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映画・演劇のレビュー

『コクリコ坂から』

2011-07-27 20:38:02 | 映画
スタジオ・ジブリの最新作だ。今回は宮崎吾朗監督の第2作である。前作『ゲド戦記』は残念な出来だったがあの1本で終わることなく、彼はさらなる挑戦に出た。今度こそ期待できると思う。1作目の気負いを払拭して彼が何を見せてくれるのか。楽しみだった。親の七光りと言われへんな色眼鏡で見られた前作を経て、これが作家としてのスタートとなる。自分が産まれる前の時代を描くという意味では、今回のライバルは父親ではなく、『3丁目の夕日』の山崎貴や『マイバックページ』の山下教弘か。

それにしても偉大な父親を持った2代目は可哀想だ。比較なんかしても仕様がないのに、どうしてもみんなから比較される。そんな宿命から逃れられない。今村昌平を父に持った天願大介は『デンデラ』で父親を超えた。宮崎吾朗にもいつの日か、そんな日が来るのか。楽しみに待とう。

 さて、この新作である。とてもいい映画だった。先に書いた同じ世代の監督たちの傑作と並べても遜色はない。彼らしい映画になっているのではないか。(どこが彼らしいのかは、実はよくわからないが、誰かのものまねではなく、他にはない独自の世界観が指し示されている)昔あったジュニア小説の世界を再現する。恋愛もので、学園もの。主人公の少女が高校の先輩に恋心を抱くが、彼はなんと自分の兄だった、とか。お話の世界にしかないようなそんな嘘のような話。でも、1960年代前半を舞台にしたこの世界でなら、それも、ありえる。

 舞台が東京ではなく、都会からほんのちょっと離れた港町というのもいい。バンカラな校風とか、坂のある町とか、共学だけど、まだまだ男女に距離があるとか。なんだか懐かしい。夕暮れの風景。お店屋さん。学校帰りにコロッケを食べる。自転車の2人乗り。もちろん町のいろんなところから海が見える。

 この映画が描こうとしたものは、ドラマではない。そんな時代の気分なのだ。もう今では失われた時代。ほんの少し前の日本。まだ貧しかったけど、希望に満ちあふれた時代。もちろんこれは単なるノスタルジアではない。こんな時代だからこそ、「上を向いて歩こう」という単純すぎるメッセージが心に沁みる。みんなが一生懸命生きていた時代。あきらめずに自分らしく生きようとした時代。それを静かに描いていく。ことさら声高に叫ばない。小難しいことは言わない。でも、甘いだけでもない。誠実に真面目に生きていこうとする少年少女たちの姿を、等身大で描くだけだ。爽やかで気持ちのいい映画だった。


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