
おお、頭付けて、接近戦に挑む岩井。ゴリゴリ、ゴリゴリ、五里霧中。押して行く(写真下)。
思い切って、大きく振ってくる、石川(写真下。正面向き)。
文字通り、一発大逆転!を狙っているのが、透けて見える。
しかし、食わない岩井。