習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『仁 JIN』

2011-06-29 21:17:19 | その他
今回の第2章が放送されてその第1話を見たとき、これはよくないな、と思った。その後もそこで示された方向性は修正されないまま、話が進んでいく。途中で見切りをつけようか、と何度も思ったのだが、それでも止めなかったのは、これが僕にとって20年振りくらいに見る連続ドラマだったからだ。それに昨年末に見た第1章がとても面白く、この作品に過剰な期待をしてしまったこともある。

 今回、気に入らなかったのは、主人公の仁(大沢たかお)が、大きく歴史と関わっていくことだった。彼が明治維新の立役者たちと出会い、彼らを助けていくことで、歴史の大きな表舞台に登場することになりそうで、そこが話をつまらなくした。歴史の分岐点に立ち、そのドラマを彼がどう変えるのか、というお話へと収斂していくのなら、このドラマはどんどんつまらなくなる気がした。だが、その後はちゃんと元の話に戻り、仁友堂を巡る名もない庶民の物語となる。よかった。

 このドラマに於いて一番大事なことは、タイムスリップして江戸時代にやってきた彼が(ただの医者である!)自分と、自分の周囲の人たちをどんなふうに守ろうとするのか、というその1点である。歴史を変える使命なんて、彼にはない。坂本龍馬と出会うことで、仕方なく歴史の変換点に立ち合うが、それは彼が歴史を変える男だったからではない。彼がこの時代に出来た最高の友だちだったからだ。

 作品全体を、仁友堂の話に絞り込んで、さらには、彼と咲(綾瀬はるか)とのラブストーリーとしてまとめていったことが、成功の理由だ。そこをお座なりにしてはこの小さな話の意義は損なわれる。咲が「わたしだけが幸せになるわけにはいかないじゃないですか」と言ったとき、このドラマの方向性は明確になった。自分の幸せのことよりも相手のことを考える。そして、「みんな」のことを考える。そのためには命を投げ出してもいいと思う。そういう気持ちを抱くこと。その大切さがこの物語の根底を支える。

 相手が名もない病人であろうとも、見知らぬ歴史上の偉人、西郷隆盛であろうとも、大事な親友、坂本龍馬であろうとも同じなのだ。大切な人の命を守る。ただそれだけが大事なことだ。そして、人の命を守ることが医者の役目だ。その当たり前のことをこのドラマは教えてくれる。

 タイムスリップものの定番を守りながらも、これが他のたくさんの同じタイプの物語とは違うのは、これが、歴史の必然の中で自分の領域を頑なに守ろうとする強い意志が描かれていることだ。ただ運命に翻弄されているだけではない。自分の運命を切り開いて、自分の歴史を作る。それがどんな結果を招くことになろうとも怖れない。そんな当たり前のことを、このドラマは大切にするのだ。

 永遠に結ばれることのない男女の恋愛物語がこんなにもリアリティーを持つのは、お互いがお互いに対して尊敬を忘れないからだ。相手をリスペクトする気持ちに嘘がないから、このドラマは信じられる。だから、この美しいラブストーリーのラストは見事なハッピーエンドだったと思う。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 伊吹有喜『四十九日のレシピ』 | トップ | 劇団往来『ママはダンスを踊... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。