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映画・演劇のレビュー

『サッド・ヴァケイション』

2007-09-23 21:08:05 | 映画
 青山真治の新作は「Helpless』『ユリイカ』に続く北九州サーガ3部作の完結編、らしい。だが、映画としては前2作とはかなりタッチが違い、幾分軽い。前2作との関連はあるが単発の映画として充分理解できる。

 これはとんでもない母親(石田ゆり)の世界に取り込まれてしまう哀れな息子(浅野忠信)の物語。5歳の時、自分と父親を棄てて出て行った母親に偶然、再会した彼は復讐のため、彼女が今暮らす生活の中に入り込む。しかし、彼女はそれを迷惑に思うどころか完全にウエルカム状態で、薄ら笑い(これが怖い!)を浮かべ彼を受け入れる。

 彼女は20年以上振りに会った息子に対して、何の違和感を抱くことなく、自分の生活に取り込んでしまう。彼は彼女の今ある幸福を叩き壊してしまおうとするのだが、彼女のあまりの許容範囲の広さの前で何をしてもどうにもならない。

 なんだか悪あがきをしているだけ状態になる。あげくは彼女の今の夫(中村嘉葎雄)との子供(自分にとっては義弟)を殺してしまうことになるのだが、それすらもこの母親は包み込んでしまうのだ。この女(母なのだが)の前では、なす術もない。彼だけではない。誰もがその静かな迫力の前でたじたじにならざる得まい。この映画はシリアスとは思えないくらいに笑える映画になってしまうのだ。なんだか不思議な映画である。

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