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映画・演劇のレビュー

桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』

2014-05-21 21:05:39 | その他
彼女の初期作品であるこの小説を読んだにはたまたまだ。例によって読むべき本がなかったから、図書館で、身近にあった文庫本を手に取った。それだけ。帰りの電車に間に合わせるためである。つまらなければ、すぐに辞める。でも、僕が手に取るような小説はいつもあまりつまらなくはない。だから、結局は最後まで読むことになる。ロングセラーになっているこの小説も、確かにそれだけの価値がある作品だと思った。

軽い青春ミステリとして読み流してもよい。ふたりの少女が出会い、そのうちのひとり(転校生)が、バラバラ殺人になるまでのお話だ。もちろん、それはネタばれではない。最初から彼女の死は指摘されてある。結論から遡る話だ。なぜ、死んだのかを解き明かすのが目的ではない。父親との確執もそれが小説のテーマではない。女同士の友情なんていう陳腐なものでも当然ない。山田なぎさは、転校生の海野藻屑(すごい名前だろ。でも、そこから始まる)の死を目撃する。嘘つき女だった彼女の嘘がどこから来て、どこに行くのかを、偶然目撃することになる。

小説としての完成度が高いわけではない。だが、思春期の少年少女の気持ちがとてもリアルに描かれてあるから、本から目が離せない。大人になったなら、なんとかなったのだろうが、それまで堪えられなかった。誰かが助けることができたなら、なんて安易なことをいう気にはならない。誰のせいでもない。ただ、こういう愚かな父親から、子供たちを守りたいと願った彼女たちの担任教師(完全な脇役なのだが、終盤で重要な役回りをする)のような大人は確かに存在するはずだ。だが、彼らは万能ではないから、いつも遅い。

読みながら、とても、悔しいけど、こんなものかもしれないと、思った。誰かが誰かを守ることなんか出来ない。みんな自分のことで精一杯なのだろう。なんだか、悲しいけど、それはそれで事実だ。そんな事実を踏まえたうえで、でも、やれることをすべきだと思う。


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